説明

ペースト組成物

【課題】ビヒクルに設計性が高く、入手性が良いアクリル樹脂を使用し、太陽電池シリコンウエハの裏面電極として電気抵抗値が低いアルミニウム電極が形成できるペースト組成物を提供することである。
【解決手段】太陽電池シリコンウエハ上に電極を形成する、アルミニウム粉末とガラスフリットと有機ビヒクルを成分とするペースト組成物で、有機ビヒクルの樹脂がアクリル樹脂であり、前記ガラスフリットがアルカリ金属を含むペースト組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ上に電極を形成するアルミニウムペースト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼成導電ペーストはプラズマディスプレー、セラミック配線板、コンデンサの電極などの多くの分野で使われている。それぞれの要求特性を満たすために最適な配合が開発されている。それぞれの要求特性に応じたもので、例えばプラズマディスプレーではガラス板に対する密着性の他に、回路形成、アルカリ剥離等の要求。セラミック配線板ではグリーンシートにパンチングで穴あけし、バイア形成をするため、印刷適性の他、穴埋め性等も要求される。太陽電池裏面電極に使用される焼成導電ペーストはシリコンウエハの薄膜化に対応し、そりの少ないこと、エネルギー変換効率向上のためにBSF(Back Surface Field)効果の高いもの、同じく、高い導電性能が要求される。
【0003】
比表面積が1.5〜5.0m/gである導電性粉体、ガラスフリットおよび結着樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト組成物で優れた導電性を有するとともに良好な密着性を有する電極パターンを形成することができ、プラズマディスプレイパネルの電極パターン形成のために好適に使用することができる導電性ペースト組成物、転写フィルムおよびそれから得られるプラズマディスプレイパネル用電極となることが開示されている。(特許文献1)
【0004】
無機粒子と、(メタ)アクリル酸エステルから成るとともにホモポリマーのガラス転移温度Tg[h]がTg[h]≧100℃であるH成分と、(メタ)アクリル酸エステルから成るとともにホモポリマーのガラス転移温度がTg[l]であるL成分とを、H成分およびL成分の合計モル分率が80mol%以上となるように共重合させた共重合体から成り、(Tg[h]−Tg[l])≧50を満たすバインダーとを具備するペースト組成物が熱分解性に優れ、所望の微細形状を形成することが可能で、かつ粘度経時安定性に優れることが開示されている。(特許文献2)
【0005】
レーザー回折法に基づく粒度分布のD50が3μm以下であり且つD10とD90との比(D10/D90)が0.2以上であることを特徴とする小粒径アルミニウム粉末と、D50が小粒径アルミニウム粉末のD50の2〜6倍であり且つD10/D90が0.2以上であることを特徴とする大粒径アルミニウム粉末とを混合することにより調製された混合アルミニウム粉末を含む太陽電池用アルミニウムペーストは少ない塗布量で高いBSF効果を保証しつつ焼成時にシリコン基板に反り等の変形が発生するのを防止し得る薄いアルミニウム電極を形成するために使用できることが開示されている。(特許文献3)
【0006】
アルミニウム粉末と、有機質ビヒクルと、ガラスフリットとガラスフリットがアルカリ土類金属酸化物を含むことで焼成時においてブリスターやアルミニウムの玉が裏面電極層に発生するのを抑制することが可能なアルミニウムペースト組成物と、その組成物を用いて形成された電極を備えた太陽電池素子が開示されている。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−055402号公報
【特許文献2】特開2008−202041号公報
【特許文献3】特開2009−146578号公報
【特許文献4】特開2007−81059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビヒクルにアクリル樹脂を使用し、太陽電池シリコンウエハの裏面電極として電気抵抗値が低いアルミニウム電極が形成できるペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、太陽電池シリコンウエハ上に電極を形成する、アルミニウム粉末とガラスフリットと有機ビヒクルを成分とするペースト組成物であって、有機ビヒクルの樹脂がアクリル樹脂であることを特徴とするペースト組成物とすることで、ビヒクルとして樹脂の入手、設計性に優れ、ペースト組成物としての適正化が容易という特徴がある。
【0010】
