説明

ペリンドプリルの前駆体、及びその製造方法、並びにペリンドプリルエルブミンの製造方法

【課題】 動脈性高血圧症等の治療に用いられる降圧剤としてのペリンドプリルエルブミンを容易かつ安価に得ることができるその新規な前駆体とその製造方法、並びにこの前駆体からペリンドプリルエルブミンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 次式で表されるペリンドプリルの新規な前駆体であり、この前駆体から酸による加水分解でペリンドプリルエルブミンを導く。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈性高血圧症等の治療に用いられる降圧剤としてのペリンドプリルエルブミンを容易かつ安価に得ることができるその新規な前駆体とその製造方法、並びにこの前駆体からペリンドプリルエルブミンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリンドプリルエルブミン(次式(VIII)で表される化合物のt−ブチルアミン塩)は、ある種の酵素、例えばカルボキシペプチダーゼ、エンケフアリナーゼ、またはキニナーゼIIに対して阻害活性を及ぼす。
特に、動脈高血圧症の原因となるアンギオテンシンIデカペプチドからアンギオテンシンIIオクタペプチドへの転換を、ペリンドプリルエルブミンがその転換酵素に作用することにより阻害する。
また、ペリンドプリルエルブミンのキニナーゼIIに対する作用は、プラデイキニンの循環を増加させたり、この径路により動脈圧を低下させるものである。
【0003】
【化7】

【0004】
従って、ペリンドプリルエルブミンを治療に使用すると、高血圧性障害や心臓機能不全の原因となる酵素の活性を減少させたり、さらには抑制すること等ができる。
【0005】
従来より、ペリンドプリルエルブミンの最高収量取得を可能にするために、その前駆体の工業的製造における出発原料、反応工程、反応体および溶媒の選択について研究がなされてきた。
例えば、特公平5−43717号公報に記載の方法では、ペリンドプリルエルブミン(上式(VIII)で表される化合物)を誘導する前駆体として次式(IX)で表される化合物を用いている。
【0006】
【化8】

【0007】
しかし、上記化合物(IX)からペリンドプリルエルブミンを導くには、高価なパラジウム炭素などの貴金属化合物を必要とする等の問題がある。
すなわち、カルボキシル基の保護基として一般的にはベンジル基が用いられるが、このベンジル基の脱離に上記のような高価な貴金属化合物を必要とするのみならず、保護基としてのベンジル基は、酸性条件下において非常に安定であり、脱離に時間がかかったり、発熱したり、あるいは取り扱いが困難な強酸を必要とする等の問題もあるからである。
【特許文献1】特公平5−43717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の諸点を考慮し、先ず、容易な操作でペリンドプリルエルブミンを得ることができるペリンドプリルの新規な前駆体を見出し、次にこのペリンドプリルの前駆体の製造方法として独創的な反応工程を見出し、これらによって、高価な貴金属化合物を使用することなく、また強酸の使用も不要であり、発熱の問題もなく、短時間でペリンドプリルエルブミンを工業的に容易かつ安価に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者は、ペリンドプリルエルブミンの有用な工業的製造について種々検討を行ったところ、ペリンドプリルエルブミンの前駆体として新規化合物を見出し、この前駆体を得るための独創的な製造方法と共に、該前駆体からペリンドプリルエルブミンを導く方法についても見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明におけるペリンドプリルエルブミンの前駆体は、次式(I)で表される新規化合物であることを特徴とする。
【0011】
【化9】

