説明

ベント部を有する成形型

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋳造や樹脂成形などに利用でき、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型に関し、詳しくは離型剤がベント部に堆積することを防止する手段、あるいは離型剤の堆積によりベント部の機能が損なわれることを防止する手段を備えた成形型に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、鋳造や樹脂成形の成形型には、キャビティ内のガスを逃がすためのベント部が備えられている。このベント部はガスが最も逃げにくい部位に設けられるのが理想であって、通常成形型の分割面上でゲートから最も遠い部位に深さ0.2〜0.3mm程度、幅30〜40mm程度の溝として設けられる。
【0003】成形中のキャビティ内ガスを逃がすことは、鋳造品や樹脂成形品の品質に大きく影響するため、上記ベント部の溝寸法を一定に確保する必要があり、ベント部のつまり防止などの日常管理が重要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、鋳造や樹脂成形においては、成形品の型離れの向上や金型の保護等を目的として、成形金型のキャビティ面に離型剤を塗布することが行われている。そして、離型剤の金型面への塗布は、型開きした金型間にスプレー装置を導入し、金型のキャビティ面に液状離型剤をスプレー塗布した後、スプレー装置についたエアーブロー装置からのエアーによりキャビティ面についた余分の離型剤を除去することにより行われている。
【0005】ところが、スプレー装置から噴射された離型剤が飛散してベント部に付着したり、キャビティ面の余分の離型剤を除去する際のエアーによって飛ばされた離型剤がベント部に付着する。このような離型剤の塗布は毎ショット行われるため、ベント部への離型剤の堆積量が増え、数ショット後には離型剤によりベント部が塞がれて、ベント部としての機能を果たさなくなる。このため、従来は定期的にベント部に堆積した離型剤を除去するという作業を要していた。
【0006】本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ベント部に離型剤が堆積することを防止したり、あるいは離型剤の堆積によりベント部の機能が損なわれることを防止したりすることにより、ベント部に堆積した離型剤を定期的に除去するという作業の削減又は軽減を可能としたベント部を有する成形型を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する請求項1記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面には、型の合わせ面よりもぬれ性の低い材料がコーティングされていることを特徴とするものである。
【0008】上記課題を解決する請求項2記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部は、上記キャビティ内と型外とを連通するように上記成形型の合わせ面に設けられたベント溝であり、該ベント溝の内壁面に開口する吹出口から該ベント溝内にエアーを吹き出すエアー吹出手段を備えていることを特徴とするものである。上記課題を解決する請求項3記載のベント部を有する成形型は、上記請求項2記載の成形型において、上記エアー吹出手段の吹出口が型外に向けて開口されていることを特徴とするものである。
【0009】上記課題を解決する請求項4記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、型開きに連動してキャビティ内に進出して上記ベント部を覆うカバー手段を備えていることを特徴とするものである。上記課題を解決する請求項5記載のベント部を有する成形型は、第1の型と、該第1の型の型面との間にキャビティ内のガス抜き用の隙間を形成するベント部を有する第2の型とからなるベント部を有する成形型において、上記第1の型は上記ベント部内に突出する突部を有し、上記第2の型のベント部の底面は該突部に弾性体により付勢されて当接するベント入子により構成されていることを特徴とするものである。
【0010】上記課題を解決する請求項6記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面に超音波振動を与える超音波振動手段を備えていることを特徴とするものである。上記課題を解決する請求項7記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面を上記キャビテイを形成する型面より低い温度で、かつ、離型剤の蒸発温度より低い温に冷却する冷却手段を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
【作用】請求項1記載の成形型は、ベント部の表面に型の合わせ面よりもぬれ性の低い材料がコーティングされており、該ベント部表面は液をはじくため、ベント部表面に離型剤が付着することを阻止することができ、ベント部に飛散した離型剤を離型剤塗布後のエアーブロー等により容易に吹き払うことが可能となる。
