説明

ベンチュリ管装置及び該ベンチュリ管装置を用いたバラスト水処理装置

【課題】設置場所として大きな空間を必要としないバラスト水処理装置の実現を可能とする技術を提供する。また、バラスト水の排出に際して周辺環境への悪影響を防止する技術を提供する。
【解決手段】処理水の流路に並列に配置されると共にのど部24に注入口30が設けられた複数のベンチュリ管23と、薬剤の供給を受けて該薬剤を前記複数のベンチュリ管23に分配するための分配管35と、該分配管35から分岐して前記複数のベンチュリ管23の注入口30に接続された注入枝管37と、を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば船舶のバラストタンクに積み込むバラスト水に含まれる有害水生生物及び微生物を効率的に殺滅するためのベンチュリ管装置及び該ベンチュリ管を用いたバラスト水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前にバラスト水の注水を行う。逆に港内で積荷をする場合には、バラスト水の排出を行う。
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によりバラスト水の注排水が行われると、バラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
そこで、船舶のバラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0003】
バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準は、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0004】
バラスト水の処理技術として、海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、海水中の細菌類を死滅させる殺菌剤をろ過された海水中に供給する殺菌剤供給装置と、殺菌剤が供給されたろ過水の供給を受けて該ろ過水中にキャビテーションを発生させてろ過水中に前記殺菌剤を拡散させると共にろ過水中の水生生物に対して損傷を与えるか死滅させるベンチュリ管とを備え、大量のバラスト水を処理するため複数のベンチュリ管を並列に配置した装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、特許文献1には、殺菌剤を添加された海水に中和剤を供給して海水中に残存する殺菌剤を中和することにより無害化してから海に排出することが記載されている。
【特許文献1】特開2007−105666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のバラスト水処理装置においては、前述のように殺菌剤をろ過された海水中に供給するための殺菌剤供給装置と、殺菌剤が供給されたろ過水の供給を受けて該ろ過水中にキャビテーションを発生させるベンチュリ管51とを備えている(図4参照)。
そして、殺菌剤供給装置は、図示しないポンプによって殺菌剤をベンチュリ管51の上流側に設けた薬剤注入部53に供給するというものである。
しかしながら、薬剤注入部53をベンチュリ管51から離れた部位に別個の装置として設けているので、装置が大型となり、設置のための大きな空間が必要となり、機器の設置空間を十分に確保できない船舶に搭載する際に支障が生じる場合があるという問題がある。
【0006】
また、特許文献1においては、残留する殺菌剤を無害化処理するために殺菌剤分解剤をバラスト水に供給する旨が記載されているが、殺菌剤分解剤を供給すると殺菌剤分解剤がバラスト水中の酸素と反応して溶存酸素量が低下し、このようなバラスト水を排水すると周辺環境に悪影響を及ぼすという問題もある。
【0007】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、設置場所として大きな空間を必要としないバラスト水処理装置の実現を可能とする技術の提供を目的としている。
また、バラスト水の排出に際して周辺環境への悪影響を防止する技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るベンチュリ管装置は、処理水の流路に並列に配置されると共にのど部に注入口が設けられた複数のベンチュリ管と、薬剤の供給を受けて該薬剤を前記複数のベンチュリ管に分配するための分配管と、該分配管から分岐して前記複数のベンチュリ管の注入口に接続された注入枝管と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のベンチュリ管装置は、複数のベンチュリ管を並列に配設した構造とすることにより、大量の処理水を処理することが可能である。
