説明

ホログラム作成装置およびホログラム作成方法

【課題】簡易な構成で白色光を色収差なく容易に結像させることができるホログラム作成装置およびホログラム作成方法を得ることを目的とする。
【解決手段】複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の記録対象物からの反射光を物体光としてホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光としてホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成装置において、他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する空間変調素子4を備え、空間変調素子4は、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる各レーザ光を、格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光5として記録材料側に反射しホログラムを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトホログラフィによってホログラムを作成するホログラム作成装置およびホログラム作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ホログラムレンズなどの光学素子は回折格子によって形成されているため、単色光に対して有効な光学的制御手段となる。しかしながら、透過型ホログラムレンズは通常のガラスなどの屈折レンズに比較して色収差が10倍程度大きいので、光波長による収束位置の変化が大きい。このため、ホログラムレンズは、白色光に対して実使用上使用できない状態にあった。そこで、白色光を色収差なく結像させるために、赤色、緑色、青色の各光に対応する3枚のホログラムスクリーンを張り合わせたり、参照光を拡散させ透明性を犠牲にして色収差をなくす工夫がなされていた。この赤色、緑色、青色の光に対応する回折格子を別々に用意し、それらを重ね合わせて、白色用に使用するなどの工夫では、ホログラムの製造が複雑になり、張り合わせ工程などの精度が必要であった。
【0003】
また、赤色、緑色、青色の各光に対応する回折格子を各光の波長に対応するレーザで別々に露光することによって、白色光を色収差なく結像させる方法がある。この方法では、露光時に各波長のレーザで光軸を合わせる必要があるが、光軸を合わせる際には振動による影響が出るので、白色光を色収差なく結像させることが非常に困難であった。
【0004】
(特許文献1)に記載の色収差の改善方法では、ホログラフィック光学素子とプリズムを組合わせて赤色、緑色、青色の入射角を補正している。また、(特許文献2)に記載の位相シフトデジタルホログラフィ装置は、参照波の位相を異なる複数の位相値に位相シフトさせ、位相シフトさせた各々の参照波と物体波とによって生成される複数のホログラム画像データから物体波の位相データと物体波の振幅データとを演算している。そして、演算した物体波の位相データと物体波の振幅データとから物体波データを構成し、この物体波データを所定変換して再生像を演算している。
【0005】
また、(非特許文献1)に記載の瞬時計測が可能な並列準位相シフトデジタルホログラフィは、空間的に参照光の位相を変化させるために0、2π/3、−2π/3の3段階の位相分布を持つ位相シフトアレイデバイスに参照光を透過させ、参照光の位相を3段階に変化させている。そして1枚のホログラムに参照光の位相が異なる3枚の干渉縞の情報を記録し、記録したホログラムに対して計算機処理を行うことによって、像再生に必要な物体光波面の情報を得ている。
【特許文献1】特開2004−325542号公報
【特許文献2】特許第3471556号公報
【非特許文献1】Y.Awatsuji and M.Sasada,Appl.Phys.Lett.85(2004)1069
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記1つ目の従来の技術では、プリズムを位置精度良く設置する必要があり、プリズムの設置コストが高くなるという問題や、プリズムの取り付けスペースなどが大きくなるという問題がある。
【0007】
また、上記2つ目の従来の技術では、光の位相を検出してミラーの位置を調整する制御装置が必要になるので、光の位相シフトを行う装置が大掛かりで高価なものになる。また、位相シフト量に光波長依存性があるので、RGBホログラムのそれぞれを記録する際に位相をシフトさせる必要があり、カラー画像をRGBホログラムとして同時に記録することができないという問題がある。このように、上記1つ目および2つ目の従来の技術では、位相シフトさせた参照光と物体光によって生成された干渉縞を記録する際、正確かつ高速に参照光の位相をシフトさせることが困難であるという問題がある。
【0008】
