説明

ホイップクリーム用油脂組成物

【課題】 実質的にトランス酸を含まず、乳化安定性及びホイップ性に共に優れたホイップクリーム用油脂組成物を提供する。
【解決手段】 A成分として融点が30〜50℃である油脂を60〜95質量部、B成分として融点10℃以下である植物油脂を5〜40質量部含むホイップクリーム用油脂組成物。
A成分:炭素数8〜12の脂肪酸20〜50質量%、炭素数14〜18の脂肪酸25〜65質量%、及び炭素数20〜24の脂肪酸10〜25質量%からなる混合脂肪酸とグリセロールから構成され、構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールを50〜80質量%含む油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップクリーム用油脂組成物及びこれを原料とするホイップクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームはケーキ類やパフェ等洋菓子に大量に使用されている。その種類は牛乳を遠心分離して得られる生クリーム、動植物性脂肪を加工して得られる合成クリーム、さらに前記二者を混合したコンパウンドクリームの3種類に大別される。ホイップクリームは油脂組成物を水に乳化し、これに空気を抱き込ませるようにホイップして製造される。これらクリーム類の大部分は、水中油型乳化液として流通・販売されており、最終使用者である製菓工場や洋菓子店、家庭で必要に応じてその都度ホイップして使用されている。
ホイップクリーム用水中油型乳化液は、流通・保管時の振動や温度変化などに対して、増粘・固化等の性質の変化を起こさない乳化安定性(振動耐性及び温度安定性)の良いものが求められる。さらに、ホイップ時には短時間で解乳化し、適度のオーバーランが得られるホイップ性も求められる。また、ホイップ後のクリームの性能として、洋菓子等のトッピング、フィリングとして使用した場合の形状の安定性(造花性及び保形性)、良好な食感が求められる。
特に、低温における振動耐性等の乳化安定性と短時間で適度のオーバーランが得られるホイップ性は相反する性能である。よって、乳化安定性を強めた場合、ホイップ性が劣り、ホイップ性を強めた場合は乳化安定性が劣ってしまうといった問題が生じてしまう。そのため、ホイップクリームに用いられる油脂には、乳化安定性とホイップ性がバランス良く両立した油脂が求められる。
【0003】
生クリームを用いたホイップクリームは、口あたり、口溶け等の食感が良く、また比較的さっぱりとした乳味感を有しており、風味も非常に良好である。しかし、生クリームは高価で、品質の一定したものが供給されにくいという問題がある。またホイップさせるのに技術を要し、さらにホイップしたものは、不安定で、造花性が悪く、温度や振動によってその造形物が変形する等、使用しにくい欠点を持っている。
一方、合成クリームは今日では多くの改良研究が進み、乳化安定性、ホイップ性等の物性も向上しており、生クリームに比べて安価なことから大量に使用されている。それら合成クリームの原料油脂としては、菜種油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の植物油やその分別油、またはこれらの部分硬化油(部分水素添加油)が多く使用されている(特許文献1)。これらは、部分水素添加時に生成したトランス酸により、水中油型乳化液の乳化安定性とホイップ性の相反する性能及びホイップクリームの良好な食感を付与したものである。
しかしながら、近年の研究では、トランス酸が血漿中のLDL/HDLコレステロール比を増大させ、循環器疾患の原因となるとの報告がある。このように、トランス酸を過剰摂取することによる健康への影響に対する懸念があるので、油脂中のトランス酸含量を少なくした方が好ましい。
【0004】
以上のように、振動耐性及び乳化安定性やホイップ性能に係わるトランス酸の含有量を少なくし、ホイップクリームに用いることのできる性能を持つ油脂組成物の開発が望まれていた。トランス酸を実質的に含まないホイップクリーム用油脂組成物としては、ラウリン酸系油脂のエステル交換油の使用がある。ところが、このホイップクリーム用油脂組成物を用いたとき、ホイップ性能やホイップクリームの食感は、トランス酸含有のホイップクリーム用油脂と同等であるものの、乳化安定性特に低温での振動耐性の面では充分な性能が得られなかった。
【特許文献1】特開2002−17256号公報
【特許文献2】特開平6−141808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、実質的にトランス酸を含まず、乳化安定性及びホイップ性に共に優れたホイップクリーム用油脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における第1の発明は、A成分として融点が30〜50℃である油脂を60〜95質量部、B成分として融点10℃以下である植物油脂を5〜40質量部含むホイップクリーム用油脂組成物。
