説明

ホウ素含有化合物及びその製造方法

【課題】有機EL素子の材料等として用いることができる新規なホウ素含有化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下式(1)で示されるホウ素含有化合物。


(式中、点線の円弧は、Q−N部分を含んで環を形成していてもよいことを表し、Q−N結合は単結合または二重結合を表し、窒素原子からホウ素原子への矢印は、配位結合を表し、Qは、連結基を表し、Xは、同一若しくは異なり、臭素原子等を表し、Rは、アリール基等を表し、Rは、1価の基を表し、mは、0〜2の整数を表し、Rは、水素原子等を表し、nは、1以上の整数を表し、nは、Rは1以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有化合物及びその製造方法に関する。より詳しくは、有機EL素子等の発光デバイスや有機半導体の材料等の機能性電子素子素材として好適に用いることができるホウ素含有化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素原子を構造中に有する有機ホウ素化合物は、ホウ素原子の分子軌道における電子状態に起因する電子的特性から機能性電子素子素材として注目されているものである。例えば、電子受容性などの特性が必要とされる有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の材料やN型半導体の材料として期待されている。特に有機EL素子は、ディスプレイとしての種々の優れた特性を有することから、より一層の高性能化を実現できる材料の開発が盛んに進められている。
このような用途に利用できる有機ホウ素化合物としては、これまで数例が知られているが、一方で、それらのほとんどは3つのアリール基がホウ素原子上に結合したものに限られていた。有機ホウ素化合物は、その電子的な特性に起因して安定な構造とすることが困難であり、そのために電子素材用途に実際に用いることができるものが限られているというのが現状である。このような有機ホウ素化合物を次世代の機能性電子素子素材として活用するためには、ホウ素原子に起因する優れた特有の性質を発揮させつつ、安定的に取り扱える新規な化合物を種々開発することが望まれるところであった。
【0003】
従来の有機ホウ素化合物としては、ホウ素原子に3つの置換または無置換の芳香族基または複素環基が結合した構造を有する有機ホウ素化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ホウ素にアリール基が3つ結合した構造を有するトリアリールホウ素誘導体(例えば、特許文献2参照。)や、カルバゾール基およびホウ素原子含有トリアジン化合物よりなる特定の構造の電荷輸送性化合物(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。更に、ホウ素原子に3つの芳香族炭素環基または複素環基を有する有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(例えば、特許文献4参照。)や、ホウ素原子に炭素原子で結合する置換基3つと、ホウ素原子に配位する基1つとを有する有機ホウ素化合物を少なくとも1種含有する有機電界発光素子(例えば、特許文献5参照。)、また、ホウ素原子に芳香族炭素環または複素環を形成するのに必要な残基と、その他の2つの置換基とが結合しており、該芳香族炭素環または複素環を形成するのに必要な残基がホウ素原子と配位結合可能な元素を有する有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(例えば、特許文献6参照。)が開示されている。更に、ホウ素原子に置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換の単環基、置換もしくは未置換の縮合多環基が結合した構造部分を1分子中に複数有する構造の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(例えば、特許文献7、8参照。)が開示され、その具体例として、ホウ素にアリール基等の環構造やアルキル基が結合した化合物が記載されている。このように、従来、発光デバイス、電子輸送材料として用いられるホウ素含有化合物は、そのほとんどが3つのアリール基がホウ素原子に結合した構造を有するものであり、一部に、アリール基とともにアルキル基がホウ素原子に結合した構造を有するものも開示されているというのが現状であるが、ホウ素原子にビニル基が結合した構造を有する有機ホウ素化合物も一部報告されている(例えば、特許文献9参照。)。また、有機ホウ素含有化合物であるジメシチルボリル置換チエニルトリアゾール等について、有機ホウ素π電子系化合物のLUMOのエネルギー準位が低いことが実際に示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、窒素原子とホウ素原子とを有する様々な構造の化合物が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96934号公報
【特許文献2】特開2007−70282号公報
【特許文献3】特開2007−77330号公報
【特許文献4】国際公開第2005/062675号公報
【特許文献5】特開2007−35791号公報
【特許文献6】国際公開第2005/062676号公報
【特許文献7】特許第3994573号公報
【特許文献8】特許第4026273号公報
【特許文献9】特開2009−155325号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アツシ・ワカミヤ(Atsushi Wakamiya)、外2名、「アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)」、2006年、第45巻、p.3170−3173
【非特許文献2】アントン・メラー(Anton Meller)、外3名、「ヒェミッシェ ベリヒテ(Chemische Berichte)」、1981年、第114巻、p.2519−2535
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機ホウ素化合物は、ホウ素原子がその分子軌道に空軌道を有し、それによって最高被占軌道(HOMO)や最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位が低いという、ホウ素原子の電子状態に由来する特性を有する。特にLUMOのエネルギー準位が低いことに起因して、上記のように有機EL素子の材料やN型半導体の材料としての用途が期待されている。例えば、有機EL素子の一般的な構成、すなわち、透明電極から形成される陽極、ホール(正孔)輸送層、発光層、電子輸送層、Mg、Al、Ca等から形成される陰極といった構成において、発光層や電子輸送層にLUMOのエネルギー準位が低い材料を使用すれば、機能性電子素子としての性能が向上することになる。
一方で、有機ホウ素化合物における課題は、ホウ素原子が空軌道を有することに伴って、安定な化合物が少ないということである。安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができれば、機能性電子素子素材としての用途に有用である。そのような化合物のバリエーションを増やすことは、有機EL素子やN型半導体等の分野で当該化合物自体を素子材料として用いる場合において大きな技術的意義がある。
【0007】
一般的に、有機ホウ素化合物において安定な構造とするためには、いわゆる嵩高いバルキーな基をホウ素原子に結合させた構造とすればよい。従来技術において、有機ホウ素化合物のほとんどが、3つのアリール基がホウ素原子に結合した構造となっているのはこのためである。また、ビニル基を置換基として有する有機ホウ素含有化合物が合成されているが(特許文献9)、このようなホウ素含有化合物の製造方法では、高価なパラジウム触媒を使用する必要がある。これらの有機ホウ素化合物においては、製造できる化合物の構造が限られることになる。
今後の有機EL素子やN型半導体等の開発の中で、様々な特性が要求されることになる。そのような要求に応えることができる材料設計のためには、新規な有機ホウ素化合物を種々調製し、また、様々な構造の有機ホウ素化合物誘導体を安価で容易に得ることができることが好ましい。例えば、ホウ素原子における置換基等の種類を選択的にかつ自由度を高くして変えることができれば、新規な有機EL素子、新規な有機半導体の開発において極めて有益である。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機EL素子やN型半導体の材料等として有用な新規なホウ素含有化合物、及び、ホウ素含有化合物を安価に製造することを可能とするホウ素含有化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、新規なホウ素含有化合物、及び、種々のホウ素含有化合物の新たな製造方法について種々検討したところ、ホウ素含有化合物を安定的な化合物とするためには、ホウ素原子に対して窒素原子が配位した構造を有するようにすればよいことに着目した。そして、ホウ素原子にヨウ素原子又は臭素原子が結合し、ホウ素原子と窒素原子とを有する骨格中に不飽和結合を有し、該不飽和結合にヨウ素原子又は臭素原子を有し、更に種々の基とすることができる1価又は2価以上の基を有する特定構造のホウ素含有化合物が新規な有機ホウ素化合物として、安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができる有用な化合物であることを見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到した。また、構造中に窒素原子を有する特定のアルキン化合物と特定の構造のヨウ素化または臭素化ホウ素含有化合物とを反応させると、高価なパラジウム触媒を使用することなく、ホウ素にヨウ素または臭素が置換基として結合し、窒素原子がホウ素原子に配位した構造を有する種々のホウ素含有化合物を製造できることを見出した。更に、このようなホウ素含有化合物のホウ素原子に結合したヨウ素原子又は臭素原子を他の原子や原子団に変換することができ、それによって様々な構造のホウ素含有化合物を製造することができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、ホウ素原子及び二重結合を有するホウ素含有化合物であって、上記ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表される構造を有することを特徴とするホウ素含有化合物である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のホウ素含有化合物は、下記式(1);
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表される構造を有するものである。
上記式(1)において、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表し、Qは、環構造の構成元素であってもよい。すなわち、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物が構造中に環構造を有しており、N及びQが、該環構造の一部として組み込まれた構造であってもよい。
上記式(1)において、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。すなわち、Qと窒素原子との間は、単結合であってもよく、二重結合であってもよい。
上記式(1)において、窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。ここで、配位しているとは、窒素原子がホウ素原子に対して配位子と同様に作用して化学的に影響していることを意味し、配位結合(共有結合)となっていてもよく、配位結合を形成していなくてもよい。好ましくは、配位結合となっていることである。
【0016】
上記式(1)で表される化合物には、Rに結合した構造部分が複数存在してもよい。すなわち、上記式(1)で表される化合物には、上記式(1)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物も含まれる。そのような構造の場合、Rは、2価以上の基となる。同様に、上記式(1)で表される化合物には、Rに結合した構造部分が複数存在してもよい。すなわち、上記式(1)で表される化合物には、上記式(1)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物も含まれる。そのような構造の場合、Rは、2価以上の基となる。これらの化合物は、それぞれ以下の式(1−1)、(1−2)のように表すことができる。式(1−1)、(1−2)中の点線の円弧、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、X、R〜R、m、n及びnは、上記式(1)と同様である。
【0017】
【化3】

