説明

ホウ素拡散用塗布剤

【解決手段】シリコン基板にp型拡散層を形成するためのホウ素拡散用塗布剤であって、該塗布剤は少なくとも、ホウ素化合物と、有機バインダーと、ケイ素化合物と、アルミナ前駆体化合物と、水及び/又は有機溶剤とを含むものであるホウ素拡散用塗布剤。
【効果】本発明のホウ素拡散用塗布剤は、スピン塗布後の基板表面に十分な不純物量を有する膜を均一に形成することができる。面内で均一なp型拡散層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に拡散層を形成する際に基板上に塗布されるホウ素拡散用塗布剤、これを用いた太陽電池等の半導体デバイスの製造方法、及び太陽電池等の半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、民生用の太陽電池を製造するにあたって、その製造コストの低減が重要課題であり、一般的には以下のような工程で太陽電池を製造する方法が広く採用されている。その詳細は、例えば次の通りである。
【0003】
まず、チョクラルスキー(CZ)法により作製した単結晶シリコンインゴットや、キャスト法により作製した多結晶シリコンインゴットをマルチワイヤー法でスライスすることにより得られたn型シリコン基板を用意する。次に、アルカリ溶液で基板表面のスライスによるダメージを取り除いた後、最大高さ10μm程度の微細凹凸(テクスチャ)を受光面と裏面との両面に形成する。続いて、種々の方法により基板にドーパントを熱拡散させてp型及びn型拡散層を形成する。更に、受光面にはTiO2又はSiNを、例えば、70nm程度の膜厚で堆積させて、反射防止性を備えたパッシベーション膜を形成する。次に、銀を主成分とする材料を両面に印刷し、焼成することにより電極を形成する。受光面側の電極は、例えば幅100〜200μm程度の櫛形状に形成する。
【0004】
このような手法は、デバイスを構成する上で必要最小限の工程数となっているにもかかわらず、エネルギー変換効率等の太陽電池の特性を高める様々な効果が付随している点で優れた手法である。例えば、基板に拡散層を形成する際のドーパントの熱拡散は、ゲッタリング作用によりバルク内の少数キャリヤの拡散長を改善する働きがある。また、反射防止膜は、光学的効果(反射率低減)と共に、シリコン表面近傍で発生するキャリヤの再結合速度を低減する働きがある。
このような必要最小限の工程数といくつかの有用な効果により、民生用太陽電池は以前より低コスト化が図られている。
【0005】
ところで、上記の拡散層を形成する方法として、気相拡散法や塗布拡散法が用いられている。気相拡散法では、一般的にn型不純物源としてPOCl3が用いられ、p型不純物源としてBBr3が用いられている。
塗布拡散法における代表的な塗布方法としては、スピンコートやスクリーン印刷がある。スピンコートは、p型又はn型不純物源を含む塗布剤を基板表面に滴下し、基板を高速回転させることで、基板表面に均一な膜厚の膜を形成することができ、その後熱処理を施すことによって、p型又はn型拡散層を形成することができる。
また、スクリーン印刷によっても同様に、p型及びn型拡散層を形成することが可能である。
【0006】
塗布拡散法において不純物濃度の均一な拡散層を形成するためには、不純物源を含む塗布剤の均一性が必要となるだけでなく、その塗布剤が半導体基板上に均一な組成でかつ十分な膜厚で形成されることが必要である。
不純物拡散用塗布剤としては、例えば、特公昭62−27529号公報(特許文献1)のような塗布剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−27529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている塗布剤を使用して、テクスチャ構造を有するシリコン基板にp型拡散層を形成しようとした場合、テクスチャ凸部上の膜厚が薄くなり、ホウ素の拡散濃度が不均一になってしまう問題があった。更に、基板外周領域は、基板中心部に比べてスピンコート時の回転速度が増大するため、塗布膜厚が基板外周領域において薄くなってしまい、不純物源が不足することでシート抵抗が増大してしまう問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、p型拡散層を形成する工程において、基板に均一なp型拡散層を形成できるホウ素拡散用塗布剤、この塗布剤を用いた太陽電池等の半導体デバイスの製造方法、及びこれによって得られる太陽電池等の半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ホウ素拡散用塗布剤の組成について鋭意研究を行った結果、塗布剤の組成を調整することによって、スピン塗布工程において、十分な不純物量を含有する膜厚を基板表面に確保できると共に、シリカ及びアルミナ前駆体を添加することによって、均一なホウ素拡散を行うことが可能であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記ホウ素拡散用塗布剤、これを用いた太陽電池等の半導体デバイスの製造方法、及びこれにより得られる太陽電池等の半導体デバイスを提供する。
