説明

ボイラ装置の腐食抑制方法

【課題】 pH調整剤を用いてボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、pH調整剤の使用量を適正化する。
【解決手段】 ボイラ装置1において、pH調整剤を用いてボイラ2における腐食を抑制する方法であって、一定時間毎に給水部3の注水路8における給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、この測定工程における測定結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記測定工程における測定間隔が、全炭酸の測定値に応じて調節可能となっており、さらに前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮してボイラ2の腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボイラ装置の腐食抑制方法に関するもので、とくに給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部とを備えたボイラ装置における腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ装置の配管,とくにボイラから蒸気を発生させるための主として鋼管製の伝熱管は、腐食が原因で破損する場合がある。この伝熱管の腐食は、ボイラ水のpHが低いと生じやすい。通常、ボイラ内において全炭酸を含む給水は、熱分解によりアルカリを生成し、ボイラ水のpHを上昇させる。これにより、ボイラ水のpHが上昇して伝熱管の腐食を抑制している。しかし、給水中の全炭酸濃度が低いと、ボイラ水のpHがあまり上昇せず、ボイラ水と接触している伝熱管の内面部分に均等に腐食が進行して、伝熱管の減肉をもたらす可能性がある。
【0003】
このため、伝熱管の腐食を抑制するために、給水に含まれる全炭酸の濃度からボイラ水のpHを予測している。このボイラ水のpH予測方法として、通常、給水の全炭酸濃度を一回測定し、それに応じてpH調整剤を添加している。しかし、給水の水質は日々変動し、全炭酸濃度が上昇すると、ボイラ水のpHは上昇し、pH調整剤の添加量が少なくても良いにもかかわらず、pH調整剤の添加量は予め設定されているため、pH調整剤の添加量が過多となり、薬品が無駄に使われることになる。逆に、全炭酸の濃度が下降すると、ボイラ水のpHが下降し、pH調整剤を増量しなければならないにもかかわらず、pH調整剤の添加量は予め設定されているため、pH調整剤の添加量が不足し、伝熱管の腐食を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、前記課題に鑑み、pH調整剤を用いてボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、pH調整剤の使用量を適正化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、請求項1に記載の発明は、給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部とを備えたボイラ装置において、pH調整剤を用いて前記ボイラにおける腐食を抑制する方法であって、一定時間毎に前記給水部の注水路中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、この測定工程における測定結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、前記給水部に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記測定工程における測定間隔が、全炭酸の測定値に応じて調節可能となっており、さらに前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮して前記ボイラの腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっていることを特徴としている。
【0006】
さらに、請求項2に記載の発明は、給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部と、前記負荷機器で使用した蒸気を復水として前記給水部へ供給する復水供給部とを備えたボイラ装置において、pH調整剤を用いて前記ボイラにおける腐食を抑制する方法で