【0018】
上記式(1)において、Rとしては、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキニレン基、アルケニレン基、メチレン基が挙げられる。
が1価の基である場合、アリール基としては、下記式(2−1)〜(2−13)で表される基のいずれかが好ましい。これらの中でも、式(2−1)〜(2−3)及び(2−6)、(2−7)がより好ましい。
が2価〜4価の基である場合、アリール基としては、下記式(2−35)〜(2−37)、(2−40)〜(2−43)、(2−46)〜(2−49)及び(2−52)で表される基のいずれかが好ましい。
が1価の基である場合、複素環基としては、下記式(2−14)〜(2−34)で表される基のいずれかが好ましい。これらの中でも、式(2−15)及び(2−21)がより好ましい。
が2価〜4価の基である場合、複素環基としては、(2−38)、(2−39)(2−44)、(2−45)、(2−50)及び(2−51)で表される基のいずれかが好ましい。
アルキニレン基としては、炭素数2〜20のアルキニレン基が好ましい。
アルケニレン基としては、炭素数2〜20のアルケニレン基が好ましい。
なお、式(2−1)については、ベンゼン環が被結合部分における原子、すなわち、式(1)において、BXが結合した炭素原子に直接結合していることを意味する(A部分に炭素原子があり、その炭素原子が被結合部分における原子に結合していることを意味するものではない)。式(2−2)、(2−7)、(2−19)及び(2−50)についても同様である。
また、式(2−3)について、A−Bで示された線は、この式(2−3)で表される基が、被結合部分における原子に直接結合していることを意味する。すなわち、式(2−3)のA−Bで示された線が付された環を構成する炭素原子のいずれかと、式(1)において、BXが結合した炭素原子とが直接結合していることを意味する。式(2−4)〜(2−6)、(2−8)〜(2−18)、(2−20)〜(2−49)、(2−51)及び(2−52)についても同様である。
【0019】
【化4−1】

【0020】
【化4−2】

【0021】
上記アリール基、複素環基、アルキニレン基、アルケニレン基、メチレン基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、スチリル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基等の炭素数2〜30のアルキニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基等で置換されていてもよいアリール基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基で置換されていてもよい複素環基;N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基等のN,N−ジアルキルカルバモイル基;ジオキサボロラニル基、スタニル基、シリル基、エステル基、ホルミル基、チオエーテル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
これらの中でも、Rにおけるアリール基や複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基が好ましい。より好ましくは、アリール基、複素環基である。
上記Rにおけるアリール基や複素環基が置換基を有する場合、置換基が結合する位置や数は特に制限されない。
【0022】
上記式(1)におけるRとしては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7の環状アルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、スチリル基等の炭素数2〜30のアルケニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基等で置換されていてもよいアリール基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基で置換されていてもよい複素環基が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子や芳香環等で置換されていてもよい炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、アリール基、複素環基が好ましい。
上記式(1)におけるmは、0〜2の数であり、ホウ素含有化合物が点線の円弧で表される環構造を有するか、また、NとQとの間に二重結合が存在するか否かによって決まる数である。好ましくは、ホウ素含有化合物が上記式(1)において点線の円弧で表される環構造を有し、mが0である形態、又は、ホウ素含有化合物が上記式(1)において点線の円弧で表される環構造を有さず、mが2である形態である。上記式(1)において、mが2である場合、すなわち、Rで表される置換基が2つある場合、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
上述したように、上記式(1)におけるnは、Rに結合した構造部分がRを介して複数存在してもよいことを示す。nは、1〜4が好ましい。より好ましくは、1又は2である。
同様に、上記式(1)におけるnは、Rに結合した構造部分がRを介して複数存在してもよいことを示す。nは、1〜4が好ましい。より好ましくは、1又は2である。
なお、n、nは、いずれか一方が2以上の数である場合、もう一方は、1である。
【0024】
上記式(1)におけるRとしては、上記Rと同様の基、及び、上記Rにおいて、アリール基や複素環基、アルキニレン基、アルケニレン基、メチレン基が有する置換基と同様のものが挙げられる。
が1価の基である場合、これらの中でも、ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいアリール基や複素環基、ジアリールアミノ基、ジオキサボロラニル基、スタニル基、シリル基が好ましい。より好ましくは、アリール基や複素環基である。
が2価以上の基である場合、上記式(2−35)〜(2−37)、(2−40)〜(2−43)、(2−46)〜(2−49)及び(2−52)で表されるアリール基、(2−38)、(2−39)(2−44)、(2−45)、(2−50)及び(2−51)で表される複素環基、炭素数2〜20のアルキニレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基、メチレン基が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜10のアルケニレン基、メチレン基である。
【0025】
上記式(1)におけるQとしては、下記式(3−1)〜(3−12);
【0026】
【化5】