<1> シリコン基板にp型拡散層を形成するためのホウ素拡散用塗布剤であって、該塗布剤は少なくとも、
ホウ素化合物と、
有機バインダーと、
ケイ素化合物と、
アルミナ前駆体化合物と
水及び/又は有機溶剤と
を含むものであることを特徴とするホウ素拡散用塗布剤。
<2> 前記ホウ素化合物の含有量が塗布剤全体の4質量%以下であることを特徴とする<1>記載のホウ素拡散用塗布剤。
<3> 前記有機バインダーは、ポリビニルアルコールであり、その含有量が塗布剤全体の4質量%以下であることを特徴とする<1>又は<2>記載のホウ素拡散用塗布剤。
<4> 前記ケイ素化合物は、シリカであり、その含有量が塗布剤全体の5質量%以下であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布剤。
<5> 前記アルミナ前駆体化合物は、熱処理することによってアルミナが形成される化合物であり、その含有量が塗布剤全体の8質量%以下であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布剤。
<6> 25℃の粘度が80〜140mPa・sである<1>〜<5>のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布剤。
<7> <1>〜<6>のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布剤を用いることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
<8> 半導体デバイスが太陽電池である<7>記載の製造方法。
<9> n型シリコン基板にテクスチャを形成した後、シリコン基板の一方の面に<1>〜<5>のいずれかに記載のホウ素拡散用塗布剤を塗布し、p型拡散層を形成し、次いでシリコン基板の他方の面にn型拡散層を形成し、上記両拡散層上に反射防止膜を形成し、更に電極を形成することを特徴とする<8>記載の製造方法。
<10> <7>記載の製造方法によって得られた半導体デバイス。
<11> <8>又は<9>記載の製造方法によって得られた太陽電池。
【0012】
このように、ホウ素拡散用塗布剤が、有機バインダー及びシリカを含み、更にスピン塗布工程に適した組成とすることで、スピン塗布後の基板表面に十分な不純物量を有する膜を均一に形成することができる。このため、太陽電池工程のような基板表面に凹凸形状のテクスチャ表面が存在した場合においても、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【0013】
更に、ホウ素拡散用塗布剤によって形成された塗布膜中にアルミナ前駆体が均一に分散されていることにより、熱処理中に生成する緻密なアルミナ膜がボロンドーパントの外方拡散を抑制し、保持性を高めるため、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
以上の効果により、ホウ素拡散用塗布剤に被覆された面全体に均一なp型拡散層が形成され、太陽電池等の半導体デバイスの電気的特性が向上する。
【0014】
特に、塗布剤に対して4質量%以下のホウ素化合物を含むp型拡散用塗布剤を基板上に塗布して熱処理することで基板表面に十分な不純物源が確保され、ホウ素化合物の分散性も維持される。
【0015】
また、有機バインダーが好ましくはポリビニルアルコールであることにより、ボロン化合物の保持性や、溶媒に対する分散性を向上させることができ、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【0016】
更に、ケイ素化合物は、好ましくはシリカであり、このシリカは、塗布剤中に均一に分散されるものが好ましく、有機性の官能基によって修飾されていてもよく、粒径の異なる2種類以上のシリカの混合物であってもよい。特にシリカの添加によって、ホウ素拡散用塗布剤の粘度が増加し、スピンコート後に基板上に塗布される膜が厚くなり、十分量のホウ素化合物を確保することができる。
【0017】