請求項2の発明は、前記ガラスフリットがアルカリ金属を含むことを特徴とする請求項1に記載のペースト組成物で、電気抵抗値を低く設定することができる特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペースト組成物はビヒクルとして、樹脂の設計が容易で、入手性が高く、熱分解温度が低いアクリル樹脂が使用でき、セルロース系の樹脂に比べ、重合度の設定、溶剤種への対応ができ、このビヒクルとアルカリ金属を含むガラスフリットとアルミニウム粉末を含むペースト組成物で導電性が高い太陽電池ウエハの裏面電極が形成できる特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のペースト組成物は導電性材料、シリコンウエハへのドーピング材料となるアルミニウム粉末、焼結時前記導電材料の焼結を助け、或いは共焼結するガラスフリットとシリコンウエハへの前記組成物を定着させ、焼結までの工程を可能とする有機質ビヒクルからなる。また、有機質ビヒクルは乾燥後、導電材料とガラスフリット等の粉末材料を定着させる樹脂とその溶剤から構成される。
本発明は導電性材料が、太陽電池のエネルギー変換効率が上がるBSF効果を有し、導電性が高いアルミニウム粉を配合し、シリコンウエハの裏面の電極として高い導電性を得ること、また、有機質ビヒクルに用いる樹脂の設計容易性、入手容易性を高めることを課題とし、有機質ビヒクルの樹脂としてアクリル樹脂で、ガラスフリットとしてアルカリ金属を含むことにより高い導電性が得られることを見出し、発明に至った。
【0013】
アルミニウム粉末
本発明に用いるアルミニウム粉末はシリコンウエハへの印刷適性に適い、焼成により、導電性とBSF効果が得られる粒径や形状等適宜選択する。平均粒子径1〜20μmが好ましい。さらに、3〜10μmが好ましい。
平均粒子径が1μm未満であるとアルミニウム粉末の比表面積が大きくなり、アルミ粉末が高充填できなくなると同時に、アルミニウム粉末の溶融が速く、電極のふくれやアルミニウムの玉を促進させ、平均粒子径が20μmを超えると、粘度が低くなると同時に、電極の膜厚が大きくなりシリコンウエハの反りを招く。
【0014】
本発明に用いる有機質ビヒクルはアクリル樹脂と有機溶剤から構成され、アルミニウム粉末やガラスフリット等の粉体材料をシリコンウエハに印刷でき、次工程である焼成時のハンドリングに耐えればよい。
【0015】
アクリル樹脂
本発明に用いるアクリル樹脂はビヒクルとしての役目と裏面電極としての導電性向上効果を有する。アクリル樹脂のビヒクルとしての役目は粉体材料の高担持と印刷適性に影響する粘性で共重合するモノマーとその重合体の分子量の高低とこの高低のものを混合することで適宜配合する。有機溶剤とアクリル樹脂との相溶性とその粘性により、シルクスクリーン等の適性を合わせる。アクリル樹脂は裏面電極の表面抵抗値に影響を与え、重量平均分子量が17万以上が好ましい。一般的に導電性材料を高含有とすることが好ましく、上限はアクリル樹脂の配合による導電性向上効果とペースト組成物として、導電性材料の包容力で選択し、重量平均分子量110万以下が好ましい。
【0016】
有機質ビヒクルに用いる有機溶剤はアクリル樹脂との相溶性、乾燥性で適宜選択する。エステル系やグリコールエーテル系、ターピネオール系などの溶剤を使用することができる。有機溶剤の含有量はスクリーン印刷等の塗布手段で導電性電極の膜厚に影響を与えるため、粘性と膜厚の両立する範囲で使用できる。
【0017】
ガラスフリット
本発明に用いるガラスフリットは、溶融焼結後にアルミニウム粉末を結合する無機バインダーとしての役割やアルミニウムとシリコンとの反応促進、アルミニウム粉末自身の焼結助剤として働く。しかしながら、一般的なガラスフリットを使用した場合には、アルミニウムとシリコンとの反応により、局部的に多量のAl−Si合金が生じ、アルミニウムが溶融し、ふくれやアルミニウムの玉の発生の原因となる。太陽電池裏面電極形成用のアルミペーストに使用されるガラスフリットには、主成分としてPbO−B−SiO系、PbO−B−Al系、PbO−B系、SiO−B−RO系(R:アルカリ土類金属)、B−ZnO系、Bi−B−SiO系およびBi−B−ZnO系等の酸化物を含むものなど使用できるが、これらの組成に加えて副成分としてアルカリ金属が含まれているものが良い。アルカリ金属を含んでいるものはアクリル樹脂の焼成性が向上する。また、好ましくは、環境負荷を鑑みて鉛を含まないものが良い。さらに好ましくは、アルカリ金属として反応性が高いリチウムが含まれないものが良い。
アルミニウム粉末に対するガラスフリットの適正範囲は0.5〜3.5容量%が好ましい。アルカリ金属はLi,Na,Kから少なくとも1つ以上のものが組成に加わっていればよい。好ましくはNa,Kがよく、ガラスフリット中のアルカリ金属は、0.01〜10重量%が良い。
【0018】
本発明のペースト組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、可塑剤、カップリング剤、消泡剤、沈降防止剤、レべリング剤などを配合することができる。調製には、公知の混合、混練、分散機を使用することができる。例えば、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、サンドミル、プラネタリーミキサー、高速ミキサー、自公転撹拌機等が挙げられる。