あって、一定時間毎に前記給水部の注水路中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、前記給水部の補給水の水量と前記復水供給部の復水の水量との比を算出する算出工程と、前記測定工程における測定結果および前記算出工程における算出結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、前記給水部に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記測定工程における測定間隔が、全炭酸の測定値に応じて調節可能となっており、さらに前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮して前記ボイラの腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、pH調整剤を用いてボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、pH調整剤の使用量を適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態に適用されるボイラ装置の概略図。
【図2】前記ボイラ装置において用いられる測定装置の縦断面概略図。
【図3】前記測定装置を構成する試薬供給装置部分を図2のIII方向から見た縦断面概略図。
【図4】前記測定装置の制御装置部分の概略構成を示す図。
【図5】前記ボイラ装置におけるpH調整剤の供給動作工程を示すフローチャート。
【図6】前記ボイラ装置におけるpH調整剤の供給動作工程を示すフローチャート。
【図7】他の実施の形態におけるpH調整剤の供給動作工程を示すフローチャート。
【図8】給水試料を通過する光の透過率に基づいて炭酸水素イオン濃度を測定する判定テーブルを概念的に示したグラフ。
【図9】他の実施の形態におけるボイラ装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、この発明の実施の形態に係るボイラ装置を説明する。図1において、ボイラ装置1は、給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水装置3(給水部の一例)と、蒸気を使用する負荷機器4と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気配管5(蒸気供給部の一例)とpH調整剤を前記給水装置3へ添加する薬剤供給装置6と、給水中に含まれる全炭酸濃度を測定する測定装置7とを主に備えている。
【0010】
前記給水装置3は、前記ボイラ2へ給水するために、補給水の注水路8と、この注水路8からの補給水を貯留する給水タンク9と、この給水タンク9に貯留された給水を前記ボイラ2へ供給する給水路10とを主に備えている(図1参照)。ここで、前記注水路8は、軟水化装置11と脱酸素装置12とをこの順にそれぞれ備えている。前記軟水化装置11は、補給水中に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの硬度成分をナトリウムイオンに置換して軟水に変換するものである。一方、前記脱酸素装置12は、補給水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するものである。また、前記給水路10は、給水を前記ボイラ2へ送り出す給水ポンプ13を備えている。
【0011】
前記負荷機器4は、前記ボイラ2からの蒸気を用いて所要の熱交換するもの,すなわち前記ボイラ装置1における負荷装置であり、前記蒸気配管5の下流側に接続されている。
【0012】
前記薬剤供給装置6は、pH調整剤を前記給水装置3へ添加するために、pH調整剤を貯蔵している薬剤タンク14と、前記給水路10へ連絡する薬剤供給路15とを主に備えている。前記薬剤タンク14内に貯蔵されているpH調整剤は、前記ボイラ2の伝熱管(図示省略)における腐食の発生および成長をpH調整することにより抑制する機能を有するものであれば、とくに限定されるものではないが、たとえば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物である。
【0013】
一方、前記薬剤供給路15は、前記薬剤タンク14内のpH調整剤を前記給水路10に対して供給する供給ポンプ16を備えている。この供給ポンプ16は、前記給水路10中を前記ボイラ2へ向けて移動中の一定量の給水に対し、所定量のpH調整剤を供給することができる定量ポンプである。
【0014】
前記測定装置7は、給水中に含まれる全炭酸濃度を測定するために、前記注水路8において、測定試料供給路17に設けられている(図1参照)。ここにおいて、全炭酸は、炭酸,炭酸水素イオンおよび炭酸イオンの3つの形態を含んでおり、中性付近においては、ほとんど炭酸水素イオンとして存在している。そのため、この実施の形態では、炭酸水素イオン濃度を測定する場合について説明する。炭酸水素イオン濃度を測定する場合、前記測定装置7は、図2に示すように、測定セル18と、測定部19と、試薬供給装置20と、制御装置21とを主に備えている。
【0015】