【0027】
で表される構造が挙げられる。なお、式(3−3)は、炭素原子に水素原子が1つ結合し、更に3つの原子が結合する構造であるが、当該水素原子以外の、炭素原子に結合する3つの原子は、いずれも水素原子以外の原子である。式(3−1)〜(3−12)の中でも、(3−1)〜(3−3)、(3−5)〜(3−12)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3−6)及び(3−7)である。なお、式(3−6)〜(3−8)において、環構造に付された線は、上記式(2−3)等と同様に直接結合を意味する。
【0028】
上記式(1)において、点線の円弧で表される環構造としては、例えば、ピロール環、ピリジン環、インドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環が挙げられ、これらはそれぞれ、下記式(4−1)〜(4−7)で表される。下記式(4−1)〜(4−7)中、※を付した炭素は、上記式(1)において、Qに該当する炭素である。これらの中でも、ピリジン環、キノリン環、フェナントリジン環が好ましい。より好ましくは、ピリジン環、キノリン環である。
なお、上記式(1)において、点線の円弧で表される環構造を有し、該環構造が置換基としてRを有する場合、Rの位置や数としては、特に制限されない。
【0029】
【化6】

【0030】
本発明はまた、上記式(1)で表される構造を有するホウ素含有化合物を製造する方法であって、該製造方法は、下記式(I);
【0031】
【化7】

【0032】
(式中、点線の円弧は、Qと窒素原子と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。Qは、アルキン部分と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表されるアルキン化合物と、下記式(II);
【0033】
【化8】

【0034】
(式中、Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程を含むホウ素含有化合物の製造方法でもある。
本発明のホウ素含有化合物の製造方法によると、パラジウム触媒のような高価な触媒を用いることなく、ホウ素にビニル基が結合した構造を有するホウ素含有化合物を製造することができる。本願発明のホウ素含有化合物の製造方法によると、特開2009−155325号公報に記載の方法では製造することが困難であったホウ素にヨウ素又は臭素原子が置換基として結合した構造のホウ素含有化合物を製造することもできる。また、この製造方法では、上記式(I)におけるRの構造を自由に選択できるため、様々な構造のホウ素含有化合物を製造することができる。
【0035】
上記式(I)で表されるアルキン化合物には、上記式(1)と同様に、上記式(I)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物、及び、上記式(I)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物が含まれる。これらの化合物は、それぞれ以下の式(I−1)、(I−2)のように表すことができる。
式(I−1)、(I−2)中の点線の円弧、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分、Q、R〜R、m、n及びnは、上記式(1)と同様である。
【0036】
【化9】

【0037】
上記製造方法は、上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程を含むものである限り、その他の工程を含むものであってもよい。また、上記式(I)で表されるアルキン化合物、上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とも、それぞれ1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を用いてもよい。
上記式(I)における点線の円弧は、アルキン化合物が構造中に環構造を有しており、N及びQが、該環構造の一部として組み込まれた構造であってもよいことを意味する。上記式(I)におけるR〜R、Qの具体例としては、上記式(1)におけるR〜R、Qと同様である。上記式(1)で表されるホウ素含有化合物の中でも好ましいものは、上記式(I)で表されるアルキレン化合物として当該ホウ素含有化合物の構造と対応する構造を有するものを用いることで製造することができる。すなわち、上記式(I)におけるR〜R、Q、m、n及びnとして好ましいものは、上記式(1)におけるR〜R、Q、m、n及びnの好ましいものと同様である。
【0038】
上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させると、アルケン結合の炭素原子に結合したBXとXとの立体配置がトランス配置であるホウ素含有化合物が得られることになる。これは、窒素原子がホウ素原子に配位することにより、トランス配置がシス配置に比べてより安定な構造となることによるものと考えられる。このように、本発明のホウ素含有化合物の製造方法は、窒素原子がホウ素原子に配位することの影響を利用して、トランス体の化合物のみを選択的に製造することができる点において、有用な製造方法である。
【0039】
上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる場合、ホウ素含有化合物の好ましい使用量としては、上記式(I)で表されるアルキン化合物のn、nの値によって異なり、nが2以上である場合、又は、n、nがいずれも1である場合、アルキン化合物1モルに対して、ホウ素含有化合物を1n〜3nモル用いることが好ましい。アルキン化合物1モルに対して、ホウ素含有化合物が1nモルより少ないと、生成物の収率が低下するおそれがある。また、ホウ素含有化合物が3nモルより多いと、副反応が起こり生成物の収率が低下したり、反応後の処理の際に過剰量のBXの分解によるハロゲン化水素が発生するおそれがある。より好ましくは、アルキン化合物1モルに対して、ホウ素含有化合物を1n〜1.5nモル用いることであり、更に好ましくは、ホウ素含有化合物を1.1n〜1.2nモル用いることである。
が2以上である場合、アルキン化合物1モルに対して、ホウ素含有化合物を1n〜3nモル用いることが好ましい。より好ましくは、アルキン化合物1モルに対して、ホウ素含有化合物を1n〜1.5nモル用いることであり、更に好ましくは、ホウ素含有化合物を1.1n〜1.2nモル用いることである。
【0040】
上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程に用いる溶媒としては、当該反応が進行するものである限り特に制限されず、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルフェニルエーテル(アニソール)等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類が好ましい。
【0041】
上記アルキン化合物とホウ素含有化合物とを反応させる工程においては、触媒を用いてもよい。触媒としては、臭化ニッケル、臭化パラジウム、臭化白金、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、臭化銅(I)、臭化銅(II)等の遷移金属のハロゲン化物が挙げられる。これらの触媒は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。これらの中でも、臭化銅(II)が好ましい。
【0042】
上記触媒を用いる場合、触媒の使用量としては、上記式(I)で表されるアルキン化合物1モルに対して、0.001〜0.4モルであることが好ましい。触媒の使用量が0.001モルより少ないと、触媒の機能が充分に発揮されず、0.4モルより多くしても、それ以上の効果の向上は期待できないため、製造コストの点から好ましくない。より好ましくは、0.005〜0.15モルであり、更に好ましくは、0.01〜0.1モルである。
【0043】
上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、特に制限されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等のいずれを用いてもよいが、窒素、アルゴンが好ましい。不活性ガスは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
上記式(I)で表されるアルキン化合物と上記式(II)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程の反応温度は、−80〜80℃であることが好ましい。反応温度が−80℃より低いと、反応が進行しない可能性がある。また、80℃より高いと、目的の反応とは異なる反応が起こるおそれがある。より好ましくは、0〜40℃である。
反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれであってもよいが、常圧であることが好ましい。
また、反応時間は、1〜24時間であることが好ましい。より好ましくは、3〜6時間である。
【0045】
上述した本発明のホウ素含有化合物の製造方法で製造されたホウ素含有化合物は、更に、下記式(III);
M及び/又はRM (III)
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の基を表す。Mは、同一若しくは異なって、金属元素を表す。nは、金属元素の価数に対応するR及び/又はRの結合数を表す。)で表される金属元素含有化合物を反応させることで、ホウ素原子に結合したヨウ素又は臭素原子を他の置換基と入れ換えることが可能であり、これにより、ホウ素の置換基を様々に変えたホウ素含有化合物を製造することができる。このような、本発明のホウ素含有化合物のヨウ素原子及び/又は臭素原子を置換する脱ハロゲン化工程を含む、下記式(5);
【0046】
【化10】