上記3つ目の従来の技術では、位相シフトアレイデバイスを透過した参照光の空間的な位相分布を、CCD面上でCCDの画素の配置と一致させるとともに、位相分布の1区間をCCDの画素サイズと同じにしている。そして、記録されたホログラム中の参照光の位相が0の画素に対して、その近傍の画素の位相が2π/3、−2π/3、2π/3、−2π/3の4画素を用いて位相シフト計算を行ない、その後、欠落した画素に対して線形補間によって元の画像サイズのCCD面上での複素振幅分布を得ている。このため、位相シフトアレイデバイスのそれぞれの画素位置とCCDの画素配置とを厳密に一致させる必要が有り、装置による画素位置の位置合わせ精度が要求される。また、外乱によって画素位置がずれた場合には誤り訂正を行う必要があるなどの課題がある。また、この様な位相シフトアレイデバイスを高精度かつ低コストで得ること自体、実現が困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で白色光を色収差なく容易に結像させることができるホログラム作成装置およびホログラム作成方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の前記記録対象物からの反射光を物体光として前記ホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光として前記ホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成装置において、前記他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する空間変調素子を備え、前記空間変調素子は、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる前記各レーザ光を、前記格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光として前記記録材料側に反射し前記ホログラムを作成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空間変調素子が格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を移動させることによってレーザ光を同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光としてホログラムを作成するので、簡易な構成で白色光を色収差なく容易に結像させることができるホログラム作成装置ホログラム作成装置およびホログラム作成方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1の発明のホログラム作成装置は、複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の記録対象物からの反射光を物体光としてホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光としてホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成装置において、他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する空間変調素子を備え、空間変調素子は、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる各レーザ光を、格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光として記録材料側に反射しホログラムを作成するものであり、空間変調素子が格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を正確かつ迅速に移動させることができる。
【0013】
第2の発明のホログラム作成装置は、第1の発明のホログラム作成装置において、空間変調素子を反射型の液晶パネルとしたものであり。反射型の液晶パネルが格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を正確かつ迅速に移動させることができる。
【0014】
第3の発明のホログラム作成装置は、第1の発明のホログラム作成装置において、空間変調素子をデジタルミラーデバイスパネルとしたものであり、デジタルミラーデバイスパネルが格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を正確かつ迅速に移動させることができる。
【0015】
第4の発明のホログラム作成装置は、第1〜第3の発明のホログラム作成装置において、空間変調素子は、空間変調素子の画素ピッチが格子縞の格子間隔の半分の距離である場合、格子縞を格子間隔の半分だけ格子縞の配置方向に移動させて表示するものであり、1次回折光の位相シフト量がπとなるようレーザ光を位相シフトさせることができる。
【0016】
第5の発明のホログラム作成装置は、第1〜第3の発明のホログラム作成装置において、空間変調素子は、空間変調素子の画素ピッチが格子縞の格子間隔の1/4の距離である場合、格子縞を格子間隔の1/4、2/4または3/4だけ格子縞の配置方向に移動させて表示するものであり、1次回折光の位相シフト量がπ/2、πまたは3π/2となるようレーザ光を位相シフトさせることができる。
【0017】
第6の発明のホログラム作成装置は、第1〜第5の発明のホログラム作成装置において、物体光の波面を変換する拡散板をさらに備え、拡散板を通して波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録材料に形成したスクリーンをホログラムとして作成するものであり、物体光の波面を拡散板によって変換して形成したスクリーンをホログラムとして作成することができる。
【0018】
第7の発明のホログラム作成装置は、第1〜第5の発明のホログラム作成装置において、物体光の波面を変換するレンズをさらに備え、レンズを通して波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成するものであり、物体光の波面をレンズによって変換して形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することができる。
【0019】