この測定セル18は、たとえばアクリル樹脂を筒状に形成した透明な容器であり、上部に開口部22を備えている。また、前記測定セル18の底部近傍の側面には、前記測定試料供給路17と接続された試料導入路23が設けられている。この試料導入路23は、前記測定試料供給路17側から順にフィルター24,定流量弁25および電磁弁26をそれぞれ備えており、前記注水路8から前記測定試料供給路17を介して供給される給水を前記測定セル18内へ供給可能に設定されている。また、前記測定セル18の側部には、前記開口部22の近傍において、測定試料を外部へ排出する試料排出路27が設けられている。
【0016】
また、前記測定セル18の底部には、攪拌装置28が設けられている。この攪拌装置28は、攪拌子29とステータ30とを備えている。この攪拌子29は、前記測定セル18の底部において回転可能に配置されており、磁石(図示省略)を内臓している。前記ステータ30は、前記攪拌子29を取り囲むように、前記測定セル18の外側に配置されており、電磁誘導コイル(図示省略)を備えている。この電磁誘導コイルには、電流が供給されるように設定されている。
【0017】
前記測定部19は、前記測定セル18内に貯留された給水(以下、「給水試料」と云う。)の透過光強度を測定するものであり、前記測定セル18を挟んで対向する発光体31と受光体32とを備えている。ここで、この発光体31は、たとえばLEDであり、また前記受光体32は、たとえばフォトトタンジスタである。
【0018】
前記試薬供給装置20は、前記開口部22に着脱可能に配置されており、図3(前記試薬供給装置20を図2のIII方向から見た縦断面図)に示すように、試薬カセット33,試薬カートリッジ34および排出装置35を主に備えている。この試薬カセット33は、装着具(図示省略)により底部が前記開口部22に気密状態を維持するように、着脱可能に装着されている。前記試薬カセット33の壁部には、上下方向に延びるスリット36が形成されている。また、前記試薬カセット33の内部には、前記スリット36と対向する内面に押圧部材37が上下方向に装着されている。
【0019】
前記試薬カートリッジ34は、容器38と試薬の収納体39とを主に備えている。この容器38は、前記試薬カートリッジ34の上部に装着されており、前記収納体39の上部は前記容器38内に収容されている。前記収納体39は、炭酸水素イオンと反応して変色する試薬(たとえば、メチルオレンジ)および緩衝液(たとえば、pH3.4のフタル酸緩衝液)が貯蔵された貯蔵部40と、この貯蔵部40内の試薬および緩衝液を外部へ排出する排出部41とを備えている。この排出部41は、たとえばフッ素ゴム製のチューブからなり、前記貯蔵部40から延びかつ先端部に排出ノズル42を備えている。前記排出部41は、前記試薬カートリッジ34の内部を上下方向に延びており、前記排出ノズル42が前記開口部22から前記測定セル18内へ挿入されることになる。ここにおいて、前記排出ノズル42は、前記測定セル18内の給水試料が逆流するのを防止する逆止弁(図示省略)を内臓している。
【0020】
前記排出装置35は、前記貯蔵部40内に貯蔵された試薬および緩衝液を排出させるものであり、モータ(図示省略)に接続された回転駆動軸43,駆動アーム44および押圧ローラ45を主に備えている。この回転駆動軸43は、前記スリット36の外側に配置されており、図3の反時計方向に回転可能である。前記駆動アーム44は、一端が前記回転駆動軸43に連結されており、他端に前記押圧ローラ45が回転自在に装着されている。前記駆動アーム44は、前記回転駆動軸43の回転により、図3に二点鎖線で示すように、反時計方向に回転可能であり、この回転により、前記スリット36の部分において前記押圧ローラ45が前記試薬カセット33から出入り可能に設定されている。
【0021】
ここで、前記試薬供給装置20は、本特許出願人の特許である特許第3186577号(発明の名称:液体吐出装置)とほぼ同様の構成を採用しているので、詳細は、同特許公報を参照されたい。
【0022】
前記制御装置21は、前記測定装置7の動作を制御するものであり、図4に示すように、演算装置46と入出力ポート47とを主に備えている。この演算装置46は、中央制御装置48(以下、「CPU48」と云う。),前記制御装置21の動作プログラムを記憶している読み取り専用記憶装置49(以下、「ROM49」と云う。)および読み書き可能な記憶装置50(以下、「RAM50」と云う。)を主に備えている。
【0023】
一方、前記入出力ポート47の入力側には、オペレータが動作条件等を入力するスイッチ51および前記受光体32等が接続されている。また、その出力側には、測定結果等を表示するLCD52,前記発光体31,前記電磁弁26,前記ステータ30および前記回転駆動軸43を駆動するモータ(符号省略)等が接続されている。
【0024】
前記制御装置21は、前記ROM49に記憶させた動作プログラムにしたがって、前記演算装置46が前記入出力ポート47を介して入力された各種の情報を前記RAM50で適宜保存しながら演算処理し、前記記憶装置46は、そこで得られた演算結果に基づいて、前記入出力ポート47を介して各種の動作指令を各部材に対して伝達するように設定されている。