【0012】
前述のように、式(IX)で表される既知の前駆体では、カルボキシル基の保護基として一般的なベンジル基が用いられているが、保護基の脱離に高価な貴金属化合物を必要とし、加えて、酸性条件下では保護基としてのベンジル基は非常に安定である。
これに対し、上式(I)で表される本発明の前駆体では、保護基としてp−メトキシベンジル基を導入することで、酸条件下におけるカルボキシル基の保護基が不安定となり、酸により容易に脱離することができる。
【0013】
また、ペリンドプリルの前駆体としては、最も活性なペリンドプリルエルブミンを得るために、不斉炭素がS立体配置をもつ異性体が選ばれ、本発明における新規化合物であるペリンドプリルの前駆体も、不斉炭素がS立体配置をもつ異性体である。
【0014】
そして、本発明では、ペリンドプリルの前駆体を得るために独創的な製造方法を用いる。
その製造方法とは、
(1)第1のステップにおいて、次式(II)で表される化合物を出発原料とし、化合物(II)の窒素原子をt−ブトキシカルボニル基で保護し、
(2)第2のステップにおいて、上記第1のステップで得られる次式(III)で表される化合物のカルボキシル基を、次式(IV)で表される化合物(式(IV)中、Yはハロゲンまたはヒドロキシル基を表す)で保護し、
(3)第3のステップにおいて、上記第2のステップで得られる次式(V)で表される化合物のt−ブトキシカルボニル基を脱離し、
(4)第4のステップにおいて、上記第3のステップで得られる次式(VI)で表される化合物と次式(VII)で表されるアラニン誘導体とを縮合させる、という4つのステップからなる製造方法である。
【0015】
【化10】






