説明

ホース補強用ポリエステル繊維コード及びそれを用いてなるブレーキホース

【課題】ブレーキ液の浸透による繊維コード自身の強力低下が少なく、かつ、寸法安定性に優れ、長期間使用しても疲労が少なく耐久性に優れたホースが得られる、ホース補強用ポリエステル繊維コードを提供する。また、寸法安定性及び耐久性に優れたブレーキホースを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート繊維と、該ポリエチレンテレフタレート繊維に対し、10〜80重量%のポリエチレンナフタレート繊維が混撚されてなるホース補強用ポリエステル繊維コードとする。また、少なくとも2層のゴム層からなるブレーキホースであって、上記ホース補強用ポリエステル繊維コードを、ブレーキ液が充填される最内層ゴムの外周に配してなることを特徴とするブレーキホースとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース補強用ポリエステル繊維コード及びそれを用いてなるブレーキホースに関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、ブレーキ液が充填される最内層ゴムの外周に配されることにより、ブレーキホースの耐久性及び寸法安定性を著しく向上させることが可能なホース補強用ポリエステル繊維コード及びそれを用いてなるブレーキホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、種々の優れた特性を有するため、タイヤ、ホース、Vベルト、コンベアベルト等のゴム構造物補強用に広く使用されている。特にホース分野においては、例えば自動車エンジンルーム中で使用されるゴムホースは、エンジンルームのコンパクト化、高温化に伴い、該ゴムホースを補強するためのポリエステル繊維にも高度な物性が要求されるようになってきた。従来、ゴム構造物補強用ポリエステル繊維の特性としては、例えばタイヤコード用に代表されるように、高強力化、高モジュラス性、低収縮性、耐疲労性等が要求され、これらの特性に優れたポリエステル繊維が、例えば特許文献1〜4等に提案されている。かかる繊維は、例えばラジアルタイヤのカーカス材に用いた場合には、タイヤ性能の向上やタイヤの生産性向上に大きく貢献するものとなる。
【0003】
しかしながら、このような特性を有するポリエステル繊維を、ブレーキホース用として用いた場合、ブレーキ液の浸透により、繊維コードの強力が低下し、ブレーキホースの寿命が短くなるという問題と、ホースの寸法安定性が悪く、ブレーキの効きが悪くなるという問題を抱えている。
【特許文献1】特開平1−282306号公報
【特許文献2】特開昭57−154411号公報
【特許文献3】特公昭63−528号公報
【特許文献4】特公平3−23644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、ブレーキ液の浸透による繊維コード自身の強力低下が少なく、かつ、寸法安定性に優れ、長期間使用しても疲労が少なく耐久性に優れたホースが得られる、ホース補強用ポリエステル繊維コードを提供することにある。また、寸法安定性及び耐久性に優れたブレーキホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の2種類のポリエステル繊維を選定し、これらの繊維を混撚した繊維コードとすることにより所望のホース補強用繊維コードが得られること、さらに該繊維コードにより補強したホースとすることに所望のブレーキホースが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
かくして本発明によれば、ポリエチレンテレフタレート繊維と、該ポリエチレンテレフタレート繊維に対し、10〜80重量%のポリエチレンナフタレート繊維が混撚されてなるホース補強用ポリエステル繊維コード、及び、少なくとも2層のゴム層からなるブレーキホースであって、請求項1〜3のいずれかに記載のホース補強用ポリエステル繊維コードを、ブレーキ液が充填される最内層ゴムの外周に配してなることを特徴とするブレーキホースが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホースを長期間使用した場合においても、強力低下が起こり難いホース補強用ポリエステル繊維コードが提供される。また、該繊維コードを用いることにより寸法安定性及び耐久性に優れたホースを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のホース補強用ポリエステル繊維コードは、ポリエチレンテレフタレート繊維と、ポリエチレンナフタレート繊維とが混撚されてなる繊維コードである(以下、単にコードと称することがある)。
【0009】
本発明において使用するポリエチレンテレフタレート繊維とは、ポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを常法により紡糸、延伸することにより得られる繊維である。
【0010】
上記ポリエチレンテレフタレート繊維は、その単繊維繊度、フィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造などには特に限定を受けるものではなく、目的に応じて適宜選択設定すればよい。また、上記ポリエチレンテレフタレート繊維には撚糸が施されていても良い。
【0011】
また、本発明において使用するポリエチレンナフタレート繊維とは、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)に代表されるポリエチレンナフタレートポリマーを通常の紡糸延伸法に供することにより得られた繊維であり、該ポリエチレンナフタレートは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を90モル%以上含んでいればよく、10モル%以下の割合で適当な第3成分を含む重合体であっても差し支えない。
