ベンゾフラノン誘導体およびその用途
【課題】プラスチックの流動性および色安定性を向上させることができる抗酸化剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ベンゾフラノン化合物および安息香酸化合物から合成または誘導される抗酸化剤化合物に関する。顕著な耐熱性を有するこの抗酸化剤化合物は、炭素中心ラジカルクエンチャー及び一次抗酸化剤の相乗作用を有している。抗酸化剤化合物は、メルトフローおよび色の安定性を向上させるためにポリマーの添加剤として用いることができる。
【解決手段】本発明は、ベンゾフラノン化合物および安息香酸化合物から合成または誘導される抗酸化剤化合物に関する。顕著な耐熱性を有するこの抗酸化剤化合物は、炭素中心ラジカルクエンチャー及び一次抗酸化剤の相乗作用を有している。抗酸化剤化合物は、メルトフローおよび色の安定性を向上させるためにポリマーの添加剤として用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾフラノン誘導体に関する。さらに本発明は、プラスチックに添加してポリマーの抗酸化能力を向上させるために用いられるベンゾフラノン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックを生産および加工する際には高温熱処理が必要である。その過程でフリーラジカルおよび過酸化物が生成することによりプラスチックの急速な劣化が引き起こされるとともに、その物理的および機械的性質が低下する。プラスチックの物理的性質を維持するために、フリーラジカルや過酸化物を捕捉して消失(quench)させることのできる抗酸化剤などの添加物がプラスチック加工では広く用いられている。
【0003】
抗酸化剤は、それらの明確な機構に従って3つのタイプに分類することができる。1番目のタイプは、炭素中心ラジカルを捕捉して消失させることによって機能するものであって、「炭素中心ラジカル抗酸化剤」と呼ばれる。2番目のタイプは、過酸化炭素または酸化物のフリーラジカルを捕捉して消失させることによって機能するヒンダードフェノールの構造を有するものであって、「一次抗酸化剤」と呼ばれる。3番目のタイプの典型は、過酸化物を捕捉して消失させることによって機能するリン酸塩であって、「二次抗酸化剤」と呼ばれる。炭素中心ラジカルはプラスチックの酸化の最初の段階で生じるので、このラジカルを速やかに消失させることは、所望の材料を保護するための最も有効な方法であろう。
【0004】
炭素中心ラジカル抗酸化剤にはいくつかのタイプがあり、そのうちの1つは、以下(式(A))に示すようなベンゾフラノン構造を有する化合物である。この種の構造を有する抗酸化剤は、1980年代にサンド社(Sandoz)によって最初に開発された(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
【化1】
しかし、ベンゾフラノン構造を有する最初の商品Irganox HP−136(以下に示す式(B))が発表されたのは、1990年代の半ばになってからチバ社(Ciba)によってであった。この抗酸化剤は、一次および二次抗酸化剤とそれを組み合わせた場合に、特にポリオレフィンプラスチックに対して優れた効果を奏する。ただし、小分子であるために熱に対して安定ではない。
【0006】
【化2】
残念ながら、HP−136を生産する過程の中間体(以下に示す式(C))は健康上の問題を引き起こした。その後、この商品は製造中止となった。
【0007】
【化3】
以下の式(D)に示されるような、ベンゾフラノン構造を有する新しい抗酸化剤が特許文献3に開示されている。しかしながら、この抗酸化剤の用途は、PBTおよびPUなどのエンジニアリングプラスチックに限られている。ポリオレフィンプラスチックに対する適用のデータはない。
【0008】
【化4】
ベンゾフラノン抗酸化剤の機構は、非特許文献1によって最初に公表された。カルボニル基の立体的に込み入っていない位置にフランの活性水素が共振によって移動することができ、したがってそのような分子が炭素中心ラジカルを消失させることができるということが実験により実証された。
【0009】
ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤は現在、抗酸化剤の最大の単一ファミリーであり、多くの誘導体が含まれている。これらの誘導体のうちCOOH基を有するものは、巨大分子を合成するのに利用される最も一般的な一次抗酸化剤である。ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤のいくつかの例を以下に示す。
【0010】
【化5】
ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤と種々の二次抗酸化剤との組み合わせがこれまでに報告され、(以下に示す式のように)商品化されている。一次抗酸化剤と二次抗酸化剤を機能的に組み合わせた単一の分子を加えることは、一次抗酸化剤または二次抗酸化剤を個別に加えるよりも効率がよい。しかし、炭素中心ラジカル抗酸化剤と一次抗酸化剤を1つの分子中で組み合わせられることを明らかにした文献はない。
【0011】
【化6】
従来技術の開示によれば、ベンゾフラノン誘導体が優れた抗酸化能力を提供して良好な熱安定性保護剤となるかもしれない。ベンゾフラノン誘導体を一次抗酸化剤と機能的に組み合わせることにより抗酸化について相乗効果が得られるならば、それはプラスチック業界において大変望ましい製品となるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,325,863号
【特許文献2】米国特許第4,338,244号
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0109611号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.,)、2006年、128巻、16,432〜16,433頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、炭素中心ラジカル抗酸化剤と一次抗酸化剤の両方の特性を有した抗酸化剤を開発しようと試みている。これをプラスチックに添加した場合、プラスチックの流動性および色安定性が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明は、以下の式(I)が与えられる、抗酸化能力を有したベンゾフラノン誘導体を提示する。
【0016】
【化7】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0017】
さらに本発明は、有機材料を安定化する方法も提供する。この方法の工程には、以下の式(I)の構造を有する化合物を添加することが含まれる。
【0018】
【化8】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0019】
本発明の抗酸化剤は、有機材料の添加剤として用いられる。抗酸化剤が添加されたプラスチックには、より良好な流動性および耐熱性が与えられる。さらに、高温下で変色を起こしにくい。本発明は、ポリマー材料に添加して材料の安定性を向上させるのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】種々な抗酸化剤の機構の概略図。
【図2a】CT−500のNMRスペクトロメトリー。
【図2b】CT−500のマススペクトロメトリー。
【図2c】CT−500のIRスペクトロメトリー。
【図3a】CT−501のNMRスペクトロメトリー。
【図3b】CT−501のマススペクトロメトリー。
【図3c】CT−501のIRスペクトロメトリー。
【図4a】CT−502のNMRスペクトロメトリー。
【図4b】CT−502のマススペクトロメトリー。
【図4c】CT−502のIRスペクトロメトリー。
【図5】本発明の抗酸化剤を添加したポリマーおよび抗酸化剤を添加していない対照ポリマーのメルトフローレートの測定結果。
【図6】本発明の抗酸化剤を添加したポリマーおよび抗酸化剤を添加していない対照ポリマーの色安定性試験の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0021】
抗酸化能力を有する本発明のベンゾフラノン誘導体には以下の式(I)が与えられる。
【0022】
【化9】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。)
1つの好ましい実施形態において、R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である。
【0023】
1つの好ましい実施形態において、R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である。
より好ましい実施形態において、ベンゾフラノン誘導体には以下の式(II),(III)または(IV)が与えられる。
【0024】
【化10】
命名規則に従うと、化合物(II)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]ベンゾエートと命名することができる(短縮して化合物(II)またはCT−500とも呼ぶ)。化合物(III)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−ベンゾエートと命名することができる(短縮して化合物(III)またはCT−501とも呼ぶ)。化合物(IV)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−フェニル]−プロパノエートと命名することができる(短縮して化合物(IV)またはCT−502とも呼ぶ)。
【0025】
本発明は、有機材料を安定化する方法も提供する。その手順には、以下の式(I)の構造を有する化合物を前記材料に添加することが含まれる。
【0026】
【化11】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0027】
1つの好ましい実施形態において、R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である。
1つの好ましい実施形態において、R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である。
【0028】
本発明において有機材料を安定化するために用いられる式(I)を有する化合物は、抗酸化剤として分類することができる。有機材料に加える場合、有機材料に対する化合物(I)の量は0.01〜10重量%である。
【0029】
1つの好ましい実施形態において、有機材料に対する化合物(I)の量は0.1〜2重量%である。
より好ましい実施形態において、化合物(I)には以下の式(II)、(III)または(IV)が与えられる。
【0030】
【化12】
本発明の化合物は、有機材料、特にポリマー材料に添加してそれらの熱安定性を向上し、酸化または分解を防ぐことができる。また、その材料を加工するのに適したより良好な流動性を与える。適切なポリマー材料としては、限定はされないが、ポリオレフィン、オレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリパラメチルスチレン、ポリメチルスチレンまたはその共重合体もしくは分枝共重合体、ハロゲンとの重合体もしくは共重合体、環状エーテルの単独重合体もしくは共重合体、ポリアルデヒド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリシアンウレタン、ポリアミドおよびアミド共重合体、ポリ尿素、ポリイミド、ポリアミド−イミド、ポリカーボネート、ポリエステル/カーボネート、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリレート樹脂、またはメラミン樹脂、尿素樹脂もしくはポリシアネートを含むアクリレート樹脂、または上記種々のポリマーの混合物のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
さらに本発明は、有機材料用の任意の助剤とともに用いることもできる。助剤としては、抗酸化剤、UV吸収剤および光安定剤、金属不活性化剤、リン酸エステルおよび亜リン酸エステル、塩基−共安定剤、核形成剤、充填剤および強化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、界面活性剤、着色物質、光学的光沢剤、難燃剤、帯電防止剤および発泡剤、特に抗酸化剤が挙げられる。また、従来のリン系抗酸化剤またはヒンダードフェノール系抗酸化剤と組み合わせて、これらの添加剤を有した有機材料が優れた耐熱性、抗酸化能力および加工に適したより良好な流動性を備えるようにすることもできる。
【0032】
本発明の化合物ならびにその使用および用途は、この化合物を生産するための異なる合成方法によって限定されるものでないことは容易に理解されるべきである。例示する合成例は、本発明の化合物の存在を証明するために用いられるものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
本発明の化合物は、ヒドロキシルフェニルベンゾフラン−2−オンと安息香酸誘導体のエステル化から合成することができる。以下の例は、本発明の範囲を限定するためではなく、本発明の特別な態様を示すために例示されるものである。
【0034】
実施例1: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]ベンゾエート(CT−500)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。
【0035】
33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、12.81g(105mmol)の安息香酸および70mLのトルエンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、0.337g(1.8mol)のp−トルエンスルホン酸を加えた。混合物をディーン・スターク(Dean-Stark)装置によって6時間還流して水を除去した。混合物を温度が60℃に下がるまで冷却してから、5.4g(35mmol)のオキシ塩化リンを加え、ディーン・スターク装置を除去して6時間還流した。混合物を室温(20℃)まで冷却し、中和用に50gの水を加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのシクロヘキサンと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。混合溶液を室温(20℃)まで冷却してろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、37.6g(85mmol)の白色固体生成物を収率95%および純度99.6%にて得た。生成物の同定情報を図2a、図2bおよび図2cに示す。
【0036】
実施例2: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−ベンゾエート(CT−501)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、26.3g(105mmol)の3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−安息香酸および70mLのトルエンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、0.337g(1.8mmol)のp−トルエンスルホン酸を加えた。混合物をディーン・スターク装置によって6時間還流して水を除去した。混合物を温度が60℃に下がるまで冷却してから、5.4g(35mmol)のオキシ塩化リンを加え、ディーン・スターク装置を除去して6時間還流した。混合物を室温(20℃)まで冷却し、中和用に50gの水を加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのメタノールと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。混合溶液を室温(20℃)まで冷却してろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、45.6g(80mmol)の白色固体生成物を収率80%および純度99.8%にて得た。生成物の同定情報を図3a、図3bおよび図3cに示す。
【0037】
実施例3: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシフェノール]−プロパノエート(CT−502)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、29.23g(105mmol)の3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−フェニル]プロパン酸、0.337g(1.8mol)のp−トルエンスルホン酸、および70mLのジクロロメタンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、17.84g(150mmol)の塩化チオニルを加えた。混合物を氷浴(5℃)中で3日間攪拌した。混合物を温度が室温(20℃)になるまで温め、中和用の水50gを加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのシクロヘキサンと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。得られた溶液をろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、35.96g(63mmol)の白色固体生成物を収率63%および純度99.8%にて得た。生成物の同定情報を図4a、図4bおよび図4cに示す。
【0038】
実施例4: 本発明の化合物の応用特性解析
本発明の化合物の安定性を分析するために、商品化されている抗酸化剤中に本発明を添加した調合物を設計した。これらの調合物のメルトフローレート(MFR)および色安定性(Yi)を調べた。ハイドロタルサイトを加水分解安定剤として使用した。
【0039】
【表1】
ここで、Deox604およびDeox10は、キテック・ケミカル・カンパニー・リミテッド社より購入した商品である。
【0040】
メルトフローレート(MFR)試験
MFRは、0.06重量%の前記調合物と0.1重量%のステアリン酸カルシウムを加えたポリプロピレンから得た。比率を以下の表に示す。
【0041】
【表2】
二軸押出機(Coperion STS 35, L/D=36)により220℃および40〜50rpmの条件下でポリプロピレンをそれぞれ1回、3回および5回の押し出しの後、MFR試験のためにサンプリングした。試験は、ASTMD1238に基づき、190℃および2.16kgの条件下で行い、得られるデータの単位はg/10分である。データを集めて図5にプロットした。Y軸座標はMFRの値であり、X軸座標は対照ならびに1回、3回および5回の押し出しがされた実験調合物に割り当てた番号を示す。図5は、本発明の化合物が加えられたグループ2、グループ3およびグループ4が、グループ1よりもMFRの変化が小さいことを示している。これは本発明の化合物がポリマーの特性を維持するのに寄与していることを示すものである。
【0042】
色差試験
この試験は、本発明の化合物がポリマーの色安定性にどのように影響するかに関し、1回、3回および5回の押し出しを行った前記ポリプロピレン調合物によって行った。比色計(日本電色工業株式会社、ZE2000)で得られた値をまとめて図6にプロットした。Y軸座標は色差値(Yi)であり、X軸座標は1回、3回および5回の押し出しがされた対照と実験調合物に割り当てた番号を示す。図6は、本発明の化合物が加えられたグループ2、グループ3およびグループ4が、グループ1よりもYiの変化が小さいことを示している。これは本発明の化合物がポリマーの特性を維持するのに寄与していること、特にポリマー材料の抗酸化能力および加工耐性を向上するのに寄与していることを示すものである。
【0043】
結論として、本発明のベンゾフラノン誘導体にはより大きな分子量が与えられ、同じ重さの条件下では炭素中心ラジカル抗酸化剤の割合が低くなる。それにもかかわらず、ベンゾフラノン誘導体は、一次抗酸化剤の部分が含まれているために、相乗的な抗酸化能力を備える。驚くべきことに、実施例2によって与えられる化合物がMFR試験および色差試験において優れた性能を有することを我々は発見したが、これは本発明の化合物を、プラスチック用の熱安定性保護剤として用いることができ、したがって新しい抗酸化剤成分であることを示すものである。
【0044】
実施形態および用いた技術的原理を上に述べた。本発明のすべての変形および変更ならびにその使用は、本明細書の開示の精神を逸脱しない限りにおいて、本発明の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾフラノン誘導体に関する。さらに本発明は、プラスチックに添加してポリマーの抗酸化能力を向上させるために用いられるベンゾフラノン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックを生産および加工する際には高温熱処理が必要である。その過程でフリーラジカルおよび過酸化物が生成することによりプラスチックの急速な劣化が引き起こされるとともに、その物理的および機械的性質が低下する。プラスチックの物理的性質を維持するために、フリーラジカルや過酸化物を捕捉して消失(quench)させることのできる抗酸化剤などの添加物がプラスチック加工では広く用いられている。
【0003】
抗酸化剤は、それらの明確な機構に従って3つのタイプに分類することができる。1番目のタイプは、炭素中心ラジカルを捕捉して消失させることによって機能するものであって、「炭素中心ラジカル抗酸化剤」と呼ばれる。2番目のタイプは、過酸化炭素または酸化物のフリーラジカルを捕捉して消失させることによって機能するヒンダードフェノールの構造を有するものであって、「一次抗酸化剤」と呼ばれる。3番目のタイプの典型は、過酸化物を捕捉して消失させることによって機能するリン酸塩であって、「二次抗酸化剤」と呼ばれる。炭素中心ラジカルはプラスチックの酸化の最初の段階で生じるので、このラジカルを速やかに消失させることは、所望の材料を保護するための最も有効な方法であろう。
【0004】
炭素中心ラジカル抗酸化剤にはいくつかのタイプがあり、そのうちの1つは、以下(式(A))に示すようなベンゾフラノン構造を有する化合物である。この種の構造を有する抗酸化剤は、1980年代にサンド社(Sandoz)によって最初に開発された(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
【化1】
しかし、ベンゾフラノン構造を有する最初の商品Irganox HP−136(以下に示す式(B))が発表されたのは、1990年代の半ばになってからチバ社(Ciba)によってであった。この抗酸化剤は、一次および二次抗酸化剤とそれを組み合わせた場合に、特にポリオレフィンプラスチックに対して優れた効果を奏する。ただし、小分子であるために熱に対して安定ではない。
【0006】
【化2】
残念ながら、HP−136を生産する過程の中間体(以下に示す式(C))は健康上の問題を引き起こした。その後、この商品は製造中止となった。
【0007】
【化3】
以下の式(D)に示されるような、ベンゾフラノン構造を有する新しい抗酸化剤が特許文献3に開示されている。しかしながら、この抗酸化剤の用途は、PBTおよびPUなどのエンジニアリングプラスチックに限られている。ポリオレフィンプラスチックに対する適用のデータはない。
【0008】
【化4】
ベンゾフラノン抗酸化剤の機構は、非特許文献1によって最初に公表された。カルボニル基の立体的に込み入っていない位置にフランの活性水素が共振によって移動することができ、したがってそのような分子が炭素中心ラジカルを消失させることができるということが実験により実証された。
【0009】
ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤は現在、抗酸化剤の最大の単一ファミリーであり、多くの誘導体が含まれている。これらの誘導体のうちCOOH基を有するものは、巨大分子を合成するのに利用される最も一般的な一次抗酸化剤である。ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤のいくつかの例を以下に示す。
【0010】
【化5】
ヒンダードフェノール系の一次抗酸化剤と種々の二次抗酸化剤との組み合わせがこれまでに報告され、(以下に示す式のように)商品化されている。一次抗酸化剤と二次抗酸化剤を機能的に組み合わせた単一の分子を加えることは、一次抗酸化剤または二次抗酸化剤を個別に加えるよりも効率がよい。しかし、炭素中心ラジカル抗酸化剤と一次抗酸化剤を1つの分子中で組み合わせられることを明らかにした文献はない。
【0011】
【化6】
従来技術の開示によれば、ベンゾフラノン誘導体が優れた抗酸化能力を提供して良好な熱安定性保護剤となるかもしれない。ベンゾフラノン誘導体を一次抗酸化剤と機能的に組み合わせることにより抗酸化について相乗効果が得られるならば、それはプラスチック業界において大変望ましい製品となるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,325,863号
【特許文献2】米国特許第4,338,244号
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0109611号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.,)、2006年、128巻、16,432〜16,433頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、炭素中心ラジカル抗酸化剤と一次抗酸化剤の両方の特性を有した抗酸化剤を開発しようと試みている。これをプラスチックに添加した場合、プラスチックの流動性および色安定性が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明は、以下の式(I)が与えられる、抗酸化能力を有したベンゾフラノン誘導体を提示する。
【0016】
【化7】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0017】
さらに本発明は、有機材料を安定化する方法も提供する。この方法の工程には、以下の式(I)の構造を有する化合物を添加することが含まれる。
【0018】
【化8】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0019】
本発明の抗酸化剤は、有機材料の添加剤として用いられる。抗酸化剤が添加されたプラスチックには、より良好な流動性および耐熱性が与えられる。さらに、高温下で変色を起こしにくい。本発明は、ポリマー材料に添加して材料の安定性を向上させるのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】種々な抗酸化剤の機構の概略図。
【図2a】CT−500のNMRスペクトロメトリー。
【図2b】CT−500のマススペクトロメトリー。
【図2c】CT−500のIRスペクトロメトリー。
【図3a】CT−501のNMRスペクトロメトリー。
【図3b】CT−501のマススペクトロメトリー。
【図3c】CT−501のIRスペクトロメトリー。
【図4a】CT−502のNMRスペクトロメトリー。
【図4b】CT−502のマススペクトロメトリー。
【図4c】CT−502のIRスペクトロメトリー。
【図5】本発明の抗酸化剤を添加したポリマーおよび抗酸化剤を添加していない対照ポリマーのメルトフローレートの測定結果。
【図6】本発明の抗酸化剤を添加したポリマーおよび抗酸化剤を添加していない対照ポリマーの色安定性試験の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0021】
抗酸化能力を有する本発明のベンゾフラノン誘導体には以下の式(I)が与えられる。
【0022】
【化9】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。)
1つの好ましい実施形態において、R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である。
【0023】
1つの好ましい実施形態において、R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である。
より好ましい実施形態において、ベンゾフラノン誘導体には以下の式(II),(III)または(IV)が与えられる。
【0024】
【化10】
命名規則に従うと、化合物(II)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]ベンゾエートと命名することができる(短縮して化合物(II)またはCT−500とも呼ぶ)。化合物(III)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−ベンゾエートと命名することができる(短縮して化合物(III)またはCT−501とも呼ぶ)。化合物(IV)は、[4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−フェニル]−プロパノエートと命名することができる(短縮して化合物(IV)またはCT−502とも呼ぶ)。
【0025】
本発明は、有機材料を安定化する方法も提供する。その手順には、以下の式(I)の構造を有する化合物を前記材料に添加することが含まれる。
【0026】
【化11】
この式中、n=0,1,2または3であり、R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが同時にC1−C6アルキル基であることはなく、R7はHまたはOHである。
【0027】
1つの好ましい実施形態において、R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である。
1つの好ましい実施形態において、R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である。
【0028】
本発明において有機材料を安定化するために用いられる式(I)を有する化合物は、抗酸化剤として分類することができる。有機材料に加える場合、有機材料に対する化合物(I)の量は0.01〜10重量%である。
【0029】
1つの好ましい実施形態において、有機材料に対する化合物(I)の量は0.1〜2重量%である。
より好ましい実施形態において、化合物(I)には以下の式(II)、(III)または(IV)が与えられる。
【0030】
【化12】
本発明の化合物は、有機材料、特にポリマー材料に添加してそれらの熱安定性を向上し、酸化または分解を防ぐことができる。また、その材料を加工するのに適したより良好な流動性を与える。適切なポリマー材料としては、限定はされないが、ポリオレフィン、オレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリパラメチルスチレン、ポリメチルスチレンまたはその共重合体もしくは分枝共重合体、ハロゲンとの重合体もしくは共重合体、環状エーテルの単独重合体もしくは共重合体、ポリアルデヒド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリシアンウレタン、ポリアミドおよびアミド共重合体、ポリ尿素、ポリイミド、ポリアミド−イミド、ポリカーボネート、ポリエステル/カーボネート、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリレート樹脂、またはメラミン樹脂、尿素樹脂もしくはポリシアネートを含むアクリレート樹脂、または上記種々のポリマーの混合物のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
さらに本発明は、有機材料用の任意の助剤とともに用いることもできる。助剤としては、抗酸化剤、UV吸収剤および光安定剤、金属不活性化剤、リン酸エステルおよび亜リン酸エステル、塩基−共安定剤、核形成剤、充填剤および強化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、界面活性剤、着色物質、光学的光沢剤、難燃剤、帯電防止剤および発泡剤、特に抗酸化剤が挙げられる。また、従来のリン系抗酸化剤またはヒンダードフェノール系抗酸化剤と組み合わせて、これらの添加剤を有した有機材料が優れた耐熱性、抗酸化能力および加工に適したより良好な流動性を備えるようにすることもできる。
【0032】
本発明の化合物ならびにその使用および用途は、この化合物を生産するための異なる合成方法によって限定されるものでないことは容易に理解されるべきである。例示する合成例は、本発明の化合物の存在を証明するために用いられるものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
本発明の化合物は、ヒドロキシルフェニルベンゾフラン−2−オンと安息香酸誘導体のエステル化から合成することができる。以下の例は、本発明の範囲を限定するためではなく、本発明の特別な態様を示すために例示されるものである。
【0034】
実施例1: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]ベンゾエート(CT−500)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。
【0035】
33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、12.81g(105mmol)の安息香酸および70mLのトルエンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、0.337g(1.8mol)のp−トルエンスルホン酸を加えた。混合物をディーン・スターク(Dean-Stark)装置によって6時間還流して水を除去した。混合物を温度が60℃に下がるまで冷却してから、5.4g(35mmol)のオキシ塩化リンを加え、ディーン・スターク装置を除去して6時間還流した。混合物を室温(20℃)まで冷却し、中和用に50gの水を加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのシクロヘキサンと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。混合溶液を室温(20℃)まで冷却してろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、37.6g(85mmol)の白色固体生成物を収率95%および純度99.6%にて得た。生成物の同定情報を図2a、図2bおよび図2cに示す。
【0036】
実施例2: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−ベンゾエート(CT−501)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、26.3g(105mmol)の3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−安息香酸および70mLのトルエンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、0.337g(1.8mmol)のp−トルエンスルホン酸を加えた。混合物をディーン・スターク装置によって6時間還流して水を除去した。混合物を温度が60℃に下がるまで冷却してから、5.4g(35mmol)のオキシ塩化リンを加え、ディーン・スターク装置を除去して6時間還流した。混合物を室温(20℃)まで冷却し、中和用に50gの水を加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのメタノールと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。混合溶液を室温(20℃)まで冷却してろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、45.6g(80mmol)の白色固体生成物を収率80%および純度99.8%にて得た。生成物の同定情報を図3a、図3bおよび図3cに示す。
【0037】
実施例3: [4−tert−ブチル−2−(5−tert−ブチル−2−オキソ−3H−ベンゾフラン−3−イル)フェニル]−3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシフェノール]−プロパノエート(CT−502)の合成
22.5gのヘプタンを0.11gのメタンスルホン酸、11.25gのp−tert−ブチルフェノールおよび5.65gのグリオキシル酸と混合し、還流脱水した。得られた溶液をろ過および乾燥して、5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オンを得た。33.7g(100mmol)の5−(tert−ブチル)−3−[5−(tert−ブチル)−2−ヒドロキシフェノール]−ベンゾフラン−2(3H)−オン、29.23g(105mmol)の3−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシ−フェニル]プロパン酸、0.337g(1.8mol)のp−トルエンスルホン酸、および70mLのジクロロメタンを250mLの三つ口丸底フラスコにとり、17.84g(150mmol)の塩化チオニルを加えた。混合物を氷浴(5℃)中で3日間攪拌した。混合物を温度が室温(20℃)になるまで温め、中和用の水50gを加えた。有機層を分離し、溶媒を抜き取って薄黄色の一次生成物を得た。一次生成物を100gのシクロヘキサンと混合し、1時間加熱還流して抽出物を得た。得られた溶液をろ過し、熱風乾燥機によって乾燥させて、35.96g(63mmol)の白色固体生成物を収率63%および純度99.8%にて得た。生成物の同定情報を図4a、図4bおよび図4cに示す。
【0038】
実施例4: 本発明の化合物の応用特性解析
本発明の化合物の安定性を分析するために、商品化されている抗酸化剤中に本発明を添加した調合物を設計した。これらの調合物のメルトフローレート(MFR)および色安定性(Yi)を調べた。ハイドロタルサイトを加水分解安定剤として使用した。
【0039】
【表1】
ここで、Deox604およびDeox10は、キテック・ケミカル・カンパニー・リミテッド社より購入した商品である。
【0040】
メルトフローレート(MFR)試験
MFRは、0.06重量%の前記調合物と0.1重量%のステアリン酸カルシウムを加えたポリプロピレンから得た。比率を以下の表に示す。
【0041】
【表2】
二軸押出機(Coperion STS 35, L/D=36)により220℃および40〜50rpmの条件下でポリプロピレンをそれぞれ1回、3回および5回の押し出しの後、MFR試験のためにサンプリングした。試験は、ASTMD1238に基づき、190℃および2.16kgの条件下で行い、得られるデータの単位はg/10分である。データを集めて図5にプロットした。Y軸座標はMFRの値であり、X軸座標は対照ならびに1回、3回および5回の押し出しがされた実験調合物に割り当てた番号を示す。図5は、本発明の化合物が加えられたグループ2、グループ3およびグループ4が、グループ1よりもMFRの変化が小さいことを示している。これは本発明の化合物がポリマーの特性を維持するのに寄与していることを示すものである。
【0042】
色差試験
この試験は、本発明の化合物がポリマーの色安定性にどのように影響するかに関し、1回、3回および5回の押し出しを行った前記ポリプロピレン調合物によって行った。比色計(日本電色工業株式会社、ZE2000)で得られた値をまとめて図6にプロットした。Y軸座標は色差値(Yi)であり、X軸座標は1回、3回および5回の押し出しがされた対照と実験調合物に割り当てた番号を示す。図6は、本発明の化合物が加えられたグループ2、グループ3およびグループ4が、グループ1よりもYiの変化が小さいことを示している。これは本発明の化合物がポリマーの特性を維持するのに寄与していること、特にポリマー材料の抗酸化能力および加工耐性を向上するのに寄与していることを示すものである。
【0043】
結論として、本発明のベンゾフラノン誘導体にはより大きな分子量が与えられ、同じ重さの条件下では炭素中心ラジカル抗酸化剤の割合が低くなる。それにもかかわらず、ベンゾフラノン誘導体は、一次抗酸化剤の部分が含まれているために、相乗的な抗酸化能力を備える。驚くべきことに、実施例2によって与えられる化合物がMFR試験および色差試験において優れた性能を有することを我々は発見したが、これは本発明の化合物を、プラスチック用の熱安定性保護剤として用いることができ、したがって新しい抗酸化剤成分であることを示すものである。
【0044】
実施形態および用いた技術的原理を上に述べた。本発明のすべての変形および変更ならびにその使用は、本明細書の開示の精神を逸脱しない限りにおいて、本発明の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)が与えられる、抗酸化能力を有したベンゾフラノン誘導体(式中、n=0,1,2または3であり、
R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、
R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R7はHまたはOHである)。
【化1】
【請求項2】
R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【請求項3】
R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【請求項4】
以下の式(II)、(III)または(IV)が与えられる、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【化2】
【請求項5】
有機材料を安定化する方法であって、以下の式(I)を有する化合物を前記有機材料に添加することを含む方法(式中、n=0,1,2または3であり、
R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、
R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R7はHまたはOHである)。
【化3】
【請求項6】
前記化合物は抗酸化剤として使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機材料に対する前記化合物の量は0.01〜10重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記有機材料に対する前記化合物の量は0.1〜2重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物は、
【化4】
である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記有機材料はポリマー材料である、請求項5に記載の方法。
【請求項1】
以下の式(I)が与えられる、抗酸化能力を有したベンゾフラノン誘導体(式中、n=0,1,2または3であり、
R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、
R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R7はHまたはOHである)。
【化1】
【請求項2】
R3はHであり、R4はC3−C5アルキル基である、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【請求項3】
R5はHであり、R6はC3−C5アルキル基である、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【請求項4】
以下の式(II)、(III)または(IV)が与えられる、請求項1に記載のベンゾフラノン誘導体。
【化2】
【請求項5】
有機材料を安定化する方法であって、以下の式(I)を有する化合物を前記有機材料に添加することを含む方法(式中、n=0,1,2または3であり、
R1およびR2は独立してHまたはC1−C8アルキル基を示し、
R3およびR4は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R5およびR6は独立してHまたはC1−C6アルキル基を示すが、同時にC1−C6アルキル基であることはなく、
R7はHまたはOHである)。
【化3】
【請求項6】
前記化合物は抗酸化剤として使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機材料に対する前記化合物の量は0.01〜10重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記有機材料に対する前記化合物の量は0.1〜2重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物は、
【化4】
である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記有機材料はポリマー材料である、請求項5に記載の方法。
【図1】
【図2c】
【図3c】
【図4a】
【図4c】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図2c】
【図3c】
【図4a】
【図4c】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4b】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−193158(P2012−193158A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189559(P2011−189559)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(511212424)キテック テクノロジー カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CHITEC TECHNOLOGY CO.,LTD.
【出願人】(510125958)雙鍵化工股▲分▼有限公司 (2)
【出願人】(510101859)奕益實業有限公司 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(511212424)キテック テクノロジー カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CHITEC TECHNOLOGY CO.,LTD.
【出願人】(510125958)雙鍵化工股▲分▼有限公司 (2)
【出願人】(510101859)奕益實業有限公司 (3)
【Fターム(参考)】
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