説明

ボセンタンおよび関連物質のHPLC分析方法、ならびに参照スタンダードまたはマーカーとしてのこれら物質の使用

本発明は、医薬物質ボセンタンおよび関連物質の新規なHPLC分析方法に関し、ならびに参照スタンダードまたはマーカーとしての当該物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬物質ボセンタンおよび関連物質の新規なHPLC分析方法に関し、ならびに参照スタンダードまたはマーカーとしての当該物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬製品の販売承認を確保するために、製造者は適正な規制当局に対して、その製品が市場に販売されるに相応しいことを証明するための詳細な証拠を提出しなければならない。従って、その製品がヒトへの投与に許容できること、販売されることになる特定の医薬組成物が医薬を放出する時点で不純物を含まないこと、およびその製品が許容できる保存安定性を有することを、規制当局に満足させることが、必要である。
【0003】
規制当局への提出には、製造の時点で活性医薬成分(API)に不純物が存在しないか、または許容できるレベルであること、および医薬組成物の保存安定性が許容できることを証明する、分析データを含めなければならない。
【0004】
APIおよび医薬組成物の中にありそうな不純物としては、残存量の合成前駆体(中間体)、APIの合成中で生じる副生成物、残存溶媒、APIの異性体(例えば、幾何異性体、ジアステレオマーまたは鏡像異性体)、APIの合成もしくは医薬組成物の調製で用いる材料に含まれる混入物、および不明な偶発的な物質が含まれる。保存中の生じうる他の不純物としては、加水分解または酸化で生成される物等のAPIの分解物が含まれる。
【0005】
厚生当局は厳格なスタンダードを有しており、製造者は、その製品が相対的に不純物を含まない、または許容される限度以下であること、および製造される医薬組成物の各々のバッチでこれらのスタンダードが再現できることを、証明しなければならない。
【0006】
APIまたは医薬組成物が安全および有効であることを聡明するのに必要な試験には、純度測定試験、関連物質試験、含量均一性試験、および溶解試験が含まれる。純度測定試験は、純度が知られたスタンダードと比較して試験製品の純度を測定し、また関連物質試験は、製品に存在するすべての不純物を定量するのに用いられる。含量均一性試験は、錠剤のような製品のバッチが、APIを均一の量を含んでいることを確認し、また溶解試験は、製品の各々のバッチがAPIの一貫性のある溶解性と放出性を有することを確認する。
【0007】
APIまたは医薬組成物(例えば、錠剤およびカプセル剤)の分析のための選択される技術は、通常、検出器を伴った高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である。検出器には、紫外・可視吸光光度検出器または質量分析(MS)検出器が含まれる。APIおよび存在する不純物(もし、あれば)はHPLCの固定相上で分離されて、それらは該検出器で検出され、定量することができる。
【0008】
HPLCはクロマトグラフィー分離技術であり、本技術では、高圧ポンプが分析される物質または混合物を液体溶媒−溶出液とも呼ばれる移動相−と共に、固定相を含む分離カラムを通して流しだす。
【0009】
HPLC分析は、均一系またはグラジエント系で行うことができる。均一系の場合、移動相の組成は一貫して一定である。グラジエントHPLC分離は、移動相を形成する2またはそれ以上の溶媒のパーセンテージを一定時間に亘って徐々に変化させることで実施される。溶媒の変化は、カラム通過の前に溶媒を混合して移動相を作る混合器で制御される。
【0010】
物質が固定相と強く相互作用すれば、相対的に長時間、カラム中に留まり、他方、強くは固定相に相互作用しない物質は、より早くカラムから流出する。被検物の様々な成分は、相互作用の強さに応じて異なった時間に分離カラムの末端に現れ、それらは紫外検出器等の適した検出器の手段で検出し、定量することができる。
【0011】
ボセンタンは高度に置換されたピリミジンの種類に属し、エンドセリンの活動を遮断することで、肺動脈高血圧の治療に用いられる。
【0012】
ボセンタンは、構造式(I)で示される化学構造式を有し、分子量が551.615であり、その分子式はC2729Sである。ボセンタンは白色〜やや黄色がかった白色の粉末であり、アセトニトリルに自由に溶解する。
【0013】
【化1】