【0047】
(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の基を表す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表されるホウ素含有化合物の製造方法であって、該脱ハロゲン化工程は、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物に、下記式(III);
M及び/又はRM (III)
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の基を表す。Mは、同一若しくは異なって、金属元素を表す。nは、金属元素の価数に対応するR及び/又はRの結合数を表す。)で表される金属元素含有化合物を反応させるホウ素含有化合物の製造方法もまた、本発明の1つである。
以下においては、この製造方法を式(5)で表されるホウ素含有化合物の製造方法と記載する。
【0048】
上記式(5)で表されるホウ素含有化合物には、上記式(1)と同様に、上記式(5)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物、及び、上記式(5)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物が含まれる。これらの化合物は、それぞれ以下の式(5−1)、(5−2)のように表すことができる。
式(5−1)、(5−2)中の点線の円弧、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、X、R〜R、m、n及びnは、上記式(5)と同様である。
【0049】
【化11】

【0050】
上記式(5)で表されるホウ素含有化合物の製造方法は、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物と上記式(III)で表される金属元素含有化合物とを反応させる脱ハロゲン化工程を含むものである限り、その他の工程を含むものであってもよい。また、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物、上記式(III)で表される金属元素含有化合物とも、それぞれ1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を用いてもよい。
上記式(5)における点線の意味するところは、上記式(1)と同様である。また、R〜R、Q、m、n及びnとして好ましいものは、上記式(1)におけるR〜R、Q、m、n及びnにおける好ましいものと同様である。
【0051】
上記式(1)で表されるホウ素含有化合物と上記式(III)で表される金属元素含有化合物とを反応させる場合、金属元素含有化合物の好ましい使用量としては、上記式(I)で表されるホウ素含有化合物のn、nの値によって異なり、nが2以上である場合、又は、n、nがいずれも1である場合、ホウ素含有化合物1モルに対して、金属元素含有化合物をn〜3nモル用いることが好ましい。金属元素含有化合物がnモルより少ないと、生成物の収率が低下するおそれがある。また、金属元素含有化合物が3nモルより多いと、反応後の処理の際に過剰量の金属元素化合物の分解反応による発熱で危険である。より好ましくは、1.1n〜2nモルである。
が2以上である場合、ホウ素含有化合物1モルに対して、金属元素含有化合物を1n〜3nモル用いることが好ましい。より好ましくは、ホウ素含有化合物1モルに対して、金属元素含有化合物を1.1n〜2nモル用いることである。
【0052】
上記式(III)で表される金属元素含有化合物における金属元素Mとしては、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、リチウムが挙げられる。
、Rとしては、上記Rと同様の基が好ましい。
金属元素がマグネシウムである場合、マグネシウムに結合したR、Rの少なくとも1つは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであることが好ましい。すなわち、金属元素がマグネシウムである場合、上記式(III)で表される金属元素含有化合物は、MgCl、MgBr、又は、MgIを構造中に含むことが好ましい。
【0053】
上記式(1)で表されるホウ素含有化合物と上記式(III)で表される金属元素含有化合物とを反応させる脱ハロゲン化工程に用いる溶媒としては、当該反応が進行するものである限り特に制限されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類が好ましい。より好ましくは、ジエチルエーテル、トルエン、ジクロロメタンである。溶媒は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
上記脱ハロゲン化工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、特に制限されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等のいずれを用いてもよいが、窒素、アルゴンが好ましい。不活性ガスは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0055】
上記脱ハロゲン化工程の反応温度は、−100〜100℃であることが好ましい。反応温度が−100℃より低いと、反応が進行しない可能性がある。また、100℃より高いと、上記式(III)で表される金属元素含有化合物や原料が分解するおそれがある。より好ましくは、−80〜70℃である。
反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれであってもよいが、常圧であることが好ましい。
また、反応時間は、1〜24時間であることが好ましい。より好ましくは、3〜12時間である。
【0056】
上記式(5)で表されるホウ素含有化合物を製造した後、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物から更に下記式(6);
【0057】
【化12】

【0058】
(式中、点線の円弧、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、R〜R、n及びnは、上記式(5)と同様である。Rは、水素原子又は1価の基を表す。)で表されるホウ素含有化合物を製造することができる。
上記Rにおける1価の基としては、上記Rと同様の基が好ましい。
このような、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物から上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する製造方法もまた、本発明の1つである。
以下においては、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物から上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応を、たんに上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応ともいう。
【0059】
上記式(6)で表されるアルキン化合物には、上記式(1)と同様に、上記式(6)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物、及び、上記式(6)におけるR以外の構造部分が複数存在し、それらがRを介して結合している構造の化合物が含まれる。これらの化合物は、それぞれ以下の式(6−1)、(6−2)のように表すことができる。
式(6−1)、(6−2)中の点線の円弧、Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、R〜R、m、n及びnは、上記式(6)と同様である。
【0060】
【化13】