【0025】
つぎに、前記ボイラ装置1の動作を説明し、あわせて前記ボイラ装置1の腐食抑制方法を説明する。前記ボイラ装置1を運転する場合は、前記注水路8から前記給水タンク9へ補給水を供給し、この補給水を前記ボイラ2への給水として前記給水タンク9に貯留する。ここで、貯留される給水は、前記軟水化装置11および前記脱酸素装置12で処理されたもの,すなわち脱酸素された軟水である。そして、前記給水ポンプ13を作動させ、前記給水タンク9に貯留された給水を前記給水路10を介して前記ボイラ2へ供給する。
【0026】
前記ボイラ2へ前記給水路10を介して供給された給水は、ボイラ水として前記ボイラ
2内に貯留される。そして、前記ボイラ2内に貯留されたボイラ水は、加熱されて徐々に蒸気になる。生成した蒸気は、前記蒸気配管5を介して前記負荷機器4へ供給される。前記負荷機器4へ供給された蒸気は、所望の熱交換を行った後、廃棄される。
【0027】
ところで、前記ボイラ2へ供給する給水は、炭酸水素イオンを含む場合がある。この場合、前記ボイラ2内で給水が加熱されて蒸気になるとともに、炭酸水素イオンは、熱分解によりアルカリを生成する。この生成したアルカリは、ボイラ水のpHを高めて前記ボイラ2の腐食を抑制する。しかし、このアルカリの生成量が少ないと、前記ボイラ2に腐食がおこり、前記ボイラ2の伝熱管の減肉をもたらす可能性がある。
【0028】
そこで、前記ボイラ装置1は、前記測定装置7により、給水に炭酸水素イオンが予め設定した設定値以上であるか否かを一定時間毎に測定する。そして、前記測定装置7での測定結果に基づいて、前記薬剤供給装置6から給水中へpH調整剤を添加する。以下、図5および図6に示す動作フローチャートにしたがって、この動作を詳細に説明する。
【0029】
前記ボイラ装置1の運転が開始されると、プログラムは、ステップS1において、前記制御装置21の内部タイマーの経過時間tをゼロ(0)に設定し、またつぎのステップS2において、経過時間tが一定時間t1に到達したか否かを判断する。経過時間tが一定時間t1になると、プログラムはステップS3へ移行し、経過時間tをゼロ(0)にリセットする。ここにおいて、一定時間t1は、通常、0.1〜24時間程度の時間である。
【0030】
ステップS3の後、プログラムはステップS4へ移行し、前記測定装置7において前洗浄工程を実施する。まず、前記注水路8内の給水は、前記測定試料供給路17を経由して前記試料導入路23から前記測定セル18内へ流入する。この際、給水中に含まれる夾雑物は、前記フィルター24により取り除かれる。また、前記測定セル18内へ流入する給水の流量は、前記定流量弁25により制御される。前記測定セル18内へ連続的に流入する給水は、前記測定セル18内を満たし、前記試料排出路27から外部へ連続的に排出される。このとき、前記ステータ30の電磁誘導コイル(図示省略)が通電され、それによって生じる磁場を前記攪拌子29内の磁石(図示省略)が受ける。これにより、前記測定セル18内の前記攪拌子29が回転し、前記測定セル18内へ流入した給水は攪拌される。この結果、前記測定セル18は、連続的に流入する給水により洗浄される。
【0031】
前記のような前洗浄工程の後、プログラムはステップS5へ移行し、給水中の炭酸水素イオン濃度を測定する(測定工程)。ここでは、前記ステータ30の電磁誘導コイルへの通電を一旦停止し、また給水の供給も停止する。これにより、前記測定セル18内への給水の流入が断たれ、前記測定セル18内において、図2に一点鎖線で示す水位まで所定量の給水が給水試料として貯留される。また、前記排出ノズル42の先端部は、貯留された給水試料中に位置することになる。この状態で前記測定部19を作動させ、前記発光体31から前記受光体32へ向けて光を照射する。そして、給水試料の透過光強度(A)を測定する。
【0032】
つぎに、前記ステータ30の電磁誘導コイルへの通電を開始して前記攪拌子29の回転を再開し、その状態を継続しながら、前記排出装置35のモータ(図示省略)を駆動させて前記回転駆動軸43を回転させる。この結果、前記駆動アーム44が図3の反時計方向へ回転し、それにともなって前記押圧ローラ45が前記排出部41を前記押圧部材37と協働して下方向へ扱く。この結果、前記測定セル18内の給水試料には、前記貯蔵部40に貯蔵された試薬および緩衝液の一定量が注入される。そして、このような前記駆動アーム44の回転運動を所定回数繰り返すと、給水試料には前記駆動アーム44の回転動作毎に、一定量の試薬および緩衝液が前記測定セル18内へ断続的に注入される(注入工程)。したがって、試薬および緩衝液が徐々に注入されることになる。このようにして前記測
定セル18内に注入された試薬および緩衝液は、前記攪拌子29の回転により攪拌される給水試料中に溶解され、給水試料を変色させる。
【0033】
