説明

ホウ素吸着剤の再生方法

【課題】 ホウ素の吸着剤として使用済み高ホウ素含有濃度のホウ素吸着剤の再生を本来のホウ素吸着能を殆ど低下させずに短時間で再生する再生方法を提供すること。
【解決手段】 ホウ素吸着しているホウ素吸着剤をアルカリ水性溶液により処理し、次いで、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物の水性溶液で処理することを特徴とするホウ素吸着剤の再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素の吸着剤として使用済みの高ホウ素含有のホウ素吸着剤の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水にはホウ素が含まれる場合があり、ホウ素は自然界にも広く分布しており、海水や火山地帯の地下水、温泉水等にも含まれることがある。最近、排水などに係わる公共用水域および地下水の水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準項目として、ホウ素およびフッ素が追加された。ホウ素は、植物の成育にとって必須の元素であるが、過剰に存在すると植物の成長に悪影響を及ぼすことがわかってきている。さらに、人体に対しても、必ずしも明確でないが、低濃度でさえも継続摂取した場合に生殖機能の低下等の健康障害を引き起す可能性が指摘されており、このため既に国内でもWHO世界保健機構の条例により0.5〜2mg/l以下という排水中許容濃度を制定しているところもある。
【0003】
我国でも平成14年5月29日に「土壌汚染対策法」が公布され、平成15年2月15日より施行された。この対策法の対象となる物質にホウ素があげられ、その第5条に土壌含有基準は土壌1kgにつき400mg以下であること、土壌溶出量基準は検液1lにつき1mg以下であること、土壌環境基準は検液1lにつき1mg以下という厳しい基準が定められた。ホウ素の環境基準として1mg/l以下が告示され、施行されたため、これらのホウ素を含む工場排水、ごみ焼却場洗煙排水、地熱発電排水等の排水中のホウ素除去処理が必要となってきている。
【0004】
これまで、ホウ素含有排水を処理する方法としては、硫酸アルミニウムや消石灰等を除去剤として該排水に添加することにより不溶性沈殿として除去する方法、ホウ素選択性キレート樹脂または希土類水酸化化合物含有物等の吸着剤により吸着させる方法、逆浸透膜により処理する方法等が知られている。それぞれに利点があるが、これらの除去剤、吸着剤の再生方法に適当なものがなく汎用されるに至っていないのが現状である。
【0005】
ホウ素選択性キレート樹脂の代表樹脂であるN−メチルグルカミン基を有するホウ素選択吸着樹脂からなる吸着材は、是非とも再生使用が望まれており、特許文献1(特開2003−094051号公報)には、N−メチルグルカミン基を有するホウ素選択吸着樹脂に吸着したホウ素を鉱酸により溶離後、NaOH溶液を通液して、該ホウ素選択吸着樹脂を遊離型に変換する再生処理を行うに際し、NaOH溶液の通液量を、前記NaOH溶液の通液後、洗浄及び逆洗浄を行った状態で前記ホウ素選択吸着樹脂を取り囲む溶液のpHが7.5〜8.5になるように制御することを特徴とするホウ素選択吸着樹脂の再生方法が提案されている。しかしながら、前述の操作を行うことは容易でないため、使用するにあたり大きな問題となってしまっている。
【0006】
そして、その前記方法の改良方法として特許文献2(特開2002−233864号公報)には、ホウ素を含む排水を処理して得られたN−メチルグルカミン基を有するホウ素選択吸着樹脂に鉱酸を通液してホウ素溶離液を回収するに当たり、該回収を行う期間を少なくとも2以上に分割し、夾雑物の少ない期間を溶離液のpHの変動により定めて溶離液のみをホウ素回収用溶液とすることを特徴とするホウ素選択吸着樹脂から溶離されるホウ素含有溶離液の処理方法や、特許文献3(特開2003−326251号公報)の水酸化物イオンと反応することで水酸化物として沈殿を生じる金属と、ホウ素と、を含有する溶液中からホウ素を除去する方法であって、前記水酸化物イオンと反応することで水酸化物として沈殿を生じる金属と、ホウ素とを含有する溶液をアルカリ性にすることで、当該溶液中の金属を水酸化物として沈殿せしめ、当該溶液中から金属を除去するための沈殿工程と、吸着材を用いて、沈殿工程終了後の溶液中のホウ素を吸着するためのホウ素吸着工程と、酸溶液を用いて、前記ホウ素が吸着している吸着材からホウ素を溶離するためのホウ素溶離工程と、アルカリ溶液を用いて、前記ホウ素が溶離された吸着材をホウ素吸着工程で使用可能な吸着材とするための吸着材再生 工程とを有し、前記吸着材は、少なくともOH基を2つ以上有し、水に不溶であり、ホウ素を吸着する性質を有しており、かつ、酸溶液により吸着したホウ素を溶離し、アルカリ溶液によりホウ素の吸着が可能な吸着材に再生される性質を有する有機化合物であることを特徴とするホウ素除去方法がある。しかし、使用方法の違いがあり利点はあるが、pH調整煩雑の欠点は解消していない。
