説明

ペプチドキレート含有肥料

【課題】窒素源として蛋白産業廃棄物を再利用すると共に、安価で且つ容易に製造可能であり、優れた肥料効果を発揮する肥料の提供。
【解決手段】蛋白質加水分解物と、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属イオンから形成されるペプチドキレート化合物からなる肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドキレート化合物からなる肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料は、植物の栄養のために植物や土壌に施されたり、植物の栽培に資するために土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施される。植物の成育に必要な必須要素は、多量要素である、窒素、燐、加里、炭素、酸素、水素、カルシウム、マグネシウム、硫黄と、微量要素である、マンガン、鉄、銅、亜鉛、硼素、モリブデン、塩素であるとされ、種々の肥料より植物へ供給される。
【0003】
肥料成分は、水に溶ける水溶性、2%のクエン酸に溶けるく溶性、1/2規定の塩酸に溶ける可溶性の3種に分類される。このうち、水溶性の肥料成分は速効性であり、緊急を要する用途に最適である。微量要素である各元素を水溶性の肥料成分とするには、例えば各元素を硫酸塩や酸化塩の形態にして水に溶解させる方法があるが、この方法では沈澱物を生じ散布できない場合や土壌中で不溶化するという問題があった。このため、微量要素である各元素をキレート化する方法が提案されている。
【0004】
キレート化剤としては、エチレンジアミン、ビピリジン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、フェナトロリンなどの鎖状配位物やポリフィリン、クラウンエーテルなどの環状配位物質が利用されているが、最近では、アミノ酸と金属とを混合して形成されたキレート化合物を含有する肥料も報告されている(特許文献1〜2)。
【0005】
しかしながら、EDTAは高価であるため経済的に問題であり、またEDTAが分解されないという課題がある。アミノ酸キレート化合物はアミノ酸と金属塩との結合割合が厳格であり、またアミノ酸が高価であることから、汎用性ある肥料としては不向きである。
【0006】
一方、蛋白産業廃棄物、例えば、皮革産業におけるカット屑、シェーヴィング屑、廃棄される自動車のシート皮革物、魚市場などから排出される魚類廃棄物、食肉加工工場から出されるカット肉屑や動物や鶏などの毛などの廃棄物、洋服の縫製工場などから出される羊毛屑、ふとんなどに利用されているフェザー、ダウンなどの洗浄工程上の屑等、が多くの産業から排出されている。特に産業廃棄物として年間22000トンが焼却処分されているといわれている皮革製造副産物は、炭酸ガス排出規制における環境保護の観点から再利用への検討が急務になっている。
【0007】
他方、蛋白質加水分解物と金属イオンとのキレートは、蛋白質加水分解生成物と第1鉄塩から得られる分子量30万以下のキレート化合物が泡消火剤となり得ることが報告されているが(特許文献3)、蛋白質加水分解物がクルードな状態でキレート形成することは知られておらず、肥料として使用することもこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−151589号公報
【特許文献2】特開2002−173388号公報
【特許文献3】特公平3−33031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、窒素源として蛋白産業廃棄物を再利用すると共に、安価で且つ容易に製造可能であり、優れた肥料効果を発揮する肥料を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、蛋白質加水分解物が、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属イオンに対して安定化なキレートを形成し、当該キレート化合物が肥料成分として有効に機能することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)〜8)の発明に係るものである。
1)蛋白質加水分解物と、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属イオンから形成されるペプチドキレート化合物からなる肥料。