また、アルミナ前駆体としては、熱処理することによってアルミナが形成される化合物であることが好ましく、このように、熱処理することによって緻密なアルミナ膜が形成されるアルミナ前駆体を添加することにより、ホウ素の外方拡散を抑制し、保持性を高めるため、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のホウ素拡散用塗布剤は、スピン塗布後の基板上に十分な不純物量を有する膜を形成することができ、シリカ及びアルミナ膜による外方拡散抑制のために面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明により製造する太陽電池の概略断面図である。
【図2】本発明に係るホウ素拡散用塗布剤を用いた太陽電池の製造方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、本発明のホウ素拡散用塗布剤の実施形態について説明する。
本発明のホウ素拡散用塗布剤は、半導体基板にp型拡散層を形成するために、例えばスピンコートにより前記基板上に塗布されるホウ素拡散用塗布剤であって、少なくとも、ホウ素化合物と、有機バインダーと、ケイ素化合物と、アルミナ前駆体と、水及び/又は有機溶剤とを含むものである。
【0021】
ホウ素拡散用塗布剤を上記のような組成とすることにより、均一なp型拡散層を形成することができる。p型拡散層を形成する領域に、一回の塗布で所望のp型拡散層を形成することができるため、生産性及び歩留まりの向上並びにコスト削減につながる。
【0022】
また、ホウ素拡散用塗布剤が、有機バインダー及びシリカ等のケイ素化合物を含んでおり、添加量によって粘度が大きく変動するため、各種塗布方法に適したレオロジー特性(粘度、チクソ性等)を有する塗布剤を作製することができる。
【0023】
本実施形態においてp型不純物源は、ホウ素化合物である。
ホウ素化合物を含有するp型拡散層用塗布剤を、基板上に塗布して熱処理することで基板表面にp型拡散層を形成することができる。
【0024】
ホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、無水ホウ酸、アルキルホウ酸エステル、ホウ酸メラミン、ホウ酸アンモニウムやボロンインターナショナル社製「ハイボロン」(ハイボロンは登録商標)等の市販品が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。ホウ素化合物はいくつかの化合物を任意の比で混合した場合であっても、ホウ素が含まれているものであれば使用することができる。
また、ホウ素化合物は、市販品を用いることができるため、安価で簡単に入手することができる。
【0025】
更に、ホウ素化合物の含有量は、塗布剤の質量に対して、4質量%以下であることが望ましい。ホウ素化合物の含有量が4質量%を超えると、塗布剤中のホウ素化合物が析出して分散が不均一となる、あるいは塗布後の基板表面においてホウ素化合物が局所的に析出することで、p型拡散層の形成が不均一になる場合がある。ホウ素化合物の含有量の下限値は特に制限されないが、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0026】
本実施形態における有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられ、これらのなかでも特にポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。ポリビニルアルコールはボロン化合物の保持性が高く、塗布剤中に均一に分散させることができる。
有機バインダーの含有量は、塗布剤の質量に対して4質量%以下であることが望ましい。含有量が4質量%を超えると、塗布剤の粘度が高くなり、基板1枚当たりに必要な塗布量が多くなってしまう。また、基板中心付近の膜厚が厚くなり過ぎてしまい、面内熱拡散後に有機物残渣が生じて、太陽電池特性を低下させてしまう場合がある。有機バインダーの含有量の下限値は特に制限されないが、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0027】
また、ポリビニルアルコール等の有機バインダーの重合度は1000以下、特に800以下であることが望ましい。重合度が1000を超えると、ポリビニルアルコール等の有機バインダーが凝集し易くなり、塗布剤の分散性が悪化し、p型拡散層を均一に形成できなくなる場合がある。重合度の下限値は特に制限されないが、扱いやすさの点から、100以上であることが好ましい。なお、本発明において、重合度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度として求められる。
【0028】
ケイ素化合物としては、シリカ(親水性シリカ、疎水性シリカ、球状シリカ)等が挙げられる。このシリカは、塗布剤中に均一に分散されるものが好ましく、粒径の異なる2種類以上のシリカの混合物であってもよい。