【0007】
そこで吸着剤の中でも、前記欠点がなく、ホウ素吸着剤により吸着させる方法は、注目されるところではある。その吸着剤再生方法について特許文献4(特開昭59−132986号公報)には、前記N−メチルグルカミン基を有するホウ素選択吸着樹脂からなる特殊樹脂吸着材の再生方法の酸による脱離する方法とは逆のアルカリ水溶液を用いてホウ素を脱離する再生方法が記載されている。しかし、この方法では再生時のホウ素の吸着が緩やかに起こることが確認されており、吸着剤よりホウ素を洗い出すのに大量の水を必要としなければならない問題があった。
【0008】
また、前記方法の改良方法に特許文献5(特開2004−057870号公報)に、ホウ素含有水を希土類元素の水酸化物を担持した造粒体と接触させて、ホウ素を吸着除去する吸着工程と、ホウ素を吸着した造粒体をアルカリ水溶液と接触させて、ホウ素を脱離する脱離工程を有するホウ素含有水の処理方法において、造粒体をアルカリ水溶液と接触させる前に、又は、接触させた後に、造粒体を強酸水溶液と接触させる中和酸処理工程を有することを特徴とするホウ素含有水の処理方法が、提案されている。この方法は、該造粒体のホウ素吸着性能を低下させることなく、安定して処理を続けることができるホウ素含有水の処理方法を提供するけれども強酸処理工程を有する操作が、酸が多すぎればホウ素脱離に影響し酸が少なければ粒子状吸着剤内部も含めて前記方法の改良が不十分になるのでその操作が複雑である意味でpH調整の煩雑さの欠点があり、その排水の初期から完了までのpHも排水基準でpH=7〜8を守らねばならない調整も煩雑である。
【0009】
しかも、再生操作上、前述の問題点が解消されておらず、該ホウ素を吸着した希土類元素の水酸化物を担持した造粒体をアルカリ性水溶液でホウ素を脱離し、その後大量の水で該造粒体を洗浄した後でも該造粒体から少しずつホウ素が漏れ出すことが分かり、排出基準である10mg/lを下回るところまで水洗を行うと、かなりの時間を要することとなっていた。また、時間がかかるだけでなく通水に要する水の量もかなりの量必要となり、この再生時に使用した水は高濃度のホウ素溶液であるため、膨大な量の排水を処理するために余計な手間がかかることになってしまう。つまり、かなり大量の洗浄水で長時間(例えば5時間以上、通水倍率15倍以上)かけて洗浄しても残存吸着ホウ素が止め処なく溶出することが分かり、溶出が止まるまで吸着操作を行うことができない。
【0010】
そこで対策としてアルカリ脱離後に、前述の該造粒体を取り出して少量の強酸で中和することが考えられるが、なぜかその造粒体内部まで中和され難いらしく、短時間や長時間の中和ではやはり少しずつホウ素が排水中に漏れ出すことは止められず前述の大量の洗浄水の場合と変わらない欠点があることが分かった。
【特許文献1】特開2003−094051号公報
【特許文献2】特開2002−233864号公報
【特許文献3】特開2003−326251号公報
【特許文献4】特開昭59−132986号公報
【特許文献5】特開2004−057870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、こうした実情の下に、ホウ素吸着剤として使用済みの高濃度にホウ素を吸着したホウ素吸着剤を本来のホウ素吸着能を殆ど低下させることなく、再生時に問題となっていたホウ素の溶出を短時間で抑えることが可能なホウ素吸着剤の再生方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を鋭意研究し、ホウ素吸着剤として使用済みのホウ素吸着剤をアルカリ水性溶液で処理した後、さらに、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物により処理することが前記課題の解決に極めて有効なことを見出して、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は下記(1)〜(7)に係わる。
(1)使用済みのホウ素吸着剤をアルカリ水性溶液と接触させて、ホウ素を所定の濃度域まで脱離後、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物の水溶液と接触させることを特徴とするホウ素吸着剤の再生方法。
(2)該濃度域が、10〜1000mg/lであることを特徴とする前記(1)記載のホウ素吸着剤の再生方法。
(3)該アルカリ土類金属塩が塩化マグネシウムであり、アンモニウム塩が塩化アンモニウムであることを特徴とする前記(1)または(2)記載のホウ素吸着剤の再生方法。
(4)該ホウ素吸着剤が、希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)記載のホウ素吸着剤の再生方法。
