説明

ホルムアルデヒド検出体、ホルムアルデヒド検出装置、ホルムアルデヒド検出方法及びホルムアルデヒド検出試薬

【課題】検出試薬の保持量を十分に確保し得るようにすると共に、吸収される光の量を増大させ、測定精度の信頼性を向上させる。
【解決手段】ホルムアルデヒド検出装置(10)は、ホルムアルデヒドに反応して発色する検出試薬を備えている。検出装置(10)は、光が全反射を繰り返して伝搬する光導波路を構成する基材(31)と、基材(31)の表面であって光反射面の少なくとも一部に積層形成され且つ上記検出試薬を担持させたメソポーラス層(32)とを有する検出素子(30)を備えている。更に、基材(31)に光を入射させる発光体と、基材(31)から出射する光を受光する受光体とを備えている。加えて、受光体からの光信号を受け、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化を検出し、光学特性の変化からホルムアルデヒドを検出すると共にその濃度を測定する信号処理部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド検出体、ホルムアルデヒド検出装置、ホルムアルデヒド検出方法及びホルムアルデヒド検出試薬に関し、特に、光学特性の変化を利用したホルムアルデヒドの検出体、検出装置、検出方法及び検出試薬に係るものである。
【背景技術】
【0002】
(光学的特性を利用した方法)
従来、ホルムアルデヒドを検出する手法には、赤外光吸収を利用した方法がある。つまり、ホルムアルデヒドを含むケトン・アルデヒド類はC=O結合が波数1765〜1645cm-1に強い赤外光吸収を示す。この波数領域での吸収の程度を検出することにより、ケトン・アルデヒド類を検出することができる。
【0003】
しかし、ケトン・アルデヒド類の混合ガスの分析において、この波数領域でのC=O結合に由来する吸収は、全てのケトン・アルデヒド類に共通なので、ホルムアルデヒドについてのみ信号分離することは困難であるという問題がある。したがって、この手法はホルムアルデヒドのみの検出には適用できない。
【0004】
(化学反応を利用した方法)
化学反応を利用した方法の多くは、アルデヒド類とアミン類との反応や、アルデヒド類の強い酸化力を利用したものである。この方法は、それらの反応による生成物を直接的又は間接的に検出することにより、ホルムアルデヒドを検出するものである。反応試薬としては、フクシン亜硫酸類、アゾベンゼン-p-フェニルヒドラジン-スルホン酸(APHS)、4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン等が知られている(非特許文献1参照)。但し、特定のケトン・アルデヒド類と反応試薬との組み合わせが存在するので、検出対象のケトン・アルデヒド類に合わせて使い分けられている。
【0005】
これらの中で、ホルムアルデヒドの検出については、特に4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オンとその類似試薬がその選択性と感度に優れている。
【0006】
これらの反応試薬を利用した検出方法は、検体ガスを溶液に捕集し、その溶液中のケトン・アルデヒド類と反応試薬とによって、反応による生成物の呈色や発光の程度を、高速液体クロマトグラフィを用いて検出する方法、あるいは検出試薬をカラムに詰め、これに所定の量の検体ガスを吸引する際の反応による呈色の程度から検知及び濃度の測定する方法(検知管)などが知られている。
【0007】
しかし、前者のクロマトグラフィを用いる方法は感度及び選択性は優れているが、操作が煩雑であるという欠点があり、また後者の検知管を用いる方法は簡便ではあるが、検知精度が劣るという問題があり、実用的ではないという欠点があった。
【0008】
また、複合光導波路を用いたアンモニア等のセンサーが提案されている(非特許文献2、3参照)。しかし、これらは複合光導波路の製作プロセスが複雑であり、またプリズムを使用しなければならないので、実用性に欠けるという問題があった。
【0009】
(検出試薬の発色を利用した方法)
そこで、特許文献1に開示されているように、ホルムアルデヒドと反応する検出試薬を保持させたフィルタを用いてホルムアルデヒドを検出する検出装置がある。
【0010】
この検出装置は、検出試薬を含浸させたフィルタを被測定ガスに暴露する。そして、この暴露によって被測定ガス中のホルムアルデヒドと検出試薬とが反応してフィルタの表面が発色する。このフィルタに所定波長の光を照射し、フィルタからの反射光を受光する。上記発色によって所定の吸収帯域の光が吸収されることから、反射光を検出することにより、ホルムアルデヒドの濃度を検出する。
【特許文献1】特開2005−345390号公報
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 119(1980)349-357
【非特許文献2】電気化学および工業物理化学(Electrochemistry)「高感度複合導波路のアンモニアセンサへの応用」69,No.11(2001)p.863-865
【非特許文献3】Applied Spectroscopy “Analysis and Application of the Transmission Spectrum of a Composite Optical waveguide”56,No.9(2002)p.1222-1227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の特許文献1のホルムアルデヒド検出装置においては、反射光を検出しているものの、この反射光は、フィルタに対して1回反射しているのみである。したがって、発色によって吸収される光の量に限界があり、測定精度が低いという問題があった。
【0012】
また、上記フィルタは、セルロースなどのろ紙を用いていることから、安定して保持される検出試薬の量が少なく、発色の程度に限界があることから、吸収される光の量にも限界がある。このことから、測定精度の信頼性が低いという問題があった。
【0013】
特に、従来のホルムアルデヒド検出装置は、被測定ガスに暴露するフィルタの表面から光学特性を測定するようにしており、つまり、フィルタの暴露面と測定面とが同一であることから、光学機器の配置などが制約され、小型化等を阻害する要因となっていた。
【0014】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、検出試薬の保持量を十分に確保し得るようにすると共に、吸収される光の量を増大させ、測定精度の信頼性及び小型化の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ホルムアルデヒドの検出試薬を安定に担持するポーラス層を用いると共に、反射を繰り返して光が伝搬する光導波路を用いるようにしたものである。
【0016】
つまり、本願発明者らは、永年の鋭意研究により、メソポーラス層を用いることにより、十分な量の検出試薬を安定的に担持させることができることを見出すと同時に、光導波路を用いることにより、光反射が繰り返されて吸収される光の量を十分に確保し得ることを見出し、ポーラス層の表面側を被測定ガスの暴露面とし、裏面側を測定面とするようにしたものである。
