説明

ホモジナイザー

【課題】肉等のサンプルを迅速かつ均質にホモジナイズできるホモジナイザーを提供する。
【解決手段】駆動部、駆動部による回転運動を往復運動に変換するクランク機構、クランク機構により生じた往復運動を駆動アームに伝える連接棒、及び上下方向往復運動駆動アームを設けたホモジナイザーであって、該駆動アームの両端にサンプル容器固定具を有することを特徴とする、2つ以上のサンプルを交互に上下往復運動させるためのホモジナイザー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物検査用サンプル等のサンプルを迅速かつ均質にホモジナイズするためのホモジナイザーに関する。
【背景技術】
【0002】
食品等のサンプルの微生物検査は、食中毒等の微生物感染症の発生を未然に防ぐため、また微生物に汚染された食品等を流通させないために行なわれる必須の検査である。サンプルが液体の場合には、液体サンプルを検出培地に接種して培養し、発生したコロニーを検出する等の操作により検査できる。しかし、サンプルが肉、魚等を含む固形物又は固形物を含む場合には、サンプルが収納された容器を手により振とうし、サンプルを均質化する必要がある。具体的には、食品衛生検査指針(厚生労働省監修、2004年版)には、「容器ごと約30cmの振幅で7秒間で25回混合し、混合後3分以内に内容物の一定量を採取する。」と記載されている。また、米国農務省のFISI(Federal Register Vol.61,No.144)においても、病原性微生物を検査する方法として振る出し法として「無菌袋に検体を入れて希釈液を入れて30回を1分間で激しくシェークする。」と記載されている。このような、ヒトの手による振とう操作では、サンプルが均一にならない、個人差によるデータのバラツキが生じる、ヒトの手では多検体を継続的に振とうするのには限界がある等の問題がある。
【0003】
一方、かかる振とう操作をストマッカーやホモジナイザーで行なうことも提案されている。従来のストマッカーやホモジナイザーとしては、(a)サンプルを機械的に潰すタイプ(特許文献1、2)、(b)サンプルが入った容器を斜めにして左右往復に振るタイプ(特許文献3)、(c)サンプルが入った袋をパドルで押すタイプ(特許文献4〜7)等が知られている。
【特許文献1】特開平9−149783号公報
【特許文献2】特表2004−530556号公報
【特許文献3】特開2007−136418号公報
【特許文献4】特開平7−284679号公報
【特許文献5】特開2007−216103号公報
【特許文献6】特開2007−44600号公報
【特許文献7】特開2008−83018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のストマッカーやホモジナイザーでは、固形物残渣が多量に残るため、寒天培地への固形物の持ち込みが多く、菌数測定の妨げになる場合があること、これを防ぐためにはフィルトレーションが必要であること、一回に一サンプルだけしか操作できないという問題があった。
従って、本発明の目的は、肉等のサンプルを迅速かつ均質にホモジナイズできるホモジナイザーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、従来より使用されているストマッカー袋やボトルをそのままセットしてホモジナイズでき、かつ内容物に強力なせん断力がかかり、かつ少なくとも2つ以上のサンプルを同時に処理できるホモジナイザーについて検討した結果、上下方向に往復運動するアームを採用し、その両端にサンプル固定具を設置すれば、2つ以上のサンプルを交互に上下往復運動させることができ、上下往復運動であるため内容物に強力なせん断力を付与できることから、迅速かつ均質なサンプル処理が可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、駆動部、駆動部による回転運動を往復運動に変換するクランク機構、クランク機構により生じた往復運動を駆動アームに伝える連接棒、及び上下方向往復運動駆動アームを設けたホモジナイザーであって、該駆動アームの両端にサンプル容器固定具を有することを特徴とする、2つ以上のサンプルを交互に上下往復運動させるためのホモジナイザーを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のホモジナイザーを用いれば、2つ以上のサンプルを交互に上下往復運動させることができ、サンプルに強力なせん断力がかかるため肉等のサンプルが短時間で均質化されるとともに、2つ以上のサンプルが同時に処理でき大量のサンプルを迅速に検査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のホモジナイザーは、駆動部、駆動部による回転運動を往復運動に変換するクランク機構、クランク機構により生じた往復運動を駆動アームに伝える連接棒、及び上下方向往復運動駆動アームを設けたホモジナイザーであって、該駆動アームの両端に2つのサンプル容器固定具を有する。
【0009】
本発明のホモジナイザーは、図1に示すように、より詳細には、駆動部1と、駆動部により回転する回転軸の回転運動を往復運動に変換するクランク機構2と、該クランク機構により生じた往復運動を駆動アームに伝える連接棒3と、該連接棒に接続された、中心部を中心に左右に振り子運動をする駆動アーム4と、該駆動アームの両端にサンプル容器固定具5とを有する。
【0010】
駆動部1は、基本的にはモータ1により構成される。当該駆動部は、駆動部機構配置部6に配置され、ここには電源スイッチ7、スタートスイッチ8、タイマー9、速度調節ツマミ10、速度計11等が配置される。また非常停止ボタンを有していてもよい。ここで、速度調節機構は、例えばモータの出力軸の回転を減速する複数のギアの組み合わせ等からなる減速機構である。
【0011】
クランク機構2は、駆動部により回転する回転軸の回転運動を往復運動に変換する機構である。連接棒3は、該クランク機構2により生じた往復運動を駆動アームに伝えるものである。当該連接棒3は、上下に往復運動する。
【0012】
上下方向往復運動駆動アーム4は、連接棒3の上下往復運動を、サンプル容器固定具の上下往復運動に変換する機構である。連接棒3は、駆動アーム4の中心部41ではない位置31に接続されている。一方、駆動アームは中心部41で固定されている。従って、連接棒の上下往復運動により、駆動アーム4は中心部41を中心にして左右に振り子運動をすることにより、その両端に設けられたサンプル容器固定具5全体が上下往復運動する。
【0013】
サンプル容器固定具5は、例えば図2のようにボトルを固定する固定具51及び駆動アームの接続部53(図2の背面にある)とを有する。ここで、サンプル固定具5は、その背面に接続された駆動アームの上下往復運動に伴い、その全体が上下往復運動する。この図では、ボトル状容器を固定した状態を示したが、例えば固定具5には、その上部及び下部に袋状容器を固定する器具、例えば袋固定箱を備えていてもよい。これにより、容器がボトル状でも袋状でも対応可能になる。また、サンプル容器固定具5には2つ以上の容器、例えば2〜6個の容器を固定できる。
【0014】
サンプル容器固定具5は、駆動アームの両端に固定される。駆動アーム4の左右振り子運動により、サンプル容器固定具5は交互に上下往復運動する。これにより、サンプル容器中のサンプルが高速でホモジナイズされる。そのストロークは100mm以上が好ましく、100〜500mmの範囲で調節可能であり、最適ストロークは300mmである。また往復ストローク数は1〜5回/sの範囲で調節可能である。
【実施例】
【0015】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0016】
実施例1
図3に本発明ホモジナイザーの例を示す。図4にボトルを固定した状態を示す。図5に袋を固定した状態を示す。以下の実施例には、図3の装置を使用した。
【0017】
実施例2
本発明ホモジナイザーの条件を検討した。市販の豚挽き肉25gを無菌的に収納袋に量り取り、滅菌リン酸緩衝生理食塩水225mLを添加した。このように準備した試料入り収納袋を15袋用意し、回転数(r/min)を175、100、0での菌数の比較を行った。本装置による処理(シェーキング)は、1分間シェーキング処理しその1mLを滅菌ピペットで9mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水へ加え十倍段階希釈した。この操作を100000倍希釈まで行い、それぞれの試料を標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。その結果、表1に示したように175r/minで得られた菌数が最も高かった。このことより、本処理機の回転数の条件を175r/minとした。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例3
本装置の時間の条件を検討した。市販の豚挽き肉25gを無菌的に収納袋に量り取り、滅菌リン酸緩衝生理食塩水225mLを添加した。このように準備した試料入り収納袋を24袋用意し、回転数(r/min)175で1分間、2分間、5分間、10分間処理での菌数の比較を行った。本装置による処理(シェーキング)は、1分間シェーキング処理しその1mLを滅菌ピペットで9mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水へ加え十倍段階希釈した。この操作を100000倍希釈まで行い、それぞれの試料を標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。その結果、表2に示したように1分間、2分間、5分間、10分間による菌数の差は認められなかった(P>0.05)。このことより、本装置の条件は175r/minで1分間とした。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例4
ストマッカー処理、本装置処理、希釈液添加のみ(攪拌なし)による菌数の違いと濁度の違いを比較検討した。市販の食材を購入し、25gを無菌的に収納袋に量り取り、滅菌リン酸緩衝生理食塩水225mLを添加した。その後、ストマッカー処理は1分間ストマッキングし、その1mLを滅菌ピペットで9mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水で十倍段階希釈した。この操作を100000倍希釈まで行い、それぞれの試料を標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。本装置による処理(シェーキング)は、1分間シェ−キング処理した後、ストマッカー処理と同様に十倍段階希釈し、標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。希釈液添加のみ試料は、試料に希釈液を添加し、攪拌しない状態のものをサンプルとした。濁度は、それぞれの処理液の100倍希釈液を2100AN Turbidimeter(HACH)で濁度(NTU)を測定した。その結果を表3に示したように、シェーキングによる菌数とストマッカーによる菌数には大差がなかったが、シェーキングで調製された試料の濁度はストマッカーで調製された試料より低いことが確認された。また、希釈液のみの試料の菌数は、ストマッカーとシェーキングで調製された試料の菌数より低い結果であった。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例5
ストマッカー処理と本装置処理による菌数の違いと濁度の違いを比較検討した。市販の食材を購入し、25gを無菌的に収納袋に量り取り、滅菌リン酸緩衝生理食塩水225mLを添加した。その後、ストマッカー処理は1分間ストマッキングし、その1mLを滅菌ピペットで9mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水で十倍段階希釈した。この操作を100000倍希釈まで行い、それぞれの試料を標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。本装置による処理(シェーキング)は、1分間シェーキング処理した後、ストマッカー処理と同様に十倍段階希釈し、標準寒天培地で混釈培養し、検体1g当たりの菌数を求めた。濁度は、それぞれの処理液の100倍希釈液を2100AN Turbidimeter(HACH)で濁度(NTU)を測定した。その結果を表4に示したように、シェーキングによる菌数とストマッカーによる菌数には大差がなかったが、シェーキングで調製された試料の濁度はストマッカーで調製された試料より低いことが確認された。
【0024】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明ホモジナイザーの概略図を示す。
【図2】サンプル容器固定具の概略図を示す。
【図3】本発明ホモジナイザーの例を示す。
【図4】ボトルを固定した状態を示す。
【図5】袋を固定した状態を示す。
【符号の説明】
【0026】
1:駆動部
2:クランク機構
3:連接棒
4:駆動アーム
5:サンプル固定具
6:駆動部機構配置部
7:電源スイッチ
8:スタートスイッチ
9:タイマー
10:速度調節ツマミ
11:速度計
31:連接棒と駆動アームの接続位置
41:駆動アームの中心部(固定位置)
51:ボトル固定具
52:ボトル
53:駆動アーム接続部(背面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部、駆動部による回転運動を往復運動に変換するクランク機構、クランク機構により生じた往復運動を駆動アームに伝える連接棒、及び上下方向往復運動駆動アームを設けたホモジナイザーであって、該駆動アームの両端にサンプル容器固定具を有することを特徴とする、サンプル固定具に固定された2つ以上のサンプルを交互に上下往復運動させるためのホモジナイザー。
【請求項2】
該サンプル容器固定具が袋状サンプル容器及びボトル状サンプル容器のいずれも固定可能な固定具である請求項1記載のホモジナイザー。
【請求項3】
サンプルが、微生物検査用サンプルである請求項1又は2記載のホモジナイザー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115120(P2010−115120A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288492(P2008−288492)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】