【0012】
一般にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下適当な反応条件のもとにエチレングリコールと縮重合せしめることにより合成することができる。この際、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重合完結前に、1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合体が合成される。
【0013】
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成性官能基を有する化合物;例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのジカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸p―オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0014】
上記ポリエチレンナフタレート中には、二酸化チタンなどの艶消剤やリン酸、亜リン酸およびそれらのエステルなどの安定剤が含まれていてよいことはいうまでもない。
【0015】
また、ポリエチレンナフタレートの固有粘度は、0.65以上、特に0.7〜1.0の範囲であることが好ましい。ここでいう固有粘度は、ポリマーあるいは延伸前の未延伸糸をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒に(容量比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。固有粘度が0.65未満では、補強用繊維として要求される高強度、高タフネスな糸質の繊維を得難くなる。一方、1.0を超える場合には、紡糸工程が不良となりやすく、実用上望ましくない。
【0016】
上記ポリエチレンナフタレート繊維は、その単繊維繊度、フィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造などには特に限定を受けるものではなく、目的に応じて適宜選択設定すればよい。また、上記ポリエチレンナフタレート繊維には撚糸が施されていても良い。
【0017】
上記のポリエチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンナフタレート繊維は、長繊維であっても短繊維であっても良いが、強度やモジュラスの点からは長繊維であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、本発明の繊維コードが、上記ポリエチレンテレフタレート繊維に対し、10〜80重量%、好ましくは30〜70重量%のポリエチレンナフタレート繊維が混撚された繊維コードであることが肝要である。すなわち、上記繊維コードにおいては、ポリエチレンテレフタレート繊維の混繊率が90〜20重量%であり、ポリエチレンナフタレート繊維の混撚率が10〜80重量%である。ポリエチレンナフタレート繊維の混撚率が10重量%未満の場合は、ブレーキ液の浸透により、ホースを長期間運転した場合に繊維コードの強力低下が発生し易くなり、ホースの耐久性が劣ることになる。一方、該ポリエチレンナフタレート繊維の混撚率が80重量%を越える場合は、ポリエチレンナフタレート繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維に比べて耐疲労性が劣るため、やはりホースの耐久性が劣ることになる。
【0019】
本発明においては、150℃で30分保持した際の乾熱収縮率(%)は、2.5%以下であることが好ましい。2.5%を超える場合は、ホースが内径収縮を起こし易くなる傾向にあり好ましくない。
【0020】
また、繊維コードの1%モジュラスは、80〜160cN/dtexであることが好ましく、100〜160cN/dtexであることがより好ましい。1%モジュラスが80cN/dtex未満の場合は、ホースが膨張しやすくなる傾向になり、好ましくない。圧力を加えた際に、ブレーキ液が内層ゴムを押し広げてしまうため、ブレーキの効き(レスポンス)が悪くなるからである。また、1%モジュラスが160cN/dtexを超えてもホースの膨張を抑制する効果はそれほど急減に向上せず、160cN/dtex以下でも十分な効果を得ることができる。
【0021】
上記繊維コードは、公知の方法により、たとえばリング撚糸機を用いて、撚糸することにより成形することができる。本発明において、繊維コードの撚数は、30〜200T/mが好ましく、30〜150T/mがより好ましい。
【0022】
上記繊維コードは、各種ホースの補強用繊維として有用であるが、特に、少なくとも2層のゴム層からなるブレーキホースとし、ブレーキ液が充填される最内層ゴムの外周に、例えば、スパイラル構造またはブレード構造で上記繊維コードを配したブレーキホースは、高モジュラスでかつ熱収縮率を低減させ、寸法安定性に優れたものであり、好ましい態様である。例えば、内層と外層の2層のゴム層からなるホースの場合は、本発明の繊維コードを、公知の方法、例えば、チューブゴムよりなる内層の上にブレーダーにより所定密度になるよう、得られた繊維コードを所定の角度を付けて配設する。次いで、繊維コードを保護するためのカバーゴムからなる外層を配設した後、これを例えば蒸気加硫釜中で蒸気加硫してホースとなすことができる。なお、上記繊維コードの配設はスパイラル構造にしてもよい。ここで、内層及び外層のゴムとしては、従来と同様に、内層はNBR、CR、水素化NBR(HNBR)、CSMなどが用いられ、層間はNBR、外層はNBR、CR、CSMなどが使用される。