2)蛋白質加水分解物が、蛋白質材料を5〜20%(w/v)濃度のアルカリ溶液を用いて、50〜80℃で1〜6時間処理して得られる上記1)の肥料。
3)蛋白質材料を浴比1:1〜1:5の水酸化カリウム溶液(5〜20%(w/v))を用いて処理する上記2)の肥料。
4)蛋白質加水分解物の平均分子量が1,000〜50,000である上記1)〜3)の何れかの肥料。
5)蛋白質材料を浴比 1:1〜1:5の水酸化カリウム溶液(5〜20%(w/v))を用いて、50〜80℃で1〜6時間加水分解処理し、中和処理した後、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属の塩を添加することにより得られるペプチドキレート化合物含有肥料。
6)蛋白質材料が、蛋白廃棄物由来のものである上記2)〜5)の肥料
7)産業廃棄物が、皮革廃材又は皮革製造副産物である上記6)の肥料。
8)上記1)〜7)の肥料を含有する肥料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペプチドキレート化合物は、土壌中で安定であり、かつ肥料として植物に栄養として利用され、土壌環境にも良好な農業資材となり得る。また、原料として年間2万トン近く焼却処分されている皮革廃材や皮革製造副産物等の産業廃棄物を利用できることから、安価で製造でき、同時に資源の再利用を図ることができる。すなわち、本発明によれば、環境保護と農業資源の確保という2局面の問題を解消しつつ、高付加価値を付けた肥料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】可視部波長領域の吸光度変化を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、蛋白質加水分解物としては、蛋白質に存在する化学結合の一部をアルカリを用いて加水分解し、当該蛋白質を低分子化したものが挙げられる。
ここで、用いられる蛋白質材料は、動物源、植物源の何れものでもよく特に制限されないが、蛋白質廃棄物を用いるのが好ましい。当該蛋白質廃棄物としては、皮革産業におけるカット屑、シェーヴィング屑、廃棄車等のシート皮革等の皮革廃棄物、魚市場などから排出される魚類廃棄物、食肉加工工場から出される肉類廃棄物、動物や鶏などの毛廃棄物、洋服の縫製工場などから出される羊毛屑、布団などに利用されているフェザー、ダウンなどの羽毛屑等が挙げられ、このうち大量に焼却処分されている皮革廃棄物を用いるのがより好ましい。
【0014】
加水分解処理に当たり、蛋白質材料はそのまま用いることができるが、反応効率の点から、適度に粉砕されたものを用いるのが好ましい。
【0015】
アルカリによる加水分解処理は、蛋白質材料を、アルカリ水溶液中に加えることにより行われる。当該アルカリとしては、タンパク質やペプチドの加水分解に通常用いられるもの、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等が挙げられ、対象のタンパク質原料の性質等によって適宜選択すればよいが、肥料成分としてそのまま使用できる水酸化カリウムを用いるのが好ましい。
【0016】
加水分解は、蛋白質材料を浴比1:1〜1:5のアルカリ溶液を用いて行うのが好ましく、浴比1:1〜1:2で行うのがより好ましい。
ここで、浴比とは、蛋白質材料の質量(g)とアルカリ溶液の液量(ml)の比である。すなわち、蛋白質材料100gとアルカリ溶液の液量100mlの場合は浴比が1:1であり、蛋白質材料の質量100gとアルカリ溶液の液量200mlでは1:2となる。
また、アルカリの濃度は、対象の蛋白質原料に適した条件を適宜選択すればよいが、5〜20%(w/v)の範囲が好ましく、10〜20%(w/v)とするのがより好ましい。
【0017】
加水分解処理は、上記のアルカリ溶液中で蛋白質原料を振とう又は攪拌することによって行われる。反応は、通常50〜80℃の範囲内で、1〜6時間処理するのが好ましく、60〜70℃で、3〜6時間処理するのがより好ましい。
【0018】
斯くして調製される蛋白質の加水分解物は、排除限界クロマトグラフ法により測定した質量平均分子量が1,000〜50,000であるのが好ましく、3,000〜30,000であるのがより好ましい。
【0019】
加水分解反応終了後、硫酸等の酸を用いて中和処理を行った後、必要に応じて濾過等を行い加水分解物を単離してもよいが、引き続き処理溶液中で金属塩とキレート形成を行うことができ、特にアルカリとして水酸化カリウムを用いた場合には、加水分解、中和処理に引き続きキレート形成を行うのが好ましい。
【0020】
