説明

ホルムアルデヒド捕捉剤

【課題】ホルムアルデヒドの捕捉能力が極めて高いホルムアルデヒド捕捉剤を提供すること。
【解決手段】スルファニル酸もしくはその誘導体の水溶液またはアルコール溶液を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材料から発生するホルムアルデヒドを捕捉することができるホルムアルデヒド捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドの水溶液である、ホルマリンは無色透明で刺激臭があり、生体に有害である。そのため、遺体の移動保存や臓器の移動保存や臓器の検査消毒等の医療関係の保存作業、検査作業、移動作業などに広くホルマリンが用いられている。また、ホルマリンによって死滅する菌類や細菌類が多いことから、希釈した水溶液は消毒用に用いられている。
【0003】
ところが、上記各作業中にホルマリンを収容した容器の蓋をあけることによって周囲環境に飛散するホルムアルデヒの臭気や作業中に容器から滴下したホルマリン中のホルムアルデヒの臭気を除去するために、ホルムアルデヒドを捕捉することが必要な場合がある。
一方、合板木材、集合木材、合成樹脂等を主体とする新建材を用いた工場生産方式の建築法が工期の短縮、建設費の節減等の利点を有する工法として普及している。これらの新建材を使用した建築物は高気密、高断熱のコンパクトな構造を有しているため、建材を構成する木材本体から発生するホルムアルデヒドの他に、尿素樹脂やメラミン樹脂などの合成樹脂のメチロール化のために使用されているホルムアルデヒドが室内に高濃度で充満することによって、いわゆるシックハウス症候群が招来され、大きな社会問題となっている。その他、日常生活において広く使用されている各種紙や各種表面処理剤や接着剤などにもホルムアルデヒドは含まれている。
【0004】
このように、ホルムアルデヒドの発生源は多岐にわたるので、各種のホルムアルデヒド発生源から効率よくホルムアルデヒドを除去できるホルムアルデヒド捕捉剤が求められている。例えば、室内のホルムアルデヒドを低減させるには、(1)ノンホルムアルデヒドまたは低ホルムアルデヒド材料を使用する、(2)換気を行う、(3)吸着剤を用いる、の3つの方法が考えられる。
【0005】
しかし、既存の建物でホルムアルデヒド濃度が高い場合に、(1)の方法では、無駄な交換費用の増大を避けるためにホルムアルデヒド発生源を確実に特定し、交換する必要があるが、ホルムアルデヒド発生源を確実に特定することは困難である。また、(2)の換気による方法は、集合住宅などのように換気装置が備わっていない場合やホルムアルデヒド濃度が高い場合には、十分に濃度が低下するまで長期間を要する。また、窓の開放による換気では、防犯上の問題や寒冷地の冬期間中では窓を開放することができないなど、十分に換気することが不可能な場合がある。(3)の吸着剤を用いる方法は、ホルムアルデヒド発生源をある程度予測できる場合、その建材に吸着剤を塗布または固定することで、低ホルムアルデヒド化が可能である。例えば、ホルムアルデヒド吸着剤として、ヒドラジン水和液やアニリンやピリジンなどの化学物質を吸着材料に吸着させた吸着剤が知られている。しかし、ヒドラジン水和液は有毒であり、アニリンやピリジンは特別の異臭を放つので、好ましいホルムアルデヒド捕捉剤とは言えない。
【0006】
例えば、特許文献1には、天然材を素材とする内装材を使用し、空隙部に活性炭を収め、かつ溶剤を使用しない材料で内装処理をすることを特徴とするシックハウス症候群防御方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、金及び/又は銀コロイドを用いてホルムアルデヒド雰囲気を消失せしめる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−227324号公報
【特許文献2】特開2006−87822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1と2に開示された方法は、いずれもホルムアルデヒドの捕捉能力が十分とは言えない。
【0010】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、ホルムアルデヒドの捕捉能力が極めて高いホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、スルファニル酸もしくはその誘導体の水溶液またはアルコール溶液を含有することを特徴としている。
このホルムアルデヒド捕捉剤は、消臭剤として用いることが好ましい。
例えば、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、医療機関および検査機関に存在するホルムアルデヒド臭を捕捉することができる。
