説明

ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIVの利用方法

本発明は、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIVを利用した、慢性関節リウマチ治療薬の効果を評価する方法、および慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法に関する。すなわち、本発明は、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子若しくはそのオーソログ遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法を提供する。また、本発明は、検体中の配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質、またはその遺伝子(配列番号20)の発現量に基づいて、該検体を提供した被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIVを利用した、慢性関節リウマチ治療薬の効果を評価する方法、および慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法に関する。
【背景技術】
慢性関節リウマチ(RA)は関節の滑膜組織を病変の主座とする慢性炎症性疾患であり、有病率が人口の約1%を占める疾患である。RAは、初期には滑膜炎を来し、次第に軟骨や骨が侵され、進行すると関節が破壊され変形する。症状の経過は、関節炎の寛解・再燃を繰り返し、完治する例や急速に進行する例など多彩であるが、早期発見と早期治療がRA患者の生活の質を改良する上からも重要である。
RAは病態的には関節に達した未知の抗原に対する特異的な免疫応答に始まり、関節に浸潤した血中リンパ球、マクロファージ、好中球による慢性炎症と滑膜増殖を生じ、その結果、炎症性肉芽組織由来の破骨細胞やプロテアーゼによる骨・軟骨破壊が起きる。RAの病因は不明であるが、遺伝的要因と微生物感染などの環境要因の両者が関与していると考えられている。
RAの診断は主に症状によってなされるが、早期診断にはRA患者の血中に見出される自己抗体の検出が今のところ有用である。そのような自己抗体としては、例えば、リウマトイド因子、抗Sa蛋白抗体、抗perinuclear factor抗体、抗ケラチン抗体、抗フィラグリン抗体、抗シトルリン化ペプチド抗体などが知られている(Martinus A.M.van Boekel et al.,Arthritis Research(2002)4(2),p87−93)。
抗シトルリン化ペプチド抗体はRA患者血清の約76%から検出されるが、リウマチ様症状を呈するがRAとは判定されない患者血清からは約4%しか検出されない、RAに極めて特異性の高い自己抗体である(Gerard A.Schellekens et al.,The Journal of Clinical Investigation(1998)101(1),273−281;ZhiJie Zhou and Henri−Andre Menard,Current Opinion in Rheumatology(2002)14(3),p250−253)。また、RA患者の滑膜にはシトルリン化されたタンパクが検出されることから、シトルリンを含むエピトープのRAの病原性への関与が指摘されている(Walter J van Venrooij and Ger J.M.Pruijn,Arthritis Research(2000)2(4),p249−251;Christine Masson−Bessi□ et al.,Journal of Immunology(2001)166(6),p4177−4184)。
ペプチジルシトルリンはタンパク内のアルギニン残基がペプチジルアルギニン・デイミナーゼ(以下、「PADI」という。)で変換されて生ずるアミノ酸である。げっ歯類においては、現在まで4つのサブタイプのPADIが知られており、タイプIは表皮や子宮で、タイプIIは筋肉、子宮、唾液腺、膵臓など様々な組織で、タイプIIIは表皮や毛根嚢胞で、タイプIVは様々な組織で発現している(Ahmed Abu Rus’d et al.,European Journal of Biochemistry(1999)259(3),p660−669)。ヒトにおいては、げっ歯類のタイプI、II、III、IVに最も相同性が高い遺伝子としてそれぞれタイプI、II、III、Vの遺伝子が遺伝子情報データベースGenBank上に登録されていたが、タイプIII(Takuya Kanno et al.,Journal of Investigative Dermatology(2000)115(5),p813−823)およびタイプV(Katsuhiko Nakashima et al.,Journal of Biological Chemistry(1999)274(39),p27786−27792)以外については詳細な報告はなされていない。ヒトのPADIのタイプIIIはげっ歯類と同じく毛根嚢胞部分で(Takuya Kanno et al.,Journal of Investigative Dermatology(2000)115(5),p813−823)、タイプVは好中球や好酸球で(Hiroaki Asaga et al.,Journal of Leukocyte Biology(2001)70(1),p46−51)それぞれ発現していることが報告されているが、PADIとRAの直接の関連は不明である。
なお、本願基礎出願時においてタイプVと言われていた遺伝子は、その後マウスタイプIVのオーソログであることが確認されたため、本明細書中においては、ヒトPADIのタイプVをタイプIVと呼ぶこととする。
個人の体質を規定する大きな要因として遺伝子多型がある。最近のファーマコジェノミクス研究の進展により、遺伝子多型と薬物の効果、あるいは副作用との関係が解明され、当該薬物の効果、あるいは副作用を遺伝子診断を用いて投与前に予測することが可能になりつつある。また、遺伝子多型と疾患との関係を調べることにより、一部の疾患の事前診断や予後の判定も可能になりつつある。
前者の例としては、薬物代謝酵素の遺伝子多型が挙げられる。例えば、多型に関連して活性が増加、あるいは、減少する薬物代謝酵素として、シトクロムP4501A2、シトクロムP4502A6、シトクロムP4502C9、シトクロムP4502C19,シトクロムP4502D6、シトクロムP4502E1などが知られている。また、チオプリンメチルトランスフェラーゼ、N−アセチルトランスフェラーゼ、UDP−グルクウロノシルトランスフェラーゼ、および、グルタチオンS−トランスフェラーゼなどの抱合酵素と呼ばれる一群の酵素群にも遺伝子多型が存在し、多型により活性が減少することが報告されている(中村祐輔編,「SNP遺伝子多型の戦略」,(2000),中山書店,東京)。
後者の例としては、多型解析研究により見出された疾患原因遺伝子が挙げられる。例えば、(1)潰瘍性大腸炎の原因遺伝子としてのHLA、(2)慢性関節リウマチの原因遺伝子としてのTCRα、(3)アルツハイマー病の原因遺伝子としてのAPOE4、(4)精神分裂症の原因遺伝子としてのドーパミンD3受容体、(5)躁鬱病の原因遺伝子としてのトリプトファン水酸化酵素、(6)アルブミン尿症の原因遺伝子としてのアンジオテンシン前駆体、(7)心筋梗塞の原因遺伝子としての血液凝固因子VII、(8)肥満の原因遺伝子としてのレプチンなどが知られている(L.Kruglyak,Nature Genetics(1999)22(2),p139−144)。
一方、TNF−αは、各種炎症性疾患の病態形成に関与する重要な物質と考えられているが、最近、TNF−α遺伝子の5’末端側上流域にTNF−α遺伝子の発現を亢進する多型が見出された(T.Higuchi et al.,Tissue Antigens(1998)51(6),p605−612)。これらの多型は、TNF−α遺伝子の発現量を亢進させるものであるため、若年性関節リウマチ、慢性関節リウマチ、糖尿病などのTNF−αが関与する疾患の診断マーカーになりうるものと考えられている。
【発明の開示】
本発明は、慢性関節リウマチ治療薬の効果あるいは慢性関節リウマチの発症危険度を評価するための新規な方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らはRA患者の病変部位特異的に、PADI4タンパクやそのmRNAが高発現すること、そしてこのPADI4の高発現がシトルリン化タンパクのレベルを亢進させ、RA発症の一因となりうることを見出した。これらの知見から、本発明者らは、PADI4タンパクまたはそのmRNAの発現量や活性に対する阻害効果を指標として、慢性関節リウマチ治療薬の評価が可能であると考えた。
すなわち、本発明は、PADI4遺伝子若しくはそのオーソログ遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法に関する。
ある実施態様において、本発明の評価方法は下記の工程を含む:
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
2)上記動物の血液または細胞中におけるPADI4遺伝子またはそのオーソログ遺伝子の発現量を検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
前記方法において、遺伝子の発現量は、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出される。
別な実施態様において、本発明の評価方法は下記の工程を含む:
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
2)上記動物の血液または細胞中において、PADI4遺伝子またはそのオーソログ遺伝子にコードされる蛋白質の発現量を、該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
前記方法において、蛋白質の発現量は、例えば、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出される。
本発明の評価方法で用いられる細胞としては、血液由来細胞、滑膜細胞、脾臓細胞、および腹腔浸潤細胞が好ましい。また、本発明の評価方法で用いられる動物としては、マウスが好ましく、この場合、検出対象は、PADI4遺伝子のマウスオーソログ:マウスPADI4遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質であることが好ましい。
さらに別な実施態様において、本発明の評価方法は下記の工程を含む:
1)アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、PADI4蛋白質を加える。
2)上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、PADI4蛋白質の活性を測定する。
3)被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
前記方法において、例えば、蛋白質の活性は、蛍光法または吸光法を用いた反応生成物の定量によって測定されることが好ましい。またPADI4蛋白質はヒト由来のPADI4蛋白質であることが好ましい。
さらに、本発明者らはPADI4遺伝子上にRA患者に高い頻度で現れるハプロタイプが存在することを見出した。そしてこのハプロタイプは、正常型PADI4蛋白質とはアミノ酸配列や酵素活性が異なる変異型PADI4蛋白質をコードし、この違いがRAの発症と深い関連を有することを見出した。これらの知見から、本発明者らは、変異型PADI4タンパク質やその遺伝子を利用すれば、RAの発症危険度の予測やRAに対する治療効果の評価が可能であると考えた。
すなわち、本発明は、検体中の配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質、またはその遺伝子(配列番号20)の発現量に基づいて、該検体を提供した被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法を提供する。
ある実施態様において、本発明の予測方法は以下の工程を含む:
1)被験者および正常人から単離された各検体より全RNAを調製する;
2)上記全RNA中における変異型PADI4遺伝子のmRNAの発現量を検出する;
3)被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する。
前記方法において、遺伝子の発現量は、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出される。
別な実施態様において、本発明の予測方法は以下の工程を含む:
1)被験者および正常人から単離された検体中における、変異型PADI4蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合しうる抗体を用いて検出する;
2)被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、該被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する。
前記方法において、蛋白質の発現量は、例えば、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出される。
また、本発明は、以下のa)〜e)からなる群より選ばれる少なくとも1以上を含む、慢性関節リウマチの発症危険度を予測するためのキットを提供する。
a)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型PADI4遺伝子を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型PADI4遺伝子に特異的にハイブリダイズし、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
さらに、本発明は、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法を提供する。
前記方法は、例えば、以下の工程を含む:
1)アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、変異型PADI4蛋白質を加える;
2)上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、変異型PADI4蛋白質の活性を測定する;
3)被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
さらにまた、本発明は、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質を提供する。該蛋白質は慢性関節リウマチの発症危険度を予測するための予測用マーカーとして有用である。
本発明によれば、慢性関節リウマチ治療薬の簡便なスクリーニングが可能となる。また、本発明にかかる変異型PADI4蛋白質および該遺伝子の発現量を指標を検出することにより、被験者が慢性関節リウマチを発症する危険度を早期に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒトPADI4の2つのハプロタイプ:V9とV18の各mRNA安定性(分解度)を比較したグラフである。
図2は、(A)蛍光法によるPADI4酵素活性測定の結果を示すグラフ、および(B)吸光法によるPADI4酵素活性測定の結果を示すグラフである。
図3は、PADI4の2つのハプロタイプ:V9およびV18の酵素活性を吸光法により比較した結果を示すグラフである。
図4は、RA患者滑膜組織におけるPADI4 mRNA発現をみたIn situ RT−PCRの結果を示す写真である。図中右の2つは陰性対照である。
図5は、マウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)群と正常(normal)群における滑膜組織および脾臓組織におけるmPADI4遺伝子発現量を示すグラフである。