【0061】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する場合、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物に、以下に示す化合物を反応させることで製造することができる。
上記式(6)におけるRが水素原子であるホウ素含有化合物は、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物にアゾビスイソブチロニトリル、トリアルキルホウ素等のラジカル開始剤を触媒として用いてトリブチルスズヒドリド等を反応させることにより得ることができる。
また上記式(6)におけるRが1価の基であるホウ素含有化合物は、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物に、下記式(IV);
M (IV)
(式中、Rは、1価の基を表す。Mは、金属元素又は半金属元素を含む基を表す。nは、金属元素又は半金属元素を含む基の価数に対応するRの結合数を表す。)で表される化合物を遷移金属錯体のような触媒の存在化で反応させることによっても得ることができる。
【0062】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物の製造方法は、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物においてXで表されるヨウ素原子又は臭素原子をRで置換反応させる工程を含むものである限り、その他の工程を含むものであってもよい。また、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物、上記式(IV)で表される化合物とも、それぞれ1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を用いてもよい。
上記式(6)における点線の意味するところは、上記式(1)と同様である。また、R〜R、Q、m、n及びnとして好ましいものは、上記式(1)におけるR〜R、Q、m、n及びnにおける好ましいものと同様である。
上記式(6)におけるR、Rとして好ましいものは、上記式(5)におけるR、Rの好ましいものと同様である。
【0063】
上記式(5)で表されるホウ素含有化合物と上記式(IV)で表される化合物とを反応させる場合、式(IV)で表される化合物の好ましい使用量としては、上記式(I)で表されるホウ素含有化合物のn、nの値によって異なり、nが2以上である場合、又は、n、nがいずれも1である場合、ホウ素含有化合物1モルに対して、式(IV)で表される化合物を1n〜3nモル用いることが好ましい。ホウ素含有化合物1モルに対して、式(IV)で表される化合物が1nモルより少ないと、生成物の収率が低下するおそれがある。また、式(IV)で表される化合物が3nモルより多いと、反応後の処理の際に過剰量の金属元素又は半金属元素の分解反応による発熱で危険であったり、生成物と副生生物とを分離する工程が煩雑となる。より好ましくは、ホウ素含有化合物1モルに対して、式(IV)で表される化合物を1n〜2nモル用いることであり、更に好ましくは、式(IV)で表される化合物を1n〜1.2nモル用いることである。
が2以上である場合、ホウ素含有化合物1モルに対して、式(IV)で表される化合物を1n〜3nモル用いることが好ましい。より好ましくは、ホウ素含有化合物1モルに対して、式(IV)で表される化合物を1n〜2nモル用いることであり、更に好ましくは、式(IV)で表される化合物を1n〜1.2nモル用いることである。
【0064】
上記式(IV)で表される化合物における金属元素又は半金属元素を含む基Mとしては、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、リチウム、ホウ素、スズ、ケイ素等を含む基が挙げられる。
これらの中でも、Mが亜鉛を含む基である場合、Mは、塩素、臭素、ヨウ素、又はアルキル基のいずれかを含む基であることが好ましい。すなわち、Mは、ZnCl、ZnBr、ZnI、又は、ZnR(Rはアルキル基、アリール基、複素環基、アルキニル基、アルケニル基を表す)を構造中に含む基のいずれかであることが好ましい。
Mがマグネシウムを含む基である場合、Mは、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを含む基であることが好ましい。すなわち、Mは、MgCl、MgBr、MgIを構造中に含む基のいずれかであることが好ましい。
Mがスズを含む基である場合、Mは、アルキル基を構造中に含む基であることが好ましい。Mが、ケイ素を含む基である場合、Mは、フッ素、塩素、−OR(Rは水素原子又はアルキル基を表す)の1種又は2種以上の組み合わせを構造中に含む基であることが好ましい。
Mがホウ素を含む基である場合、Mは、水酸基を含む基、又は、下記式(7−1)又は(7−2)で表される構造を構造中に含む基であることが好ましい。
【0065】
【化14】