【0016】
化合物(II)のカルボキシル基に一段の反応でp−メトキシベンジル基を導入しようとすると、窒素側とカルボキシル基側の両方へ反応してしまい、カルボキシル基のみに導入したものを分離することが困難となる。
【0017】
そこで、本発明では、出発原料である化合物(II)の窒素原子を、第1のステップにおいて、t−ブトキシカルボニル基で保護して化合物(III)を得る。
このとき、化合物(II)のカルボキシル基がt−ブトキシカルボニル基で置換されることを防ぐために、アルカリが使用される。
このアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が使用できる。
これらのアルカリのいずれも、陽性イオンがカルボキシル基と塩を形成し、カルボキシル基を保護することになる。
アルカリの使用量は、本発明において、特に限定されないが、一般には、化合物(II)に対して、当モル〜5倍モルが好ましく、より好ましくは当モル量である。これらのアルカリは水溶液として使用される。
【0018】
また、第1ステップにおけるt−ブトキシカルボニル基を提供する化合物としては、二炭酸ジ−t−ブチル等が使用できる。
【0019】
第1ステップにおける反応条件は、特に限定しないが、一般には、溶媒は上記のアルカリ水溶液を上記割合で混合した通常の有機溶媒を使用し、攪拌下、0〜50℃、常圧、1〜5時間程度で行うことが好ましい。
第1ステップにおける反応終了後、溶媒の留去、中和、有機相の抽出と濃縮、結晶化後、化合物(III)の取出しを行う。
【0020】
次に、本発明では第2ステップにおいて、化合物(IV)のカルボキシル基をp−メトキシベンジル基で保護して、化合物(V)を得る。
p−メトキシベンジル基を提供する化合物としては、p−メトキシベンジルクロライド、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシベンジルブロマイド等が挙げられる。
【0021】
第2ステップにおける反応は、塩基性触媒を用いて行われる。
この塩基性触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノナン(DBN)、トリブチルアミン等が使用される。
塩基性触媒の使用量は、特に限定されないが、一般には、p−メトキシベンジル基を提供する化合物に対して、1〜5モルが好ましく、より好ましくは1〜2モルである。
【0022】
また、第2ステップにおいては、ジシクロヘキシルカルボイミジド(DCC)を脱水縮合剤として用いることもできる。
これを用いることによって、第2ステップをより高効率で進行させることができる。
脱水縮合剤の使用量は、特に限定されないが、一般には、化合物(III)に対して、1〜5モルが好ましく、より好ましくは1〜2モルである。
【0023】
第2ステップにおける反応条件は、特に限定しないが、一般には、溶媒は通常の有機溶媒を使用し、常圧、還流下で、7〜20時間程度で行うことが好ましい。
脱水縮合剤を用いる場合には、第2ステップの開始直前、あるいは開始と同時に添加してもよいし、第2ステップの反応途上、具体的には反応開始後5〜30分程度経過した時点で添加してもよい。この場合の反応時間は、2〜6時間程度で行うことが好ましい。
第2ステップにおける反応終了後、冷却、有機相の濃縮、化合物(V)の取出しを行う。
【0024】
そして、本発明では、第3ステップにおいて、化合物(V)のt−ブトキシカルボニル基を脱離して、化合物(VI)を得る。
t−ブトキシカルボニル基は、大抵の酸(例えば、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸)で容易に脱離することができる。
特に、反応効率が良いため、メタンスルホン酸が好ましく用いられる。
この場合、メタンスルホン酸の使用量は、反応効率や、反応後の生成物の取り出し効率等の面から、化合物(V)に対し、当モル〜8倍モルが好ましく、より好ましくは4倍モルである。
【0025】
なお、上記脱離反応により得られる化合物(VI)は、不安定であるため、フマル酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸等で結晶化して保存することもできる。
この結晶化の方法は、特に限定されず、定法により行えばよい。すなわち、化合物(VI)にフマル酸等を添加し、攪拌後、静置する等で行われる。
【0026】
第3ステップ反応条件も特に限定しないが、一般には、溶媒は通常の有機溶媒を使用し、攪拌下、0〜70℃、常圧、0.5〜2時間程度で行うことが好ましい。
第3ステップにおける反応終了後、冷却、中和、有機相の濃縮、化合物(VI)の取出しを行う。場合によっては、この化合物(VI)を結晶化する。
【0027】
されに、本発明では、第4ステップにおいて、化合物(VI)と式(VII)で表されるアラニン誘導体とを縮合させて、式(I)で表されるペリンドプリルの前駆体を得る。
化合物(VII)は、Tetrahedron Lerrers,第23巻,No.16,P.1677〜1680(1982)に記載の方法により製造することができる。
【0028】
この縮合反応では、化合物(VI)に対し化合物(VII)を、好ましくは当モル〜5倍モル、より好ましくは当モル量で反応させる。
この反応においても、第2ステップで用いられるものと同様の塩基性触媒や脱水縮合剤を用いてもよい。
【0029】
第4ステップ反応条件も特に限定しないが、一般には、溶媒は通常の有機溶媒を使用し、攪拌下、0〜50℃、常圧、1〜24時間程度で行うことが好ましい。
塩基性溶媒を用いる場合には、上記の有機溶媒に所要量を混合して用いればよく、また脱水縮合剤を用いる場合には、第4ステップの開始直前、あるいは開始と同時に添加してもよいし、第4ステップの反応途上、具体的には反応開始後5〜30分程度経過した時点で添加してもよい。
第4ステップにおける反応終了後、副生物(結晶)を濾別し、濾液(有機相)の濃縮、前駆体(I)の取出しを行う。
【0030】
また、本発明では、上記のようにして得られる、ペリンドプリルの前駆体を、酸により加水分解し、続いてt−ブチルアミンを反応させることにより、ペリンドプリルエルブミンを製造する。
この酸は、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸のいずれか1つ、あるいはこれらを混合したものが使用できる。
【0031】
本発明における化学式(I)のペリンドプリルの前駆体からペリンドプリルを製造するには、該前駆体をジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)により酸化する方法を用いることもできる。
但し、本発明では、収率(反応後の生成物の取り出し効率)や、操作の容易さ、あるいはコスト面から、上記の前駆体を、酸により加水分解する方法を採択する。