第8の発明のホログラム作成装置は、第1〜第5の発明のホログラム作成装置において、物体光の波面を変換する曲率を有した反射面をさらに備え、反射面を用いて波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成するものであり、物体光の波面を曲率を有した反射面によって変換して形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することができる。
【0020】
第9の発明のホログラム作成装置は、第1〜第5の発明のホログラム作成装置において、外部入力される指示に基づいて所定の波面を形成する回折格子によって物体光の波面を変換する波面形成ホログラムをさらに備え、波面形成ホログラムを用いて波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成するものであり、物体光の波面を波面形成ホログラムによって変換して形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することができる。
【0021】
第10の発明のホログラム作成装置は、第1〜第9の発明のホログラム作成装置において、記録材料としてフォトポリマを用いたものであり、フォトポリマにホログラムを作成することができる。
【0022】
第11の発明のホログラム作成装置は、第1〜第3の発明のホログラム作成装置において、空間変調素子は、当該空間変調素子とは異なる他の空間変調素子によって作成されたホログラム素子であって、かつ当該ホログラム素子は、他の空間変調素子が、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる各レーザ光を、自素子が表示する格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光として干渉縞の記録装置側に反射して作成したものであって、空間変調素子は、他の空間変調素子によって作成され記録装置によって記録された干渉縞に応じた格子縞を表示するものであり、他の空間変調素子が格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を正確かつ迅速に移動させることによって作成されたホログラム素子を用いて、ホログラムを作成することができる。
【0023】
第12の発明のホログラム作成方法は、複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の記録対象物からの反射光を物体光としてホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光としてホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成方法において、空間変調素子が他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する格子縞表示ステップと、空間変調素子が、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる各レーザ光を、格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせる位相シフトステップと、位相シフト後のレーザ光を参照光として記録材料側に反射しホログラムを作成するホログラム作成ステップと、を含むものであり、空間変調素子が格子縞を表示するとともに格子縞の表示位置を正確かつ迅速に移動させることができる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
(実施の形態)
本実施の形態では、液晶パネルやデジタルミラーデバイスパネルなどの空間光変調素子上に格子縞を表示して、この格子縞に赤、緑、青の3原色のレーザ光を照射し、この格子縞によって生じる一次回折光を画像記録用の参照光として用いる。格子縞を空間光変調素子上で移動させると、格子縞の移動によって回折光の位相がシフトする。この回折光の位相シフト量は、格子縞の移動量に比例し、光の波長とは無関係である。例えば、空間光変調素子上に表示した格子縞の明暗を反転させて格子縞を格子間隔の半分だけ移動した場合、一次回折光の位相は正確にπだけシフトする。この方法では、光位相を精度良くシフトでき回折光の検出や光位相調整のための装置が不要となるので、画像記録装置(ホログラムを記録する装置)のシステム構成が簡易な構成となる。また、位相シフト量が光波長に依存しないので、3次元画像に対するカラー位相シフトホログラム(記録材料)の同時記録が可能になる。
【0026】
以下、本実施の形態に係る位相シフトデジタルホログラフィを用いた3次元カラー画像記録装置について、図1乃至図7を参照しながら説明する。なお、3次元カラー画像記録装置が特許請求の範囲に記載のホログラム作成装置に対応する。
【0027】
図1は本発明の実施の形態に係るカラー位相シフトホログラム記録装置の構成を示す図である。図1のカラー位相シフトホログラム記録装置は、位相シフトデジタルホログラフィによって、ホログラムを記録(作成)する装置(体積ホログラムでホログラム素子を形成する装置)である。
【0028】
1、2、3は、それぞれホログラムを記録のための光源であり、それぞれ赤色レーザ光発振器、緑色レーザ光発振器、青色レーザ光発振器である。赤色レーザ光としては、例えば光波長650nmの赤色半導体レーザ、緑色レーザ光としては、例えば光波長532nmの半導体励起緑色固体レーザ、青色レーザ光としては、例えば光波長440nmの青色半導体レーザなどを用いる。
【0029】
4は、赤色レーザ光発振器1、緑色レーザ光発振器2、青色レーザ光発振器3からの各レーザ光を参照光5として反射する反射型液晶パネルであり、7は、反射型液晶パネル4に表示するホログラムデータを反射型液晶パネル4に伝送するパーソナルコンピュータである。6は、反射型液晶パネル4からの光を絞る絞りである。