図6は、(A)抗PADI4抗体を用いたRA患者滑膜での免疫組織染色像、および(B)PADI4を特異的に認識する抗体とPADIの全てのサブタイプを認識する抗体の両者を用いたOA患者滑膜での免疫組織染色像を示す写真である。
図7は、(A)抗PADI4抗体を用いたRA患者滑膜での免疫組織染色像、および(B)抗シトルリン化タンパク質抗体を用いたRA患者滑膜での免疫組織染色像を示す写真である。
図8は、ヒトPADI4 V9とPADI4 V18のmRNAの安定性を比較したグラフである。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2003−12738号および特願2003−12774号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
1. ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV
1.1 ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV(PADI4)
ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ(以下、「PADI」と記載する。)は、蛋白質内のアルギニン残基をシトルリンに変換し、ペプチジルシトルリンを生成させる酵素である。PADIには複数のサブタイプが存在し、ヒトではタイプI、II、III、Vの4つのサブタイプ遺伝子がGenBank上に登録されているが、その詳細な機能は不明である。マウスでは、タイプI、II、III、IVの4つのサブタイプが報告されており、このうちタイプIVはヒトPADI4のマウスオーソログである。
本発明者らは、RA患者の病変組織においてPADI4蛋白質やPADI4遺伝子(mRNA)が特異的に高発現し、シトルリン化ペプチドが高レベルで検出されることを確認した。シトルリン化ペプチドは自己抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体)の産生を介して、RA病変の原因となりうるものである。したがって、PADI4蛋白質またはその遺伝子の発現量や活性に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価することが可能となる。
(1)本発明のPADI4遺伝子
本発明の評価方法で用いられる遺伝子には、PADI4遺伝子のほか、そのオーソログ遺伝子も含まれる。「オーソログ遺伝子」とは、「共通の祖先の遺伝子から進化した、同じ機能を有する、異なる種の遺伝子」であって、例えば、PADI4のオーソログとしては、マウスPADI4等が挙げられる。以下、PADI4遺伝子とそのオーソログ遺伝子をまとめて、「本発明のPADI4遺伝子」という。
前記遺伝子の由来は特に限定されないが、哺乳動物由来のものが好ましく、霊長類、ゲッ歯動物由来のものがより好ましい。特に、最も好適な例として、ヒトPADI4遺伝子およびマウスPADI4遺伝子を挙げることができる。
本発明のPADI4遺伝子のうち、ヒトPADI4をコードするcDNAの配列を配列番号16に示すが、この配列に限定されず、ヒトPADI4をコードする限り、その遺伝子はヒトPADI4遺伝子に含まれるものとする。例えば、本発明者らは、ヒトPADI4には複数のハプロタイプが存在することを確認したが、これらハプロタイプもヒトPADI4遺伝子に含まれる。同様に、本発明にかかるオーソログ遺伝子のうち、マウスPADI4をコードするcDNAの配列を配列番号18に示すが、この配列に限定されず、マウスPADI4をコードする限り、その遺伝子はマウスPADI4遺伝子に含まれるものとする。
なお本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNAおよびcRNAも含むものとする。したがって、本発明の遺伝子には、これらのDNA、mRNA、cDNA、およびcRNAの全てが含まれる。また、配列表の塩基配列はすべてDNA配列として記載するが、該配列がRNAを示す場合は、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする。
(2)本発明のPADI4蛋白質
本発明の評価方法で用いられる蛋白質(PADI4蛋白質)には、PADI4遺伝子によってコードされるPADI4蛋白質のほか、前記オーソログ遺伝子によってコードされる蛋白質も含まれる。以下、これらの蛋白質をまとめて、「本発明のPADI4蛋白質」という。
前記蛋白質の由来は特に限定されないが、哺乳動物由来のものが好ましく、霊長類、ゲッ歯動物由来のものがより好ましい。特に、本発明における最も好適な例として、ヒトPADI4蛋白質およびマウスPADI4蛋白質を挙げることができる。
本発明の蛋白質のうち、ヒトPADI4のアミノ酸配列を配列番号17に示すが、この配列に限定されず、該配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された配列で示されるペプチドもヒトPADI4としての機能を有する限り、ヒトPADI4蛋白質に含まれるものとする。同様に、マウスPADI4のアミノ酸配列を配列番号18に示すが、この配列に限定されず、該配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された配列で示されるペプチドもマウスPADI4としての機能を有する限り、マウスPADI4蛋白質に含まれるものとする。
1.2 変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV
本発明者らは、ヒトPADI4遺伝子上に慢性関節リウマチ患者に高い頻度で現れる複数の遺伝子多型が存在し、これらがほぼ完全連鎖(98.9〜100%)の関係にあって、一つのハプロタイプを構成することを確認した。さらに、このハプロタイプは、正常なPADI4蛋白質とはアミノ酸配列や酵素活性が異なる変異型PADI4蛋白質をコードし、その違いがRAの発症と深い関連を有することを確認した。
すなわち、本発明にかかる「変異型PADI4蛋白質」とは、配列番号21で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質であって、正常なPADI4のアミノ酸配列(配列番号17)とは、第55番アミノ酸(SerからGlyに置換)、第82番アミノ酸(AlaからValに置換)、第112番アミノ酸(AlaからGlyに置換)が異なっている。この違いにより、変異型PADI4蛋白質は、正常なPADI4蛋白質よりも酵素活性が高く、RA病変の一因となるシトルリン化蛋白質の生成を亢進させる。
また、本発明にかかる「変異型PADI4遺伝子」とは、配列番号20で示されるcDNA配列を有し、正常なPADI4遺伝子とは、ゲノム配列上、第3イントロンの2136番目の塩基(シトシンからチミンに置換)、第2エクソンの71番目の塩基(アデニンからグアニンに置換)、第2エクソンの153番目の塩基(シトシンからチミンに置換)、第3エクソンの62番目の塩基(シトシンからグアニンに置換)、および第4エクソンの9番目の塩基(シトシンからチミンに置換:この置換はアミノ酸置換を伴わない)が異なっている。この違いにより、変異型PADI4遺伝子のmRNAは、正常なPADI4遺伝子のmRNAよりも安定性が高く、RA病変の一因となるシトルリン化蛋白質の生成を亢進させる可能性がある。
2 被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法
本発明は、本発明のPADI4遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法を提供する。
前記方法は、1つの被験物質について、その投与(添加)および非投与条件下における、阻害効果を比較評価するものであってもよいし、2つ以上の被験物質についての同様な比較評価であってもよい。あるいは、前記遺伝子や蛋白質の発現量や活性とRA治療効果との相関関係が経験的に確立されれば、その関係に基づいて、比較対照なしに絶対評価するものであってもよい。
本発明の評価方法において、本発明のPADI4遺伝子やPADI4蛋白質に対する阻害効果は、本発明のPADI4遺伝子やPADI4蛋白質の発現量を指標として評価してもよいし、本発明のPADI4遺伝子やPADI4蛋白質の活性(安定性含む)を指標として評価しても良い。また、評価系はin vivo系であってもよいし、in vitro系であってもよい。以下、本発明の評価方法の具体的な実施方法について説明する。
2.1 本発明のPADI4遺伝子の発現量を指標とした評価方法
本発明のPADI4遺伝子の発現量を指標としたin vivoにおける評価方法は、例えば下記の工程を含む。
工程1:動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する。
工程2:上記動物の血液または細胞中における本発明のPADI4遺伝子の発現量を検出する。
工程3:被験物質の投与または非投与条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
工程1:動物の飼育
本発明の評価方法で用いられる「動物」は特に限定されないが、RA病態を呈するモデル動物が好ましい。そのような動物は市販のものであっても、公知の方法にしたがって作製されたものでもよい。そのようなRA病態を呈するモデルとしては、例えば、自然発症関節炎モデルである、MRLマウス関節炎、NZB/KNマウス関節炎、SKGマウス関節炎;誘導性関節炎モデルである、ラットアジュバント関節炎、ラット・マウスコラーゲン関節炎(CIAラット・マウス)、プリスタン関節炎、SCID細胞移入関節炎、SCIDマウス組織移植関節炎;および、HTLV−1トランスジェニックマウス、IL−1レセプターアンタゴニストKOマウス等を挙げることができる(関節炎モデル 日本医学館、監修・京極方久、編集・安倍千之、澤井高志 参照)。なかでも一般的なのは、RLマウス関節炎、ラットアジュバント関節炎、ラット・マウスコラーゲン関節炎、およびプリスタン関節炎である。
前記動物は、被験物質の投与または非投与条件下で適当な期間飼育を行う。動物への被験物質の投与量は特に限定されず、被験物質の性状や動物の体重に合わせて、適宜用量を設定すればよい。また、動物への被験物質の投与方法および投与期間も特に限定されず、被験物質の性状に合わせて、適宜その投与経路と投与期間を設定すればよい。
工程2:本発明のPADI4遺伝子の検出
次に、被験物質の投与または非投与条件下で飼育された動物から血液または細胞を単離し、該血液または細胞中の本発明のPADI4遺伝子の発現量を検出する。
検出対象とする細胞としては、本発明のPADI4遺伝子が高発現している細胞が好ましく、したがって、好中球や好酸球等の血液由来細胞、滑膜細胞、脾臓細胞、および腹腔浸潤細胞が好ましい。本発明のPADI4遺伝子の検出方法としては、例えば、単離された血液または細胞からまず全RNAを抽出し、該全RNA中におけるmRNAの発現量を検出する方法を挙げることができる。
(1)全RNAの抽出
全RNAの抽出は、公知の方法にしたがい、単離された血液または細胞よりRNA抽出用溶媒を用いて抽出する。該抽出溶媒としては、例えば、フェノール等のリボヌクレアーゼを不活性化する作用を有する成分を含むもの(例えば、TRIzol試薬:ギブコ・ビーアールエル社製等)が好ましい。RNAの抽出方法は特に限定されず、例えば、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski,P.and Sacchi,N.,(1987)Anal.Biochem.,162,156−159)等を採用することができる。なかでも、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法が好適である。
抽出された全RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いてもよい。精製方法は特に限定されないが、真核細胞の細胞質に存在するmRNAの多くは、その3’末端にポリ(A)配列を持つため、この特徴を利用して、例えば、以下のように実施することができる。まず、抽出した全RNAにビオチン化オリゴ(dT)プローブを加えてポリ(A)RNAを吸着させる。次に、ストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子担体を加え、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用して、ポリ(A)RNAを捕捉させる。洗浄操作の後、最後にオリゴ(dT)プローブからポリ(A)RNAを溶出する。この方法のほか、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いてポリ(A)RNAを吸着させ、これを溶出して精製する方法も採用してもよい。溶出されたポリ(A)RNAは、さらに、ショ糖密度勾配遠心法等により分画してもよい。
(2)本発明のPADI4遺伝子の検出
次に、被験物質の投与または非投与条件下における、全RNA中の本発明のPADI4遺伝子の発現量を検出する。遺伝子の発現量は、得られた全RNAよりcRNAまたはcDNAを調製し、これを適当な標識化合物でラベルすることにより、そのシグナル強度として検出することができる。以下、遺伝子の発現量の検出方法について、i)固相化試料を用いた解析方法、ii)RT−PCR法(リアルタイムPCR法)、iii)その他の解析方法に分けて、具体的に説明する。
i)固相化試料を用いた解析方法
公知の遺伝子を固定した固相化試料に、投与または非投与条件下における標識したcDNAまたはcRNA(以下、「標識プローブ」と記載する。)を、同じ条件で別個に、あるいは混合して同時にハイブリダイズさせる(Brown,P.O.et al.(1999)Nature genet.21,suppliment、33−37)。前記標識プローブは、本発明のPADI4のmRNAクローンでも、発現している全てのmRNAを標識したものでもよい。プローブ作製のための出発材料としては、精製していないmRNAを用いてもよいが、前述の方法で精製したポリ(A)RNAを用いることがより好ましい。以下、各種固相化試料を用いた解析方法について説明する。
a)遺伝子チップ:
本発明で用いられる遺伝子チップは、検出対象である遺伝子が固相化されているものであれば、市販のものであっても、公知の方法(Lipshutz,R.J.et al.(1999)Nature genet.21,suppliment、20−24)に基づき作製されたものであってもよい。遺伝子チップによる検出は、常法にしたがって実施することができる。例えば、アフィメトリクス社製チップを用いる場合であれば、製品に添付されたプロトコールにしたがい、ビオチン標識したcRNAプローブを調製する。次いで、該プロトコールにしたがいハイブリダイゼーションを行い、アビジンによる発光を検出、解析すれば遺伝子の発現量を求めることができる。
b)アレイまたはメンブレンフィルター:
本発明で用いられるアレイまたはメンブレンフィルターは、検出対象である遺伝子が固相化されているものであれば、市販のもの(例えば、インテリジーン(宝酒造社製)、フィルター製マイクロアレイ アトラスシステム(クローンテック社製等))であっても、公知の方法に基づいて作製されたものであってもよい。固相化される遺伝子は、GenBank等の配列情報をもとに作製されたプライマーで逆転写酵素反応やPCRを実施することによりクローン化されたcDNAまたはRT−PCR産物を用いる。
アレイを用いた検出では、逆転写酵素反応でポリ(A)RNAからcDNAを作製する際に、蛍光色素(例えば、Cy3、Cy5等)で標識されたd−UTP等を加えることにより標識プローブを調製する。被験物質の投与条件下におけるポリ(A)RNAと被験物質の非投与条件下におけるポリ(A)RNAはそれぞれ異なる色素で標識し、両者を混合してハイブリダイズさせ、蛍光シグナル検出器を用いて検出する。得られる蛍光シグナルは投与および非投与条件下における遺伝子発現量の相対比を示す(Brown,P.O.et al.(1999)Nature genet.21,suppliment、33−37)。