【0032】
この加水分解時に使用される酸としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられるが、ペリンドプリルエルブミンの収率や、異性体や不純物の量等を考慮すると、メタンスルホン酸が最も好適である。
メタンスルホン酸の使用量は、特に限定されないが、前駆体に対して、当モル〜20倍モル倍が好ましく、より好ましくは10倍モルである。
【0033】
加水分解で得られるペリンドプリルを有機溶媒に溶解したのち、t−ブチルアミンを添加して、ペリンドプリルエルブミンを結晶として得る。
この結晶化の方法は、特に限定されず、定法により行えばよい。すなわち、適当な有機溶媒に溶解し、t−ブチルアミンを添加し、攪拌後、静置する等で行われる。
【0034】
加水分解の条件も特に限定されないが、常圧、0〜50℃、1〜6時間程度とすることが好ましい。
加水分解終了後、中和、有機相の濃縮、ペリンドプリルエルブミンの取出しを行う。このペリンドプリルエルブミンを結晶化してもよい。
【0035】
このようにして、本発明では、新規化合物であるペリンドプリルの前駆体を使用することにより、またこの新規な前駆体を独創的なステップを経て合成することによって、高価なパラジウム炭素などの貴金属化合物を必要とせず、また取り扱いが厄介な強酸を使用することなく、しかも発熱等の問題も生ぜず、ペリンドプリルエルブミンを容易に、短時間で、かつ安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のペリンドプリルの前駆体は、新規化合物であり、該前駆体を用いることで、容易かつ安価にペリンドプリルエルブミンを工業的に製造することができる。
また、本発明によれば、この新規化合物である前駆体をt−ブトキシカルボニル基やp−メトキシベンジル基を利用するという独創的な合成方法によって、容易に製造することができる。
この前駆体から導かれるペリンドプリルエルブミンは、降圧剤として高血圧性障害や心臓機能不全等の治療に使用することができる。
【実施例】
【0037】
実施例1
本発明に係るペリンドプリルエルブミンの前駆体:(2S,3aS,7aS)−1−{2−[1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ]−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸−p−メトキシベンジルエステルを以下のようにして合成した。
【0038】
第1ステップ:
化合物(III):N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドールの合成;
ジオキサン320ミリリットル(以下、ミリリットルをmL、リットルをLと記す)と1M−NaOH160mLの混合溶媒に、化合物(II):(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドールを27.08g(0.16モル)加えた。
この反応溶液に二炭酸ジ−t−ブチル38.41g(0.18モル)を加え、室温で2.5時間攪拌下に反応させた。
次いで、エバポレータ−にてジオキサンを留去し、1M−HClにて中和後、酢酸エチル250mLで抽出した。
得られた有機相を濃縮し、そこへヘキサン200mLを加え結晶化させて濾過した。
得られた結晶を真空乾燥し、N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドール39.18g(収率91%)を得た。
得られた結晶の融点測定、NMR分析、IR分析、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0039】
〔融点測定〕
融点測定装置(独国BUCHI社製商品名“B545”)を使用して行った。この結果は、次の通りであった。
融点:134.1〜136.1℃
〔NMR分析〕
R−1200形高速掃引相関核磁気共鳴装置(日立社製)を使用し、CDCl3にて測定を行った。この結果は、図1の通りであった。
〔IR分析〕
赤外分光分析装置(米国PERKIN ELMER社製商品名“PARAGON1000”)を使用し、KBr法にて測定を行った。この結果は、図2の通りであった。
〔元素分析〕
FISONS社製商品名“EA1108型”を使用して行った。この結果は表1の通りであった。
【0040】
第2ステップ:
化合物(V):N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステルの合成;
【0041】
第1ステップで得た化合物(III):N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドール16.7g(0.062モル)と、p−メトキジベンジルクロライド9.71g(0.062モル)と、塩基性触媒であるトリエチルアミン6.27g(0.062モル)とを、トルエン90mL中で10時間攪拌下に還流反応させた。
次いで、反応液を冷却し、水50mLで4回水洗した。
得られた有機相を濃縮し、N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステル22.29g(収率92%)を得た。
得られた油状物質のNMR分析、IR分析、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0042】
〔NMR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図3の通りであった。
〔IR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図4の通りであった。
〔元素分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、表1の通りであった。
【0043】
第3ステップ:
化合物(VI):(2S,3aS,7aS)−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステルの合成;
【0044】
第2ステップで得た化合物(V):N−t−ブトキシカルボニル−(2S,3aS,7aS)−2−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステル23.37g(0.06モル)を、酢酸エチル150mLに溶解させた。
この溶液に、水1.07gとメタンスルホン酸23.07g(0.24モル)とを加え、室温で1時間攪拌下に反応させた。
反応後、反応液を氷水で冷却しながら20%NaOH水溶液で中和し、得られた有機相を水50mLで2回水洗した。
