説明

ベンディングロール

【課題】ベンディングロールの寿命を長くでき、板曲げを全幅にわたって均一に曲げることができるベンディングロールを提供する。
【解決手段】ロールが、複数本の部分ロール11,12,13をスプライン結合部20で互いに結合したものであり、スプライン結合部20は、一方の部分ロールの端部に形成された雌スプライン部21と、他方の部分ロールの端部に形成された雄スプライン部24とからなり、各部分ロールの端面同士の端面との間には隙間dが設けられている。各部分ロール11,12,13の端部外周には、端面に向ってわずかに下傾させたクラウニング部30を形成している。各部分ロール11,12,13が熱によって軸方向に伸びても、その伸びはスプライン結合部20において、雌スプライン21と雄スプライン24が互いに摺動することで吸収できる。このため、ベンディングロールの寿命も長くでき、板を均一に曲げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンディングロールに関する。一般に、タンクやボイラー用の薄板を円筒形状に曲げる機械をベンディングロールといい、船の外板のような厚板を曲げる機械を特にシップベンダーというが、本発明のベンディングロールは、両方の板曲げ機を含むものである。
【背景技術】
【0002】
ベンディングロールの基本的な構成は、非特許文献1に記載されており、これを図3に基づき説明する。一本の上ロール101と2本の下ロール102,103が、側面視における三角形の各頂点に配置されており、板材Wを上ロール101と下ロール102,103の間に通して曲げ、板材Wの曲げ半径は上ロール101を上下させて調整するように構成されている。
上記の各ロール101〜103は、板曲げ中に強大な成形力を受けるので、ロール自身に撓みが生じ、この撓みが大きくなると、板の曲げが不充分になる。そこで、この撓みをできるだけ抑制するため、各ロール101〜103には適宜の数のバックアップロール104を取付けている。また、ロール自体に加わる成形力が大きいことから、いずれのロールも1本物の構造としており、この1本物とすることは、いわゆる技術常識となっている。
【0003】
しかるに、近年のベンディングロールは大型化し、ロール1本の長さが20mに達するものも登場しようとしている。
このような、長尺のロールで板曲げ成形すると、板曲げ中に発生する摩擦熱でロール自体も軸方向に伸び、その伸び長さも大きくなってくる。
【0004】
ところで、上記のような構造のロールの両端は軸受105,106で支持されている。
特許文献1の従来例では、上ロール101の軸受105は転がり軸受で構成され、下ロール102,103の軸受106は滑り軸受で構成されている。
ベンディングロールでの板曲げ中に摩擦熱が発生すると、既述のごとくロールは軸方向に伸びるが、その伸びは、軸受が滑り軸受なら、この伸びを吸収できるものの、転がり軸受を用いている場合は、伸びを吸収することはできない。そのため軸受105の摩耗を早めるか、あるいは軸受105で伸びを止めている結果、ロールの曲げによって伸びを逃がそうとする傾向が生ずる。これらはいずれも、ベンディングロールの寿命を低下させたり、あるいは曲げた板材の両端では充分な曲げが出来ても中央部では曲げが不足し、いわゆるたる形に成形されてしまう、という欠陥が生ずる。つまり、板材の全幅にわたって均一に曲げることができず、正確な円筒形に成形することができない、という問題が生ずる。
【0005】
【非特許文献1】塑性加工技術シリーズ14 「曲げ加工」111〜117頁 日本塑性加工学会編 コロナ社
【特許文献1】特開2001−219225
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、ベンディングロールの寿命を長くでき、板材を全幅にわたって均一に曲げることができるベンディングロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のベンディングロールは、板曲げ用のロールを複数本備えたベンディングロールであって、前記ロールが、複数本の部分ロールをスプライン結合部で互いに結合したものであり、前記スプライン結合部は、隣接する一方の部分ロールの端部に形成された雌スプライン部と、他方の部分ロールの端部に形成された雄スプライン部とを摺動自在に噛み合い結合させた構造であり、前記一方の部分ロールの端面と前記他方の部分ロールの端面との間には隙間が設けられていることを特徴とする。