ケイ素化合物の添加によって、ホウ素拡散用塗布剤の粘度が増加し、スピンコート後に基板上に塗布される膜が厚くなり、十分量のp型不純物を確保することができる。即ち、このことにより、基板表面に十分なp型不純物が確保され、均一なp型拡散層を形成することができる。
【0029】
更に、シリカを用いる場合は、乾式シリカと湿式シリカのどちらでも使用することができ、また、ホウ素化合物や有機バインダーとの相溶性・付着性を高めるために、表面をシラン類やシリコーン類で疎水化処理したものを用いてもよい。例えば、BET法による比表面積が50〜400m2/gの表面が疎水化処理されたフュームドシリカやゾルゲル法シリカなど、塗布剤の分散性に合わせて任意のシリカを使用することができる。
【0030】
シリカの具体例としては、沈降シリカ等の湿式シリカ、シリカキセロゲル、ヒュームドシリカ等の乾式シリカ等の市販品が挙げられる。
これらは親水性シリカであるため、そのまま用いられる場合もあり、また、その表面を有機シリル基を有する化合物で表面処理した疎水性シリカとして用いてもよい。
具体的には、日本アエロジル社製「アエロジル」(アエロジルは登録商標)、東ソー・シリカ社製「ニプシル」、「ニプジェル」、富士シリシア化学社製「サイリシア」(サイリシアは登録商標)が挙げられる。
そして、BET法による比表面積が50〜400m2/g、特に50〜200m2/gのものが好ましく用いられる。
【0031】
更に、これらのケイ素化合物は、塗布剤の質量に対して含有量が5質量%以下であることが望ましい。ケイ素化合物の含有量が5質量%を超えると塗布剤の流動性が低下して塗工性が悪化し、使用量が増加して高コストになってしまう場合がある。ケイ素化合物の含有量の下限値は特に制限されないが、0.5質量%以上が好ましい。
【0032】
本発明において用いられるアルミナ前駆体化合物は、熱処理することでアルミナが形成される化合物であることが好ましい。本実施形態において、熱処理することによって緻密なアルミナ膜が形成されるアルミナ前駆体を塗布剤に添加することにより、ホウ素の外方拡散を抑制し、保持性を高めるため、均一なp型拡散層を形成することができる。
【0033】
アルミナ前駆体としては、例えば水酸化アルミニウムや塩化アルミニウム、塩化アルミニウム・六水和物等を用いることができる。
また、アルミナ前駆体の含有量は、塗布剤に対して8質量%以下であることが望ましい。8質量%を超えると熱処理によって生成したアルミナを含むボロンガラスが、後のガラスエッチング工程でフッ酸によってエッチングされ難くなり、表面残渣が生じやすくなる場合がある。アルミナ前駆体の含有量の下限値は特に制限されないが、0.5質量%以上が好ましい。
【0034】
本発明においては、上記成分に加えて更に溶剤を用いる。本実施形態における溶剤は、ホウ素化合物、有機バインダー、ケイ素化合物、アルミナ前駆体を均一に分散させるために、純水や有機溶剤を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
例えば、流動パラフィン、脂肪族炭化水素系溶剤、カルビトール系溶剤、セロソルブ系溶剤、高級脂肪酸エステル系溶剤、多価アルコール系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。中でも、流動パラフィン、脂肪族炭化水素系溶剤は、臭気が少ないために好適に用いられる。
【0036】
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、出光興産製「IPソルベント」、シェル化学社製「Shellsol D40」(Shellsolは登録商標)、「Shellsol D70」、「Shellsol 70」、「Shellsol 71」、Exxon社製「Isopar G」、「Isopar H」、「Isopar L」、「Isopar M」、「Exxol D40」、「Exxol D80」、「Exxol D100」、「Exxol D130」(沸点:279〜316℃)、「Exxol D140」(沸点:280〜320℃)、「Exxol DCS100/140」等が挙げられる。
【0037】