前記のような注入工程において、前記制御装置21は、前記攪拌子29の回転を継続し、また前記測定部19により、徐々に注入される試薬および緩衝液により変色する給水試料の透過光強度(B)を連続的に測定する。この際、前記制御装置21は、給水試料に対して注入される試薬および緩衝液の量の増加にともなう透過光強度の変化の変化量を測定する(変化量測定工程)。ここで測定する透過光強度の変化量は、通常、一定量の試薬および緩衝液が注入される前後の透過光強度の差(ΔB)である。たとえば、図8に示すように、給水試料の透過光強度は、試薬および緩衝液の注入回数(すなわち、前記駆動アーム44の回転動作数)にしたがって徐々に減少する。ここで、給水試料中の炭酸水素イオンの全てが第X回目以前に注入された試薬および緩衝液と反応した場合、第X回目より後の注入動作において、それ以上の試薬および緩衝液を注入しても、給水試料の変色は進行しにくくなり、給水試料の透過光強度は変化しにくくなる。すなわち、試薬および緩衝液の第X回目の注入後の透過光強度B1と、第X+1回目の注入後の透過光強度B2との差(B1−B2,すなわち前記ΔB)は、微差になる。したがって、前記ΔBが所定量以下になったとき、給水試料にそれ以上の試薬および緩衝液を注入しても、その試薬および緩衝液は給水試料中の炭酸水素イオンとの反応に関与せず、そのままの状態で給水試料中に残留することになる。
【0034】
そこで、前記制御装置21は、前記ΔBが所定量以下になったと判定した場合、前記駆動アーム44の回転動作を停止する。これにより、給水試料に対する試薬および緩衝液の追加的な注入が停止される。続いて、前記制御装置21は、その時点における給水試料の透過光強度(B)と試薬および緩衝液注入前の前記透過光強度(A)との比(透過光強度比:B/A)を求める。そして、予め作成された透過光強度比と炭酸水素イオン濃度との検量線データに基づいて、前記制御装置21は、給水試料中の炭酸水素イオン濃度を算出し、その結果を前記LCD52に表示する。
【0035】
前記のような測定工程の後、プログラムはステップS6へ移行し、このステップS6において、給水試料の炭酸水素イオン濃度が設定値未満か否かを判定する。ステップS5の測定工程において、炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値,たとえば10mg/リットル未満と測定された場合、プログラムはステップS6からステップS11へ移行して、前記CPU48のpH調整剤添加識別フラグがオン(ON)であるか否かを判定する。pH調整剤添加識別フラグがオン(ON)の場合、プログラムはステップS14へ移行し、pH調整剤添加量調整工程を実施する。
【0036】
このpH調整剤添加量調整工程は、今回ステップS5で測定した炭酸水素イオン濃度が前回のステップS5で測定した炭酸水素イオン濃度と異なる場合、ステップS14において、プログラムが炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記供給ポンプ16を作動させることになるため、前記給水路10から前記ボイラ2へ供給される給水に対して添加されるpH調整剤の量を変化させることになる。
【0037】
そして、プログラムはステップS15へ移行し、後洗浄工程を実施する。この後洗浄工程において、プログラムは、前記攪拌子29を回転させながら給水を供給する。ここで、前記測定セル18内に貯留された試薬および緩衝液を含む給水試料は、前記試料導入路23から新たに流入する給水により押し出され、前記試料排出路27から外部へ排出される。これにより、前記測定セル18は、新たに流入する給水により洗浄されることになる。ステップS15の終了後、プログラムはステップS2へ戻る。
【0038】
逆に、pH調整剤添加識別フラグがオフ(OFF)の場合、プログラムはステップS1
2へ移行し、pH調整剤添加工程を実施する。
【0039】
このステップS12におけるpH調整剤添加工程において、前記制御装置21は、前記薬剤供給装置6の前記供給ポンプ16を作動させ、前記給水路10に対してpH調整剤を供給する。これにより、前記給水路10を前記ボイラ2へ向けて通過中の給水へpH調整剤が添加される。ここで、前記制御装置21は、ステップS5において測定した炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記供給ポンプ16の動作を制御する。より具体的には、前記制御装置21は、ステップS5において測定した炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値よりかなり低い場合は、前記給水路10を通過する単位量の給水に対して比較的多量のpH調整剤が添加されるように、前記供給ポンプ16を連続して作動させる。一方、ステップS5において測定した炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値に近い場合は、前記給水路10を通過する単位量の給水に対して比較的少量のpH調整剤が添加されるように、前記供給ポンプ16を連続的に作動させる。すなわち、前記制御装置21は、給水に対して添加するpH調整剤の量がステップS5において測定した炭酸水素イオン濃度に反比例するように、前記供給ポンプ16を作動させる。ここにおいて、前記供給ポンプ16は、前記制御装置21からの停止指令を受けない限り作動し続ける。