金属塩とのキレート形成は、適当な溶媒中、上記蛋白質加水分解物に対して、金属塩を0.1〜2質量%濃度、好ましくは0.1〜1質量%濃度で添加し、pH6〜9、好ましくは7〜9で、5〜30分間、20〜40℃で撹拌することにより行うことができる。
金属塩としては、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属の、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、塩化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
得られたペプチドキレート化合物は、そのままでも肥料又は肥料原料として使用可能であるが、目的に応じて、適宜、濾過、排除限界クロマトグラフ等の分離・精製手段を用いて単離し、使用することでもよい。
【0022】
斯くして得られるペプチドキレート化合物は、後記実施例に示すように、安定性が高く土壌へ施用されて、作物中へ良好に吸収され、肥料効果を発揮し、その効果はアミノ酸キレート化合物よりも優れている。従って、ペプチドキレート化合物を含有する溶液は、そのもの単独で液体の肥料又は肥料原料とすることができ、また、スプレードライ機や凍結乾燥等による乾燥を行い粉体化すること、他の有機物、鉱物などへ配合・吸着させること、或いは粉末や固体へ配合する等して粉末若しくは成形した固形の肥料又は肥料原料となる。特に、水酸化カリウムを用いて蛋白質原料を加水分解した場合、中和処理に引き続きキレート形成を行うことにより、処理溶液をそのまま肥料又は肥料原料とすることができる。
【0023】
また、斯かるペプチドキレート化合物に、更に窒素質肥料、リン酸質肥料、カリ質肥料、石灰質肥料、苦土質肥料、マンガン質肥料、ホウ素質肥料等の公知の肥料成分や各種担体、例えば糖分、有機酸、界面活性剤、分散剤、展着剤等を配合し、常法により任意の形態の肥料組成物とすることができる。
ここで、窒素質肥料としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸石灰、硝酸苦土等の硝酸態窒素含有肥料、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸アンモニウムナトリウム等のアンモニア態窒素含有肥料、尿素等の尿素態窒素含有肥料等を挙げることができる。
リン酸質肥料としては、例えば、リン酸第一アンモニウム、リン酸第二アンモニウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔成リン肥、腐食酸リン肥、焼成リン肥、リン酸苦土、副産リン肥料等を挙げることができる。
カリ質肥料としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸カリウム苦土、重炭酸カリウム、腐食酸カリウム肥料、粗製カリウム塩、被覆カリウム肥料、液体珪酸カリウム肥料、副産カリウム肥料、混合カリウム肥料等を挙げることができる。
石灰質肥料としては、例えば、生石灰、消石灰、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム等を挙げることができる。
苦土質肥料としては、例えば、硫酸苦土、水酸化苦土、腐食酸苦土、酢酸苦土、加工苦土肥料、リグニン苦土肥料、混合苦土肥料、硝酸苦土、苦土石灰等を挙げることができる。また、リン酸質肥料として挙げた熔成リン肥等は苦土質肥料としても使用できる。
マンガン質肥料としては、例えば、硫酸マンガン等のマンガン化合物を主成分とするものを挙げることができる。
ホウ素質肥料としては、例えば、ホウ酸肥料、ホウ酸塩肥料等の水溶性ホウ素を含有する肥料等を挙げることができる。
【0024】
肥料組成物の形態は、液体、水和剤、粒剤、粉剤等のいずれでもよい。
肥料組成物中のペプチドキレート化合物の含有量は、1〜5質量%とするのが好ましく、更に3〜5質量%とするのが好ましい。
【0025】
本発明の肥料又は肥料組成物の植物への供給方法としては、色々な手段を使うことができる。例えば、原液又は希釈された水溶液を葉面、茎、果樹等直接植物に散布したり、土壌中に注入する方法や水耕栽培やロックウールのように根に接触している水耕液や供給水に希釈混合して供給する方法が挙げられる。
【実施例】
【0026】
実施例1 皮革製造副産物を用いたペプチドキレート化合物の調製
(1)加水分解
皮革製造副産物を、浴比1:1〜1:30の範囲で水酸化カリウム溶液(濃度5%〜20%(w/v))中に投入し、反応温度を室温、60℃及び70℃に設定し、6時間加水分解を行った。
尚、皮革製造副産物は、メルクス株式会社より入手したものを使用した。