メンブレンフィルターを用いた検出では、逆転写酵素反応でポリ(A)RNAからcDNAを作製する際に、放射性同位元素(例えば、32P、33P)で標識されたd−CTP等を加えることにより標識プローブを調製し、常法によりハイブリダイゼーションを行う。市販のフィルター製マイクロアレイである、アトラスシステム(クローンテック社製)を用いてハイブリダイゼーションおよび洗浄を行った後、解析装置(例えば、アトラスイメージ:クローンテック社製等)を用いて検出、解析を行う。
ii)RT−PCR法(リアルタイムPCR法)
RT−PCR法やその1つであるリアルタイムPCR(TaqMan PCR)法は微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で本発明の評価方法に好適である。リアルタイムPCR(TaqMan PCR)法では、5’端を蛍光色素(レポーター)で、3’端を蛍光色素(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが使用される。該プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を正確に定量することができる。
iii)その他の解析方法
上記以外に、遺伝子発現量を解析する方法としては、例えば、サブトラクション法(Sive,H.L.and John,T.St.(1988)Nucleic Acids Research 16,10937、Wang,Z.,and Brown,D.D.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88,11505−11509)、ディファレンシャル・ディスプレイ法(Liang,P.,and Pardee,A.B.(1992)Science 257,967−971、Liang,P.,Averboukh,L.,Keyomarsi,K.,Sager,R.,and Pardee,A.B.(1992)Cancer Research 52,6966−6968)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法(John,T.St.,and Davis,R.W.Cell(1979)16,443−452)、また、適当なプローブを用いたクロスハイブリダイゼーション法(”Molecular Cloning,A Laboratory Manual”Maniatis,T.,Fritsch,E.F.,Sambrook,J.(1982)Cold Spring Harbor Laboratory Press)等を挙げることができる。
a)サブトラクションクローニング法:
特定の細胞に特異的に発現する遺伝子のcDNAを取得し、該cDNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより遺伝子をクローニングする方法である。サブトラクションの方法としては、全RNAから一本鎖cDNAを作製し、これと別の細胞から得られた全RNAをハイブリダイズさせた後、ハイドロキシアパタイトカラムでハイブリダイズしなかった一本鎖DNAを単離し、このcDNAからcDNAライブラリーを作製する方法(バイオマニュアルシリーズ3、遺伝子クローニング実験法、羊土社(1993)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー)や、cDNAライブラリーをまず作製し、このライブラリーからヘルパーファージ等を用いて一本鎖DNAを調製し、この一本鎖DNAと別の細胞から得られた全RNAにビオチン標識したものとをハイブリダイズさせた後、アビジンを利用してハイブリダイズしなかった一本鎖DNAを単離し、DNAポリメラーゼによって二本鎖に戻してcDNAライブラリーを作製する方法(Tanaka,H.,Yoshimura,Y.,Nishina,Y.,Nozaki,M.,Nojima,H.,and Nishimune,Y.(1994)FEBS Lett.355,4−10)等が挙げられる。
具体的には、まず被験物質の投与または非投与条件下の検体それぞれについてmRNAまたは全RNAを精製し、投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型とし、逆転写酵素でcDNAを合成する。合成時に[α−32P]dNTPを加えることでcDNAを標識することもできる。標識されたcDNAと鋳型となった全RNAは安定な二本鎖DNA−RNAハイブリッドを形成しているが、アルカリ存在下で高温処理することによりRNAのみを分解し一本鎖cDNAを生成する。この一本鎖cDNAと、非投与条件下の検体から抽出したRNAとを混合し、適当な条件下で静置すると、ヌクレオチド配列の相補性より安定な二本鎖DNA−RNAハイブリッドを形成する。すなわち、非投与条件下でも発現しているcDNAはハイブリッドを形成するが、投与条件下でのみ特異的に発現しているRNAを鋳型としたcDNAは一本鎖のままである。次いで、ハイドロキシアパタイトカラムで二本鎖DNA−RNAハイブリッドと一本鎖cDNAとを分離し、一本鎖cDNAのみを精製する。このステップを繰り返すことで目的とした組織に特異的なcDNAを濃縮することができる。濃縮された特異的cDNAは放射性同位元素等で標識されている場合は、cDNAライブラリーをスクリーニングするプローブとして使用することができる。なお、この操作は市販のキット(例えば、PCRセレクトcDNAサブトラクションキット:クローンテック社製等)を利用して行うこともできる。
b)ディファレンシャル・ディスプレイ法:
Liangらの方法(Science(1992)257,967−971)に準じ、例えば、以下のように実施できる。まず比較する2つの試料(本発明の場合は被験物質の投与または非投与条件下の検体)からmRNAまたは全RNAを抽出し、逆転写酵素を用いてこれを一本鎖cDNAに変換する。次いで、得られた一本鎖cDNAを鋳型として、適当なプライマーを用いてPCRを行う。プライマーとしては、例えば、ランダムプライマー(任意の配列からなる約10〜12merのプライマー)を用いることができる。あるいは、アンカードプライマー(anchored primer)およびアービトラリープライマー(arbitrary primer)各一種ずつを組み合わせて用いてもよい。アンカードプライマーとしては、オリゴd(T)VX[n=11〜12;V=グアニン、アデニンまたはシトシン;X=グアニン、アデニン、チミンまたはシトシン]からなるプライマーを用いることができる。また、アービトラリープライマーとしては、任意の配列からなる約10merのランダムプライマーを用いることができる。このようなPCRを、種々のプライマーを組み合わせて行うことで、より広い範囲の遺伝子群をスクリーニングすることが可能となる。続いて、得られたPCR産物をゲル電気泳動し、ゲル上に展開(ディスプレイ)される全RNAの発現パターン(フィンガープリント)を比較解析することにより、いずれかの検体で特異的に発現している遺伝子(本発明のPADI4遺伝子)を選択し、そのcDNA断片を単離することができる。なお、この方法は、市販されているキット(例えば、RNAイメージ・キット:ジェンハンター社製等)を用いて行うこともできる。
c)ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法:
目的の組織から精製した全RNAから作製したcDNAライブラリーを、目的組織および対照組織の全RNAから合成した32P標識cDNAプローブでスクリーニングし、目的組織のプローブとのみハイブリダイズするクローンを選択する方法である。例えば、まず非投与条件下の検体から精製した全RNAから常法に従いcDNAライブラリーを作製し、そのライブラリーから2組のレプリカフィルターを作製する。次に、該非投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型として、逆転写酵素でcDNAを合成する。合成時に[α−32P]dNTPを加えることでcDNAを標識する。標識されたcDNAと鋳型となった全RNAは安定な二本鎖DNA−RNAハイブリッドを形成しているが、アルカリ存在下で高温処理することにより全RNAのみを分解し、一本鎖cDNAを精製する。同様に、被験物質投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型に32Pで標識された一本鎖cDNAを作製する。両標識cDNAをそれぞれプローブとして、非投与条件下の検体から作製したフィルターとハイブリダイゼーションを行う。X線フィルムのオートラジオグラフィー像を比較し、投与または非投与条件下のcDNAプローブの一方にのみハイブリダイズするクローンを選ぶことにより、被験物質の投与条件下で特異的に発現する遺伝子をクローニングすることができる。
d)クロスハイブリダイゼーション法:
被験物質の投与または非投与条件下の検体のいずれかに由来するcDNAライブラリーに対して、適当なDNAをプローブとして、ストリンジェンシーの低い条件でハイブリダイゼーションを行い、陽性クローンを得る。得られた陽性クローンをプローブとして、それぞれの検体に由来する全RNAに対してノーザンハイブリダイゼーションを行い、一方にのみ発現しているクローンを選択する。
こうして得られたcDNAをプローブとして、投与または非投与条件下の検体の全RNAに対してノーザンブロッティングを行い、選択した遺伝子の全RNAが、投与条件下で特異的に発現していることを確認できる。
工程3:被験物質の評価
最後に、被験物質の投与または非投与における、本発明のPADI4遺伝子の発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
すなわち、被験物質の投与条件下で非投与条件下よりも本発明のPADI4遺伝子の発現量が有意に減少している場合、該被験物質はRA治療薬としての効果を有すると評価できる。ここで、「有意に減少している」とは、例えば、被験物質の投与および非投与条件下での本発明のPADI4遺伝子の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.2 本発明のPADI4蛋白質の発現量を指標とした評価方法
本発明のPADI4蛋白質の発現量を指標としたin vivoにおける評価方法は、例えば下記の工程を含む。
工程1:動物を被験物質の投与または非投与の条件下で飼育する。
工程2:上記動物の血液または細胞中における本発明のPADI4蛋白質の発現量を、該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する。
工程3:被験物質の投与または非投与における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
工程1:動物の飼育
動物は、前項2.1に記載した方法にしたがい、被験物質の投与または非投与の条件下で飼育する。
工程2:本発明のPADI4蛋白質の発現量の検出
次に、上記動物の血液または細胞中における本発明のPADI4蛋白質の発現量を、該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する。
抗体を利用した蛋白質の検出方法は特に限定されないが、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一の方法であることが好ましい。以下、これらの検出方法について、試料の調製から検出までを具体的に説明する。
(1)試料の調製
検体としては、血液または本発明のPADI4蛋白質が高発現している細胞が好ましく、したがって好中球や好酸球等の血液由来細胞、滑膜細胞、脾臓細胞、および腹腔浸潤細胞が好ましい。これらの血液または細胞(細胞抽出液として使用する)は、必要に応じて高速遠心を行うことにより不溶性の物質を除去した後、以下のようにELISA/RIA用試料やウエスタンブロット用試料として調製する。
ELISA/RIA用試料は、例えば、回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカトルエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、または緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
(2)試料の固相化
上記方法では、まず、本発明のPADI4蛋白質が含まれる試料中のポリペプチドをメンブレンあるいは96穴プレートのウェル内底面等に固相化する。
メンブレンに固相化する方法としては、試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動を経てメンブレンにポリペプチドを転写する方法(ウエスタンブロット法)と、直接メンブレンに試料またはその希釈液を染み込ませる方法(ドットブロット法やスロットブロット法)を挙げることができる。用いられるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン(例えば、バイオラッド社製等)、ナイロンメンブレン(例えば、ハイボンド−ECL(アマシャム・ファルマシア社製)等)、コットンメンブレン(例えば、ブロットアブソーベントフィルター(バイオラッド社製)等)またはポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン(例えば、バイオラッド社製等)等を挙げることができる。また、ブロッティング方法としては、ウエット式ブロッティング法(CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2 ed by J.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach,W.Strober)、セミドライ式ブロッティング法(上記 CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2 参照)等を挙げることができる。
一方、96穴プレートに固相化する方法としては、固相酵素免疫定量法(ELISA法)や放射性同位元素免疫定量法(RIA法)等を挙げることができる。固相化は、例えば、前記96穴プレート(例えば、イムノプレート・マキシソープ(ヌンク社製)等)に試料またはその希釈液(例えば、0.05% アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」と記載する。)で希釈したもの)を入れて4℃〜室温で一晩、または37℃で1〜3時間静置して、ウエル底面にポリペプチドを吸着させればよい。
(3)本発明のPADI4蛋白質に特異的に結合する抗体
本工程で用いられる「本発明のPADI4蛋白質に特異的に結合する抗体(以下、「抗PADI4抗体」と記載する。)」は、公知の方法にしたがって調製してもよいし、市販のものを用いてもよい。
前記抗体は、常法により(例えば、新生化学実験講座1、タンパク質1、p.389−397、1992)、抗原となる本発明のPADI4蛋白質、あるいはそのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature 256,495−497,1975、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibody p.365−367,1980,Prenum Press,N.Y.)にしたがって、抗PADI4抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得ることもできる。
抗体作製用の抗原としては、本発明のPADI4蛋白質またはその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。
前記抗原ポリペプチドは、本発明のPADI4蛋白質を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、本発明のPADI4遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。