また、カルビトール系溶剤としてはメチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等が挙げられ、セロソルブ系溶剤としては、エチルセロソルブ、イソアミルセロソルブ、ヘキシルセロソルブ等が挙げられる。また、高級脂肪酸エステル系溶剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルコハク酸イソブチルエステル、アジピン酸イソブチルエステル、セパシン酸ジブチル、セパシン酸ジ(2−エチルヘキシル)等が挙げられ、多価アルコール系溶剤としては、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられ、高級アルコール系溶剤としては、メチルヘキサノール、オレイルアルコール、トリメチルヘキサノール、トリメチルブタノール、テトラメチルノナノール、2−ペンチルノナノール、2−ノニールノナノール、2−ヘキシルデカノール等が挙げられる。また、高級脂肪酸系溶剤としては、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸等が挙げられ、芳香族炭化水素系溶剤としては、ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ジイソプロピルナフタレン等が挙げられる。
【0038】
これらの有機溶剤は、1種単独で用いることができるが、粘度の調整等、ケイ素化合物や有機バインダーとの分散性、テクスチャの付いたシリコン結晶基板との濡れ性等を調整するため、適宜併用して用いることができる。本実施形態のホウ素拡散用塗布剤においては、有機バインダーと相溶性のある溶剤を併用して用いることが好ましい。
なお、溶剤の使用量は、塗布剤に対して77〜93質量%であることが好ましい。
【0039】
ここで、本発明のホウ素拡散用塗布剤の粘度は、回転粘度計による測定で、25℃において80〜140mPa・sであることが好ましく、より好ましくは90〜120mPa・sである。回転粘度計はブルック・フィールド製DV−II+pro、スピンドル5番、25℃,20rpmの条件で測定した。
【0040】
本発明では、シリコン基板上に形成されるホウ素拡散用塗布膜の厚みは5μm以上、特に10μm以上であることが望ましい。このような厚みとすることで、十分なp型不純物が確保され、均一で高濃度のp型拡散層を形成することができる。膜厚の上限は特に制限されないが、扱いやすさの点から25μm以下、特に20μm以下が好ましい。
【0041】
次に、上記実施形態のホウ素拡散用塗布剤を用いた太陽電池等の半導体デバイスの製造方法の実施形態について、図1及び図2を参照しながら以下に説明する。
図1は本発明において製造する太陽電池の概略断面図であり、図2は本発明に係るホウ素拡散用塗布剤を用いた太陽電池の製造方法を説明するフロー図である。
【0042】
まず、図1に示すように、リンドープn型単結晶シリコン基板1を用意する。このシリコン単結晶基板はチョクラルスキー(CZ)法及びフロートゾーン(FZ)法のいずれの方法によって作製されていても構わない。基板の比抵抗は、例えば0.1〜20Ω・cmが好ましく、特に0.5〜2.0Ω・cmであることが高い性能の太陽電池を作る上で好適である。
【0043】
次に、用意した基板1を水酸化ナトリウム水溶液に浸し、ダメージ層をエッチングで取り除く。この基板のダメージ除去は、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を用いても構わない。また、フッ硝酸等の酸水溶液でも同様の目的を達成することが可能である。
【0044】
そして、ダメージエッチングを行った基板1にランダムテクスチャを形成する。
太陽電池は、通常、表面に凹凸形状を形成するのが好ましい。その理由は、可視光域の反射率を低減させるために、できる限り2回以上の反射を受光面で行わせる必要があるためである。凹凸形状を構成する一つ一つの山のサイズは5〜10μm程度でよい。代表的な表面凹凸構造としてはV溝、U溝が挙げられる。これらは研削機を利用して形成可能である。また、ランダムな凹凸構造を作るには、水酸化ナトリウムにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してウェットエッチングする方法や、他には、酸エッチングやリアクティブ・イオン・エッチング等を用いる方法が可能である。なお、図1では両面に形成したテクスチャ構造は微細なため省略している。
【0045】
次に、基板を洗浄した後、本発明のホウ素拡散用塗布剤をスピンコート等の塗布方法により塗布する。次いで、ホウ素拡散用塗布剤を塗布した面どうしを向かい合わせて2枚1組とし、一定間隔で溝を形成した石英治具に2枚ずつ並べ、熱処理を施してp型拡散層2を形成する。
その後、表面に形成されたアルミナ及びシリカ等のケイ素化合物を含むボロンガラス膜をフッ酸でエッチングし、RCA洗浄を行う。
この場合、P型拡散層のシート抵抗の平均値は、拡散工程における拡散時間とコストの点から、35〜50Ω/□が好ましく、より好ましくは40〜46Ω/□である。
また、シート抵抗標準偏差値をシート抵抗平均値で除したCV値(バラツキの指標)は、10%以下が好ましく、更に5%以下とすることによって高い太陽電池特性が得られる。
【0046】