(5)該ホウ素吸着剤が、平均2次粒子径0.2〜25ミクロンmの希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物の集合体の粒状体であってその粒状体表面に高分子濃度の高い層を有することを特徴とする前記(1)〜(4)のホウ素吸着剤の再生方法。
(6)使用済みホウ素吸着剤を有するホウ素吸着剤充填容器内にアルカリ性溶液を通水後、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物を加えた、ホウ素含有液を通水倍率15倍以下で通水して該含有水容量当たりのホウ素濃度を10mg/l以下にすることを特徴とするホウ素吸着剤の再生方法。
(7)該ホウ素含有剤が、排水処理用であることを特徴とする前記(1)〜(6)のホウ素吸着剤の再生方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の再生方法により、高濃度にホウ素が吸着されたホウ素吸着剤を本来のホウ素吸着能を殆ど低下させずに、再生処理の際のホウ素溶出を短時間で抑えて、ホウ素吸着剤を回復させることができ、しかもその再生処理の際に排水中に基準を超えてホウ素が漏れ出すことなく、ホウ素吸着剤を再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に使用するホウ素吸着剤は、高分子樹脂と希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物との混合物粒子体であり、その粒子体表面には高濃度の薄い多孔質の該高分子樹脂層がある吸着剤である。
その混合物粒子体は、希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を高分子樹脂100重量部当たり600重量部以上の割合で含有している。この希土類元素含有重量が600重量部より少ないとホウ素吸着量が少なくて、該ホウ素吸着剤を再生しても従来技術水準の吸着性を越えられない。
【0016】
この混合物粒子体の形状は粒子状で水が通過出来る形の成型体でも良い。これら混合物を通水に支障なくカラムなどに充填して用いることができる構造形状であればよい。網状成型体でも本発明の目的に合えば良い。また、ほぼ均一な丸い粒状体であれば、平均粒径0.2mm〜5.0mmが好ましく用いられる。粒径0.2mm以下では充填密度が高くなって通水抵抗が高くなり再生作業性が劣り易いし、5.0mm以上では、再生用の水または特定水溶液と粒状体の単位時間当たりの接触面積が少なくなり易く結果としてホウ素吸着能回復が遅くなり易い。
【0017】
また、本発明吸着剤の混合粒子体の好ましい内部断面構造は、図7に模式的に示すごとく高分子樹脂の多孔質のスキン層が形成されており、また、粒子表面に近い部分に内部より極めて濃度の高い高分子樹脂の層がある構造であり、中心部には空洞部があり、その空洞部から表面方向に放射状の細い空隙があり、該樹脂濃度の高い表面層の内部近傍には、細かい空隙孔が内部よりも密に多数存在している断面構造が好ましい。理由は定かでないがこの構造が再生状態を極めて良好にしていることと推定される。
【0018】
本発明の高分子樹脂とは、アニオン交換樹脂やキレート系樹脂よりも耐熱性があって水に溶出しない耐水性を持つ有機高分子重合体樹脂や天然高分子またはこれら樹脂の誘導体である。その数平均分子量は500以上好ましくは2000以上あれば良い。分子量が低すぎたり水溶性親水性樹脂では溶出する点で好ましくなく、高温度では溶出が更に大きくなり耐熱性も少ない。
【0019】
好ましい樹脂として、アセタール化ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂等のフッ素樹脂などを挙げることができる。例えばポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン6フッ化プロピレン共重合樹脂は、希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を高濃度に含有させ易く、耐水性、耐薬品性に優れ好ましい樹脂といえる。またポリテトラフルオロエチレン樹脂やその(共)重合体も同様である。その他、耐水性に優れた有機高分子や天然高分子及びその誘導体も、本発明の目的に合った有用な樹脂といえる。
【0020】
本発明の希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物とは、1991年元素の周期表による3(3A)族の希土類元素であって、スカンジウムSc、イットリウムY、ランタノイド元素、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジウムPr、ネオジウムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユウロピウムEu、カドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYb、ルテチウムLuの水酸化物である。なかでも本発明の目的に合致して好ましい元素はCeであり、4価のCeが好ましい。これら希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物の混合体も有用である。
