説明

ホーンアンテナおよびその設計方法

【課題】2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができ、なおかつホーンの軸長を短くすること。
【解決手段】横断面が方形の内部空間を有し、一対の対向側面6がホーン3の一端開口5から他端開口4に向かってテーパ面を形成しているホーン3を備えたホーンアンテナ1であって、テーパ面は、ホーン3の中心軸に対して対称な位置に少なくとも一対の凹部9を有している。凹部9は、内部空間に向かって横断面が方形状に開口して一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅と、深さとを有している。凹部9の開口幅は一方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定され、凹部9の深さは他方の偏波による楕円ビームの形状が一方の偏波による楕円ビームの形状と実質的に一致するような長さにあらかじめ設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2つの直交する偏波からそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナおよび該ホーンアンテナの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホーンアンテナとして、E面のみがテーパ面を形成し、偏波の磁界方向に広げられたH面扇形ホーンを備えたものや、H面のみがテーパ面を形成し、偏波の電界方向のみに広げられたE面扇形ホーンを備えたものが知られている。このような扇形ホーンには、図12に示すように、軸長L’を一定にして開口面の大きさa’×b’を変化させたときに、利得が最大となる開口面の大きさa’×b’が存在し、その状態の扇形ホーンは最適ホーン31と呼ばれる。最適ホーン31は、X帯の標準導波管を例にとると、開口面の大きさa’×b’が100mm×10.16mm、のど元の大きさA’×B’が22.9mm×10.16mm、軸長L’が81.32mmとなり、開口面での位相のずれがE面では1/4波長、H面では3/8波長となることが知られている。
【0003】
ところで、上記の最適ホーン31のような方形の開口面を有するホーンを備えたホーンアンテナは、2つの直交する偏波で励振するとモードの違いから開口面振幅分布が異なり、同じ形状の楕円ビームを発生させることができない。このため、上記ホーンアンテナを、成形ビームアンテナの一次放射器として用いる場合、楕円反射鏡を効率よく照射することができず利得が低下してしまう。
【0004】
そこで、本件発明者らは、図13および図14に示すような多段ステップホーン31A、31Bを備えたホーンアンテナを提案している。図13に示す多段ステップホーン31Aは、E面のみが階段状のテーパ面を形成するH面扇形ホーン12と、H面のみが階段状のテーパ面を形成するE面扇形ホーン13とが個別に設計され、縦続接続されたものである。一方、図14に示す多段ステップホーン31Bは、E面とH面とが交互に広がるピラミッド形に設計されたものである(例えば、非特許文献1参照)。これらの多段ステップホーン31A、31Bを備えたホーンアンテナによれば、2つの直交する偏波で励振させたときの楕円ビームの形状を一致させることができ、楕円反射鏡を効率よく照射することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松井祐介、出口博之、辻幹男、「直交偏波だ円ビーム多段ステップホーンの小型化」信学総大、B−1−67、Mar.2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような多段ステップホーン31A、31Bを備えたホーンアンテナでは、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を一致させることができるものの、ホーンの軸長が長くなってしまい、ホーンの小型化を図ることができないという問題が生じていた。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができ、なおかつホーンの軸長を短くすることができるホーンアンテナおよび該ホーンアンテナ設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1発明に係るホーンアンテナは、横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、ホーンの一対の対向側面が前記ホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かってテーパ面を形成しており、ホーンの他端開口から2つの直交する偏波を、テーパ面が一方の偏波に対するE面をなすように導入し、一端開口から偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナであって、E面はホーンの中心軸に対して対称な位置に少なくとも一対の凹部を有し、凹部は、内部空間に向かって横断面が方形状に開口して一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅と、深さとを有し、開口幅は、一方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定され、深さは他方の偏波による楕円ビームの形状が一方の偏波による楕円ビームの形状と実質的に一致するような長さにあらかじめ設定されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、一対の凹部の開口幅により一方の偏波のモード発生量(振幅)を制御することができ、さらに一対の凹部の深さにより他方の偏波のモード発生量(振幅および位相)を制御することができるので、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができ、なおかつホーンの軸長を短くすることができる。
【0010】
また、本発明の第2発明に係るホーンアンテナは、横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、ホーンの各一対の対向側面がそれぞれホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かってテーパ面を形成しており、ホーンの他端開口から2つの直交する偏波を、一方の一対の対向側面が一方の偏波に対するE面をなし、かつ他方の一対の対向側面が一方の偏波に対するH面をなすように導入し、一端開口から偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナであって、E面およびH面は、それぞれ、ホーンの中心軸に対して対称な位置に少なくとも一対の凹部を有し、E面およびH面の凹部は、ともにE面とH面との境界線に接しておらず、E面の凹部は、内部空間に向かって横断面が方形状に開口して一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅を有し、該開口幅は一方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定されており、H面の凹部は、内部空間に向かって横断面が方形状に開口して他方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、他方の偏波の磁界方向に沿った開口幅を有し、該開口幅は他方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定されており、E面およびH面の凹部の深さは、一方の偏波により発生する楕円ビームの形状と他方の偏波により発生する楕円ビームの形状とが実質的に一致するような長さにそれぞれあらかじめ決定されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、E面だけでなくH面にも一対の凹部が形成されているので、H面の凹部でも一方の偏波および他方の偏波のモード発生量を制御することができ、ホーンの軸長をより短くすることができる。
【0012】
上記テーパ面の前記中心軸に対して対称な位置には、一端開口と平行に設けられた少なくとも一対の平坦部がさらに形成されているのが好ましい。この構成によれば、一端開口と平行な一対の平坦部が設けられているので、ホーンの軸長をより短くすることができる。
【0013】
上記テーパ面の少なくとも一部は、曲面状または階段状に形成されていてもよい。この構成によれば、テーパ面を曲面状または階段状に形成することで、平面状のテーパ面と比較して一方の偏波からより多くの高次モードを発生させることができるので、モード合成の自由度が広がり、ホーンの軸長をより短くすることができる。
【0014】
上記凹部の開口面積は、凹部の内部空間の横断面の面積よりも小さくてもよい。また、凹部内に、電界面と平行に少なくとも1つの仕切板を設けてもよいし、磁界面と平行に少なくとも1つの仕切板を設けてもよい。
【0015】
また、本発明に係るホーンアンテナの設計方法は、横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、ホーンの一対の対向側面が前記ホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かって先細りになるテーパ面を形成しており、ホーンの他端開口から2つの直交する偏波を、テーパ面が一方の偏波に対するE面をなすように導入し、一端開口から偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナの設計方法であって、(1)一端開口および他端開口の大きさを決定するステップと、(2)内部空間に向かって横断面