A成分:炭素数8〜12の脂肪酸20〜50質量%、炭素数14〜18の脂肪酸25〜65質量%、及び炭素数20〜24の脂肪酸10〜25質量%からなる混合脂肪酸とグリセロールから構成され、構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールを50〜80質量%含む油脂。
である。
【0007】
本発明における第2の発明は、A成分が、構成脂肪酸に炭素数8〜12の飽和脂肪酸を50質量%以上含む油脂と、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を50質量%以上含む油脂とのエステル交換油である第1の発明のホイップクリーム用油脂組成物である。
【0008】
本発明における第3の発明は、第1〜第2のいずれかのホイップクリーム用油脂組成物を原料とするホイップクリームである。
【発明の効果】
【0009】
本発明における第1の発明によれば、実質的にトランス酸を含有しない油脂組成物にもかかわらず、水中油型乳化液の振動耐性や温度安定性等の乳化安定性、短時間でホイップが可能なホイップ性能、ホイップクリームの造花性及び口あたりや口溶け等の食感に優れたホイップクリーム用油脂組成物が提供される。
本発明における第2の発明によれば、第1の発明におけるA成分について、工場生産性良く製造可能なホイップクリーム用油脂組成物が提供される。
本発明における第3の発明によれば、粘稠性・造花性に優れ、且つ口溶け等食感の良いホイップクリームが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用するホイップクリーム用油脂組成物は、A成分として融点が30〜50℃である油脂を60〜95質量部、B成分として融点10℃以下である植物油脂を5〜40質量部含むホイップクリーム用油脂組成物である。
【0011】
(A成分)
本発明において、A成分の油脂は、炭素数8〜12の脂肪酸20〜50質量%、炭素数14〜18の脂肪酸25〜65質量%、及び炭素数20〜24の脂肪酸10〜25質量%からなる混合脂肪酸とグリセロールから構成され、構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールを50〜80質量%含む油脂である。
A成分の油脂の構成脂肪酸は、炭素数8〜12の脂肪酸を20〜50質量%含むことを特徴とする。炭素数8〜12の脂肪酸量が20質量%に満たない場合、ホイップクリームの口あたり、口溶け等の食感が悪くなり、50質量%を超えるとホイップクリームの粘稠性や造花性が悪化することがある。
また、炭素数20〜24の脂肪酸を10〜25質量%含むことを特徴とする。炭素数20〜24の脂肪酸量が10質量%に満たない場合、水中油型乳化液の乳化安定性が悪く、充分な振動耐性が得られず、25質量%を超えるとホイップクリームの口溶けが悪く、食感が悪化することがある。
しかし、上記の炭素数8〜12の脂肪酸含量及び炭素数20〜24の脂肪酸含量の範囲を満たすA成分を融点10℃以下のB成分の油脂とを配合しホイップクリーム用油脂組成物を製造しても、乳化安定性及びホイップ性能が両立したホイップクリーム用油脂を得ることができない場合がある。
【0012】
本発明は、乳化安定性及びホイップ性能が両立したホイップクリーム用油脂を得るためには、A成分の油脂の構成脂肪酸の組成を一定の範囲とするだけではなく、さらに、トリアシルグリセロールにおいて脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールの量が一定の範囲であることが必要であることを見出して本発明を完成したものである。トリアシルグリセロールの脂肪酸の炭素数の総和とはグリセロールと結合している3個の脂肪酸における炭素数の合計量である。
構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48のトリアシルグリセロールには、その構成脂肪酸として炭素数8〜12の脂肪酸及び炭素数20〜24の脂肪酸の両方を含むトリアシルグリセロールが含まれることになる。
【0013】
本発明のA成分の油脂は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールを50〜80質量%含むことを特徴とする。50質量%以下もしくは80質量%以上である場合、水中油型乳化液の乳化安定性が悪化するといった問題や水中油型乳化液をホイップする際の時間がかかりすぎるといった問題、ホイップクリームの造花性が悪くなるといった問題、ホイップクリームの口溶けが悪く、食感が悪化するといった問題が発生することがある。