【0021】
本発明の希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物には水を含有すると尚好ましく、この含水量と、従来不可能と思われていた高分子樹脂100重量部当たり600重量部以上という従来水準(樹脂100重量部当たり400重量部)をはるかに超えて希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を高含量で含有する技術によって作られる、ホウ素吸着剤の吸着性能は、従来技術の2〜4倍の驚くべき値を示す。
【0022】
その理由は定かでないが、含水することにより希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物の流動性がよくなり樹脂との適当な混合が行われることと、水が2次凝集している希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を適度の粒径にする作用と、その2次粒子の空隙を作って適度のホウ素含有水との接触を可能にすること、及び水酸化物が酸化物に戻ることを防止し結果としてホウ素吸着能が高まっているものと推定される。
【0023】
この含水率を測定する方法は、含水希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物をルツボに入れ、800℃の高温に1時間放置してその蒸発分を処理前の希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物量で除した値を含水率で表現する。
【0024】
この希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物の2次粒子は、平均粒径0.01〜0.1ミクロンmの1次粒子の凝集体であり、該2次粒子の平均粒径は0.2〜25ミクロンmが良く0.5〜10.0ミクロンmが好ましい。2ミクロンm以下では樹脂混合で包まれてホウ素含有水との接触が不足することがあり、15ミクロンm以上では樹脂との混合が良くないことがある。
【0025】
本発明の再生方法において、ホウ素をアルカリ脱離後に加えるアルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物(以下添加剤という)とは、好ましくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ルビジウム、セシウム等の金属の塩酸、硝酸、硫酸等の塩又はアンモニウムの塩酸、硝酸、硫酸等の塩である。中でも、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化マグネシウムが比較的短時間でpHを中性域まで変化させることが可能であり、本発明の目的に合致してより好ましい。
【0026】
該アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物の添加量は、水性溶液濃度で10g/l以下であれば良く、好ましくは5g/l以下である。含水塩の場合は含水を省いた質量計算になる。
【0027】
ホウ素用吸着剤の再生は、アルカリ水性溶液で吸着剤からホウ素を脱離させた後、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物を濃度10g/l以下含有する水性溶液を通水倍率3〜15の範囲で通液することにより行なう。上記の塩類水溶液は、再生工程のアルカリ水性溶液によるホウ素の脱離の直後に通液しても良いし、再生工程の終了後に実液とともに通液しても良い。この操作により、通常通水倍率3〜5、より確実には通水倍率3〜10の範囲で通液することにより該含有水容量当たりのホウ素濃度を10mg/l以下にすることが可能である。
【0028】
この添加剤の作用効果は、どのような機構により発現するものであるかは定かでないが、樹脂内に残留したアルカリと反応して速やかにpHを中性域まで下げ、脱離するホウ素量を抑えているものと推察される。
尚、使用済みの吸着剤とは、例えばホウ素を吸着剤1l当たり5g以上吸着している吸着剤である。また、アルカリ水性溶液でホウ素を低濃度に脱離するとは、pH=12以上好ましくはpH=13以上のアルカリ水性溶液で、ホウ素を吸着している吸着剤を洗浄することであり、このアルカリ処理により吸着されていたホウ素は吸着剤より脱離し、吸着剤1l当たりのホウ素吸着量を例えば1g以下、好ましくは0.5g以下まで脱離することができる。