【0040】
そして、ステップS12の終了後、プログラムはステップS13へ移行し、pH調整剤添加識別フラグをオン(ON)に設定する。そして、ステップS15において後洗浄工程を実施した後、ステップS2へ戻る。
【0041】
この結果、前記給水路10から前記ボイラ2内へ供給される給水は、給水の炭酸水素イオン濃度に応じた適正量のpH調整剤が導入されることになるので、前記ボイラ2において、腐食が効果的に抑制される。
【0042】
一方、ステップS5の測定工程において求められた給水試料中に含まれる炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値,たとえば10mg/リットル以上と測定された場合、プログラムはステップS6からステップS7へ移行し(図6参照)、前記CPU48のpH調整剤添加識別フラグがオン(ON)であるか否かを判定する。pH調整剤添加識別フラグがオフ(OFF)の場合、プログラムはステップS10へ移行し、ステップS15の場合と同じく後洗浄工程を実施した後、ステップS2へ戻る。
【0043】
これに対し、ステップS7において、pH調整剤添加識別フラグがオン(ON)の場合、プログラムはステップS8へ移行し、前記供給ポンプ16の動作を停止する。これにより、前記薬剤供給装置6は、前記給水路10に対するpH調整剤の供給を停止する。この結果、炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値以上の給水に対するpH調整剤の無駄な供給が防止されることになる。ステップS8の終了後、プログラムはステップS9へ移行し、pH調整剤添加識別フラグをオフ(OFF)に設定する。そして、ステップS10において、ステップS15の場合と同じく、後洗浄工程を実施した後、ステップS2へ戻る。
【0044】
そして、プログラムは、ステップS2において、ステップS3でゼロ(0)にリセットした経過時間tが一定時間t1になったか否かを判定する。そして、経過時間tが一定時間t1に到達すると、再びステップS4以下を繰り返す。したがって、前記ボイラ装置1では、一定時間t1が経過する毎に、給水における炭酸水素イオン濃度が測定され、またその結果に基づいて、必要に応じて、前記薬剤供給装置6から供給されるpH調整剤が、前記給水路10を介して給水に対して添加されることになる。
【0045】
たとえば、先のステップS5において給水から炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満の場合であっても、つぎの繰返し工程におけるステップS5において炭酸水素イオ
ン濃度が予め設定した設定値以上の場合、プログラムはステップS6からステップS7へ移行する。ここで、先のステップS13においてpH調整剤添加識別フラグがオン(ON)に設定されているため、プログラムはステップS8へ移行し、ステップS9〜ステップS10を経由してステップS2へ戻る。したがって、前記給水路10に対するpH調整剤の供給が停止されることになる。逆に、先のステップS5において給水から炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値以上の場合であっても、つぎの繰返し工程におけるステップS5において給水から炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満の場合、プログラムはステップS6からステップS11へ移行し、ステップS12からステップS15を経由してステップS2へ戻る。したがって、前記給水路10から前記ボイラ2へ供給する給水には、ステップS5で測定した炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記薬剤供給装置6からpH調整剤が添加されることになる。
【0046】
一方、先のステップS5において給水から炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満であり、つぎの繰返し工程のステップS5においても炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満の場合、プログラムはステップS6からステップS11へ移行し、前記給水路10に対するpH調整剤の供給を継続する。ただし、この場合、後のステップS5で測定した炭酸水素イオン濃度が先のステップS5で測定した炭酸水素イオン濃度と異なる場合、ステップS14において、プログラムが炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記供給ポンプ16を作動させることになるため、前記給水路10から前記ボイラ2へ供給される給水に対して添加されるpH調整剤の量が変化する。すなわち、この場合、給水に含まれる炭酸水素イオン濃度に応じ、前記給水路10へのpH調整剤の供給量が変化することになる。