【0017】
(構成)
第1の発明〜第17の発明はホルムアルデヒド検出体に係る発明であり、第18の発明〜第22の発明は、上記検出体を備えたホルムアルデヒド検出装置に係る発明であり、第23の発明〜第25の発明はホルムアルデヒド検出方法に係る発明であり、第26の発明はホルムアルデヒド検出試薬に係る発明である。
【0018】
具体的に、第1の発明は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化によってホルムアルデヒド濃度を検出するためのホルムアルデヒド検出体を対象としている。そして、入射した光が全反射を繰り返して伝搬し出射する光導波路を構成する基材(31)を備えている。更に、該基材(31)の表面であって光反射面の少なくとも一部に積層形成され且つ上記検出試薬を担持させたメソポーラス層(32)を備えている。
【0019】
また、第2の発明は、第1の発明において、上記検出試薬が、4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)、4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)、4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)、3−アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)及び2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)から選ばれる1種である。
【0020】
また、第3の発明は、第1の発明において、上記検出試薬がメソポーラス層(32)の細孔内に含浸している。
【0021】
また、第4の発明は、第1の発明において、上記メソポーラス層(32)が、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を透過する層である。
【0022】
また、第5の発明は、第1の発明において、上記メソポーラス層(32)が、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光の波長の10分の1以下の平均直径の細孔を有する。
【0023】
また、第6の発明は、第1の発明において、上記メソポーラス層(32)が、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光に対応した厚さに構成されている。
【0024】
また、第7の発明は、第6の発明において、上記メソポーラス層(32)の厚さが0.01〜2μmである。
【0025】
また、第8の発明は、第1の発明において、上記メソポーラス層(32)がシリカ層である。
【0026】
また、第9の発明は、第1の発明において、上記メソポーラス層(32)が、界面活性剤又はブロックコポリマーのミセルを分子鋳型として用いてオルトケイ酸エチルからゾルゲル法により合成された規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層である。
【0027】
また、第10の発明は、第1の発明において、上記基材(31)が、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を透過するものである。
【0028】
また、第11の発明は、第1の発明において、上記基材(31)が、矩形平板で構成されている。
【0029】
また、第12の発明は、第1の発明において、上記基材(31)が、円柱体で構成されている。
【0030】
また、第13の発明は、第11の発明において、上記メソポーラス層(32)が、基材(31)における片側の光反射面の全面に形成されている。
【0031】
また、第14の発明は、第1の発明において、上記基材(31)の厚さが0.05〜2mmである。
【0032】
また、第15の発明は、第1の発明において、上記基材(31)がガラス基材である。
【0033】
また、第16の発明は、第1の発明において、上記基材(31)に入射する光が、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を含む光である。
【0034】
また、第17の発明は、第16の発明において、上記基材(31)に入射する光は波長が405nm付近の光である。
【0035】
また、第18の発明は、第1〜第17の発明の何れか1のホルムアルデヒド検出体(30)を備えてホルムアルデヒド濃度を検出するホルムアルデヒド検出装置である。そして、上記検出体(30)の基材(31)に光を入射させる発光体(61)と、上記検出体(30)の基材(31)から出射する光を受光する受光体(62)とを備えている。加えて、該受光体(62)からの光信号を受け、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化からホルムアルデヒド濃度を検出する信号処理手段(40)を備えている。
【0036】
また、第19の発明は、第18の発明において、上記検出体(30)が着脱自在に設けられている。
【0037】
また、第20の発明は、第18の発明において、上記信号処理手段(40)が検出したホルムアルデヒド濃度を表示する表示手段(50)を備えている。
【0038】
また、第21の発明は、第18の発明において、上記発光体(61)がレーザダイオード又は発光ダイオードである。
【0039】
また、第22の発明は、第18の発明において、上記受光体(62)がフォトダイオードである。
【0040】
また、第23の発明は、検出方法の発明であって、光が全反射を繰り返して伝搬する光導波路を構成する基材(31)と、該基材(31)の表面であって光反射面の少なくとも一部に積層形成され且つホルムアルデヒドに反応して発色する検出試薬を担持させたメソポーラス層(32)とを備えたホルムアルデヒド検出方法を対象としている。そして、上記メソポーラス層(32)を被測定ガスに暴露する暴露工程を備えている。続いて、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との所定の反応時間が経過した後に、上記基材(31)に光を伝搬させ、該基材(31)から出射する光に基づき光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化からホルムアルデヒド濃度を検出する信号処理工程を備えている。
【0041】
また、第24の発明は、第23の発明において、上記検出試薬が、4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)、4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)、4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)、3−アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)及び2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)から選ばれる1種である。