【0014】
先行技術は、ボセンタンの合成の間に得られる、3つの製法不純物Ro 47−0005、Ro 47−4056およびRo 47−9931を開示する(EMEA2005)。しかし、3つの不純物の構造は記載されていなかった。さらに、同報告書は、3つの代謝体:Ro 48−5033(tert−ブチル基の水酸化物)、Ro 47−8634(フェノールフリーの代謝体)およびRo 64−1056(フェノールフリーであり、tert−ブチル基が水酸化された2次代謝体)をも記載する。
【0015】
これら不純物を測定するいくつかのHPLC方法が、文献、例えば:(1)「心血管薬ボセンタンの生分析方法の発展」 Chromatographia, vol. 55, pages S115-S119, 2002;および(2)「狭口径液体クロマトグラフィーとイオンスプレータンデム質量分析による、エンドセリン受容体拮抗薬のヒト血漿中の測定」 J. Chromatography A, vol. 712, pages 75-83, 1995に、報告されている。これらの刊行物は、酢酸アンモニウムおよびアセトニトリルの混合物と逆相クロマトグラフィー(RP−18またはRP−8)を用いる、均一系のHPLC方法を記載する。
【0016】
しかし、現在のHPLC方法はいずれも、ボセンタンサンプル、特にWO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007に記載のルート等の代替的な新規ルートで合成されたサンプルに存在する、すべての合成中間体およびその他の関連物質を測定し、定量するには、適していない。現在の方法は、ボセンタンおよびその塩の中のすべての不純物を推定するにも不十分である。
【0017】
従って、先行文献で報告されたHPLC方法は、APIとしてのボセンタンおよびその塩を分析するには、特にWO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007に記載のルートで合成されたサンプルに存在する関連物質に関して、都合が悪く、適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
結果として、ボセンタンおよび/またはその塩およびその不純物を分析するためのHPLC方法がいくつか文献に報告されているが、上記の既知の方法に伴う問題点を回避する、代替方法が、依然として必要とされている。
【0019】
本発明者らの研究によって、特に合成中に生成される関連物質に関して、新規で効率的で再現性があり単純なボセンタンのHPLC分析方法の開発および検証が導かれた。
【0020】
従って、本発明の目的は、先行技術の方法に伴われていた典型的な問題点を回避した、ボセンタン、その不純物および関連物質の新規で代替的な分析方法を提供することである。
【0021】
本発明の特別の目的は、WO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007に開示されたルートで合成されたボセンタンおよび/またはその塩のバッチで生成され、残存している中間体および関連物質を測定および定量するための、新規で正確で高感度のHPLC方法を提供することである。
【0022】
さらなる目的は、ボセンタンの調製方法、特にWO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007に開示されたルートで生成される、A〜Eと呼ばれる不純物の測定に使用するための、参照マーカーおよび参照スタンダードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によって、移動相が2またはそれ以上の液体を含み、液体の相対濃度が前もって決められたグラジエントに従って変化する、ボセンタンのHPLC分析方法が提供される。
【0024】
本発明者らは、化合物A〜Eと呼ばれる5つの不純物が、ボセンタンまたはボセンタンを含有する医薬投与形態の分析をするための、参照マーカーまたは参照スタンダードとして利用できることも、認識した。不純物A〜Eは以前、先行文献には開示されたことがない。
【0025】
従って、本発明の第一の側面によって、化学名N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【0026】
【化2】

【0027】
を有する化合物Aが提供される。
第二の側面によって、化学名N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【0028】
【化3】

【0029】
を有する化合物Bが提供される。
第三の側面によって、化学名N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【0030】
【化4】

【0031】
を有する化合物Cが提供される。
第四の側面によって、化学名N−[6−ヒドロキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【0032】
【化5】

【0033】
を有する化合物Dが提供される。
第五の側面によって、化学名N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【0034】
【化6】