この有機相を濃縮し、(2S,3aS,7aS)−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステル16.2g(収率93%)を得た。
得られた油状物質のNMR分析、IR分析、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0045】
〔NMR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図5の通りであった。
〔IR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図6の通りであった。
〔元素分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、表1の通りであった。
【0046】
この油状(2S,3aS,7aS)−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステルをアセトン中でフマル酸塩に変換し、結晶化した。
得られた結晶の融点測定、NMR分析、IR分析、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0047】
〔融点測定〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、次の通りであった。
融点:70℃付近で分解
〔NMR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図7の通りであった。
〔IR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図8の通りであった。
〔元素分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、表1の通りであった。
【0048】
第4ステップ:
ペリンドプリルエルブミンの前駆体(I):(2S,3aS,7aS)−1−{2−[1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ]−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸−p−メトキシベンジルエステルの合成;
第3ステップで得た化合物(VI):(2S,3aS,7aS)−カルボキシオクタヒドロインドール−p−メトキシベンジルエステル16.4g(0.057モル)と、化合物(VII):N−[1−(S)−(エトキシカルボニル)ブチル]−L−アラニン12.31g(0.057モル)と、ヒドロキシベンゾトリアゾール7.66g(0.057モル)と、塩基性触媒であるトリエチルアミン11.47g(0.011モル)とを、酢酸エチル190mLに加え攪拌した。
次いで、この懸濁液に、脱水縮合剤であるジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)11.69g(0.057モル)を加え、8時間反応させた。
反応後、DCCの副成物である結晶を濾別し、濾液を水50mLで3回洗浄した。
得られた有機相を濃縮し、そこへイソプロピルエーテル50mLを加え、濾過した。
この濾液を濃縮し、(2S,3aS,7aS)−1−{2−[1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ]−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸−p−メトキシベンジルエステル24.92g(収率89%)を得た。
得られた物質のNMR分析、IR分析、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0049】
〔NMR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図9の通りであった。
〔IR分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、図10の通りであった。
〔元素分析〕
第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、表1の通りであった。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2
実施例1で得られたペリンドプリルエルブミンの前駆体からペリンドプリルエルブミン:(2S,3aS,7aS)−1−{2−[1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ]−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸t−ブチルアミン塩(VIII)を、以下のようにして合成した。
【0052】
実施例1で得たペリンドプリルエルブミンの前駆体:(2S,3aS,7aS)−1−{2−〔1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ〕−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸−p−メトキシベンジルエステル2.44g(0.005モル)を酢酸エチル25mLに溶解させた。
この溶液に、メタンスルホン酸0.05モルを加え、室温で5時間攪拌下に反応させた。
反応後、反応溶液を氷水で冷却しながら、20%NaOH水溶液で中和し、得られた有機相を水50mLで2回水洗した。
この有機相を濃縮し、酢酸エチル10mLを加え、さらにt−ブチルアミン0.44g(0.006モル)を加え、50℃に加熱後、−10℃まで冷却した。
析出した結晶を濾別し、ペリンドプリルエルブミン:(2S,3aS,7aS)−1−{2−〔1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ〕−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸t−ブチルアミン塩1.10g(収率50%)を得た。
得られた結晶の旋光度測定、融点測定、元素分析を行った。結果を下に示す。
【0053】
〔旋光度測定〕
旋光度測定装置(日本分光社製商品名“P−1020”)を使用して行った。この結果は、次の通りであった。
旋光度(20℃,D線):−67.7(C=1%,エタノール(95),100mm)
〔融点測定〕
実施例1における第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、次の通りであった。
融点:157.5℃
〔元素分析〕
実施例1における第1ステップの場合と同様にして行い、この結果は、表2の通りであった。
【0054】
【表2】

【0055】
上記の分析結果により、実施例2で得られた結晶は、ペリンドプリルエルブミンであることが同定された。
【0056】
実施例3
実施例1で得られたペリンドプリルエルブミンの前駆体から、メタンスルホン酸以外の酸を用いて、ペリンドプリルエルブミン:(2S,3aS,7aS)−1−{2−[1−(エトキシカルボニル)−(S)−ブチルアミノ]−(S)−オキソプロピル}オクタヒドロインドールカルボン酸t−ブチルアミン塩を合成した。
実施例2のメタンスルホン酸に代えて、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、混合液A(塩酸50重量%とp−トルエンスルホン酸50重量%の混酸)、混合液B(塩酸50重量%とメタンスルホン酸50重量%の混酸)、混合液C(塩酸50重量%とトリフルオロ酢酸50重量%の混酸)を使用する以外は、実施例2の場合と同様にして行い、得られた各結晶の重量(収率)を測定した。
使用される各酸の濃度と結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によるペリンドプリルの新規な前駆体は、独創的な合成方法によって得られ、該前駆体を用いることで容易かつ安価なペリンドプリルエルブミンの工業的製造を可能とする。
この前駆体から導かれるペリンドプリルエルブミンは、降圧剤として高血圧性障害や心臓機能不全等の治療に好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1の第1ステップで得た化合物(III)のNMR分析結果を示す図である。
【図2】実施例1の第1ステップで得た化合物(III)のIR分析結果を示す図である。
【図3】実施例1の第2ステップで得た化合物(V)のNMR分析結果を示す図である。
【図4】実施例1の第2ステップで得た化合物(V)のIR分析結果を示す図である。
【図5】実施例1の第3ステップで得た化合物(VI)のNMR分析結果を示す図である。
【図6】実施例1の第3ステップで得た化合物(VI)のIR分析結果を示す図である。
【図7】実施例1の第3ステップで得た化合物(VI)のフマル酸塩結晶のNMR分析結果を示す図である。
【図8】実施例1の第3ステップで得た化合物(VI)のフマル酸塩結晶のIR分析結果を示す図である。
【図9】実施例1の第4ステップで得た化合物(I)のNMR分析結果を示す図である。
【図10】実施例1の第4ステップで得た化合物(I)のIR分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)で表されるペリンドプリルの前駆体。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のペリンドプリルの前駆体(I)を製造する方法であって、
(1)次式(II)で表される化合物を出発原料とし、化合物(II)の窒素原子をt−ブトキシカルボニル基で保護する第1のステップ、
【化2】

(2)第1のステップで得られた次式(III)で表される化合物のカルボキシル基を次式(IV)の化合物で保護する第2のステップ、
【化3】


〔式(IV)中、Yはハロゲンまたはヒドロキシル基を表す。〕
(3)第2のステップで得られた次式(V)で表される化合物のt−ブトキシカルボニル基を脱離する第3のステップ、
【化4】

(4)第3のステップで得られた次式(VI)で表される化合物と次式(VII)で表されるアラニン誘導体とを縮合させる第4のステップ、
【化5】


の4つのステップからなるペリンドプリルの前駆体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のペリンドプリルの前駆体(I)を、酸により加水分解し、続いてt−ブチルアミンと反応させることを特徴とするペリンドプリルエルブミン(VIII)の製造方法。
【化6】

【請求項4】
酸が、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸のいずれか1つ、またはこれらを混合したものであることを特徴とする請求項3に記載のペリンドプリルエルブミン(VIII)の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate