説明

ペリクルフレーム、その製造方法、及びペリクル

【課題】炭素繊維に樹脂を含浸させた複合体を利用し、寸法を変更することなく全体の剛性を向上でき、軽量化可能で且つ製造が簡単なペリクルフレームを提供する。
【解決手段】ペリクルフレーム10は、長方形形状のペリクルフレーム10の各辺が、長繊維状の炭素繊維と樹脂との複合材料から成る細長材14,20によって形成され、前記炭素繊維は、細長材14,20の長手方向に配向されていることを特徴とする。細長材14,20の全表面は、前記炭素繊維が露出しないように樹脂皮膜で覆われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板或いは液晶ディスプレイ等を製造する際に、ゴミよけとして使用されるペリクルフレーム並びにその製造方法、及びペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体製造或は液晶ディスプレイ等の製造では、半導体ウエハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製する。この際に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、短にフォトマスクと称する)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり或いは光を曲げてしまうため、転写したパターンが変形したり、パターンのエッジががさついたものとなる。更に、パターンを転写した下地が黒く汚れたりするなど、転写したパターンの寸法、品質、外観などが損なわれるということがある。このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミよけとして、ペリクル膜を貼付したペリクルをフォトマスクに貼り付けて露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上の異物は転写映像に影響を与えない。
【0003】
一般に、ペリクルは、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素樹脂等の透明なペリクル膜を、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレン等で形成された枠状のペリクルフレームの上端面に貼り付ける。更に、ペリクルフレームの下端にはフォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層、及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられる。
【0004】
ところで、薄いペリクル膜を緩みなくペリクルフレームで支持するには、適切な大きさの張力がかかった状態でペリクルフレームに接着することを要する。このため、従来のペリクルでは、ペリクル膜を貼り付けた後のペリクルフレームに、ペリクル膜の張力によって若干内側への撓みが生じている。この現象は、例えばプリント基板や液晶ディスプレイ製造に用いられる大型のペリクルでは顕著に現れる。このようにペリクルフレームが撓んでいる、すなわち外形の直線性が悪いペリクルの場合、フォトマスクへの貼り付け位置精度が悪化する。更に、フォトマスクは、低コスト化のためにできるだけ露光領域を確保したいという要求がある。このため、ペリクルフレームの内側への撓みを出来るだけ小さくすることが要望されている。
【0005】
また、ペリクルフレームでは、厚み方向(高さ方向)の撓みも発生することがある。特に、辺長が1000mmを超えるような超大型のペリクルフレームでは、その両端を支持してペリクル膜の貼付工程等に水平搬送するとき、中央部が下方向に大きく撓み、ペリクル膜の貼付等のハンドリングに非常な不都合が生じたり、回復不能な塑性変形(反り)が生じたりしてしまうこともあった。
【0006】
かかるペリクルフレームの撓みを解決する手段として、特許文献1には、ペリクル膜を貼付したとき、ペリクル膜の張力によって各辺が直線状となるように、予め各辺の中央部近傍が外側に凸状に突出しているペリクルフレームが記載されている。しかし、予めペリクル膜の張力からペリクルフレームの撓み量に対し、ペリクルフレームの各辺の中央部に形成する突出部の突出量を予測することは困難である。しかも、かかるペリクルフレームでは、その厚さ方向の撓みを解決することができない。
【0007】
ペリクルフレームの内側方向及び上下方向への撓みを解決するには、ペリクルフレームの剛性を高めればよく、ペリクルフレームの断面積の増大を図ることによって達成可能ではある。しかし、ペリクルフレームの断面積、すなわち寸法を大きくする手段の場合、ペリクルフレームの内側は露光領域の問題があり、その外側についてもフォトマスクの固定や搬送におけるハンドリング用のクリアランスを確保する必要がある。そのうえ、ペリクルフレームの厚さ方向(高さ方向)の寸法も露光装置との関係から、3〜8mm程度に制限されている。そのため、ペリクルフレームの寸法設計についての自由度はほとんどなく、ペリクルフレームの断面積の増大を図る手段をペリクルフレームの剛性向上に採用することは困難である。
【0008】
また、ペリクルフレームの剛性を高めるには、弾性係数の高い材質を使用する手段もある。かかる手段としては、例えば下記特許文献2に、アルミニウム合金の枠体に、枠体よりも弾性係数の大きなステンレス鋼を含む鉄やチタンを埋め込んだペリクルフレームが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−56544号公報
【特許文献2】特開2006−284927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前掲の特許文献2に記載されたペリクルフレームによれば、ペリクルフレームの寸法を変更することなく全体の剛性を向上可能である。しかしながら、鉄鋼やステンレス鋼等の鉄系合金を埋め込んだペリクルフレームは重量が極めて重くなることが懸念され、チタンは加工性(被削性)が非常に劣るため、ペリクルフレームの製造が困難となるおそれがある。
【0011】
本発明者等は、剛性が向上されたペリクルフレームを得るべく、炭素繊維に樹脂を含浸させた複合体を用いることを検討した。しかし、図10の(a)に示すように、長繊維状の炭素繊維が一方に配向された複合体50からペリクルフレーム52を切り出した場合、長辺又は短辺のどちらかにおいて、辺の長手方向に配向した炭素繊維がなくなってしまい、ペリクルフレーム52の全体の剛性を向上できない。更に、図10の(b)に示すように、長繊維状の炭素繊維が平織り状に織られた複合体54からペリクルフレーム52を切り出した場合、炭素繊維のおよそ半分は辺の長手方向に配向されておらず、ペリクルフレーム52の全体の剛性を高めることは困難である。また、図10の(a)に示す複合体50からペリクルフレーム52の各辺を、長繊維状の炭素繊維が辺の長手方向に配向されるように切り出し、図11に示すように角部でボルト55やリベットで接合してペリクルフレーム52を組み立てることも考えられる。しかしながら、炭素繊維の複合材は靭性に劣り、ネジ切加工にはあまり適しておらず適当ではない。
【0012】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、炭素繊維に樹脂を含浸させた複合体を利用し、寸法を変更することなく全体の剛性を向上でき、軽量化可能で且つ製造が簡単なペリクルフレーム及びその製造方法、ペリクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたペリクルフレームは、多角形形状のペリクルフレームの各辺が、長繊維状の炭素繊維と樹脂との複合材料から成る細長材によって形成され、前記炭素繊維は、前記細長材の長手方向に配向されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載されたペリクルフレームは、請求項1に記載されたものであって、前記細長材の全表面は、前記炭素繊維が露出しないように樹脂皮膜で覆われていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載されたペリクルフレームは、請求項1に記載されたものであって、前記細長材は、多数本の長繊維状の炭素繊維を長手方向に配向させて樹脂を含浸させた複数枚の細長シート状体が積層されて形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載されたペリクルフレームは、複数枚の前記細長シート状体が前記ペリクルフレームの形状に倣うように接続された複数の枠状体が積層されて形成され、前記細長シート状体の接合部が、前記ペリクルフレームの角部近傍に位置し、前記接合部の位置が直上の前記枠状体及び/又は直下の前記枠状体と異なることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載されたペリクルフレームの製造方法は、形成する多角形形状のペリクルフレームの対応辺を切削加工で形成できる幅及び長さに形成した、多数本の長繊維状の炭素繊維を長手方向に配向させて樹脂を含浸させた複数枚の細長状のシート状体を、前記ペリクルフレームの角部形成予定の近傍で接続した枠状部材であって、前記シート状体の接続位置が異なる複数枚の枠状部材を形成する工程と、複数枚の前記枠状部材を、前記接続位置が直上の枠状部材及び/又は直下の枠状部材と異なるように積層し接着して積層体とする工程と、前記積層体を所定の幅及び長さに切削加工して多角形形状のペリクルフレームを形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載されたペリクルフレームの製造方法は、請求項5に記載されているものであって、切削加工して得た前記ペリクルフレームの全表面に、樹脂皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載されたペリクルは、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペリクルフレームに、ペリクル膜を貼付したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るペリクルフレームでは、その各辺を形成する細長材の長手方向に長繊維状の炭素繊維が配向している。このため、ペリクルフレームの全体の剛性を著しく向上でき、ペリクルの使用時やハンドリング時にペリクルフレームに発生する撓みに充分に抗することができる。そのため、ペリクル膜の張力によるペリクルフレームの内側への撓みが少なく露光領域の減少が少なくでき、ハンドリング時においても変形や撓みが小さく、ペリクル膜の貼り付け作業が容易となる。更に、従来用いられてきた材質のペリクルフレームよりも各辺を幅狭に形成でき、更に広い露光領域を確保できる。また、長繊維状の炭素繊維は細長材の長手方向に配向しているため、炭素繊維の切断面がペリクルフレームの表面に露出し難く、炭素繊維の脱落や発塵し難くできる。細長材の全表面を樹脂で被覆した場合には、炭素繊維の脱落や発塵を更に一層少なくでき、且つ紫外線による劣化も防ぐこともできる。本発明に係るペリクルフレームの製造方法でも、複数枚の枠状部材を、その接続位置が直上の枠状部材及び/又は直下の枠状部材と異なるように積層し接着して得た積層体を研削加工しているため、ネジ締結を行う必要がなく且つ研削工程中に枠体での亀裂の発生、伝播がし難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るペリクルフレームの一例を説明する斜視図である。
【図2】図1に示すA−A面及びB−B面での横断面図である。
【図3】図1に示すペリクルフレームを形成する枠状体の正面図である。
【図4】図1に示すペリクルフレームを製造する際に用いる細長いシート状体30を説明する斜視図である。
【図5】長さが異なる細長いシート状体の組み合わせを説明する斜視図である。
【図6】複数枚の枠状部材を積層した積層体を示す斜視図である。
【図7】図6に示す積層体を形成する積層治具を説明する斜視図である。
【図8】図5に示す枠状部材に研削加工を施して形成したペリクルフレーム用枠体を示す斜視図である。
【図9】図1に示すペリクルフレームを用いたペリクルを示す斜視図である。
【図10】本発明に係るペリクルフレームの製造方法についての比較例を説明するための説明図である。
【図11】本発明に係るペリクルフレームの製造方法についての比較例を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明に係るペリクルフレームの一例を図1に示す。図1に示すペリクルフレーム10は、長方形状であって、外周側及び内周側の角部は円弧状に面取りされ、上面にペリクル膜の貼設面12が形成されている。複数の通気孔16が穿設されているペリクルフレーム10の長辺を形成する細長材14,14の外周面には、ハンドリング用の凹部18が形成されている。更に、ペリクルフレーム10の短辺を形成する細長材20,20の外周面にも、ハンドリング用の溝22が形成されている。
【0024】
かかるペリクルフレーム10の細長材14のA−A面(図1)での断面図を図2(a)に示し、細長材20のB−B面(図1)での横断面図を図2(b)に示す。細長材14,20には、複数枚の細長シート状体24が積層されている。この細長シート状体24は、図3(a)(b)に示すように、ペリクルフレーム10の形状に倣って形成された枠状体26a,26bを構成している。細長シート状体24は、その長手方向に多数本の長繊維状の炭素繊維24aを配向させて樹脂を含浸させて形成されている。かかる細長シート状体24,24は、枠状体26a,26bの角部近傍で接合され、その接合位置は、図3(a)に示す枠状体26aと図3(b)に示す枠状体26aとで異なる。かかる枠状体26a,26bは、貼設面12から下方に向けて交互に積層されてペリクルフレーム10が形成されている。このため、細長シート状体24,24の接合部の位置は、直上の枠状体及び/又は直下の枠状体と異なり、亀裂が発生し難く、亀裂が発生してもペリクルフレーム10への波及を防止できる。また、ペリクルフレーム10の長辺及び短辺を形成する細長材14,20は、多数本の長繊維状の炭素繊維24aを配向させて樹脂を含浸させて形成した細長シート状体24が積層されて形成されている。このため、ペリクルフレーム10の長辺及び短辺の各々の長手方向に長繊維状の炭素繊維24aが配向されており、ペリクルフレーム10の全体の剛性を著しく向上できる。
【0025】
このようにペリクルフレーム10は、細長材14,20の長手方向に長繊維状の炭素繊維24aが配向されているため、炭素繊維24aから発塵することは殆どない。但し、図2に示すように、細長材14,20の通気孔16、溝22及び凹部18の内周面を含む外周面の全面を、樹脂皮膜27によって被覆することによって、炭素繊維24aからの発塵を更に一層防止できる。尚、図1に示すペリクルフレーム10の底面側には、図2に示すように、マスク粘着層を形成する段差面28が形成されている。
【0026】
図1に示すペリクルフレーム10を製造するには、図4に示すように、多数本の長繊維状の炭素繊維24aを長手方向に配向させて樹脂を含浸させた細長状のシート状体30を用いる。炭素繊維24aとしては、PAN系炭素繊維であっても、ピッチ系炭素繊維であってもよい。また、樹脂としては、エポキシ樹脂やイソシアネート樹脂等の熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。シート状体30では、熱硬化性樹脂を半硬化状態としておくことが好ましい。このシート状体30には、図5に示すように、長方形状のペリクルフレーム10の主として長辺を形成するシート状体30a,30dと、ペリクルフレーム10の主として短辺を形成するシート状体30b,30cとが形成されている。シート状体30a,30b,30c,30dは、形成するペリクルフレーム10の対応辺を切削加工で形成できる幅及び長さに形成されている。
【0027】
かかるシート状体30a,30bを、ペリクルフレーム10の角部形成予定の近傍で接続して図6に示す長方形状の枠状部材32を形成する。更に、シート状体30c,30dを、ペリクルフレーム10の角部形成予定の近傍であって、シート状体30a,30bの接続位置と異なる位置で接続して図6に示す長方形状の枠状部材32を形成する。構成するシート状体の接続位置32aが異なる複数枚の枠状部材32を、図6に示すように積層し接着して積層体34を形成する。かかる接着は、接着剤を用いてもよいが、積層したシート状体30a,30bに含浸された半硬化状態の熱硬化性樹脂を加熱して硬化を完了することによっても可能である。形成した積層体34の幅や高さ(厚み)は、形成予定のペリクルフレーム10の幅や高さ(厚み)に応じて適宜決定することができる。但し、積層体34の幅は、形成予定のペリクルフレーム10の幅に対して1.05〜10倍(更に好ましくは1.5〜5倍)とすることが好ましい。また、高さ(厚み)は、形成予定のペリクルフレーム10の高さ(厚み)の1.05〜2倍(更に好ましくは1.1〜1.5倍)とすることが好ましい。かかる範囲の幅及び高さ(厚み)とすることによって、加熱時の歪(反りやねじれ、辺中央の外方向への膨らみ等)を抑制でき、後述する切削加工時の固定等を容易に行うことができる。図6に示す積層体34を形成する際には、図7に示す積層治具36を用いて行うと作業が容易である。積層治具36は、形成した積層体34を加熱処理できるようにアルミニウム合金等の金属製であって、積層体34の幅、長さ及び高さの溝部38が形成されている。
【0028】
図6の積層体34には、研削加工を施して、図8に示すように、所望の寸法のペリクルフレーム用枠体40を形成する。このように研削加工を施すことによって、枠状部材32の積層時のずれや熱処理時の歪等を削り取ることができ、良好な寸法精度のペリクルフレーム10を得ることができる。更に、ペリクルフレーム用枠体40に、通気孔16、凹部18及びハンドリング用の溝22を形成し、図1に示すペリクルフレーム10を得ることができる。かかる機械加工の際に、積層体34では、複数枚の枠状部材32の接続位置32aの位置が、直上の枠状体及び/又は直下の枠状体と異なるため、亀裂が発生し難く、亀裂が発生しても全体への波及を防止できる。
【0029】
機械加工後のペリクルフレーム10の外面には、破断した炭素繊維が露出していることがある。破断した炭素繊維は、ペリクルフレーム10を洗浄しても完全に除去できず、ペリクル使用中に炭素繊維や樹脂が脱落して発塵するおそれがある。更に、炭素繊維に含浸されているエポキシ樹脂等は、露光に用いる紫外線により劣化され易く、強度低下や発塵が懸念される。このため、機械加工後のペリクルフレーム10の表面(通気孔16、凹部18及び溝22の内周面を含む)の全面に、樹脂皮膜27を形成することによって、表面からの破断した炭素繊維等の発塵を防止できる。この樹脂皮膜27としては、露光に用いる紫外線で劣化し難く、剥離強度の高いアクリル樹脂、更に好ましくはシリコーン樹脂、特に好ましくはフッ素樹脂を好適に用いることができる。樹脂皮膜27は、その下地が黒色であるため、顔料、カーボンブラック等を樹脂に混合して黒色とすることによって、散乱光が低減でき好ましい。
【0030】
かかる樹脂皮膜27は、機械加工後に充分に洗浄、乾燥したペリクルフレーム10に、樹脂を所定の濃度で溶媒に溶解し、必要に応じて顔料、カーボンブラック等を溶媒中に分散させた塗布液を、スプレー、ディッピング、電着塗装等で塗布する。次いで、ペリクルフレーム10を加熱処理し、溶媒を完全に揮発除去すると共に、樹脂皮膜27中に含まれる低分子成分を低減することがよい。この樹脂皮膜27の表面の光沢度を3以下とすることによって、反射を効果的に抑制でき、露光機内での迷光低減が期待でき且つ暗室内での異物検査が容易になる。尚、光沢度は、グロスメータを用いて測定でき、ガラス表面を100とした数値である(JIS Z8741)。
【0031】
得られた図1に示すペリクルフレーム10を用いて、図9に示すペリクル42を形成できる。図9に示すペリクル42は、ペリクルフレーム10の貼設面12(図1)にペリクル膜接着層を介してペリクル膜44が張設されている。ペリクル膜44は、セルロース及びその誘導体、フッ素樹脂等によって形成されている。更に、ペリクルフレーム10の段差面28(図2)には、マスク粘着層46が形成されている。マスク粘着層46としては、アクリル粘着剤、ゴム系粘着剤、ホットメルト粘着剤、シリコーン粘着剤等によって形成されている。このマスク粘着層46の表面には、必要に応じてPET等の薄い樹脂フィルム上に離型剤層を設けたセパレータ48を添付し、マスク粘着層46を保護する。また、ペリクル42の内外の気圧差によるペリクル膜44の膨らみ、凹みを解消するように、ペリクルフレーム10の側面に貫通した通気孔16には、外部から塵埃がペリクル42内に侵入しないようフィルタ47が設けられている。かかるペリクル42は、ペリクルフレーム10のペリクル膜44の張力やハンドリング時の撓みが小さく、且つペリクル42は使用中の発塵のおそれがなく極めて信頼性の高いものである。
【0032】
以上、説明してきたペリクルフレーム10は、長方形形状であったが、正方形や八角形であってもよい。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
図4に示すように、長手方向に配向した多数本の長繊維状の炭素繊維24aにエポキシ樹脂が含浸した細長状のシート状体30(プリプレグ)(商品名;ダイアリードHYEJ25M80D、三菱樹脂株式会社製)を用いた。ペリクルフレーム10の主として長辺を形成するシート状体30a,30dの寸法は1780×50mm、1680×50mmとした。また、ペリクルフレーム10の主として短辺を形成するシート状体30b,30cの寸法は1460×50mm、1560×50mmとした。かかるシート状体30a,30b,30c,30dを、図7に示すアルミニウム合金製の積層治具36の溝部38に積層した。この際に、シート状体の接合部には、極力隙間が形成されないようにした。どうしても隙間が形成される箇所には、エポキシ樹脂(商品名;AY33 三菱樹脂株式会社製)を充填した。次いで、積層治具36ごとオートクレーブに挿入し、各シート状体のエポキシ樹脂を完全に硬化するように加熱処理を施して図6に示す積層体34を得た。
【0035】
得た積層体34にマシニングセンタによって研削加工を施し、図40に示すペリクルフレーム用枠体40を形成した。更に、ペリクルフレーム用枠体40に通気孔16、凹部18及び溝22を機械加工によって形成し、図1に示すペリクルフレーム10を形成した。ペリクルフレーム10の形状は、外寸1526×1748、内寸1493×1711mmの長方形であって、厚さは6.2mm、各角部の形状は内側R2、外側R6である。また、長辺には1700mmの間隔でハンドリング用として直径2.5mm、深さ2mmの凹部18を形成し、短辺には高さ2mm、深さ3mmで底部を半丸形状に仕上げた溝22を形成した。この溝22の入り口部はC2の面取りを行った。また、両長辺の中央部付近には直径1.5mmの通気孔16を各辺に8箇所ずつ形成した。
【0036】
次いで、ペリクルフレーム10を界面活性剤と純水で充分に洗浄し、80℃×3時間で加熱乾燥させた後、表面に樹脂塗装を行った。樹脂としては、フッ素樹脂(商品名;サイトップCTX109A 旭硝子株式会社製)をフッ素系溶媒(商品名;EF−L102、三菱マテリアル株式会社製)に溶解し、カーボンブラック(商品名;HCF2650、三菱化学株式会社製)を分散させた塗布液を作成した。この塗布液をスプレー法によって洗浄、乾燥したペリクルフレーム10に4回塗布した。その後、オーブン中で130℃に加熱して完全に溶媒を乾燥させた。ペリクルフレーム10の表面に形成したフッ素樹脂の樹脂皮膜27の厚さは約30μmであった。このスプレー条件は、形成した樹脂皮膜27のグロスメータで測定した光沢度が3以下になるように調整した。得られたペリクルフレーム10の寸法の検査を行った。ペリクルフレーム10の外寸、内寸は全て加工指定寸法の+0/−0.3mmの範囲に入っていた。また、直角度は長辺を基準として、90°で引いた仮想線に対して0.5mmのずれであった。更に、ペリクルフレーム10をクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水で洗浄、乾燥後、暗室内にて40万ルクスのハロゲンランプを照射しながら外観を検査した。その結果、炭素繊維が露出しているところは全くなかった。また、表面のキラ付きや塗装むらなどの欠陥、洗浄による樹脂皮膜27の剥離等も見受けられなかった。
【0037】
得られたペリクルフレーム10の貼設面12及び段差面28の各々にシリコーン粘着剤(商品名KR3700、信越化学工業株式会社製)をエア加圧式ディスペンサにより塗布し、加熱によりキュアしてペリクル膜接着層及びマスク粘着層46を形成した。マスク粘着層46には、離型剤を表面に付与した厚さ125μmのPETフィルムをペリクルフレームとほぼ同形に切断加工して製作したセパレータ48を添付した。更に、通気孔16を覆うように3.6×9.5mm、厚さ0.35mmのPTFE製フィルタ47を貼り付けた。
【0038】
ペリクルフレーム10の製造工程と別工程で、フッ素系ポリマー(商品名サイトップ、旭硝子株式会社製)をスリットコート法により1620×1780×厚さ17mmの長方形石英基板上に成膜し、溶媒を乾燥させた後に基板外形と同形状のアルミ合金製仮枠に接着、剥離し、厚さ約4μmのペリクル膜44を得た。このペリクル膜44を、ペリクルフレーム10の貼設面12に形成したペリクル膜接着層に接着させた後、ペリクルフレーム10からはみでた不要な部分をカッターにて切断除去し、図9に示すペリクル42を完成させた。このペリクル42を定盤上に置き、ペリクルフレーム10の各辺の撓み量を計測した。その結果、長辺中央部の内側への撓み量は片側0.6mm、短辺中央部の内側への撓み量は片側0.4mmであった。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様にして形成した、外寸920×770mm、内寸870×720mm、厚さ6.2mmの積層体34を用い、外寸904.5×750mm、内寸894.5×738mm、高さ5.8mm、角部外寸R6mm、内寸R2mmで、各長辺に直径1.5mmの通気孔16を4個形成したペリクルフレーム10を製作した。このペリクルフレーム10を、実施例1と同様に洗浄、乾燥を施した後、アクリル樹脂(商品名;エレコートSTサティーナ、株式会社シミズ製)を電着塗装法により塗布して、樹脂皮膜27を形成した。更に、ペリクルフレーム10を界面活性剤と純水で洗浄、乾燥した後、実施例1と同様にして、ペリクルフレーム10の貼設面12及び段差面28の各々にペリクル膜接着層及びマスク粘着層46を形成し、マスク粘着層46にセパレータ48を貼り付けた。得られたペリクルフレーム10について、実施例1と同様に暗室内で外観を検査したところ、炭素繊維は樹脂皮膜27によって完全に被覆されており、バリならびに樹脂の剥離も全く見られなかった。
【0040】
このペリクルフレーム10の製造工程とは別工程で、フッ素系ポリマー(商品名サイトップ、旭硝子株式会社製)を850×1200mmの石英基板上にダイコート法にて成膜し、溶媒を乾燥させた後に基板外形と同形状のアルミ合金製仮枠に接着、剥離し、厚さ約4μmのペリクル膜44を得た。このペリクル膜44をペリクルフレーム10のペリクル膜接着剤層に貼り付け、周囲の余分な部分をカッターにて切断し、ペリクル42を完成させた。このペリクル42のペリクルフレーム10について、実施例1同様に、長辺、短辺の撓み量を計測したところ、長辺中央部の撓み量は片側0.8mm、短辺中央では片側1.0mmであった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、長手方向に配向した多数本の長繊維状の炭素繊維24aにエポキシ樹脂が含浸した細長状のシート状体30に代えて、平織りにした炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた細長状のシート(プリプレグ)(商品名;ダイアリードHMFJ3113/948A1、三菱樹脂株式会社製)を用いた他は、実施例1と同様にして、1550×1750×厚さ6.75mmの積層体34を得た後、マニシングセンタで研削加工を施して実施例1のペリクルフレーム10と同寸、同形状のペリクルフレーム10を製作した。更に、得たペリクルフレーム10に、実施例1と同様にして樹脂皮膜27を形成した。次いで、このペリクルフレーム10を用いて、実施例1と同様にして、図9に示すペリクル42を製作した。完成したペリクル42を定盤上に置き、ペリクルフレーム10の各辺の撓み量を計測した。その結果、長辺中央部の内側への撓み量は片側1.3mm、短辺中央部の内側への撓み量は片側1.0mmであった。これらの値は実施例1,2のペリクルフレーム10の撓み量よりも大きいものである。
【0042】
(比較例2)
A5052アルミニウム合金の圧延材を用いて、実施例2と同寸、同形状のペリクルフレームを機械加工により製作し、表面をサンドブラスト処理した後、黒色アルマイト処理を施した。次いで、このペリクルフレームを洗浄、乾燥後、ペリクルフレームの一方の端面にペリクル膜接着層を、シリコーン粘着剤(商品名KR3700、信越化学工業株式会社製)を塗布して形成し、他方の端面にマスク粘着層を、シリコーン粘着剤(商品名KR3700、信越化学工業株式会社製)を塗布し、更に加熱によりキュアして形成した。その後、製作したペリクルフレームを用い、実施例2と同様にしてペリクルを完成した。このアルミニウム合金製のペリクルフレームを用いたペリクルについて、実施例1と同様にして、ペリクルフレームの撓み量を計測したところ、長辺中央部の内側への撓み量は片側2.5mm、短辺中央部の内側への撓み量は片側4.5mmであった。実施例2のペリクルフレーム10と比較すると、ペリクルフレーム辺中央の内寸は、長辺で7.0mm、短辺で3.4mm短いことになり、矩形が取れる面積では1.2%の減少であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るペリクルフレームは、全体の剛性を向上でき、辺長が1000mmを超える超大型ペリクルフレームに好適に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
10,52はペリクルフレーム、12は貼設面、14,20は細長材、16は通気孔、18は凹部、22は溝、24は細長シート状体、24aは長繊維状の炭素繊維、26aは枠状体、27は樹脂皮膜、28は段差面、30,30a,30b,30c,30dはシート状体、32は枠状部材、32aは接続位置、34は積層体、36は積層治具、38は溝部、40はペリクルフレーム用枠体、42はペリクル、44はペリクル膜、46はマスク粘着層、47はフィルタ、48はセパレータ、50,54は複合体、55はボルトである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形形状のペリクルフレームの各辺が、長繊維状の炭素繊維と樹脂との複合材料から成る細長材によって形成され、前記炭素繊維は、前記細長材の長手方向に配向されていることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
前記細長材の全表面は、前記炭素繊維が露出しないように樹脂皮膜で覆われていることを特徴とする請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
前記細長材は、多数本の長繊維状の炭素繊維を長手方向に配向させて樹脂を含浸させた複数枚の細長シート状体が積層されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
前記ペリクルフレームは、複数枚の前記細長シート状体が前記ペリクルフレームの形状に倣うように接続された複数の枠状体が積層されて形成され、前記細長シート状体の接合部が、前記ペリクルフレームの角部近傍に位置し、前記接合部の位置が直上の前記枠状体及び/又は直下の前記枠状体と異なることを特徴とする請求項3に記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
形成する多角形形状のペリクルフレームの対応辺を切削加工で形成できる幅及び長さに形成した、多数本の長繊維状の炭素繊維を長手方向に配向させて樹脂を含浸させた複数枚の細長状のシート状体を、前記ペリクルフレームの角部形成予定の近傍で接続した枠状部材であって、前記シート状体の接続位置が異なる複数枚の枠状部材を形成する工程と、
複数枚の前記枠状部材を、前記接続位置が直上の枠状部材及び/又は直下の枠状部材と異なるように積層し接着して積層体とする工程と、
前記積層体を所定の幅及び長さに切削加工して多角形形状のペリクルフレームを形成する工程とを含むことを特徴とするペリクルフレームの製造方法。
【請求項6】
切削加工して得た前記ペリクルフレームの全表面に、樹脂皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のペリクルフレームの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペリクルフレームに、ペリクル膜を貼付したことを特徴とするペリクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−220532(P2012−220532A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82844(P2011−82844)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】