説明

ホーニング加工方法

【課題】 内径の異なる複数のボアについて、単一のホーニングヘッドを使用して順次適切にホーニング加工を行うこと。
【解決手段】 本発明のホーニング加工方法は、ヘッド周面1aにて出退動可能な砥石4を有するホーニングヘッドHを、ワークWの第1ボアBの内部にて回転駆動しつつ、砥石4を研削送り出し駆動することにより、第1ボアBの表面を研削加工する第1工程と、この後に、第1ボアBとは異なる初期直径を有する第2ボアBの内部にてホーニングヘッドHを回転駆動しつつ、砥石4を研削送り出し駆動することにより、第2ボアBの表面を研削加工する第2工程とを含む。第1工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第1ボア表面および砥石先端の間の第1開始距離と、第2工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第2ボア表面および砥石先端の間の第2開始距離とは、異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンブロックに形成されたシリンダボアの表面仕上げに利用することのできる、ホーニング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中ぐり盤などを使用してボアが粗形成された金属ワークについては、当該ボアにおいて高精度な内径寸法や良好な表面粗さを達成すべく、ボア表面に研削仕上げが施される場合がある。例えばエンジンブロックに形成されるシリンダボアでは、内径寸法について求められる精度が特に厳しく、一般に、研削仕上げとしてホーニング加工が施される。ホーニング加工において使用されるホーニング加工機は、ヘッド周面から所望の長さ砥石を送り出すことが可能な円柱状のホーニングヘッドを備え、このホーニングヘッドをボア内にて回転駆動しつつ砥石を送り出すことにより、ボア表面のホーニング加工を行う。このようなホーニング加工技術については、例えば下記の特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平3−26460号公報
【特許文献2】特開平9−85623号公報
【0004】
シリンダボアの表面に対するホーニング加工は、エンジンブロックの製造ラインにおいて行われる。具体的には、エンジンブロックの製造ラインに付設されたホーニング加工機により、当該ラインを流れる複数のエンジンブロックのシリンダボアに対してホーニング加工が順次施される。従来のホーニング加工技術においては、ホーニング加工機のホーニングヘッドは、研削仕上げの対象であるシリンダボアの内径に応じて、当該内径よりも僅かに小さな外径を有するように設計される。したがって、研削仕上げ対象の複数のシリンダボアにおいて内径の異なるものが存在する場合には、従来の技術によると、当該内径ごとに外径が設計された複数のホーニングヘッドを用意する必要がある。
【0005】
単一のエンジンブロック製造ラインにおいて、内径の異なる複数のシリンダボアに対するホーニング加工が要求される場合には、例えば、外径の異なる複数のホーニングヘッドを単一のホーニング加工機に具備し、製造ライン上のホーニング加工工程にて、加工対象ボアの内径に応じた外径を有するホーニングヘッドに適宜切り替えて、各シリンダボアについてホーニング加工を行うという手法を採用し得る。しかしながら、この場合、ホーニング加工機において、ホーニングヘッドを切り替えるためのATC機構が必要となってしまう。
【0006】