第2発明のベンディングロールは、第1発明において、前記部分ロールの端部外周には、端面に向ってわずかに下傾させたクラウニング部を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、板曲げ作業中の熱や季節の温度差によって、各部分ロールには軸方向の伸びが生ずるが、その伸びはスプライン結合部において、雌スプラインと雄スプラインが互いに摺動することで吸収できる。このため、ロールの伸びを拘束することによって生ずるロールの撓みや軸受の摩耗などが生じないので、ベンディングロールの寿命も長くでき、板曲げを全幅にわたって均一に曲げることができる。
第2発明によれば、各部分ロールの端部外周面にクラウニング部が形成されたことによって、部分ロールの外周面が板材に強圧で接してもロール端部の接触圧は弱くなるので、板材にロール端部の接触傷が付くことを防止できる。このため高品質の板曲げ材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るベンディングロールの正面図である。
【0010】
図1において、1は1本の上ロールであり、2,3は2本の下ロールである。これら3本のロール1,2,3は、図3の従来技術と同様に、側面視において三角形の頂点に配置される。もちろん、上ロール1は上の頂点であり、下ロール2,3は下の2つの頂点である。
【0011】
なお、本発明が適用できる配置形状によるベンディングロール型式は以下を例示できる。
a)二等辺三角形の配置とし、上ロールを上下動させて、ロール押込み量を調整するピラミッド型
b)上ロールを下ロールの片方に接近させ、下ロールの一方を上下動させて、ロール押込み量を調整するピンチ型
c)ロール配列はピラミッド型で、上ロールを固定し、下ロール2本を上下動させて、ロール押込み量を調整するピンチピラミッド型
上記の3本ロールの外、ピラミッド型とピンチ型を合わせ、前後の下ロールを動かして押込み量調整を行う4本ロール型のベンディングロールにも本発明を適用できる。
【0012】
上記の各ロール1,2,3はいずれも複数本の部分ロール11,12,13で構成されている。図示の実施形態では、3本の部分ロールを用いているが、2本を用いてもよく、4本以上を用いてもよい。
また、ベンディングロールを構成する全てのロール1,2,3を、本発明による部分ロールを結合して構成としてもよいが、一部を本発明の部分ロールで構成し、残りを従来タイプの1本物ロールとしてもよい。
【0013】
図1における12,13は、部分ロールのうち端部に配置される端部ロールであり、11は中間部分に配置される中間ロールである。以下は、この名称で説明する。
前記中間ロール11と前記端部ロール12の間は、スプライン結合部20で結合され、この中間ロール11と別の端部ロール13の間もスプライン結合部20で結合されている。このスプライン結合部20は、二つのロール間の回転トルクは伝えるが、軸方向の摺動は、これを許容する構造であり、その詳細は後述する。
前記端部ロール12,13の外端には軸部14を形成し、軸受15で支持している。軸受は滑り軸受でも転がり軸受のいずれでもよいが、後述するごとくスプライン結合部20でロールの軸方向の伸びを呼吸できるので、軸受14に転がり軸受を用いることに何の支障も生じない。
【0014】
また、軸部14には、板曲げ作業に必要な回転駆動源に連結されたり、ロール押込み量を調整する押込み駆動機構が結合される。これらの回転駆動源や押込み駆動機構に上ロールを連結するか下ロールのいずれを連結するかの選択は、ベンディングロールの型式によって行えばよい。
さらに、各ロール1,2,3の適所にはバックアップロール16が配置される。バックアップロール16の型式や配置場所、配置数は任意であり、ベンディングロールの仕様により適宜選択すればよい。ただし、本発明においては、スプライン結合部20における両側の部分ロールをバックアップする位置に、バックアップロール16を配置することが、スプライン結合部20の摩耗や曲げによる損傷を防止するのに好ましい。
【0015】
つぎに、スプライン結合部20の詳細を説明する。
図2は(A)図はスプライン結合部20の説明図、(B)はクラウニング部30の拡大図である。
同図に示すように、一方の部分ロール12の端部には雌スプライン部21が形成されており、他方の部分ロール11の端部には雄スプライン部24が形成されている。この雌スプライン部21と雄スプライン部24によりスプライン結合部20が構成されている。
【0016】
前記雌スプライン部21は、円筒状空洞22と、その円周面に形成されたスプライン23とから構成されている。前記雄スプライン部24は、円筒状突起25とその外周面に形成されたスプライン26とから構成されている。