【0047】
前記のように、前記ボイラ装置1においては、給水における炭酸水素イオン濃度とは無関係に、連続的にもしくは定期的にpH調整剤を供給するのではなく、炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記給水路10を介して給水に対してpH調整剤を添加することができるので、pH調整剤の使用量を適正化することができ、結果的に腐食抑制に要するコストを削減することができる。また、前記ボイラ装置1は、前記ボイラ2内の腐食が発生してからpH調整剤を供給するのではなく、熱分解することで腐食を抑制する因子となる給水中の炭酸水素イオンに注目してpH調整剤を供給しているので、前記ボイラ2における腐食を未然に防止することができる。
【0048】
[他の実施の形態]
(1)前記の実施の形態では、一定時間t1が経過する毎に給水中の炭酸水素イオン濃度を測定し、その結果に基づいてpH調整剤を前記給水路10中の給水に対して添加しているが、この一定時間t1は状況に応じて変更することができる。たとえば、図7に示すように、動作フローチャートのステップS15の後にステップS16をさらに設定し、ここでステップS3でゼロ(0)にリセットした経過時間tが、別の一定時間t2に到達したか否かを判断する。そして、ステップS16において経過時間tが一定時間t2に到達していると判断した場合、プログラムがステップS3へ移行するように設定する。ここにおいて、一定時間t2は、前記一定時間t1よりも短い時間である。
【0049】
この場合、前記ボイラ装置1は、ステップS5において炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値以上の場合は、長めの一定時間t1の経過毎に給水中の炭酸水素イオン濃度を測定し、またステップS5において炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満の場合は、短めの一定時間t2の経過毎に給水中の炭酸水素イオン濃度を測定することになるので、給水に対するpH調整剤の添加量を適正化することができる。
【0050】
(2)前記の実施の形態では、前記測定装置7において給水中の炭酸水素イオン濃度を測定し、その結果に基づいて、前記給水路10に対して供給するpH調整剤の量を変化させ
ているが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、前記測定装置7において、給水中に炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満かどうかのみを単純に測定し、給水中に炭酸水素イオン濃度が予め設定した設定値未満の場合は、炭酸水素イオン濃度とは無関係に一定量のpH調整剤を前記給水路10中の給水に対して添加するようにしてもよい。
【0051】
(3)前記の実施の形態において用いられる前記測定装置7は、給水中の炭酸水素イオン濃度を自動的に測定することができるものであれば、他の形態のものに変更することもできる。ここにおいて、給水中の炭酸水素イオン濃度を自動的に測定する方法としては、たとえばTOC計(有機体炭素濃度計)を用いた測定装置も採用することができる。
【0052】
(4)前記の実施の形態では、前記ボイラ装置1に前記測定装置7を設け、前記測定装置7において自動的に測定された給水中の炭酸水素イオン濃度に基づいて、前記薬剤供給装置6から前記給水路10に対してpH調整剤を供給するようにしたが、この発明の腐食抑制方法はこれに限定されるものではない。たとえば、給水中の炭酸水素イオン濃度を手作業により測定し、その測定結果に基づいて、前記給水路10に対してpH調整剤を供給することができる。ここにおいて、給水中の炭酸水素イオン濃度を手作業により測定する方法としては、たとえばJIS K0101:1998に規定されている「炭酸,炭酸水素イオン及び炭酸イオンの濃度の算出」等を採用することができる。
【0053】
(5)前記の実施の形態では、前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として回収しない場合について説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、図9に示すように、前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として前記給水タンク9へ供給する復水配管53(復水供給部の一例)を設けた構成とすることも、実施に応じて好適である。この場合、補給水と復水を前記給水タンク9で混合し、前記ボイラ2へ供給する給水として使用しているが、通常、復水は炭酸水素イオンを含んでいないため、補給水と復水とが混合されると、炭酸水素イオン濃度は低下する。この実施の形態では、補給水の炭酸水素イオン濃度を測定しているため、補給水と復水の混合量の割合を算出し、この算出した割合を基に、補給水の炭酸水素イオン濃度から給水の炭酸水素イオン濃度へ補正し、給水の炭酸水素イオン濃度を算出する。この算出した給水の炭酸水素イオン濃度を基に、pH調整剤の使用量を制御するため、pH調整剤の使用量を適正化することができる。