また、本発明に使用するアルカリ水性溶液は、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
尚本発明の方法で再生されたホウ素吸着剤は、他の回分式、固定床式、流動床式、移動床式、浸透圧式、逆浸透圧式、共沈式方法と併用しても吸着能を活性化維持させ好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。
文中のSVとは、空塔速度(スペースヴェロシテイ)であり、吸着剤当たりの通水量であり、吸着剤1l当たりの水の通水速度のことである。例えばSV=20の場合は、20l/hrで通水したことを言う。
また、通水倍率とは、吸着剤容量当たり何倍の水を流したかを意味するもので、例えば、1lの吸着剤で通水倍率200というと、水を200l流したことを言う。
飽和吸着量とは、特定濃度のホウ素溶液で吸着剤にそのホウ素を吸着させた場合の最大どれだけ吸着出来るかを示す値で、ホウ素濃度により変わる。
【0030】
(実施例1、比較例1、実施例2、比較例2)
水道水にHBO試薬1級を溶解して(初期)濃度200mg/lにした液を作製しpH=7を確認した。以下これを水道水ホウ素含有液という。また、純水にHBO試薬1級を溶解して(初期)濃度200mg/lにした液を作製しpH=7を確認した。以下これを純水ホウ素含有液という。別に、水酸化セリウムを70℃低温乾燥機で水分率20重量%にして含水酸化セリウム粉末を得た。この粉末とフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体樹脂とを溶媒N−メチル−2−ピロリドンに分散させて分散液を得た。次いでこの分散液を造粒機で樹脂100重量部に対して含水酸化セリウム700重量部の割合になる丸みのある平均粒径0.70mmの粒子体(造粒体)を得た。この粒子体の表面には該樹脂の高濃度の層があった。以下この粒子をREAD−Bという。
【0031】
再生条件検討
1.概要
再生時の水洗時に実液(ホウ素を含有した被処理液を言う)を通水してホウ素の挙動に影響があるかどうか確認する。
下表の水洗Iとは、実液に満たされて高濃度ホウ素吸着した吸着剤粒子体層に通水して水置換する水洗処理を言う。
アルカリとは、水洗Iのあとの吸着剤をpH=13以上のアルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液)を通水してホウ素脱離させることを言う。
水洗IIとは、ホウ素をpH=13以上のアルカリ溶液で脱離した後の、吸着剤粒子体の水洗洗浄を言う。
Bとはホウ素である。
塩類水溶液とは、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩の水溶液で、実施例では図に示すように、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの水溶液を使用した。
【0032】
2.実験内容
カラムは1塔運転(樹脂量15ml)、樹脂はREAD−Bを使用。
(1)準備:飽和吸着カラムの作成
B濃度200mg/l、pH=7の液を3l/hrでカラムに通水し、出口濃度が200mg/lになった時点を吸着の飽和とした。この飽和吸着したカラムを使って試験を行う。
(2)実験:影響因子の調査
アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等、B濃度200mg/lの液に影響を及ぼすと考えられる因子を加え、再生及び通水を行い、ホウ素の挙動について確認した。
再生条件は表1の通りであり、サンプリングは10min毎に試験管で行なった。
上記因子を加える方法として、(ア)再生工程の水洗IIの段階で水洗を行いながら同時に上記塩類の水溶液を通液する方法と(イ)水洗I、アルカリ処理、及び水洗IIからなる再生工程の終了後に上記の塩類の水溶液を通液する方法の2種類を採用した。
上記再生工程、及び塩類水溶液通液終了後、引き続き実液(B濃度200mg/l、pH=7)の通液を実施した。
【0033】
【表1】

【0034】
3.結果
図1〜4において、縦軸はカラムから排出される液中のホウ素含有量を示し(対数目盛)、横軸は通水倍率を示す。通水倍率0までが再生工程を表している。図1,2では水洗II工程中に塩類水溶液を通液し、図3,4では再生工程終了後に塩類水溶液を通液した。
なお、アルカリ処理後、ホウ素濃度上昇しているが、これはアルカリ処理により吸着剤から脱離したホウ素がカラムから排出されたことを示している。
上記(ア)の場合は、図1〜2に示すように、ホウ素溶出量が排出基準の10mg/lを下回るまでの時間を見ると、塩化カリウムや塩化ナトリウムを添加した場合では、従来技術である塩類を入れない場合との比較で時間短縮効果が見られない。一方、塩化カルシウムを添加した場合は、時間短縮効果が確認された。以上より、塩化カルシウムが比較的早くホウ素溶出を食い止め、溶出量を排出基準値である10mg/l以下に出来ることが分かった。
