説明

ホスホニウム変性層状粘土鉱物を含有するエポキシ樹脂組成物

【課題】耐熱性、低熱膨張性、特に接着性において優れたエポキシ樹脂組成物を提供すること、及び当該エポキシ樹脂組成物の製造を可能とするエポキシ樹脂の硬化促進剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される有機修飾剤で有機化された層状粘土鉱物は、エポキシ樹脂と親和性が高く、また当該有機ホスホニウム部位が持つ硬化促進機能を保持することによって、エポキシ樹脂中に有機化層状粘土鉱物を均一かつ微分散させることが可能となり、耐熱性、低熱膨張性、特に接着性に優れたエポキシ樹脂複合材料が得られる。


(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示し、Xは、ハロゲンを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ホスホニウムイオンにより有機変性した層状粘土鉱物を含有するエポキシ樹脂組成物に関し、特に、電子機器や電子部品の絶縁材料あるいは構造材料として好適な耐熱性、接着性、低熱膨張性を発現し得るエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は最も用途の広いプラスチックの一種で、接着剤、塗料、積層品、注型品、成形品として化学、電気、機械及び土木工業等の分野で幅広く使用されている。エポキシ樹脂は電気絶縁性に優れるが、一般に脆いうえに高い熱膨張率を示す。そのため、多くの分野で高性能化が要求されている。例えば、電子材料分野では、電子機器の高性能、高機能化に伴い、電子部品からの発熱が問題となっており、電子部品を構成する材料についても耐熱性や絶縁性、低熱膨張性、接着性などさらなる高性能化が求められている。
【0003】
一方、プリント配線板において電子部品から発生する熱を放熱するために、金属板をプリント配線板にエポキシ樹脂を介して接着し、放熱効果を向上させる手法が多く用いられている。放熱板として用いられている金属板は、軽量、高熱伝導性の点からアルミニウムが多く用いられており、このアルミニウムとエポキシ樹脂との接着性を向上させるために変性等により樹脂そのものを改良し、高性能化する方法が取られている。また、アルミニウムとエポキシ樹脂の熱膨張率の整合をとるために、アンモニウムイオンで有機変性した無機フィラーや層状粘土鉱物等を添加、混合する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
しかしながら、エポキシ樹脂中において層状粘土鉱物を均一かつ微分散させることは難しく、また、層状粘土鉱物の添加量を増やすと、エポキシ樹脂本来の特性が失われ、耐熱性等が損なわれてしまうという問題があった。また、層状粘土鉱物の層間を有機変性させる有機修飾剤のほとんどが有機アンモニウムイオンであり、有機ホスホニウムイオンで有機修飾させる例は少なく、例としては、有機ホスホニウムイオンで粘土鉱物を有機変性した層状粘土鉱物の高潜在性エポキシ樹脂用硬化促進剤としての利用が挙げられる(特許文献5)。しかし、この場合は、180℃以上での高温硬化を必要とする。このため、硬化・架橋反応中に樹脂組成物中の成分である酸無水物が揮発してしまい、エポキシ樹脂複合材料の補強剤としての効果は得られていない。
【0005】
また、有機ホスホニウムイオンで有機変性した層状粘土鉱物をナノ分散させることにより、エポキシ樹脂の曲げ強度等の機械特性を向上する試みがなされている(特許文献6参照)。しかし、電子機器への適用に必要とされる接着性、耐熱性等の物性については更なる改善が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11―92677号公報
【特許文献2】特開2004―307681号公報
【特許文献3】特開2005―15611号公報
【特許文献4】特開2005―179568号公報
【特許文献5】特開2005―048047号公報
【特許文献6】特開2007−084759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性、低熱膨張性、特に接着性において優れたエポキシ樹脂組成物を提供すること、及び当該エポキシ樹脂組成物の製造を可能とするエポキシ樹脂の硬化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討をした。その結果、下記一般式(1)で表される有機ホスホニウム塩に由来するホスホニウムイオンで有機化された層状粘土鉱物は、エポキシ樹脂と親和性が高く、また、当該有機ホスホニウム部位が持つ硬化促進機能を保持することによって、エポキシ樹脂中に有機化層状粘土鉱物を均一かつ微分散させることが可能となり、耐熱性、低熱膨張性、特に接着性に優れたエポキシ樹脂複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の要旨は、次のとおりに要約される。
〔1〕層状粘土鉱物の層間及び/又は表面が、下記一般式(1)
【化1】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示し、Xは、ハロゲンを示す。)
で表される有機修飾剤によってイオン交換されてなる有機化層状粘土鉱物を含有するエポキシ樹脂組成物。
【0010】
〔2〕前記一般式(1)で表される有機修飾剤が、下記式(2)
【化2】

で表されるオクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドであることを特徴とする、〔1〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0011】
〔3〕前記一般式(1)で表される有機修飾剤が、下記式(3)
【化3】

で表される10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドであることを特徴とする、〔1〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0012】
〔4〕エポキシ樹脂100質量部に対して、有機化層状粘土鉱物を0.5〜60質量部を含有することを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0013】
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化することにより得られるエポキシ樹脂複合材料。
【0014】
〔6〕 下記一般式(4)
【化4】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示す。)
で表される有機修飾剤によって層状粘土鉱物の層間及び/又は表面に存在する無機陽イオンがイオン交換されてなる有機化層状粘土鉱物を主成分とするエポキシ樹脂の硬化促進剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化促進機能を有した有機化層状粘土鉱物の硬化促進能力を利用することでエポキシ樹脂組成物中での粘土鉱物の分散性が著しく向上し、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、低熱膨張性、特に接着性などの物性が改質される。そのため、耐熱性や低熱膨張性、接着性といった特性が要求されるプリント配線板などの積層板の用途において有効である。
また、本発明の有機化層状粘土鉱物は、硬化促進機能を保持しており、エポキシ樹脂組成物中において比較的少量の添加量でその効果を発揮し、新たに硬化促進剤を添加する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤と有機化層状粘土鉱物とを含有するものである。
【0017】
<エポキシ樹脂>
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用されるエポキシ樹脂としては、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、酸無水物などの硬化剤により硬化してエポキシ樹脂硬化物を形成し得るものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。2種類以上のエポキシ樹脂を用いる場合、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂を、質量比50:50で混合したものを用いることができる。
【0018】
<エポキシ樹脂用硬化剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用されるエポキシ樹脂用硬化剤としては、酸無水物系硬化剤を用いることができる。例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、フタル酸無水物、1−メチルナジック酸無水物、5−メチルナジック酸無水物、ナジック酸無水物、3−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水マレイン酸等が挙げられるが、これらには限定されない。さらに、これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
エポキシ樹脂用硬化剤としては、他にフェノール系硬化剤やアミン系硬化剤などがあるが、特に酸無水物系硬化剤は、ポットライフが長く、成形性に優れるため、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化剤として望ましい。
【0019】
酸無水物系硬化剤のエポキシ樹脂組成物における含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤の酸無水物基の当量比が0.5〜3.0程度となる量が好ましく、0.5〜1.2となる量がより好ましい。上記範囲であれば、硬化反応が十分に進行し、耐熱性、接着性、低熱膨張性に優れたエポキシ樹脂複合材料を得ることができる。
【0020】
<有機化層状粘土鉱物>
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用される有機化層状粘土鉱物とは、下記一般式(1)で表される化合物に由来する有機ホスホニウムイオンが粘土鉱物の層間及び/又は表面にイオン結合することにより、有機化された粘土鉱物をいう。
【化5】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示し、Xは、ハロゲンを示す。)
【0021】
本発明において有機化とは、有機ホスホニウムイオンを粘土鉱物の層間及び/又は表面に物理的、化学的方法により吸着及び/又は結合させることを意味する。一方で有機化層状粘土鉱物は、有機ホスホニウムイオンによって有機化されていれば、ホスホニウム変性層状粘土鉱物ともいう。
有機化層状粘土鉱物は、より具体的には層状粘土鉱物の層間及び/又は表面に存在するアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の無機陽イオンが一般式(1)で表される化合物に由来する有機ホスホニウムイオンによってイオン交換されたものとなっている。すなわち、層状粘土鉱物と一般式(1)で表される化合物が複合体をなしている。
この有機化層状粘土鉱物は、層間及び/又は表面にイオン結合している一般式(1)で表される化合物由来の有機ホスホニウム部位が有する硬化促進機能を保持しており、エポキシ樹脂組成物中において比較的少量の添加量でその効果を発揮し、新たに硬化促進剤を添加する必要がないことを特徴としている。本発明のエポキシ樹脂組成物に配合される層状粘土鉱物としては、SiO四面体が二次元状に配列したシート(シリケート層)から構成されており、このシートが互層した構造を有している。通常の層状粘土鉱物では、シリケート層間にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の層間陽イオンが存在している。
【0022】
本発明において層状粘土鉱物としては、特に限定されるものではないが、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトなどのスメクタイト系層状粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライトなどが挙げられる。これらの層状粘土鉱物は、天然物または合成物のいずれであってもよく、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。上記層状粘土鉱物は膨潤性粘土鉱物であることが好ましく、更には結晶性粘土鉱物であることが好ましい。また、アスペクト比(粘土鉱物の長さ又は幅の厚さに対する比)は30以上であるのが好ましい。
【0023】
上記層状粘土鉱物の具体的な形状は、エポキシ樹脂中への分散性を考慮して、粉末状又は微粒子状のものが好ましい。その平均粒子径は、通常、0.1〜200μm程度であればよく、好ましくは、0.1〜50μm程度である。
【0024】
上記の層状粘土鉱物は、分散に用いる溶媒、例えば水やメタノールとの接触面積が大きい方がより好ましい。溶媒との接触面積が大きい層状粘土鉱物を用いることにより、層状粘土鉱物の層間を大きく膨潤させることができる。具体的には、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gとすることが好ましい。層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満の場合には有機ホスホニウムイオンの交換が十分に行われず、層状粘土鉱物の層間を膨潤させることが困難な場合がある。一方、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量が200ミリ当量/100gを超える場合には、層状粘土鉱物と有機ホスホニウムイオンの結合力が強固となり、層状粘土鉱物の層間を膨潤させることが困難な場合がある。
【0025】
有機化層状粘土鉱物は、エポキシ樹脂中に均一に分散されているのが好ましく、エポキシ樹脂中に微細な状態で分散されているのがより好ましい。有機化層状粘土鉱物がエポキシ樹脂中に均一に分散され、又はエポキシ樹脂中で微細な状態で分散されていることによって、エポキシ樹脂と有機化層状粘土鉱物との界面面積を大きくすることができる。
【0026】
さらに、エポキシ樹脂中に有機化層状粘土鉱物を均一かつ微分散させることにより、架橋密度が上昇するため、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が向上し、エポキシ樹脂硬化物の熱膨張率がより一層低くなる。さらに、燃焼時に層状粘土鉱物による燃結体が形成されるので、燃焼残渣の形状が保持され、燃焼後も形状崩壊が起こり難く、延焼を防止することができ、優れた難燃性が発現される。
【0027】
本発明は、エポキシ樹脂と親和性の高い前記一般式(1)の化合物を層状粘土鉱物の有機修飾剤に用いることを特徴とする。
【0028】
さらに好ましくは、硬化促進機能を有する下記一般式(4)の化合物を用いるのがよい。
【化6】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示す。)
【0029】
上記有機ホスホニウムイオンにおいては、有機修飾基が結合するリン原子が正電荷を有する。そのため、有機ホスホニウムイオンが、例えばそのリン原子の正電荷により、層状粘土鉱物の層間に入り込み、層状粘土鉱物の層間距離を拡げることができる。さらに、有機ホスホニウムイオンのフェノキシフェニル骨格が上記エポキシ樹脂と親和性が高いため、有機化層状粘土鉱物をエポキシ樹脂組成物中に分散させることができる。
【0030】
層間距離が拡がっている上記有機化層状粘土鉱物をエポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤中に混合し、分散させることによって、上記有機ホスホニウム部位が持つ硬化促進機能により、有機化層状粘土鉱物の層間中、又は、その近傍でエポキシ樹脂と酸無水物が硬化・架橋反応を起こす。さらに有機化層状粘土鉱物の有機ホスホニウム部位であるアルキル基やヒドロキシアルキル基が層間拡張の役割を果たすため、その層間にエポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤が浸入しやすく、かつ、硬化・架橋反応が起こりやすくなる。硬化・架橋反応が進行するにつれ、有機化層状粘土鉱物の層間の結合が切断され、有機化層状粘土鉱物を構成する層をエポキシ樹脂組成物中に分散させることができる。
【0031】
また、別に硬化促進剤を用いると硬化促進機能を有する上記有機化層状粘土鉱物との硬化・架橋反応が競合してしまい、層状粘土鉱物の層を十分に分散できないおそれがあるため、使用しないことが好ましい。この有機化層状粘土鉱物の添加量により、硬化・架橋反応の速度を調整することができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物では、上記エポキシ樹脂100重量部に対して、上記有機化層状粘土鉱物を好ましくは1〜60重量部、さらに好ましくは3〜30重量部配合することが望ましい。この配合量が少なすぎると物性向上の効果が低いおそれがあり、逆に多すぎると流動性が低下し、加工性が悪くなるおそれがある。また、配合量が多くなるほど、層状粘土鉱物が凝集してしまい、エポキシ樹脂硬化物が優れた物性を発揮することができなくなる。
【0033】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物は使用に際し、本発明の硬化・架橋反応を損なわない範囲であれば、上記必須成分に加えてさらに、充填剤可塑剤、着色剤、酸化防止剤、希釈剤、接着付与剤、帯電防止剤、難燃剤等の汎用エポキシ樹脂に一般的に配合される各種配合剤及び添加剤を配合することができ、これら配合剤、添加剤の配合量もその用途に適した一般的な量とすることができる。
【0034】
<エポキシ樹脂組成物の調製法>
本発明に係るエポキシ樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、一般的に用いられる混合攪拌機やホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、2本ロール、3本ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸押出機、2軸押出機の混練機等を用いてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
[有機化層状粘土鉱物Aの調製]
膨潤性層状ケイ酸塩としてモンモリロナイト水懸濁液(ホージュン社製ベンゲルA2%含有)1080gにメタノール1000mlを加えて十分に分散させ、40℃まで加熱した後、メタノール220mlにオクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイド20.9g(モンモリロナイトのカチオン交換容量の1.2倍量)を十分に溶解させた溶液を加え、汎用撹拌機(ヘイドン・スリーワンモータ、新東科学社製)を用いて混合した。得られた沈殿物をろ過し、メタノール及び水で洗浄し、凍結乾燥して有機化層状粘土鉱物Aを作製した。
【0037】
[エポキシ樹脂組成物の調製と硬化]
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、オクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト9.8重量部(有機化層状粘土鉱物A、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザー(Digital Sonifier S−450D、Branson社製)を用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブン(ETAC−VT210、楠本化成社製)を用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0038】
〔実施例2〕
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、オクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト14.0重量部(実施例1で使用した有機化層状粘土鉱物A、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して7重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0039】
〔実施例3〕
[有機化層状粘土鉱物Bの調製]
膨潤性層状ケイ酸塩としてモンモリロナイト水懸濁液(ホージュン社製ベンゲルA2%含有)1080gにメタノール1000mlを加えて十分に分散させ、40℃まで加熱した後、メタノール220mlにドデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイド18.9g(モンモリロナイトのカチオン交換容量の1.2倍量)を十分に溶解させた溶液を加え、汎用撹拌機を用いて混合した。得られた沈殿物をろ過し、メタノール及び水で洗浄し、凍結乾燥して有機化層状粘土鉱物Bを作製した。
【0040】
[エポキシ樹脂組成物の調製と硬化]
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、ドデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト9.8重量部(有機化層状粘土鉱物B、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0041】
〔実施例4〕
[有機化層状粘土鉱物Cの調製]
膨潤性層状ケイ酸塩としてモンモリロナイト水懸濁液(ホージュン社製ベンゲルA2%含有)1080gにメタノール1000mlを加えて十分に分散させ、40℃まで加熱した後、メタノール220mlにヘキシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイド16.9g(モンモリロナイトのカチオン交換容量の1.2倍量)を十分に溶解させた溶液を加え、汎用撹拌機を用いて混合した。得られた沈殿物をろ過し、メタノール及び水で洗浄し、凍結乾燥して有機化層状粘土鉱物Cを作製した。
【0042】
[エポキシ樹脂組成物の調製と硬化]
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、ヘキシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト9.8重量部(有機化層状粘土鉱物C、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0043】
〔実施例5〕
[有機化層状粘土鉱物Dの調製]
膨潤性層状ケイ酸塩としてモンモリロナイト水懸濁液(ホージュン社製ベンゲルA2%含有)1080gにメタノール1000mlを加えて十分に分散させ、40℃まで加熱した後、メタノール220mlに10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイド18.6g(モンモリロナイトのカチオン交換容量の1.2倍量)を十分に溶解させた溶液を加え、汎用撹拌機を用いて混合した。得られた沈殿物をろ過し、メタノール及び水で洗浄し、凍結乾燥して有機化層状粘土鉱物Dを作製した。
【0044】
[エポキシ樹脂組成物の調製と硬化]
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト9.8重量部(有機化層状粘土鉱物D、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0045】
〔実施例6〕
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドで有機変性したモンモリロナイト14.0重量部(実施例5で使用した有機化層状粘土鉱物D、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して7重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0046】
〔比較例1〕
有機化層状粘土鉱物を用いないでリン系硬化促進剤を用いた場合について比較用とした。
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部にトリフェニルホスフィン0.94重量部(硬化促進剤A、商品名「TPP」、北興化学工業社製、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して0.5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0047】
〔比較例2〕
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート0.94重量部(硬化促進剤C、商品名「TPP−SCN」、北興化学工業社製、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して0.5重量%)を添加し、混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した。その後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0048】
〔比較例3〕
また、アンモニウムイオンで変性した有機化層状粘土鉱物についても比較用とした。
ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート807、ジャパンエポキシレジン社製)100重量部に、オレイルビス(2−ヒドロキシジエチル)メチルアンモニウム変性モンモリロナイト9.8重量部(有機化層状粘土鉱物E、商品名「エスベンNO12S」、ホージュン社製、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に対して5重量%)を添加し、汎用撹拌機を用いて混合・攪拌した。その後、得られた混合物に酸無水物系硬化剤(商品名:リカシッドMH−700、新日本理化社製)85.3重量部を添加し、混合・攪拌した。攪拌終了後、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。この混合物を予め120℃に加熱した金型に注型し、真空オーブンを用いて真空状態で脱泡した後、120℃で3時間一次硬化させ、160℃で6時間二次硬化させて各試験片を作製した。
【0049】
実施例1〜6及び比較例1〜3で調製したエポキシ樹脂組成物の組成を表1に示す。
【表1】

【0050】
使用した原材料
エポキシ樹脂:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製)
エポキシ樹脂:リカシッドMH−700(新日本理化社製)
有機化層状粘土鉱物A:オクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウム変性モンモリロナイト
有機化層状粘土鉱物B:ドデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウム変性モンモリロナイト
有機化層状粘土鉱物C:ヘキシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウム変性モンモリロナイト
有機化層状粘土鉱物D:10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウム変性モンモリロナイト
有機化層状粘土鉱物E:オレイルビス(2−ヒドロキシジエチル)メチルアンモニウム変性モンモリロナイト
硬化促進剤A:トリフェニルホスフィン(北興化学工業社製)
硬化促進剤B:テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(北興化学工業社製)
【0051】
[硬化促進作用試験]
実施例1〜6及び比較例1〜3について、熱を加えて硬化させる前のエポキシ樹脂組成物を用いて、その硬化促進作用試験を行った。硬化促進作用試験は、昇温速度10℃/分の示差熱分析(DSC)で硬化発熱の開始温度と最大発熱温度とを測定し、示差熱分析(DSC)は、ブルカー社製DSC−3100を使用した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から実施例1〜6で用いた有機化層状粘土鉱物は、比較例と同等の優れた硬化促進能力を有しており、リン系硬化促進剤を添加しなくても十分に硬化できることがわかる。さらに、実施例1と実施例2及び実施例5と実施例6を比較すると、有機化層状粘土鉱物の添加量の増大に伴い、発熱開始温度が低下している。つまり、添加量の増減により、硬化反応の発熱開始温度を調整することができる。
【0054】
次に、実施例1〜6及び比較例1〜3で作製したエポキシ樹脂硬化物について以下に示した方法で動的粘弾性試験、熱機械分析、引張りせん断接着試験を行った。
【0055】
[動的粘弾性試験]
エポキシ樹脂硬化物の耐熱性を評価するため、各試験片(幅13mm×厚さ2mm×長さ50mmの短冊型試験片)を作製し、動的粘弾性試験を行った。試験は、セイコーインスツルメンツ社製SDM5600DMS110にて、昇温2℃/分、周波数1Hz、曲げモードにて行った。貯蔵弾性率(E´)と損失正接(tanδ)の温度依存性を調べた。tanδのピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0056】
〔熱機械分析〕
エポキシ樹脂硬化物の熱膨張率を評価するため、各試験片(縦4mm×横4mm×高さ10mmの直方体試験片)を作製し、熱機械分析装置(セイコーインスツルメンツ社製TMA/SS6000)より測定した。測定はNガス流量150ml/分で昇温速度は2℃/分、圧縮法により、5g荷重でガラス領域における熱膨張係数を測定した。熱膨張係数(α)は50〜100℃での平均熱膨張率から算出した。
【0057】
[引張りせん断接着試験]
接着性評価は、JIS K6851に基づき、2枚の標準試験鋼板(100mm×25mm×1.6mm)を接着し、硬化させた。その引張りせん断強度をミネベア社製万能試験機AL−50kNBにより、試験速度毎分5mmの条件で測定した。
【0058】
これらの結果を表3に示す。
【表3】

【0059】
表3から明らかなように、本発明の実施例により作製したエポキシ樹脂硬化物は、比較例のものに比べて、優れた接着性を有していることがわかる。また、耐熱性、低熱膨張性については、比較例と同等以上の性能を有しており、特に実施例6の樹脂硬化物は優れた低熱膨張性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の硬化促進機能を有した有機化層状粘土鉱物を含有するエポキシ樹脂組成物は、その硬化物において優れた耐熱性、低熱膨張性、接着性を有するため、電気電子部品用絶縁材料及びプリント配線プリント板などの積層板やCFRPを始めとする各種複合材料等に使用する場合において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状粘土鉱物の層間及び/又は表面が、下記一般式(1)
【化6】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示し、Xは、ハロゲンを示す。)
で表される有機修飾剤によってイオン交換されてなる有機化層状粘土鉱物を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される有機修飾剤が、下記式(2)
【化7】

で表されるオクタデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドであることを特徴とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される有機修飾剤が、下記式(3)
【化8】

で表される10−ヒドロキシデシルトリス(4−フェノキシフェニル)ホスホニウムブロマイドであることを特徴とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂100質量部に対して、有機化層状粘土鉱物を0.5〜60質量部を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化することにより得られるエポキシ樹脂複合材料。
【請求項6】
下記一般式(4)
【化9】

(式中のRはアルキル基(C2n+1)、または、ヒドロキシアルキル基(C2nOH)を示し、nは1〜22の整数を示す。)
で表される有機修飾剤によって層状粘土鉱物の層間及び/又は表面に存在する無機陽イオンがイオン交換されてなる有機化層状粘土鉱物を主成分とするエポキシ樹脂の硬化促進剤。

【公開番号】特開2010−285485(P2010−285485A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138705(P2009−138705)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】