【0054】
(6)前記の各実施の形態では、前記測定装置7として、炭酸水素イオン濃度を測定する場合について説明したが、全炭酸濃度を測定する装置(図示省略)を用いてpH調整剤の添加を制御することも、実施に応じて好適である。
【0055】
ここにおいて、前記給水タンク9内の無機体炭素は、炭酸,炭酸水素イオンおよび炭酸イオンの形態に分かれており、さらにそれらの存在割合は、前記負荷機器4やスチームトラップ(符号省略)の構造,前記復水配管53の長さや構造,前記給水タンク9への供給方法等により異なっている。そのため、これら3つの形態を含めた全炭酸として測定することにより、前記ボイラ2内で発生するアルカリの全量を予測することができるため、前記ボイラ2の腐食を抑制する上で、pH調整剤の使用量を適正化することができる。全炭酸濃度を測定する装置は、給水中の全炭酸の存否もしくは全炭酸の濃度を測定することができるものであれば、とくに限定されるものではない。たとえば、JIS K0101:1998に規定されている「全炭酸」等を採用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ボイラ装置
2 ボイラ
3 給水装置(給水部)
4 負荷機器
5 蒸気配管(蒸気供給部)
10 給水路
53 復水配管(復水供給部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、pH調整剤を用いて前記ボイラ2における腐食を抑制する方法であって、一定時間毎に前記給水部3の注水路8中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、この測定工程における測定結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、前記給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記測定工程における測定間隔が、全炭酸の測定値に応じて調節可能となっており、さらに前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮して前記ボイラ2の腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっていることを特徴とするボイラ装置の腐食抑制方法。
【請求項2】
給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5と、前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として前記給水部3へ供給する復水供給部53とを備えたボイラ装置1において、pH調整剤を用いて前記ボイラ2における腐食を抑制する方法であって、一定時間毎に前記給水部3の注水路8中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、前記給水部3の補給水の水量と前記復水供給部53の復水の水量との比を算出する算出工程と、前記測定工程における測定結果および前記算出工程における算出結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、前記給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記測定工程における測定間隔が、全炭酸の測定値に応じて調節可能となっており、さらに前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮して前記ボイラ2の腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっていることを特徴とするボイラ装置の腐食抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−159965(P2010−159965A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85776(P2010−85776)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【分割の表示】特願2002−182588(P2002−182588)の分割
【原出願日】平成14年6月24日(2002.6.24)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】