【0012】請求項2記載のベント部を有する成形型は、キャビティ内と型外とを連通するように成形型の合わせ面に設けられたベント溝の内壁面に開口する吹出口から該ベント溝内にエアーを吹き出すエアー吹出手段を備えている。このエアー吹出手段を例えば離型剤塗布時に作動させれば、ベント内に空気の膜(エアーカーテン)を形成することができるので、このエアーカーテンによりベントを遮蔽してベント内に離型剤が進入することを阻止することができる。
【0013】請求項3記載のベント部を有する成形型は、上記エアー吹出手段がベント内に型内から型外に向かってエアーを吹き出すため、このエアー吹出手段を例えば離型剤塗布後に作動させれば、ベント内に堆積した離型剤を型外に向かって確実に吹き払うことができる。請求項4記載のベント部を有する成形型は、型開きに連動してキャビティ内に進出して上記ベント部を覆うカバー手段を備えているので、ベント部の方向に飛散した離型剤をカバー手段で遮断して、カバー手段で覆われたベント部内に離型剤が進入することを阻止することができる。
【0014】請求項5記載のベント部を有する成形型は、第2の型のベント部の底面が第1の型の突部に弾性体により付勢されて当接するベント入子により構成されているので、離型剤の堆積量に応じて弾性体の弾性変形を伴ってベント入子が沈降するため、ガス抜き用の一定の隙間を確保することができる。請求項6記載のベント部を有する成形型は、ベント部表面に超音波振動を与える超音波振動手段を備えているので、離型剤塗布時や塗布後に超音波振動手段を作動させれば、ベント部内に堆積した離型剤を超音波振動によりはじき飛ばして離型剤がベント部表面に付着する事を阻止することができ、ベント部に飛散した離型剤を離型剤塗布後のエアーブロー等により容易に吹き払うことが可能となる。
【0015】請求項7記載のベント部を有する成形型は、ベント部の表面をキャビテイを形成する型面より低い温度で、かつ、離型剤の蒸発温度より低い温度に冷却する冷却手段を備えているので、ベント部に飛散した離型剤が蒸着することを抑制することができ、ベント部に飛散した離型剤を離型剤塗布後のエアーブロー等により容易に吹き払うことが可能となる。特に水溶性の離型剤を用いる場合、該水溶性の離型剤は100℃程度以下の温度で型に付着し難いという特性を有するため、100℃未満にベント部表面を冷却しておけば、ベンド部に飛散した水溶性の離型剤の蒸着を効果的に阻止することができる。
【0016】
【実施例】以下、図面を参照しつつ本発明のベント部を有する成形型の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は鋳造用金型に本発明を適用する例について説明するが、樹脂成形用金型に本発明を適用しうることは勿論である。
(第1実施例)図1〜図3に示す本実施例のベント部を有する成形型は、固定型(上型)としての第1の型1と、可動型(下型)としての第2の型2とから構成されている。なお、第1の型1にキャビティ面11が、第2の型2にキャビティ面21がそれぞれ形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ3が形成される。
【0017】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、成形時にキャビティ3内のガスを逃がすベント部としてのベント溝12が穿設されている。このベント溝12の一端は第1の型1のキャビティ面11の外周縁まで延び、ベント溝12の他端は型外に開口している。すなわち、ベント溝12はキャビティ3内と型外とを連通している。そして、ベント溝12の表面には、型の合わせ面よりも離型剤に対するぬれ性の低い材料がコーティングされている。具体的には、ベント溝12の表面には耐摩耗性及び耐熱性に優れたクロムめっき処理が施されている。また、ベント溝12のキャビティ3側の端部における内壁面には、後述するエアー吹出手段4の吹出口41aが型外に向けて開口されている。
【0018】エアー吹出手段4は、第1の型1内にその一部が埋設され、一端が上記ベント溝12のキャビティ3側の端部に吹出口41aとして開口するエアーブロー管41と、エアーブロー管41の他端が接続されたエアー吹出用ポンプ42と、ポンプ42にON/OFF信号を送る制御盤43とから構成されている。なお、エアーブロー管41の一端側(吹出口41a側)は、図2に示すように、ベント溝12の幅寸法に対応するように拡径されている。また、エアーブロー管41の一端側(吹出口41a側)は、図1に示すように、吹出口41aから吹き出されるエアーがベント溝12内から型外に向かって吹き出されるように、なるべく水平方向に近い小さい角度の斜め方向からベント溝12内に延びて開口している。
【0019】上記構成を有する型1、2のキャビティ面11、21に液状の離型剤を塗布するに際しては、可動型としての第2の型2を図示しない駆動手段により移動させて型開きした状態で、両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。このとき、離型剤は第1の型1のベント溝12にも飛散するが、ベント溝12の表面はぬれ性の低いクロムめっき処理が施されており、ベント溝12の表面は液をはじくため、ベント溝12の表面に離型剤が付着することを阻止することができる。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21についた余分の離型剤を吹き払うことができる。このとき同時に、エアー吹出手段4を作動させて吹出口41aからベント溝12内に型外に向かってエアーを吹き出すことにより、ベント溝12に飛散した離型剤を型外に向けて確実に吹き払うことができる。また、可動型としての第2の型2を図示しない駆動手段により移動させて型締めした後に、さらにエアー吹出手段4を作動させて吹出口41aからベント溝12内に型外に向かってエアーを吹き出すことにより、ベント溝12内の離型剤を型外に向けてより確実に吹き払うことができる。
【0020】このように本実施例の成形型においては、ベント溝12の表面がぬれ性の低いクロムめっき処理が施されているので、離型剤がベント溝12表面に付着することを阻止することができるとともに、離型剤塗布後にエアー吹出手段4によりベント溝12内に型外に向けてエアーを吹き出すことによりベント溝12内の離型剤を確実に型外に向けて吹き払うことができるので、ベント溝12内に離型剤が堆積することを確実に防止することが可能となる。したがって、ベント溝12内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0021】なお、上記実施例では、ベント溝12の表面にクロムめっき処理を施す例について説明したが、めっき材料としてはクロムに限定されず、型の合わせ面よりぬれ性の低い他の材料、例えばニッケルや鉛、あるいはそれらの合金材料をめっき材料として用いることも可能である。また、めっき処理の他にテフロン等の樹脂やシリコンオイル等の油を含む液体をコーティングすることも可能である。
【0022】(第2実施例)図4及び図5に示す本実施例のベント部を有する成形型は、固定型(下型)としての第1の型1と、可動型(上型)としての第2の型2とから構成されている。なお、第1の型1にキャビティ面11が、第2の型2にキャビティ面21がそれぞれ形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ3が形成される。
【0023】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、成形時にキャビティ3内のガスを逃がすベント部としてのベント溝12が穿設されている。このベント溝12の一端は第1の型1のキャビティ面11の外周縁まで延び、ベント溝12の他端は型外に開口している。また、ベント溝12のキャビティ3側の底面には、後述するエアー吹出手段4の4個の吹出口41aが開口している。
【0024】エアー吹出手段4は、第1の型1内にその一部が埋設され、一端が上記ベント溝12のキャビティ3側の底面に吹出口41aとしてそれぞれ開口する4本のエアーブロー管41と、各エアーブロー管41の他端が接続されたエアー吹出用ポンプ42と、ポンプ42にON/OFF信号を送る制御盤43とから構成されている。なお、エアーブロー管41の一端側(吹出口41a側)は、ベント溝12の底面に対して垂直方向に延びており、吹出口41aからベント溝12内に垂直方向にエアーが吹き出されるようにされている。
【0025】上記構成を有する型1、2のキャビティ面11、21に液状の離型剤を塗布するに際しては、可動型としての第2の型2を図示しない駆動手段により移動させて型開きした状態で、両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。このとき同時に、エアー吹出手段4を作動させてベント溝12の底面の各吹出口41aから上方に向かってエアーを吹き出すことにより、ベント溝12のキャビティ3側の上方にエアーカーテンを形成することができるので、このエアーカーテンによりベント溝12を遮蔽してベント11内に離型剤が進入することを阻止することができる。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21についた余分の離型剤を吹き払うことができる。このとき同時に、エアー吹出手段4を作動させてベント溝12の底面の各吹出口41aから上方に向かってエアーを吹き出すことにより、エアーカーテンによりベント溝12内に離型剤が進入することを阻止することができる。また、可動型としての第2の型2を図示しない駆動手段により移動させて型締めした後に、さらにエアー吹出手段4を作動させて吹出口41aからベント溝12内にエアーを吹き出すことにより、吹出口41aより型外側のベント溝12内に存在する離型剤を型外に向けて吹き払うことができる。
【0026】このように本実施例の成形型においては、離型剤塗布時のエアー吹出手段4の作動によりエアーカーテンの遮蔽作用により離型剤がベント溝12内に進入することを阻止することができるとともに、型閉め後のエアー吹出手段4の作動によりベント溝12内の離型剤を型外に向けて吹き払うことができるので、ベント溝12内に離型剤が堆積することを確実に防止することが可能となる。したがって、ベント溝12内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0027】(第3実施例)図6〜図8に示す本実施例のベント部を有する成形型は、固定型(上型)としての第1の型1と、可動型(下型)としての第2の型2とから構成されている。なお、図6は第1の型1を下から見た底面図である。また、第1の型1にキャビティ面11が、第2の型2にキャビティ面21がそれぞれ形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ3が形成される。
【0028】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、、収容凹部15が設けられている。この収容凹部15内には、第1の型1と第2の型2との型開きに連動してキャビティ3内に進出可能なカバー手段6が収容されている。このカバー手段6は、収容凹部15の底面に一端が固定されたバネ部材61と、バネ部材61の他端が固定されたカバー部材62と、収容凹部15の側壁に固定されカバー部材62を揺動可能に支持する支持棒63とから構成されている。上記カバー部材62は、バネ部材61の他端が固定された取付用板62aと、取付用板62aの両端に固定された扇状の一対の側板62b,62bと、一対の側板62b,62bの各先端に固定されたカバー板62cとから構成されている。そして、一対の側板62b,62bの各基端側が支持棒63に枢支されている。
【0029】また、第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、収容凹部15のキャビテイ面11側に第1ベント溝12aが、収容凹部15の型外側に第2ベント溝12bそれぞれ穿設されている。したがって、成型時には、キャビティ3内のガスは、第1ベント溝12a、収容凹部15及び第2ベント溝12bを通って型外に排出される。
【0030】上記構成を有する型1、2のキャビティ面11、21に液状の離型剤を塗布するに際しては、可動型としての第2の型2を図示しない駆動手段により例えば水平方向に移動させて型開きする。この型開きに連動して、カバー手段6のバネ部材61の付勢力によりカバー部材62が支持棒63を中心に揺動しつつキャビティ3内に進出する。このため、カバー部材62のカバー板62c及び一対の側板62b、62bが収容凹部15及び型外側の第2ベント溝12bを覆う。この状態で、両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。このスプレー塗布時にベント部方向に飛散した離型剤はカバー手段6のカバー板62c及び側板62b、62bで遮断されるため、収容凹部15や第2ベント溝12b内に離型剤が進入することを阻止することができる。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21についた余分の離型剤を吹き払った後、第2の型2を図示しない駆動手段により水平方向に移動させて型締めする。この型閉めの際には、第2の型2の端部がカバー部材62の側板62b,62bと摺動しつつバネ部材61の付勢力に抗してカバー部材62を上方に揺動させるので、型閉めと同時にカバー部材62を収容凹部15内に収容させることができる。
【0031】このように、本実施例の成形型においては、型開きと連動して進出するカバー部材62により、ベント部としての収容凹部15及び型外側の第2のベント溝12bを覆うことができるので、スプレー塗布された離型剤が収容凹部15及び第2のベント溝12b内に進入することを阻止することができる。なお、キャビティ3側の第1のベント溝12aは上記カバー部材62により覆われないので、従来と同様に離型剤が堆積するが、定期的に離型剤を除去する必要があるのでこのベント溝12aのみであるため、その作業が従来と比べて軽減される。
【0032】なお、上記実施例において、可動型としての第2の型2は上下方向に移動させることも可能である。また、上記実施例において、型開きに連動するように制御された駆動装置により例えば水平方向に移動可能で、型開き時にキャビティ内に進出した時にベント溝全体を覆うことが可能な板部材によりカバー手段を構成することも可能である。この場合、板部材によりベント溝全体を覆うことができるので、離型剤がベント溝内に進入することを完全に阻止することができる。したがって、ベント溝内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0033】(第4実施例)図9及び図10に示す本実施例のベント部を有する成形型は、第1の型1と、第2の型2とから構成されている。なお、第1の型1及び第2の型2には図示しないキャビティ面が形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ(図示せず)が形成される。
【0034】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第2の型2の型面には、第2の型2のキャビティ面の外周縁から型外まで延びる凹部22が形成されている。そして、この凹部22内には、凹部22の長さ方向全長に延びるベント入子23が凹部22の深さ方向に摺動可能に配設されている。また、凹部22の底面とベント入子23との間にはベント入子23を上方に付勢するバネ部材24が配設されている。これにより、凹部22内には、ベント入子23によりその底面が構成されるベント部25が形成される。なお、バネ部材24の両端は、凹部22の底面及びベント入子23にそれぞれ固定されている。
【0035】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、上記ベント部25内に突出する突部13が設けられている。この突部13は、型閉めした時に第1の型1の型面と第2の型2の凹部22内のベント入子23との間に形成されるベント部25の隙間が、キャビティ内のガスを有効に逃がすという機能を果たしうる寸法分の長さだけ突出している。
【0036】なお、本実施例では、ベント入子23の上面に荷重がかかっていない時に、ベント入子23の上面は、上記突部13の突出長さより若干短めに第2の型2の型面より下方に下がっている。上記構成を有する型1、2のキャビティ面に液状の離型剤を塗布するに際しては、型開きした状態で、両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1及び第2の型2のキャビティ面に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1及び第2の型2のキャビティ面に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1及び第2の型2のキャビティ面についた余分の離型剤を吹き払った後、型閉めする。このとき、図11R>1に示すように、第2の型2のベント部25内、すなわちベント入子23の上面に離型剤Pが蒸着により堆積している場合でも、離型剤Pの上面は第1の型1の突部13により下方に押圧されるので、離型剤Pの堆積量に応じてバネ部材24が弾性変形してベント入子23が下方に下がるため、第1の型1の型面とベント入子23の上面に堆積した離型剤Pとの間に形成されるガス抜き用の隙間を一定に確保することができる。
【0037】このように本実施例の成形型においては、離型剤Pがベント部25内に堆積したとしても、ガス抜き用のベント部25として、常に第1の型1の突部13の突出長さ分だけの隙間を確保することが可能となる。したがって、ベント部25内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0038】なお、上記実施例において、ベント入子23の上面に荷重がかかっていない時に、ベント入子23の上面が第2の型2の型合わせ面と同一面となるように設定することも可能である。これにより、離型剤を塗布する際に型開きした状態で、第2の型2の凹部22はベント入子23により完全に塞がれる。このため、離型剤が凹部22内に入り込むことを防止することができ、またベント入子25上に飛散した離型剤も通常のエアーブローにより容易に吹き払うことができ、したがってベント部25内の離型剤の堆積を効果的に防止することが可能となる。
【0039】(第5実施例)図11に示す本実施例のベント部を有する成形型は、第1の型1と、第2の型2とから構成されている。なお、第1の型1にキャビティ面11が、第2の型2にキャビティ面21がそれぞれ形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ3が形成される。
【0040】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、成形時にキャビティ内のガスを逃がすベント部としてのベント溝12が穿設されている。このベント溝12の一端は第1の型1のキャビティ面11の外周縁まで延び、ベント溝12の他端は型外に開口している。そして、第1の型1のベント溝12の下方には複数の超音波振動素子14が埋設されている。なお、各超音波振動素子14は、図示しない駆動電源からの印加電圧により作動可能とされている。
【0041】上記構成を有する型1、2のキャビティ面11、21に液状の離型剤を塗布するに際しては、型開きした両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21についた余分の離型剤を吹き払うことができる。この離型剤塗布時及びエアーブロー吹出時に、図示しない駆動電源からの印加電圧により超音波振動素子14を作動させてベント溝12表面に超音波振動を与えれば、ベント溝12に飛散した離型剤がベント溝12表面に付着することを阻止することができる。したがって、エアーブローにより容易に離型剤を型外に吹き払うことができ、ベント溝12内に離型剤が堆積することを確実に防止することが可能となる。したがって、ベント溝12内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0042】(第6実施例)図12及び図13に示す本実施例のベント部を有する成形型は、第1の型1と、第2の型2とから構成されている。なお、第1の型1にキャビティ面11が、第2の型2にキャビティ面21がそれぞれ形成されており、第1の型1及び第2の型2を型締めした時に、両型1、2間に製品形状のキャビティ3が形成される。
【0043】第1の型1と第2の型2との型合わせ部分に相当する第1の型1の型面には、断熱部材としてのセラミックス等よりなる入子13が埋設されており、この入子13の表面には成形時にキャビティ内のガスを逃がすベント部としてのベント溝12が穿設されている。このベント溝12の一端は第1の型1のキャビティ面11の外周縁まで延び、ベント溝12の他端は型外に開口している。また、入子13及び第1の型1内には、ベント溝12の下方にベント溝12に沿って延びる冷却管51が埋設されている。なお、この冷却管51は、冷却水供給装置52に接続されている。
【0044】上記構成を有する型1、2のキャビティ面11、12に液状の離型剤を塗布するに際しては、型開きした両型1、2間に図示しない離型剤スプレー装置を導入し、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型2のキャビティ面21に向けて液状離型剤をスプレー塗布する。そして、図示しない離型剤スプレー装置に備え付けられたエアーブロー装置から第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21に向けてエアーを吹き出すことにより、第1の型1のキャビティ面11及び第2の型のキャビティ面21についた余分の離型剤を吹き払うことができる。この離型剤塗布時及びエアーブロー吹出時に、冷却水供給装置52から冷却水を冷却管51内に供給して、ベント溝12の表面を使用する離型剤の蒸発温度、例えば水を混合した離型剤であれば100℃未満になるように冷却することにより、ベント溝12に飛散した離型剤がベント溝12表面に付着することを阻止することができる。したがって、エアーブローにより容易に離型剤を型外に吹き払うことができ、ベント溝12内に離型剤が堆積することを確実に防止することが可能となる。したがって、ベント溝12内に堆積した離型剤を定期的に除去するという煩わしい作業を削減することが可能となる。
【0045】なお、冷却水の代わりに冷媒を用いる冷凍回路を利用してベント溝12表面を強冷することも可能である。
【0046】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明のベント部を有する成形型は、ベント部に離型剤が堆積することによりベント部としての機能が損なわれることを効果的に防止することができる。したがって、成形時にはキャビティ内のガスをベント部から確実に逃がすことができ、成形品の品質が安定する。また、ベント部に堆積した離型剤を除去する作業を削減又は軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例のベント部を有する成形型を示す断面図である。
【図2】 上記第1実施例の成形型の第1の型の要部平面図である。
【図3】 上記第1実施例の成形型の第1の型の要部断面図である。
【図4】 本発明の第2実施例のベント部を有する成形型を示す断面図である。
【図5】 上記第2実施例の成形型の第1の型の要部断面図である。
【図6】 本発明の第3実施例のベント部を有する成形型を構成する第1の型の底面図である。
【図7】 上記第3実施例の成型型の型閉め状態を説明する要部断面図である。
【図8】 上記第3実施例の成型型の型開き状態を説明する要部断面図である。
【図9】 本発明の第4実施例のベント部を有する成形型を示す要部断面図である。
【図10】 上記第4実施例の成形型のベント部に離型剤が堆積した状態を示す要部断面図である。
【図11】 本発明の第5実施例のベント部を有する成形型を示す要部断面図である。
【図12】 本発明の第6実施例のベント部を有する成形型を示す要部断面図である。
【図13】 上記第6実施例の成形型の第1の型の要部断面図である。
【符号の説明】
1は第1の型、2は第2の型、3はキャビティ、4はエアー吹出手段、11、21はキャビティ面、12はベント溝、14は超音波振動素子、23はベント入子、24はバネ部材、25はベント部、4はエアー吹出手段、41はエアーブロ管、42はポンプ、43は制御盤、51は冷却管、52は冷却水供給装置、6はカバー手段、61はバネ部材、62はカバー部材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面には、型の合わせ面よりもぬれ性の低い材料がコーティングされていることを特徴とするベント部を有する成形型。
【請求項2】 キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部は、上記キャビティ内と型外とを連通するように上記成形型の合わせ面に設けられたベント溝であり、該ベント溝の内壁面に開口する吹出口から該ベント溝内にエアーを吹き出すエアー吹出手段を備えていることを特徴とするベント部を有する成形型。
【請求項3】 上記エアー吹出手段の吹出口は型外に向けて開口されていることを特徴とする請求項2記載のベント部を有する成形型。
【請求項4】 キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、型開きに連動してキャビティ内に進出して上記ベント部を覆うカバー手段を備えていることを特徴とするベント部を有する成形型。
【請求項5】 第1の型と、該第1の型の型面との間にキャビティ内のガス抜き用の隙間を形成するベント部を有する第2の型とからなるベント部を有する成形型において、上記第1の型は上記ベント部内に突出する突部を有し、上記第2の型のベント部の底面は該突部に弾性体により付勢されて当接するベント入子により構成されていることを特徴とするベント部を有する成形型。
【請求項6】 キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面に超音波振動を与える超音波振動手段を備えていることを特徴とするベント部を有する成形型。
【請求項7】 キャビティ内のガス抜き手段としてのベント部を有する成形型において、上記ベント部の表面を上記キャビテイを形成する型面より低い温度で、かつ、離型剤の蒸発温度より低い温度に冷却する冷却手段を備えていることを特徴とするベント部を有する成形型。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【特許番号】特許第3149705号(P3149705)
【登録日】平成13年1月19日(2001.1.19)
【発行日】平成13年3月26日(2001.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−252283
【出願日】平成6年10月18日(1994.10.18)
【公開番号】特開平8−117956
【公開日】平成8年5月14日(1996.5.14)
【審査請求日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−99468(JP,A)
【文献】特開 平5−31563(JP,A)
【文献】特開 平2−274359(JP,A)