説明

ボイスコイル組立体およびこれを用いたスピーカー、並びにその製造方法

【課題】 能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくい平面薄型スピーカーを実現することができるボイスコイル組立体を得る。
【解決手段】 隔壁面を境にして隣接する2つの矩形空間のそれぞれの内壁面に固着される2つの内巻矩形コイルが、隔壁面に沿う一の内巻矩形コイルv1の一辺x1および他の内巻矩形コイルv2の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されるボイスコイル組立体であって、格子状ボビンの隔壁面の厚みを規定する厚さtb1が、内壁面の他の部分の厚みを規定する厚さtb2よりも薄くされ、かつ、一の内巻矩形コイルv1の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1、および、他の内巻矩形コイルv2の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2、の総和の厚さtc0以下に薄くされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマグネットを使用した磁気回路と、ボビンと、複数のコイルと、を使用したボイスコイル組立体と、を備えるスピーカーに関し、特に、全高が薄い平面薄型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号を音声に変換する動電型スピーカーに於いて、磁気回路を含むその全高を低く抑えるために、スピーカー振動板に平面型振動板を採用するスピーカーがある。平面型振動板は、コーン型振動板に比較してその全高が低くなるものの、分割振動せずに一体に振動するには剛性が不足しやすい。そこで、平面型振動板に固着するボビンが複数のボイスコイルを備え、複数のボイスコイルで平面型振動板を駆動することで、分割振動を抑制しようとするスピーカーが存在する。従来には、全高が薄い平面薄型スピーカーとして、複数のコイルを備えた平面振動板と、各コイルに対応した複数のマグネットを使用した磁気回路とを備えるスピーカーが使用されることがある。
【0003】
全高が薄い平面薄型スピーカーとして、凹凸を有する平面振動板に設けた深溝に複数のコイルを配置し、コイルを複数の磁石間に形成される磁気空隙に配置するスピーカーがある(特許文献1)。ここで、各コイルは、トラック型に巻き付けたコイルを分離工程で分離して形成し、これを平面振動板に装填接着している。また、プラスチックの薄板を真空成形で形成したボビンを備え、ボビンのスリットにコイルを挿入する平面スピーカーがある(特許文献2)。これらは、コイルを磁気回路の磁気空隙という最も磁束密度の高い場所に配置するので、平面スピーカーの能率を高めることができる。しかしながら、全高が薄い平面薄型スピーカーにおいて、複数のコイルを磁気空隙に配置するボビンを形成するにあたって、良好な音声再生のためには、ボビンを軽量で、かつ、剛性を有する構成とする必要がある。
【0004】
また、ボイスコイルを角形とするとともに、この角形ボイスコイルを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体とし、この集合体を平板振動板に取り付け、このボイスコイル集合体を磁気回路で駆動してなる平板型スピーカーがある(特許文献3)。特許文献3の第3図に示すように、このスピーカーでは、一対の帯状ヨークの一長辺部間にマグネットを挟んで構成した磁気回路を複数備え、この磁気回路の帯状ヨークの他方側の長辺部間に、各ボイスコイルの各一辺部を挿入するように多数個配置している。なお、特許文献3は、ボイスコイル集合体が、枠体部にコイルを巻回してボイスコイルを角形に構成されており、その後にこれらを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体にしている、と記載している。
【0005】
ただし、特許文献3の第2図に示されている限りにおいて、従来のこのボイスコイル集合体では、それぞれのボイスコイルはボビンに相当する枠部の外側に巻回されているので、隣り合うボイスコイル同士が接合したとしても、ボイスコイル集合体を構成する隣り合うボビン同士は、外側に巻回されたボイスコイルの線径による厚みの分だけ離間してしまい、密着させることができない。ボビンの剛性が不足する場合には、ボビンが振動して分割振動する、または、隣り合うボビン同士が接触し異音を生じるという問題があり、さらにこれを解決するためには、隣り合うボビン同士を連結させる接着剤等の付加的な重量物が必要になる。その結果、スピーカー振動板の重量が重くなり、スピーカーの再生能率が低下するという問題がある。
【0006】
また、従来には、ボビンの内径側にコイルを巻回したボイスコイルが、円筒状のボビンの内径側にコイルを巻回す場合の巻回工程数を減少させる方法とともに開示されている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−18098号公報
【特許文献2】特開昭63−299500号公報
【特許文献3】実開昭55−88590号公報