が方形状に開口して一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、ホーンの中心軸に対して対称に形成される少なくとも一対の凹部のE面における位置を決定するステップと、(3)凹部の一方の偏波の磁界方向の開口幅を最適化により決定するステップと、(4)凹部の深さを最適化により決定するステップとを含み、ステップ(3)では、開口幅を前記一方の偏波がカットオフとなる長さに決定し、ステップ(4)では、深さを他方の偏波による前記楕円ビームが前記一方の偏波による楕円ビームの形状に実質的に一致する長さに決定することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、一方の偏波がカットオフとなるように一対の凹部の開口幅を決定することにより、一方の偏波のモード発生量を凹部の開口幅によってのみ制御することができ、他方の偏波のモード発生量を凹部の深さによって制御することができるので、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができ、なおかつホーンの軸長を短くすることができる。
【0017】
また、本発明に係るホーンアンテナの設計方法は、ホーンの他端開口から一方の偏波を導入した場合における一端開口での開口面分布から、該開口面分布を構成している伝搬可能なモードを決定するステップと、ホーンの一端開口から他端開口までを中心軸に沿って、モードの数に応じた複数の区間に分割するステップとをさらに含み、上記ステップ(2)ないし(4)は、一端開口側から区間ごとに順次おこなうことが好ましい。この構成によれば、その区間で発生する伝搬可能なモードの発生量に注目して最適化を行うことができ、ホーンの形状を区間ごとに順次決定していくことができるため、ホーンの設計が容易になる。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、凹部の開口幅を調整することにより一方の偏波のモード発生量を制御することができ、凹部の深さを調整することにより他方の偏波のモード発生量を制御することができるので、凹部の開口幅と深さを適切な長さに設定することで、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を一致させることができる。さらに、ホーンのE面に凹部を形成することにより、ホーンを一方の偏波の磁界方向に広げることができるので、ホーンの軸長を短くても開口面を所定の大きさにすることができる。したがって、本発明によれば、2つの直交する偏波で励振させたときのそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができ、なおかつホーンの軸長を短くすることができるホーンアンテナおよび該ホーンアンテナ設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るホーンアンテナを示す斜視図である。
【図2】本発明におけるホーンであって、(a)はy=0におけるx−z断面図、(b)はx=0におけるy−z断面図である。
【図3】図2のC−C’断面(x−y平面)を開口面側から見た図であって、(a)はTE10モードの電気力線、(b)はTE01モードの電気力線を示す図である。
【図4】凹部の働きを説明するためのホーンのx−z断面図である。
【図5】凹部の開口幅および深さに対するTE10モードの振幅を示す図である。
【図6】凹部の深さに対するTE01モード励振時の放射パターンを示す図である。
【図7】本発明に係るホーンアンテナにおけるTE10モードおよびTE01モード励振時の放射パターンを示す図である。
【図8】本発明に係るホーンアンテナの設計方法を説明するための図である。
【図9】変形例1におけるホーンのx−z断面図である。
【図10】変形例2におけるホーンのx−z断面図である。
【図11】変形例3におけるホーンのx−z断面図である。
【図12】最適ホーンを示す斜視図である。
【図13】H面扇形ホーンとE面扇形ホーンを縦続接続した多段ステップホーンを示す斜視図である。
【図14】ピラミッド形の多段ステップホーンを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0021】
[ホーンアンテナの構成]
図1に示すように、本発明に係るホーンアンテナ1は、矩形導波管からなる給電部2と、横断面(x−y断面)が方形の内部空間を有する金属製のホーン3とを備え、給電部2で励振された2つの直交する偏波(X帯のTE10モードおよびTE01モード)により、ホーン3の開口面(一端開口)4からそれぞれの楕円ビームを発生させるものである。
【0022】
ホーン3は、方形の開口面4と、方形ののど元(他端開口)5と、各一対の対向側面6、7とから構成されている。一対の対向側面6は、開口面4からのど元5に向かってテーパ面を形成しており、一方の励振偏波の基本モードとなるTE10モードに対するE面をなしている。これに対して、一対の対向側面7は、開口面4からのど元5に向かって平行に設けられており、TE10モードに対するH面をなしている。
【0023】
テーパ面となる一対の対向側面(E面)6は、平面状のテーパ部8と、ホーン3の中心軸に対して対称な位置に形成された一対の凹部9および一対の平坦部10とを有している。図2に示すように、凹部9は、E面6の電界方向全体にわたり内部空間に向かって横断面が方形状に開口しており、TE10モードの電界面と平行に延びている。TE10モードの磁界方向(x方向)に沿った凹部9の開口幅はK1=K2=K3=3mmに設計されており、凹部9の深さはU1=U2=U3=9mmに設計されている。平坦部10は、ホーン3の軸長Lをより短くするために、開口面4と平行に設けられたものであり、x方向に沿った幅がM1=M2=M3=2mmに設計されている。
【0024】
本発明に係るホーンアンテナ1では、TE10モードとTE01モードの両方を励振させるため、図2に示すように、ホーン3ののど元5はA×B=22.9mm×22.9mmの大きさをもった正方形に設計されている。また、ホーン3の開口面4はa×b=100mm×22.9mmの大きさをもった長方形に設計されている。
【0025】
また、本発明に係るホーンアンテナ1では、E面6がテーパ面を形成しているため、TE10モード励振時には、開口面4に向かうにつれて、TE10モードの高次モードであるTE30モード、TE50モード等の伝搬可能なモード(伝搬モード)が発生する。
【0026】
図3は図2のC−C’断面におけるホーン3のx−y平面を開口面4側から見た図であって、(a)はTE10モードの電気力線を示し、(b)はTE01モードの電気力線を示す図である。図3(a)に示すように、TE10モード励振時には、凹部9内の電磁界はカットオフとなる。
【0027】
図4は、TE10モード励振時における凹部9の働きを説明するために設計したホーン3Aの図である。図4に示すホーン3Aは、一対の凹部9が一段装荷され、のど元5から凹部9の開口面までの長さがs1=10mmに設計されており、開口面4およびのど元5の大きさが最適ホーン31と同様に設計されている。図5は、図4に示すホーン3Aにおいて、凹部9の開口幅k1を3mm、6mm、9mmと変化させ、凹部9の深さu1をそれぞれ0から8mmの間で変化させたときの10GHzにおけるTE10モードの振幅(モード発生量)を示す図である。同図から、凹部9の開口幅k1を変化させるとTE10モードの振幅は変化するが、開口幅k1を固定して凹部9の深さu1を変化させてもTE10モードの振幅はほとんど変化しないことが分かる。
【0028】
表1は、図4に示すホーン3Aにおいて、凹部9の開口幅k1を3mmとし、凹部9の深さu1を0、4mm、8mmと変化させたときのTE10モード、TE30モード、TE50モードの位相を示す表である。同表から、凹部9の深さu1を変化させても各モードの位相はほとんど変化しないことが分かる。
【0029】
【表1】

【0030】
図5および表1に示すように、凹部9の深さu1を変化させてもTE10モードの振幅や位相はほとんど変化しないことから、TE10モード励振時には、凹部9内の電磁界はカットオフとなっていることが分かる。すなわち、凹部9の開口面では電磁界が乱れ境界条件を満たすように新たなモードが発生するが、この新たに発生したモードは、凹部9内に蓄積され、伝搬することなく減衰していくカットオフモードとなる。このように、TE10モードの振幅や位相は、凹部9の深さにほとんど影響を受けないため、凹部9の開口幅のみでTE10モードの振幅を制御することができる。なお、カットオフモードが再変換されて、伝搬モードとなる場合もあるが、この再変換された伝搬モードは通常十分小さいため無視することができる。
【0031】
一方、図3(b)に示すように、TE01モード励振時には、凹部9内に伝搬モードが発生する。この伝搬モードは、凹部9の底面で反射するため、凹部9の深さによって振幅および位相が変化する。図6は、図2に示すホーン3において、凹部9の深さ(U1=U2=U3)を0、λ/8(λはTE01モードの励振波長)mm、λ/4mmと変化させたときのTE01モード励振時の放射パターンを示す図である。同図から、凹部9の深さが変わることにより放射パターン(楕円ビームの形状)が変化することが分かる。本実施形態では、凹部9の深さをU1=U2=U3=9mmとすることで、図7に示すように、TE01モード励振時の放射パターンをTE10モード励振時の放射パターンに実質的に一致させている。
【0032】
上記のように、本発明に係るホーンアンテナ1では、E面6に、凹部9や平坦部10が設けられているためホーン3の軸長Lを短くすることができる。本実施形態では、ホーン3の軸長Lを44.02mmにすることができ、最適ホーン31の軸長L’の半分近くまで短縮することができている。さらに、凹部9の開口幅によりTE10モードのモード発生量(振幅)を制御することができ、凹部9の深さによりTE01モードのモード発生量(振幅および位相)を制御することができるので、TE10モードおよびTE01モード励振時の楕円ビームの形状を容易に一致させることができる。
【0033】
[ホーンアンテナの設計方法]
次に、本発明に係るホーンアンテナ1の設計方法について説明する。
【0034】
本発明に係るホーンアンテナ1の設計方法は、ホーン3の開口面4からのど元5までを該ホーン3の中心軸に沿って複数の区間に分割し、各区間のホーン3の形状をその区間内で新たに発生する高次モードを制御することにより順次設計していくというものである。
【0035】
設計にあたって、最初に、所望の放射パターンを実現しうる開口面4およびのど元5の大きさを決定する(ステップ(1))。開口面4およびのど元5の大きさが定まると、TE10モードおよびTE01モード励振時の放射パターンから開口面分布が定まるので、開口面分布を構成しているモードを決定することができる。これにより、発生させる高次モードの数が決定し、図8に示すように制御すべきモードの数に応じた区間数(S1〜SN)が決定する。
【0036】
なお、これらの区間では、区間内において伝搬可能なモード数が変わらないようになっており、開口面4側に向かうにつれて区間ごとに伝搬可能なモード数が順次一つずつ増えるようになっている。このため、各区間のホーン3の形状は、その区間で新たに発生する伝搬可能なモードの発生量に注目して設計することができ、区間ごとに順次決定していくことができる。具体的には、以下のように、開口面4側の区間SNから順に、テーパ部8の開き角や平坦部10の幅等を最適化により定めてE面における凹部9位置を決定し(ステップ(2))、凹部9の開口幅および深さを最適化により決定していく(ステップ(3)および(4))。なお、最適化とは、所望の開口面分布を得るために、テーパ部8の開き角、平坦部10の幅、凹部9の開口幅および深さ等の開口面分布に影響を及ぼす項目の各値を微調整することをいう。
【0037】
まず、区間SNでは、TE10モード励振時に発生する第N次高次モードの開口面分布が所望の開口面分布となるように、ホーン3の軸長LNと、区間SN内のテーパ部8の開き角を最適化により決定する。
【0038】
次いで、上記で決定した区間SNに区間SN−1を接続した区間では、TE10モード励振時に発生する第N−1次高次モードの開口面分布が所望の開口面分布となるように、ホーン3の軸長LN−1、区間SN−1内のテーパ部8の開き角、凹部9の開口幅KN−1、平坦部10の幅MN−1を最適化により決定する。TE10モード励振時には、凹部9内の電磁界はカットオフとなっており、凹部9の開口面で発生した新たなモードは伝搬することなく減衰していくので、凹部9の深さは第N−1次高次モードの開口面分布にほとんど影響を与えない。このため、TE10モード励振時において凹部9の開口幅KN−1を決定した後に、凹部9の深さUN−1を決定することが好ましい。凹部9の深さUN−1は、TE01モード励振時の放射パターンがTE10モード励振時の放射パターンに実質的に一致するように最適化することで決定する。なお、第N−1次高次モードの発生量および第N次高次モードの発生量が大きい場合は、ホーン3の軸長LN、区間SN内のテーパ部8の開き角の最適化を再度おこない、決め直すことが好ましい。
【0039】
同様にして、区間SN−2から区間S2までの区間では、TE10モード励振時に発生する各高次モードの開口面分布が所望の開口面分布となるように、ホーン3の軸長(LN−2〜L2)、各区間(SN−2〜S2)内のテーパ部8の開き角、凹部9の開口幅(KN−2〜K2)、平坦部10の幅(MN−1〜M2)を最適化により決定し、その後に、TE01モード励振時の放射パターンがTE10モード励振時の放射パターンに実質的に一致するように凹部9の深さ(UN−2〜U2)を最適化により決定する。これらの場合も、各区間のホーン3の軸長、テーパ部8の開き角、凹部9の開口幅および深さ、平坦部10の幅等の各項目の最適化をおこなう際に、すでに最適化が終了している区間も併せて最適化を繰り返すことにより各項目の値を決め直すことが好ましい。
【0040】
次いで、上記で決定した区間S2までの区間に区間S1を接続した区間では、TE10モードの開口面分布が所望の開口面分布となるように、ホーン3の軸長L1、区間S1内のテーパ部8の開き角、凹部9の開口幅K1、平坦部10の幅M1を最適化により決定し、その後に、TE01モード励振時の放射パターンがTE10モード励振時の放射パターンに実質的に一致するように凹部9の深さU1を最適化により決定する。
【0041】
上記のように、TE10モードおよびその高次モードがカットオフとなるような長さの凹部9をE面6の適切な位置に設けることにより、凹部9の開口幅を調整するだけでTE10モードおよびその高次モードのモード発生量を制御することができ、凹部9の深さを調整してTE01モードのモード発生量を制御することができる。このため、ホーン3の軸長を短くすることができ、なおかつTE10モードおよびTE01モード励振時のそれぞれの楕円ビームの形状を容易に一致させることができる。
【0042】
なお、本実施形態においては、区間ごとに伝搬可能なモード数が順次一つずつ増えるように区間を分割したが、最適化が可能であれば区間ごとに伝搬可能なモード数が順次複数増えるように区間を分割してもよい。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0044】
[変形例1]
例えば、上記実施形態におけるテーパ部8は、平面状であるが、曲面状や階段状でも良い。図9は、E面6ののど元5側に平面状のテーパ部8が設けられ、開口面4側に曲線状のテーパ部8Bが設けられたホーン3Bのx−z断面図である。同図に示すように、曲線状のテーパ部8Bを設けることにより、より多くの高次モードを発生させることができるので、モード合成の自由度が広がり、ホーン3Bの軸長をより短くすることができる。
【0045】
[変形例2]
また、上記実施形態における凹部9の内部空間の横断面の形状および面積は、凹部9の開口面と同じであるが、その形状はおよび面積は任意に変更することができる。図10は、凹部9Cの開口幅K1が凹部9Cの内部空間における底面近傍の磁界方向に沿った幅K2よりも小さくなるホーン3Cのx−z断面図である。
【0046】
[変形例3]
また、上記実施形態における凹部9内には、TE10モードの電界面および/または磁界面と平行に金属製の仕切板11を設けることができる。図11は、凹部9D内にE面と平行に仕切板11が設けられ、凹部9Dが複数に分割されたホーン3Dのx−z断面図である。同図に示すように、凹部9D内にTE10モードの電界面と平行に仕切板11を設けることで、TE10モードおよびその高次モードのモード発生量の制御をより容易におこなうことができる。
【0047】
[変形例4]
さらに、上記実施形態では、E面6のみがホーン3の開口面4からのど元5に向かって先細りになるテーパ面を形成しているが、H面7も同様にテーパ面を形成していてもよく、H面7にもテーパ部、凹部および平坦部を設けてもよい。例えば、図13や図14に示す多段ステップホーン31A、31Bに凹部を設けることができる。なお、E面6とH面7の両方に凹部を設ける場合は、凹部内の電磁界がカットオフとなるように、E面6の凹部とH面7と凹部とを互いに離間させ、それぞれの凹部が、E面6とH面7との境界で連通しないようにする必要がある。
【符号の説明】
【0048】
1 ホーンアンテナ
2 給電部
3、3A、3B、3C、3D ホーン
31 最適ホーン
4 開口面(一端開口)
5 のど元(他端開口)
6 E面
7 H面
8 テーパ部
9 凹部
10 平坦部
11 仕切板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、前記ホーンの一対の対向側面が前記ホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かってテーパ面を形成しており、前記ホーンの前記他端開口から2つの直交する偏波を、前記テーパ面が一方の偏波に対するE面をなすように導入し、前記一端開口から前記偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナであって、
前記E面は、前記ホーンの中心軸に対して対称な位置に少なくとも一対の凹部を有し、
前記凹部は、前記内部空間に向かって横断面が方形状に開口して前記一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、前記一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅と、深さとを有し、
前記開口幅は、前記一方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定され、
前記深さは、他方の偏波による前記楕円ビームの形状が前記一方の偏波による前記楕円ビームの形状と実質的に一致するような長さにあらかじめ設定されていることを特徴とするホーンアンテナ。
【請求項2】
横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、前記ホーンの各一対の対向側面がそれぞれ前記ホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かってテーパ面を形成しており、前記ホーンの前記他端開口から2つの直交する偏波を、一方の一対の対向側面が一方の偏波に対するE面をなし、かつ他方の一対の対向側面が前記一方の偏波に対するH面をなすように導入し、前記一端開口から前記偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナであって、
前記E面および前記H面は、それぞれ、前記ホーンの中心軸に対して対称な位置に少なくとも一対の凹部を有し、