【0066】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応において、触媒としては、ラジカル開始剤等を触媒として用いる場合はアゾビスイソブチロニトリルやトリエチルホウ素等の1種又は2種以上を用いることができる。また遷移金属錯体などを触媒として用いる場合はPd(PtBu、Pd(PPh、NiCl(dppe)等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0067】
上記触媒を用いる場合、触媒の使用量としては、ラジカル開始剤等を触媒として用いる場合の触媒の使用量は、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物1モルに対して、0.05〜0.5モルであることが好ましい。触媒の使用量が0.05モルより少ないと、触媒の機能が充分に発揮されず、0.5モルより多くしても、それ以上の効果の向上は期待できないため、製造コストの点から好ましくない。より好ましくは、0.08〜0.5モルであり、更に好ましくは、0.1〜0.5モルである。また遷移金属錯体などを触媒として用いる場合の触媒の使用量は、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物1モルに対して、0.0001〜0.2モルであることが好ましい。触媒の使用量が0.0001モルより少ないと、触媒の機能が充分に発揮されず、0.2モルより多くしても、それ以上の効果の向上は期待できないため、製造コストの点から好ましくない。より好ましくは、0.0005〜0.1モルであり、更に好ましくは、0.001〜0.05モルである。
【0068】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応に用いる溶媒は、ホウ素含有化合物を溶解させることのできるものであれば特に制限されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素類などが好ましい。溶媒は1種または2種以上を用いることができる。
【0069】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、特に制限されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等のいずれを用いてもよいが、窒素、アルゴンが好ましい。不活性ガスは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0070】
上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応の反応温度は、−40〜200℃であることが好ましい。反応温度が−40℃より低いと、反応が進行しない可能性がある。また、200℃より高いと、上記式(IV)で表される化合物や原料が分解するおそれがある。より好ましくは、0〜160℃である。
反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれであってもよいが、常圧であることが好ましい。
また、反応時間は、1〜24時間であることが好ましい。より好ましくは、3〜12時間である。
【0071】
本発明の上記式(5)で表されるホウ素含有化合物の製造方法において、反応原料となる上記式(1)で表されるホウ素含有化合物として、上記式(I)で表される化合物と上記式(II)で表される化合物とを反応させる工程を含む製造方法によって得られたものを用いる場合、上記式(I)で表される化合物と上記式(II)で表される化合物とを反応させる工程を行った後に、上記脱ハロゲン化工程を行う際、一旦上記式(I)で表される化合物と上記式(II)で表される化合物とを反応させる工程により得られるホウ素含有化合物を精製した後に、上記式(III)で表される金属元素含有化合物を投入し、脱ハロゲン化工程を行ってもよく、精製を行わずに、上記式(I)で表される化合物と上記式(II)で表される化合物とを反応させる工程が終了した後に、そこに上記式(III)で表される金属元素含有化合物を投入し、脱ハロゲン化工程を行ってもよい。このように、本発明の式(5)で表されるホウ素含有化合物の製造方法において、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物として、上記式(I)で表される化合物と上記式(II)で表される化合物とを反応させる工程を含む製造方法によって得られたものを用いることとすると、目的に応じて精製工程を行うか否かを選択することができる点において、有用な製造方法であるということができる。
これは、更に、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物から上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する場合についても同様であり、反応原料となる上記式(5)で表されるホウ素含有化合物として、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物と上記式(III)で表される金属元素含有化合物とを反応させることによって得られたものを用いる場合には、上記式(5)で表されるホウ素含有化合物を合成した後、一度上記式(5)で表されるホウ素含有化合物を精製してから、上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応に用いてもよく、精製を行わずに、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物と上記式(III)で表される金属元素含有化合物とを反応させる工程が終了した後に、そこに上記式(IV)で表される化合物等を投入して、上記式(6)で表されるホウ素含有化合物を製造する反応を行ってもよい。
【0072】
本発明のホウ素含有化合物は、有機EL素子の電子輸送層の材料として好適に用いることができるものである。有機EL素子は、陽極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を順に積層させた構造のもの、又は、更にホール注入層、電子注入層を有する構造のもの等がある。これらの有機EL素子においては、陰極から注入された電子が電子輸送層を通過して発光層に到達することになるが、エネルギー効率の点から電子輸送層の材料は、最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位と陰極の価電子帯とのエネルギーギャップが小さいものが好ましい。陰極としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等の金属やこれらの合金等が用いられるが、これらのうち価電子帯のエネルギーが高いものは、酸化されやすい性質を有するため、エネルギーの低いものを用いることが好ましい。最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位の低いホウ素含有化合物を用いることで、陰極として価電子帯のエネルギーが低く、酸化されにくい物質を陰極に用いることが可能となるため、陰極の選択の自由度を広げることができる。
したがって、このような点から、本発明のホウ素含有化合物は、有機EL素子等の発光デバイスの材料として好適に用いることができるものである。このような本発明のホウ素含有化合物を用いて形成される発光デバイスもまた、本発明の1つである。
【0073】
上記ホウ素含有化合物のLUMOのエネルギー準位は、紫外線光電子分光分析(UPS)により測定する方法の他、サイクリックボルタンメトリー(CV)により、参照電極に対する相対的な還元電位を測定することでも評価することができる。
参照極にAg/Agを用いたサイクリックボルタンメトリー測定を行った場合、ホウ素含有化合物の還元電位としては、−0.5〜−2.8Vであることが好ましい。ホウ素含有化合物の還元電位がこのような値であると、LUMOのエネルギー準位は低いものと評価することができ、発光デバイスの材料として好適に用いることができる。より好ましくは、−0.6〜−2.6Vであり、更に好ましくは、−0.7〜−2.5Vである。
サイクリックボルタンメトリー測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0074】
本発明のホウ素含有化合物のLUMOのエネルギー準位は、3.0〜5.1であることが好ましい。LUMOのエネルギー準位がこのような範囲にあると、有機EL素子等の発光デバイスの材料として好適に用いることができる。LUMOのエネルギー準位は、より好ましくは、3.2〜5.0であり、更に好ましくは、3.3〜4.6である。
ホウ素含有化合物のLUMOのエネルギー準位は、後述する実施例に記載の紫外線光電子分光分析により求めることができる。
【発明の効果】
【0075】
本発明のホウ素含有化合物は、ホウ素にハロゲン原子が結合した構造を有するこれまでにない構造を有する化合物である。本発明のホウ素含有化合物は、ホウ素に結合したハロゲン原子を他の置換基と置換することが容易であることから、様々な構造のホウ素含有化合物の原料として有用な化合物である。
また、本発明のホウ素含有化合物、及び、本発明のホウ素含有化合物を原料として製造されるホウ素含有化合物は、LUMOのエネルギー準位が低く、有機EL素子の材料、特に、電子輸送層の材料として好適に用いることができる他、有機半導体、フィルムコンデンサ等の電子材料、レンズ、光ファイバー等の光学材料としても好適に用いることができる有用な化合物である。
また、本発明のホウ素含有化合物の製造方法は、これまで製造することが困難であった、このような本発明のホウ素含有化合物を製造することを可能とする有用なホウ素含有化合物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
実施例において合成した化合物についての各種測定は、以下のように行った。
H−NMR、13C−NMR測定)
試料をテトラメチルシランを含有する重クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(Gemini 2000、300MHz、Varian社製)により測定した。
11B−NMR測定)
試料を三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体を含有する重クロロホルムに溶解し、高分解能核磁気共鳴装置(Mercury−400、128MHz、Varian社製)により測定した。
(質量分析)
高分解能質量分析計(製品名:JMS−SX101A、JMS−MS700、JMS−BU250、日本電子株式会社製)を用いて、電子イオン化法(EI)により測定した。
【0078】
(LUMOエネルギー準位評価)
電気化学測定システムHZ−3000(北斗電工)を用いて、試料を過塩素酸テトラブチルアンモニウムの0.1MTHF溶液に溶解させ、作用極に活性炭電極、対極に白金電極、参照極にAg/Agを用いた三電極セルにてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。走査範囲は0V〜2.5Vで、走査速度は100mV/sとした。
(LUMOエネルギー準位測定)
無アルカリガラス上にインジウム・スズ酸化物(ITO)を厚さ150nmで成膜した基板(旭硝子社製;シート抵抗10Ω)を2cm×2cmに切断し、イソプロパノール中で10分間超音波洗浄した後、イソプロパノールで煮沸洗浄し、乾燥させた。この基板をアルゴン雰囲気のグローブボックスに連結された真空蒸着装置(アルバック社製)の基板ホルダーに固定した。測定する試料を石英製のルツボに入れ、約1×10−3Paまで減圧し、膜厚50nmになるように蒸着した。作成した試料薄膜について、複合電子分光分析装置(製品名:ESCA−5800、アルバック・ファイ社製)を用いて、イオン化ポテンシャルを測定した。測定値を試料のHOMO準位とした。
同時に作成した別の試料薄膜について、8453型紫外可視分光光度計(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルから、吸収ピークの長波長側吸収端λ(単位:nm)を読み取り、次式により、HOMO−LUMOギャップ(B.G.)を求めた。
B.G.=1240/λ
さらに、上で求めたHOMO準位とHOMO−LUMOギャップ(B.G.)とから、次式により、LUMO準位を求めた。
LUMO=HOMO−B.G.
【0079】
実施例1
まずJournal of Chemical Society、2003,68,(4),pp.1503−1511に記載された方法を参考にして2−フェニルエチニルピリジンを合成した。続いてアルゴン雰囲気下、2−フェニルエチニルピリジン(35.8mg,0.2mmol)を含むジクロロメタン溶液(0.5ml)に0℃で攪拌しながら三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液0.24ml)を加えた後、室温で2時間攪拌した。少量の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥させた。得られた固体をヘキサンで洗浄することによりホウ素化合物(ホウ素含有化合物ともいう。以下の実施例、合成例においても同様。)1を収率43%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.42−7.50(m, 3H), 7.57(ddd, J = 7.5, 7.1, 1.2Hz, 1H), 7.84(dd, J = 8.0, 1.1Hz, 1H), 8.06−8.09(m, 2H), 8.19−8.25(m, 1H), 8.88(d, J = 5.4Hz, 1H)
13C NMR(CDCl) : δ 110.0, 120.3, 123.0, 128.1, 128.8, 129.1, 135.1, 143.3, 144.4, 154.9.
11B NMR(CDCl) : δ −1.8
HRMS(EI) C13NBrB(M) : 理論値 426.8378, 実測値 426.8369
【0080】
【化15】