次に、p型拡散層を形成した面に、n型不純物防止用にダイレクトプラズマCVD装置を用いて膜厚80〜300nmのシリコン窒化膜を製膜する。そして、製膜面どうしを向かい合わせて2枚1組とし、一定間隔で溝を形成した石英治具に2枚ずつ並べ、POCl3雰囲気下で熱処理を施してp型拡散層を形成した面の反対の面にn型拡散層3を形成する。
【0047】
そして、CF4のエッチングガスを使用したプラズマエッチング装置を用い、接合分離を行う。この接合分離では、プラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、サンプルをスタックし、その状態で、端面を数ミクロン削る。
【0048】
その後、表面に形成されたCVD膜(シリコン窒化膜)及びリンガラスをフッ酸でエッチングしてRCA洗浄を行った後、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、エミッタ層上に表面保護膜であるシリコン窒化膜(反射防止膜)4を堆積する。この膜厚は、反射防止膜も兼ねさせるため70〜200nmが適している。他の反射防止膜として酸化膜、二酸化チタン膜、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜等があり、代替が可能である。また、形成法も上記以外にリモートプラズマCVD法、コーティング法、真空蒸着法等があるが、経済的な観点から、上記、窒化膜をプラズマCVD法によって形成するのが好適である。
【0049】
更に、上記反射防止膜上にトータルの反射率が最も小さくなるような条件の膜、例えば二フッ化マグネシウム膜といった屈折率が1〜2の間の膜を形成すれば、反射率が更に低減し、生成電流密度は高くなる。また、同様の目的で、シリコン基板とシリコン窒化膜の上にシリコン酸化膜をスタックさせてもよい。
【0050】
次に、スクリーン印刷機を用い、裏面に銀を主成分とした塗布剤を塗布し、乾燥させる。更に表面側もスクリーン印刷機を用い、櫛形に銀電極を印刷し、乾燥させる。その後、所定の熱プロファイルにより焼成を行い、裏面電極5及び表面電極6を形成する。これら電極形成は真空蒸着法、スパッタリング法など、上記印刷法だけによらなくとも可能である。
これにより、図1に示すような太陽電池10を簡単な手法で製造することができる。
【0051】
上記のような太陽電池を製造する方法においては、基板上にホウ素拡散用塗布剤を塗布することで、膜厚の厚いホウ素拡散用塗布膜を形成することができる。ここでは、スピンコートによる塗布を行っているが、スクリーン印刷等の塗布方法を用いてもよい。
本発明においては、熱処理することによって緻密なアルミナ膜が形成されるアルミナ前駆体を添加することにより、ホウ素の外方拡散を抑制して保持性が高まるため、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
まず、以下の材料を常法に従い配合してホウ素拡散用塗布剤を作製した。
<p型拡散用塗布剤の作製>
○ホウ素化合物
ホウ酸:2g
○有機バインダー
ポリビニルアルコール(重合度500):2g
○ケイ素化合物
親水性シリカ(BET比表面積200m2/g):2g
○アルミナ前駆体
塩化アルミニウム・六水和物:4g
○有機溶剤
エチレングリコール:56g
○溶剤
水:34g
合計:100g
【0054】
このように作製したホウ素拡散用塗布剤の粘度を計測した結果、25℃における塗布剤の粘度は107mPa・sであった。
【0055】
[実施例2]
実施例1のホウ酸含有量を4質量%、エチレングリコール含有量を54質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は112mPa・sであった。
【0056】
[参考例1]
実施例1のホウ酸含有量を5質量%、エチレングリコール含有量を53質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は113mPa・sであった。
【0057】
[実施例3]
実施例1のポリビニルアルコール(PVA)含有量を4質量%、エチレングリコール含有量を54質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は133mPa・sであった。
【0058】
[参考例2]
実施例1のPVA含有量を5質量%、エチレングリコール含有量を53質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は155mPa・sであった。
【0059】
[比較例1]
実施例1のPVA含有量を0質量%、エチレングリコール含有量を58質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は59mPa・sであった。