【0019】
以下 実施例・比較例・参考例をあげ、説明する。
【実施例1】
【0020】
アクリル樹脂としてEMB−038(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量183000)を有機溶剤であるターピネオールC(日本テルペン化学(株)、商品名、α−、β−、γ−ターピネオールの混合物)とブチルカルビトールアセテート(大伸化学(株))の2:1の混合溶媒に8.4重量%溶解した有機質ビヒクルとし、この有機ビヒクル44.2重量部、H−3(VALIMET社、アルミニウム粉末、平均粒子径4.6μm、球形)53重量部、GA12(日本電気硝子(株)、商品名、ガラスフリット、ホウ酸亜鉛ナトリウム系、粒子径2.5μm)1.5重量部、フローレンG−900(共栄社化学(株)、商品名、分散剤、カルボキシル基含有ポリマー変性物)0.5重量部、DOP((株)ジェイ・プラス、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル))0.8重量部を三本ロールミルを用いて均一に混合し、実施例1のペースト組成物とした。
【実施例2】
【0021】
実施例1のEMB−038をEMB−060(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量554000)に変えた以外同じに行い、実施例2のペースト組成物とした。
【実施例3】
【0022】
実施例1のEMB−038をEMB−061(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量386000)に変えた以外同じに行い、実施例3のペースト組成物とした。
【実施例4】
【0023】
実施例1のEMB−038をEMB−006(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量1100000)に変えた以外同じに行い、実施例4のペースト組成物とした。
【0024】
参考例1
実施例1のEMB−038をEMB−001(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量55000)に変えた以外同じに行い、参考例1のペースト組成物とした。
【0025】
参考例2
実施例1のEMB−038をEMB−002(三菱レイヨン(株)、商品名、重量平均分子量160000)に変えた以外同じに行い、参考例2のペースト組成物とした。
【0026】
比較例1
実施例3のGA12をTMX−102F(東罐マテリアル・テクノロジー(株)、商品名、ホウ酸亜鉛ビスマス系、粒子径1.5μm)に変えた以外同じに行い、比較例1のペースト組成物とした。
【0027】
【表1】

【0028】
表面抵抗率:実施例・参考例・比較例のペースト組成物を、厚みが200μm、大きさが156mm×156mmの多結晶P型シリコンウエハの中央に、250メッシュのスクリーン印刷版を用いて154mm×154mmの大きさで印刷し、熱風乾燥機で150℃30分間で乾燥させ、下記条件で焼成したアルミニウム電極層の表面抵抗率をロレスターEP MCP−T360(三菱化学(株)、四端子四探針方式)を用いて測定した。
【0029】
焼成条件は、4ゾーンのワイヤー式ベルト炉を用い、ゾーン1の温度は400℃、ゾーン2の温度は600℃、ゾーン3の温度は800℃、ゾーン5の温度は600℃に設定し、ゾーン1での停止時間は25秒間、残りのゾーン2〜4の停止時間は7秒間とし、各ゾーン間の移動速度は20m/分とした。焼成後の電極層の膜厚は平均で35μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は太陽電池用の裏面電極とし電気抵抗値を低いものとするとができる。シリコンウエハ上に形成する電極に適応できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池シリコンウエハ上に電極を形成する、アルミニウム粉末とガラスフリットと有機ビヒクルを成分とするペースト組成物であって、有機ビヒクルの樹脂がアクリル樹脂であることを特徴とするペースト組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットがアルカリ金属を含むことを特徴とする請求項1に記載のペースト組成物。

【公開番号】特開2011−142281(P2011−142281A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3465(P2010−3465)
【出願日】平成22年1月9日(2010.1.9)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】