また、ベンチュリ管ののど部に直接薬剤を供給する構造であるため、ベンチュリ管の上流において薬剤を供給する構造に比べて、コンパクトな構成となり設置場所を小さくできる。
さらに、薬剤をベンチュリ管ののど部に供給するので、ベンチュリ管のエジェクタ作用により薬剤が自吸され、薬剤を供給するための供給ポンプの能力を低減でき、薬剤供給に関わる装置の小型化、省スペース、省エネルギー、コストダウンの効果がある。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、複数のベンチュリ管の全部又は一部が同心円上に配置され、同心円上に配置されたベンチュリ管の注入口に接続される注入枝管の長さが同じ長さに設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
上記の構成により、同心円上に配置された各ベンチュリ管の自吸力が等しくなり、分配管から各ベンチュリ管に等しい量の薬剤が供給され、効果的な薬剤供給が実現できる。
【0012】
(3)本発明に係るバラスト水処理装置は、上記(1)又は(2)に記載のベンチュリ管装置を備えたバラスト水処理装置であって、ベンチュリ管装置の上流側に設けられて海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、分配管に連結されて該分配管に殺菌剤を供給する殺菌剤供給管と、該殺菌剤供給管に供給する殺菌剤を貯留する殺菌剤貯槽と、を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
上記のような構成を備えることにより、海水中の水生生物と細菌類を死滅または除去して、有害生物を含まないバラスト水を船舶に供給できる。
なお、各構成の主な機能は以下の通りであり、各構成の機能が有機的に作用して海水中の水生生物の死滅効果を高めている。
ろ過装置によって海水中の動物性プランクトン等比較的大型の水生生物を捕捉して除去し、殺菌剤貯槽から殺菌剤供給管を介してベンチュリ管装置に殺菌剤が供給され海水中の細菌類を殺滅する。
また、ベンチュリ管によって殺菌剤が供給されたろ過水にキャビテーションを発生させて、植物性プランクトン等の比較的小型の水生生物に対して損傷を与えるか死滅させ、さらにキャビテーションによってろ過水中に殺菌剤を急速に拡散させて殺菌剤による細菌類の殺菌作用を促進させる。このようにキャビテーションの拡散作用により殺菌剤の海水中への混合を促進するため、殺菌剤を注入するだけの場合に比べて殺菌剤の供給量を低減でき、また環境への影響を低減でき、さらに殺菌剤を無害化するための殺菌剤分解剤の供給を不要にするかまたは低減できる。
【0014】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、分配管に連通して該分配管に空気を供給する空気供給管と、該空気供給管に空気を供給する空気供給装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
殺菌剤が残留している海水に殺菌剤分解剤を供給して殺菌剤を分解して無害化し、さらに海水に空気を供給して殺菌剤分解剤により酸素が消費され低下した海水中の溶存酸素量を回復させる。ベンチュリ管ののど部に空気を供給するので、大量の空気を短時間で大量の海水と接触させることができ、またベンチュリ管のディフューザ部28ではキャビテーションが発生して海水の流れに大きな乱れが発生するので、注入気泡が微細化されて気液の接触面積が大幅に増加するため、海水への空気の溶け込みが非常に効率良く行われる。このため、管路を流れている間に海水中の溶存酸素量を周辺環境に悪影響を及ぼさないレベルにまで容易にかつ迅速に回復できる。
また、別に曝気装置を設ける必要が無いので、装置全体をコンパクトにできる。
さらに、殺菌剤を供給する注入機構と空気を供給する注入機構とを兼用させているので、さらにバラスト水処理装置をコンパクトにできる。
【0016】
なお、分配管に連通する空気供給管は、分配管に直接連結される構成でもよく、また殺菌剤供給管に連結されて殺菌剤供給管を介して分配管に連通される構成でもよい。空気供給管が殺菌剤供給管に連結される構成の場合には、殺菌剤供給管に殺菌剤が供給される場合と空気が供給される場合とで切り替えをする切替弁を設けるようにすればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るベンチュリ管装置においては、薬剤の注入機構をベンチュリ管に設けたので装置がコンパクトになり、これをバラスト水処理装置として用いることにより、設置場所として大きな空間を必要としないバラスト水処理装置が実現できる。
また、本発明に係るバラスト水処理装置によれば、大量のバラスト水を効率的に処理でき、設置場所が小さいバラスト水処理装置を提供することができる。
また、バラスト水の排出に際して、溶存酸素量の低下した海水を排出して周辺環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態1]
以下、図面を用いて、本発明に係るバラスト水処理装置について、最良の形態の一例を具体的に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係るバラスト水処理装置の構成を示す図である。図1に示すバラスト水処理装置は、海水を取水し、取水した海水に生物殺滅処理を施してバラストタンクに送水する機能と、バラストタンクの海水を海に排水する際に無害化処理をする機能の両方の機能を備えている。
【0019】
本実施の形態に係るバラスト水処理装置は、図1に示すように、海水を船内に取り込むための海水取水ライン1、海水取水ライン1によって取水された海水中の粗大物を除去する粗ろ過装置2、海水を取り込む機能と後述のバラストタンク9のバラスト水を海へ送水する機能を有するポンプ3、粗ろ過装置2によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去するろ過装置4、ろ過装置4でろ過された海水に細菌類を死滅させる殺菌剤を供給する殺菌剤供給装置5、ろ過装置4でろ過されたろ過水の供給を受けて該ろ過水にキャビテーションを発生させるベンチュリ管装置6、殺菌剤を添加されてバラストタンク9に貯留されていた海水に殺菌剤分解剤を供給する殺菌剤分解剤供給装置7、殺菌剤分解剤が添加されたバラスト水に空気を供給する空気供給装置8、殺菌剤が添加された処理水を後述のバラストタンク9に送水する処理水送水ライン10、処理水送水ライン10から送水される処理水を貯留するバラストタンク9、バラストタンク9内のバラスト水を殺菌剤分解剤供給装置7に供給する第1バラスト水供給ライン11、殺菌剤分解剤が添加されたバラスト水をろ過装置4をバイパスしてベンチュリ管装置6に供給する第2バラスト水供給ライン12、ベンチュリ管装置6と空気供給装置8によって空気を供給されたバラスト水を海に排水するバラスト水排水ライン13、を備えている。
以下、各装置をさらに詳細に説明する。
【0020】
1.粗ろ過装置
粗ろ過装置2は、ポンプ3によって、船側部に設けられたシーチェスト(海水吸入口)から海水取水ライン1を通して取水される海水中に含まれる大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物を除去するためのものである。
粗ろ過装置2としては10mm程度の孔を設けた筒型ストレーナ(こし器)、水流中の粗大物を比重差により分離するハイドロサイクロン、回転スクリーンにより粗大物を捕捉し掻揚げ回収する装置等を用いることができる。
【0021】
2.ろ過装置
ろ過装置4は粗ろ過装置2によって粗大物が除去された海水中に存在するプランクトン類を除去するものであり、目開き10〜200μmのものを用いる。
目開きを10〜200μmにしたのは動物性プランクトン、植物性プランクトンの捕捉率を一定のレベルに保ちつつ、逆流洗浄頻度を少なくして寄港地でのバラスト水処理時間を短縮するためである。逆に言えば、目開きが200μmより大きいと動物プランクトン、植物プランクトンの捕捉率が著しく低くなるし、目開きが10μmより小さいと逆流洗浄頻度が多くなり寄港地でのバラスト水処理時間が長くなるので好ましくない。特に目開き50μm程度のものを用いるのが、捕捉率と逆流洗浄頻度とを最適に設定できるので、好ましい。
【0022】
ろ過装置4の具体例としては、ノッチワイヤフィルタまたはウェッジワイヤフィルタを用いることが好ましい。
ノッチワイヤフィルタとは、ノッチ(突起)を設けたワイヤを枠体に巻きつけて形成した筒型のエレメントを、ケーシング内に保持し、このケーシングに送水及び逆洗浄のためのバルブ及び配管を設けたものである。筒型のエレメントは、ノッチによってワイヤ同士の間隔を、ろ過通路寸法である10〜200μmに保持している。
このノッチワイヤフィルタの具体例としては、神奈川機器工業製ノッチワイヤフィルタがある。
ウェッジワイヤフィルタとは、断面が三角形のワイヤを枠体に巻きつけて形成した筒型のエレメントを、ケーシング内に保持し、このケーシングに送水と逆洗浄のためのバルブと配管を設けたものである。筒型のエレメントは、ワイヤ同士の間隔をろ過通路寸法である10〜200μmになるように調整している。
このウェッジワイヤフィルタの具体一例としては、東洋スクリーン工業製ウェッジワイヤフィルタがある。
【0023】
また、ろ過装置4の他の好ましい具体例として積層ディスク型ろ過器がある。積層ディスク型ろ過器とは、両面に複数の斜状溝を形成したドーナツ型のディスクを軸方向に圧締して積層し、環状にしたものであり、隣接するディスクの溝によって形成される間隙に通水して、水生生物をろ過するものである。積層ディスク型ろ過器においては、斜状溝の寸法を適宜調整することにより目開きを10〜200μmにできる。
なお、積層ディスク型ろ過器においては、逆洗時にはディスクの圧締を解除して、間隙を大きくしてろ過残渣を除去する。
この積層ディスク型ろ過器の具体例としては、Arkal Filtration Systems製のSpin Klin Filter Systemsがる。
【0024】
3.殺菌剤供給装置
殺菌剤供給装置5は、ろ過装置4によってろ過された海水に細菌類を死滅させる殺菌剤を供給するものである。図2は殺菌剤供給装置5、ベンチュリ管装置6及び空気供給装置8の構成の説明図であり、図2においてベンチュリ管装置6の流路の軸方向断面を示している。図3は図2における矢視A−A断面図である。
殺菌剤供給装置5は、殺菌剤を貯留する殺菌剤貯槽15と、一端側が殺菌剤貯槽15に接続され、他端側が後述する分配管35に接続されて殺菌剤貯槽15に貯留された殺菌剤を分配管35に供給する殺菌剤供給管17と、殺菌剤供給管17に設けられて殺菌剤を送り出すための殺菌剤供給ポンプ19と、殺菌剤供給管17に設けられて殺菌剤の供給量を調整する調整弁20と、を備えている。
【0025】
殺菌剤としては、塩素、二酸化塩素、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、オゾン、過酢酸またはこれらの2種以上の混合物が使用できるが、これ以外の殺菌剤を使用することも可能である。
殺菌剤の供給量は、ベンチュリ管装置6の下流側で海水中の殺菌剤濃度が細菌類を殺滅するのに十分な殺菌剤濃度になるように調整される。殺菌剤の供給量の調整は、ベンチュリ管装置6の下流側で殺菌剤濃度計(図示せず)により海水中の殺菌剤濃度を計測し、計測した殺菌剤濃度と細菌類を殺滅するのに十分な殺菌剤濃度とを比較することによって必要な殺菌剤供給量を演算し、演算された殺菌剤供給量になるように、殺菌剤供給ポンプ19の出力または調整弁20の開度を調整することによって行う。
【0026】
4.ベンチュリ管装置
ベンチュリ管装置6は、ろ過装置4を通過した海水を導入して、ろ過装置4を通過した生物に対して損傷を与え、あるいは殺滅するためのものである。
本実施の形態のベンチュリ管装置6は、図2、図3に示すように、円筒状の保護外筒21内に複数のベンチュリ管23が並列に形成されてなるものである。ベンチュリ管23の並列配置の態様は特に限定されないが、この例では図2、図3に示すように、流路の中心部に1個のベンチュリ管23を配置し、その周囲の同心円上に8個のベンチュリ管23を配置する態様である。
【0027】
9個のベンチュリ管23は、9個の円錐台状又は喇叭状の開口が設けられた円板状の絞り部材25と、9個の円柱状の開口が設けられた円板状ののど部材27と、9個の円柱状の開口が設けられた円筒状のディフューザ部材収容部材29との、3つの部材を直列に接合して各部材に形成された開口を連通させることによって形成される。
つまり、絞り部材25に形成された円錐台状又は喇叭状の開口がベンチュリ管23における絞り部22となり、のど部材27に形成された円柱状の開口がベンチュリ管23におけるのど部24となり、ディフューザ部材収容部材29に形成された円柱状の開口に内面がディフューザ形状に加工されたディフューザ部材26が収容されてベンチュリ管23におけるディフューザ部28となり、全体として管路断面積が徐々に小さくなる絞り部22、最小断面積部であるのど部24、徐々に管路断面積が広がるディフューザ部28を備えたベンチュリ管23となる。
のど部24には、殺菌剤をのど部24に注入するための注入口30が設けられている。この注入口30は、のど部24を形成する円柱状の開口の周壁と、のど部材27の外周部とを連通させる細孔をのど部材27に形成することによって形成している。
【0028】