【0042】
また、第25の発明は、第23の発明において、上記信号処理工程に続いて、検出したホルムアルデヒド濃度を表示する表示工程を備えている。
【0043】
また、第26の発明のホルムアルデヒド検出試薬は、4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)又は5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)である。
【0044】
(作用)
上記第1、第18及び第23の発明では、ホルムアルデヒドの検出試薬を担持したメソポーラス層(32)を被測定ガスに暴露する。この暴露により検出試薬が発色する。一方、上記メソポーラス層(32)が積層された光導波路の基材(31)に光を入射させる。例えば、第21の発明では、レーザダイオード又は発光ダイオードより基材(31)に光を入射させる。そして、上記光は基材(31)の内部を伝搬することになり、しかも全反射を繰り返して伝搬し、上記基材(31)から出射する。
【0045】
例えば、第11及び第12の発明では、光が矩形平板の基材(31)又は円柱体の基材(31)を伝搬し、特に、第15の発明では、光がガラス基材を伝搬する。
【0046】
この基材(31)を伝搬して出射した光を受光し、例えば、第22の発明では、フォトダイオードの受光体(62)で受光する。上記基材(31)を伝搬する光は、上記発色によって所定波長の光が吸収され、この所定波長の光の強度が減衰する。この光学特性の変化を検出し、被測定ガス中のホルムアルデヒドの濃度を検出する。
【0047】
特に、上記第2、第24及び第26の発明では、検出試薬が特定物質に選定されているので、ホルムアルデヒドに確実に反応し、例えば、ホルムアルデヒドと検出試薬との化学反応によってルチジンが生成され、発色することになる。
【0048】
また、上記第4及び第8〜第10の発明では、メソポーラス層(32)及び基材(31)が発色の光吸収帯域の光を透過するものであるので、発色による光学特性の変化が正確に反映される。
【0049】
また、上記第5の発明では、メソポーラス層(32)の細孔が所定の直径に設定されていることから、所定の検出試薬の担持量が担保されることになる。
【0050】
また、上記第6及び第7の発明では、メソポーラス層(32)の厚さが所定厚さに設定されているので、メソポーラス層(32)における基材面までの反応時間が短縮される。
【0051】
また、上記第16及び第17の発明では、基材(31)の入射光が所定の波長に設定されているので、ホルムアルデヒドと検出試薬とによる発色に基づく光学特性の変化が確実に担保される。特に、ホルムアルデヒドと検出試薬との化学反応によってルチジンが生成される場合、ルチジンが波長405nm付近の光に吸収ピークを示すことから、波長405nm付近の光を基材(31)に入射させる。
【0052】
また、上記第19の発明では、検出体(30)が着脱自在であるので、測定操作が容易に行われる。
【0053】
また、上記第20及び第25の発明では、ホルムアルデヒドの濃度を表示するので、測定結果を迅速に認識し得る。
【発明の効果】
【0054】
上記第1〜第25の本発明によれば、メソポーラス層(32)にホルムアルデヒドの検出試薬を担持するようにしたために、所定量の検出試薬を安定的に保持させることができる。この結果、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応を十分に確保することができることから、測定に必要な発色を確保することができる。
【0055】
また、光導波路の基材(31)を光が伝搬し、反射を繰り返すようにしたために、十分な光学変化を確保することができる。この結果、上記メソポーラス層(32)と光導波路とを組み合わせることによって、測定精度の著しい向上を図ることができる。
【0056】
また、上記メソポーラス層(32)を用いていることから、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応がメソポーラス層(32)の表面から裏面に亘って迅速に進むので、メソポーラス層(32)の表面側を被測定ガスの暴露面とし、裏面側を測定面とすることができる。この結果、光学機器等の配置の自由度を著しく向上させることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0057】
また、上記基材(31)が光導波路を構成するので、光の照射部などの配置の自由度を拡大することができる。この結果、各種部品のレイアウトなどが容易となり、より装置の小型化を図ることができる。
【0058】
また、上記第2及び第24の発明によれば、検出試薬が特定物質の認識分子に選定されていることから、ホルムアルデヒドに確実に反応させることができるので、ホルムアルデヒドによって確実に発色させることができる。
【0059】
特に、上記第26の発明によれば、上記基材(31)の表面のアルキル鎖修飾処理との組み合わせにより、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン及び4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オンを検出試薬とすると、反応前の検出試薬そのものの安定化、ならびに反応後の生成物の安定化を図ることができる。
【0060】
また、上記第3の発明によれば、検出試薬をメソポーラス層(32)に含浸させているので、検出試薬をメソポーラス層(32)に確実に保持させることができる。
【0061】
また、上記第4及び第10の発明によれば、メソポーラス層(32)及び基材(31)が発色の光吸収帯域の光を透過するものとしたために、検出試薬の発色の光学特性の変化が正確に検出することができる。
【0062】
また、上記第5の発明によれば、メソポーラス層(32)の細孔が所定の直径に設定されていることから、検出試薬の担持量を十分に確保することができるので、検出試薬の十分な発色を担保することができる。
【0063】
また、上記第6及び第7の発明によれば、メソポーラス層(32)の厚さが所定厚さに設定されているので、検出試薬の発色がメソポーラス層(32)における基材面まで迅速に進むので、反応時間の短縮化を図ることができる。
【0064】
また、上記第8の発明によれば、メソポーラス層(32)をシリカ層としているので、ホルムアルデヒドの検出に適したポーラス層を簡易に作成することができる。
【0065】
また、上記第9の発明によれば、上記メソポーラス層(32)が規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層であるので、検出試薬をメソポーラス層(32)の全体に均一に担持させることができると共に、ホルムアルデヒドと検出試薬とをメソポーラス層(32)の全体に亘って均一に反応させることができる。
【0066】
また、上記第11の発明によれば、基材(31)を矩形平板に形成しているので、容易に形成することができると共に、上記メソポーラス層(32)を簡易に積層形成することができる。
