説明

ホスファチドを生成する方法

【課題】 ストレスに起因する不調の治療薬用に、ホスファチドまたはホスファチド塩、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンとを含むホスファチドの複合体を提供する。
【解決手段】 本発明の製造方法は、(a)基質としての原材料のレシチンと、粒子サイズが0.01mm以上の非水溶性の界面活性剤マトリックス材料とを用いるステップと、(b)前記の非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料と原材料のレシチンとの混合物と、ホスホリパーゼD、ラセミ酸または異性体的に純粋なアミノ酸、またはアミンと塩とを、pH−バッファ水溶液内で、酵素処理するステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチド(phosphatide: phophatidic acidの旧名)を生成する方法に関する。特に本発明は、非水溶性で安定した界面活性剤マトリックス材料(water-insoluble stationary surfactant-matrix material)の存在下で反応する標準の天然のリン脂質(phosphalipid)から得られる特殊なリン脂質の製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
特殊なリン脂質(phophalipid例えば、ホスファチジルセリン(phophatidylserine)、ホスファチジン酸(phophatidic acid)、ある種のホスファチジルグリロール(phophatidylglycerol))は、医薬の成分、栄養的化合物、機能食品で使用される。
【0003】
機能性原料としてのホスファチジルセリンの重要性は2003年に例証された。2003年は、米国食品医薬品局(US FDA:U.S. Food and Drug Administration)は、ホスファチジルセリンの使用は、高齢者の認識障害のリスクと高齢者の認知症の減少に関連するという2つの効能表示(QHC:Qualified Health Claims)を公認した年である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6492146号明細書
【特許文献2】WO2000/056869号公報
【特許文献3】WO2002/090560号公報
【特許文献4】米国特許第6410522号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The International Journal on the Biology of Stress, Vol. 7, No. 2, 119-126, June, 2004
【非特許文献2】Methods in Enzymology, Vol. 72, pages: 632-639, 1981
【0006】
従来、ヘルハマー(Hellhammer)他は、精神的なストレスに対する内分泌反応と心理的反応に関する大豆レシチンのホスファチジン酸とホスファチジルセリンの複合体(PAS:Soy Lecithine Phophatidic Acid and Phophatidyleserine Complex)の影響を強調している。非特許文献1は、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンの複合体の経口投与は、精神的ストレス、感情的なストレスに対する下垂体副腎反応(ACTH、コルチゾール)と精神的な反応(Spielberger's State-Trait Anxiety Inventory (STAI)stress subscale)の低下に結び付くことを報告している。この結果は、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンの合成物の経口投与は、ストレスに起因する不調の治療薬として用いることができることを示している。
【0007】
アイブル(Eibl)他は、非特許文献2において「ホスホリパーゼD(phospholipase-D)によるリン脂質の類似体(analogs=analogues: アナローグもしくは類似体;構造的に似ているが組成の異なる化合物の総称)の製剤」を記載している。
「ホスホリパーゼD」:ホスファチジルコリンの加水分解によりコリンとホスファチジン酸を生成させる酵素。
【0008】
特許文献1は、ラセミ酸(racemic)または異性体的に純粋なセリン(enantiomerically pure serice)(即ち、L−セリン)を、酵素であるホスホリパーゼ−D(PLD:enzyme phopholipasePLD)と界面活性剤の存在下で製造する方法を開示する。界面活性剤は、基質1g当たり0.4g未満の量であり、そこでの反応媒体は、有機溶剤を含有しない水分散液(aqueous dispersion free of organic solvent)である。同特許文献によれば、この製造方法の主な利点は、ホスファチジルコリンのリン酸基転移(transphosphatidylation)反応と水性溶媒中の類似のホスファチドのリン酸基転移反応が行われて、高純度のホスファチジルセリンを極めて高い収率で得られ、副産物としてのホスファチジン酸が最小となる点である。
【0009】
一般的に、溶剤は、このような反応中に、レシチン(lecithin)を完全に分解するために用いられる。分解された溶液は、縣濁液とは異なり、プロセスをより管理し易くする。
【0010】
特許文献2は、疎水性有機媒体中で、油と脂肪を、非水溶性のマトリックスに固定化された界面活性剤−コートされたリパーゼの複合体(insoluble matrix-immobolized surfactant-coated-lipase complex)を生体触媒として用いて、エステル交換(interesterification=transesterification: ある有機酸エステルのアルコール部を入れ換えて、別のエステルに転化する反応)の準備方法を開示する。非水溶性のマトリックスに固定化された界面活性剤−コートされたリパーゼの複合体の準備方法は、好ましい順番で、以下のステップを含む:リパーゼを界面活性剤と接触させるステップと;リパーゼをある濃度の非水溶性のマトリックスと接触させるステップである。これによりリパーゼをマトリックス上に固定化させる。
【0011】
特許文献3は、グリセロリン酸(glycerophospholipids)とその合成物または天然の類似体を製造する酵素−触媒化した合成方法(enzyme-catalyzed sythetic process)を開示する。この合成方法は、グロセロリン酸コリン(GPC:glycerophosphorylcholine)とその類似派生物を基質(substrate)として、脂肪酸派生物と共に、用いて、1,2−ジアシル化(diacylated)−リゾリン脂質(lysophospholipids)と、1−アシル化(acylated)−2−リゾリン脂質(lysophospholipids)を製造する、酵素のエステル化/エステル交換のプロセスを開示する。この類似派生物においては、コリンの半分が、エタノールアミン(ethanolamine)、セリン(serine)、イノシトール(inositol)、グリセロール(glycerol)、あるいは他のアルコール類で置換されている。反応は、溶剤中、又は微少水溶液のサブシステム(microaqueous sub-system)が生成されるような溶剤−水系と溶剤中で、ホスホリパーゼの存在下で行われる。このホスホリパーゼは、固定化されておらず、界面活性剤でコートされるか、あるいは好ましくは、非水溶性のマトリックス上に固定化され、選択的事項として界面活性剤でコート(変形)される。このプロセスは、1−アシル(acyl)−2−リゾ(lyso)−グリセロリン脂質と1,2−ジ(di)−アシル化グリセロリン脂質を高い変換率で形成できることになる。
【0012】
特許文献4は、抗鬱薬、ストレス抑制薬、気分改善薬を開示する。これらの薬剤は、血中コルチソル・レベル(blood cortisol level)とセロトニンの再摂取(serotonin reuptake)を減少させ、気分改善薬を投与された患者の憂鬱、精神的ストレス、情緒的ストレスに関連する症状を軽減する効果を有することを開示する。
【0013】
ホスファチドとその塩をを生成する方法において、反応は、溶剤を含まない水性溶媒中で、触媒として機能する非水溶性で安定した非界面活性剤−マトリックス材料の存在下で行われるのが好ましい。このプロセスにより、ホスファチドの生成と分離が行われるが、その際、界面活性剤を溶剤等の反応混合物から抽出する高価なステップは必要はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ホスファチドとその塩を生成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施例によれば、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンが、レシチンから、酵素変換により得られる。この変換は、pHバッファされた水溶液、ラセミ酸または異性体的に純粋なセリン、好ましくは(L)−セリンとホスホリパーゼDを用いた塩で、行われる。反応は、触媒として機能する非水溶性の有機または無機の安定した界面活性剤−マトリックス材料の存在下で行われる。遊離した酵素(free enzyme)を使用することにより、基質へのより良好なアクセスが可能となる。このような反応プロセスは、反応に触媒作用する酵素の効率を改善する。、これは非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料が存在しない状態で行われた反応に比較すると、酵素の効率は、改善されている。
【0016】
本発明の一実施例では、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンを、低コストで食料用あるいは機能食品の材料として、同時に生成できるプロセスを提供する。この方法は安全で、界面活性剤を反応混合物から抽出する高価なステップを必要としない。
【0017】
本発明によれば、ホスファチドまたはホスファチド塩の製造方法は、(a)基質としての原材料のレシチンと、粒子サイズが0.01mm以上の非水溶性の界面活性剤マトリックス材料とを用いるステップと、(b)前記の非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料と原材料のレシチンとの混合物と、ホスホリパーゼD、ラセミ酸または異性体的に純粋なアミノ酸、またはアミンと塩とを、pH−バッファ水溶液内で、酵素処理するステップとを有する。前記ステップ(b)は、単一層の反応環境内で行われ、その結果、前記原材料レシチンから派生した構造的脂肪酸鎖(structural fatty-acid chain)を有するホスファチドまたはホスファチド塩を製造する。
【0018】
好ましくは、(i)前記原材料のレシチンは、野菜レシチンと野菜以外のレシチンからなるグループから選択される。(ii)前記野菜レシチンは、大豆レシチンと、ヒマワリ・レシチンと、菜種レシチンからなるグループから選択される。(iii)前記野菜以外のレシチンは、ミルクのリン脂質と、卵黄のレシチンと、魚レシチンからなるグループから選択される。(iv)前記非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料は、非水溶性有機界面活性剤−マトリックス材料と、非水溶性無機界面活性剤−マトリックス材料とからなるグループから選択される。(v)前記ホスホリパーゼDは、野菜ホスホリパーゼDと、バクテリア由来の酵素ホスホリパーゼDと、野菜ホスホリパーゼDとバクテリア−生来の酵素ホスホリパーゼDの化合物からなるグループから選択される。
【0019】
好ましくは、前記(b)ステップは、pHが4.5−8.0の範囲内にあるバッファ液の存在下で実行される。
【0020】
好ましくは、前記バッファ液は、C2−C8の鎖長のカルボキシル酸を有し、前記カルボキシル酸の最終濃度は、前記pHバッファされた水溶液内で、0.01M−0.3Mの範囲内にある。前記(b)ステップは、カルシウム塩の存在下で実行される。前記(b)ステップは、25−60℃の範囲内の温度で実行される。前記ホスホリパーゼDは、前記非水溶性界面活性剤−マトリックス材料に結合しているか、または前記pHバッファされた水溶液内で遊離している。上記の製造方法で製造したホスファチドまたはホスファチド塩。
【0021】
好ましくは、ホスファチジン酸とホスファチジルセリンとを含むホスファチドの複合体またはその塩の製造方法は、(a)基質としての原材料のレシチンと、粒子サイズが0.01mm以上の非水溶性の界面活性剤マトリックス材料とを用いるステップと、(b)前記の非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料と原材料のレシチンとの混合物と、ホスホリパーゼD、ラセミ酸または異性体的に純粋なアミノ酸、またはアミンと塩とを、pH−バッファ水溶液内で、酵素処理するステップとを有する。前記ステップ(b)は、単一層の反応環境内で行われ、その結果、前記原材料レシチンから派生した構造的脂肪酸鎖(structural fatty-acid chain)を有するホスファチジン酸とホスファチジルセリンとを含むホスファチドの複合体またはその塩を製造する。

【0022】
好ましくは、(i) 前記原材料のレシチンは、野菜レシチンと野菜以外のレシチンからなるグループから選択される。(ii)前記野菜レシチンは、大豆レシチンと、ヒマワリ・レシチンと、菜種レシチンからなるグループから選択される。(iii)前記野菜以外のレシチンは、ミルクのホスファチジン酸と、卵黄のレシチンと、魚レシチンからなるグループから選択される。(iv)前記非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料は、非水溶性有機界面活性剤−マトリックス材料と、非水溶性無機界面活性剤−マトリックス材料とからなるグループから選択される。(v)前記ホスホリパーゼDは、野菜ホスホリパーゼDと、バクテリア由来の酵素ホスホリパーゼDと、野菜ホスホリパーゼDとバクテリア−生来の酵素ホスホリパーゼDの化合物からなるグループから選択される。
【0023】
好ましくは、前記(b)ステップは、pHが4.5−8.0の範囲内にあるバッファ液の存在下で実行される。前記バッファ液は、C2−C8の鎖長のカルボキシル酸を有し、前記カルボキシル酸の最終濃度は、前記pHバッファされた水溶液内で、0.01M−0.3Mの範囲内にある。前記(b)ステップは、カルシウム塩の存在下で実行される。前記(b)ステップは、25−60℃の範囲内の温度で実行される。前記セリーンのホスファチドに対するモル比率は、最大で20:1で、前記複合体を製造するよう調整される。
【0024】
好ましくは、前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を少なくとも3%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する。前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を少なくとも10%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する。前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を20−70%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する。前記ホスホリパーゼDは、前記非水溶性界面活性剤−マトリックス材料に結合しているか、または前記pHバッファされた水溶液内で遊離している。上記の製造方法で生成したホスファチドの複合体又はその塩。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
大豆レシチンを原材料として用いて、ホスファチジル基−L−セリン(phosphatidyl-L-serine)と、ホスファチジン酸とを以下のプロセスで同時に生成した。
弱酸性の陽イオン交換体(Amberlite IRC-50 resin; Sigma-Aldrich Fluka)50gを500mlのガラス瓶の中に入れて、塩化チオニル(thionychloride)100gと、室温で12時間反応させた。その後、この流体を静かに注ぎ、残留物を過剰のドデシルアミン(dodecylamine)150gで、さらに12時間4℃で処理した。この液体を静かに注ぎ、残留物を水で4回洗浄し減圧状態で乾燥させて、界面活性剤−マトリックス材料を得た。
上記のガラス瓶内の界面活性剤−マトリックス材料に、50gの大豆レシチン(EpikuronTM 130P powder; Cargill Europe BVBA)と、75gのアミノ酸L−セリン(amino acid L-serine)と、4gの塩化カルシウム(calcium chloride)と、150mlのバッファ液(0.1M ヘキサン酸(hexanoic acid), pH 5.0)を添加し、激しく攪拌し、45℃に30分間加熱した。
【0026】
キャベツからのホスホリパーゼD(P 8398 phospholipase-D; Sigma)500単位を前記の混合物に添加して、1.5時間45℃で攪拌機で攪拌させながら反応させた。反応溶液内で酵素を不活性化するために、反応溶液を入れたガラス瓶を熱湯中に沈めた。その後、反応溶液を氷で冷却した。リン脂質を抽出するために、75mlの蒸留水を前記混合物に添加して、その後30分間攪拌した。その後、この溶液を30分間遠心分離し、2層に分けた。下層は廃棄し、その後、残り上層を減圧状態で乾燥させた。ホスファチドの最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で、次のとおりと決定した:PA21.6%;PS12.3%;PC5.3%;PE6.8%である。
【0027】
大豆レシチンを原材料として用いた第2の方法においては、ホスファチジン酸とホスファチジル基−L−セリンは、第1の方法と同一のプロセスで同時に生成した。ただし安定した界面活性剤は用いなかった。リン脂質の最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で次のとおり決定した。PA15.1;PS8.1%;PC14.1%;PE8.6%である。
【実施例2】
【0028】
大豆レシチンを原材料として用いて、ホスファチジル基−L−セリン(phosphatidyl-L-serine)を以下のプロセスで生成した。
弱酸性の陽イオン交換体(Amberlite IRC-50 resin; Sigma-Aldrich Fluka)50gを500mlのガラス瓶の中に入れて、塩化チオニル(thionychloride)100gと、室温で12時間反応させた。その後、この流体を静かに注ぎ、残留物を過剰のドデシルアミン(dodecylamine)150gで、さらに12時間4℃で処理した。この液体を静かに注ぎ、残留物を水で4回洗浄し減圧状態で乾燥させて、界面活性剤−マトリックス材料を得た。
上記のガラス瓶内の界面活性剤−マトリックス材料に、50gの大豆レシチン(EpikuronTM 130P powder; Cargill Europe BVBA)と、75gのアミノ酸L−セリン(amino acid L-serine)と、4gの塩化カルシウム(calcium chloride)と、150mlのバッファ液(0.1M ヘキサン酸(hexanoic acid), pH 5.0)を添加し、激しく攪拌し、45℃に30分間加熱した。
【0029】
ストレプトミセス属(非運動性で好気性グラム陽性菌の一族)からのホスホリパーゼD(P 4912 Streptomyces sp; Sigma-Aldrich)500単位を前記の混合物に添加して、1.5時間45℃で攪拌機で攪拌させながら反応させた。反応溶液内で酵素を不活性化するために、反応溶液を入れたガラス瓶を熱湯中に沈めた。その後、反応溶液を氷で冷却した。リン脂質を抽出するために、75mlの蒸留水を前記混合物に添加して、その後30分間攪拌した。その後、この溶液を30分間遠心分離し、2層に分けた。下層は廃棄し、その後、残り上層を減圧状態で乾燥させた。ホスファチドの最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で、次のとおりと決定した:PA6.6%;PS27.3%;PC4.3%;PE5.3%である。
【0030】
大豆レシチンを原材料として用いた第2の方法においては、ホスファチジル基−L−セリンは、第1の方法と同一のプロセスで同時に生成した。ただし安定した界面活性剤は用いなかった。リン脂質の最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で次のとおり決定した。PA4.3;PS18.5%;PC13.2%;PE7.5%である。
【実施例3】
【0031】
卵黄レシチンを原材料として用いて、ホスファチジル基−L−セリン(phosphatidyl-L-serine)と、ホスファチジン酸とを以下のプロセスで同時に生成した。
弱酸性の陽イオン交換体(Amberlite IRC-50 resin; Sigma-Aldrich Fluka)50gを500mlのガラス瓶の中に入れて、塩化チオニル(thionychloride)100gと、室温で12時間反応させた。その後、この流体を静かに注ぎ、残留物を過剰のドデシルアミン(dodecylamine)150gで、さらに12時間4℃で処理した。この液体を静かに注ぎ、残留物を水で4回洗浄し減圧状態で乾燥させて、界面活性剤−マトリックス材料を得た。
上記のガラス瓶内の界面活性剤−マトリックス材料に、50gの卵黄レシチン(Ds-PL95E; Doosan Corp. venture BG Biotech BU, Korea)と、75gのアミノ酸L−セリン(amino acid L-serine)と、4gの塩化カルシウム(calcium chloride)と、150mlのバッファ液(0.1M ヘキサン酸(hexanoic acid), pH 5.0)を添加し、激しく攪拌し、45℃に30分間加熱した。
【0032】
ストレプトミセス属からのホスホリパーゼD(P 4912 Streptomyces sp; Sigma-Aldrich)250単位と、キャベツからのホスホリパーゼD(P 8398 phospholipase-D; Sigma)250単位を前記の混合物に添加して、5.5時間45℃で攪拌機で攪拌させながら反応させた。
反応溶液内で酵素を不活性化するために、反応溶液を入れたガラス瓶を熱湯中に沈めた。その後、反応溶液を氷で冷却した。リン脂質を抽出するために、75mlの蒸留水を前記混合物に添加して、その後30分間攪拌した。その後、この溶液を30分間遠心分離し、2層に分けた。下層は廃棄し、その後、残り上層を減圧状態で乾燥させた。ホスファチドの最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で、次のとおりと決定した:PA42.6%;PS43.3%;PC3.3%;PE2.2%である。
【0033】
卵黄レシチンを原材料として用いた第2の方法においては、ホスファチジン酸とホスファチジル基−L−セリンは、第1の方法と同一のプロセスで同時に生成した。ただし安定した界面活性剤は用いなかった。リン脂質の最終組成は、高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)で次のとおり決定した。PA35.3%;PS37.6%;PC12.2%;PE4.2%である。
【0034】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチドまたはホスファチド塩の製造方法において、
(a) 基質としての原材料のレシチンと、粒子サイズが0.01mm以上の非水溶性の界面活性剤マトリックス材料とを用いるステップと、
(b) 前記の非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料と原材料のレシチンとの混合物と、グループ「ホスホリパーゼD、ラセミ酸または異性体的に純粋なアミノ酸、またはアミンと塩」から選択された材料を、pH−バッファ水溶液内で、酵素処理するステップと、
を有し、
前記ステップ(b)は、単一層の反応環境内で行われ、
その結果、前記原材料レシチンから派生した構造的脂肪酸鎖(structural fatty-acid chain)を有する
ことを特徴とするホスファチドまたはホスファチド塩の製造方法。
【請求項2】
(i) 前記原材料のレシチンは、野菜レシチンと野菜以外のレシチンからなるグループから選択され、
(ii) 前記野菜レシチンは、大豆レシチンと、ヒマワリ・レシチンと、菜種レシチンからなるグループから選択され、
(iii) 前記野菜以外のレシチンは、ミルクのリン脂質と、卵黄のレシチンと、魚レシチンからなるグループから選択され、
(iv) 前記非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料は、非水溶性有機界面活性剤−マトリックス材料と、非水溶性無機界面活性剤−マトリックス材料とからなるグループから選択され、
(v) 前記ホスホリパーゼDは、野菜ホスホリパーゼDと、バクテリア由来の酵素ホスホリパーゼDと、野菜ホスホリパーゼDとバクテリア−生来の酵素ホスホリパーゼDの化合物からなるグループから選択される
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記(b)ステップは、pHが4.5−8.0の範囲内にあるバッファ液の存在下で実行される
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記バッファ液は、C2−C8の鎖長のカルボキシル酸を有し、
前記カルボキシル酸の最終濃度は、前記pHバッファされた水溶液内で、0.01M−0.3Mの範囲内にある
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記(b)ステップは、カルシウム塩の存在下で実行される
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記(b)ステップは、25−60℃の範囲内の温度で実行される
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホスホリパーゼDは、前記非水溶性界面活性剤−マトリックス材料に結合しているか、または前記pHバッファされた水溶液内で遊離している
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1の製造方法で製造したホスファチドまたはホスファチド塩
【請求項9】
ホスファチジン酸とホスファチジルセリンとを含むホスファチドの複合体またはその塩の製造方法において、
(a) 基質としての原材料のレシチンと、粒子サイズが0.01mm以上の非水溶性の界面活性剤マトリックス材料とを用いるステップと、
(b) 前記の非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料と原材料のレシチンとの混合物と、グループ「ホスホリパーゼD、ラセミ酸または異性体的に純粋なアミノ酸、またはアミンと塩」から選択された材料を、pH−バッファ水溶液内で、酵素処理するステップと、
を有し、
前記ステップ(b)は、単一層の反応環境内で行われ、
その結果、前記原材料レシチンから派生した構造的脂肪酸鎖(structural fatty-acid chain)を有する
ことを特徴とするホスファチジン酸とホスファチジルセリンとを含むホスファチドの複合体またはその塩の製造方法。
【請求項10】
(i) 前記原材料のレシチンは、野菜レシチンと野菜以外のレシチンからなるグループから選択され、
(ii) 前記野菜レシチンは、大豆レシチンと、ヒマワリ・レシチンと、菜種レシチンからなるグループから選択され、
(iii) 前記野菜以外のレシチンは、ミルクのホスファチジン酸と、卵黄のレシチンと、魚レシチンからなるグループから選択され、
(iv) 前記非水溶性の界面活性剤−マトリックス材料は、非水溶性有機界面活性剤−マトリックス材料と、非水溶性無機界面活性剤−マトリックス材料とからなるグループから選択され、
(v) 前記ホスホリパーゼDは、野菜ホスホリパーゼDと、バクテリア由来の酵素ホスホリパーゼDと、野菜ホスホリパーゼDとバクテリア−生来の酵素ホスホリパーゼDの化合物からなるグループから選択される
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記(b)ステップは、pHが4.5−8.0の範囲内にあるバッファ液の存在下で実行される
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
前記バッファ液は、C2−C8の鎖長のカルボキシル酸を有し、
前記カルボキシル酸の最終濃度は、前記pHバッファされた水溶液内で、0.01M−0.3Mの範囲内にある
ことを特徴とする請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記(b)ステップは、カルシウム塩の存在下で実行される
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項14】
前記(b)ステップは、25−60℃の範囲内の温度で実行される
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項15】
前記セリーンのホスファチドに対するモル比率は、最大で20:1で、前記複合体を製造するよう調整される
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項16】
前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を少なくとも3%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項17】
前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を少なくとも10%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項18】
前記複合体は、全リン脂質の内、ホスファチジン酸を20−70%(w/w)、ホスファチジルセリンを少なくとも20%(w/w)を含有する
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項19】
前記ホスホリパーゼDは、前記非水溶性界面活性剤−マトリックス材料に結合しているか、または前記pHバッファされた水溶液内で遊離している
ことを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項20】
請求項9記載の製造方法で生成したホスファチドの複合体又はその塩。


【公開番号】特開2011−24536(P2011−24536A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176178(P2009−176178)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(509213945)
【Fターム(参考)】