さらに、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、空気中に存在するホルムアルデヒド臭を捕捉することができる。
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を固体状物質に担持させた後、そのホルムアルデヒド捕捉剤を乾燥させて、固体状ホルムアルデヒド捕捉剤として用いることができる。
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を乾燥させた後に固体状物質に担持させて、固体状ホルムアルデヒド捕捉剤として用いることができる。
また、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は合成樹脂に含浸させることができる。
そして、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、紙、表面処理剤、接着剤、建材部品、車両用部品または航空機用部品の表面に固定するか、その内側に保持するか又はこれらと同等の手段により、それらの部材に含有させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スルファニル酸またはその誘導体がホルムアルデヒドと効果的に反応して、ホルムアルデヒドを効率的に捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、Naとスルファニル酸と水の三元相関図である。
【図2】図2は、スルファニル酸の水溶液および水によるホルムアルデヒドガスの捕捉機能を比較する図である。
【図3】図3は、スルファニル酸の水溶液および水によるホルムアルデヒドガスの捕捉機能を比較する別の図である。
【図4】図4は、固体状物質で本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を担持することによって、リバウンド現象が起こらなかったことを示す図である。
【図5】図5は、固体状物質で本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を担持することによって、リバウンド現象が起こらなかったことを示す別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施が可能な実施形態について説明する。当然のことながら、本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を利用することもできる。
スルファニル酸は、分子式がCNOSで、分子量が173.19で、以下の化学構造を有する、低毒性で、融点が300℃超、比重が1.485で、やや灰色を帯びた白色の微粉結晶で、水に不溶性の物質である。
【化1】

本発明者が、スルファニル酸の白色の微粉結晶、約50grにNaHCO約20grと水20mlを加えて混合し、数時間放置したところ、スルファニル酸の結晶形状に明らかな変化が認められた。そこで、約150mlの水をさらに加えると、水に不溶性であるスルファニル酸が完全に水に溶解したことを確認した(pHは約4)。この水溶液を濾過し、不純物を除去して自然乾燥させたところ、褐色透明の六角形板状の結晶が得られた。この六角形板状の結晶をセピオライト(Si12Mg30(OH)(OH・8HO)に接触させると、その結晶はセピオライトに吸着された。
【0015】
本発明者は、上記知見に基づいて、図1に示すようなNaとスルファニル酸と水の三元相関図を作成した。Naとしては、NaHCOに限らず、NaOHやNaHPOやNaSOやNaSiOなどを用いることができる。このようにして本発明者は、スルファニル酸にNaイオンを含有するアルカリ溶液を接触させて、pHを約4にすることによって、水に可溶なスルファニル酸が得られることを確認した。図1の三元相関図の各辺は質量%を表す。また、スルファニル酸にLiイオンまたはKイオンを含有するアルカリ溶液を接触させて、pHを約4にすることによっても、水に可溶なスルファニル酸が得られることを確認した。当然のことながら、スルファニル酸誘導体についても、同様の操作を施すことによって、水に可溶となることは容易に推測できる。
【0016】
図1において、1はスルファニル酸の粉体としてホルムアルデヒドと反応し得る範囲を示し、2はスルファニル酸またはその塩のペーストとして、固体状物質に担持し得る範囲を示し、3はスルファニル酸またはその塩のスラリーとして、固体状物質に担持し得る範囲を示し、4はスルファニル酸またはその塩として水に可溶な範囲を示す。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を説明する。
《第一実施例》
スルファニル酸の白色の微粉結晶、約47grにNaHCO約23grと水140mlを加えて混合することによって、pHが約7.0のスルファニル酸の水溶液を210gr得た。このスルファニル酸の水溶液210grを市販のキッチンペーパー1.8grに含浸させた。また、比較のために、水道水210grを別の市販のキッチンペーパー1.8grに含浸させた。
【0018】
そして、容量が13リットルの2個のガラス製デシケーターにホルムアルデヒドガスを注入して初期濃度を測定後、上記キッチンペーパーを別々のガラス製デシケーターに静かに投入して、そのガラス製デシケーター内のホルムアルデヒドガスの濃度を検知管にて測定した。図2は、その測定結果を示す図で、黒い丸がスルファニル酸の水溶液を含浸させたキッチンペーパーを有するデシケーターを示し、黒い三角が水道水を含浸させたキッチンペーパーを有するデシケーターを示す。図2の縦軸はホルムアルデヒドガス濃度(ppm)で、横軸は経過時間(分)を示す。明らかにスルファニル酸の水溶液を含浸させたキッチンペーパーを有するデシケーター内のホルムアルデヒドガス濃度は低下しており、スルファニル酸の水溶液は優れたホルムアルデヒドガス捕捉機能を備えていることが分かる。なお、一定時間以上経過すると、2個のデシケーター内のホルムアルデヒドガス濃度は平衡に達してやや上昇したが、スルファニル酸の水溶液を含浸させたキッチンペーパーを有するデシケーターは、初期濃度14ppmが最終的に10ppmになり、脱臭率は28.6%であった。一方、水道水を含浸させたキッチンペーパーを有するデシケーターは、初期濃度14ppmが最終的に13ppmになり、脱臭率は7.1%であった。
【0019】
《第二実施例》
第一実施例と同じ方法で得たスルファニル酸の水溶液9.0grを脱脂綿1.0grに含浸させた。また、比較のために、水道水9.0grを別の脱脂綿1.0grに含浸させた。
【0020】
そして、第一実施例と同じように、容量が13リットルの2個のガラス製デシケーターにホルムアルデヒドガスを注入して初期濃度を測定後、上記脱脂綿を別々のガラス製デシケーターに静かに投入して、そのガラス製デシケーター内のホルムアルデヒドガスの濃度を検知管にて測定した。図3は、その測定結果を示す図で、黒い丸がスルファニル酸の水溶液を含浸させた脱脂綿を有するデシケーターを示し、黒い三角が水道水を含浸させた脱脂綿を有するデシケーターを示す。図3の縦軸はホルムアルデヒドガス濃度(ppm)で、横軸は経過時間(分)を示す。明らかにスルファニル酸の水溶液を含浸させた脱脂綿を有するデシケーター内のホルムアルデヒドガス濃度は低下しており、スルファニル酸の水溶液は優れたホルムアルデヒドガス捕捉機能を備えていることが分かる。なお、一定時間以上経過すると、2個のデシケーター内のホルムアルデヒドガス濃度は平衡に達してやや上昇したが、スルファニル酸の水溶液を含浸させた脱脂綿を有するデシケーターは、初期濃度9ppmが最終的に4ppmになり、脱臭率は55.6%であった。一方、水道水を含浸させた脱脂綿を有するデシケーターは、初期濃度8ppmが最終的に6ppmになり、脱臭率は25.0%であった。
【0021】
《固体状物質によるホルムアルデヒド捕捉剤の担持》
図2および図3から、スルファニル酸の水溶液は優れたホルムアルデヒドの捕捉剤であることが分かるが、その捕捉速度を増すためには、スルファニル酸を固体状物質に担持させるのが好ましい。その固体状物質が濡れているか又は結晶水を有する物質であれば、スルファニル酸は粉末でも、ペーストでも、スラリー状であってもよい。スルファニル酸の水溶液は当然、固体状物質に担持させることができる。水溶液の水分が多いときは、必要に応じて乾燥すればよい。
そのような固体状物質としては、例えば、セピオライト、アタパルジャイト、パリゴルスカイト、酸性白土などのフーラーズアース、ミズカナイト、アルミナゲル、シリカゲル、珪藻土、鹿沼土などの乾燥固体や、合成ゼオライト4A、合成ゼオライト5A、合成ゼオライト13X、合成ゼオライト13Y、菱沸石などの孔径が2.2μm以上のゼオライト類、軽石、発泡パーラート、発泡バーミキュライト、ウレタンスポンジ、吸水性樹脂、へちまスポンジなどの多孔体を挙げることができる。
【0022】
《第三実施例》
図2および図3に示すように、スルファニル酸の水溶液をキッチンペーパーや脱脂綿に含浸させたホルムアルデヒド捕捉剤では、一旦低下した容器内のホルムアルデヒドガス濃度が再び上昇に転じる、いわゆるリバウンド現象が見られた。しかし、以下に説明するように、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を固体状物質に担持させることによって、リバウンド現象を避けることができた。
【0023】
スルファニル酸の白色の微粉結晶、約47grにNaHCO約23grと水140mlを加えて混合することによって、pHが約7.0のスルファニル酸の水溶液210grを得た。この水溶液を濾過し、不純物を除去して自然乾燥させたところ、褐色透明の六角形板状の結晶が得られた。この六角形板状の結晶をセピオライト25grまたはゼオライト25grに接触させて、その結晶をセピオライトまたはゼオライトに吸着させた。さらに、それらセピオライトまたはゼオライトを90℃の恒温槽内で2昼夜乾燥させた。
【0024】
そして、容量が13リットルの2個のガラス製デシケーターにホルムアルデヒドガスを注入して初期濃度を測定後、上記セピオライトまたはゼオライトをメッシュ状のナイロンに保持したものを別々のガラス製デシケーターに静かに投入して、そのガラス製デシケーター内のホルムアルデヒドガスの濃度を検知管にて測定した。図4は、その測定結果を示す図で、黒い丸がセピオライトを保持したメッシュ状ナイロンを有するデシケーターを示し、白い三角がゼオライトを保持したメッシュ状ナイロンを有するデシケーターを示す。図4の縦軸はホルムアルデヒドガス濃度(ppm)で、横軸は経過時間(分)を示す。いずれもリバウンド現象は見られず、ホルムアルデヒドガスの脱臭率は99%以上であった。
【0025】
《第四実施例》
第三実施例と同じようにして得た褐色透明の六角形板状の結晶を活性白土27.4grまたはセピオライト27.6に接触させて、その結晶を活性白土またはセピオライトに吸着させた。
そして、容量が13リットルの2個のガラス製デシケーターにホルムアルデヒドガスを注入して初期濃度を測定後、上記活性白土またはセピオライトを別々のガラス製デシケーターに静かに投入して、そのガラス製デシケーター内のホルムアルデヒドガスの濃度を検知管にて測定した。図5は、その測定結果を示す図で、黒い丸が活性白土を有するデシケーターを示し、白い三角がセピオライトを有するデシケーターを示す。図5の縦軸はホルムアルデヒドガス濃度(ppm)で、横軸は経過時間(分)を示す。いずれもリバウンド現象は見られず、ホルムアルデヒドガスの脱臭率は99.3%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ホルムアルデヒドガス捕捉剤として有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 スルファニル酸の粉体としてホルムアルデヒドと反応し得る範囲
2 スルファニル酸またはその塩のペーストとして、固体状物質に担持し得る範囲
3 スルファニル酸またはその塩のスラリーとして、固体状物質に担持し得る範囲
4 スルファニル酸またはその塩として水に可溶な範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルファニル酸もしくはその誘導体の水溶液またはアルコール溶液を含有することを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項2】
消臭剤である請求項1記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項3】
消臭対象であるホルムアルデヒド臭が、医療機関および検査機関に存在するものである請求項2記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項4】
消臭対象であるホルムアルデヒド臭が、空気中に存在するものである請求項2記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項5】
請求項1または2記載のホルムアルデヒド捕捉剤を固体状物質に担持させた後、そのホルムアルデヒド捕捉剤を乾燥させてなる固体状ホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項6】
請求項1または2記載のホルムアルデヒド捕捉剤を乾燥させた後に固体状物質に担持させてなる固体状ホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項7】
請求項1または2記載のホルムアルデヒド捕捉剤を合成樹脂に含浸させてなるホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項8】
請求項1または2記載のホルムアルデヒド捕捉剤を含有する紙、表面処理剤、接着剤、建材部品、車両用部品または航空機用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−94606(P2013−94606A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242991(P2011−242991)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(505385619)株式会社セピオジャパン (1)
【Fターム(参考)】