前記宿主細胞としては、原核細胞であれば、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等が挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。該ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与しうる配列を有するものが好ましい。
例えば、大腸菌であれば、K12株等がよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株やベクターを使用できる。また、大腸菌で用いられるプロモーターとしては、例えば、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等を挙げることができ、いずれも好適に用いることができる。
また、枯草菌であれば、207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura,K.et al.(1984)J.Biochem.95,87−93)等が用いられるが、これに限定されるものではない。なお、ベクターに枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
真核細胞の宿主細胞としては、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が挙げられる。脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.(1981)Cell 23,175−182、ATCC CRL−1650)やCHO細胞(ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77,4126−4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現させようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列等を有するものを使用できる。さらに、これは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、サイトメガロウイルス初期プロモーターを有するpCR3.1(Invitrogen社製)、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S.et al.(1981)Mol.Cell.Biol.1,854−864)等が挙げられるが、これらに限定されない。
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、およびRNAスプライス部位を備えたものを好適に用いることができる。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G.(1983)Nucleic Acids Res,11,1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Eb,A.J.(1973)Virology 52,456−457)、および電気パルス穿孔法(Neumann,E.et al.(1982)EMBO J.1,841−845)等によりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。
また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えば、pRSVneo(Sambrook,J.et al.(1989):“Molecular Cloning A Laboratory Manual“Cold Spring Harbor Laboratory,NY)やpSV2neo(Southern,P.J.and Berg,P.(1982)J.Mol.Appl.Genet.1,327−341)等をコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、目的のポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf−9またはSf−21)やTrichoplusia niの卵細胞由来High Five細胞(Wickham,T.J.et al,(1992)Biotechnol.Prog.i:391−396)等が宿主細胞としてよく用いられ、バキュロウイルストランスファーベクターとしてはオートグラファ核多角体ウイルス(AcNPV)のポリヘドリンタンパクのプロモーターを利用したpVL1392/1393がよく用いられる(Kidd,i.M.and V.C.Emery(1993)The use of baculoviruses as expression vectors.Applied Biochemistry and Biotechnology 420,137−159)。この他にも、バキュロウイルスのP10や同塩基性蛋白質のプロモーターを利用したベクターも使用できる。さらに、AcNPVのエンベロープ表面蛋白質GP67の分泌シグナル配列を目的蛋白質のN末端側に繋げることにより、組換え蛋白質を分泌蛋白質として発現させることも可能である(Zhe−mei Wang,et al.(1998)Biol.Chem.,379,167−174)。
真核微生物を宿主細胞とした発現系としては、酵母が一般によく知られており、その中でもサッカロミセス属酵母、例えば、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeや石油酵母Pichia pastorisが好ましい。該酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば、アルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター(Bennetzen,J.L.and Hall,B.D.(1982)J.Biol.Chem.257,3018−3025)や酸性フォスファターゼ遺伝子のプロモーター(Miyanohara,A.et al.(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80,1−5)等を好ましく利用できる。また、分泌型蛋白質として発現させる場合には、分泌シグナル配列と宿主細胞の持つ内在性プロテアーゼあるいは既知のプロテアーゼの切断部位をN末端側に持つ組換え体として発現させることも可能である。例えば、トリプシン型セリンプロテアーゼのヒトマスト細胞トリプターゼを石油酵母で発現させた系では、N末端側に酵母のαファクターの分泌シグナル配列と石油酵母の持つKEX2プロテアーゼの切断部位をつなぎ発現させることにより、活性型トリプターゼが培地中に分泌されることが知られている(Andrew,L.Niles,et al.(1998)Biotechnol.Appl.Biochem.28,125−131)。
上記のようにして得られる形質転換体は、常法にしたがい培養することができ、該培養により細胞内、または細胞外に目的のポリペプチドが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択できる。例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ変法イーグル培地(以下「DMEM」と記載する)等の培地に、必要に応じウシ胎児血清等の血清成分を添加したものを使用できる。
上記培養により、形質転換体の細胞内または細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質等を利用した公知の分離操作法により、分離・精製することができる。該方法としては、例えば、タンパク沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、を単独あるいは組合せて利用できる。また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンを繋げれば、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。目的とする本発明のPADI4タンパクは、以上に記載した方法を適宜組み合わせることにより、容易に高収率、高純度で製造できる。
(4)検出
上記(3)記載の方法で得られる抗PADI4抗体は、それを直接標識するか、または該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(または標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(またはストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
(5)測定操作
a)ウエスタンブロット、ドットブロットまたはスロットブロットの場合
まず、抗体の非特異的吸着を阻止するため、予めメンブレンをそのような非特異的吸着を阻害する物質(スキムミルク、カゼイン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等)を含む緩衝液中に一定時間浸しておく操作(ブロッキング)を行う。ブロッキング溶液の組成は、例えば、5% スキムミルク、0.05〜0.1% ツイーン20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはトリス緩衝生理食塩水(TBS)が用いられる。スキムミルクの代わりに、ブロックエース(大日本製薬)、1〜10%のウシ血清アルブミン、0.5〜3%のゼラチンまたは1%のポリビニルピロリドン等を用いてもよい。ブロッキングの時間は、4℃で16〜24時間、または室温で1〜3時間である。
次に、メンブレンを0.05〜0.1% ツイーン20を含むPBSまたはTBS(以下「洗浄液」と記載する)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、ブロッキング溶液で適宜希釈した溶液中に抗PADI4抗体を一定時間浸して、メンブレン上の抗原に該抗体を結合させる。このときの抗体の希釈倍率は、例えば、前記組換え抗原を段階希釈したものを試料とした予備的なウエスタンブロッティング実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で2時間行う。抗体反応操作終了後、メンブレンを洗浄液で洗浄する。ここで、用いた抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識の抗体を用いた場合には、引き続き二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば、市販のものを使用する場合はブロッキング溶液で2000〜20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のメンブレンを二次抗体溶液に室温で45分〜1時間浸し、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えば、まずメンブレンを洗浄液中で15分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
b)ELISA/RIA
まず、試料を固相化させたプレートのウェル内底面への抗体の非特異的吸着を阻止するため、ウエスタンブロットの場合と同様、予めブロッキングを行っておく。ブロッキングの条件については、ウエスタンブロットの項に記載した通りである。
次に、ウェル内を0.05〜0.1% ツイーン20を含むPBSまたはTBS(以下「洗浄液」と記載する)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、洗浄液で適宜希釈した抗PADI4抗体を分注して一定時間インキュベーションし、抗原に該抗体を結合させる。このときの抗体の希釈倍率は、例えば、上記組換え抗原を段階希釈したものを試料とした予備的なELISA実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で1時間程度行う。抗体反応操作終了後、ウェル内を洗浄液で洗浄する。ここで、用いた抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識の抗体を用いた場合には、引き続き二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば、市販のものを使用する場合は洗浄液で2000〜20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のウェルに二次抗体溶液を分注して室温で1〜3時間インキュベーションし、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えば、まずウェル内に洗浄液を分注して5分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
例えば、本発明において、いわゆるサンドイッチ法のELISAは以下に記載する方法により実施することができる。まず、本発明のPADI4蛋白質の各アミノ酸配列より、親水性に富む領域をそれぞれ2箇所選択する。次に、各領域中のアミノ酸6残基以上からなる部分ペプチドを合成し、該部分ペプチドを抗原とした2種類の抗体を取得する。このうち一方の抗体を標識しておく。標識しなかった方の抗体は、96穴ELISA用プレートのウェル内底面に固相化する。ブロッキングの後、試料液をウェル内に入れて常温で1時間インキュベーションする。ウェル内を洗浄後、標識した方の抗体希釈液を各ウェルに分注してインキュベーションする。再びウェル内を洗浄後、標識方法に合わせた検出操作を行う。
工程3:被験物質の評価
最後に、被験物質の投与または非投与条件下における、本発明のPADI4蛋白質の発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
すなわち、被験物質の投与条件下で非投与条件下よりも上記蛋白質の発現量が有意に減少している場合、該被験物質はRA治療薬としての効果を有すると評価できる。ここで、「有意に減少している」とは、例えば、被験物質の投与および非投与条件下での本発明のPADI4蛋白質の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.3 PADI4蛋白質の活性を指標とした評価方法
PADI4活性を指標としたin vitroにおける被験物質のRA治療薬としての効果を評価する方法は、例えば下記の工程を含む。
工程1:アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、PADI4蛋白質を加える。
工程2:上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、PADI4蛋白質の活性を測定する。
工程3:被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
工程1:反応液の調製
本方法で用いられる反応液は適当な緩衝液中にPADI4蛋白質の酵素基質となりうるアルギニン含有化合物を含むものである。アルギニン含有化合物とは、例えば、BAEE(N−α−benzoyl−L−arginine ethyl ester)、N−α−Benzoyl−L−arginine、Dansyl−glycyl−L−citruline等のアルギニンを含む化合物であれば特に限定されない。また、反応液中に添加する被験物質の量や添加方法も特に限定されず、被験物質の性状に合わせて適宜設定すればよい。PADI4と基質は25〜50℃付近で、1〜2時間程度反応させることが好ましい。
工程2:
次に、上記基質中のアルギニン残基がPADI4によってシトルリンに変換されて生じる反応生成物の量を定量することにより、PADI4蛋白質の活性を測定する。ここで「反応生成物」は、酵素反応によって基質から直接生じる反応生成物のほか、副次的に生じる反応生成物であってもよい。以下に、本方法で用いられる好適な測定方法として、蛍光法および吸光法の2つの方法について説明するが、これらに限定されず、他の公知の方法:例えば、蛍光標識されたDansyl−glycyl−L−arginineを用いてその酵素反応生成物をHPLCを用いて定量的に調べる方法(T.Chikura et al.,Anallytical Biochemistry 285,p230−234,(2000))等を任意に用いることができる。