【0067】
また、上記第12の発明によれば、基材(31)を円柱体に形成しているので、十分な長さの光導波路を容易に形成することができる。
【0068】
また、上記第13の発明によれば、基材(31)を片面にメソポーラス層(32)を形成しているので、簡易な構成でもってホルムアルデヒドの検出精度を向上させることができる。
【0069】
また、上記第14の発明によれば、基材(31)を所定厚さにしているので、作製の容易化を図ることができる。
【0070】
また、上記第15の発明によれば、基材(31)をガラス基材としているので、容易に作製することができる。
【0071】
また、上記第16及び第17の発明によれば、基材(31)の入射光が所定の波長に設定されているので、ホルムアルデヒドと検出試薬とによる発色の光学特性の変化を確実に担保することができる。特に、ホルムアルデヒドと検出試薬との化学反応によってルチジンが生成される場合、ルチジンが波長405nm付近の光に吸収ピークを示すことから、波長405nm付近の光を基材(31)に入射させることができる。
【0072】
また、上記第19の発明によれば、検出体(30)を着脱自在としたために、測定操作を容易にすることができる。
【0073】
また、第20及び第25の発明によれば、ホルムアルデヒドの濃度を表示するようにしたために、測定結果を迅速に認識することができる。
【0074】
また、上記第21の発明によれば、発光体(61)を発光ダイオードなどで構成するので、装置全体の構成を簡略化することが可能となり、装置サイズの小型化および装置重量の軽量化を図ることができる。
【0075】
また、上記第22の発明によれば、受光体(62)をフォトダイオードで構成するので、基材(31)の出射光を確実に受光することができる。
【0076】
特に、上記発光体(61)を発光ダイオードで構成し、かつ上記受光体(62)をフォトダイオードで構成すると、低消費電力で動作する装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0078】
図1及び図2に示すように、本実施形態のホルムアルデヒド検出装置(10)は、室内空気などの各種の被測定ガスに含まれるホルムアルデヒドの濃度を検出するものである。特に、上記ホルムアルデヒド検出装置(10)は、ホルムアルデヒドと検出試薬(認識分子)との反応による発色を利用したものであって、この発色により光学特性が変化する性質に基づきホルムアルデヒドの濃度を検出するものである。
【0079】
上記ホルムアルデヒド検出装置(10)は、ケーシング(11)内にガス吸引部(20)と、ホルムアルデヒドの検出素子(30)と、検出信号の信号処理部(40)と、表示及び操作を行うための入出力部(50)とが設けられている。
【0080】
上記ガス吸引部(20)は、図示しないが、ファン等を備え、被測定ガスをケーシング(11)内に吸い込み、検出素子(30)に被測定ガスを吹き付けるように構成されている。
【0081】
上記検出素子(30)は、本願発明の最も特徴するものであって、ホルムアルデヒドの検出体を構成している。上記検出素子(30)は、図3に示すように、基材(31)と、該基材(31)の片面に積層形成されたメソポーラス層(32)とを備えている。
【0082】
上記メソポーラス層(32)は、直径が数nmである細孔を多数有するメソポーラスシリカ薄膜で構成されている。そして、上記メソポーラス層(32)の細孔には、検出試薬が担持され、つまり、検出試薬が細孔内に保持されている。上記メソポーラス層(32)は、表面が被測定ガスの暴露面となり、裏面が基材(31)の接着面(測定面)となり、暴露面からホルムアルデヒドが細孔に侵入することによりホルムアルデヒドと検出試薬とが反応し、裏面側の測定面まで発色するように構成されている。
【0083】
上記検出試薬は、図8に示すものの他、2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)等のエナミノン誘導体から選ばれる1種である。上記検出試薬は、ホルムアルデヒドとの化学反応により、ルチジンを生成することになる。そして、この生成物であるルチジンは、波長405nm付近の光を最も吸収する吸収ピークを示す特性を有している。
【0084】
つまり、上記メソポーラス層(32)は、検出試薬に対応して、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を透過する層に構成されている。
【0085】
また、上記メソポーラス層(32)の細孔は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光の波長に対し、該波長の10分の1以下の平均直径に設定されている。
【0086】
更に、上記メソポーラス層(32)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光に対応した厚さに構成され、例えば、上記メソポーラス層(32)は、厚さが0.01〜2μmに設定されている。
【0087】
一方、上記基材(31)は、矩形平板のガラス基板で構成され、光(60)を封じ込め、内部を光(60)が伝搬する光導波路に構成されている。上記基材(31)は、厚さが0.05〜2mmに構成され、厚さ方向の4つの端面のうち相対向する2つの端面が光(60)の入射面(31a)と出射面(31b)に構成されている。
【0088】
そして、上記基材(31)の入射面(31a)に対峙して発光体(61)が配置される一方、出射面(31b)に対峙して受光体(62)が配置されている。上記基材(31)は、入射した光(60)が全反射を繰り返して伝搬するように構成されている。
【0089】
つまり、上記基材(31)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を透過する無色透明の平板に構成されている。
【0090】
一方、上記メソポーラス層(32)は、基材(31)における片側の光反射面の全面に形成されている。上記基材(31)を伝搬する光(60)は、全反射の際、メソポーラス層(32)にしみ出し、所定波長の光が吸収される。
【0091】
また、上記検出素子(30)は、図示しないが、ケーシング(11)に対して着脱自在に設けられている。
【0092】
上記発光体(61)は、レーザダイオード又は発光ダイオードで構成され、基材(31)の入射面(31a)に対して入射角θが33度になるように設定されている。上記発光体(61)が照射する光(60)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の波長の光を含む光であり、具体的に、波長が405nm付近の光である。つまり、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との反応生成物がルチジンの場合、吸収帯域の光の波長が405nmであるところ、上記発光体(61)が照射する光(60)は、発色によって吸収される光を含むように設定されている。
【0093】
上記受光体(62)は、フォトダイオードで構成され、基材(31)を伝搬した光(60)を受光するように構成されている。
【0094】