【0060】
[実施例4]
実施例1の親水性シリカ含有量を5質量%、エチレングリコール含有量を53質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は129mPa・sであった。
【0061】
[参考例3]
実施例1の親水性シリカ含有量を6質量%、エチレングリコール含有量を52質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は141mPa・sであった。
【0062】
[比較例2]
実施例1の親水性シリカ含有量を0質量%、エチレングリコール含有量を58質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は77mPa・sであった。
【0063】
[実施例5]
実施例1の塩化アルミニウム・六水和物含有量を8質量%、エチレングリコール含有量を52質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は109mPa・sであった。
【0064】
[参考例4]
実施例1の塩化アルミニウム・六水和物含有量を10質量%、エチレングリコール含有量を50質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は104mPa・sであった。
【0065】
[比較例3]
実施例1の塩化アルミニウム・六水和物含有量を0質量%、エチレングリコール含有量を60質量%とした塗布剤を作製した。25℃における塗布剤の粘度は109mPa・sであった。
【0066】
<太陽電池の製造>
実施例1〜5、比較例1〜3及び参考例1〜4で得られたホウ素拡散用塗布剤を使用して、上記太陽電池の製造方法の実施形態で説明した方法で太陽電池を製造した。
まず、図1に示すように、結晶面方位(100)、15cm角200μm厚、アズスライス比抵抗2Ω・cmリンドープn型単結晶シリコン基板1を用意して、40質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、ダメージ層をエッチングで取り除き、その後、3質量%水酸化ナトリウムにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸し、ウェットエッチングすることにより、ランダムテクスチャを形成した。
【0067】
次に、基板を洗浄した後、本発明のホウ素拡散用塗布剤をスピンコートにより塗布し、120℃で1分間乾燥させた(膜厚:10μm)。ホウ素拡散用塗布剤の塗布面どうしを向かい合わせて2枚1組とし、一定間隔で溝を形成した石英治具に2枚ずつ並べて熱処理炉に入れ、950℃で40分間保持し、p型拡散層2を形成した。
その後、表面に形成されたアルミナ及びシリカを含むボロンガラス膜をフッ酸でエッチングし、RCA洗浄を行った。
【0068】
次に、p型拡散層を形成した面に、n型不純物防止用にダイレクトプラズマCVD装置を用いて200nmのシリコン窒化膜を製膜した。そして、製膜面どうしを向かい合わせて2枚1組とし、一定間隔で溝を形成した石英治具に2枚ずつ並べ、POCl3雰囲気下で熱処理を施してp型拡散層を形成した面と反対の面にn型拡散層3を形成した。
【0069】
そして、CF4のエッチングガスを使用したプラズマエッチング装置を用い、プラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、サンプルをスタックした状態で端面を削って、接合分離を行った。
【0070】
その後、表面に形成されたCVD膜及びリンガラスをフッ酸でエッチングしてRCA洗浄を行った後、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、エミッタ層上に表面保護膜であるシリコン窒化膜(反射防止膜)4を100nmの厚さで製膜した。
【0071】
次に、スクリーン印刷装置を用い、裏面に銀を主成分とした塗布剤を塗布し、乾燥させ、更に表面側もスクリーン印刷装置を用い、櫛形電極パターン印刷版を用いて幅80μmの銀電極を印刷し、乾燥させた。その後、所定の熱プロファイルにより焼成を行い、裏面電極5及び表面櫛形電極6を形成した。
【0072】
作製した15.6cm角の太陽電池を25℃の雰囲気の中、ソーラーシュミレータ(光強度:1kW/m2、スペクトル:AM1.5グローバル)の下で電流電圧特性を測定した。結果を下記表に示す。
【0073】
表1〜4に、実施例及び比較例のホウ素拡散用塗布剤の各成分の含有量(質量%)を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