このような脂肪酸組成の油脂は天然界には知られておらず、本発明のA成分の油脂は、脂肪酸とグリセリンとの合成や、天然油脂をエステル交換、水素添加して得ることができる。
炭素数8〜12の脂肪酸を構成成分に多く含む油脂としては、パーム核油、ヤシ油等のようにヤシ科の種子から得られる油脂、及びそれらを分別、水素添加、エステル交換した油脂、MCT(中鎖トリグリセライド)等が挙げられる。また、炭素数20〜24の脂肪酸を構成成分に多く含む油脂としては、例えば、ハイエルシン菜種油や魚油、それらの極度硬化油が知られている。
【0014】
本発明のA成分の油脂は、炭素数8〜12の飽和脂肪酸を構成成分に50質量%以上含む油脂と炭素数20〜24の飽和脂肪酸を構成成分に50質量%以上含む油脂とのエステル交換油であることが好ましい。
A成分の具体例としては、ヤシ極度硬化油45〜75質量部とMCT0〜20質量部及びハイエルシン菜種極度硬化油30〜40質量部の混合油のエステル交換油脂等が例示できる。
ここで、極度硬化油は、油脂構成脂肪酸に含まれる脂肪酸の二重結合が水素添加により飽和された油脂であり、そのヨウ素価は1以下である。
水素添加は、原料油脂に、主にニッケル触媒を用いて、水添開始温度を120〜160℃、最高温度が180〜230℃となるようにコントロールしながら、水素を注入することによって行うことができる。
エステル交換油を用いる場合、エステル交換はナトリウムメチラート等のアルカリ触媒を用いた方法或いは、リパーゼ等の酵素触媒を用いた方法等が挙げられるが、特に限定はされない。
【0015】
さらに、本発明において、上記の炭素数8〜12の脂肪酸含量、炭素数20〜24の脂肪酸含量の範囲及び構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロール含量の範囲を満たすA成分をB成分の油脂と混合しホイップクリーム用油脂組成物を製造しても、乳化安定性及びホイップ性能が両立したホイップクリーム用油脂を得ることができない場合がある。
本発明では、A成分の油脂の構成脂肪酸の組成及びトリアシルグリセロールの組成を一定の範囲とするだけではなく、さらに、A成分の油脂の融点を30〜50℃に調整する必要があることを見出した。
融点の調整は、低融点油脂及び高融点油脂の種類及び配合比率の調整、そして、その混合油をエステル交換することにより行うことができる。
A成分の融点が30℃未満の場合、水中油型乳化液での振動耐性・温度安定性が良好で、より安定な乳化状態を保つことができるが、ホイップ性能は著しく劣る。また、ホイップクリームを製造した際、粘稠性が弱いホイップクリームとなってしまい、造花したクリームの型が崩れやすい。また、融点が50℃を超える場合、ホイップクリームの口溶けが悪くなってしまう。
さらに、より好ましいA成分の油脂の融点は35〜45℃である。この範囲内であると、水中油型乳化液の乳化安定性がより良好で、且つより良好なホイップ性能を持つホイップクリーム用油脂を得ることができる。また、ホイップクリームを製造した際には、より良好な粘稠性を持ち、造花性が良く、且つより良い口溶けのクリームを得ることができる。
【0016】
(B成分)
本発明において、A成分の油脂のみを使用しても、乳化安定性、特に低温での振動耐性について充分な性能が得られない。そこで、本発明ではA成分の油脂とB成分の油脂とを配合してホイップクリーム用油脂組成物を製造する。
本発明にB成分として使用する植物油脂は、常温にて液状で、融点10℃以下の油脂であり、特に限定されないが、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、米油、米糠油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、オリーブ油、綿実油、あるいはそれらの分別油等が挙げられ、それらを1種又は2種以上選択することができる。
B成分として、牛脂、豚脂等の分別油等、動物由来の融点10℃以下の油脂を使用した場合、獣由来の風味を有することがあり、ホイップクリームの風味として好ましくないことがある。
【0017】
(ホイップクリーム用油脂組成物)
本発明のホイップクリーム用油脂組成物は、融点30〜50℃であるA成分の油脂60〜95質量部と融点10℃以下であるB成分の植物油脂5〜40質量部を含む油脂組成物である。
A成分の油脂の含有量が60質量部未満の場合、すなわちB成分の油脂の含有量が40質量部を超える場合、水中油型乳化液の振動耐性・温度安定性が良好で、より安定な乳化状態を保つことができるが、最適なホイップ状態を得るまでに長い時間がかかってしまい、ホイップ性能は著しく劣る。また、ホイップクリームを製造した際、粘稠性が弱いホイップクリームとなってしまい、造花したクリームの型が崩れやすい。A成分の油脂の含有量が95質量部を超える場合、すなわちB成分の油脂の含有量が5質量部未満の場合、水中油型乳化液の振動耐性・温度安定性がなく、乳化安定性が悪くなってしまう場合がある。また、ホイップクリームを製造した際、造花性が悪化し、口溶けが悪くなりやすい。