前記E面および前記H面の凹部は、前記E面と前記H面との境界で連通しておらず、
前記E面の凹部は、前記内部空間に向かって横断面が方形状に開口して前記一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、前記一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅を有し、該開口幅は前記一方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定されており、
前記H面の凹部は、前記内部空間に向かって横断面が方形状に開口して他方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、前記他方の偏波の磁界方向に沿った開口幅を有し、該開口幅は前記他方の偏波がカットオフとなるような長さにあらかじめ設定されており、
前記E面および前記H面の凹部の深さは、前記一方の偏波により発生する楕円ビームの形状と前記他方の偏波により発生する楕円ビームの形状とが実質的に一致するような長さにそれぞれあらかじめ決定されていることを特徴とするホーンアンテナ。
【請求項3】
前記テーパ面の前記中心軸に対して対称な位置には、前記一端開口と平行に設けられた少なくとも一対の平坦部がさらに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のホーンアンテナ。
【請求項4】
前記テーパ面の少なくとも一部は、曲面状または階段状に形成されていること特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のホーンアンテナ。
【請求項5】
前記凹部の開口面積は、前記凹部の内部空間の横断面の面積よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のホーンアンテナ。
【請求項6】
前記凹部内には、前記電界面と平行な少なくとも1つの仕切板が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のホーンアンテナ。
【請求項7】
前記凹部内には、前記磁界面と平行な少なくとも1つの仕切板が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のホーンアンテナ。
【請求項8】
横断面が方形の内部空間を有するホーンを備え、前記ホーンの一対の対向側面が前記ホーンの方形の一端開口から方形の他端開口に向かってテーパ面を形成しており、前記ホーンの前記他端開口から2つの直交する偏波を、前記テーパ面が一方の偏波に対するE面をなすように導入し、前記一端開口から前記偏波のそれぞれの楕円ビームを発生させるホーンアンテナの設計方法であって、
(1)前記一端開口および前記他端開口の大きさを決定するステップと、
(2)前記内部空間に向かって横断面が方形状に開口して前記一方の偏波の電界面と平行に延びるとともに、前記ホーンの中心軸に対して対称に形成される少なくとも一対の凹部の前記E面における位置を決定するステップと、
(3)前記凹部の前記一方の偏波の磁界方向に沿った開口幅を最適化により決定するステップと、
(4)前記凹部の深さを最適化により決定するステップとを含み、
前記ステップ(3)では、前記開口幅を前記一方の偏波がカットオフとなる長さに決定し、前記ステップ(4)では、前記深さを他方の偏波による前記楕円ビームが前記一方の偏波による前記楕円ビームの形状に実質的に一致する長さに決定することを特徴とするホーンアンテナの設計方法。
【請求項9】
前記ホーンの前記他端開口から前記一方の偏波を導入した場合における前記一端開口での開口面分布から、該開口面分布を構成している伝搬可能なモードを決定するステップと、
前記ホーンの前記一端開口から前記他端開口までを前記中心軸に沿って、前記モードの数に応じた複数の区間に分割するステップとをさらに含み、
前記ステップ(2)ないし(4)は、前記一端開口側から前記区間ごとに順次おこなうことを特徴とする請求項8に記載のホーンアンテナの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−34285(P2012−34285A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173768(P2010−173768)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年2月15日 同志社大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 発行の「2009年度電気電子工学専攻 博士課程(前期課程)修士論文審査会予稿集」において文書をもって発表
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】