【特許文献4】特開平7−131892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくい平面薄型スピーカーを実現することができるボイスコイル組立体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボイスコイル組立体は、 断面形状が格子状に形成されて内部に複数の矩形空間を有する格子状ボビンと、格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着される複数の内巻矩形コイルと、を備え、隔壁面を境にして隣接する2つの矩形空間のそれぞれの内壁面に固着される2つの内巻矩形コイルが、隔壁面に沿う一の内巻矩形コイルv1の一辺x1および他の内巻矩形コイルv2の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されるボイスコイル組立体であって、格子状ボビンの隔壁面の厚みを規定する厚さtb1が、内壁面の他の部分の厚みを規定する厚さtb2よりも薄くされ、かつ、一の内巻矩形コイルv1の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1、および、他の内巻矩形コイルv2の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2、の総和の厚さtc0以下に薄くされる。
【0010】
好ましくは、本発明のボイスコイル組立体は、隔壁面に沿う2つの内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2が、隔壁面を間に挟むことなく接着剤で固着されており、かつ、x1およびx2の上端面が隔壁面の下端面に接着剤で固着される。
【0011】
さらに好ましくは、本発明のボイスコイル組立体は、格子状ボビンの隔壁面が、隔壁面に沿う2つの内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2の間に挟まれて延設される隔壁延設面をさらに備え、隔壁延設面の厚みを規定する厚さtb0が、隔壁面の厚さtb1以下に薄くされる。
【0012】
また、本発明のボイスコイル組立体は、格子状ボビンが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーの樹脂材料、もしくは、アルミ、または、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成される。
【0013】
好ましくは、本発明のボイスコイル組立体は、複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続する錦糸線を、さらに備える。
【0014】
また、本発明のスピーカーは、上記のボイスコイル組立体と、ボイスコイル組立体に固着されるスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備えるスピーカーであって、磁気回路が、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着するヨークと、を備え、隣同士のプレートの間、ならびに、プレートとヨークの間、に形成される磁気空隙に、ボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置されている。
【0015】
また、本発明のボイスコイル組立体の製造方法は、隔壁面を備える格子状ボビンを形成する工程と、複数の内巻矩形コイルを形成する工程と、接着治具の格子状ボビンに対応した格子状溝部に複数の内巻矩形コイルを嵌入する工程と、複数の内巻矩形コイルの上端面に接着剤を塗布する工程と、接着治具の格子状溝部に格子状ボビンを嵌入して、格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面に複数の内巻矩形コイルをそれぞれ固着するとともに、複数の内巻矩形コイルの上端面と、格子状ボビンの隔壁面とを接着する工程と、複数の内巻ボイスコイルを相互に接続し、入力端ならびに出力端に錦糸線を接続する工程と、接着剤が固化した後に、接着治具の格子状溝部からボイスコイル組立体を抜去する工程と、を含む。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のボイスコイル組立体は、断面形状が格子状である一つの格子状ボビンに複数の内巻矩形コイルを密着固定させて形成したボイスコイル組立体であって、格子状ボビンが複数の矩形空間を有しており、内巻矩形コイルはそれぞれの矩形空間を規定する内壁面に固着されている。例えば、格子状ボビンは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーの樹脂材料、もしくは、アルミ、または、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成されている。ボイスコイル組立体は、複数の内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続する錦糸線を、さらに備えることで、音声信号電流を導通させることができる。
【0018】
ここで、内巻矩形コイルとは、巻き上げられたコイルの外観形状が、磁気回路の磁気空隙形状に対応して矩形であり、かつ、コイルの巻芯としてのボビンを備えないボビンレス状態のコイルであって、巻き上げられた状態のまま格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着されるボイスコイルである。内巻矩形コイルの外寸法は、ボビンの矩形空間の内寸法にほぼ一致しており、内巻矩形コイルとボビンの矩形空間とは嵌合させられた上で、接着剤により密着固定されている。また、本発明のボイスコイル組立体では、内壁面を挟んで配置されている2つの内巻ボイスコイルが、一の内巻矩形コイルの一辺と、これに最も接近する他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。
【0019】
上記のボイスコイル組立体を用いて、本発明のスピーカーは実現される。すなわち、本発明のスピーカーは、このボイスコイル組立体に固着されるスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備える。磁気回路は、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、複数のマグネットと固着するヨークと、を備えているので、隣同士のプレートの間、ならびに、プレートとヨークの間、に形成される磁気空隙に、ボイスコイル組立体の内巻矩形コイルが配置される。つまり、ボビンの内壁面を挟んだ2つの内巻ボイスコイルが、隣同士のプレートの間に形成される磁気空隙に配置される。
【0020】
つまり、格子状ボビンの内壁面のうち、2つの矩形空間を区切る隔壁面を境にして2つの内巻矩形コイルが固着され、隔壁面に沿う一の内巻矩形コイルv1の一辺x1および他の内巻矩形コイルv2の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流が導通するように接続される。この格子状ボビンの隔壁面の厚みを規定する厚さtb1は、内壁面の他の部分の厚みを規定する厚さtb2よりも薄くされる。さらに、隔壁面の厚みを規定する厚さtb1は、一の内巻矩形コイルv1の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1、および、他の内巻矩形コイルv2の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2、の総和の厚さtc0以下に薄くされる。その結果、格子状ボビンの隔壁面の厚さtb1を内壁面の他の部分の厚さtb2よりも薄くして、格子状ボビンを含むボイスコイル組立体を軽量化することができる。格子状ボビンが有する矩形空間の数が多くなれば、これらを隔てる隔壁面の数も多くなるので、それぞれの隔壁面の厚みを薄くすれば、軽量化の効果を大きくすることができる。
【0021】
また、磁気回路の磁気空隙をより狭くすることができれば、磁束密度が向上する結果、スピーカーの能率が向上して好ましい。したがって、本発明のボイスコイル組立体では、同一の磁気空隙に配置される2つの内巻矩形コイルがより接近するように、隔壁面に沿う2つの内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2が、隔壁面を間に挟むことなく接着剤で固着されており、かつ、x1およびx2の上端面が隔壁面の下端面に接着剤で固着される。あるいは、ボイスコイル組立体は、格子状ボビンの隔壁面が、隔壁面に沿う2つの内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2の間に挟まれて延設される隔壁延設面をさらに備え、隔壁延設面の厚みを規定する厚さtb0が、厚さtb1以下に薄くされる。つまり、格子状ボビンの隔壁面が、隔壁面に沿う2つの内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2の間で省略されているか、隔壁面よりもさらに薄く形成された隔壁延設面にされているので、格子状ボビンをさらに軽量化することができ、磁気空隙をより狭くしても、ギャップ不良が少なくて能率が高いスピーカーを実現できる。
【0022】
本発明のボイスコイル組立体は、隔壁面を2つの内巻矩形コイルv1およびv2の間に挟まない前者の場合には、格子状ボビンに対応する格子状溝部を有する接着治具を用いて製造するのが好ましい。予めに、接着治具の格子状溝部に複数の内巻矩形コイルを嵌入し、複数の内巻矩形コイルの上端面に接着剤を塗布し、接着治具の格子状溝部に格子状ボビンを嵌入して、格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面に複数の内巻矩形コイルをそれぞれ固着するとともに、複数の内巻矩形コイルの上端面と、格子状ボビンの隔壁面の下端面とを接着する。そして、複数の内巻ボイスコイルを相互に接続し、入力端ならびに出力端に錦糸線を接続し、接着剤が固化した後に、接着治具の格子状溝部からボイスコイル組立体を抜去すればよい。また、隔壁面よりもさらに薄く形成された隔壁延設面を有する後者の場合には、複数の内巻矩形コイルと格子状ボビンの隔壁延設面とを接着する、または、複数の内巻矩形コイルを金型内に配置して、格子状ボビンをインサート成形すればよい。
【0023】
その結果、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる、平面薄型のスピーカーが実現される。本発明のボイスコイル組立体では、それぞれの内巻矩形コイルがボビンの矩形空間を規定する内壁面に固着され、さらに隔壁面に沿う2つの内巻ボイスコイルを密着固定させて形成することができ、その結果、ボビンの剛性を高め、スピーカー振動部材の重量が軽くなり、スピーカーの再生能率を向上させて安定した音声再生が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のボイスコイル組立体を備えたスピーカーは、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる平面薄型のスピーカーを実現することができ、また、動作不良が発生しにくく、安定した音声再生が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のボイスコイル組立体は、能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られ、かつ、動作不良が発生しにくい平面薄型スピーカーを実現するという目的を、隔壁面を境にして隣接する2つの矩形空間のそれぞれの内壁面に固着される2つの内巻矩形コイルが、隔壁面に沿う一の内巻矩形コイルv1の一辺x1および他の内巻矩形コイルv2の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されるボイスコイル組立体であって、格子状ボビンの隔壁面の厚みを規定する厚さtb1が、内壁面の他の部分の厚みを規定する厚さtb2よりも薄くされ、かつ、一の内巻矩形コイルv1の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1、および、他の内巻矩形コイルv2の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2、の総和の厚さtc0以下に薄くされるようにすることにより、実現した。
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体、および、これを用いたスピーカー、ならびに、その製造方法について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカー1を説明する図である。図1(a)は平面振動板6を上方に向けたスピーカー1を説明する斜視図であり、また、図1(b)は、平面薄型のスピーカー1の内部構造を説明するA−A’断面図である。なお、説明に不要な一部の内部構造等は、省略している。
【0028】
本実施例の平面薄型のスピーカー1は、略矩形の平面振動板6を含むスピーカー振動部材5を備える平面薄型のスピーカーであって、その振動板面積を形成する長さL(約140.8mm)に比べて、平面振動板6の幅W(約16.2mm)と、スピーカーとしての全高h(約20.0mm)とが小さく抑えられたスピーカーである。具体的には、スピーカー用磁気回路2と、この磁気回路2の底面側に固着する保持フレーム3と、平面振動板6の周囲を支持する樹脂製のフレーム4と、をさらに備えている。スピーカー用磁気回路2は、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して1列に配置した14個の主マグネット22を含む磁気回路である。フレーム4は、平面薄型のスピーカー1を(図示しない)キャビネット等に固定するフレーム固定部を有する。
【0029】
スピーカー振動部材5は、平面振動板6と、平面振動板6の外周端を振動可能に支持するエッジ7と、平面振動板6の背面側に固着される後述するボイスコイル組立体10と、を備える。例えば、平面振動板6は、発泡樹脂(材料:PC(ポリカーボネート))の成形板であり、ゴム(材料:発泡ゴム)を含むエッジ7によってその外周部を支えられており、エッジ7の外周側はフレーム4に固着されている。ボイスコイル組立体10は、平面振動板6の背面側に固着されており、ボイスコイル組立体10に取り付けられる複数の内巻矩形コイル9(本実施例の場合は、14個)に音声信号電流が供給されると、磁気回路2によってボイスコイル組立体10は駆動力を受け、その結果、平面振動板6が振動すると、平面薄型のスピーカー1は音声を再生する。
【0030】
図1(b)に示すように、磁気回路2は、磁性体の金属から成るヨーク21と、14個の主マグネット22と、これらのマグネット22の上部にそれぞれ冠した矩形プレート23と、矩形プレート23の上部にそれぞれ冠した反発マグネット24と、から構成される。ヨーク21は、平面状のプレート部21aと、矩形プレート23との間に磁気空隙を規定する(図示しない)側壁部21bと、を有する。具体的には、ヨーク21、および、矩形プレート23は、鉄板をプレス加工して成形される。
【0031】
ヨーク21のプレート部21aには、14個の主マグネット22が、それぞれの磁極性が隣同士で異なるように一列に配置される。14個の主マグネット22は、それぞれ予め矩形プレート23が固着されて、矩形プレート23側がN極、もしくは、S極となるように二組に選別されて着磁される。そして、着磁された14個の主マグネット22は、ヨーク21のプレート部21aに治具を用いて、磁極性が隣同士で異なるように整列させられて、固着される。磁極性が隣同士で異なるところに形成される磁気空隙では、N極からS極へ向かって磁束が飛ぶので、磁気回路2に設けられるそれぞれの磁気空隙では、主マグネット22の配列にしたがった方向へ磁束が飛ぶ。なお、予め着磁された反発マグネット24は、矩形プレート23の側面から反発磁界による磁力線が飛ぶように、N極、もしくは、S極を選別して、接着剤で矩形プレート23の上面側に固着される。したがって、磁気回路2の隣同士の矩形プレート23の間、ならびに、矩形プレート23とヨーク21の側壁部21bの間、に形成される磁気空隙、すなわち、格子状に設けられた磁気空隙では、高い磁束密度分布が得られる。
【0032】
図2は、平面薄型のスピーカー1を構成するボイスコイル組立体10を説明する図である。図2(a)は、ボイスコイル組立体10の一部を拡大した断面図であり、図2(b)は、ボイスコイル組立体10の平面図であり、図2(c)は、ボイスコイル組立体10の全体を示す斜視図である。また、図3は、平面薄型のスピーカー1の平面振動板6の背面側に固着されるボイスコイル組立体10の一部を拡大した断面図である。なお、これらの図では、説明のために構成の一部を透明視して図示している。ボイスコイル組立体10は、断面形状が格子状に形成されて内部に14個の矩形空間12aを有する格子状ボビン11と、この矩形空間12aを規定する内壁面12bにそれぞれ固着される14個の内巻矩形コイル9と、を備える。
【0033】
格子状ボビン11は、樹脂材料の液晶ポリマーを射出成形金型で成形し、平均肉厚0.2mmの格子状(梯子状)に形成されており、一列に配置された14個の矩形空間12aを規定している。内巻矩形コイル9は、格子状ボビン11の矩形空間12aに嵌合させられた上で、内壁面12bに接着剤により密着固定される。具体的には、矩形空間12aの内寸法は、約9.1mm×約9.1mmである。矩形ボビン12は、断面形状が内壁面12bならびに隔壁面12dにより矩形状に形成されているので、内部に矩形空間12aを有するとともに、その外壁面12cが4面の平面を構成する。本実施例のように樹脂を成形した格子状ボビン11の場合には、矩形空間12aを規定する内壁面12bに、内巻矩形コイル9が係止する(後述する)段部12eを設けることができる。
【0034】
また、内巻矩形コイル9は、線径0.12mmの銅線をボビンレス状態で、その外寸法が約9.1mm×約9.1mm外観形状矩形になるように巻き回されたコイルであり、内巻矩形コイル9の外寸法は、格子状ボビン11の矩形空間12aの内寸法にほぼ一致している。内巻矩形コイル9の一辺の厚みを規定する厚さtc1(もしくはtc2)は、約0.3mmである。内巻矩形コイル9を製造するにあたっては、仮の矩形の巻芯に線材を巻き付けた後に、線材に接着剤、もしくは、ワニスを塗布し、これが硬化した後に巻芯を抜去してボビンレス状態の内巻矩形コイル9を形成する。なお、格子状ボビン11と内巻矩形コイル9の矩形とは、素材の折れ曲がりによる破断を防止するように矩形の角部が曲面で構成される場合を含む。この曲面は、磁気回路2を構成する矩形プレート23等に接触しない程度の大きさの半径により規定される曲面であればよい。
【0035】
したがって、本発明のボイスコイル組立体10では、内巻ボイスコイル11の内巻矩形コイル9は、格子状ボビン11の矩形空間12aに嵌合させられた上で、内壁面12bに接着剤により密着固定される。また、格子状ボビン11の矩形空間12aのそれぞれの内巻ボイスコイル9が、一の内巻矩形コイルの一辺と、これに最も接近する他の内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。例えば、図2(b)に図示するボイスコイル組立体10では、格子状ボビン11が有する内巻矩形コイル91に、図示するような時計回りの電流I1が流れる場合には、その右側に位置する内巻矩形コイル92には、図示するような反時計回りの電流I2が流れるように、内巻矩形コイル91および92は接続されている。つまり、内巻矩形コイル91および92は、左側に位置する内巻矩形コイル91の矩形の右側の一辺と、右側に位置する内巻矩形コイル92の矩形の左側の一辺とが、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。
【0036】
ここで、内巻矩形コイル91および92は、内壁面12bを構成する隔壁面12dを挟むように対峙する関係にあり、かつ、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。したがって、ボイスコイル組立体10を用いる平面薄型のスピーカー1では、図3に示すように、磁気回路2の格子状の磁気空隙の隣接する2つの矩形プレート23の間に、これらの内巻矩形コイル91および92が、隔壁面12dを挟んで対峙するように配置される。内巻矩形コイル91および92には、上面方向または下面方向のいずれかに電磁力が働くので、同様に配置された他の内巻矩形コイル9を磁気空隙に配置するボイスコイル組立体10には、上面方向または下面方向に駆動力が作用し、平面振動板6は、上面方向または下面方向に変位することができる。その結果、平面振動板6が振動すると、平面薄型のスピーカー1は音声を再生する。
【0037】
つまり、本実施例のボイスコイル組立体10においては、複数の内巻矩形コイル9は、9つの矩形空間12aの内壁面12bに固着される。例えば、図2に図示するように、2つの内巻矩形コイル91および92は、その間の隔壁面12dを挟んで配置されている内巻矩形コイルの一辺と、内巻矩形コイルの一辺と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されている。図2および図3に図示するように、内壁面12bを構成する隔壁面12dを境にして、隣接する2つの矩形空間12aのそれぞれには、2つの内巻矩形コイル91および92が固着される。そして、これらは、隔壁面12dに沿う一の内巻矩形コイル91の一辺x1および他の内巻矩形コイル92の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流I1ないしI2が導通するように接続される。同様にして、14個の内巻矩形コイル9は、ボイスコイル組立体10に働く駆動力の方向が一致するように、相互に接続される。
【0038】
なお、複数の内巻矩形コイル9を相互に接続するにあたり、直列接続か並列接続かは問われない。それぞれの内巻矩形コイル9のインピーダンスならびに全体での合成インピーダンスを考慮して、直列接続と並列接続とを併用して接続してよい。また、音声信号電流を流す回転方向を、隣り合うコイル同士が逆回転方向になるようにするには、複数の内巻矩形コイル9の巻線方向を変更した二種類のコイルを用意してもよいし、全ての内巻矩形コイル9の巻線方向が同じであっても、巻き始め側と巻き終わり側を入れ替えて相互に接続してもよい。
【0039】
図4は、本実施例のボイスコイル組立体10を説明する一部拡大断面図であり、長軸方向の端部から3つの矩形空間12aを形成する格子状ボビン11の断面を説明する図である。具体的には、図4(a)は、ボイスコイル組立体10の長軸方向を示す中心線A−A’における格子状ボビン11の断面斜視図であり、図4(b)は、同じ断面でのボイスコイル組立体10の断面斜視図である。
【0040】
図4(a)に図示するように、格子状ボビン11は、剛性と耐熱に優れる液晶ポリマー樹脂で一体に形成された構造体であって、内壁面12bならびに外壁面12cを構成する略矩形状の外郭部分は、その厚みtb2が平均肉厚0.3mmとなるように形成されている。また、外郭部分の高さhb2は、約8.9mmである。また、格子状ボビン11の外郭部分は、内壁面12bの側に内巻矩形コイル9が係止する段部12eを有しており、段部12eは、外郭部分が内側で薄くされて形成されている。なお、図4(a)に図示する格子状ボビン11では、内巻矩形コイル9の4つの角の外側に係合する段角部12fが形成されているが、長軸方向を示す中心線A−A’における方向での部品公差ないし組立公差を吸収するように、段角部12fを省略してもよい。段角部12fを設けない格子状ボビン11では、樹脂で成形するのが容易になるという利点がある。
【0041】
そして、内壁面12bとともに矩形空間12aを規定する隔壁面12dは、その厚みtb1が平均肉厚0.2mmとなるように形成されており、外郭部分の厚みtb2よりも薄くされている。隔壁面12dの高さhb1は、格子状ボビン11の外郭部分の高さhb2よりも低く、約6.1mmとなるように形成されている。その結果、隔壁面12dの下側の端部と、段部12eの高さとが一致して、内巻矩形コイル9を係止することができる。したがって、格子状ボビン11の矩形空間12aには、それぞれ内巻矩形コイル9が下側から挿入されて、隔壁面12dの下側の端部および段部12eに係合して取り付けられる。
【0042】
図4(b)に図示するように、内巻矩形コイル91および92は、隣り合う2つの矩形空間12aにそれぞれ取り付けられる。ここで、上述したように、内巻矩形コイル91および92は、ひとつの隔壁面12dに沿う内巻矩形コイル91の一辺x1と、もう一方の内巻矩形コイル92の一辺x2と、において、同一方向に音声信号電流が導通するように接続される。そして、隔壁面12dの高さhb1が、格子状ボビン11の外郭部分の高さhb2よりも短くされているので、格子状ボビン11の内巻矩形コイル91の一辺x1と、内巻矩形コイル92の一辺x2とは、隔壁面12dを間に挟むことなくほぼ接するように密着することができる。
【0043】
つまり、格子状ボビン11の隔壁面12dが、この隔壁面12dに沿う2つの内巻矩形コイル91および92のそれぞれの一辺x1およびx2の間で省略されている構造であるので、格子状ボビン11を従来よりも軽量化することができる。本実施例の格子状ボビン11では、14の矩形空間12aを隔てる13の隔壁面12dが存在するので、隔壁面12dの厚みを薄くすることで、軽量化が実現される。格子状ボビンの全てを平均肉厚0.3mmで形成する場合(つまり、隔壁面12dの厚みが前述の厚みtb1に薄くされていなくて、かつ、隔壁面12dの高さが前述の高さhb2よりも低くされていない場合)を比較例とすると、本実施例の場合には、格子状ボビン11の重量は約2.7gであり、一方で、比較例の場合の重量は約2.1gとなる。したがって、格子状ボビン11が約20%以上も軽量化できる。
【0044】
図5は、ボイスコイル組立体10とその製造工程を説明する図であり、長軸方向を示す中心線A−A’における格子状ボビン11の隔壁面12dと、内巻矩形コイル91および92との一部拡大断面図である。図5(a)は、接着剤Adと、接着治具Jaを用いて、格子状ボビン11の隔壁面12dと、内巻矩形コイル91および92のそれぞれの一辺x1およびx2を接着する工程を説明する図であり、そして、図5(b)は、接着剤Adが固化した後に接着治具Jaから抜き去られたボイスコイル組立体10を説明する図である。隔壁面12dを備える格子状ボビン11と、複数の内巻矩形コイル9とは、別工程で予め形成する。
【0045】
接着治具Jaは、例えば、ジュラコン、フッ素樹脂、といった材料で形成された基体に、格子状ボビン11の形状に対応した所定の格子状溝部Jbを有するようにされている治具である。なお、接着治具Jaは、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、といった接着剤Adを、微量塗布機を用いて塗布する工程に使用するので、その格子状溝部Jbに接着剤Adが付着して固化しても取り除きやすいように、フッ素樹脂をコーティングする加工等を施しておくのが好ましい。本実施例の場合には、図5(a)に示す格子状溝部Jbの幅tjは、約0.7mmであって、挿入される格子状ボビン11の隔壁面12dの厚さtb1(=約0.2mm)よりも幅があるように設定される。また、長軸方向での部品公差ないし組立公差を考慮して、内巻矩形コイル91の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1(=約0.3mm)、および、内巻矩形コイル92の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2(=約0.3mm)、の総和の厚さtc0(=約0.6mm)よりも、大きくされている。
【0046】
したがって、接着治具Jaの格子状溝部Jbに内巻矩形コイル91および92を嵌入し、次に、これらの内巻矩形コイル91および92の上端面に接着剤Adを塗布し、次に、接着治具Jaの格子状溝部Jbに格子状ボビン11を嵌入して、格子状ボビン11の矩形空間12aを規定する内壁面12bに内巻矩形コイル91および92をそれぞれ固着する。内巻矩形コイル9は、接着治具Jaの格子状溝部Jbに嵌入されると、その形状は所定の寸法形状に矯正され、さらに、2つの内巻矩形コイルの間隔は、均一になる。内巻矩形コイル9の外径公差は±0.05mmであるので、内巻矩形コイル91および92の離間距離tsは、最大で0.1mmになる。模式的に説明する図面上では、内巻矩形コイル91の一辺x1と、内巻矩形コイル92の一辺x2は離間しているようになるものの、実際には上記のように公差は非常に小さいので、この隙間には接着剤Adが行き渡り、隔壁面12dを間に挟むことなくほぼ接するように密着する。
【0047】
また、接着剤Adは、内巻矩形コイル91および92の上端面と、格子状ボビン11の隔壁面12の下端面と、を接着する。接着剤Adは、好ましくは、エポキシ系、あるいは、アクリル系の接着剤であって、微量塗布機を用いて塗布する。例えば、微量塗布機は、極めて細いニードルバルブを有して最小塗布量を0.001cc以上で調整でき、四軸制御の塗布ロボットにより水平方向の二軸XY方向では、0.005mmの分解能で所定の箇所に塗布が可能である。微量塗布機は、セラミック製の超微量塗布用ノズルを用いると、最小内径0.005mmで接着剤Adを所定の箇所に適量を塗布することができる。本実施例の場合には、微量塗布機を調整して、塗布量を約0.5mg/mmとし、複数の内巻矩形コイル9を格子状ボビン11に接着する。
【0048】
