説明

ペリクルミラー

【課題】一眼レフカメラ内で撮影レンズ系からの被写界光を受ける位置に配置され、入射した被写界光を透過光と反射光に分割するミラーにおいて、通常のガラス材質のハーフミラーに替わる光学特定の優れたペリクルミラーを提供すること。
【解決手段】ペリクルミラーをサファイア、水晶又は強化ガラスにより構成する。好ましくは、厚さが0.1mm以下の薄膜20であり、周囲が枠22に固定されており、カメラ内部において固定されて使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一眼レフカメラ内で撮影レンズ系からの被写界光を受ける位置に配置され、入射した被写界光を透過光と反射光に分割するペリクルミラーに関するものである。一眼レフカメラとしては、銀塩フィルムを使用するカメラと撮像素子を使用するデジタルカメラがある。本発明は銀塩フィルムを使用するカメラとデジタルカメラの両方を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ペリクルミラーは、撮影レンズ系を透過した被写界光の光軸上の位置で、その光軸に対してほぼ45度に傾斜した角度に配置される。カメラの種類によって、ペリクルミラーが撮影時も位置が固定されたままのものと、撮影時には被写界光の光軸から外れる位置に移動させるものの2種類がある。ペリクルミラーとしては、通常のガラスからなるハーフミラーもある(特許文献1参照。)が、現在のカメラに使用されているのはほとんど高分子膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−13388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はペリクルミラーを撮影時にも被写界光の光軸から外すことなく固定されたままとする方式の一眼レフカメラに関する。
【0005】
本発明の第1の目的は、通常のガラス材質のハーフミラーに替わる光学特定の優れたペリクルミラーを提供することである。
【0006】
ペリクルミラーにガラス板を使用し、そのガラス板の厚みが数mmというような厚い場合は、ペリクルミラーを固定した状態で透過光をフィルム又は撮像素子に導くときは、ペリクルミラーの板厚が撮影レンズの収差に影響を与えるので、被写界光の焦点をフィルム面上又は撮像素子上に合わせるための補正が必要になる。
【0007】
そこで、そのような補正をなるべく簡略化するためにはペリクルミラーの厚みは薄ければ薄いほど好都合となる。そのための望ましい厚さとして0.1mm以下が求められている。
【0008】
しかしそのような薄いペリクルミラーをガラスで構成したものは知られていない。現在のそのような薄いペリクルミラーの材料としては、ポリエステルやニトロセルロースなどの高分子膜が使用されている。しかし、高分子膜は機械的な強度が小さいために傷に対して極端に弱く、ごみを除去するためのブロアの風をあてるだけでも変形したり、破れるなどの問題があるので、慎重な取扱いが求められており、市場でのトラブルの原因になっている。
【0009】
また、高分子膜は帯電しやすく、静電気によりごみを付着しやすい。さらに、高分子膜は時間経過により特性が劣化しやすく、長時間の使用により透過率が低下する問題もある。
【0010】
そこで、本発明の第2の目的は、ペリクルミラーを薄膜化するとともに、高分子膜よりも強度の点でも光学特性の点でも優れた薄膜ペリクルミラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一眼レフカメラ内で撮影レンズ系からの被写界光を受ける位置に配置され、入射した被写界光を透過光と反射光に分割するペリクルミラーであるが、第1の目的を達成するための本発明のペリクルミラーは、強化ガラスからなるものである。
【0012】
強化ガラスは、機械的特性、特に強度と傷の付き難さの点で優れている。機械的特性の1つとして硬度を挙げると、モース硬度で表すと、強化ガラスは7である。この硬度は通常のガラスよりも大きく、高分子膜に比べると格段に大きい。
【0013】
強化ガラスは破壊強度を高めたガラスで、物理強化(熱強化)ガラスと化学強化ガラスがある。本発明ではいずれも使用することができる。
【0014】
第2の目的を達成するための本発明のペリクルミラーは、サファイア、水晶及び強化ガラスからなる群から選ばれた材料からなり、厚さが0.1mm以下の薄膜であり、周囲が枠に固定されており、カメラ内部において固定されて使用されるものである。
【0015】
サファイア、水晶及び強化ガラスは、機械的特性、特に強度と傷の付き難さの点で優れている。機械的特性の1つとしてモース硬度で表すと、サファイアは9、水晶と強化ガラスは7である。
【0016】
サファイアと水晶は天然のものでもよいが、不純物が少なく品質も一定している人工のものの方が好ましい。人工サファイアサファイアガラスと呼ばれて市販され、人工水晶も市販されている。
【発明の効果】
【0017】
ハーフミラーに使用されている通常のガラス基板は、BK7を初めとする光学ガラスである。それに対し、サファイア、水晶及び強化ガラスは、機械的特性、特に強度と傷の付き難さの点で優れている。
【0018】