本発明のホイップクリーム用油脂組成物は、上記の条件を満たすように、A成分とB成分を配合して製造することができる。しかし、A成分とB成分以外の油脂(C成分)も、5〜15質量部の範囲内で配合することができる。
【0018】
C成分の油脂は、融点20〜40℃である実質的にトランス酸を含まない油脂であることが好ましい。例として、パーム油、パーム核油、ヤシ油のような天然の可塑性油脂、及びそれらを分別した油脂、それらのエステル交換油、天然の植物油脂の極度硬化油等且つ/又は各種の乳脂が挙げられる。
C成分はヤシ油やパーム核油等のラウリン系油脂の極度硬化油であることがより好ましい。これらの油脂を上記の範囲内で配合した場合、ホイップ後のクリームの粘稠性及び造花状態を向上させることができる。
さらに、本発明のホイップクリーム用油脂組成物は、構成脂肪酸100質量部中に飽和脂肪酸を60〜95質量部含むことが好ましい。構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が60質量部未満の場合、ホイップクリームの粘稠性が下がり、クリームの型が崩れる等、造花性が悪くなる。飽和脂肪酸が95質量部を超えて含まれる場合、ホイップクリームの口溶けが悪くなりやすい。
【0019】
(ホイップクリーム)
本発明のホイップクリーム用油脂組成物は、これに水、乳化剤、酸化防止剤、着香料、着色料、保存料等を加えて水中油型乳化液を形成し、これを手だて、電動泡立て機、縦型ケーキミキサー、プレッシャーミキサー等で空気を抱き込ませるように撹拌し、ホイップさせる。
水中油型乳化液は、本発明のホイップクリーム用油脂組成物100質量部に水100〜150質量部加え、乳化剤を加えて乳化する。添加する乳化剤としては、特に制限されないが、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。乳化する方法としては、撹拌機、高速乳化機等を用いる方法や、必要に応じ、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置を用いる方法等が挙げられる。
【0020】
製造される水中油型乳化液は、この形態で流通し、最終使用者である製菓工場や洋菓子店等で必要に応じてその都度ホイップしてホイップクリームが製造されることから、保存時の安定性が要求される。水中油型乳化液の安定性は、冷蔵(3℃〜10℃)保存時で60日間安定であることが好ましい。
【0021】
本発明のホイップクリームは、本発明のホイップクリーム用油脂組成物を原料とし、これを乳化した水中油型乳化液の油層部及び水層部に、必要に応じ、安定剤、蛋白質、糖類、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、調味料、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤等を加えて製造される。
安定剤としては、例えばリン酸塩(ヘキサメタリン酸、第2リン酸、第1リン酸)、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等の安定剤が挙げられる。
【0022】
蛋白質としては、例えばα−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイ蛋白質、カゼイン、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質が挙げられる。
糖類としては、例えばブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0024】
表1−1及び表1−2に実施例に使用する油脂成分の構成脂肪酸組成の分析例を示す。脂肪酸含有量は基準油脂分析法2.4.2.1−1996にて分析を行った。
製造例1〜16
A成分として以下の製造例1〜16を製造した。
製造例1:パーム核極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、及びMCT(製品名:パナセート810、日本油脂株式会社製)のエステル交換
油製造例2:パーム核極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、及び菜種油のエステル交換油
製造例3及び11:ヤシ極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、及びMCTのエステル交換油
製造例4及び5:ヤシ極度硬化油、及びハイエルシン菜種極度硬化油のエステル交換油