図5に示すように、格子状ボビン11の隔壁面12dの厚みを規定する厚さtb1が、内巻矩形コイル9の2辺の厚さの総和tc0以下に薄くされれば、磁気回路2に設けられるそれぞれの磁気空隙に、内巻矩形コイル91の一辺x1と、内巻矩形コイル92の一辺x2とを、最も近接するように配置することができる。すなわち、図5(b)に示すように、隔壁面12dに沿う2つの内巻矩形コイル91および92のそれぞれの一辺x1およびx2は、隔壁面12dを間に挟むことなく接着剤Adで固着されており、かつ、x1およびx2の上端面が隔壁面12dの下端面に接着剤Adで固着される。したがって、内巻ボイスコイル91および92を含む全ての内巻ボイスコイル9を相互に接続して、入力端ならびに出力端に錦糸線14ないし15を接続し、接着剤Adが固化した後に、接着治具Jaの格子状溝部Jbからボイスコイル組立体10を抜去すると、ボイスコイル組立体10が完成する。
【0049】
また、内巻矩形コイル91の一辺x1と、内巻矩形コイル92の一辺x2とが、隔壁面12dを間に挟まない構造であるので、ボイスコイル組立体10を用いるスピーカー1の磁気回路2の磁気空隙を、より狭くすることができる。具体的には、上記の比較例の場合には磁気回路2の磁気空隙の幅は約1.4mm以上になる一方で、本実施例の場合には約1.2mmにすることができる。本実施例のボイスコイル組立体10を用いるスピーカー1は、格子状ボビン11の隔壁面12dが磁気空隙を構成する2つの矩形プレート23に接触する恐れがほとんど無くなり、その結果、平面薄型のスピーカーであっても、ギャップ不良が少なくて能率が高いスピーカーを実現できる。格子状ボビン11は、剛性と耐熱に優れる液晶ポリマー樹脂で一体に形成された構造体であり、また、複数の内巻ボイスコイル9同士が連結するので、その剛性を高めることができる。したがって、この格子状ボビン11を用いるボイスコイル組立体10は、ボイスコイル組立体10、ならびに、平面振動板6を含むスピーカー振動部材5が分割振動するのを抑制することができる。
【0050】
また、格子状ボビン11の形状寸法を精度良く製造することができるので、その結果、安定した音声再生が可能なスピーカー1が実現される。なお、格子状ボビン11を構成する材料は、液晶ポリマー以外にものポリイミド、ポリエーテルイミド、等の樹脂材料であれば良く、その成形方法も押出成形でもよく、上記の射出成形に限られるものではない。さらに、アルミ、または、チタンを含む金属材料をインパクト成形することで、格子状ボビン11を得ても良い。
【0051】
また、本実施例の平面薄型のスピーカー1は、それぞれ全14個の主マグネット22及び内巻矩形コイル9が、共通で矩形である場合であるが、マグネット及びコイルの数は2個以上であればよく、また、矩形であれば長方形であってもよい。
【実施例2】
【0052】
図6は、先の実施例における図5と同様に、他のボイスコイル組立体10とその製造工程を説明する図であり、長軸方向を示す中心線A−A’における格子状ボビン11の隔壁面12dと、内巻矩形コイル91および92との一部拡大断面図である。図6(a)は、接着剤Adと、接着治具Jaを用いて、格子状ボビン11の隔壁面12dならびに隔壁延設面12gと、内巻矩形コイル91および92のそれぞれの一辺x1およびx2を接着する工程を説明する図であり、そして、図6(b)は、接着剤Adが固化した後に接着治具Jaから抜き去られたボイスコイル組立体10を説明する図である。
【0053】
液晶ポリマーで形成される本実施例の格子状ボビン11は、その隔壁面12dから延設される隔壁延設面12gをさらに備えている点で、先の実施例と相違する他は、寸法、ならびに、重量についてもほぼ共通するので、共通する構成等については、共通の番号を付して、説明並びに図示を省略する。また、本実施例の格子状ボビンを用いるボイスコイル組立体は、先の実施例のボイスコイル組立体に代えて平面薄型のスピーカー1を構成することができる。
【0054】
隔壁延設面12gは、隔壁面12dよりもさらに薄い形状で隔壁面12dの下端から延設される部分であって、隔壁面12dに沿う2つの内巻矩形コイル91および92のそれぞれの一辺x1およびx2の間に挟まれて延設される。つまり、内巻矩形コイル91および92は、隔壁延設面12gを間に挟んで対峙する関係になる。具体的には、隔壁延設面12gの厚みを規定する厚さtb0は約0.1mmであり、隔壁面12dの厚さtb1(=約0.2mm)以下に薄くされる。したがって、隔壁面12dと隔壁延設面12gとで厚みが変化する部分は、先の実施例における段部12eおよび段角部12fを規定する。本実施例の場合の格子状ボビン11の重量は、先の実施例の場合に比べて、約0.2g増加するので、軽量化では劣るものの、比較例の場合に比べてなお軽量であり、これを用いたボイスコイル組立体10により、能率の高いスピーカー1を実現できる。
【0055】
図6(a)に図示するように、本実施例の格子状ボビン11は、予めに隔壁延設面12gを有する形状で成形した部材を、接着治具Jaの格子状溝部Jbに嵌入するようにすればよい。また、格子状ボビン11を成形する工程において、複数の内巻矩形コイル9を所定の金型内に配置して、格子状ボビンをインサート成形することによって、隔壁延設面12gを備えるようにしてもよい。すなわち、インサート成形の金型内では、接着治具Jaと同様に、内巻矩形コイル91の一辺x1と、内巻矩形コイル92の一辺x2とが、部品公差ないし組立公差で決まる最小の部品離間距離tsで離間するものの、インサート成形で注入される樹脂がx1とx2の間に入り込んで、内巻矩形コイル91および92を連結する。したがって、格子状ボビン11を成形する工程において、接着剤を使用することなく複数の内巻矩形コイル9を固着することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のスピーカー振動部材およびその製造方法は、平面振動板を備えるスピーカーのみならず、ヘッドホンの振動板にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを構成するボイスコイル組立体を説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーのボイスコイル組立体10の一部を拡大した断面図である。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態による平面薄型のスピーカーを構成するボイスコイル組立体を説明する図である。(実施例1)
【図5】本発明の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体とその製造工程を説明する図である。(実施例1)
【図6】本発明の他の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体とその製造工程を説明する図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0058】
1 スピーカー
2 磁気回路
21 ヨーク
22 主マグネット
23 矩形プレート
24 反発マグネット
3 保持フレーム
4 フレーム
5 スピーカー振動部材
6 平面振動板
7 エッジ
9 内巻矩形コイル
10 ボイスコイル組立体
11 内巻ボイスコイル
12 矩形ボビン
12a 矩形空間
12b 内壁面
12c 外壁面
12d 隔壁面
12e 段部
12f 段角部
12g 隔壁延設面
14、15 錦糸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が格子状に形成されて内部に複数の矩形空間を有する格子状ボビンと、該格子状ボビンの矩形空間を規定する内壁面にそれぞれ固着される複数の内巻矩形コイルと、を備え、
隔壁面を境にして隣接する2つの該矩形空間のそれぞれの内壁面に固着される2つの該内巻矩形コイルが、該隔壁面に沿う一の該内巻矩形コイルv1の一辺x1および他の該内巻矩形コイルv2の一辺x2のそれぞれにおいて、同一方向に音声信号電流が導通するように接続されるボイスコイル組立体であって、
該格子状ボビンの該隔壁面の厚みを規定する厚さtb1が、該内壁面の他の部分の厚みを規定する厚さtb2よりも薄くされ、かつ、該一の内巻矩形コイルv1の一辺x1の厚みを規定する厚さtc1、および、該他の内巻矩形コイルv2の一辺x2の厚みを規定する厚さtc2、の総和の厚さtc0以下に薄くされる、
ボイスコイル組立体。
【請求項2】
前記隔壁面に沿う2つの前記内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2が、前記隔壁面を間に挟むことなく接着剤で固着されており、かつ、該x1および該x2の上端面が該隔壁面の下端面に接着剤で固着される、
請求項1に記載のボイスコイル組立体。
【請求項3】
前記格子状ボビンの前記隔壁面が、該隔壁面に沿う2つの前記内巻矩形コイルv1およびv2のそれぞれの一辺x1およびx2の間に挟まれて延設される隔壁延設面をさらに備え、該隔壁延設面の厚みを規定する厚さtb0が、該隔壁面の前記厚さtb1以下に薄くされる、
請求項1に記載のボイスコイル組立体。
【請求項4】
前記格子状ボビンが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーの樹脂材料、もしくは、アルミ、または、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成される、
請求項1から3のいずれかに記載のボイスコイル組立体。
【請求項5】
前記複数の該内巻ボイスコイルを相互に接続した入力端ならびに出力端に接続する錦糸線を、さらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載のボイスコイル組立体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のボイスコイル組立体と、該ボイスコイル組立体に固着されるスピーカー振動板と、該スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、該エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備えるスピーカーであって、
該磁気回路が、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠し、かつ、それらの磁極性が隣同士で異なるように着磁して配置した複数のマグネットと、該複数のマグネットと固着するヨークと、を備え、
該隣同士のプレートの間、ならびに、該プレートと該ヨークの間、に形成される磁気空隙に、該ボイスコイル組立体の前記内巻矩形コイルが配置されている、
スピーカー。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のボイスコイル組立体の製造方法であって、
前記隔壁面を備える前記格子状ボビンを形成する工程と、
前記複数の内巻矩形コイルを形成する工程と、
接着治具の格子状ボビンに対応した格子状溝部に該複数の内巻矩形コイルを嵌入する工程と、
該複数の該内巻矩形コイルの上端面に接着剤を塗布する工程と、
該接着治具の該格子状溝部に該格子状ボビンを嵌入して、該格子状ボビンの前記矩形空間を規定する前記内壁面に該複数の該内巻矩形コイルをそれぞれ固着するとともに、該複数の該内巻矩形コイルの前記上端面と、該格子状ボビンの該隔壁面とを接着する工程と、
該複数の該内巻ボイスコイルを相互に接続し、前記入力端ならびに前記出力端に錦糸線を接続する工程と、
該接着剤が固化した後に、該接着治具の該格子状溝部から該ボイスコイル組立体を抜去する工程と、
を含む、ボイスコイル組立体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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