【0023】
また、上記ホースにおいては、内層と外層の間に1層以上の中層のゴム層を設けてもよく、例えば、該中層のゴムには上記の内層に用いるゴムを使用することができる。この場合は、チューブゴムよりなる最内層の上にブレーダーにより繊維コードを配設した後、次いで、この上に層間ゴムシートを配した後、再度繊維コードをブレーダーにより配設し、カバーゴムからなる外層を配設すればよい。なお、最内層と中層の外周への繊維コードの配設は共にスパイラル構造としてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および効果をさらに詳細に説明する。尚、実施例における各物性は以下の方法により求めたものである。
(1)繊維コードの1%モジュラス
JIS L 1017に基づいて測定した。
(2)繊維コードの耐ブレーキ液性
繊維コードをブレーキ液(日産純正ブレーキフルード No.2500 NR−3)中に浸漬させ、125℃で200時間経過させた後の繊維コードについて、JIS L 1017に基づいて、引張強力を測定した。浸漬前後の引張強力から保持率を求め、次のように判定した。
◎:75%より大きい、○:60〜75%、×:60%未満
(3)ホースの長期耐疲労性
長さ50cmのゴムホースに、圧力が5kg/cm、温度が150℃の湿熱蒸気を通じながら30日間放置し、ホース表面の亀裂有無から、次のように判定した。
◎:亀裂なし、○:亀裂1〜3個、×:亀裂4個以上
(4)ホースの寸法安定性
上記処理前後のホース長さを測定し、その寸法変化の割合から、次のように表した。
◎:3%未満、○:3〜5%、×:5%より大きい
【0025】
[実施例1]
総繊度1100dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製、P952AL 1100T)を2本と、同じく総繊度1100dtexのポリエチレンナフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製、Q904N 1100T)を1本とを、引き揃えて撚数80T/mで撚糸し、繊維コードを得た。
【0026】
さらに該繊維コードに、接着処理剤としてエポキシ及びイソシアネートを付着せしめた後、150℃にて120秒間、240℃にて60秒間熱処理を実施し、さらにRFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)を付着せしめて、170℃にて120秒間、240℃にて60秒間熱処理を実施した。
【0027】
次に、得られた処理コードを補強材として用い、内層、外層のゴムとしてNBRを用いて、常法によりブレーキホースとして用いることができるゴムホースを製造した。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
実施例1で用いた、総繊度1100dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製、P952AL 1100T)、総繊度1100dtexのポリエチレンナフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製、Q904N 1100T)、及び、総繊度560dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製、P904B 560T)をそれぞれ、表1に記載する本数を引き揃えて撚数80T/mで撚糸した。それ以外は、実施例1と同様にしてブレーキホースとして用いることができるゴムホースを製造した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、ホースを長期間使用した場合においても、強力低下が起こり難いホース補強用繊維コードが提供される。また、該繊維コードからは、これをブレーキ液が充填される内層ゴムの外周に補強コードとして用いた場合、耐久性良好かつ寸法安定性良好なブレーキホースを得ることができるため、本発明は産業上の利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート繊維と、該ポリエチレンテレフタレート繊維に対し、10〜80重量%のポリエチレンナフタレート繊維が混撚されてなるホース補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項2】
繊維コードの150℃で30分保持した乾熱収縮率が、2.5%以下である請求項1記載のホース補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項3】
繊維コードの1%モジュラスが80〜160cN/dtexである請求項1または2記載のホース補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項4】
少なくとも2層のゴム層からなるブレーキホースであって、請求項1〜3のいずれかに記載のホース補強用ポリエステル繊維コードを、ブレーキ液が充填される最内層ゴムの外周に配してなることを特徴とするブレーキホース。

【公開番号】特開2009−138309(P2009−138309A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318254(P2007−318254)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】