単一のエンジンブロック製造ラインにおいて、内径の異なる複数のシリンダボアに対するホーニング加工が要求される場合には、或は、ホーニングヘッドの外径が異なる複数のホーニング加工機を単一の製造ラインに常設し、各シリンダボアについて、対応する外径のホーニングヘッドを有する加工機にてホーニング加工を行うという手法を採用し得る。しかしながら、この場合、単一のエンジンブロック製造ラインにおいて、複数のホーニング加工機が必要となってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、内径の異なる複数のボアについて、単一のホーニングヘッドを使用して順次適切にホーニング加工を行うことができる方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面により提供されるホーニング加工方法は、第1工程およびその後の第2工程を含む。第1工程では、ヘッド周面と当該ヘッド周面にて出退動可能な砥石とを有するホーニングヘッドをワークの第1ボアの内部にて回転駆動しつつ、砥石を研削送り出し駆動することにより、第1ボアの表面を研削加工する。第2工程では、第1ボアとは異なる初期直径を有する第2ボアの内部にてホーニングヘッドを回転駆動しつつ、砥石を研削送り出し駆動することにより、第2ボアの表面を研削加工する。本方法では、第1工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第1ボアの表面と砥石の先端との間の第1開始距離、および、第2工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第2ボアの表面と砥石の先端との間の第2開始距離は、異なる。本発明において、ホーニングヘッドの回転駆動とは、ヘッド周面を側面として有する円柱状のホーニングヘッドを、理想的には当該円柱の回転対称軸まわりに回転させるための駆動をいう。また、本発明において、砥石の研削送り出し駆動とは、ボアが所定の仕上がり内径を有するようになるまで(即ち、ボア表面の研削仕上げ終了するまで)、ヘッド周面にて出退動可能な砥石のヘッド周面からの延出長さを調節するための駆動をいい、送り出し速度や送り出し長さ等が各段階について予め設定された複数の連続する段階からなる。
【0009】
このような構成のホーニング加工方法によると、内径の異なる複数のボアについて、単一のホーニングヘッドを使用して順次適切にホーニング加工を行うことができる。
【0010】
ホーニング加工においては、ボアが形成されているワークのボア表面に対する加工(研削加工)ごとに、ホーニングヘッドの砥石は研磨され、当該砥石の先端面は、研削仕上げされたボア表面に対応した形状となる。具体的には、各ホーニング加工終了時における砥石の先端面は、研削仕上げされたボア表面の曲率(ボア横断面に現れる円の曲率)に対応した曲率を有することとなる。また、一般に、ホーニング加工の前後でのボア径の変化量は当該ボア径に対して極めて小さいので、ホーニング加工の前後において、ボア表面の曲率は実際上不変とみなし得る。したがって、同一内径の複数のボアに対して単一のホーニングヘッドを用いてホーニング加工を順次行う場合には、各加工開始時におけるボア表面と砥石先端面との形状的な相対関係は略同一である。具体的には、加工開始時におけるボア表面と砥石先端面は、例えば図7に示すように、毎回、略平行である(図7には、ボア横断面の一部と、ボア表面に対向する砥石の部分断面とを表し、ボア表面と砥石先端面との形状的な相対関係を模式的に示す。図8,9においても同様である)。この場合、当該複数のホーニング加工にわたって、同一条件の研削送り出し駆動を同一の開始距離(研削送り出し駆動開始時のボア表面と砥石先端面の間の距離)から始動することにより、当該複数のボアについて均質な仕上がりを達成することができる。
【0011】
しかしながら、単一のホーニングヘッドを用いて行う複数のホーニング加工において、内径の異なるボアへと加工対象ボア種が変更される場合、変更前後の両ホーニング加工の加工開始時におけるボア表面および砥石先端面の形状的な相対関係は異なる。
【0012】
例えば、ボア径φ1の所定数のボアX1に対してホーニング加工を施した後、ボア径φ2(<φ1)のボアX2に加工対象ボア種が変更される場合、変更直前のボアX1に対する加工の開始時におけるボア表面および砥石H’の先端面は、例えば図8(a)に示すように平行であるのに対し、変更直後のボアX2に対する加工の開始時におけるボア表面および砥石H’の先端面は、例えば図8(b)に示すように平行でない。図8(b)に示す砥石H’の先端面は、ボアX2の表面よりも有意に小さな曲率を有する。このような砥石H’をボア表面に向けて研削送り出し駆動すると、まず、図8(c)に示すようにボア表面に対して砥石H’の角部のみが当接してしまう。