【0030】
8は、赤色レーザ光発振器1、緑色レーザ光発振器2、青色レーザ光発振器3からの各レーザ光を重ねて白色のレーザ光を合成し、この合成白色光を光学特性を付与する物体照射のための照明光9として反射するビームスプリッタである。ビームスプリッタ8は、各レーザ光発振器と反射型液晶パネル4との間に配設されている。
【0031】
10、11は、対物レンズであり、12、13は、コリメータレンズである。対物レンズ11とコリメータレンズ13は、ビームスプリッタ8からの白色光を径の大きな平行光に変換する。また、対物レンズ10とコリメータレンズ12は、反射型液晶パネル4からの光を径の大きな平行光に変換する。
【0032】
14A、14Bは、それぞれビームスプリッタである。16は、照明光9に光学特性を付与する凸レンズ(光学素子)である。照明光9が凸レンズ16を介して撮像の対象物(図示せず)に照射されることにより、光学特性情報を含んだ物体光15が発生する。17は、カラーCCD(Charge Coupled Device)(記録素子)であり、ビームスプリッタ14Bからの参照光5と、物体光15とを用いて干渉縞を記録する。
【0033】
ここで、カラー位相シフトホログラム記録装置による、ホログラムの記録処理について説明する。赤色レーザ光発振器1、緑色レーザ光発振器2、青色レーザ光発振器3は、それぞれ赤色のレーザ光、緑色のレーザ光、青色のレーザ光を出射する。これらのレーザ光は、1次回折光が直線上で重なるよう入射角を変えられて反射型液晶パネル4に入射する。
【0034】
反射型液晶パネル4では、赤色、緑色、青色のレーザ光が重なった白色の1次回折光を画像を記録するための参照光5として反射する。反射型液晶パネル4としては、例えば日本ビクター株式会社のD−ILA(Direct Drive Image Light Amplifier)(登録商標)や日立製LSM18HDA01B1(画素数1920×1080)を用いる。反射型液晶は、透過型と比較して高精細化が可能であり、光利用効率が高いという利点を有している。
【0035】
パーソナルコンピュータ7は、反射型液晶パネル4に表示するホログラムデータを伝送し、反射型液晶パネル4上に表示する格子縞を移動させて赤色、緑色、青色の各レーザ光の位相をシフトさせる。
【0036】
反射型液晶パネル4から放射される参照光(赤色、緑色、青色の反射光および高次回折光)5は、絞り6を用いて一部が遮られるとともに一部が通過させられる。絞り6を通過してきた参照光5(白色光)は、対物レンズ10とコリメータレンズ12によって径の大きな平行光に変換され、ビームスプリッタ14Bに送られる。ビームスプリッタ14Bは、参照光5を反射して、カラーCCD17に照射する。
【0037】
また、赤色レーザ光発振器1、緑色レーザ光発振器2、青色レーザ光発振器3からの赤色のレーザ光、緑色のレーザ光、青色のレーザ光は、ビームスプリッタ8によって、重ね合わせられて白色のレーザ光が合成される。この合成白色光は、光学特性を付与する物体照射のための照明光9として使用される。
【0038】
ビームスプリッタ8からの照明光9(白色光)は、対物レンズ11とコリメータレンズ13によって、径の大きな平行光に変換され、ビームスプリッタ14Aに送られる。ビームスプリッタ14Aが、照明光9を反射し、凸レンズ16を介して撮像の対象物に照射させることによって物体光15が発生する。物体光15は、カラーCCD17に照射される。
【0039】
カラー位相シフトホログラム記録装置では、各レーザ発信器(レーザ光源)からカラーCCD17までを伝播する参照光5と物体光15の経路長の差がレーザ光のコヒーレンス長内に収まるよう光学系を設定しておく。そして、ビームスプリッタ14Bで反射させた参照光5と、物体光15とが作る赤色、緑色、青色のそれぞれの干渉縞をカラーCCD17に記録する。
【0040】
位相シフトホログラフィでは、参照光5の位相を変化させてホログラムを記録するので、光の位相を正確にシフトさせる必要がある。ここで反射型液晶パネル4などの空間光変調素子を用いた光位相シフトの原理について説明する。空間光変調素子を用いて格子縞を表示すると、表示する格子縞の間隔と表示位置を正確かつ高速に切り換えることができる。この格子縞を光の回折に用いると、格子縞の間隔を変えることによって回折光の回折角を調整でき、格子縞の表示位置を移動させることによって回折光の位相をシフトさせることができる。
【0041】
図2および図3は、空間光変調素子4の格子縞に入射する入射平行光と回折光を説明するための図である。図2および図3では、空間光変調素子(反射型液晶パネル4)の格子縞である反射型格子縞18に入射する入射平行光19と、この入射平行光19に対するm次回折光20との関係を示している。図2では、反射型格子縞18を移動する前の入射平行光19とm次回折光とを示しており、図3では、反射型格子縞18を移動させた時の入射平行光19とm次回折光とを示している。
【0042】
入射平行光19は、図2および図3に示したx軸上の鏡面反射部(太線と太線の間の白い部分)21では鏡面反射され、x軸上の吸収部(太線で示した黒い部分)22では反射されずに吸収されるものとする。
【0043】
鏡面反射された入射平行光19は干渉し合い、これによって光の回折が生じる。入射平行光19の光波長をλ、格子縞の間隔をdとして入射角θiの平面波と回折角θdのm次回折平面波(mは自然数)を考えると、原点(鏡面反射部21)で反射する入射平行光19と、原点よりも1つ右の点(鏡面反射部21)で反射する入射平行光19との光路長の差は−dsinθi+dsinθdとなる。したがって、入射角θiとm次回折光の回折角θd及び波長λの間には(数1)が成り立つ。
【0044】
【数1】

【0045】
鏡面反射した入射平行光19の位相は、反射点(鏡面反射部21)に入射した入射平行光19の位相とπだけ異なる。したがって、図2に示すように座標の原点に鏡面(鏡面反射部21)がある場合には、回折光20の位相と入射平行光19の位相とが原点においてπだけ異なることとなる。
【0046】
また、図3に示すように図2と同じ格子縞をx軸方向に微小距離

xだけ移動させると、x軸上の点xでの反射光(回折光20)の位相は入射平行光19の位相とπだけ異なる。ところで、x座標が

xの点における入射平行光19の位相は座標原点における位相より2π

xsinθi/λだけ遅れ、x座標が

xの点における反射光の位相は座標原点における位相より2π

xsinθi/λだけ進む。
【0047】
したがって、座標原点における入射平行光19と回折光20との間の位相差は反射型格子縞18の移動によってシフトすることとなる。位相差のシフト量は(数2)によって表される。
【0048】
【数2】

【0049】
(数2)に(数1)式の関係を代入すると、位相シフト量は(数3)によって表すことができる。換言すると、格子縞を微小距離

xだけ移動させると入射平行光19と回折光20との位相差

φは2πm

x/dだけシフトすることとなる。
【0050】
【数3】

【0051】
(数3)において注目すべき点は、位相シフト量

φが波長λに対する依存性を持たないことである。したがって、反射型格子縞18の移動によって種々の波長をもつ光の位相を同時に同じ値だけシフトできる。例えば、図4に示すように、1次回折光の回折角θdが等しくなるよう赤色(入射角θiR)、緑色(入射角θiG)、青色(入射角θiB)の3原色光(入射平行光)のそれぞれに対して、赤色、緑色、青色の回折光20の位相は同時に同じ値だけシフトできる。
【0052】
本実施の形態では、反射型格子縞18を移動して正確な位相シフトを行うために、例えば空間光変調素子(反射型液晶パネル4)として画素ピッチの精度が高い高精細液晶表示パネルなどを用いる。液晶表示パネルを用いると反射型格子縞18の位置と間隔を電子的に切り換えることができるので、赤色、緑色、青色の回折光の位相を正確かつ高速にシフトさせることが可能となる。例えば、画素ピッチがaの反射型空間光変調素子の上に表示した間隔d=2aの反射型格子縞18を1画素ピッチ

x=aだけ平行移動させると、1次回折光の位相シフト量は赤色、緑色、青色の3原色の光に対してそれぞれφ=πとなる。格子間隔をd=4a、移動距離を

x=a,2a,3aとした場合、1次数回折光の位相シフト量はφ=π/2、π、3π/2となる。
【0053】
光のビーム径が小さい場合には、回折角に広がりが生じ、これによって回折光のビーム径が広がってしまう。しかし、この回折角の広がり

θdは(波長/入射光ビーム径)程度の大きさになるので、光のビーム径を波長より十分に大きく取れば回折光のビーム広がりを容易に小さく抑えることができる。
【0054】
空間光変調素子を用いた位相シフト法では、表示格子縞の移動によって光位相を高い精度でシフトさせることができるので、光の位相検出や光位相調整のための装置が不要である。したがって、この位相シフト方法を用いると位相シフトホログラフィによる3次元カラー画像記録装置の構成が簡単になる。また、この位相シフト方法では、位相シフト量が光波長に依存しないので、赤色、緑色、青色の3原色参照光の位相を同時にシフトさせることができる。したがって、赤色、緑色、青色の3原色光を分離して記録すればカラー画像に対して赤色、緑色、青色のホログラムの同時記録が可能になる。
【0055】
図5はカラーCCD17で記録した記録ホログラムの一例を示す図であり、図6は記録ホログラムから得られた位相シフトホログラムの一例を示す図である。図5および図6では、干渉縞を256階調に正規化して表している。図5では、位相シフトをする前の記録ホログラム51とその拡大画像(ホログラム52)を示しており、図6では本実施の形態に係る位相シフトホログラム61とその拡大画像(ホログラム62)を示している。
【0056】
記録ホログラム51の画素数は1920×1080であり、記録ホログラム51を拡大したホログラム52(拡大図)の画素数は300×200である。ホログラムへの画像記録の際には、物体光と参照光とが作る干渉縞成分の他に物体光同士が作る干渉縞成分も記録される。物体光波面の再生には前者の干渉縞成分のみが必要であり、後者の干渉縞成分は波面再生には不要である。また、図5に示すように、干渉縞成分の光強度は全体の光強度に比べて小さくなる。参照光の位相を変えて記録した2枚のホログラム52を使うと位相シフトホログラフィによって画像再生に必要な成分のみを取り出すことができる。この取り出した成分のみを256階調に正規化して表したホログラム52を図6に示している。図6の位相シフトホログラム61では、図5の記録ホログラム51と比較して鮮明でコントラストの大きい干渉縞を得られるので、鮮明なホログラム52を得ることができる。
【0057】
本実施の形態のホログラフィック素子の一例について説明する。図7は、本実施の形態のホログラフィック素子の一例を説明するための図である。ホログラフィックレンズ23は、例えばフォトポリマやハロゲン化銀ゼラチンなどの感光性材料にホログラムを形成した回折光学素子である。
【0058】
焦点位置から点光源25によって球面波26を発生させるとともに、想定した入射光28の方向とは逆の方向から感光性材料の基板(記録材料)24に対して平行光27を入射させて基板24を感光させると、その内部の屈折率の変化によって、基板24に回折格子(干渉縞による回折格子)が形成される。この回折格子による光の回折現象を利用して光の進行方向を曲げることにより、入射光28を一点に集め、画像を結像させることが可能となる。
【0059】
ホログラフィックレンズ23に、入射光(入射平行光)28を入射させると入射光28はホログラフィックレンズ23の回折格子で回折され、進行方向を曲げられた出射光29となって、ホログラフィックレンズ23を出て行く。ホログラフィックレンズ23は、この出射光29をホログラフィックレンズ23の中心を通る光軸30上の焦点31に結像させることによって、レンズとしての機能を果たすこととなる。
【0060】
なお、ホログラフィックレンズ23の感光材料にホログラムを形成する方法に限らず、透過型空間変調素子を用い、位相シフトホログラムをこの透過型空間変調素子で形成してもよい。換言すると、空間変調素子4とは異なる他の空間変調素子を用いて作成されたホログラムを空間変調素子4(ホログラム素子)に用いてもよい。この場合、他の空間変調素子を用いて作成されたホログラム(干渉縞)を所定の記録装置によって記録し、記録した干渉縞をホログラム素子とする。
【0061】
また、本実施の形態では、物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録してホログラムを作成したが、拡散板を通して波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録してスクリーン(ホログラム)を作成してもよい。また、レンズを通して波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録してホログラムレンズ(ホログラム)を作成してもよい。また、曲率を有した反射面を用いて波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録してホログラムレンズを作成してもよい。
【0062】