この雌スプライン部21に雄スプライン部24が挿入された状態で、二つのスプライン23,26は互いに噛み合い、回転トルクは伝えるが、軸方向の摺動は許容するようになっている。なお、このスプライン23,26は、断面形状が台形の本来のスプラインの外に、断面形状が三角形のセレーションを用いてもよい。このセレーションも本明細書にいうスプラインの概念に含まれる。
【0017】
前記スプライン結合部20で結合された二つの部分ロール11,12の端面同士の間および二つの部分ロール12,13の端面同士の間には、隙間dが設けられている。この隙間dが存することによって、これらの部分ロール11,12,13に、板曲げ作業中の熱や季節の温度差によって軸方向の伸びが生じても、スプライン結合部20で、その伸びを吸収することができる。
このため、部分ロール11,12,13に撓みや軸受の摩耗などが生じないので、ベンディングロールの寿命も長くでき、板曲げを全幅にわたって均一に曲げることができる。
【0018】
図2(B)に示すように、前記各部分ロール11,12,13の端部、たとえばスプライン結合部20が形成されている端部においては、その外周面にクラウニング部30が形成されている。このクラウニング部30は、端面に向って、わずかに下傾するようにクラウニング加工した部分である。このクラウニング部30は、直線的に加工してものでもよく、ゆるやかに弧状に加工したものでもよい。この傾斜角θは、概ね1°〜2°が好ましい。
このように、クラウニング部30が形成されたことによって、部分ロール11,12,13の端部外周面が板材に強圧で接してもロール端部の接触圧は弱くなるので、板材にロール端部の接触傷が付くことを防止できる。このため高品質の板曲げ材が得られる。
【0019】
本発明では以上のように、板曲げ精度や長寿命化に優れた効果があるが、さらに、つぎのような実用的効果を奏する。
1)輸送に便利である。たとえば、20m前後のロールの陸送は大変な手間がかかるが、本発明では部分ロール毎に分割して輸送できるので、通常のトラック輸送が可能となる。
2)機械加工が容易である。素材の長さが20mに達すると加工できる機械も限られ、加工能力を有する工場も相当限られてくるし、素材調達も容易ではない。しかし、本発明の部分ロールの長さが短いので加工も素材調達も容易である。
【0020】
本発明のベンディングロールでは、図1に示すように、各部分ロール11,12,13のスプライン結合部20では、隣接する部分ロールの両方を支持するようにバックアップロール16を設けることが好ましく、この位置のバックアップロール16は、他の位置のバックアップロール16よりも支持力の大きい、例えば大型のものを使う等の工夫をすることがより好ましい。
そうすることによって、ロールを分割する欠点、たとえばスプライン同士の摩擦の増大や面圧の上昇は、バックアップロール16で補償され、板曲げ精度の向上や長寿命化等の利点のみ発揮できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るベンディングロールの正面図である。
【図2】(A)図はスプライン結合部20の説明図、(B)はクラウニング部30の拡大図である。
【図3】従来のベンディングロールの正面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 上ロール
2 下ロール
3 下ロール
11 中間ロール
12 端部ロール
13 端部ロール
20 スプライン結合部
21 雌スプライン部
24 雄スプライン部
30 クラウニング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板曲げ用のロールを複数本備えたベンディングロールであって、
前記ロールが、複数本の部分ロールをスプライン結合部で互いに結合したものであり、
前記スプライン結合部は、隣接する一方の部分ロールの端部に形成された雌スプライン部と、他方の部分ロールの端部に形成された雄スプライン部とを摺動自在に噛み合い結合させた構造であり、
前記一方の部分ロールの端面と前記他方の部分ロールの端面との間には隙間が設けられている
ことを特徴とするベンディングロール。
【請求項2】
前記部分ロールの端部外周には、端面に向ってわずかに下傾させたクラウニング部を形成している
ことを特徴とする請求項1記載のベンディングロール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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