【0081】
実施例2
アルゴン雰囲気下、2−フェニルエチニルピリジン(179mg,1.0mmol)とCuBr(11.1mg,0.05mmol)を含むジクロロメタン溶液(5ml)に−78℃で攪拌しながら三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液1.2ml)を加えた後、40℃で3時間攪拌した。少量の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥させた。得られた固体をヘキサンで洗浄することによりホウ素化合物1を収率83%で得た。
【0082】
【化16】

【0083】
実施例3
2−フェニルエチニルキノリンを2−クロロキノリンから2−フェニルエチニルピリジンと同様に合成した。続いてアルゴン雰囲気下、2−フェニルエチニルキノリン(45.8mg,0.2mmol)を含むジクロロメタン溶液(0.5ml)に0℃で攪拌しながら三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液,0.24ml)を加えた後、室温で2時間攪拌した。少量の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させジクロロメタンで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製することによりホウ素化合物2を収率65%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.44−7.53(m, 3H), 7.73(ddd, J = 8.4, 6.9, 1.2Hz, 1H), 7.98−8.14 (m, 5H), 8.65(d, J = 8.7Hz, 1H), 9.16(dd, J = 8.7, 0.9Hz, 1H)
13C NMR(CDCl) : δ 99.9, 117.1, 123.1, 127.7, 128.01, 128.05, 128.95, 128.97, 129.2, 133.2, 135.5, 139.7, 145.6, 156.2
11B NMR(CDCl) : δ −2.3
HRMS(EI) C1711NBrB(M) : 理論値 476.8535, 実測値 476.8533
【0084】
【化17】

【0085】
実施例4
2−クロロ−4−フェニルキノリンをChemical&PharmaceuticalBulletin,1980,28(9),pp.2618−2622に記載の方法で合成した。つづいて2−フェニルエチニルピリジンと同様の方法で2−フェニルエチニルー4−フェニルキノリンを合成した。さらにアルゴン雰囲気下、2−フェニルエチニルー4−フェニルキノリン(4.0g,13.1mmol)を含むジクロロメタン溶液(131ml)に0℃で攪拌しながら三臭化ホウ素(1.0M ジクロロメタン溶液,15.7ml)を加えた後、室温で12時間攪拌した。少量の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させジクロロメタンで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製することによりホウ素化合物3を収率74%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.44−7.52(m, 3H), 7.58−7.61(m, 2H),7.62−7.69(m, 4H), 7.93(s, 1H), 8.05−8.10(m, 2H), 8.11−8.14(m, 2H), 9.23 (d, J = 8.4Hz, 1H)
【0086】
【化18】

【0087】
実施例5
2,7−ビス(2−ピリジルエチニル)−9,9−ジオクチルフルオレンを2,7−ジブロモ−9,9−ジオクチルフルオレンと2−エチニルピリジンから2−フェニルエチニルピリジンと同様に合成した。アルゴン雰囲気下、2,7−ビス(2−ピリジルエチニル)−9,9−ジオクチルフルオレン(1.0g,1.69mmol)を含むジクロロメタン溶液(17ml)に−78℃で攪拌しながら三臭化ホウ素(0.93g,3.71mmol)を加えた後、50℃で12時間攪拌した。少量の飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させジクロロメタンで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製することによりホウ素化合物4を収率27%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 0.77−0.88(m, 10H), 1.10−1.25(m, 20H), 2.03−2.10(m, 4H), 7.53−7.56(m, 2H), 7.82−7.87(m, 4H), 8.19−8.28(m,6H), 8.90(d, J = 3.9Hz, 2H)
【0088】
【化19】

【0089】
実施例6
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物1(429mg、1.0mmol)を含むトルエン溶液(10ml)に室温で攪拌しながらPhZn(0.37M トルエン溶液、6ml)を加えた後、70℃で5時間攪拌した。水を加えて反応を停止させ酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することによりホウ素化合物5を収率43%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.16−7.31(m, 16H), 7.93(d, J = 8.4Hz, 1H), 8.07(t, J = 7.1Hz, 1H), 8.24(d, J = 5.4Hz, 1H)
13C NMR(CDCl) : δ 107.4, 119.8, 120.9, 126.0, 127.4, 127.5, 127.6, 128.2, 133.3, 138.5, 141.0, 143.0, 158.0
11B NMR(CDCl) : δ 4.4
HRMS(EI) C2519NBrB(M) : 理論値 423.0794, 実測値 423.0792
【0090】
【化20】