【0013】
また、例えば、ボア径φ3の所定数のボアX3に対してホーニング加工を施した後、ボア径φ4(>φ3)のボアX4に加工対象ボア種が変更される場合、変更直前のボアX3に対する加工の開始時におけるボア表面および砥石H’の先端面は、例えば図9(a)に示すように平行であるのに対し、変更直後のボアX4に対する加工の開始時におけるボア表面および砥石H’の先端面は、例えば図9(b)に示すように平行でない。図9(b)に示す砥石H’の先端面は、ボアX4の表面よりも有意に大きな曲率を有する。このような砥石H’をボア表面に向けて研削送り出し駆動すると、まず、図9(c)に示すように砥石H’の先端面の中央線のみがボア表面に当接してしまう。
【0014】
ホーニング加工においては、砥石がボア表面に接触し始める際の当接態様が、最終的なボア表面の仕上がり状態に多大な影響を及ぼす。そのため、図8や図9に示すように、異なる内径を有するボアへと加工対象ボア種が変更される場合、当該変更の前後の両ホーニング加工において同一の開始距離から同一の研削送り出し駆動を開始すると、当該変更の前後の両ボアについて均質な表面仕上がり状態を達成することができない場合が多い。例えば、研削送り出し駆動の各段階に含まれる諸条件(送り出し距離,送り出し速度など)や開始距離を、変更前のボア種に応じて設定する場合には、変更直後のボアについて良好な表面仕上がり状態を得ることができないことが多い。
【0015】
これに対し、本発明の第1の側面によると、異なる内径のボアへの加工対象ボア種の変更の前後の両ホーニング加工において異なる開始距離を採用することにより、当該変更に対して適切に対応することができる。
【0016】
研削送り出し駆動は、上述のように、送り出し速度や送り出し長さの異なる複数の段階からなり、一般に、第1段階の送り出し速度が、最も高速に、即ち最も粗削り条件に、設定される。また、研削送り出し駆動ないしその第1段階は、砥石がボア表面から所定距離(開始距離)離れた箇所に位置する状態で開始され、且つ、当該第1段階の送り出し長さは、駆動開始位置から一定の長さで開始距離より長い値に設定される。すなわち、砥石は、第1段階の途中でボア表面に初めて研削当接することとなる。本発明の第1の側面では、異なる内径のボアへの加工対象ボア種の変更に応じてホーニング加工における開始距離を適宜変更することにより、第1段階での研削量(最も粗削り条件での研削量)を調節することができる。第1段階研削量の調節により、ボア表面に対する砥石の初めての研削当接の態様の相違を抑制ないし吸収して、ボア表面の最終的な仕上がり状態を調整することができる。このようにして、本発明の第1の側面によると、内径の異なる複数のボアについて、単一のホーニングヘッドを使用して順次適切にホーニング加工を行うことができるのである。
【0017】
本発明の第2の側面により提供されるホーニング加工方法は、第1作業およびその後の第2作業を含む。第1作業では、ヘッド周面と当該ヘッド周面にて出退動可能な砥石とを有するホーニングヘッドをワークの第1ボアの内部にて回転駆動しつつ、砥石を研削送り出し駆動することにより、第1ボアの表面を研削加工する第1工程を、複数の第1ボアについて順次行う。第2作業では、第1ボアとは異なる初期直径を有する第2ボアの内部にてホーニングヘッドを回転駆動しつつ、砥石を研削送り出し駆動することにより、第2ボアの表面を研削加工する第2工程を、複数の第2ボアについて順次行う。本方法では、第1工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第1ボアの表面と砥石の先端との間の第1開始距離、および、第2作業における初めから少なくとも1つの第2工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第2ボアの表面と砥石の先端との間の第2開始距離は、異なる。加えて、第2作業における残りの第2工程において研削送り出し駆動を開始する時の、第2ボアの表面と砥石の先端との間の第3開始距離、および、第2開始距離は、異なる。