厚さが0.1mm以下のハーフミラーをサファイア、水晶又は強化ガラスで構成することにより、ペリクルミラーを固定した状態で撮影をしてもペリクルミラーの板厚が撮影レンズの収差に影響を与えることを抑えることができ、しかも光学特性に優れ、高分子膜よりも強度が大きく、取扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用される一眼レフカメラの光学系の概略構成図である。
【図2】一実施例のペリクルミラーを示す平面図である。
【図3】同実施例のペリクルミラーを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1により本発明が適用される一眼レフカメラの例としてデジタルカメラの光学系を説明する。カメラ鏡筒部2には複数のレンズからなる撮影レンズ系4が収容されている。カメラボディ6内には撮影レンズ系4を透過した被写界光を受ける位置にペリクルミラー8が設けられている。ペリクルミラー8は撮影レンズ系4の光軸5に対して略45度に傾斜して取りつけられており、撮影レンズ系4からの被写界光を透過光と反射光に分割する。
【0021】
ペリクルミラー8を透過した被写界光を受ける位置には撮像素子10が配置されている。ペリクルミラー8で反射された被写界光はファインダ光学系12に導かれる。
【0022】
ペリクルミラー8としては水晶、サファイア又は強化ガラスを約0.1mmの厚さに加工した薄膜を使用する。水晶、サファイアは複屈折をもつが、厚さが0.1mm程度になると複屈折の影響がなくなる。そのことは次のように説明することができる。複屈折をもつ結晶板における常光線と異常光線の分離幅dは、常光線の屈折率をno、異常光線の屈折率をneとし、複屈折をもつ結晶板の厚みをtとすると、波面の法線と結晶板の光学軸とのなす角度がθのとき、次式で表される。
d=t((ne2−no2)sinθcosθ)/(ne2cos2θ+no2sin2θ)
【0023】
一般的には、分離幅dはθが45度のときに最大となる。水晶の場合に当てはめてみると、水晶のno=1.546、ne=1.555であるので、厚みtと分離幅dの関係は次のようになる。
t=0.5mmであれば、d=0.0031mm、
t=0.3mmであれば、d=0.00184mm、
t=0.1mmであれば、d=0.00061mm、
t=0.03mmであれば、d=0.00018mm
である。CCD撮像素子やCMOS撮像素子のピクセルサイズは、現行では最小で0.0017mmであるので、水晶薄膜も厚さが0.1mmより小さくなると複屈折による分離幅の影響が無視できるレベルになることがわかる。サファイアの場合も同様である。
【0024】
さらに好ましくは、ペリクルミラー8としては、水晶、サファイア又は強化ガラスを約0.03mmの厚さに加工した薄膜を使用する。
【0025】
このような厚さの薄膜は、まずダイヤモンドカッターにより0.1〜0.3mmの厚さに切り出す。その後、粗研磨、精研磨及びポリッシングの順に研磨していく。研磨は均一に荷重をかけながら被研磨物の平面性を維持しながら0.03〜0.04mmの厚さの薄膜になるまで研磨していく。
【0026】
その薄膜の薄さが0.03mm程度の所望の薄さになっていることは、干渉計を用いた膜厚計測装置により確認した。
【0027】
ペリクルミラー用薄膜を水晶、サファイア又は強化ガラスにより形成した場合にも機械的特性、特に強度の傷の付き難さに優れている。
【0028】
ペリクルミラーは、その光入射側の表面に、入射した被写界光を透過光と反射光に分割する割合を調整するための蒸着膜が形成される。その分割割合は、入射光:反射光=70:30又は60:40に設定されることが多い。具体的には、可視域を中心に400〜700nmで透過光と反射光の平均的な分割割合を入射光:反射光=70:30とするための蒸着膜としては、ペリクルミラーの水晶、サファイア又は強化ガラスからなる薄膜側からH4膜(膜厚37.2nm)、SiO2膜(膜厚89.4nm)、H4膜(膜厚48.7nm)、SiO2膜(膜厚174.4nm)及びH4膜(膜厚146.9nm)の5層構造からなる蒸着膜を挙げることができる。ここで、「H4」はLaとTiの混合物(ドイツのメルク社の製品)である。各蒸着膜について括弧内に示した膜厚は、設計基準波長を500nmとしたときの光学膜厚で表示している。光学膜厚は物理膜厚に屈折率Ndをかけたものであり、波長500nmにおけるH4の屈折率Ndは2.09、SiO2の屈折率Ndは1.478である。このような蒸着膜の構成は一例であって、透過光と反射光の分割割合に応じて適当に決めることができる。
【0029】
このような薄い材料はそれ自体で自立することができないため、周囲を枠で固定して使用する。図2はその一例を示したものである。厚さが0.03mm程度に加工された水晶・サファイア又は強化ガラスからなる矩形のペリクルミラー用薄膜20が、その周囲を枠22に挟まれて固定されてペリクルミラー8となっている。
【0030】
図3はその分解斜視図である。枠22はベース24とカバー30の間に緩衝材28を介して薄膜20の周縁部を挟んで固定している。薄膜20を支持するベース24は硬質プラスチック又は金属からなり、中央部に薄膜20の外形寸法に対応して薄膜20の周縁部を裏側から支持する段差26をもっている。段差26の内側には薄膜20の外形寸法より小さい開口が開けられている。薄膜20はベース24の段差26に嵌め込まれ、薄膜20の上から薄膜20の表側の周縁部を押さえる緩衝材28が配置されている。緩衝材28はゴムなどの弾性材からなる。緩衝材28の上からベース24と同じ材質で中央部に開口をもつカバー30が被せられ、ベース24とカバー30の間が接着剤で固着されている。
【0031】
このようにして枠22で薄膜20の周縁部が固定されたペリクルミラー8は、図1のようにカメラ内に固定され、撮影時でも被写界光の光軸に対して移動しないように固定された状態で撮像操作が行われる。
【0032】
ペリクルミラーの材質として水晶又はサファイアを使用した場合は、ガラスよりも強度が強く、より薄くしても傷がつきにくいという利点をもつ。水晶及びサファイアは複屈折もっているが、このように薄い薄膜では光学特性の異方性は無視することができ、機械的な強度の利点がよりよく発揮される。
【0033】
ここで、強化ガラスについて具体的に説明する。
【0034】
ガラスの強化方法には化学強化方法と物理強化方法があるが、いずれもガラスの表面に圧縮応力を発生させることにより引っ張りに弱いガラスの性質を改善するものである。
【0035】
化学強化方法ではガラスを硝酸カリウム(KNO3)溶融塩に浸漬して、ガラス表面のイオン半径の小さいナトリウムイオンをそれよりイオン半径の大きいカリウムイオンで置換して、ガラス表面に圧縮応力を発生させる。
【0036】
物理強化方法は風冷強化方法とも呼ばれ、ガラスの溶融状態から冷却させるときにガラスに空気を強く吹き付ける。このとき、ガラスは外側から冷却されるのでガラスの表面と中心部で温度差が生じ、より熱い中心部から押し出された分子が表面側に集まり、表面付近が高密度になったまま固まる。その結果、ガラスの表面側の分子密度が高く、中心部は分子密度が低くなって固まった状態になる。このような物理強化ガラスは、表面付近の分子密度が通常の板ガラスよりも高いため割れにくくなる。
【0037】
このような強化ガラスは厚みが薄くても割れにくいという共通の性質をもつ。また、強化処置による変形はほとんどなく、そのことから高い平坦性と寸法精度を維持することができる。適用できるガラスの形状は特に限定されるものではなく、平板ガラスだけでなく、異形ガラスや曲げガラスにも適用することができる。
【0038】
強化する前のガラスでは、例えば厚さが0.1mm以下というような薄いガラスにすることが困難であっても、強化ガラスにすることにより厚さを0.1mm以下にしても強度を維持することができるようになる。
【0039】
さらに具体的な例として、厚さが0.1mmで、大きさが40mm×40mmのガラスサンプルを化学強化した例を示す。サンプルに使用したガラスは光学ガラスのBK7であるが、使用できるガラスの材質は特に限定されるものではなく、ホウケイ酸ガラスのD263など、他のガラスであってもよい。
【0040】
そのサンプルガラスを、硝酸カリウム溶融塩を用いた強化槽で、400℃で3時間の浸漬処理をした。
【0041】
その化学強化前後の強度変化の結果を表1に示す。強度試験は静圧試験機を用い、先端半径が5.0mmの試験棒をサンプルに押し当て、下降速度5mm/分の条件で下降させた。表1の数値は、サンプルが破壊した時に試験棒にかけた圧力であり、単位はN(ニュートン)である。
【0042】
【表1】

【0043】
表1のテスト結果から、化学強化により破壊までの圧力が、1.5倍〜2.1倍まで増加していることがわかる。
【0044】
同じサンプルの強化前後の応力を測定した結果を表2に示す。応力測定は、表面応力測定装置(折原製作所製)を用いて行った。表2中の数値の単位はMPa(メガパスカル)である。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果によれは、強化前には表面応力値がゼロであったものが、377〜433MPaに増加している。
【0047】
このように強度が高められた強化ガラスを使用することにより、0.1mmというような薄いガラスであってもペリクルミラーとして使用することができ、しかもペリクルミラーとして使用したときに破損しにくくなるので、カメラに取りつける際の作業性が向上し、カメラに取りつけた後でもカメラを落下したときの破損の確率が低くなることからカメラの信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0048】
4 撮影レンズ系
5 光軸
8 ペリクルミラー
10 撮像素子
20 ペリクルミラー用の薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一眼レフカメラ内で撮影レンズ系からの被写界光を受ける位置に配置され、入射した被写界光を透過光と反射光に分割するペリクルミラーにおいて、
強化ガラスからなることを特徴とするペリクルミラー。
【請求項2】
一眼レフカメラ内で撮影レンズ系からの被写界光を受ける位置に配置され、入射した被写界光を透過光と反射光に分割するペリクルミラーにおいて、
サファイア、水晶及び強化ガラスからなる群から選ばれた材料からなり、
厚さが0.1mm以下の薄膜であり、周囲が枠に固定されており、カメラ内部において固定されて使用されるペリクルミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−209308(P2011−209308A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56471(P2010−56471)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(592255198)株式会社大和産業 (7)
【Fターム(参考)】