【0035】
上記(イ)の場合は、図3〜4に示すように、ホウ素溶出量が排出基準の10mg/lを下回るまでの時間を見ると、塩酸を添加した場合では、従来技術である塩類を入れない場合との比較で時間短縮効果が見られない。一方、塩化カルシウムや塩化マグネシウムを添加した場合は、時間短縮効果が確認された。以上より、塩化カルシウムの他、塩化マグネシウムでも比較的早くホウ素溶出を食い止め、溶出量を排出基準値である10mg/l以下に出来ることが分かった。また、塩化カルシウムについては、添加量が多い方が時間短縮効果があることも分かった。
また、上記(ア)及び(イ)の方法で再生された再生後ホウ素吸着剤のpH変化を調べたのが、図5〜6である。塩化カルシウムや塩化マグネシウムを通水液に加えた場合、通水倍率の早い段階、即ち短時間でpHが中性域に近づくことが分かる。
【0036】
以上実施例で示したように、本発明の再生方法によれば、高濃度ホウ素含有のホウ素吸着剤の再生を本来のホウ素吸着能を殆ど低下させることなく、短時間で回復させることができ、しかも処理の際、排水中に基準を超えてホウ素が漏れ出すことがなく、ホウ素吸着剤の再生を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の再生方法は、ホウ素を含む工場排水、ごみ焼却場洗煙排水、地熱発電排水等の排水中のホウ素除去処理に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】は、ホウ素用吸着剤再生工程の水洗IIを行いながら、塩類水溶液を通液した場合の通液(通水)倍率とホウ素の溶出量との関係図である。
【図2】は、図1の初期段階の拡大図である。
【図3】は、ホウ素用吸着剤再生工程の終了後に塩類水溶液を通液した場合の通液(通水)倍率とホウ素の溶出量との関係図である。
【図4】は、図3の初期段階の拡大図である。
【図5】は、ホウ素用吸着剤再生工程の水洗IIを行いながら塩類水溶液を通液した場合の通液(通水)倍率経時変化とpH変化との関係図である。
【図6】は、ホウ素用吸着剤再生工程の終了後に塩類水溶液を通液した場合の通液(通水)倍率経時変化とpH変化との関係図である。
【図7】は、本発明の希土類化合物と樹脂との混合粒子体断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みのホウ素吸着剤をアルカリ水性溶液と接触させて、ホウ素を所定の濃度域まで脱離後、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物の水性溶液と接触させることを特徴とするホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項2】
該濃度域が、10〜1000mg/lであることを特徴とする請求項1のホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項3】
該アルカリ土類金属塩が塩化マグネシウムであり、アンモニウム塩が塩化アンモニウムであることを特徴とする請求項1または2のホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項4】
該ホウ素吸着剤が、希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項5】
該ホウ素吸着剤が、平均2次粒子径0.2〜25ミクロンmの希土類元素水酸化物及び/又は含水酸化物の集合体の粒状体であってその粒状体表面に高分子濃度の高い層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項6】
使用済みホウ素吸着剤を有するホウ素吸着剤充填容器内にアルカリ水性溶液を通水後、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩の1種以上からなる化合物を加えた、ホウ素含有液を通水倍率15倍以下で通水して該含有水容量当たりのホウ素濃度を10mg/l以下にすることを特徴とするホウ素吸着剤の再生方法。
【請求項7】
該ホウ素含有剤が、排水処理用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のホウ素吸着剤の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−160271(P2007−160271A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363042(P2005−363042)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000191135)株式会社日本海水 (19)
【Fターム(参考)】