上記信号処理部(40)は、受光体(62)からの光信号を受けて該光信号を処理する信号処理手段を構成している。上記信号処理部(40)は、発色の光学特性の変化、つまり、所定波長の光の強度低下を検出し、この低下に基づいてエンドポイント法又はレイト法によってホルムアルデヒドの濃度を検出するように構成されている。
【0095】
上記入出力部(50)は、ホルムアルデヒド濃度を表示する表示手段を構成すると共に、測定のON及びOFFなどの操作を行う操作手段を構成している。上記入出力部(50)は、信号処理部(40)からの信号を受けてホルムアルデヒド濃度の絶対値などをデジタル表示するように構成されている。
【0096】
〈検出素子の製造〉
次に、上述した検出素子(30)の製造方法について説明する。
【0097】
上記メソポーラス層(32)は、規則正しい細孔を有する周知の多孔質シリカの層であり、製造方法及び周知の材料で構成されている(再表99/026881号公報、特開平11−049511号公報、特開2002−250713号公報参照)。つまり、上記メソポーラス層(32)は、メソポーラスシリカであればよく、代表的には、界面活性剤又はブロックコポリマーのミセルを分子鋳型として用いてオルトケイ酸エチルからゾルゲル法により合成された規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層である。
【0098】
この組成物を所定のガラス基板である基材(31)に滴下し、スピンコート等により薄膜化し、電気炉等により350〜450℃に焼成することにより、基材(31)の表面上に形成されたメソポーラス層(32)であるメソポーラスシリカ薄膜を得ることができる。
【0099】
次に、基材(31)となるガラス板の表面にメソポーラス薄膜を作製する。一方、ホルムアルデヒドの検出試薬を揮発性の貧溶媒に溶かした溶液を調製する。
【0100】
この溶液に先に作製したメソポーラス層(32)付きのガラス板を浸すか、あるいはその溶液をメソポーラス層(32)の表面に塗布する。溶媒を除去することにより、細孔内に呈色試薬を導入する。
【0101】
上記検出試薬は、図8に示すものが1例として挙げられる。
【0102】
図8に示す(1)は、株式会社同仁化学研究所から製品名「Fluoral-P」として販売されているものである。また、ホルムアルデヒド検出のための試薬として、B.J.Compton et.al により発表された論文Analytica Chimica Acta, 119(1980)349-357がある。
【0103】
図8に示す(2)及び(3)は本願発明者らが新たに合成したものである。
【0104】
図8に示す(4)及び(5)は、財団法人神奈川科学アカデミー鈴木孝治(慶応大学)等により開示されているものである。具体的に、特開2003−207498号公報「ホルムアルデヒド測定用試薬及びそれを用いたホルムアルデヒドの測定方法」及び特開2004−157103号公報「ホルムアルデヒド検知材」参照。
【0105】
〈ホルムアルデヒドの検出動作〉
次に、上述したホルムアルデヒド検出装置(10)によるホルムアルデヒドの検出動作について検出方法と共に説明する。
【0106】
先ず、ホルムアルデヒド検出装置(10)を所定の被測定ガス雰囲気に設置する。そして、入出力部(50)から測定スイッチをONすると、ガス吸引部(20)が被測定ガスをケーシング(11)内に吸引し、被測定ガスを検出素子(30)に吹き付ける。つまり、メソポーラス層(32)を被測定ガスに暴露する(暴露工程)。例えば、この暴露は、1分間行われる。
【0107】
上記メソポーラス層(32)を被測定ガスに暴露すると、被測定ガス中に含まれるホルムアルデヒドは、メソポーラス層(32)の細孔内に侵入し、検出試薬と反応する。この検出試薬はホルムアルデヒドと反応すると、発色し、メソポーラス層(32)の表面が変色する。
【0108】
例えば、検出試薬がエナミノン誘導体の場合、ホルムアルデヒドとの化学反応により、ルチジンが生成される。このルチジンの場合、発色によって吸収される帯域の光の波長が405nmとなる。
【0109】
したがって、上記暴露から所定の反応時間が経過すると、発光体(61)より波長が405nmの光(60)を照射し、この光(60)を基材(31)の入射面(31a)から入射させる。例えば、上記暴露から10分を経過すると、光(60)を照射させる。
【0110】
上記基材(31)に入射した光(60)は、光導波路である基材(31)の内部において全反射を繰り返して伝搬する。この基材(31)を伝搬する光(60)は、全反射の際にメソポーラス層(32)にしみ出す一方、検出試薬が発色していることら、所定波長の光、例えば、405nmの波長の光が吸収され、この波長の光強度が低下する。
【0111】
上記基材(31)の出射面(31b)から出射した光(60)は、フォトダイオードの受光体(62)が受光し、光信号が信号処理部(40)に入力する。該信号処理部(40)は、光学特性の変化を検出し、つまり、光の強度を検出し、この強度の低下に基づいてホルムアルデヒドを検出すると同時にその濃度を測定する(信号処理工程)。
【0112】
その後、上記信号処理部(40)の出力信号に基づき入出力部(50)がホルムアルデヒド濃度を表示する(表示工程)。
【0113】
尚、上記信号処理部(40)は、例えば、エンドポイント法によってホルムアルデヒド濃度を検出する。つまり、曝露前の透過光強度をI0とし、エンドポイントに達したときの透過光強度をIとする。濃度Cに対して−log(I/I0)を算出し、透過光強度の減少量からホルムアルデヒド濃度を検出する。
【0114】
上記信号処理部(40)は、例えば、レイト法を適用してもよい。つまり、曝露前の透過光強度に対する透過光強度の減少度合い(傾き)に基づき、ホルムアルデヒド濃度を検出するようにしてもよい。
【0115】
〈実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、メソポーラス層(32)にホルムアルデヒドの検出試薬を担持するようにしたために、所定量の検出試薬を安定的に保持させることができる。この結果、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応を十分に確保することができることから、測定に必要な発色を確保することができる。
【0116】
また、光導波路の基材(31)を光が伝搬し、反射を繰り返すようにしたために、十分な光学変化を確保することができる。この結果、上記メソポーラス層(32)と光導波路とを組み合わせることによって、測定精度の著しい向上を図ることができる。
【0117】
また、上記メソポーラス層(32)を用いていることから、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応がメソポーラス層(32)の表面から裏面に亘って迅速に進むので、メソポーラス層(32)の表面側を被測定ガスの暴露面とし、裏面側を測定面とすることができる。この結果、光学機器等の配置の自由度を著しく向上させることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0118】
また、上記基材(31)が光導波路を構成するので、光の照射部などの配置の自由度を拡大することができる。この結果、各種部品のレイアウトなどが容易となり、より装置の小型化を図ることができる。
【0119】
また、上記検出試薬を特定物質の認識分子に選定されていることから、ホルムアルデヒドに確実に反応させることができるので、ホルムアルデヒドによって確実に発色させることができる。特に、上記基材(31)の表面のアルキル鎖修飾処理との組み合わせにより、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン及び4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オンを検出試薬とすると、反応前の検出試薬そのものの安定化、ならびに反応後の生成物の安定化を図ることができる。
【0120】
また、上記メソポーラス層(32)及び基材(31)が発色の光吸収帯域の光を透過するものとしたために、検出試薬の発色の光学特性の変化が正確に検出することができる。
【0121】
また、上記メソポーラス層(32)の細孔が所定の直径に設定されていることから、検出試薬の担持量を十分に確保することができるので、検出試薬の十分な発色を担保することができる。
【0122】
また、上記メソポーラス層(32)の厚さが所定厚さに設定されているので、検出試薬の発色がメソポーラス層(32)における基材面まで迅速に進むので、反応時間の短縮化を図ることができる。
【0123】
また、上記メソポーラス層(32)をシリカ薄膜としているので、ホルムアルデヒドの検出に適したポーラス層を簡易に作成することができる。
【0124】
また、上記メソポーラス層(32)が規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層であるので、検出試薬をメソポーラス層(32)の全体に均一に担持させることができると共に、ホルムアルデヒドと検出試薬とをメソポーラス層(32)の全体に亘って均一に反応させることができる。
【0125】
また、上記基材(31)を矩形平板に形成しているので、容易に形成することができると共に、上記メソポーラス層(32)を簡易に積層形成することができる。
【0126】
また、上記基材(31)を片面にメソポーラス層(32)を形成しているので、簡易な構成でもってホルムアルデヒドの検出精度を向上させることができる。
【0127】
また、上記基材(31)を所定の厚さにしているので、作製の容易化を図ることができる。
【0128】
また、上記基材(31)をガラス基材としているので、容易に作製することができる。
【0129】
また、上記基材(31)の入射光が所定の波長に設定されているので、ホルムアルデヒドと検出試薬とによる発色の光学特性の変化を確実に担保することができる。特に、ホルムアルデヒドと検出試薬との化学反応によってルチジンが生成される場合、ルチジンが波長405nm付近の光に吸収ピークを示すことから、波長405nm付近の光を基材(31)に入射させることができる。
【0130】
また、上記検出体(30)を着脱自在としたために、測定操作を容易にすることができる。
【0131】
また、上記ホルムアルデヒドの濃度を表示するようにしたために、測定結果を迅速に認識することができる。
【0132】
また、上記発光体(61)を発光ダイオードなどで構成するので、装置全体の構成を簡略化することが可能となり、装置サイズの小型化および装置重量の軽量化を図ることができる。
【0133】
また、上記受光体(62)をフォトダイオードで構成するので、基材(31)の出射光を確実に受光することができる。
【0134】
また、上記発光体(61)を発光ダイオードで構成し、かつ上記受光体(62)をフォトダイオードで構成するので、低消費電力で動作する装置を実現することができる。
【0135】
また、上記検出試薬をメソポーラス層(32)に含浸させるようにすると、検出試薬をメソポーラス層(32)に確実に保持させることができる。
【実施例】
【0136】
次に、上述した検出素子(30)の実施例について説明する。
【0137】
(1)メソポーラスシリカ薄膜(メソポーラス層)の製造及びエナミノンのメソポーラスシリカ薄膜(メソポーラス層)の細孔内への導入
先ず、メソポーラスシリカ薄膜の製造について示すと、ガラス板上にメソポーラスシリカ薄膜を形成する。作製方法は非特許文献2および非特許文献3に記載の方法による。
【0138】
具体的に、オルトケイ酸エチルに、1−プロパノール、希塩酸、2−ブタノールを加えて攪拌する。これに、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TMA)の水溶液を加えて攪拌する。その後、得られた溶液をガラス基板上に数滴滴下し、スピンコータで薄膜化する。続いて、得られたものを電気炉により大気中で400℃で焼成する。薄膜内の構造の評価はX線回折装置(XRD)により確認した。
【0139】
次いで、含浸プロセスによるエナミノンのメソポオーラス薄膜の細孔内部への導入の例を示す。
【0140】
先ず、エナミノン(2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン)50mgをエタノール0.006mLとn‐ペンタン6mLの混合溶媒に加えた溶液を調製し、その溶液に、上記方法により製造したメソポーラスシリカ薄膜付きのガラス板を1時間から数日間浸漬する。その後、メソポーラスシリカ薄膜付きのガラス板を溶液から取り出し、室温でドライヤの冷風に十分に曝して溶媒を除去する。
【0141】
そこで、分光エリプソメータによりエナミノンの含浸処理前後におけるメソポーラス薄膜の屈折率を測定した。含浸前のメソポーラス薄膜層の屈折率はn=1.35であり、含浸処理後の屈折率はn=1.49であった。この屈折率の増加は、含浸処理による細孔内部へのエナミノンが導入を示している。
【0142】
次に、上述の方法により作成した検出素子(30)を図2に示す装置に組み付け、波長405nmの光(60)を照射し、出射した光(60)の強度を検出器により測定した。
【0143】
図4は、測定結果の1例を示している。この測定の条件は、大気圧下26.0℃で、0.1ppmの濃度のホルムアルデヒド含む乾燥空気、0.5ppmの濃度のホルムアルデヒド含む乾燥空気、1.0ppmの濃度のホルムアルデヒド含む乾燥空気及び、3.0ppmの濃度のホルムアルデヒド含む乾燥空気をそれぞれ1L/minの流量で1分間噴射し、検出素子(30)にホルムアルデヒドガスを曝露した。
【0144】
ホルムアルデヒドガスに曝露後、透過光強度の減少の極少値をエンドポイントとする。曝露前の透過光強度をI0、エンドポイントに達したときの透過光強度をIとする。濃度Cに対して−log(I/I0)のプロットすると、図5に示すようにR=0.993の直線性を示す検量線が得られた。
【0145】
以上の結果をまとめると、(1)ガラス基板上のメソポーラスシリカ薄膜の細孔内にエナミノンを導入し、検出素子(30)を作製する。(2)この検出素子(30)を用いて上述の測定条件下で0.1から3.0ppmの濃度範囲で大気中のホルムアルデヒドが検出できた。(3)その結果より得られた検量線は相関係数R=0.993を示す直線性を示した。
【0146】
(2)塗布によるエナミノンの導入
他の実施例として、上記エナミノンの細孔への導入は塗布によっても可能である。
【0147】
具体的に、メソポーラスシリカ薄膜を(1)に示した方法と同じ方法で作製する。次に、エナミノン(2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン)をn−ペンタンとエタノールの混合溶媒に溶解する。その溶液を筆によりメソポーラス薄膜面に塗布した後、ドライヤの冷風により溶媒を除去する。
【0148】
この得られた検出素子(30)を図2に示す装置に組み付け、ホルムアルデヒドに対する応答性を調べた。
【0149】
図6はホルムアルデヒドに対する応答性を示す。測定の条件は、大気圧下20.1℃で、1.5ppmのホルムアルデヒドを含む乾燥空気を1.0L/minの流量で1分間噴射した。含浸によるエナミノンの導入の場合と同様に、塗布によっても十分なホルムアルデヒド検出能力を持つことが判った。
【発明を実施するためのその他の最良の形態】
【0150】
次に、本発明のその他の実施形態について説明する。
【0151】
他の実施形態としては、図7に示すように、検出素子(30)の基材(31)を円柱体で構成して光導波路を形成するようにしてもよい。つまり、検出素子(30)をファイバ形式にしたものであり、基材(31)の表面にメソポーラス層(32)が形成されている。この実施形態では、発光体(61)から照射された光(60)は円柱体の基材(31)を伝搬することになる。本実施形態によれば、基材(31)を円柱体に形成しているので、十分な長さの光導波路を容易に形成することができる。その他の構成、作用及び効果は前実施形態と同じである。
【0152】
尚、上記基材(31)は真直な円柱体に限られるものではなく、螺旋状に形成し、伝搬距離が長くなるようにしてもよい。
【0153】
また、他の実施形態として、メソポーラス層(32)は、上述した各実施形態に限られるものではなく、検出試薬に対応し、ホルムアルデヒドと検出試薬の反応生成物に対応した素材等を用いればよい。したがって、ホルムアルデヒドと検出試薬の反応生成物に対応してメソポーラス層(32)の細孔の直径等が定められる。
【0154】
また、上記基材(31)においても、ホルムアルデヒドと検出試薬の反応生成物に対応した素材等を用いればよい。
【0155】
また、上記メソポーラス層(32)は基材(31)を両面に積層形成するようにしてもよい。この場合、光(60)の反射を有効に利用することができる。
【0156】
また、上記実施形態は、ホルムアルデヒド検出装置(10)について説明したが、本発明は、検出素子(30)であるホルムアルデヒド検出体のみでもよいことは勿論である。
【0157】
尚、以上の各実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上説明したように、本発明は、ガス中に含まれるホルムアルデヒドを検出するホルムアルデヒド検出体、ホルムアルデヒド検出装置、ホルムアルデヒド検出方法及びホルムアルデヒド検出試薬について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、ホルムアルデヒド検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、ホルムアルデヒド検出装置の要部を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、検出素子の縦断面を示す概略図である。
【図4】図4は、実施例に記載の検出素子によるホルムアルデヒドの応答性を示す特性図である。
【図5】図5は、実施例に記載の検出素子によるホルムアルデヒド濃度と透過光強度の関係を示す特性図である。
【図6】図6は、実施例に記載の他の試薬塗布式の検出素子によるホルムアルデヒドの応答性を示す特性図である。
【図7】図7は、他の実施形態のホルムアルデヒド検出装置の要部を示す概略斜視図である。
【図8】図8は、ホルムアルデヒド検出試薬を示す図である。
【符号の説明】
【0160】
10 ホルムアルデヒド検出装置
20 ガス吸引部
30 検出素子(検出体)
31 基材(ガラス基板)
32 メソポーラス層(メソポーラスシリカ薄膜)
40 信号処理部(信号処理手段)
50 入出力部(表示手段)
60 光
61 発光体
62 受光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化によってホルムアルデヒド濃度を検出するためのホルムアルデヒド検出体であって、
入射した光が全反射を繰り返して伝搬し出射する光導波路を構成する基材(31)と、
該基材(31)の表面であって光反射面の少なくとも一部に積層形成され且つ上記検出試薬を担持させたメソポーラス層(32)とを備えている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項2】
請求項1において、
上記検出試薬は、4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)、4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)、4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)、3−アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)及び2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)から選ばれる1種である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項3】
請求項1において、
上記検出試薬は、メソポーラス層(32)の細孔内に含浸している
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項4】
請求項1において、
上記メソポーラス層(32)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を透過する層である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項5】
請求項1において、
上記メソポーラス層(32)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光の波長の10分の1以下の平均直径の細孔を有する
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項6】
請求項1において、
上記メソポーラス層(32)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光に対応した厚さに構成されている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項7】
請求項6において、
上記メソポーラス層(32)は、厚さが0.01〜2μmである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項8】
請求項1において、
上記メソポーラス層(32)は、シリカ層である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項9】
請求項1において、
上記メソポーラス層(32)は、界面活性剤又はブロックコポリマーのミセルを分子鋳型として用いてオルトケイ酸エチルからゾルゲル法により合成された規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項10】
請求項1において、
上記基材(31)は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を透過するものである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項11】
請求項1において、
上記基材(31)は、矩形平板で構成されている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項12】
請求項1において、
上記基材(31)は、円柱体で構成されている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項13】
請求項11において、
上記メソポーラス層(32)は、基材(31)における片側の光反射面の全面に形成されている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項14】
請求項1において、
上記基材(31)は、厚さが0.05〜2mmである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項15】
請求項1において、
上記基材(31)は、ガラス基材である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項16】
請求項1において、
上記基材(31)に入射する光は、ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色の光吸収帯域の光を含む光である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項17】
請求項16において、
上記基材(31)に入射する光は、波長が405nm付近の光である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出体。
【請求項18】
請求項1〜17の何れか1項に記載のホルムアルデヒド検出体(30)を備えてホルムアルデヒド濃度を検出するホルムアルデヒド検出装置であって、
上記検出体(30)の基材(31)に光を入射させる発光体(61)と、
上記検出体(30)の基材(31)から出射する光を受光する受光体(62)と、
該受光体(62)からの光信号を受け、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化からホルムアルデヒド濃度を検出する信号処理手段(40)とを備えている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出装置。
【請求項19】
請求項18において、
上記検出体(30)は、着脱自在に設けられている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出装置。
【請求項20】
請求項18において、
上記信号処理手段(40)が検出したホルムアルデヒド濃度を表示する表示手段(50)を備えている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出装置。
【請求項21】
請求項18において、
上記発光体(61)は、レーザダイオード又は発光ダイオードである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出装置。
【請求項22】
請求項18において、
上記受光体(62)は、フォトダイオードである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出装置。
【請求項23】
光が全反射を繰り返して伝搬する光導波路を構成する基材(31)と、該基材(31)の表面であって光反射面の少なくとも一部に積層形成され且つホルムアルデヒドに反応して発色する検出試薬を担持させたメソポーラス層(32)とを備えたホルムアルデヒド検出方法であって、
上記メソポーラス層(32)を被測定ガスに暴露する暴露工程と、
続いて、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との所定の反応時間が経過した後に、上記基材(31)に光を伝搬させ、該基材(31)から出射する光に基づき光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化からホルムアルデヒド濃度を検出する信号処理工程とを備えている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【請求項24】
請求項23において、
上記検出試薬は、4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)、4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)、5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)、4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)、3−アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)及び2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)から選ばれる1種である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【請求項25】
請求項23において、
上記信号処理工程に続いて、検出したホルムアルデヒド濃度を表示する表示工程を備えている
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出方法。
【請求項26】
4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)又は5-アミノ-4-ヘプテン-3-オン(5-aminohept-4-en-3-one)である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検出試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82840(P2008−82840A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262299(P2006−262299)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】