また、カラー位相シフトホログラム記録装置は、外部入力される指示に基づいて所定の波面を形成する回折格子によって物体光の波面を変換する波面形成ホログラムを備える構成としてもよい。この場合、波面形成ホログラムを用いて波面が変換された物体光と参照光とを干渉させた際の干渉縞を記録してホログラムレンズを作成する。
【0063】
このように、表示格子縞の切り換えを電子的な操作で高速に行うことができるとともに、RGB画像を同時に記録できるので、赤色、緑色、青色の三色の干渉縞を高速で記録することが可能となる。
【0064】
また、空間光変調素子を用いた位相シフト方法では、表示格子縞の移動によって光位相を高い精度でシフトさせることができ、光の位相検出や光位相調整のための装置が不要となる。したがって、この位相シフト方法を用いると位相シフトホログラフィによる3次元カラー画像記録装置の構成が簡易な構成となる。さらに、装置構成を簡易な構成にできるので、コンパクトで安価な干渉縞を高速に記録できる。
【0065】
また、位相シフト方法では位相シフト量が光波長に依存しないので、赤色、緑色、青色の3原色の参照光の位相を同時にシフトさせることができる。これにより、赤色、緑色、青色の3原色の光を分離して記録するとカラー画像に対して赤色、緑色、青色の各ホログラムの同時記録が可能となる。
【0066】
また、参照光の位相を変えて記録した2枚のホログラムを使うと位相シフトホログラフィによって画像再生に必要な成分のみを取り出すことができ、鮮明でコントラストの大きい干渉縞を得ることができ、鮮明なホログラム素子を得ることができる。
【0067】
このように、実施の形態によれば、液晶表示パネルなどを用いて反射型格子縞の位置と間隔を電子的に切り換えるので、位相シフトホログラムレンズは赤色、緑色、青色の三色のレーザ光源を同時に同じ光学系上で干渉させて容易にホログラムを形成することができる。また、参照波を位相シフトさせることによって正確かつ高速に鮮明でコントラストの大きい干渉縞が得られ、簡易な構成で各波長による色収差の発生を押さえた鮮明なホログラムを容易に得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係るホログラム作成装置およびホログラム作成方法は、映像技術分野、アミューズメント分野、エンターテイメント分野、インターネット分野、情報分野、マルチメディア分野、コミュニケーション分野、広告・宣伝分野、医療分野、芸術分野、教育分野、設計支援分野、シミュレーション分野、バーチャルリアリティ分野などで使われるカラー表示用ホログラムやレーザ光源またはLED光源を使用した画像の表示に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係るカラー位相シフトホログラム記録装置の構成を示す図
【図2】空間光変調素子の格子縞に入射する入射平行光と回折光を説明するための図
【図3】空間光変調素子の格子縞に入射する入射平行光と回折光を説明するための図
【図4】赤色、緑色、青色入射光と回折光の位相シフトを説明するための図
【図5】カラーCCDで記録した記録ホログラムの一例を示す図
【図6】記録ホログラムから得られた位相シフトホログラムの一例を示す図
【図7】本実施の形態のホログラフィック素子の一例を説明するための図
【符号の説明】
【0070】
1 赤色レーザ光発振器
2 緑色レーザ光発振器
3 青色レーザ光発振器
4 反射型液晶パネル(空間光変調素子,ホログラム素子)
5 参照光
6 絞り
7 パーソナルコンピュータ
8,14A,14B,16 ビームスプリッタ
9 照明光
10,11 対物レンズ
12,13 コリメータレンズ
15 物体光
16 凸レンズ
17 カラーCCD
18 反射型格子縞
19 入射平行光
20 回折光
21 鏡面反射部
22 吸収部
23 ホログラフィックレンズ
24 基板(記録材料)
25 点光源
26 球面波
27 平行光
28 入射光(入射平行光)
29 出射光
30 光軸
31 焦点
51 記録ホログラム
52 ホログラム
61 位相シフトホログラム
62 ホログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の前記記録対象物からの反射光を物体光として前記ホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光として前記ホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成装置において、
前記他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する空間変調素子を備え、
前記空間変調素子は、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる前記各レーザ光を、前記格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光として前記記録材料側に反射し前記ホログラムを作成することを特徴とするホログラム作成装置。
【請求項2】
前記空間変調素子は、反射型の液晶パネルであることを特徴とする請求項1に記載のホログラム作成装置。
【請求項3】
前記空間変調素子は、デジタルミラーデバイスパネルであることを特徴とする請求項1に記載のホログラム作成装置。
【請求項4】
前記空間変調素子は、前記空間変調素子の画素ピッチが前記格子縞の格子間隔の半分の距離である場合、前記格子縞を格子間隔の半分だけ前記格子縞の配置方向に移動させて表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項5】
前記空間変調素子は、前記空間変調素子の画素ピッチが前記格子縞の格子間隔の1/4の距離である場合、前記格子縞を格子間隔の1/4、2/4または3/4だけ前記格子縞の配置方向に移動させて表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項6】
前記物体光の波面を変換する拡散板をさらに備え、
前記拡散板を通して波面が変換された物体光と前記参照光とを干渉させた際の干渉縞を前記記録材料に形成したスクリーンをホログラムとして作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項7】
前記物体光の波面を変換するレンズをさらに備え、
前記レンズを通して波面が変換された物体光と前記参照光とを干渉させた際の干渉縞を前記記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項8】
前記物体光の波面を変換する曲率を有した反射面をさらに備え、
前記反射面を用いて波面が変換された物体光と前記参照光とを干渉させた際の干渉縞を前記記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項9】
外部入力される指示に基づいて所定の波面を形成する回折格子によって前記物体光の波面を変換する波面形成ホログラムをさらに備え、
前記波面形成ホログラムを用いて波面が変換された物体光と前記参照光とを干渉させた際の干渉縞を前記記録材料に形成したホログラムレンズをホログラムとして作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項10】
前記記録材料としてフォトポリマを用いたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項11】
前記空間変調素子は、当該空間変調素子とは異なる他の空間変調素子によって作成されたホログラム素子であって、かつ当該ホログラム素子は、前記他の空間変調素子が、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる各レーザ光を、自素子が表示する格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせ、位相シフト後のレーザ光を参照光として干渉縞の記録装置側に反射して作成したものであり、
前記空間変調素子は、前記他の空間変調素子によって作成され前記記録装置によって記録された干渉縞に応じた格子縞を表示することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のホログラム作成装置。
【請求項12】
複数色のレーザ光源から出射されるレーザ光を分割し、分割後の一方のレーザ光をホログラムの記録対象物に照射した際の前記記録対象物からの反射光を物体光として前記ホログラムの記録材料に照射するとともに、分割後の他方のレーザ光を参照光として前記ホログラムの記録材料に照射してホログラムを作成するホログラム作成方法において、
空間変調素子が前記他方のレーザ光を位相シフトさせる格子縞を表示する格子縞表示ステップと、
前記空間変調素子が、一次回折光が直線上で重なるよう設定されて入射してくる前記各レーザ光を、前記格子縞の表示位置を移動させることによって同時に位相シフトさせる位相シフトステップと、
位相シフト後のレーザ光を参照光として前記記録材料側に反射し前記ホログラムを作成するホログラム作成ステップと、
を含むことを特徴とするホログラム作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−36791(P2009−36791A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198379(P2007−198379)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】