【0091】
実施例7
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物3(1.10g、1.98mmol)を含むトルエン溶液(20ml)に室温で攪拌しながら(CZn(0.95g,2.38mmol)を加えた後、50℃で12時間攪拌した。水を加えて反応を停止させクロロホルムで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で粗精製した。得られた固体をメタノールで洗浄することによりホウ素化合物6を収率80%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 6.95−6.97(m, 2H), 7.28−7.31(m, 3H), 7.54−7.56(m, 1H), 7.64(s, 5H), 7.75(dd, J = 5.4 Hz, 1H), 8.00(s, 1H), 8.05(dd, J = 5.9, 4.2 Hz, 2H)
【0092】
【化21】

【0093】
実施例8
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物1(429 mg,1.0 mmol)を含むトルエン溶液10mlにトリメチルアルミニウム(1.4M,1.5ml,2.1mmol)を加えた後、室温で5分攪拌した。0℃で水を加え反応を停止させ酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣を薄層クロマトグラフィーで精製することによりホウ素化合物7を収率58%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 0.06(s、6H), 7.28−7.34(m, 2H), 7.40−7.46(m, 2H), 7.52−7.56(m, 2H), 7.80−7.83(m, 1H), 7.95−8.01(m, 1H), 8.34(d, J = 5.4Hz, 1H)
13C NMR(CDCl) : δ 6.2, 104.4, 119.3, 120.0, 127.06, 127.09, 127.6, 127.8, 139.6, 139.8, 140.9, 156.7
11B NMR(CDCl) : δ 2.0
【0094】
【化22】

【0095】
合成例1
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物5(84.6mg,0.20mmol)を含むトルエン溶液(25ml)を80℃で攪拌しながらアゾビスイソブチロニトリル(9.12mg,0.056mmol)のトルエン溶液(5ml)とトリ−n−ブチルスズヒドリド(118mg,0.41mmol)のトルエン溶液(10ml)を滴下漏斗でゆっくりと加えた後、80℃で終夜攪拌した。水を加えて反応を停止させ酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製することによりホウ素化合物8を収率67%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.04(ddd, J = 7.2, 6.1, 1.4Hz, 1H), 7.11−7.31(m, 14H), 7.48(dt, J = 8.4, 1.5Hz, 1H), 7.58−7.61(m, 2H), 7.79(ddd, J = 8.3, 7.3, 1.6Hz, 1H), 8.23(d, J = 5.7Hz, 1H)
13C NMR(CDCl) : δ 119.32, 119.34, 120.9, 125.7, 127.4, 128.0, 128.2, 128.3, 133.6, 138.5, 139.9, 143.0, 160.1
11B NMR(CDCl) : δ 3.5
HRMS(EI) C2520NB(M) : 理論値 345.1689, 実測値 345。1689
【0096】
【化23】

【0097】
合成例2
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物6(500mg,0.68mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(9.12mg,0.056mmol)、トリ−n−ブチルスズヒドリド(118mg,0.41mmol)を含むトルエン溶液(7ml)を100℃で攪拌しながら終夜攪拌した。室温まで冷却した後、シリカゲルショートカラムクロマトグラフィー(トルエン)で粗精製した。濃縮して得られた固体をヘキサンで洗浄することによりホウ素化合物9を収率60%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 7.04(s, 1H), 7.27−7.34(m, 5H), 7.47(ddd, J = 8.2, 7.0, 1.2Hz, 1H), 7.57−7.60(m, 5H), 7.64(s, 1H), 7.68(ddd, J = 8.8, 7.0, 1.5Hz, 1H), 7.95(dd, J = 8.2, 1.0Hz, 1H), 8.03(d, J = 8.8Hz, 1H)
【0098】
【化24】

【0099】
合成例3
アルゴン雰囲気下、ホウ素化合物7(60mg,0.2mmol)とPd(PBu(5.11mg,0.01mmol)を含むトルエン溶液(0.5ml)にMeZnを加えて加熱還流させながら6時間攪拌した。塩化アンモニウム水溶液で反応を停止させ酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥させた溶液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することによりホウ素化合物10を収率71%で得た。
その物性値は以下のとおりであった。
H NMR(CDCl) : δ 0.03(s, 6H), 2.06(s, 3H), 7.16−7.29(m, 4H), 7.34−7.44(m, 3H), 7.83−7.88(m, 1H), 8.30(d, J = 5.4Hz, 1H)
【0100】
【化25】

【0101】
ホウ素化合物8、9について、サイクリックボルタンメトリーによる電極に対する相対的還元電位測定を行った。また、ホウ素化合物8について、紫外線光電子分光分析によるLUMOエネルギー準位測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
これらの測定結果から、ホウ素化合物8、9は、いずれもLUMOエネルギー準位が低く、発光デバイスの材料として好適に用いることができる化合物であることが確認された。
本発明のホウ素化合物(ホウ素含有化合物)は、ホウ素化合物8、9と共通する構造的特徴を有するものであり、本発明のホウ素含有化合物に含まれる種々の化合物について、ホウ素化合物8、9と同様の特性を有し、発光デバイスの材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素原子及び二重結合を有するホウ素含有化合物であって、
該ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【化1】

(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表される構造を有する
ことを特徴とするホウ素含有化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のホウ素含有化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、下記式(I);
【化2】

(式中、点線の円弧は、Qと窒素原子と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。Qは、アルキン部分と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表されるアルキン化合物と、下記式(II);
【化3】

(式中、Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。)で表されるホウ素含有化合物とを反応させる工程を含む
ことを特徴とするホウ素含有化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のホウ素含有化合物のヨウ素原子及び/又は臭素原子を置換する脱ハロゲン化工程を含む、下記式(5);
【化4】

(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていてもよいことを表す。Qと窒素原子とを繋ぐ結合部分における点線部分は、Qと窒素原子とが二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における連結基であり、環構造の構成元素であってもよく、置換基を有していてもよい。Xは、同一若しくは異なって、ヨウ素原子又は臭素原子を表す。Rは、n価の基を表す。Rは、1価の基を表し、Rにおけるmは、窒素原子に対する置換基数を示す。Rは、水素原子又は環構造の置換基となるn価の基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に同一若しくは異なって複数個結合していてもよい。Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基であり、Rが2価以上の基である場合、Rは、1価の基である。R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の基を表す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。nは、Rに結合した構造部分が複数存在してもよいことを示す。)で表されるホウ素含有化合物の製造方法であって、
該脱ハロゲン化工程は、請求項1に記載のホウ素含有化合物に、下記式(III);
M及び/又はRM (III)
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の基を表す。Mは、同一若しくは異なって、金属元素を表す。nは、金属元素の価数に対応するR及び/又はRの結合数を表す。)で表される金属元素含有化合物を反応させる
ことを特徴とするホウ素含有化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−178703(P2011−178703A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43413(P2010−43413)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】