【0027】
(2)濃度10%(w/v)水酸化カリウム溶液、浴比1:1、70℃、6時間処理した場合の加水分解物の分子量を以下の方法により測定した。
1)測定方法
Shodex社PROTEIN KW-802.5 カラムを用いて、排除限界クロマトグラフ法にて測定を行った。又、分子量標準品としてオリエンタル酵母工業株式会社製の MW-MARKER PROTEINS(HPLC) を用いた。
2)結果
上記標準品の溶出時間より較正曲線を作成し、加水分解物の分子量を算出した結果、分子量は25000〜35000のペプチド残鎖であることが確認された。
【0028】
(3)キレートの形成
1)(1)で得られた加水分解溶液(浴比1:1、水酸化カリウム溶液(10%(w/v))、70℃、6時間処理)を5規定硫酸を用いてpHを7.5に調整した。
【0029】
2)中和処理後の加水分解溶液に、塩化亜鉛溶液(Znで0.2質量%)、および硫酸アンモニウム第二鉄溶液(Feで0.2質量%)を添加してキレート化合物を調製した。
比較として、塩化亜鉛溶液(Znで0.2質量%)、および硫酸アンモニウム第二鉄溶液(Feで0.2質量%)に1規定水酸化カリウム溶液を添加し、金属水酸化物の沈殿発生の有無を確認する定性試験を行った結果、塩化亜鉛溶液、および硫酸アンモニウム第二鉄溶液に水酸化カリ溶液を添加したものは金属水酸化物の沈殿が発生したが、皮革製造副産物の加水分解液に金属塩を添加し反応させたものには沈殿が見られなかった。このことにより蛋白質加水分解物が亜鉛および鉄とキレート結合を形成していることが確認された。
さらに、このペプチドキレート溶液の可視部(350nm〜500nm)の吸収スペクトルを測定した結果、可視部において鉄を添加したもので、顕著な吸光度の増加が認められた。このことにより分子内において構造的変化が起こったものと考えられた(図1)。
【0030】
3)マンガン及び銅について、以下の条件で、2)と同様な試験を実施したところ、安定な溶液を調製することができた。また、前述したキレート確認の定性試験も同様に行った結果、水酸化カリ溶液を添加しても金属水和物の沈殿が発生せず、ペプチドキレート形成が確認された。
a)加水分解:浴比1:1、水酸化カリウム溶液(10%(w/v))、70℃、6時間処理
b)キレート形成:硫酸マンガン(Mnで濃度0.5質量%)、硫酸銅(Cuで濃度0.2質量%)で25℃、30分間処理
【0031】
(4)金属塩の濃度検討
(1)で得られた加水分解溶液を硫酸を用いて中和処理を行った。これに、金属亜鉛元素として、塩加亜鉛(0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%)、硝酸亜鉛(0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%)、硫酸亜鉛(0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%)、鉄元素として硫酸第二鉄(0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.4質量%)、硫酸アンモニウム第二鉄(0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%)、塩加第二鉄(0.2質量%、0.3質量%、0.4%重量)の濃度で攪拌添加し、25℃で30分の反応を行い、ペプチドキレート化合物を得た。
【0032】
これらペプチドキレート金属類に1規定水酸化カリウム溶液を添加し、沈殿発生の程度と低温保存4℃での結晶の発生の程度を観察したところ、Fe、Cu、Zn、で0.2質量%、Mnで0.5質量%が最も好ましい濃度であった。
【0033】
実施例2 灌注による土壌からの吸収試験
(1)試験液の調製
皮革製造副産物100gを100mlの10%(w/v)水酸化カリ溶液と混合し、70℃で6時間振とう攪拌しで加水分解を行った。
反応後、硫酸を用いて中和処理を行い、硫酸第二鉄をFeで0.2質量%を加え25℃で30分攪拌しペプチドキレート鉄溶液を調製した。
【0034】
(2)供試作物の調製
1万分の1アールサイズのポットに栃木県採取の黒ボク土(最大容水量50g/100g・乾土)900gに肥料成分で窒素80mg、リン酸80mg、カリ80mgを混合・充填し、コマツナ(タキイ種苗・極楽天)を1ポットに3〜4粒播種し、最終的に間引いて1ポット当り3株とした。試験構成は試験区と対照区処理で各7連のポットを準備した。調製期間中の土壌水分は最大容水量の60%に調製し、コマツナを育成した。
【0035】
(3)試験方法
調製したコマツナのポットに(1)で調製したペプチドキレート鉄液を水で300倍に希釈し、1ポットあたり100ccを灌注した(試験区)。対照区はイオン交換水を1ポットあたり100cc灌注した。灌注処理の回数は収穫調査までに3日おきに7回行った。生育調査項目として、葉色、茎葉長、地上部新鮮重、作物体中の鉄含量を測定した。
鉄含量の測定は、原子吸光光度法により行った。
また、葉色は、コニカミノルタセンシング(株)社製の葉緑素計SPAD−502を用い測定した。
(4)試験結果
表1より、ペプチドキレート鉄の灌注処理(試験区)によってコマツナの生育が促進され茎葉長、新鮮重量も対照区を上回り、旺盛な生育を示した。
また、表2に示したように、コマツナ体中の鉄含有量も増加しペプチドキレート鉄が作物に吸収されたことが確認できた。
以上より、本発明のペプチドキレート化合物は優れた肥料効果をもつことが確認された。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例3 ペプチドキレート鉄とアミノ酸キレート鉄との比較試験
(1)試験液の調製
ペプチドキレート鉄溶液を実施例2(1)と同様の方法で調製し、比較するアミノ酸キレート鉄としてアラニンキレート鉄溶液を調製して試験に供した。
アラニンキレート鉄溶液は、実施例2の溶液中の全窒素含量と同等の窒素を有するアラニン溶液を調製し、そこに塩化第二鉄をFeで0.2%重量%を加えて25℃で30分攪拌することにより調製した。
【0039】
(2)供試作物の調製
小松菜の種をロックウールに播種し、発芽後に鉄を含まない水耕培養液で育苗して鉄欠乏状態の小松菜苗を各試験区4ポット、20株ずつ作製した。
【0040】
(3)試験方法
(2)で作製した鉄欠乏状態の小松菜苗に(1)で調製した溶液を各100倍希釈したものを葉面散布した。コントロールとして、イオン交換水の散布を行った。初回散布から1日1度の葉面散布を計5回行い、小松菜の新鮮重量と葉の緑色強度を測定した。
【0041】
(4)試験結果
表3に示したように1ポットあたりの新鮮重量に変化は認められなかったが、コニカ・ミノルタ製の葉緑素計SPAD−502を用いて、試験終了時の葉の緑色強度(以下SPAD値とする)を測定した結果、SPAD値はペプチドキレート鉄>アラニンキレート鉄>イオン交換水の順で減少し、目視による判定でもSPAD値の減少に応じて葉色は薄くなることが確認された。
鉄は植物の葉色を鮮やかにし、光合成に必要な葉緑素の増加に必須である。以上より、その吸収は、アミノ酸キレート鉄よりもペプチドとキレート結合を形成した構造がより効果的であることが判明し、ペプチドキレート鉄をはじめとする本発明のペプチドキレート化合物は優れた肥料効果を発揮することが確認された。
【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質加水分解物と、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属イオンから形成されるペプチドキレート化合物からなる肥料。
【請求項2】
蛋白質加水分解物が、蛋白質材料を5〜20%(w/v)濃度のアルカリ溶液を用いて、50〜80℃で1〜6時間処理して得られる請求項1記載の肥料。
【請求項3】
蛋白質材料を浴比1:1〜1:5の水酸化カリウム溶液(5〜20%(w/v))を用いて処理する請求項2記載の肥料。
【請求項4】
蛋白質加水分解物の質量平均分子量が1,000〜50,000である請求項1〜3の何れか1項記載の肥料。
【請求項5】
蛋白質材料を浴比 1:1〜1:5の水酸化カリウム溶液(5〜20%(w/v))を用いて、50〜80℃で1〜6時間加水分解処理し、中和処理した後、鉄、亜鉛、マンガン及び銅から選ばれる金属の塩を添加することにより得られるペプチドキレート化合物含有肥料。
【請求項6】
蛋白質材料が、蛋白廃棄物由来のものである請求項2〜5のいずれか1項記載の肥料。
【請求項7】
産業廃棄物が、皮革廃材又は皮革製造副産物である請求項6記載の肥料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の肥料を含有する肥料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−132524(P2010−132524A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57624(P2009−57624)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】