表5〜8に、実施例、比較例及び参考例のホウ素拡散用塗布剤の粘度を示す。また、それらの塗布剤を用いて、同様の塗布条件及び熱処理条件で基板に形成されたp型拡散層シート抵抗の測定結果及び面内バラツキの指標となるCV値(=標準偏差/平均値)を示す。なお、シート抵抗平均値は基板面内を5mm間隔で測定して算出された。更に、実施例、比較例及び参考例で作製したホウ素拡散用塗布剤を用いて製造した太陽電池の電流電圧特性(Voc,Jsc,FF,Efficiency)の測定結果を示す。これらは、各水準10枚の平均値である。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
実施例の太陽電池の変換効率はいずれも19%を超え、高い光電変換効率を示し、比較例の電気特性を上回った。
比較例1、2、3においては、有機バインダー、シリカ、アルミナ前駆体のどの成分が含まれなくても、太陽電池特性を低下させる原因となっている。これはCV値の上昇から、p型拡散層が面内で不均一になり、FFの低下を招いたためである。
また、各組成の含有量が多い参考例1〜4では、実施例に対して太陽電池特性がやや低下した。過剰に含まれている塗布剤組成中における固形分が凝集することによって、面内に不均一なp型拡散層が形成されたためである。
【0084】
本発明におけるホウ素拡散用塗布剤の組成によれば、p型不純物の十分な供給と緻密なアルミナ膜によるp型不純物の外方拡散を防止する効果により、面内で均一なp型拡散層を形成することができる。
【0085】
これにより、太陽電池の電気特性を向上させることができ、競争力の強い製品を生み出すことが可能である。
【0086】
更に、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記の塗布剤組成や塗布方法及び熱処理方法等の実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、如何なるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0087】
1 基板
2 p型拡散層
3 n型拡散層
4 反射防止膜
5 裏面電極
6 表面電極
10 太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板にp型拡散層を形成するためのホウ素拡散用塗布剤であって、該塗布剤は少なくとも、
ホウ素化合物と、
有機バインダーと、
ケイ素化合物と、
アルミナ前駆体化合物と
水及び/又は有機溶剤と
を含むものであることを特徴とするホウ素拡散用塗布剤。
【請求項2】
前記ホウ素化合物の含有量が塗布剤全体の4質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のホウ素拡散用塗布剤。
【請求項3】
前記有機バインダーは、ポリビニルアルコールであり、その含有量が塗布剤全体の4質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のホウ素拡散用塗布剤。
【請求項4】
前記ケイ素化合物は、シリカであり、その含有量が塗布剤全体の5質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のホウ素拡散用塗布剤。
【請求項5】
前記アルミナ前駆体化合物は、熱処理することによってアルミナが形成される化合物であり、その含有量が塗布剤全体の8質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のホウ素拡散用塗布剤。
【請求項6】
25℃の粘度が80〜140mPa・sである請求項1乃至5のいずれか1項記載のホウ素拡散用塗布剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のホウ素拡散用塗布剤を用いることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
半導体デバイスが太陽電池である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
n型シリコン基板にテクスチャを形成した後、シリコン基板の一方の面に請求項1乃至5のいずれか1項記載のホウ素拡散用塗布剤を塗布し、p型拡散層を形成し、次いでシリコン基板の他方の面にn型拡散層を形成し、上記両拡散層上に反射防止膜を形成し、更に電極を形成することを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7記載の製造方法によって得られた半導体デバイス。
【請求項11】
請求項8又は9記載の製造方法によって得られた太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate