ベーンポンプ
【課題】ベーンの目標寿命を容易に把握することができるベーンポンプを提供することを課題とする。
【解決手段】ロータ86と、このロータ86に放射状に設けられているスリット84と、このスリット84に摺動可能取付けられるベーン87とを備えたベーンポンプにおいて、ベーン87は、このベーン87の摩耗寿命までは摺動中であってもスリット84に収納され、摩耗寿命を超えるとスリット84から外方へ露出する空隙88を備えている。
【効果】目標とする摩耗寿命を超えるとベーンに設けた空隙が、ロータのスリットから外方に徐々に露出するので、ロータ室内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプの吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプのベーンの目標寿命を容易に把握することができる。
【解決手段】ロータ86と、このロータ86に放射状に設けられているスリット84と、このスリット84に摺動可能取付けられるベーン87とを備えたベーンポンプにおいて、ベーン87は、このベーン87の摩耗寿命までは摺動中であってもスリット84に収納され、摩耗寿命を超えるとスリット84から外方へ露出する空隙88を備えている。
【効果】目標とする摩耗寿命を超えるとベーンに設けた空隙が、ロータのスリットから外方に徐々に露出するので、ロータ室内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプの吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプのベーンの目標寿命を容易に把握することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプ、例えば車両用負圧ブースタの負圧を生成するために用いられるベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプとして、自動車用電気エアポンプが提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
この特許文献1の技術を図面に基づいて以下に説明する。
図13に示されるベーンポンプ(100)(括弧付き数字は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ。)は、ハウジング(101)のシリンダ(102)の内周面にロータ(103)の外周面を接触させ、ハウジング(101)の溝(104)に弾性部材(105)を介在させてベーン(106)が配置される。
【0004】
弾性部材(105)は、ベーン(106)をロータ(103)の外周面に押し付けるように付勢する。ロータ(103)の回転軸は偏心しており、ロータ(103)の外周面がシリンダ(102)の内周面に接触した状態でロータ(103)が回転し、ロータの偏心回転に合わせてベーン(106)は上下運動する。
【0005】
ベーン(106)の先端部は、ロータ(103)の外周面を摺動することで、徐々に摩耗し、ベーン(106)の摩耗寿命に達する。しかし、外観からはベーン(106)の状態が分かりにくく、ベーン(106)の寿命が把握しづらい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−159259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ベーンの目標寿命を容易に把握することができるベーンポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、ロータと、このロータに放射状に設けられているスリットと、このスリットに摺動可能取付けられるベーンとを備えたベーンポンプにおいて、前記ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは前記摺動中であっても前記スリットに収納され、前記摩耗寿命を超えると前記スリットから外方へ露出する空隙を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、請求項1記載のベーンポンプにおいて、空隙は、ベーンを貫通する貫通孔であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、請求項1記載のベーンポンプにおいて、空隙は、ベーンの縁に切欠き形成された凹部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは摺動中であってもスリットに収納され、摩耗寿命を超えるとスリットから外方へ露出する空隙を備えている。
目標とする摩耗寿命を超えるとベーンに設けた空隙が、ロータのスリットから外方に徐々に露出するので、ロータ室内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプの吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプのベーンの目標寿命を容易に把握することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、空隙は、ベーンを貫通する貫通孔である。
ベーンに貫通孔を開けることは容易であり、容易な形状によって空隙を形成することができ、ベーンのコストを抑えることができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、空隙は、ベーンの縁に切欠き形成された凹部である。
ベーンの縁に切欠きにより凹部を形成することは容易であり、容易な形状によって空隙を形成することができ、ベーンのコストを抑えることができる。
さらに、例えば、ベーンの背面側にベーンを外方に付勢するスプリングを設ける場合に、凹部でスプリングの位置決めを兼ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係るベーンポンプの配置例を示す図である。
【図2】ベーンポンプの分解斜視図である。
【図3】ポンプ部の分解斜視図である。
【図4】ポンプ部の平面図である。
【図5】実施例1のベーンの斜視図である。
【図6】摩耗寿命前のベーンの作用図である。
【図7】実施例1のベーンの摩耗状態の説明図である。
【図8】摩耗寿命を超えたベーンの作用図である。
【図9】実施例2のベーンの斜視図である。
【図10】実施例2のベーンの摩耗状態の説明図である。
【図11】ベーンポンプの耐久時間と圧力変化の相関図である。
【図12】実施例3〜5のベーンの平面図である。
【図13】従来のベーンポンプの原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0016】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、本発明のベーンポンプ10は、車両に備えられる負圧ブースタ11の負圧室12内を、負圧にする真空ポンプの一種である。
ベーンポンプ10を作動させると、負圧管13、負圧室12内及び変圧室14内が負圧になっている。負圧管13に圧力を計測する圧力計15が接続される。この状態でブレーキペダル16を踏むと負圧室12と変圧室14とが遮断され、変圧室14に空気が導入され、負圧室12と変圧室14との差圧により、ダイヤフラム17がリターンばね18を圧縮させる側へ変形し、プッシュロッド19を押し出す。結果、小さな踏力で大きな制動力が得られる。ベーンポンプ10は、車両の側のブラケット21にボルト22で固定される。
【0017】
ベーンポンプ10の構造を以下に詳しく述べる。
図2に示されるように、ベーンポンプ10は、吸入ポート24を上部に有するボディ部40と、このボディ部40の一方の側面に複数(この例では2本)のビス26で取付けられ、モータ軸27がインボリュートスプライン軸であるモータ28と、ボディ部40の他方の側面に設けられている複数(この例では4個)の雌ねじ穴31に長いボルト32をねじ込むことで取付けられるポンプ部80と、吸入ポート24にフィルタ部材33を介して接続される接続管60と、ポンプ部80を覆うと共に、ボディ部40の他方の面に設けられている複数(この例では4個)の雌ねじ穴34にビス36をねじ込むことで取付けられるカバー体70とからなる。
【0018】
モータ28の側部に、モータ28へ給電する中間コネクタ37が設けられる。
ボディ部40は、モータ28をマウントするため及び車両に接続するための基盤であるため、厚くて剛性に富む、例えば鋳物などの金属製とすることが望まれる。ボディ部40の底面に、車両側のブラケット(図1、符号21)にブッシュを介して取付けられる一対の固定部41が下方に突出して設けられる。ボディ部40の中心部にモータ軸27が挿入される軸穴42が設けられる。
【0019】
ボディ部40のうちポンプ部80が取付けられる側面を、ポンプ取付け側面43と呼ぶことにする。このポンプ取付け側面43に、ポンプ取付け側面43の外周に沿ってOリングなどのシール材44が設けられる。
【0020】
また、ポンプ取付け側面43に、軸穴42の上方から下方にかけて、軸穴42を中心とする半円形の吸気溝46が設けられており、この吸気溝46を囲うようにOリングなどのシール材47がポンプ取付け側面43に設けられる。
【0021】
さらに、ポンプ取付け側面43に複数(実施例では4室)のチャンバー51〜54が設けられる。複数のチャンバー51〜54は、ボディ部40の上下方向中央に配置され、ボディ部40の外周に沿って形成される第1チャンバー51と、この第1チャンバー51と軸穴42との間に配置され、第1チャンバー51に第1連通溝55を介して連通する第2チャンバー52と、軸穴42の下方に配置され、第2チャンバー52に第2連通溝56を介して連通する第3チャンバー53と、この第3チャンバー53の直下にてボディ部40の外周に沿って形成され、チャンバー51〜53とは独立した第4チャンバー54とからなる。
【0022】
第3チャンバー53に排出通路57が設けられ、排出通路57はボディ部40の下部に設けられた排気口58に連通する。第4チャンバー54に排出通路59が設けられ、排出通路59は排気口58に連通する。
【0023】
接続管60は、ボディ部40の上面に設けられている複数(この例では2個)の雌ねじ穴61にビス62をねじ込むことで締結される締結部63と、この締結部63から上方に突出する基部65と、この基部65からモータ軸27の軸方向67に延びるホース差込部66とを主要素とし、Oリングなどのシール材68を介して吸入ポート24に接続される。
【0024】
カバー体70は、有底円筒であり、ポンプ取付け側面43に対向する底部71と、この底部71からポンプ取付け側面43に向けて延びる筒部72と、この筒部72の端部に鍔状に形成されるフランジ部73とからなる。
【0025】
図3はポンプ部80の分解斜視図であり、ポンプ部80は、非円断面のロータ室81及び複数(この例では4個)のボルト穴82が設けられるケース83と、複数のスリット84が放射状に設けられ、中心にインボリュートスプライン穴85が設けられ、非円断面のロータ室81に回転自在に収納されるロータ86と、複数のスリット84に各々移動自在に収納されるベーン87と、このベーン87に設けられた貫通孔88(本発明の空隙)と、複数(この例では4個)のボルト穴91及び上下2個の吸気孔92、93を有する吸気プレート94と、複数(この例では4個)のボルト穴95及び上下2個の排気孔96、97を有する排気プレート98と、ボルト穴95、82、91に通される複数(この例では4本)のボルト32とからなる。
【0026】
次にカバー体70の底部71側から見た平面図に基づいてロータ86及びベーン87について説明する。
図4に示されるように、ロータ室81は非円断面形状を呈し、ロータ86が回転自在に収納される。ロータ86は放射状に設けられた複数のスリット84を有し、これらのスリット84に摺動可能にベーン87が取付けられる。
【0027】
ロータ86回転時、ベーン87の先端部101は、ロータ室81の内面102を摺動する。ロータ室81の長径103部分で、ベーン87はスリット84から最も外方に突出する。ロータ室81の短径104部分で、ベーン87はスリット84内に最も埋没する。
なお、ベーン87は新品の状態であり、ロータ室81の長径103部分でベーン87が最も外方に突出した状態であっても、貫通孔88はスリット84内に収納される。
【0028】
次にベーン87単体について説明する。
図5に示されるように、ベーン87は、板状を呈する部材であり、新品の状態において、幅はw、高さはh、厚さはtである。貫通孔88は、断面が円の貫通孔88であり、貫通孔88の内径はdである。ベーン87の先端部101から貫通孔88の先端部101側の周縁までの距離はLである。貫通孔88は、ベーン87の幅方向の略中央に配置されている。
先端部101は、略円弧状を呈しており、ロータ室81の内面102を滑らかに摺動することができる。
【0029】
以上に述べたベーンポンプ10の作用を次に述べる。先ず、ベーンポンプ10全体における空気の流れを簡単に説明する。
図2に戻って、モータ28が作動すると、ポンプ部80の吸引作用により、外気が接続管60内に吸入される。この吸気は、フィルタ部材33を通過して吸入ポート24に吸入される。
【0030】
吸入ポート24に入った吸気は、吸気孔(図3、符号92)からポンプ部80に入り、加圧されて排気孔96から排出される、又は、吸気溝46を通って吸気孔93からポンプ部80に入り、加圧されて排気孔97から排出される。上下の排気孔96、97から排出された排気は、カバー体70内に流入する。
【0031】
カバー体70内において、排気は2つの排気経路のうち、いずれかの経路で排気口58へ導かれる。一方の経路では、排気はポンプ部80の側部とカバー体70との間の隙間を流れた後、第1チャンバー51に流入する。第1チャンバー51に流入した排気は第1連通溝55を介して第2チャンバー52に移る。第2チャンバー52に流入した排気は第2連通溝56を介して第3チャンバー53に移る。第3チャンバー53に流入した排気は排出通路57を介して排気口58から外部へ排出される。
【0032】
他方の経路では、排気はポンプ部80の側部とカバー体70との間の隙間を流れた後、第4チャンバー54に流入し、排気は排出通路59を介して排気口58から外部へ排出される。
【0033】
次にポンプ部80の作用について説明する。
図6は図4と同様、ベーン87およびロータ86をカバー体70の底部71側から見たものであるが、図6に示されるように、ケース83内でロータ86が、矢印(1)のように回転する。遠心力が作用することでスリット84に収納されていたベーン84は、ロータ86から矢印(2)のように突出すると共に、ベーン84の先端部101が内面102を摺動する。
【0034】
ベーン84がロータ室81の長径103の部分に差し掛かると、ベーン84は矢印(3)のようにスリット84に収納される方向に移動する。隣り合うベーン84、84、ロータ室81の内面102及びロータ86の外面に囲まれる空間は、ロータ86の回転に伴い体積が大きくなることで空気が減圧され、ポンプ部80の外部から空気が吸引される。
【0035】
また、ベーン87が目標とする摩耗寿命に達する前の状態であり、ベーン87がスリット84から最も突出するロータ室81の長径103部分に差し掛かっても、ベーン87の貫通孔88は、スリット84内に収まる。
【0036】
次にロータ室81の長径103部における、ベーン87の摩耗による状態変化について説明する。
図7(a)はベーン87が新品の場合を示す図である。貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL1であり、ロータ86の外面105からロータ室81の内面102までの長さはSである。貫通孔88はスリット84内に収まる。
ベーン87が新品の場合は、ベーン87の先端部101が摩耗しておらず、S<L1となる。
【0037】
図7(b)はベーン87を一定時間使用し、目標とする摩耗寿命に近づいた場合を示す図である。ベーンポンプを使用すると、ベーン87の先端部101がロータ室81の内面102を摺動することで、先端部101が摩耗する。貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL2となる。貫通孔88はスリット84内に収まるが、貫通孔88の先端部101側がロータ86の外面105に差し掛かっている。
ベーン87を一定時間使用した場合は、ベーン87の先端部101がある程度摩耗し、S=L2となる。
【0038】
図7(c)はベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合を示す図である。ベーンポンプを長時間使用することで、ベーン87の先端部101が摩耗し、貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL3となる。貫通孔88はスリット84から外方へ露出する。
ベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合、ベーン87の先端部101が摩耗し、L3<Sとなる。
【0039】
次にベーン87の摩耗寿命を超えた状態でのベーンポンプの作用を説明する。
図8は図4や図6と同様、ベーン87およびロータ86をカバー体70の底部71側から見たものであるが、図8に示されるように、ケース83内でロータ86が、矢印(4)のように回転する。遠心力が作用することでスリット84に収納されていたベーン84は、ロータ86突出すると共に、ベーン84の先端部101が内面102を摺動する。
【0040】
貫通孔88はスリット84から外方へ露出する。空気が圧縮される圧縮側の空間107から、空気が矢印(5)のように貫通孔88を通り空間106に入る。空間106が十分に減圧されないので、ベーンポンプ10全体の空気を吸引する能力も低下する。
【0041】
図1に戻って、圧力計15により圧力を計測し、上記のようにベーンポンプ10の空気を吸引する能力の低下に伴う、圧力の上昇を検出することで、ベーン87が目標寿命を超えたことを知ることができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。なお、図5に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図9に示されるように、ベーン87は、板状を呈する部材であり、新品の状態において、幅はw、高さはh、厚さはtである。本実施例における本発明の空隙は、ベーン87の縁111に切欠き形成された凹部89であり、凹部89の幅はmである。ベーン87の先端部101から凹部89の端までの距離はLである。凹部89は、ベーン87の幅方向の略中央に配置されている。
【0043】
次にロータ室81の長径103部における、別態様のベーン87の摩耗による状態変化について説明する。
図10(a)はベーン87が新品の場合を示す図である。凹部89の端部から先端部101までの長さはL1であり、ロータ86の外面105からロータ室81の内面102までの長さはSである。凹部89はスリット84内に収まる。
ベーン87が新品の場合は、ベーン87の先端部101が摩耗しておらず、S<L1となる。
【0044】
図10(b)はベーン87を一定時間使用し、目標とする摩耗寿命に近づいた場合を示す図である。ベーンポンプを使用すると、ベーン87の先端部101がロータ室81の内面102を摺動することで、先端部101が摩耗する。凹部89の端部から先端部101までの長さはL2となる。凹部89はスリット84内に収まるが、凹部89の端部がロータ86の外面105に差し掛かっている。
ベーン87を一定時間使用した場合は、ベーン87の先端部101がある程度摩耗し、S=L2となる。
【0045】
図10(c)はベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合を示す図である。ベーンポンプを長時間使用することで、ベーン87の先端部101が摩耗し、凹部89の端部から先端部101までの長さはL3となる。凹部89はスリット84から外方へ露出する。
ベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合、ベーン87の先端部101が摩耗し、L3<Sとなる。
【0046】
凹部89を備えたベーン87においても、図8の説明と同様に作用する。
【0047】
次に図7と図10に示したベーン87を使用した場合の、ベーンポンプ10の使用時間と吸引側の圧力との相関を説明する。
図11に示されるように、図1に示すベーンポンプ10を使用しベーン87が摩耗するにつれて、圧力計15で計測される圧力の値が変化する。
ベーン87の目標とする摩耗寿命までは、ベーンポンプ10の空気を吸引する能力は一定であり、圧力計15の値は一定値Pを示す。(図7(a)、図10(a)の状態。)
【0048】
空隙88が貫通孔88の場合、べーン87の先端部101の摩耗に伴い貫通孔88がスリット84から外方露出するが、露出し始めは(図7(b)の状態。)、露出面積が微小であるので、貫通孔88を通り抜ける空気も少なく、ベーンポンプ10吸引力の低下も小さい。ベーン87の先端部101の摩耗が進むにつれて、貫通孔88の露出が急激に大きくなり、貫通孔88を通り抜ける空気も急激に多くなり、ベーンポンプ10の吸引力の低下も大きくなる(図7(c)の状態。)。したがって、図11において圧力計15により計測される圧力は、曲線Rとなる。
ベーンポンプ10の吸引力が徐々に低下する。吸引力の低下に伴い上昇する圧力を圧力計15で計測し、ベーン寿命時期閾値になったところで、ベーン87の目標寿命とみなしてドライバーに交換時期であることを知らせることができる。
【0049】
他方、空隙89が切欠き形成された凹部89の場合、凹部89の露出し始め(図10(b)の状態)から一定の割合で露出面積が増加するので、凹部89を通り抜ける空気も一定の割合で増加する。ベーンポンプ10の吸引力も一定の割合で低下する(図10(c)の状態。)。したがって、図11において圧力計15により計測される圧力は、曲線Qとなる。
ベーンポンプ10の吸引力が徐々に低下する。凹部89を有するベーン87の場合も同様に、吸引力の低下に伴い上昇する圧力を圧力計15で計測し、ベーン寿命時期閾値になったところで、ベーン87の目標寿命とみなしてドライバーに交換時期であることを知らせることができる。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(a)に示されるように、ベーン87の空隙88は、断面が矩形状の貫通孔88である。貫通孔88は、図横方向がm、縦方向がm、ベーン87の先端部101から貫通孔88の端部までの距離がLである。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、貫通孔88は一定の割合で露出する。貫通孔88は、ベーン87の縁にないので、ベーン87は滑らかにスリット(図4、符号84)内を摺動する。
【実施例4】
【0051】
次に、本発明の実施例4を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(b)に示されるように、ベーン87の凹部89、89は、ベーン87の幅方向の端部109、109に設けられている。2つの凹部89、89はそれぞれ、図横方向の長さがm、ベーン87の先端部101から凹部89、89の端部までの距離がLである。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、凹部89、89は一定の割合で露出する。ベーン87の端部109、109を加工するので、凹部89、89を形成する加工が容易である。
【実施例5】
【0052】
次に、本発明の実施例5を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(c)に示されるように、ベーン87の凹部89、89は、ベーン87の幅方向の端部109、109の任意の位置に設けられている。2つの凹部89、89はそれぞれ、図横方向の長さがm、ベーン87の先端部101から凹部89、89の端部までの距離がLであり、端部108まで凹部89、89は延ばされていない。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、凹部89、89は一定の割合で露出する。ベーン87の端部109、109を加工するので、凹部89、89を形成する加工が容易である。
【0053】
以上のように作用するベーンポンプによれば、次に述べる効果が得られる。
上記の図4に示されるように、ロータ86と、このロータ86に放射状に設けられているスリット84と、このスリット84に摺動可能取付けられるベーン87とを備えたベーンポンプ10において、図6に示すベーン87は、このベーン87の摩耗寿命までは摺動中であってもスリット84に収納され、摩耗寿命を超えるとスリット84から外方へ露出する空隙88を備えている。
【0054】
この構成により、目標とする摩耗寿命を超えるとベーン87に設けた空隙が、ロータ86のスリット84から外方に徐々に露出するので、ロータ室81内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプ10の吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプ10のベーン87の目標寿命を容易に把握することができる。
【0055】
上記の図5に示されるように、空隙88は、ベーン87を貫通する貫通孔88である。
この構成により、ベーン87に貫通孔88を開けることは容易であり、容易な形状によって空隙88を形成することができ、ベーン87のコストを抑えることができる。
【0056】
上記の図9に示されるように、空隙88は、ベーン87の縁に切欠き形成された凹部89である。
この構成により、ベーン87の縁に切欠きにより凹部89を形成することは容易であり、容易な形状によって空隙88を形成することができ、ベーン87のコストを抑えることができる。
さらに、例えば、ベーン87の背面側にベーン87を外方に付勢するスプリングを設ける場合に、凹部89でスプリングの位置決めを兼ねることができる。
【0057】
尚、実施の形態ではベーンは、円形状の貫通孔、矩形状の貫通孔又は切欠き形成された凹部としたが、これに限定されず、任意の形状の貫通孔等でも差し支えない。また、貫通孔の個数や配置場所も任意であって差し支えない。
さらには、本発明のベーンポンプは、車両に備えられる負圧ブースタの負圧室内を、負圧にするための車両用のベーンポンプに好適であるが、用途を格別に限定するものではなく、一般機械用、汎用機械用、一般設備用に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のベーンポンプは、車両に備えられる負圧ブースタの負圧室内を、負圧にするための車両用のベーンポンプに好適である。
【符号の説明】
【0059】
10…ベーンポンプ、80…ポンプ部、81…ロータ室、83…ケース、84…スリット、86…ロータ、87…ベーン、88…空隙(貫通孔)、89…空隙(凹部)、101…ベーンの先端部、102…ロータ室の内面、103…長径、105…ロータの外面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプ、例えば車両用負圧ブースタの負圧を生成するために用いられるベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプとして、自動車用電気エアポンプが提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
この特許文献1の技術を図面に基づいて以下に説明する。
図13に示されるベーンポンプ(100)(括弧付き数字は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ。)は、ハウジング(101)のシリンダ(102)の内周面にロータ(103)の外周面を接触させ、ハウジング(101)の溝(104)に弾性部材(105)を介在させてベーン(106)が配置される。
【0004】
弾性部材(105)は、ベーン(106)をロータ(103)の外周面に押し付けるように付勢する。ロータ(103)の回転軸は偏心しており、ロータ(103)の外周面がシリンダ(102)の内周面に接触した状態でロータ(103)が回転し、ロータの偏心回転に合わせてベーン(106)は上下運動する。
【0005】
ベーン(106)の先端部は、ロータ(103)の外周面を摺動することで、徐々に摩耗し、ベーン(106)の摩耗寿命に達する。しかし、外観からはベーン(106)の状態が分かりにくく、ベーン(106)の寿命が把握しづらい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−159259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ベーンの目標寿命を容易に把握することができるベーンポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、ロータと、このロータに放射状に設けられているスリットと、このスリットに摺動可能取付けられるベーンとを備えたベーンポンプにおいて、前記ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは前記摺動中であっても前記スリットに収納され、前記摩耗寿命を超えると前記スリットから外方へ露出する空隙を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、請求項1記載のベーンポンプにおいて、空隙は、ベーンを貫通する貫通孔であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、請求項1記載のベーンポンプにおいて、空隙は、ベーンの縁に切欠き形成された凹部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは摺動中であってもスリットに収納され、摩耗寿命を超えるとスリットから外方へ露出する空隙を備えている。
目標とする摩耗寿命を超えるとベーンに設けた空隙が、ロータのスリットから外方に徐々に露出するので、ロータ室内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプの吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプのベーンの目標寿命を容易に把握することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、空隙は、ベーンを貫通する貫通孔である。
ベーンに貫通孔を開けることは容易であり、容易な形状によって空隙を形成することができ、ベーンのコストを抑えることができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、空隙は、ベーンの縁に切欠き形成された凹部である。
ベーンの縁に切欠きにより凹部を形成することは容易であり、容易な形状によって空隙を形成することができ、ベーンのコストを抑えることができる。
さらに、例えば、ベーンの背面側にベーンを外方に付勢するスプリングを設ける場合に、凹部でスプリングの位置決めを兼ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係るベーンポンプの配置例を示す図である。
【図2】ベーンポンプの分解斜視図である。
【図3】ポンプ部の分解斜視図である。
【図4】ポンプ部の平面図である。
【図5】実施例1のベーンの斜視図である。
【図6】摩耗寿命前のベーンの作用図である。
【図7】実施例1のベーンの摩耗状態の説明図である。
【図8】摩耗寿命を超えたベーンの作用図である。
【図9】実施例2のベーンの斜視図である。
【図10】実施例2のベーンの摩耗状態の説明図である。
【図11】ベーンポンプの耐久時間と圧力変化の相関図である。
【図12】実施例3〜5のベーンの平面図である。
【図13】従来のベーンポンプの原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0016】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、本発明のベーンポンプ10は、車両に備えられる負圧ブースタ11の負圧室12内を、負圧にする真空ポンプの一種である。
ベーンポンプ10を作動させると、負圧管13、負圧室12内及び変圧室14内が負圧になっている。負圧管13に圧力を計測する圧力計15が接続される。この状態でブレーキペダル16を踏むと負圧室12と変圧室14とが遮断され、変圧室14に空気が導入され、負圧室12と変圧室14との差圧により、ダイヤフラム17がリターンばね18を圧縮させる側へ変形し、プッシュロッド19を押し出す。結果、小さな踏力で大きな制動力が得られる。ベーンポンプ10は、車両の側のブラケット21にボルト22で固定される。
【0017】
ベーンポンプ10の構造を以下に詳しく述べる。
図2に示されるように、ベーンポンプ10は、吸入ポート24を上部に有するボディ部40と、このボディ部40の一方の側面に複数(この例では2本)のビス26で取付けられ、モータ軸27がインボリュートスプライン軸であるモータ28と、ボディ部40の他方の側面に設けられている複数(この例では4個)の雌ねじ穴31に長いボルト32をねじ込むことで取付けられるポンプ部80と、吸入ポート24にフィルタ部材33を介して接続される接続管60と、ポンプ部80を覆うと共に、ボディ部40の他方の面に設けられている複数(この例では4個)の雌ねじ穴34にビス36をねじ込むことで取付けられるカバー体70とからなる。
【0018】
モータ28の側部に、モータ28へ給電する中間コネクタ37が設けられる。
ボディ部40は、モータ28をマウントするため及び車両に接続するための基盤であるため、厚くて剛性に富む、例えば鋳物などの金属製とすることが望まれる。ボディ部40の底面に、車両側のブラケット(図1、符号21)にブッシュを介して取付けられる一対の固定部41が下方に突出して設けられる。ボディ部40の中心部にモータ軸27が挿入される軸穴42が設けられる。
【0019】
ボディ部40のうちポンプ部80が取付けられる側面を、ポンプ取付け側面43と呼ぶことにする。このポンプ取付け側面43に、ポンプ取付け側面43の外周に沿ってOリングなどのシール材44が設けられる。
【0020】
また、ポンプ取付け側面43に、軸穴42の上方から下方にかけて、軸穴42を中心とする半円形の吸気溝46が設けられており、この吸気溝46を囲うようにOリングなどのシール材47がポンプ取付け側面43に設けられる。
【0021】
さらに、ポンプ取付け側面43に複数(実施例では4室)のチャンバー51〜54が設けられる。複数のチャンバー51〜54は、ボディ部40の上下方向中央に配置され、ボディ部40の外周に沿って形成される第1チャンバー51と、この第1チャンバー51と軸穴42との間に配置され、第1チャンバー51に第1連通溝55を介して連通する第2チャンバー52と、軸穴42の下方に配置され、第2チャンバー52に第2連通溝56を介して連通する第3チャンバー53と、この第3チャンバー53の直下にてボディ部40の外周に沿って形成され、チャンバー51〜53とは独立した第4チャンバー54とからなる。
【0022】
第3チャンバー53に排出通路57が設けられ、排出通路57はボディ部40の下部に設けられた排気口58に連通する。第4チャンバー54に排出通路59が設けられ、排出通路59は排気口58に連通する。
【0023】
接続管60は、ボディ部40の上面に設けられている複数(この例では2個)の雌ねじ穴61にビス62をねじ込むことで締結される締結部63と、この締結部63から上方に突出する基部65と、この基部65からモータ軸27の軸方向67に延びるホース差込部66とを主要素とし、Oリングなどのシール材68を介して吸入ポート24に接続される。
【0024】
カバー体70は、有底円筒であり、ポンプ取付け側面43に対向する底部71と、この底部71からポンプ取付け側面43に向けて延びる筒部72と、この筒部72の端部に鍔状に形成されるフランジ部73とからなる。
【0025】
図3はポンプ部80の分解斜視図であり、ポンプ部80は、非円断面のロータ室81及び複数(この例では4個)のボルト穴82が設けられるケース83と、複数のスリット84が放射状に設けられ、中心にインボリュートスプライン穴85が設けられ、非円断面のロータ室81に回転自在に収納されるロータ86と、複数のスリット84に各々移動自在に収納されるベーン87と、このベーン87に設けられた貫通孔88(本発明の空隙)と、複数(この例では4個)のボルト穴91及び上下2個の吸気孔92、93を有する吸気プレート94と、複数(この例では4個)のボルト穴95及び上下2個の排気孔96、97を有する排気プレート98と、ボルト穴95、82、91に通される複数(この例では4本)のボルト32とからなる。
【0026】
次にカバー体70の底部71側から見た平面図に基づいてロータ86及びベーン87について説明する。
図4に示されるように、ロータ室81は非円断面形状を呈し、ロータ86が回転自在に収納される。ロータ86は放射状に設けられた複数のスリット84を有し、これらのスリット84に摺動可能にベーン87が取付けられる。
【0027】
ロータ86回転時、ベーン87の先端部101は、ロータ室81の内面102を摺動する。ロータ室81の長径103部分で、ベーン87はスリット84から最も外方に突出する。ロータ室81の短径104部分で、ベーン87はスリット84内に最も埋没する。
なお、ベーン87は新品の状態であり、ロータ室81の長径103部分でベーン87が最も外方に突出した状態であっても、貫通孔88はスリット84内に収納される。
【0028】
次にベーン87単体について説明する。
図5に示されるように、ベーン87は、板状を呈する部材であり、新品の状態において、幅はw、高さはh、厚さはtである。貫通孔88は、断面が円の貫通孔88であり、貫通孔88の内径はdである。ベーン87の先端部101から貫通孔88の先端部101側の周縁までの距離はLである。貫通孔88は、ベーン87の幅方向の略中央に配置されている。
先端部101は、略円弧状を呈しており、ロータ室81の内面102を滑らかに摺動することができる。
【0029】
以上に述べたベーンポンプ10の作用を次に述べる。先ず、ベーンポンプ10全体における空気の流れを簡単に説明する。
図2に戻って、モータ28が作動すると、ポンプ部80の吸引作用により、外気が接続管60内に吸入される。この吸気は、フィルタ部材33を通過して吸入ポート24に吸入される。
【0030】
吸入ポート24に入った吸気は、吸気孔(図3、符号92)からポンプ部80に入り、加圧されて排気孔96から排出される、又は、吸気溝46を通って吸気孔93からポンプ部80に入り、加圧されて排気孔97から排出される。上下の排気孔96、97から排出された排気は、カバー体70内に流入する。
【0031】
カバー体70内において、排気は2つの排気経路のうち、いずれかの経路で排気口58へ導かれる。一方の経路では、排気はポンプ部80の側部とカバー体70との間の隙間を流れた後、第1チャンバー51に流入する。第1チャンバー51に流入した排気は第1連通溝55を介して第2チャンバー52に移る。第2チャンバー52に流入した排気は第2連通溝56を介して第3チャンバー53に移る。第3チャンバー53に流入した排気は排出通路57を介して排気口58から外部へ排出される。
【0032】
他方の経路では、排気はポンプ部80の側部とカバー体70との間の隙間を流れた後、第4チャンバー54に流入し、排気は排出通路59を介して排気口58から外部へ排出される。
【0033】
次にポンプ部80の作用について説明する。
図6は図4と同様、ベーン87およびロータ86をカバー体70の底部71側から見たものであるが、図6に示されるように、ケース83内でロータ86が、矢印(1)のように回転する。遠心力が作用することでスリット84に収納されていたベーン84は、ロータ86から矢印(2)のように突出すると共に、ベーン84の先端部101が内面102を摺動する。
【0034】
ベーン84がロータ室81の長径103の部分に差し掛かると、ベーン84は矢印(3)のようにスリット84に収納される方向に移動する。隣り合うベーン84、84、ロータ室81の内面102及びロータ86の外面に囲まれる空間は、ロータ86の回転に伴い体積が大きくなることで空気が減圧され、ポンプ部80の外部から空気が吸引される。
【0035】
また、ベーン87が目標とする摩耗寿命に達する前の状態であり、ベーン87がスリット84から最も突出するロータ室81の長径103部分に差し掛かっても、ベーン87の貫通孔88は、スリット84内に収まる。
【0036】
次にロータ室81の長径103部における、ベーン87の摩耗による状態変化について説明する。
図7(a)はベーン87が新品の場合を示す図である。貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL1であり、ロータ86の外面105からロータ室81の内面102までの長さはSである。貫通孔88はスリット84内に収まる。
ベーン87が新品の場合は、ベーン87の先端部101が摩耗しておらず、S<L1となる。
【0037】
図7(b)はベーン87を一定時間使用し、目標とする摩耗寿命に近づいた場合を示す図である。ベーンポンプを使用すると、ベーン87の先端部101がロータ室81の内面102を摺動することで、先端部101が摩耗する。貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL2となる。貫通孔88はスリット84内に収まるが、貫通孔88の先端部101側がロータ86の外面105に差し掛かっている。
ベーン87を一定時間使用した場合は、ベーン87の先端部101がある程度摩耗し、S=L2となる。
【0038】
図7(c)はベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合を示す図である。ベーンポンプを長時間使用することで、ベーン87の先端部101が摩耗し、貫通孔88の端部から先端部101までの長さはL3となる。貫通孔88はスリット84から外方へ露出する。
ベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合、ベーン87の先端部101が摩耗し、L3<Sとなる。
【0039】
次にベーン87の摩耗寿命を超えた状態でのベーンポンプの作用を説明する。
図8は図4や図6と同様、ベーン87およびロータ86をカバー体70の底部71側から見たものであるが、図8に示されるように、ケース83内でロータ86が、矢印(4)のように回転する。遠心力が作用することでスリット84に収納されていたベーン84は、ロータ86突出すると共に、ベーン84の先端部101が内面102を摺動する。
【0040】
貫通孔88はスリット84から外方へ露出する。空気が圧縮される圧縮側の空間107から、空気が矢印(5)のように貫通孔88を通り空間106に入る。空間106が十分に減圧されないので、ベーンポンプ10全体の空気を吸引する能力も低下する。
【0041】
図1に戻って、圧力計15により圧力を計測し、上記のようにベーンポンプ10の空気を吸引する能力の低下に伴う、圧力の上昇を検出することで、ベーン87が目標寿命を超えたことを知ることができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。なお、図5に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図9に示されるように、ベーン87は、板状を呈する部材であり、新品の状態において、幅はw、高さはh、厚さはtである。本実施例における本発明の空隙は、ベーン87の縁111に切欠き形成された凹部89であり、凹部89の幅はmである。ベーン87の先端部101から凹部89の端までの距離はLである。凹部89は、ベーン87の幅方向の略中央に配置されている。
【0043】
次にロータ室81の長径103部における、別態様のベーン87の摩耗による状態変化について説明する。
図10(a)はベーン87が新品の場合を示す図である。凹部89の端部から先端部101までの長さはL1であり、ロータ86の外面105からロータ室81の内面102までの長さはSである。凹部89はスリット84内に収まる。
ベーン87が新品の場合は、ベーン87の先端部101が摩耗しておらず、S<L1となる。
【0044】
図10(b)はベーン87を一定時間使用し、目標とする摩耗寿命に近づいた場合を示す図である。ベーンポンプを使用すると、ベーン87の先端部101がロータ室81の内面102を摺動することで、先端部101が摩耗する。凹部89の端部から先端部101までの長さはL2となる。凹部89はスリット84内に収まるが、凹部89の端部がロータ86の外面105に差し掛かっている。
ベーン87を一定時間使用した場合は、ベーン87の先端部101がある程度摩耗し、S=L2となる。
【0045】
図10(c)はベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合を示す図である。ベーンポンプを長時間使用することで、ベーン87の先端部101が摩耗し、凹部89の端部から先端部101までの長さはL3となる。凹部89はスリット84から外方へ露出する。
ベーン87を目標とする摩耗寿命を超えて使用した場合、ベーン87の先端部101が摩耗し、L3<Sとなる。
【0046】
凹部89を備えたベーン87においても、図8の説明と同様に作用する。
【0047】
次に図7と図10に示したベーン87を使用した場合の、ベーンポンプ10の使用時間と吸引側の圧力との相関を説明する。
図11に示されるように、図1に示すベーンポンプ10を使用しベーン87が摩耗するにつれて、圧力計15で計測される圧力の値が変化する。
ベーン87の目標とする摩耗寿命までは、ベーンポンプ10の空気を吸引する能力は一定であり、圧力計15の値は一定値Pを示す。(図7(a)、図10(a)の状態。)
【0048】
空隙88が貫通孔88の場合、べーン87の先端部101の摩耗に伴い貫通孔88がスリット84から外方露出するが、露出し始めは(図7(b)の状態。)、露出面積が微小であるので、貫通孔88を通り抜ける空気も少なく、ベーンポンプ10吸引力の低下も小さい。ベーン87の先端部101の摩耗が進むにつれて、貫通孔88の露出が急激に大きくなり、貫通孔88を通り抜ける空気も急激に多くなり、ベーンポンプ10の吸引力の低下も大きくなる(図7(c)の状態。)。したがって、図11において圧力計15により計測される圧力は、曲線Rとなる。
ベーンポンプ10の吸引力が徐々に低下する。吸引力の低下に伴い上昇する圧力を圧力計15で計測し、ベーン寿命時期閾値になったところで、ベーン87の目標寿命とみなしてドライバーに交換時期であることを知らせることができる。
【0049】
他方、空隙89が切欠き形成された凹部89の場合、凹部89の露出し始め(図10(b)の状態)から一定の割合で露出面積が増加するので、凹部89を通り抜ける空気も一定の割合で増加する。ベーンポンプ10の吸引力も一定の割合で低下する(図10(c)の状態。)。したがって、図11において圧力計15により計測される圧力は、曲線Qとなる。
ベーンポンプ10の吸引力が徐々に低下する。凹部89を有するベーン87の場合も同様に、吸引力の低下に伴い上昇する圧力を圧力計15で計測し、ベーン寿命時期閾値になったところで、ベーン87の目標寿命とみなしてドライバーに交換時期であることを知らせることができる。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(a)に示されるように、ベーン87の空隙88は、断面が矩形状の貫通孔88である。貫通孔88は、図横方向がm、縦方向がm、ベーン87の先端部101から貫通孔88の端部までの距離がLである。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、貫通孔88は一定の割合で露出する。貫通孔88は、ベーン87の縁にないので、ベーン87は滑らかにスリット(図4、符号84)内を摺動する。
【実施例4】
【0051】
次に、本発明の実施例4を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(b)に示されるように、ベーン87の凹部89、89は、ベーン87の幅方向の端部109、109に設けられている。2つの凹部89、89はそれぞれ、図横方向の長さがm、ベーン87の先端部101から凹部89、89の端部までの距離がLである。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、凹部89、89は一定の割合で露出する。ベーン87の端部109、109を加工するので、凹部89、89を形成する加工が容易である。
【実施例5】
【0052】
次に、本発明の実施例5を図面に基づいて説明する。なお、図9に示した構成と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図12(c)に示されるように、ベーン87の凹部89、89は、ベーン87の幅方向の端部109、109の任意の位置に設けられている。2つの凹部89、89はそれぞれ、図横方向の長さがm、ベーン87の先端部101から凹部89、89の端部までの距離がLであり、端部108まで凹部89、89は延ばされていない。ベーン87の先端部101の摩耗に伴い、凹部89、89は一定の割合で露出する。ベーン87の端部109、109を加工するので、凹部89、89を形成する加工が容易である。
【0053】
以上のように作用するベーンポンプによれば、次に述べる効果が得られる。
上記の図4に示されるように、ロータ86と、このロータ86に放射状に設けられているスリット84と、このスリット84に摺動可能取付けられるベーン87とを備えたベーンポンプ10において、図6に示すベーン87は、このベーン87の摩耗寿命までは摺動中であってもスリット84に収納され、摩耗寿命を超えるとスリット84から外方へ露出する空隙88を備えている。
【0054】
この構成により、目標とする摩耗寿命を超えるとベーン87に設けた空隙が、ロータ86のスリット84から外方に徐々に露出するので、ロータ室81内の圧縮された空気が空隙から逃げ、ベーンポンプ10の吸引側で所望の負圧を得ることができなくなり、圧力の値を計測することでベーンポンプ10のベーン87の目標寿命を容易に把握することができる。
【0055】
上記の図5に示されるように、空隙88は、ベーン87を貫通する貫通孔88である。
この構成により、ベーン87に貫通孔88を開けることは容易であり、容易な形状によって空隙88を形成することができ、ベーン87のコストを抑えることができる。
【0056】
上記の図9に示されるように、空隙88は、ベーン87の縁に切欠き形成された凹部89である。
この構成により、ベーン87の縁に切欠きにより凹部89を形成することは容易であり、容易な形状によって空隙88を形成することができ、ベーン87のコストを抑えることができる。
さらに、例えば、ベーン87の背面側にベーン87を外方に付勢するスプリングを設ける場合に、凹部89でスプリングの位置決めを兼ねることができる。
【0057】
尚、実施の形態ではベーンは、円形状の貫通孔、矩形状の貫通孔又は切欠き形成された凹部としたが、これに限定されず、任意の形状の貫通孔等でも差し支えない。また、貫通孔の個数や配置場所も任意であって差し支えない。
さらには、本発明のベーンポンプは、車両に備えられる負圧ブースタの負圧室内を、負圧にするための車両用のベーンポンプに好適であるが、用途を格別に限定するものではなく、一般機械用、汎用機械用、一般設備用に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のベーンポンプは、車両に備えられる負圧ブースタの負圧室内を、負圧にするための車両用のベーンポンプに好適である。
【符号の説明】
【0059】
10…ベーンポンプ、80…ポンプ部、81…ロータ室、83…ケース、84…スリット、86…ロータ、87…ベーン、88…空隙(貫通孔)、89…空隙(凹部)、101…ベーンの先端部、102…ロータ室の内面、103…長径、105…ロータの外面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、このロータに放射状に設けられているスリットと、このスリットに摺動可能取付けられるベーンとを備えたベーンポンプにおいて、
前記ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは前記摺動中であっても前記スリットに収納され、前記摩耗寿命を超えると前記スリットから外方へ露出する空隙を備えていることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のベーンポンプにおいて、
前記空隙は、前記ベーンを貫通する貫通孔であることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項1記載のベーンポンプにおいて、
前記空隙は、前記ベーンの縁に切欠き形成された凹部であることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項1】
ロータと、このロータに放射状に設けられているスリットと、このスリットに摺動可能取付けられるベーンとを備えたベーンポンプにおいて、
前記ベーンは、このベーンの摩耗寿命までは前記摺動中であっても前記スリットに収納され、前記摩耗寿命を超えると前記スリットから外方へ露出する空隙を備えていることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のベーンポンプにおいて、
前記空隙は、前記ベーンを貫通する貫通孔であることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項1記載のベーンポンプにおいて、
前記空隙は、前記ベーンの縁に切欠き形成された凹部であることを特徴とするベーンポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−215119(P2012−215119A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80706(P2011−80706)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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