(1)蛍光法
反応液として、例えば、10mM CaCl、5mM DTTを含む100mM Tris/HCl(pH7.8)緩衝液に、基質として10mM BAEEまたはN−α−Benzoyl−1−arginineを加えた溶液を調製する。この反応液に、適当量のPADI4蛋白質を加え、例えば、37℃で1〜2時間程度反応させる。反応後、適当量のEDTAを添加して反応を停止させ、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて励起波長413nm、蛍光波長476nmの各波長を測定する。測定結果は、PADI4蛋白質を含まない反応液での測定値をバックグラウンドとして差し引き、検量線作成用硫酸アンモニウムを添加した反応液での測定値から検量線を描くことにより、生成したアンモニウムイオンの濃度を求める。このアンモニウムイオンイオン濃度を指標としてPADI4蛋白質の活性を評価する。
(2)吸光法
反応液として、例えば、10mM CaCl、5mM DTTを含む100mM Tris/HCl(pH7.6)緩衝液に、基質として10mM BAEE(Sigma)を加えた溶液を調製する。この反応液に、適当量のPADI4蛋白質を加え、例えば、37℃で1〜2時間程度反応させる。反応後、80mM Diacetyl monoxime(3−hydroxyimino 2−butane)、2mM thiosemicarbazideを含むA液と、3M HPO、6M HSO、2mM NHFe(SOを含むB液を1:3の比率で混合した溶液を適当量添加し、サーマルサイクラー(例えば、GeneAmpTM PCR System 9700(Applied Biosystems社)等)を使用して、例えば、95℃15分次いで室温で10分、反応させる。反応後、吸光度計(例えば、Spectra max 250(Molecular Devices社)等)を用いて540nmの吸光度を測定する。測定結果は、酵素を含まない反応液での測定値をバックグラウンドとして差し引き、さらに検量線作成用シトルリンを添加した反応液での測定値から検量線を描くことにより、反応によって生成したシトルリンの濃度を求める。このシトルリン濃度を指標としてPADI4蛋白質の活性を評価する。
工程3:被験物質の評価
最後に、被験物質の添加または非添加条件下における、本発明のPADI4遺伝子または本発明のPADI4蛋白質の活性の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
すなわち、被験物質の添加条件下で非添加条件下よりも前記遺伝子または蛋白質の活性が有意に減少している場合、該被験物質はRA治療薬としての効果を有すると評価できる。ここで、「有意に減少している」とは、例えば、被験物質の添加または非添加条件下での本発明のPADI4遺伝子または本発明のPADI4蛋白質の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.4 培養細胞を用いた評価方法
培養細胞を用いたin vivoにおける被験物質のRA治療薬としての効果を評価する方法は、例えば下記の工程を含む。
評価方法は、下記の工程を含むことが好ましい。
工程1:細胞を被検物質の添加または非添加条件下で培養する。
工程2:上記細胞中の本発明のPADI4遺伝子の発現量を検出するか、または、本発明のPADI4蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する。
工程3:被検物質の添加または非添加条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
工程1:細胞の培養
本発明の評価方法で用いられる細胞は、本発明のPADI4遺伝子を高発現する哺乳動物細胞であれば特に限定されない。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞であって、特に血液、滑膜組織、脾臓組織に由来する培養細胞(好ましくは、初代培養細胞)が好ましい。前記哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラットまたはハムスター等が好ましく、ヒトまたはマウスがより好ましい。また、本発明のPADI4遺伝子をそのプロモーター領域とともに導入し、該遺伝子を高発現するように組換えた細胞など、人為的に形質転換された細胞を使用してもよい。
細胞は、被検物質の添加または非添加条件下で培養する。培養方法は特に限定されず、当該細胞に適した培養方法を適宜選択すればよい。培養細胞への被検物質の添加方法や添加量も特に限定されず、上記細胞の培養前あるいは培養期間中の適当な時点で、被検物質を培養培地に添加し一定期間培養する。被験物質添加後の培養期間も特に限定されないが、好ましくは30分〜24時間である。
工程2:本発明のPADI4遺伝子または本発明のPADI4蛋白質の発現量の検出
次に、被検物質の添加または非添加条件下における、上記細胞中の本発明のPADI4遺伝子の発現量の相違を検出するか、または、本発明のPADI4蛋白質の発現量の相違を該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する。
遺伝子の検出は、基本的に2.1に記載した方法にしたがって行えばよい。また、抗体を用いた検出は、2.2に記載した方法にしたがって行えばよい。
上記方法のほか、本発明のPADI4遺伝子のプロモーター支配下に、該プロモーター活性の検出を可能にする遺伝子(以下「レポーター遺伝子」と記載する。)を利用して、間接的に本発明のPADI4遺伝子や本発明のPADI4蛋白質の発現を検出することもできる。以下、レポーター遺伝子を利用した検出方法について説明する。
(1)レポーター遺伝子
レポーター遺伝子は、宿主細胞が本試験方法の一連の過程において産生し得る他のいかなる蛋白質とも特異的に区別可能な、レポーター蛋白質をコードするものであればよい。好ましくは、形質転換前の細胞が該レポーター蛋白質と同一または類似の蛋白質をコードする遺伝子を持たないようなものがよい。例えば、レポーター蛋白質が該細胞に対して毒性を有するようなものや、該細胞が感受性を有する抗生物質の耐性を付与するものであるような場合でも、レポーター遺伝子の発現の有無は細胞の生存率で判定することが可能である。しかしながら、本発明で用いられるレポーター遺伝子としてより好ましいものは、発現量を特異的かつ定量的に検出することができる(例えば、該レポーター遺伝子にコードされる蛋白質に対する特異的抗体が取得されているような)構造遺伝子である。より好ましくは、外来の基質と特異的に反応することにより定量的測定が容易な代謝産物を生じるような酵素等をコードする遺伝子である。そのようなレポーター遺伝子としては、例えば、以下の蛋白質をコードする遺伝子を例示することができるが、本発明はそれらに限定されない。
a)クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ:
クロラムフェニコールにアセチル基を付加する酵素で、いわゆるCATアッセイ等で検出することができる。プロモーターを組み込むだけでレポーターアッセイ用のベクターを調製できるベクターとして、pCAT3−Basicベクター(プロメガ社製)が市販されている。
b)ホタルルシフェラーゼ:
ルシフェリンを代謝した際に生じる生物発光を測定することにより定量できる。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pGL3−Basicベクター(プロメガ社製)が市販されている。
c)β−ガラクトシダーゼ:
呈色反応、蛍光または化学発光でそれぞれ測定可能な基質がある。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pβgal−Basic(プロメガ社製)が市販されている。
d)分泌型アルカリホスファターゼ:
呈色反応、生物発光または化学発光でそれぞれ測定可能な基質がある。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pSEAP2−Basic(クロンテック社製)が市販されている。
e)緑色蛍光蛋白質(green−fluorescent protein):
酵素ではないが、自らが蛍光を発するので直接定量できる。同じくレポーターアッセイ用のベクターとしてpEGFP−1(クロンテック社製)が市販されている。
(2)レポーター遺伝子の導入
公知の方法に従い、レポーター遺伝子発現プラスミドと、本発明の本発明のPADI4遺伝子を哺乳類細胞で発現可能にした組換えベクターを作製し、これらを細胞に同時トランスフェクションする。ベクターとしては、pCR3.1(インビトロジェン社製)、pCMV−Script(ストラタジーン社製)等を好適に用いることができるが、これらに限定されない。
細胞に発現プラスミドを導入する方法としては、DEAE−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G.(1983)Nucleic Acids Res.11,1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Eb,A.J.(1973)Virology 52,456−457)、電気パルス穿孔法(Neumann,E.et al.(1982)EMBO J.1,841−845)、リポフェクション法(Lopata et al.(1984)Nucl.Acids Res.12,5707−5717,Sussman and Milman(1984)Mol.Cell.Biol.4,1641−1643)等を挙げることができる。ただし、細胞がいわゆる浮遊細胞である場合は、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法以外の方法を用いることが好ましい。いずれの方法においても、用いる細胞に応じて、至適化されたトランスフェクション条件を用いることが必要である。
(3)評価
本発明のPADI4遺伝子の発現ベクターと、レポーター発現ベクターを同時トランスフェクションした細胞を培養すると、該遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被検物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、本発明のPADI4遺伝子の発現量が評価できる。ここで、「レポーター遺伝子の発現が可能な条件」とは、レポーター発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞が生存して、レポーター遺伝子の転写産物(レポーター蛋白質)の生産が可能な条件であればよい。好ましくは、使用される細胞株に適合した培地(ウシ胎児血清等の血清成分を添加してもよい)で、4〜6%(最も好適には5%)の炭酸ガスを含む空気存在下、36〜38℃(最も好適には37℃)で2〜3日間(最も好適には2日間)培養する。
(4)その他(形質転換細胞株の樹立)
以上のような、一過的な遺伝子導入法を利用した試験方法とは別に、レポーター遺伝子、および本発明のPADI4遺伝子の発現ベクターで、宿主細胞を二重に形質転換した細胞を利用した試験方法も採択可能である。この場合には、pIND(インビトロジェン社製)やpTet−On(クロンテック社製)等の発現ベクターを利用して、本発明のPADI4遺伝子の発現を誘導する条件下で該レポーター遺伝子の発現が促進されるような細胞株を樹立することが必要となる。形質転換細胞の作出においては、導入される遺伝子は、宿主細胞の染色体に組み込まれ、継代を重ねても宿主細胞に安定的に保持されることが望ましい。そのように形質転換された細胞を選択するために、導入遺伝子に抗生物質耐性等の選択マーカー(例えば、ネオマイシン(またはG418)耐性遺伝子neo等)を連結してトランスフェクションしたり、もしくは別個に調製した該選択マーカーと導入遺伝子とを同時トランスフェクションすることが好ましい。その後は、該選択マーカーの特性を利用することにより、安定的に形質転換された細胞を選択することができる。
こうして得られた細胞株を、本発明のPADI4遺伝子の発現が誘導される条件下におくと、該遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被検物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、本発明のPADI4の発現量が評価できる。
工程3:被験物質の評価
最後に、被験物質の添加または非添加条件下における、本発明のPADI4遺伝子または本発明のPADI4蛋白質の発現量の相違に基づいて、該被験物質のRA治療薬としての効果を評価する。
すなわち、被験物質の添加条件下で非添加条件下よりも前記遺伝子または蛋白質の発現量が有意に減少している場合、該被験物質はRA治療薬としての効果を有すると評価できる。ここで、「有意に減少している」とは、例えば、被験物質の添加または非添加条件下での本発明のPADI4遺伝子または本発明のPADI4蛋白質の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.5 被験物質のRA治療薬としての効果を評価するためのキット
本発明の評価方法を実施するためのキットとして、例えば、以下のa)〜f)の少なくとも一つ以上を含むキットを挙げることができる。
a)ヒトPADI4遺伝子(配列番号16)またはマウスPADI4遺伝子(配列番号17)を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)ヒトPADI4遺伝子またはマウスPADI4遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)ヒトPADI4蛋白質(配列番号17)またはマウスPADI4蛋白質(配列番号18)に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
f)ヒトPADI4蛋白質
前記a)記載のプライマーは、上記遺伝子の塩基配列(配列番号16または17)に基づき、市販のプライマー設計ソフトを用いる等、常法にしたがい容易に設計し、増幅することができる。このようなプライマーの例としては、例えば、配列番号7〜10に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
前記b)記載のプローブは、ノーザンハイブリダイゼーション法であれば、20塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドか2本鎖DNAが好適に用いられる。マイクロアレイであれば、100〜1500塩基長程度の2本鎖DNA、または20〜100塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドが好適に用いられる。Affimetrix社のGene Chipシステムであれば25塩基長程度の1本鎖オリゴがよい。これらは、特に本発明のPADI4遺伝子の配列特異性が高い部分に特異的にハイブリダイズするプローブとして設計することが好ましい。このようなプローブの例としては、例えば配列番号11に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。これらのプローブや前述のプライマーは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
前記c)記載の固相化試料は、前記b)記載のプローブをガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ等の固相に固定することにより作製される。このような固相化試料とその作製方法については、既に2.1で説明したが、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。