【0018】
このような構成のホーニング加工方法は、上述の第1の側面に係る構成を含む。したがって、本発明の第2の側面によっても、当該第1の側面に関して上述した効果が奏される。
【0019】
本発明の第2の側面において、好ましくは、第1開始距離と第3開始距離とは同一とする。上述のように、第2作業における初めから所定数の第2ボアについては、第2開始距離から送り出し駆動を開始し、その後の残りの第2ボアについては、当該第2開始距離とは異なる第3開始距離から送り出し駆動を開始する。このような第3開始距離については、第1開始距離と同一に設定するのが好ましい場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係るホーニング加工方法を実施するのに使用することのできるホーニングヘッドHの部分断面図であり、図2は、図1の線II−IIに沿った断面図である。ホーニングヘッドHは、所定のホーニング加工機(図示せず)に備え付けられており、ヘッド本体1と、スピンドル2(一部省略)と、シュー3と、砥石4と、テーパコーン5と、ロッド6(一部省略)とを備える。
【0021】
ヘッド本体1は、周面1aを有し、且つ、内部にコーン収容室1bおよび複数のスリット1cを有する。複数のスリット1cは、図2によく表れているように、周面1aおよびコーン収容室1bにて開口し、ヘッド本体1の周方向に等角度間隔で設けられている。各スリット1cには、シュー3が配設されており、各シュー3の外方端部には、所定材料よりなる砥石4が固定されている。テーパコーン5は、所定のテーパ面5aを有し、ヘッド本体1のコーン収容室1bに収容されている。シュー3の内方端部は、図1に示すように、テーパコーン5のテーパ面5aに平行なテーパ形状を有する。テーパコーン5は、所定の弾性部材の作用により、図1における下方に向けて付勢されており、且つ、各シュー3は、所定の弾性部材の作用により、ヘッド本体1の径方向に沿って内側に向けて付勢されている。そのため、テーパコーン5のテーパ面5aとシュー3の内方端部とは、当接状態が維持される。
【0022】
スピンドル2は、その一端側においてヘッド本体1と連結されており、内部にロッド6が配設されている。スピンドル2の他端側は、ホーニングヘッドHを図1の上下方向に並進駆動させるための第1シリンダ(図示せず)、および、ホーニングヘッドHを回転駆動するためのモータ(図示せず)に、連結されている。これら第1シリンダおよびモータは、各々独立にホーニングヘッドHを駆動することができるように当該スピンドル2に連結されている。スピンドル2内のロッド6の一端部は、スピンドル2からヘッド本体1に延出し、テーパコーン5に固定されている。ロッド6の図示しない他端部は、ロッド6を介してテーパコーン5を図1の上下方向に並進駆動するための、スピンドル2内に配設された第2シリンダ(図示せず)に連結されている。
【0023】
ホーニングヘッドHは、加工対象のボアの内径を定寸するための定寸手段(図示せず)を更に有する。当該定寸手段は、例えば、エアゲージよりなり、ヘッド表面(周面1a)とボア表面との間に空気を噴き出すように構成され、且つ、当該空気の背圧を計測することによりヘッド表面からボア表面までの距離ないしボア径を測定し得るように構成されている。また、ホーニング加工機は、このような定寸手段により得られる値に基づいて、砥石4の後述の動作を適宜補正できるように構成されている。
【0024】
このようなホーニングヘッドHは、上述の第1シリンダが稼働することにより、図1の上下方向に並進移動し、上述のモータが稼働することにより、回転軸心Yまわりに回転する。また、ホーニングヘッドHにおいては、上述の第2シリンダが稼働してロッド6を図1の下方に移動させると、テーパコーン5が下方に移動し、これに伴いシュー3がヘッド径方向に沿って外方に移動する。その結果、砥石4が周面1aから所定長さ送り出されることとなる。周面1aからの送り出し長さが、全ての砥石4において理想的には同一となるように構成されている。また、当該送り出し長さについては、第2シリンダによるロッド6の移動量を調節することにより所望に調節することができるように構成されている。ホーニング加工機は、上述のホーニングヘッドHの駆動(並進移動,回転)、ならびに砥石4の駆動(送り出し)を制御するための複数または単一の制御部(図示せず)を具備する。
【0025】
本発明に係るホーニング加工方法は、例えば以上のようなホーニングヘッドHを具備するホーニング加工機を使用して、例えば、自動車エンジンのシリンダブロックの製造ラインにて実施することができる。本実施形態では、所定の製造ラインにおいて、例えば図3に示すようなシリンダブロックWが複数順次移送されているものとする。シリンダブロックWには、本実施形態では、内径がφaのボアBa、または、内径がφb(<φa)のボアBbがボアBとして形成されており、当該製造ライン上を移送されて順次ホーニング加工に付されるシリンダブロックWのボアBとしては、これら2種類のボアBa,Bbが混在しているものとする。例えば、製造ライン上において、全てのボアBがボアBaであるシリンダブロックWが所定数連続する後に、全てのボアBがボアBbであるシリンダブロックWが所定数連続して移送される。或は、全てのボアBがボアBaであるシリンダブロックWと、全てのボアBがボアBbであるシリンダブロックWとが、交互に移送される。或は、ボアBaとボアBbが交互に形成されたシリンダブロックWが連続して移送されてもよい。
【0026】
ホーニングヘッドHを具備するホーニング加工機の作業領域に至ったシリンダブロックWは、当該作業領域にて、順次、本発明に係るホーニング加工方法に基づいてホーニング加工が施される。図4は、ボアBごとのホーニング加工のフローチャートを表す。
【0027】
ボアBごとのホーニング加工作業においては、まず、ステップS1にて、ボアB内にホーニングヘッドHを送入する。このとき、砥石4は、ヘッド本体1の周面1aから僅かに延出した待機状態または退避した待機状態にある。次に、ステップS2にて、砥石4を所定の開始位置まで送り出す。具体的には、砥石4を、待機状態の位置から、研削送り出し駆動を開始するための位置まで急速に送り出し、周面1aから所定長さ延出させる。この急速送り出しにおいて砥石4が送り出される速度は例えば1100φμm/sである(φμmは、ホーニングヘッドHの直径方向全体における広がり量を表し、一の砥石4におけるμmで表される変移量の2倍に相当する)。次に、ステップS3にて、砥石4の研削送り出し駆動を開始する。研削送り出し駆動は、砥石4を、所定の開始位置から、ボア表面の研削仕上げを終了する位置まで送り出す駆動であり、複数の段階からなる。本実施形態では、砥石4は、研削送り出し駆動において、準急送り、第1粗送り、第2粗送り、第1仕上げ送り、および第2仕上げ送りが順次行われ、ボア表面の研削仕上げを達成する。このような研削送り出し駆動では、段階が進むほどに送り出し速度が低く設定されている。砥石4の研削送り出し駆動を終了して研削仕上げを終えた後、加工対象のボアBを替えて上述のステップS1からステップS3が繰返される。
【0028】
加工前のボア表面と砥石先端面が例えば図7に示すように略平行に配向し得る場合(例えば、複数のボアBにわたって順次行われる本ホーニング加工作業において、前回のホーニング加工と同種のボアB〔前回の加工対象と同一の内径を有するボアB〕に対してホーニング加工を行う場合)、ステップS2では、砥石4は、図5(a)に示すような標準開始位置P0まで急速送りで送り出され、ステップS3では、砥石4は、図6に示すような送り出し速度および送り出し長さに設定された標準駆動条件で、図5(a)に示すように研削送り出し駆動される(図6に示す条件は一例であり、他の駆動条件を採用してもよい)。ホーニング加工機の具備する所定の制御部は、当該標準駆動条件が予め設定された所定のプログラムに基づいて研削送り出し駆動を制御するように構成されている。また、砥石4による研削中には、上述の定寸手段が機能して加工途中のボア径ないし研削量が常時的に測定され、各段階開始時の測定値が、最終的な仕上がり内径を基準として想定される値から逸脱している場合には、当該送り出し段階に設定されている送り出し長さが調節され、研削送り出し駆動は補正される。
【0029】
標準駆動条件および標準開始位置P0は、加工前のボア表面と砥石先端面が図7に示すように略平行である場合のホーニング加工において、ボア表面や砥石の構成材料、仕上がりボア表面の表面粗さ、単一のホーニング加工作業に要する時間などを考慮して理想的には最適化され、予め設定された条件である。このような条件において砥石4がボア表面を研削し始めるのは、研削送り出し駆動の最初の準急送り段階での途中である。すなわち、標準開始位置P0にある砥石4の先端面と、未だ研削加工を受けていない研削対象のボアBの表面との離隔距離を標準開始距離R0とすると、準急送り段階での砥石4による研削量は、当該準急送り段階の送り長さと標準開始距離R0の差に相当する。
【0030】
加工前のボア表面と砥石先端面が例えば図10(a)に示すように非平行に配向する場合(複数のボアBにわたって順次行われる本ホーニング加工作業において、相対的に大径の複数のボアBaについてホーニング加工を行った後に、相対的に小径のボアBbに対してホーニング加工を開始する場合)、ステップS2では、砥石4は、図5(b)に示すような開始位置P1まで、または、図5(c)に示すような開始位置P2まで、急速送りで送り出される。そして、ステップS3では、砥石4は、まず、研削送り出し駆動の第1段階の準急送りの条件で駆動される。
【0031】
開始位置P1にある場合の砥石4の先端面と、未だ研削加工を受けていない研削対象のボアBの表面との離隔距離を開始距離R1とすると、開始距離R1は標準開始距離R0より短い。したがって、開始位置P1から研削送り出し駆動が開始される場合、標準開始位置P0から研削送り出し駆動が開始される場合よりも、図5(b)に表れているように、準急送り段階での研削量は多い。そのため、準急送り段階終了時ないし第1粗送り段階開始時において上述の定寸手段により得られるボア径ないし研削量に関する測定値に基づき、準急送り段階の次の第1粗送り段階での送り長さは補正される。具体的には、最終的な仕上がり内径を基準として想定される第1粗送り段階終了位置にて、第1粗送り段階が終了するように、本研削送り出し駆動においては当該第1粗送り段階の送り長さは短縮される。このようにして送り出し長さが補正された第1粗送り段階の後、以降の段階が順次行われ、ボアBが研削仕上げされる。
【0032】
一方、開始位置P2にある場合の砥石4の先端面と、未だ研削加工を受けていない研削対象のボアBの表面との離隔距離を開始距離R2とすると、開始距離R2は標準開始距離R0より長い。したがって、開始位置P2から研削送り出し駆動が開始される場合、標準開始位置P0から研削送り出し駆動が開始される場合よりも、図5(c)に示すように、準急送り段階での研削量は少ない。そのため、準急送り段階終了時ないし第1粗送り段階開始時において定寸手段により得られるボア径ないし研削量に関する測定値に基づき、準急送り段階の次の第1粗送り段階での送り長さは補正される。具体的には、最終的な仕上がり内径を基準として想定される第1粗送り段階終了位置にて、第1粗送り段階が終了するように、本研削送り出し駆動においては当該第1粗送り段階の送り長さは延長される。このようにして送り出し長さが補正された第1粗送り段階の後、以降の段階が順次行われ、ボアBが研削仕上げされる。
【0033】
上述のように、加工前におけるボア表面と砥石先端面が図10(a)に示すように非平行である場合には、研削送り出し駆動が開始する時の砥石先端面の位置としては、標準開始位置P0とは異なる開始位置P1または開始位置P2が採用される。標準開始位置P0からの開始位置P1,P2への補正の程度、ならびに、前方へ補正された開始位置P1および後方へ補正された開始位置P2のいずれを採用するかは、加工前のボア表面と砥石先端面の形状的な相対関係、ボア表面や砥石の構成材料、仕上がりボア表面の表面粗さ、単一のホーニング加工作業に要する時間などを考慮して理想的には最適化され、予め設定される。
【0034】
加工前のボア表面と砥石先端面が例えば図10(b)に示すように非平行に配向する場合(複数のボアBにわたって順次行われる本ホーニング加工作業において、相対的に小径の複数のボアBbについてホーニング加工を行った後に、相対的に大径のボアBaに対してホーニング加工を開始する場合)、ステップS2では、砥石4は、図5(d)に示すような開始位置P3まで、または、図5(e)に示すような開始位置P4まで、急速送りで送り出される。そして、ステップS3では、砥石4は、第1粗送り段階の送り出し長さが調節される補正を伴う研削送り出し駆動が実行される。具体的には、加工前のボア表面と砥石先端面が図10(a)に示すように非平行に配向する場合に関して上述したのと同様である。標準開始位置P0からの開始位置P3,P4への補正の程度、ならびに、前方へ補正された開始位置P3および後方へ補正された開始位置P4のいずれを採用するかは、加工前のボア表面と砥石先端面の形状的な相対関係、ボア表面や砥石の構成材料、仕上がりボア表面の表面粗さ、単一のホーニング加工作業に要する時間などを考慮して理想的には最適化され、予め設定される。
【0035】
本発明において、開始位置P1,P3から砥石4の研削送り出し駆動を開始して、準急送り段階での研削量を相対的に大きくすることは、単一ホーンニング加工に要する時間(サイクルタイム)を短くするうえで好適である傾向がある。また、開始位置P2,P4から砥石4の研削送り出し駆動を開始して、準急送り段階での研削量を相対的に小さくすることは、表面粗さ(例えばRzの値)を相対的に小さくするうえで好適である傾向がある。
【0036】
以上のように、本発明によると、砥石4の研削送り出し駆動開始時の開始位置ないし開始距離を変化させることにより、加工対象であるボアBの内径の変更に対して適切に対応することができる。例えば、研削送り出し駆動の第1段階(準急送り)における送り出し速度をボア径の変化に応じて変更しなくとも、開始距離の変更のみにより、ボアBの仕上がり表面について、面性状の調整が可能となる。したがって、本発明によると、内径の異なる複数のボアについて、単一のホーニングヘッドを使用して順次適切にホーニング加工を行うことができるのである。
【0037】
本発明における研削送り出し駆動については、第2仕上げ送り段階の後にスパークアウト段階を付加してもよい。スパークアウト段階では、所定の速度で砥石4を所定長さ後退させる。ボア表面に対する砥石による所定期間の押圧を伴うホーニング加工においては、ボアが形成されているワークが当該押圧力に起因して圧縮される場合がある。この場合、当該押圧力を解除すると、それまで押圧力を受けていたボア表面が収縮してボア径が小さくなる傾向にある。スパークアウト段階では、砥石4を徐々に後退させることにより、ボア表面の圧縮状態を次第に解除しつつ当該ボア表面を研削する。
【0038】
複数のボアBにわたって順次行われるホーニング加工作業においては、前回のホーニング加工と同種のボアB〔前回の加工対象と同一の内径を有するボア〕に対してホーニング加工を行う場合であっても、加工前の当該ボア表面と砥石先端面が平行には配向しない場合がある。小数回(例えば1回)のホーニング加工では、砥石4の先端面がボアBの仕上がり表面に合致する形状にまで研磨変形しない場合があるからである。本発明においては、このような場合には、複数のボアBにわたって順次行われるホーニング加工作業において前回のホーニング加工と同種のボアBに対してホーニング加工を行う場合であっても、上述のような、開始位置P1〜P4から研削送り出し駆動を開始する駆動態様を採用する。そして、加工前のボア表面と砥石先端面が図7に示すように平行または略平行に配向し得る状態となった後、標準開始位置P0から研削送り出し駆動を開始する駆動態様を採用する。例えば、開始位置P1から研削送り出し駆動を開始する駆動態様を数回のホーニング加工にて採用し、この後、数回のホーニング加工ごとに、開始位置をP1からP0に順次近接させ、加工前のボア表面と砥石先端面が図7に示すように平行または略平行に配向し得る状態となった後、標準開始位置P0から研削送り出し駆動を開始する駆動態様を採用する。
【0039】