製造例6:ヤシ極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、及びMCTの配合油
製造例7及び8:パーム核極度硬化油、及びハイエルシン菜種極度硬化油のエステル交換油
製造例9:ハイエルシン菜種極度硬化油、及び菜種油のエステル交換油
製造例10:菜種油を定法により部分水添した油脂(ヨウ素価:73.4)
製造例12:ヤシ極度硬化油、及びハイエルシン菜種極度硬化油の配合油
製造例13:製造例1と製造例3との配合油
製造例14:製造例2と製造例3との配合油
製造例15及び16:製造例1と製造例4との配合油
【0025】
【表1】

【0026】
極度硬化油の水素添加方法及び条件を以下に示す。反応器中に原料油を仕込み、水素を0.1MPaの圧力で吹き込みながら、撹拌しつつ150℃まで加熱した。その後、ニッケル触媒0.1〜0.2質量部を反応器内に投入し、190℃で水素を0.3Mpaの圧力で吹き込みながら、撹拌し水素を添加した。ヨウ素価を基準油脂分析法2.3.4.1−1996にて分析し、その値が1以下になった時点で水素の吹き込み及び撹拌を止め、反応を停止した。その後、油温を100〜120℃に冷却し白土を3質量部加えて濾過した。
【0027】
エステル交換油の反応方法及び条件を以下に示す。反応容器に原料混合油を仕込み、窒素気流中、撹拌しつつ加熱した。100℃〜120℃の状態で3時間以上この状態を保ち、油脂中の水分が100ppm以下になるまで脱水した。その後、油脂を80℃まで冷却し、ナトリウムメチラートを0.1〜0.2質量部加え、撹拌下窒素気流中で30分間反応させた。反応液に70℃の温水を加え撹拌した後、静置して油層と水層を分離する温水洗浄を行った。分離した水層のpHが8以下になるまで温水洗浄を繰り返した後、窒素気流中、撹拌しつつ加熱し、100℃〜120℃で水分が蒸発しなくなるまで脱水した。次いで、活性白土を3質量部加え15分間脱色した後、濾過した。
なお、エステル交換前後の油脂(製造例3及び6)について、炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールの組成変化を表6に示した。表2に示すようにエステル交換後の油脂は、炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールの総和が増加していることが確認された。
【0028】
【表2】

【0029】
油脂組成中のトリアシルグリセロールの構成脂肪酸の炭素数の総和についての分析は、ガスクロマトグラフィー法(基準油脂分析法2.4.6.1−1996に準じる)にて、分析を行った。
【0030】
製造例1〜16の油脂について、構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールの総和(質量部、表中、C36〜C48TGの総和と略す。)、炭素数8〜12、炭素数14〜18及び炭素数20〜24の脂肪酸の含有量、融点を表3−1、表3−2及び表4に示した。脂肪酸含有量は上記方法にて、融点は基準油脂分析法2.2.4.2−1996にて分析を行った。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
〔実施例1〜12〕
上記の製造例の油脂を用いて、表5の配合に従い、B成分である液状油及びC成分であるヤシ極度硬化油をそれぞれ混合し、実施例1〜12のホイップクリーム用油脂を製造した。また、実施例1〜12のホイップクリーム用油脂組成物を用いて下記の方法で水中油型乳化液及びホイップクリームを製造し、水中油型乳化液の乳化安定性(振動耐性、温度安定性)及びホイップ性(ホイップ時間、オーバーラン)、ホイップクリームの性能(粘稠性、造花状態、食感)について評価を行い、その結果を表5に示した。なお、C成分のヤシ極度硬化油は上記の水素添加方法により製造した。
【0034】
(水中油型乳化液の製造方法)
まず、水49.48質量部を70℃に昇温し、撹拌しながら脱脂粉乳4質量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.12質量部を溶解させた水相部を用意した。上記の実施例のホイップクリーム用油脂45質量部に、予めレシチン0.64質量部、ショ糖脂肪酸エステル0.22質量部、モノグリセリン脂肪酸エステル0.18質量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.11質量部、ソルビタン脂肪酸エステル0.25質量部を溶解させた油相部を用意し、上記の水相部に加え混合撹拌し予備乳化液を調整した。予備乳化後、高圧均質機(三和機械(株)製)を用いて圧力11MPaで均質化し、それを冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行った。
【0035】