前記d)およびe)記載の抗体やf)の蛋白質は、2.2に記載した方法により作製することができる。抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。
前記キットは上記した構成要素のほか、必要に応じて、ハイブリダイゼーション、プローブの標識、あるいはラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素基質等、本発明の評価方法の実施に必要な、その他の試薬等を適宜含んでいてもよい。
3. 変異型PADI4を利用した慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法
本発明は、検体中の配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質、またはその遺伝子(配列番号20)の発現量に基づいて、該検体を提供した被験者の慢性関節リウマチ(以下、「RA」と記載する。)の発症危険度を予測する方法を提供する。
前記方法において用いられる「検体」とは、被験者から単離された、血液、体液、組織または排泄物等のすべての試料を意味するが、血液(血液由来細胞)、滑膜組織(滑膜細胞)、脾臓組織(脾臓細胞)、腹腔浸潤細胞を含むものが好ましく、特に血球(好中球、好酸球)、滑膜組織(滑膜細胞)がより好ましい。また、発症危険度の予測は、変異型PADI4蛋白質の発現量を指標として行ってもよいし、変異型PADI4遺伝子(mRNA)の発現量を指標として行ってもよい。
3.1 変異型PADI4遺伝子の発現量を指標とした方法
PADI4遺伝子の発現量を指標とした予測方法は、例えば下記の工程を含む。
工程1:被験者および正常人から単離された各検体より全RNAを調製する;
工程2:上記全RNA中における変異型PADI4遺伝子のmRNAの発現量を検出する;
工程3:被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する。
前記方法において、全RNAの抽出および変異型PADI4遺伝子のmRNAの発現量の検出と解析は、2.1の記載にしたがって実施することができる。その結果、被験者において変異型PADI4のmRNAの発現量が正常人に比較して有意に高い場合、該被験者はRAを発症する危険度が高いと評価できる。ここで、「有意に高い」とは、例えば、被験者と正常人の間で変異型PADI4のmRNAの発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。なお、前述したように、評価は変異型PADI4遺伝子と検体内の適当なコントロール遺伝子(例えば、βアクチン遺伝子やリボゾーマルRNA等)との発現量比として、上記解析に供してもよい。
3.2 変異型PADI4蛋白質の発現量を指標とした評価方法
変異型PADI4蛋白質の発現量を指標とした方法は、例えば下記の工程を含む。
工程1:被験者および正常人から単離された検体中における、変異型PADI4蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合しうる抗体を用いて検出する;
工程2:被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、該被験者のRAの発症危険度を予測する。
前記方法において、変異型PADI4蛋白質の発現量の検出と解析は、2.2の記載にしたがって実施することができる。その結果、被験者において変異型PADI4蛋白質の発現量が正常人に比較して有意に高い場合、該被験者はRAを発症する危険度が高いと評価できる。ここで、「有意に高い」とは、例えば、被験者と正常人の間で変異型PADI4蛋白質の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
3.3 慢性関節リウマチの発症危険度を予測するためのキット
本発明はまた、慢性関節リウマチの発症危険度を予測するためのキットを提供する。該キットは、例えば、以下のa)〜e)の少なくとも一つ以上を含む。
a)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型PADI4遺伝子を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型PADI4遺伝子に特異的にハイブリダイズし、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
前記a)記載のプライマーは、上記遺伝子の塩基配列(配列番号20または21)に基づき、市販のプライマー設計ソフトを用いる等、常法にしたがい容易に設計し、増幅することができる。また、前記b)記載のプローブは、ノーザンハイブリダイゼーション法であれば、20塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドか2本鎖DNAが好適に用いられる。マイクロアレイであれば、100〜1500塩基長程度の2本鎖DNA、または20〜100塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドが好適に用いられる。Affimetrix社のGene Chipシステムであれば25塩基長程度の1本鎖オリゴがよい。これらは、特に変異型PADI4遺伝子の配列特異性が高い部分に特異的にハイブリダイズするプローブとして設計することが好ましい。このようなプローブの例としては、例えば配列番号4に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。これらのプローブや前述のプライマーは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。
前記c)記載の固相化試料は、前記b)記載のプローブをガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ等の固相に固定することにより作製される。このような固相化試料とその作製方法については、既に2.1で説明したが、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。前記d)およびe)記載の抗体は、2.2に記載した方法により作製することができる。抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。
前記キットは上記した構成要素のほか、必要に応じて、ハイブリダイゼーション、プローブの標識、あるいはラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液等、本発明の方法の実施に必要な、その他の試薬等を適宜含んでいてもよい。
3.4 RA診断用マーカー
変異型PADI4蛋白質や該遺伝子は、本発明者らによって新規に見出されたものであり、これら変異型PADI4蛋白質や該遺伝子と正常型PADI4蛋白質や該遺伝子との機能的な違いは、RA発症と深い関連を有する。すなわち、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質や、配列番号20に示される塩基配列からなる変異型PADI4遺伝子は、RAの診断用マーカーとして(例えば、抗変異型PADI4抗体作製のための抗原として)有用である。本発明はそのような変異型PADI4を利用したRA診断用マーカーも提供する。
4. 変異型PADI4を利用したRA治療薬のスクリーニング方法
変異型PADI4蛋白質は正常型PADI4蛋白質に比較して酵素活性が高く、シトルリン化ペプチド生成の亢進を介して、RA発症の一つの原因となりうる。したがって、変異型PADI4蛋白質に対する特異的な阻害効果を指標とすることにより、RA治療薬のスクリーニングも可能となる。
すなわち、本発明は、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型PADI4蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法を提供する。
例えば、前記方法は下記の工程を含む。
工程1:アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、変異型PADI4蛋白質を加える;
工程2:上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、変異型PADI4蛋白質の活性を測定する;
工程3:被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
前記方法において、変異型PADI4蛋白質は、2.2の記載にしたがって調製することができ、工程1〜3は2.3の記載にしたがって実施することができる。
5. その他
5.1 PADI4を利用したRA病態の予測方法
ヒトPADI4遺伝子やPADI4蛋白質は、RA患者の病変組織(例えば、滑膜組織)で特異的に高発現し、シトルリン化タンパク質の生成を通じてRAの原因となりうる。したがって、前述した変異型PADI4のみならず、被験者から単離された検体中の、PADI4遺伝子やPADI4蛋白質の発現量を測定すれば、該被験者のRA病態を予測することもできると考えられる。
5.2 RAモデル動物
本発明のPADI4遺伝子や変異型PADI4遺伝子を人為的に高発現させることにより、RA病態を呈する動物(例えば、マウス等)を作製することも可能である。例えば、本発明のPADI4遺伝子または変異型PADI4遺伝子を適当なベクターに組み込んで、動物に導入し、ヒトRAに代表される炎症症状等の表現的変化が現れれば、該動物を利用してRAの病態やその治療薬の研究を行うことができる。同様に、本発明のPADI4蛋白質または変異型PADI4蛋白質を直接動物に導入することによって、RA病態を呈するモデル動物を作製することも可能と考えられる。
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕 PADI4第3イントロン中の一塩基多型とRA罹患とのアソシエーション解析
1. 解析対象患者の選択
日本各地の臨床施設より846人のRA患者と658人の非患者とからゲノムDNA抽出用の血液を採取した。すべての検体提供者は日本人である。提供者からは、理化学研究遺伝子多型研究センター倫理委員会によるインフォームドコンセントに対する同意を得た。RA患者については、The revised criteria of the American College of Rheumatology for the classification of rheumatoid arthritisの以下の7つの基準のうち少なくとも3項目に該当する者をRA患者群として選択した。
(1)朝のこわばり
(2)3領域以上の関節炎
(3)手関節炎
(4)対称性関節炎
(5)リウマトイド結節
(6)リウマトイド因子
(7)X線所見
非患者群については、日本人一般集団から患者とは独立に選抜した。RAの診断の有無以外ではRA患者群、非患者群の間に差がないようにサンプリングした。
2. ゲノムDNAの調製
RA患者および非患者の末梢血から分離した白血球を出発材料とし、ゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAの抽出にあたっては、EDTA・2Na入り採血菅(ベノジェクト)に採血し、QIAamp DNA Blood kit(QIAGEN)を使用した。得られた各試料の260nmの吸光度を測定し、各試料のDNA濃度を算出した。その後、調製したDNAは、1mM EDTA・2Naを含む10mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、使用するまで、−80℃で保存した。
3. 第3イントロン中の一塩基多型の検出
以下に示す3種のプローブを用いて、PADI4の第3イントロンの2136(−15)番目の位置(配列番号1の6177番目)における塩基がシトシンであるかチミンであるかの検出を行った。
インベーダープローブ:

シトシン検出用FAMプローブ:

チミン検出用VICプローブ:

各プローブはThird Wave Technologies,Inc.に委託して設計・合成後、試薬として混合されたものを使用した。インベーダーアッセイは、96ウェル(日本ジェネティックス)か384ウェルプレート(ABI)に、PCR反応液の4倍希釈液2μlおよび上記の3種のプローブの入ったインベーダー反応液(Applied Biosystems社)を3μl加え、95℃にて5分間インキュベートした後、63℃にて20分から80分、シグナルが分離するまで反応させた。96ウェルの場合はABI PRISM 7700 Sequence Detector System(Applied Biosystems社)、384ウェルの場合はABI PRISM 7900HT Sequence Detector System(Applied Biosystems社)を使ってシグナルを検出した。
4. 統計解析
ケース群(RA患者群)846人とコントロール群(非患者群)658人を対象とし、第3イントロン2136番目の塩基の1塩基多型についてケース・コントロール関連検定を行った。検定は2群間のアレル頻度分布比較・優性遺伝形式モデルによるジェノタイプ分布比較・劣性遺伝形式モデルによるジェノタイプ頻度比較にて行った。検定方法は2X2分割表χ2検定を用いた。解析結果を表1に示す。

以上のとおり、PADI4遺伝子の第3イントロンの2136番目(配列番号1の6177番目)の位置の遺伝子多型と慢性関節リウマチ罹患との間に統計的に有意な相関が認められた。
〔実施例2〕 PADI4遺伝子中の新規エクソン−塩基多型の検出
1.検出方法
GenBankのアクセション番号:NT_030584.2に示されるゲノム配列の第415,085塩基から第470,600塩基に存在する、PADI4遺伝子上の新規遺伝子多型の検出を以下の方法により試みた。
まず、該遺伝子の全エクソン、およびエクソン近傍イントロン、5’−flanking領域を約500塩基対ごとに分割して増幅領域と設定し、PCR増幅した。PCR用のプライマーはPrimer3(http://www−genome.wi.mit.edu/genome_software/other/primer3.html)ソフトウェアを用いてデザインした。PCR条件はDMSOの濃度と、アニール温度を変えることで最適化した。
PCRは96ウェルPCRプレートで行い、各ウェルに4ng/μlゲノムDNAを2μlずつ使用した。反応は26.5mM(NHSO,7.2mM Tris−HCl(pH8.8),3.2mM Mg2+,1.5mM dNTPs,1.6mM b−Mercapto ethanol,10% DMSO(DMSOを用いない場合には、HOにて代用),1μM primers,2.0U DNA polymerase(ExTaq(TaKaRa)),0.04μM Taq Start Antibody(Clontech)の溶液条件で行った。反応時間および反応温度の条件として、94℃にて2分間変性させた後、94℃15秒、反応ごとに最適化したアニール温度で45秒,72℃にて1あるいは3分の伸張反応を37サイクル、ABI9700 thermal cycler(Applied Biosystems社)を用いて行った。増幅されたDNA配列は、BigDyeTM Terminator RR Mix(Applied Biosystems社)を使って反応を行い、ABI 3700 sequencerを用いて塩基配列を決定した。
2.結果
各々の領域につき48人分の塩基配列を比較し、多型性の認められた塩基を1塩基多型とみなした。この結果、アミノ酸の置換を伴う以下の3種の新規エクソン一塩基多型とアミノ酸の置換を伴わない1種の新規エクソン多型が見出された。
1)第55番アミノ酸の置換(Ser/Gly)を伴う多型:
第2エクソンの71番目(配列番号1の1071番目)の塩基がアデニンまたはグアニンである一塩基多型
2)第82番アミノ酸の置換(Ala/Val)を伴う多型:
第2エクソンの153番目(配列番号1の1153番目)の塩基がシトシンまたはチミンである一塩基多型
3)第112番アミノ酸の置換(Ala/Gly)を伴う多型:
第3エクソンの62番目(配列番号1の4036番目)の塩基がシトシンまたはグアニンである一塩基多型