また、本発明は、2種のボアB(ボアBa,Bb)に対するホーニング加工のみならず、3種以上のより多数種のボアを順次ホーニング加工する際にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るホーニング加工方法を実施するのに使用することのできるホーニングヘッドの部分断面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿った断面図である。
【図3】加工対象であるボアを有するシリンダブロックの一例を表す。
【図4】ボアごとのホーニング加工のフローチャートを表す。
【図5】研削送り出し駆動の態様を模式的に表す。
【図6】標準駆動プログラムにて設定される各送り出し段階の条件の一例を示す。
【図7】同一内径の複数のボアに対して単一のホーニングヘッドを用いてホーニング加工を順次行う場合における、各加工開始時のボア表面と砥石先端面との形状的な相対関係を表す。
【図8】内径の小さなボアへと加工対象ボア種が変更される場合における、変更前後の両加工開始時のボア表面と砥石先端面との形状的な相対関係を表す。
【図9】内径の大きなボアへと加工対象ボア種が変更される場合における、変更前後の両加工開始時のボア表面と砥石先端面との形状的な相対関係を表す。
【図10】加工前のボア表面と砥石先端面が非平行である場合の例を表す。
【符号の説明】
【0041】
H ホーニングヘッド
1 ヘッド本体
1a 周面
1c スリット
2 スピンドル
3 シュー
4 砥石
5 テーパコーン
6 ロッド
B,Ba,Bb ボア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド周面と当該ヘッド周面にて出退動可能な砥石とを有するホーニングヘッドを第1ボアの内部にて回転駆動しつつ、前記砥石を研削送り出し駆動することにより、前記第1ボアの表面を研削加工する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1ボアとは異なる初期直径を有する第2ボアの内部にて前記ホーニングヘッドを回転駆動しつつ、前記砥石を研削送り出し駆動することにより、前記第2ボアの表面を研削加工する第2工程と、を含み、
前記第1工程において前記研削送り出し駆動を開始する時の、前記第1ボアの表面と前記砥石の先端との間の第1開始距離、および、前記第2工程において前記研削送り出し駆動を開始する時の、前記第2ボアの表面と前記砥石の先端との間の第2開始距離は、異なる、ホーニング加工方法。
【請求項2】
ヘッド周面と当該ヘッド周面にて出退動可能な砥石とを有するホーニングヘッドを第1ボアの内部にて回転駆動しつつ、前記砥石を研削送り出し駆動することにより、前記第1ボアの表面を研削加工する第1工程を、複数の第1ボアについて順次行う第1作業と、
前記第1ボアとは異なる初期直径を有する第2ボアの内部にて前記ホーニングヘッドを回転駆動しつつ、前記砥石を研削送り出し駆動することにより、前記第2ボアの表面を研削加工する第2工程を、前記第1作業の後に、複数の第2ボアについて順次行う第2作業と、を含み、
前記第1工程において前記研削送り出し駆動を開始する時の、前記第1ボアの表面と前記砥石の先端との間の第1開始距離、および、前記第2作業における初めから少なくとも1つの第2工程において前記研削送り出し駆動を開始する時の、前記第2ボアの表面と前記砥石の先端との間の第2開始距離は、異なり、
前記第2作業における残りの第2工程において前記研削送り出し駆動を開始する時の、前記第2ボアの表面と前記砥石の先端との間の第3開始距離、および、前記第2開始距離は、異なる、ホーニング加工方法。
【請求項3】
前記第1開始距離および前記第3開始距離は同じである、請求項2に記載のホーニング加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−175574(P2006−175574A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373561(P2004−373561)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】