得られた水中油型乳化液の乳化安定性(振動耐性、温度安定性)及びホイップ性(ホイップ時間、オーバーラン)、また、ホイップクリームの性能(粘稠性、造花状態、食感)の評価は下記の方法で行った。
(評価方法)
(1)振動耐性:振動機を用い、容器に入れた水中油型乳化液を7℃の状態で180回/分の速さで水平方向に3時間振動させ、粘度計(BROOKFIELD社製)を用いて水中油型乳化液の粘度を測定し評価した。
◎:振動後の水中油型乳化液の粘度が500cp未満
○:振動後の水中油型乳化液の粘度が500cp以上1000cp未満
△:振動後の水中油型乳化液の粘度が1000cp以上
×:振動後の水中油型乳化液が固化
(2)温度安定性(ヒートショック試験):冷蔵庫で24時間エージングを行った水中油型乳化液を30℃の恒温槽に7時間静置し、粘度計(BROOKFIELD社製)を用いて水中油型乳化液の粘度を測定し評価した。
◎:ヒートショック後の水中油型乳化液の粘度が500cp未満
○:ヒートショック後の水中油型乳化液の粘度が500cp以上1000cp未満
△:ヒートショック後の水中油型乳化液の粘度が1000cp以上
×:ヒートショック後の水中油型乳化液が固化
(3)ホイップ時間:水中油型乳化液600g及び砂糖60gを容器に仕込み、ホイッパーを装着したホバートミキサー(関東混合機社製)を用いて2速でホイップした。そして、オーバーランが最大の値を示すのに要した時間を求めた。ホイップ時間について10分未満は良好と判断される。
【0036】
(4)オーバーラン:ホイップしたクリームを適度な時間にサンプリングし、下記の式により増加体積割合を算出した。そして、その最大値を下記の4段階で評価した。
〔(一定容積の水中油型乳化液の重量−同容積のホイップ後のクリーム重量)/(同容積のホイップ後のクリーム重量)〕×100(%)
◎:150以上 ○:100以上150未満
△:100未満 ×:ホイップ不可能
(5)粘稠性:レオメーター(サン科学社製、圧縮弾性アダプター使用)により、オーバーランが最大値を示した時点のホイップクリームの粘稠度合を測定し評価した。
◎:最良 ○:良好 △:やや良好 ×:不良
【0037】
(6)造花状態:ホイップ後のクリームを絞り袋を使用して造花したときの絞り易い、造花物の形状、キメの状態等を総合評価した。
◎:最良・・・絞り易い。造花物がきれい。キメが良好
○:良好・・・絞り易い。造花物がややダレている。気泡少し壊れている。
△:不良・・・絞りにくい。造花物がダレている。気泡が壊れている。
【0038】
×:不良・・・絞りにくい。造花物がアレている。
(7)食感:口に含んだときに感じる油っぽさ、口溶け、爽快さ等の口当たりを評価した。
◎:最良 ○:良好 △:やや良好 ×:不良
【0039】
〔比較例1〜9〕
上記の製造例で得られた各油脂を用いて、表6の配合に従い、それぞれをB成分やC成分と混合し、比較例1〜9のホイップクリーム用油脂組成物を製造した。また、比較例1〜9のホイップクリーム用油脂組成物を用いて水中油型乳化液及びホイップクリームを上記の方法により製造し、水中油型乳化液の乳化安定性(振動耐性、温度安定性)及びホイップ性(ホイップ時間、オーバーラン)、ホイップクリームの性能(粘稠性、造花状態、食感)について上記の方法により評価を行い、その結果も表6に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
本発明の実施例において、いずれもホイップクリーム用油脂として良好な性能が得られた。
比較例1〜3はA成分とB成分の比率が本発明で特定される範囲外の例、比較例4〜8はA成分として本発明で特定される範囲外の油脂を使用した例であるが、いずれも実施例と同等のホイップクリーム用油脂としての性能は得られなかった。なお、比較例9はトランス酸を大量に含む場合の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A成分として融点が30〜50℃である油脂を60〜95質量部、B成分として融点10℃以下である植物油脂を5〜40質量部含むホイップクリーム用油脂組成物。
A成分:炭素数8〜12の脂肪酸20〜50質量%、炭素数14〜18の脂肪酸25〜65質量%、及び炭素数20〜24の脂肪酸10〜25質量%からなる混合脂肪酸とグリセロールから構成され、構成脂肪酸の炭素数の総和が36〜48であるトリアシルグリセロールを50〜80質量%含む油脂。
【請求項2】
A成分が、構成脂肪酸に炭素数8〜12の飽和脂肪酸を50質量%以上含む油脂と、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を50質量%以上含む油脂とのエステル交換油である請求項1記載のホイップクリーム用油脂組成物。
【請求項3】
請求項1及び請求項2に記載のホイップクリーム用油脂組成物を原料とするホイップクリーム。