4)第117番アミノ酸(Leu)における、アミノ酸の置換を伴わない多型:
第4エクソンの9番目(配列番号1の6200番目)の塩基がシトシンまたはチミンである一塩基多型
〔実施例3〕 PADI4遺伝子上の各一塩基多型の連鎖解析
1.解析方法
RAと強い関連が認められたPADI4第3イントロン2136番目(−15番目)のヌクレオチドの一塩基多型(以下、「PADI4 intron 3−15 T/C」と示す。)とPADI4上の4つの新規一塩基多型とのPairwise Linkage Disequilibrium Index(D’)をEMアルゴリズムを用いて算出した。
2.結果
その結果、4つの一塩基多型は相互にほぼ完全連鎖(98.9〜100%)の関係にあり、かつPADI4 intron 3−15 T/Cともほぼ完全連鎖の関係にあることが、EMアルゴリズムによるハプロタイプ解析によって確認された。一方、PADI4近傍のPADI2、PADI1遺伝子内の公知の一塩基多型とPADI4 intron 3−15 T/Cについては、ほとんど連鎖平衡に達していた。
つまり、日本人集団では、RA患者群と非患者群の両群において、55(Ser)−82(Ala)−112(Ala)タイプと55(Gly)−82(Val)−112(Gly)タイプの2ペプチドタイプのみが存在し、このうち後者のタイプとRAとの間に、PADI4 intron 3−15 T/Cと同様のアソシエーションがあることが確認された。以下、前者を「PADI4 V18」(あるいは単に「V18」)、後者を「PADI4 V9」(あるいは単に「V9」)と記載する。V18のcDNA配列は配列表の配列番号16に、アミノ酸配列は同配列番号17に記載した。また、V9のcDNA配列は配列表の配列番号20に、アミノ酸配列は同配列番号21に記載した。
以上より、PADI4遺伝子のジェノタイプとRA発症との間には関連があり、その関連はPADI4遺伝子に存在する2つのハプロタイプに由来するものと考えられた。そして、RAの発症に関連するハプロタイプはV9であり、RAの発症と関連がないハプロタイプはV18であると考えられた。
〔実施例4〕 ヒトPADI4 mRNAの安定性比較
1.分解度の測定
2つのPADI4ハプロタイプをコードする遺伝子は以下の方法で調製した。
まず、Bone marrow total RNA(Clontech社)を用いてfirst strand cDNA synthesis kit(Amersham Pharmacia社)により合成したcDNAをpDONR201(Invitrogen社)にクローニングした。得られたcDNAを、さらにT7プロモーターを含むpDEST14(Invitrogen社)にリクローニングし、それぞれpV18−T7およびpV9−T7ベクターを作製し、それらについてシークエンシングを行った。次いで、pV18−T7およびpV9−T7ベクターをClaIで消化し、RiboMaxTM Large Scale RNA Production System−T7(Promega社)を用いてin vitro transcriptionを行い、V9、およびV18のmRNAを作製した。
Whole cell extractを調製するために、HL−60細胞をPBSで洗浄し、抽出バッファー(0.5% NP−40;20mM HEPES pH8.0;20% glycerol(v/v);400mM NaClcontaining 0.5mM DTT;0.2mM EDTA;1% proteinase inhibitor cocktail(Nacalai))に懸濁した。氷上で30分インキュベーションした後、4℃で遠心し、上清を80℃で保存した。
V9、およびV18の各mRNA 5μg/reactionに1000倍希釈した前述のWhole cell extract 3μlを混ぜ、室温でインキュベートした。0,5,10分反応後、formamide dyeを加えて反応を止め、68℃で10分間加熱し、氷冷した。転写産物はノザンブロットハイブリダイゼーションにより検出した。スキャニングはDocuCentre color 500cp(Fuji−Xerox社)を用いて行い、シグナル強度はAdobePhotoshop 6.0(Adobe社)により測定した。
結果を図1に示す。図1から明らかなように、RA病変に関連したV9のmRNAはRA病変に関連しないV18のmRNAに比べて有意に分解し難い傾向にあることがわかった。(*T検定より5分後でp=0.048,10分後でp=0.013)。
〔実施例5〕 ヒトPADI4タンパクの調製
1.大腸菌によるHis−tag付加PADI4タンパク質の発現
His−tagを付加した2つのPADI4ハプロタイプ断片:RGS6−HisV18(配列番号5)、またはRGS6−HisV9(配列番号6)がpET11d(Stratagene社)のNcoI/BamHIへ挿入された発現プラスミドを作製した。このプラスミドで形質転換した大腸菌BL21−codonPlus(DE3)−RIL cell(Strategene社)をアンピシリン50μg/ml(Sigma社)とクロラムフェニコール50μg/ml(Sigma社)を添加したLB培地(Invitrogen社)に接種し、37℃で一晩培養した。10mLの培養液を1Lの2%グルコース(和光純薬)、アンピシリン50μg/ml(Sigma社)を添加した2倍濃度のLB培地(Invitrogen社)に添加し、600nm波長の吸光度が0.9になるまで37℃で培養した。終濃度0.1mMになるようにイソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(IPTG:和光純薬)を添加し、20℃で4時間培養した。培養液を6000×gで10分遠心して、菌体を回収した。菌体を30mlの50mMトリス−塩酸(pH7.6)(和光純薬)、100mM塩化ナトリウム(和光純薬)、2mMジチオスレイトール(DTT:和光純薬)、規定量の完全蛋白分解酵素阻害剤カクテル(Roche Diagnostics社)を含む溶解用緩衝液へ懸濁して、4℃で超音波破砕し、97000×gで30分遠心して上清を回収した。さらにこの上清をMillex−HV(ミリポア社)フィルターにかけた。
2.His−tag付加PADI4タンパク質の精製
前項で調製した上清を予めバッファーA{50mMトリス−塩酸(pH7.6)(和光純薬)、1mMエチレンヂアミンテトラ酢酸(EDTA:同仁化学)}で平衡化したSephadex−G25(アマシャム・バイオサイエンス社)に供し、0.1Mの塩酸ナトリウムが入ったバッファーAで分画した。活性が認められた画分をバッファーAで予め平衡化したDEAE−Sepharose(アマシャム・バイオサイエンス社)に供し、0.1Mの塩酸ナトリウムが入ったバッファーAで洗浄した後、バッファーAへ添加した塩酸ナトリウム濃度を0.1Mから0.2Mへ徐々に変化させて溶出し、分画した。活性が認められた画分に三倍量のバッファーB{50mMトリス−塩酸(pH7.6)(和光純薬)、0.1M塩化ナトリウム(和光純薬)、0.1%トライトンX−100}を加え、Ni−NTAスーパーフローカラム(QIAGEN社)に供した。カラムを20mMのイミダゾールが入ったバッファーBで洗浄し、200mMのイミダゾールが入ったバッファーBで溶出した。活性が認められた画分をバッファーC{10mMトリス−塩酸(pH7.6)(和光純薬)、0.15M塩化ナトリウム(和光純薬)、2mM DTT(和光純薬)、1mM EDTA(同仁化学)}で透析し、濃縮後、終濃度10%になるようにグリセロール(Sigma社)を添加して、−80℃に保存した。
〔実施例6〕 ヒトPADI4タンパクの活性測定
1.PADI4活性の測定方法(蛍光法)
酵素反応用の緩衝液として、100mM Tris/HCl(pH7.8)、10mM CaCl、5mM DTT、10mM BAEE(Sigma)またはN−α−Benzoyl−1−arginine(東京化成)を含む溶液を調製した。この緩衝液40μlと、実施例5で調整したV18酵素原液(113μg/ml)の希釈列10μlをPCR反応プレート(Applied Biosystems社)内にて混合し、37℃で2時間反応させた。反応後、10μlの200mM EDTAを添加して反応を停止した。このうち50μl分をdeep well plate(日本ジェネティクス社)に移した。なお同時に、検量線作成のため、0−50nMの硫酸アンモニウム溶液も別のウェルへ添加した。さらにこれらのウェルへ、50mMホウ酸を1ml、および50mM o−phthalaldehydeと50mM DTTの等量混合溶液を50μlずつ添加し、室温で2時間反応させた。反応溶液は200μl分を白色プレート(コースター・コーニング社)に移し、Spectra max GEMINI(Molecular Devices社)を用いて励起波長413nm、蛍光波長476nmの各波長を測定した。酵素を含まないウェルの測定値をバックグラウンドとして差し引き、検量線作成用硫酸アンモニウムを添加したウェルでの測定値から検量線を描くことにより、反応によって生成したアンモニウムイオンの濃度を求めた(図2A)。
2.PADI4活性の測定方法(吸光法)
酵素反応用の緩衝液として、100mM Tris/HCl(pH7.6)、10mM CaCl、5mM DTT、10mM BAEE(Sigma)を含む溶液を調製した。この緩衝液40μlと、113μg/mlの実施例5で調整したV18酵素原液(113μg/ml)の希釈列10μlをPCR反応プレート(Applied Biosystems社)内にて混合し、50℃もしくは37℃で2時間反応させた。反応後、A液(80mM Diacetyl monoxime(3−hydroxyimino 2−butane)、2mM thiosemicarbazide)を含む)とB液(3M HPO、6M HSO、2mM NHFe(SOを含む)を1:3の比率で混合した溶液を150μlずつ添加した。なお同時に、検量線作成のため、0−400μMのL−シトルリン溶液も別のウェルへ添加し、同様にA液とB液の混合溶液を添加した。混合溶液は、サーマルサイクラー(GeneAmpTM PCR System 9700、Applied Biosystems社)を使用して95℃15分の後室温で10分反応させた。反応後の溶液は150μl分を96ウェルプレート(コーニング社)に移し、Spectra max 250(Molecular Devices社)を用いて540nmの吸光度を測定した。酵素を含まないウェルの測定値をバックグラウンドとして差し引き、検量線作成用シトルリンを添加したウェルでの測定値から検量線を描くことにより、反応によって生成したシトルリンの濃度を求めた(図2B)。
3.ヒトPADI4ハプロタイプV9およびV18の酵素活性
吸光度法を用いてヒトPADI4ハプロタイプV9およびV18の酵素活性を測定し、比較した(図3)。図3から明らかなように、V9はV18に比べて有意に酵素活性が高いことが確認された(P<0.01)。以上より、RA病変に関連したPADI4タイプ(V9)は正常PADI4タイプ(V18)よりもその酵素活性が高く、こうした酵素活性の違いがRA発症と何らかの関連を有することが推測された。
〔実施例7〕 RA患者のPADI4ジェノタイプと抗シトルリン化フィラグリン抗体価との関連
1.抗シトルリン化ペプチド抗体価の測定方法
RA患者血清の抗シトルリン化ペプチド抗体価をMESACUP ACFテストは、医学生物学研究所(名古屋)委託して作製したキットを用いて行った。MESACUP ACFテストとは、リコンビナント ヒトフィラグリンペプチドをPADによりシトルリン化した、シトルリン化フィラグリンを抗原として、ELISA法により抗体価を測定する方法である。
まず、患者末梢血より血清を調製し、10μlを反応用緩衝液1mLに加えて101倍希釈した。抗フィラグリン抗体標準血清2、標準血清1および希釈した検体を150μLずつ一次反応準備用マイクロプレートに実際と同じように添加した。その後、抗原感作マイクロカップにマルチピペットを用い100μLずつ移した。室温(20〜25℃)で1時間静置反応させた後、洗浄液で4回洗浄し、酵素標識抗体をマルチピペットで100μLずつ添加した。その後、室温(20〜25℃)で1時間静置反応させ、反応停止液をマルチピペットで100μLずつ添加した。
各反応後のサンプルを分光吸光度計を用いてOD450を測定し、Index値を下式を用いて算出した。

2.PADI4ジェノタイプと抗シトルリン化フィラグリン抗体価との関連
PADI4 intron 3−15 T/Cジェノタイプの決められた、RA患者57人につき、血清中の抗合成シトルリン化フィラグリン抗体価を測定した。
カットオフ値10にて、分割表検定を行ったところ、下表2のようになった。

罹患ホモ接合体(TT)のジェノタイプと他のジェノタイプとの間の比較をFisher’s正確検定(One−sided)にて行ったところ、p=0.0284を得た。すなわち、RA患者内において、罹患ホモ接合体(TT)のジェノタイプを有する患者では抗シトルリン化フィラグリン抗体価が他のジェノタイプを有する患者に比較して有意に高いことが示された。この結果と実施例4、6の結果より、PADI4ジェノタイプの違いは、mRNAの安定性や酵素活性といったPADI4フェノタイプの変化をもたらし、シトルリン化タンパクのレベルの亢進につながる可能性が高いことが推測された。
〔実施例8〕 RA患者滑膜組織におけるPADI4発現量の検討
1.In situ−RT−PCR
RA患者の滑膜組織から調整した組織片にPro STAR HF(Stratagenes社)を添加し、以下の条件でOne step In situ−RT−PCRをHybaid Omnislide(Hybaid Ltd.,Middlesex,UK)上にて実施した。
(1)42℃ 30分
(2)94℃ 2分,55℃ 45秒,68℃ 2分
(3)94℃ 45秒,55℃ 45秒,68℃ 2分、25サイクル
PCR反応後のスライドグラスはPBSにて5分間ずつ2回洗浄した。
hPADI4 V18のcDNA(配列番号16)を鋳型に、以下のPADI4増幅用プライマーを用いてPCRを行い、得られた335塩基長の増幅産物をジゴキシゲニン(DIG)標識して、PADI4検出用プローブとした。

なお、DIG標識はPCR DIG probe synthesis kit(Roche Diagnostics社)を用いて行った。
逆転写後のサンプルに、前述のプライマーを最終濃度0.34μMとなるように加え、スライドグラスを被せて37℃1時間プレハイブリダイゼーションを行った。次いで、94℃で5分間変性させたDIG標識プローブを加え、37℃で12時間ハイブリダイゼーションを行った。反応後のスライドを洗浄し、digoxygenin detection kit(Roche Diagnostics社)を用いてPADI4遺伝子の検出を行った。陰性対照として、プライマー非添加、反応酵素非添加の条件で同様に検出を行った。
2.結果
結果を図4に示した。PADI4の転写産物はRA患者滑膜組織の表層(lining)と滑膜表層下(sub−lining layer)付近に局在していた。また、シグナルは繊維芽細胞様細胞や血管周囲の球状核細胞(round−nuclear cell)中で観察された。
〔実施例9〕 マウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)におけるPADI4遺伝子発現量の検討
マウスにコラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導し、その滑膜組織および脾臓組織における、マウス ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV(mPADI4)遺伝子の発現量について検討した。なお、mPADI4は、ヒトペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV(hPADI4)のマウスオーソログである。mPADI4のcDNA配列とアミノ酸配列はそれぞれ配列表の配列番号18および配列番号19に記載した。
1. マウスCIAモデルの作製