上記のベンチュリ管装置6における絞り部22と、のど部24とは、耐薬品性の高いプラスチック材(例えば次亜塩素酸ナトリウムに対して硬質塩化ビニル樹脂)によって形成し、ディフューザ部材26はキャビテーション気泡の崩壊によるエロージョンに対して耐久性の高い金属材料(例えばSUS316L、Tiなど)で形成するのが望ましい。
また、ディフューザ部材収容部材29は、硬質塩化ビニル樹脂で形成するのが望ましい。
【0029】
ベンチュリ管装置6における保護外筒21は、海水用配管材(例えばSUS316L、亜鉛めっき鋼管)からなり、保護外筒21の両端部には海水用配管材(例えばSUS316L、亜鉛めっき鋼)からなるフランジ31が形成されている。そして、フランジ31によってベンチュリ管装置6はその上下流側の配管33a、33bに接続されている。
【0030】
保護外筒21におけるベンチュリ管23ののど部24に対応する箇所には、保護外筒21の外周に巻きつくように分配管35が設置されている。分配管35には分配管35と各ベンチュリ管23の注入口30を接続する注入枝管37が設けられている。
【0031】
各ベンチュリ管23においては、のど部24での流速の急上昇に伴う静圧の急激な低下によりキャビテーション気泡が発生し、ディフューザ部28での流速の低下に伴う圧力上昇により成長したキャビテーション気泡が崩壊する。海水中の水生生物はキャビテーション気泡が崩壊することによる衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルの作用などにより、損傷を与えられるか破壊され殺滅される。
このベンチュリ管23のキャビテーションによれば、特に、比較的固い殻を有する原虫類、動物プランクトンの外殻を破壊し、死滅させることができる。
【0032】
上記のように構成されたベンチュリ管装置6においては、各ベンチュリ管23によってキャビテーションを発生させて、植物性プランクトン等比較的小型の水生生物に対して損傷を与えるか死滅させると共に、キャビテーションによってベンチュリ管23に導入された殺菌剤を海水中に急速に拡散させて殺菌剤による細菌類の殺菌作用を促進させる。このようにキャビテーションの拡散作用により殺菌剤の海水中への混合を促進するため、殺菌剤を注入するだけの場合に比べて殺菌剤の供給量を低減でき、環境への影響を低減でき、また殺菌剤を無害化するための殺菌剤分解剤の供給を不要にするかまたは低減できる。
【0033】
5.殺菌剤分解剤供給装置
殺菌剤分解剤供給装置7は、殺菌剤を添加した海水に殺菌剤分解剤を供給して海水中に残存する殺菌剤を分解することで、無害化するものである。
供給する殺菌剤分解剤としては価格や取扱いの容易さなどの視点から、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムを用いることが望ましいが、これらに特に限定するものではない。
【0034】
バラストタンク9から海水を海に排水する際に、海水中の残留殺菌剤濃度を計測し、殺菌剤を分解するのに必要な当量または当量より多めに殺菌剤分解剤を注入する。バラストタンク9からポンプ3により海水を第1バラスト水供給ライン11に送水し、ポンプ3の上流側の配管内に殺菌剤分解剤を注入し、ポンプ3による攪拌作用により十分拡散させて配管内で殺菌剤を分解させるようにする。
【0035】
6.空気供給装置
空気供給装置8は、殺菌剤分解剤により酸素が消費され溶存酸素濃度が低下した海水中の溶存酸素量を回復させるため、殺菌剤分解剤が供給された海水に空気を供給するための装置である。
空気供給装置8は、図2に示すように切替弁41を介して殺菌剤供給管17に接続された空気供給管43と、空気供給管43に空気を送るブロワ45(または空気ポンプ)と、空気供給管43に設けられて送られる空気量を調整する空気量調整弁47と、を備えて構成される。
【0036】
上記のように構成された空気供給装置8においては、ブロワ45から空気供給管43に送られた空気が切替弁41を介して殺菌剤供給管17に送られ、さらに分配管35、注入枝管37を経由して各ベンチュリ管23ののど部24の注入口30に供給される。このように、ベンチュリ管装置6は、殺菌剤の供給と空気の供給とで兼用される。
【0037】
本実施の形態の空気供給装置8においては、ベンチュリ管23ののど部24に空気を供給するので、大量の空気を短時間で大量の海水と接触させることができる。また、ベンチュリ管23のディフューザ部28ではキャビテーションが発生して海水の流れに大規模な乱れが発生するので、注入気泡が微細化されて気液の接触面積が大幅に増加する。これらの作用のため、海水への空気の溶け込みが非常に効率良く行われ、管路を流れている間に海水中の溶存酸素量を周辺環境に悪影響を及ぼさないレベルにまで容易にかつ迅速に回復できる。
【0038】
なお、ベンチュリ管装置6の下流側で溶存酸素濃度計(図示せず)により溶存酸素量を計測し、周辺環境に悪影響を与えない溶存酸素量となるように空気供給量を調整する。
【0039】
以上のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
<取水時の生物殺滅処理>
まず、海から海水を取水しバラストタンク9に供給する際に行う海水中の生物殺滅処理について説明する。(図1参照)
切替弁41を操作して、ベンチュリ管装置6に殺菌剤供給を行えるようにする。
この状態でポンプ3を稼動する。これによって、海水取水ライン1から海水が船内に取り込まれる。その際、まず粗ろ過装置2によって海水中に存在する大小様々な夾雑物、水生生物のうち10mm程度以上の粗大物が除去される。
粗大物が除去された海水はろ過装置4に供給され、ろ過装置4の目開きに応じた大きさの動物性プランクトン、植物性プランクトン等が除去される。
粗ろ過装置2及びろ過装置4で捕捉された水生生物等は、粗ろ過装置2及びろ過装置4のフィルタ等を逆洗することにより洗い流されて海に戻される。海に戻しても同一の海域なので生態系に悪影響はない。つまり、この例ではバラスト水を積み込む際に処理をしているので、粗ろ過装置2及びろ過装置4の逆洗水をそのまま放流できるのである。
【0040】
ろ過装置4でろ過された海水はベンチュリ管装置6に供給され、また各ベンチュリ管23ののど部24には殺菌剤供給装置5によって殺菌剤が供給される。
ベンチュリ管23ののど部24に殺菌剤を供給することによって、ベンチュリ管装置6におけるキャビテーションにより殺菌剤の海水中への拡散が促進され、細菌類の殺滅効果が増進される。さらに、ベンチュリ管装置6において、上述したメカニズムによりベンチュリ管23に導入された海水中にキャビテーション気泡が発生して成長し、さらに成長したキャビテーション気泡が急激に崩壊することにより、海水中の水生生物に衝撃圧、せん断力、高温、酸化力の強いOHラジカルの作用を及ぼし、水生生物に損傷を与えるか破壊して殺滅する。
【0041】
ベンチュリ管装置6によって生物殺滅処理が行なわれた海水を、処理水送水ライン10を通じてバラストタンク9に送水して貯留する。
ベンチュリ管装置6の下流側で海水中の殺菌剤濃度を計測し、細菌類を殺滅するのに十分な殺菌剤濃度になるように、殺菌剤供給ポンプ19の出力または調整弁20の開度を調整して、殺菌剤供給量を調整する。
なお、バラストタンク9に海水を貯留する場合には、殺菌剤供給装置5から供給される殺菌剤が残存することが好ましい。これは、仮にバラストタンク9内に有害微生物が残存したとしても、残存する殺菌剤の効果によって、これらの微生物を殺滅することができるからである。殺菌剤を残存させる濃度は殺菌剤の種類、濃度、およびバラストタンク9の材質や塗装の種類によって適宜に決定し、この決定に基づいて殺菌剤の供給量を調整する。
【0042】
<海へ排水時の殺菌剤分解処理と溶存酸素回復処理>
次に、バラストタンク9から殺菌剤の残留している海水を海に排出する際に行う殺菌剤分解処理と溶存酸素回復処理について説明する。
この処理を行うときは、殺菌剤の注入と兼用されているベンチュリ管装置6に空気が注入されるように切替弁41を切り替えておく。
バラストタンク9に貯留されている海水を、ポンプ3により第1バラスト水供給ライン11に送水し、殺菌剤分解剤供給装置7によって第1バラスト水供給ライン11におけるポンプ上流側の配管内に殺菌剤分解剤を注入する。これによって、ポンプ3による攪拌作用により殺菌剤分解剤を海水中に十分拡散させて配管内で殺菌剤を分解する。海水中の残留殺菌剤濃度を計測し、殺菌剤を分解するのに必要な当量または当量より多めの量の殺菌剤分解剤を注入する。
【0043】
殺菌剤分解剤を添加されたバラスト水を、第2バラスト水供給ライン12を通じてベンチュリ管装置6に供給し、さらに空気供給装置8によりベンチュリ管23ののど部24に空気を供給することによってバラスト水に空気を供給し、空気が供給されたバラスト水を、バラスト水排水ライン13を通じて海に排水する。
【0044】
これによって、空気がベンチュリ管23ののど部24に注入され、前述した作用により、海水への空気の溶け込みが非常に効率良く行われることにより、管路を流れている間に海水中の溶存酸素量を周辺環境に悪影響を及ぼさないレベルにまで容易にかつ迅速に回復できる。
なお、空気供給量は、ベンチュリ管装置6の下流側において溶存酸素量を計測し、この溶存酸素量が周辺環境に悪影響を与えない量となるように調整する。
【0045】
上記の例は海水をバラストタンク9に積み込む際に処理を行う場合であるが、海水をバラストタンク9に積み込む際には処理をしないで、バラストタンク9から海水を排出する際に処理する場合もある。この場合は、バラストタンク9から未処理のバラスト水を、ろ過装置4に供給して、以降は上記と同様の生物殺滅処理を行い、ベンチュリ管装置6から排出される殺菌剤が残留する海水に殺菌剤分解剤を供給し、さらに空気を供給して殺菌剤分解処理と溶存酸素回復処理を行うようにすればよい。
【0046】
以上のように、本実施の形態においては、ろ過装置4で10〜200μm以上の動物性プランクトン、植物性プランクトンを除去し、ベンチュリ管装置6のベンチュリ管23ののど部24に殺菌剤を供給することによりプランクトンと細菌類を殺滅するようにしたので、どのような水質であっても確実かつ安価にIMOが定めるバラスト水基準を満たすバラスト水の処理が実現できる。
また、ベンチュリ管装置6に殺菌剤を注入するための機構を組み込んだ構成としているので、バラスト水処理装置をコンパクトにでき設置場所を小さくすることができる。さらに、殺菌剤分解剤供給装置7と共にベンチュリ管23ののど部24に空気を供給する空気供給装置8を設けたので、残留する殺菌剤を無害化でき、海水中の溶存酸素量を周辺環境に悪影響を及ぼさないレベルにまで容易にかつ迅速に回復できる。また、殺菌剤注入機構と空気注入機構とをベンチュリ管装置6によって兼用するようにしたので、バラスト水処理装置全体をさらにコンパクトにでき設置場所を小さくすることができる。
【0047】
本発明のベンチュリ管装置6におけるベンチュリ管23ののど部24に殺菌剤又は空気を注入する機構は、バラスト水処理装置の他に、有害物質を含んだ大量の液体に有害物質を無害化する薬剤を供給して拡散させる装置、大量の液体に空気などの気体を供給する曝気装置、気泡を微細化する装置などに転用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態であるバラスト水処理装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る殺菌剤供給装置およびベンチュリ管装置の説明図である。
【図3】図3のA-A断面の説明図である。
【図4】従来のベンチュリ管の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
2 粗ろ過装置、3 ポンプ、4 ろ過装置、5 殺菌剤供給装置、6 ベンチュリ管装置、7 殺菌剤分解剤供給装置、8 空気供給装置、9 バラストタンク、15 殺菌剤貯槽、23 ベンチュリ管、35 分配管、37 注入枝管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理水の流路に並列に配置されると共にのど部に注入口が設けられた複数のベンチュリ管と、薬剤の供給を受けて該薬剤を前記複数のベンチュリ管に分配するための分配管と、該分配管から分岐して前記複数のベンチュリ管の注入口に接続された注入枝管と、を備えてなることを特徴とするベンチュリ管装置。
【請求項2】
複数のベンチュリ管の全部又は一部が同心円上に配置され、同心円上に配置されたベンチュリ管の注入口に接続される注入枝管の長さが同じ長さに設定されていることを特徴とする請求項1に記載のベンチュリ管装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベンチュリ管装置を備えたバラスト水処理装置であって、ベンチュリ管装置の上流側に設けられて海水をろ過して水生生物を捕捉するろ過装置と、分配管に連結されて該分配管に殺菌剤を供給する殺菌剤供給管と、該殺菌剤供給管に供給する殺菌剤を貯留する殺菌剤貯槽と、を備えたことを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項4】
分配管に連通して該分配管に空気を供給する空気供給管と、該空気供給管に空気を供給する空気供給装置と、を備えたことを特徴とする請求項3に記載のバラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−66532(P2009−66532A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238053(P2007−238053)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000192899)神奈川機器工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】