DBA/1Jマウス(5週齢の雌、日本チャールスリバー(株)より購入)は、CIA群(N=11)と健常群(N=11)に分けた。CIA群は訓化後、タイプIIコラーゲン2mg/ml(コラーゲン技術研修会)およびADJUVANT COMPLETE FREUND(DIFCO)を等量の割合で混ぜ、超音波によりエマルジョン化したものを、1匹あたり100μl、一週間の間隔をおいて計2回尾根部に皮内投与した。最終的に、CIA群は発症が見られた5匹7肢を、健常群は11匹22肢を以下の実験に供した。
2.滑膜組織および脾臓組織における、mPADI4遺伝子発現量の測定
マウスは2回目の投与後7週目に断頭放血により致死させ、滑膜組織および脾臓組織をハサミおよびピンセットで摘出した。摘出した組織より、RNeasy mini kitまたはRNeasy midi kit(QIAGEN社)を用いて、添付のプロトコールに従い全RNAを調製した。調製した全RNAより、TaKaRa RNA PCRTM Kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa)を用いて、添付プロトコールに従いcDNAを合成した。
mPADI4遺伝子の発現は、ABI PRIZM 7700 System(Applied Biosystems社)を用いたRT−PCRにより検討した。用いたmPADI4遺伝子増幅用プライマー、およびmPADI4遺伝子検出用プローブは以下のとおりである。

なお、mPADI4遺伝子発現量は、内部標準として用いたマウスβ−glucuronidase(mGUS)遺伝子の発現量で補正した。MGUS4遺伝子増幅用プライマー、およびMGUS4遺伝子検出用プローブの配列は以下のとおりである。

3. 結果
結果を図5に示した。CIA群滑膜組織では健常群滑膜組織に比べmPADI4の発現量は19.5倍に上昇していた。また、CIA群脾臓組織では健常群脾臓組織に比べmPADI4の発現量は3倍に上昇していた。以上よりCIA群では、滑膜組織および脾臓組織においてmPADI4遺伝子発現が著しく上昇することが確認された。
〔実施例10〕 抗PADI4抗体(抗PADI4ペプチド抗血清)の調製
ヒトPADI4由来のペプチド配列(PAKKKSTGSSTWP−Cys:配列番号15)を合成し(オリエンタル酵母北山ラベス,ペプチド合成機:アプライドバイオシステムズジャパン株式会社,Pioneer,合成法:Fmocアミノ酸を用いた固相合成)、KHL(Keyhole limpet hemocyanin,CALBIOCHEM)をMBS(PIERCE)法を用いてコンジュゲーションした。
免疫動物はウサギ(Kbl:JW,オス,週齢:リタイア)を使用し、初回免疫において、FCA(フロイント完全アジュバント,DIFCO)と抗原との等量混合液を背部皮下に注射した。初回免疫はこの抗原を600μgペプチド/匹用いて行った。2回目以降はFIA(フロイントの不完全アジュバント,DIFCO)と抗原との等量混合液を2週間おきに3回背部皮下に注射した。2次免疫以降はこの抗原を300μgペプチド/匹用いて行った。最終免疫から2週間後に全採血し、3000rpmにて20分間、遠心し、血清を分離回収したのち、NaN(和光純薬)を0.05%(w/v)添加し、4℃(冷蔵)にて保存した。
〔実施例11〕 RA患者関節滑膜組織片の免疫染色
1.関節滑膜組織切片の調製
人工膝関節置換術に際して得られた切離組織より、関節滑膜組織片を得た。得られた滑膜組織片は即座に液体窒素中に漬け、スライドグラス上薄層切片作製まで−80℃で保存した。薄層切片化に際し、凍結組織片を10%中和緩衝ホルマリンにて固定し、70%エタノール、85%エタノール、90%エタノール、100%エタノール(100%エタノールの場合に限り2回)にて各1時間脱水処理し、ついで、50%エタノール50%パラフィン溶液で30分間にて1回、100%パラフィン溶液で30分間にて2回、処理し、組織片をパラフィン化した。その後、組織片をパラフィン中に包埋した。パラフィン包埋組織片はライカミクロトームRM2165で4μmの厚さにスライスし、スライドグラスに固定した。
2.免疫染色
免疫染色に先立ち、前項で調製したパラフィン包埋切片をキシレンに3分間ずつ2回つけ、脱パラフィン化した後、100%エタノールに1分間ずつ2回、95%エタノールに1分間ずつ2回、さらにPBS(0.13M NaCl,8.6mM K2HPO4,1.5mM KH2PO4)に3分間ずつ2回つけ、再水和した。30%Hメタノール溶液で3分間処理し、内在性ビオチンを除去した。PBSにて5分間ずつ2回、洗浄し、1000倍希釈したそれぞれの抗体:抗シトルリン化タンパク質抗体(Biogenesis社)と実施例10で調製した抗PADI4抗体とを加えて4℃にて12時間反応させた。反応後、PBSにて5分間ずつ2回洗浄し、SimpleStain MAX−PO(Nichirei)を1スライドにつき100μlずつ加え、25℃にて30分間反応させた。その後、PBSにて5分間ずつ2回洗浄を行った。基質として、SimpleStain AEC(Nichirei)を1スライドにつき100μlずつ加え、シグナルが検出されるまで5分から20分反応させた。反応は超純水につけて停止させた。
3.結果
結果を図6および図7に示す。RA患者の滑膜組織ではPADI4を特異的に認識する抗体による反応(Aの枠で囲った箇所の赤い部分)が認められたが、関節リウマチの陰性対照である変形性関節症(OA)患者の滑膜組織にはPADI4を認識する抗体による反応は認められなかった(図6B)。また、RA患者の滑膜組織では、PADI4とほぼ同じような部分にシトルリン化タンパク質が認められた(図7)
〔実施例12〕 ヒトPADI4 mRNAの安定性比較
1.mRNAの調製
2つのPADI4ハプロタイプのmRNAは、以下の方法で調製した。
V9もしくはV18をコードする遺伝子をCMVプロモーターの下流につないだプラスミドを、リポフェクトアミン2000(Invitrogen社)を用い、添付のプロトコールに従ってヒトK562細胞への遺伝子導入を行った。37℃で4時間培養した後、PMA(Sigma社)を最終濃度50ng/mlとなるように添加した。40時間培養した後、アクチノマイシンD(Sigma社)を最終濃度5μg/mlとなるように添加し、0、2、4時間後にそれぞれ細胞を回収した。
次いで、全RNA抽出用試薬(RNeasy MiniおよびRNase−Free Dnase set:QIAGEN社)を添付のプロトコールに従って用いることにより、全RNAを抽出した。なお、回収した全RNAは−80℃に保存した。残存したヒトPADI4 V9もしくはV18のmRNAを、TaqMan One−step RT−PCR Master Mix(Applied Biosystems社)を用い、指定のプロトコールに従って、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社)を用いて測定した。なお、得られたデータはリボゾーマルRNA(18S)の値を用いて補正した。
2.結果
図8に示すように、PADI4 V9のmRNAは、PADI4 V18に比べて有意に分解し難い傾向にあることが分かった(T検定より、4時間後でp=0.03)
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
本発明は、医薬開発において、慢性関節リウマチ治療薬のスクリーニングに利用できる。また、本発明は、医療の分野において、被験者が慢性関節リウマチを発症する潜在的危険度の早期判定に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1−ヒトPADI4遺伝子断片(第1イントロン−1000〜第4イントロン)
−変異の説明:(A)と(G)の置換による一塩基多型
−変異の説明:(C)と(T)の置換による一塩基多型
−変異の説明:(C)と(G)の置換による一塩基多型
−変異の説明:(C)と(T)の置換による一塩基多型
−変異の説明:(C)と(T)の置換による一塩基多型
配列番号2−人工配列の説明:プローブ
配列番号3−人工配列の説明:プローブ
配列番号4−人工配列の説明:プローブ
配列番号7−人工配列の説明:プライマー
配列番号8−人工配列の説明:プライマー
配列番号9−人工配列の説明:プライマー
配列番号10−人工配列の説明:プライマー
配列番号11−人工配列の説明:プローブ
配列番号12−人工配列の説明:プライマー
配列番号13−人工配列の説明:プライマー
配列番号14−人工配列の説明:プローブ
配列番号15−人工配列の説明:ヒトPADI4由来ペプチド
【配列表】























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子若しくはそのオーソログ遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法。
【請求項2】
下記の工程を含む、請求項1に記載の方法:
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
2)上記動物の血液または細胞中におけるペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子またはそのオーソログ遺伝子の発現量を検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
【請求項3】
遺伝子の発現量が、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
遺伝子の発現量が、RT−PCR法によって検出されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
下記の工程を含む、請求項1に記載の方法:
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
2)上記動物の血液または細胞中において、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子またはそのオーソログ遺伝子にコードされる蛋白質の発現量を、該蛋白質に特異的に結合する抗体を用いて検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、上記発現量の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
【請求項6】
蛋白質の発現量が、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
蛋白質の発現量がELISA法によって検出されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞が血液由来細胞、滑膜細胞、脾臓細胞、および腹腔浸潤細胞から選ばれることを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
動物がマウスであり、マウスペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子、または該遺伝子にコードされる蛋白質の発現量を検出することを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
下記の工程を含む、請求項1に記載の方法:
1)アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質を加える。
2)上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質の活性を測定する。
3)被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
【請求項11】
蛋白質の活性が、蛍光法または吸光法を利用して測定されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質がヒトペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質である、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
検体中の配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質、またはその遺伝子(配列番号20)の発現量に基づいて、該検体を提供した被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する方法。
【請求項14】
以下の工程を含む、請求項13に記載の方法:
1)被験者および正常人から単離された各検体より全RNAを調製する;
2)上記全RNA中における変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子のmRNAの発現量を検出する;
3)被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する。
【請求項15】
遺伝子の発現量が、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
遺伝子の発現量が、RT−PCR法によって検出されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、請求項13に記載の方法:
1)被験者および正常人から単離された検体中における、変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合しうる抗体を用いて検出する;
2)被験者と正常人における上記発現量の相違を解析し、該被験者の慢性関節リウマチの発症危険度を予測する。
【請求項18】
蛋白質の発現量が、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
蛋白質の発現量がELISA法によって検出されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
以下のa)〜e)からなる群より選ばれる少なくとも1以上を含む、慢性関節リウマチの発症危険度を予測するためのキット。
a)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)配列番号20に示される塩基配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV遺伝子に特異的にハイブリダイズし、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
【請求項21】
配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質に対する阻害効果を指標として、被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する方法。
【請求項22】
下記の工程を含む、請求項21に記載の方法:
1)アルギニン含有化合物を含む反応液に、被験物質の添加または非添加条件下で、変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質を加える;
2)上記反応液中における反応生成物の量を定量することにより、変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質の活性を測定する;
3)被験物質の添加または非添加条件下における、上記活性の相違に基づいて、該被験物質の慢性関節リウマチ治療薬としての効果を評価する。
【請求項23】
配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる変異型ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ・タイプIV蛋白質。

【国際公開番号】WO2004/065633
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508091(P2005−508091)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000430
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】