【0035】
を有する化合物Eが提供される。
参照マーカーまたは参照スタンダードとしての使用に適している化合物A〜Eは、ボセンタンの合成の間で生成される副生成物である。特に好ましい態様において、本発明の化合物A〜Eは単離された形態である。最も好ましくは、単離された形態は、好ましくはHPLCの測定によって、好ましくは約90%を超え、好ましくは約95%を超え、好ましくは約98%を超え、最も好ましくは約99%を超える純度を有し、実質的に純粋な形態である。
【0036】
本発明の第六の側面によって、本発明の化合物A〜Eの1またはそれ以上の存在に対して、サンプルを測定することを含む、ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する医薬投与形態の純度の試験方法が提供される。
【0037】
本発明の第七の側面によって、ボセンタンの当該製法不純物A〜EのHPLC分析方法を用いて、化合物A〜Eを特徴付けるための方法が提供される。好ましくは、HPLC方法はLC−MSに適合する方法である。
【0038】
従って、ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する医薬投与形態の純度の試験において、参照マーカーとしてのまたは代替的に参照スタンダードとしての、本発明の化合物A〜Eの使用が提供される。
【0039】
さらなる側面によって、本発明の参照マーカーまたは代替的態様において参照スタンダードを利用することによって、ボセンタンのサンプルの中の化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定することを含む、ボセンタンのサンプルの純度のクロマトグラフィー試験方法が提供される。
【0040】
さらなる側面によって、以下の工程:
(a)ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する投与形態を溶媒に溶解して、サンプル溶液を作成する工程;
(b)化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上のサンプルを溶媒に溶解して、参照マーカー溶液を作成する工程;
(c)サンプル溶液および参照溶液をクロマトグラフィー技術にかける工程;ならびに
(d)参照溶液に存在する既知化合物の存在を参考にして、化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定する工程を含む、
ボセンタンを含むサンプルの中の化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定することによる、ボセンタンのサンプルの純度のクロマトグラフィー試験方法が提供される。
【0041】
1つの態様において、クロマトグラフィー方法は、HPLC、LC−MSまたはLC−MS/MS等の液体クロマトグラフィー方法であり、好ましくはクロマトグラフィー方法は、HPLC方法、好ましくはグラジエントHPLC方法である。代替的には、クロマトグラフィー方法は、GC−MS等のガスクロマトグラフィーであってもよい。
【0042】
好ましくは、本発明に用いられる固定相は、逆相である。適した固定相には、オクタデシルシリルシリカゲルまたはオクチルシリルシリカゲルが含まれる。
【0043】
本発明の好ましい態様において、移動相が緩衝液(A)と有機溶媒(B)との混合物を含むグラジエントHPLC方法が提供される。好ましくは、緩衝液(A)は、水性緩衝液、好ましくはリン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩もしくはトリフルオロ酢酸塩またはこれらの混合物の水溶液である。
【0044】
より好ましくは、緩衝液(A)は酢酸塩、最も好ましくは酢酸アンモニウムまたは代替的にギ酸アンモニウムの水溶液であり、特に好ましい態様において、これら酢酸塩は約0.01M〜1.0Mの間の濃度で存在する。
【0045】
本発明のさらに好ましい態様によって、有機溶媒(B)がメタノール、プロパノールもしくはイソプロパノール等の極性プロトン性溶媒、またはアセトニトリル等の二極性非プロトン性溶媒である、移動相が提供される。好ましくは、有機溶媒(B)はメタノール、アセトニトリル、プロパノールもしくはイソプロパノールまたはこれらの混合物を含む群から選択され、最も好ましくはアセトニトリルもしくは代替的にメタノールまたはこれらの混合物である。
【0046】
特に好ましい移動相には、酢酸アンモニウム(A)とアセトニトリル(B)との混合物が含まれる。
【0047】
さらに、移動相が以下のグラジエントプログラムを含んでいる、本発明のグラジエントHPLC方法が提供される。
【0048】
【表1】

【0049】
移動相が酢酸アンモニウムを緩衝液(A)として含む、特に好ましいグラジエントHPLC方法も提供される。他の特に好ましい態様において、移動相は、アセトニトリルを有機溶媒(B)として含む。
【0050】
さらに好ましい態様には、緩衝液(A)のpHが約2〜7、好ましくは約2〜6である、HPLC方法が含まれる。
【0051】
他の態様において、クロマトグラフィーは約15〜40℃の間の温度で実施される。
本発明のHPLC方法は、一回流して、以下の化合物から選択される化合物を含む、すべての不純物を効率的に測定し、定量する。
【0052】
化合物A:N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0053】
化合物B:N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0054】
化合物C:N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0055】
化合物D:N−[6−ヒドロキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0056】
化合物E:N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0057】
本発明のボセンタンの純度の試験方法で試験されるべき、ボセンタンのサンプルは、
(a)ボセンタンAPI;または
(b)ボセンタンを含有する投与形態;または
(c)ボセンタンの塩および/または溶媒和物(水和物等);または
(d)ボセンタンの塩および/または溶媒和物(水和物等)を含有する投与形態
でありうる。
【0058】
好ましくは、本発明のボセンタンの純度の試験方法で試験されたボセンタンは、医薬組成物への使用に適している。
【0059】
本発明のさらなる側面によって、本発明のボセンタンの純度の試験方法にかけられたボセンタンが提供される。好ましくは、ボセンタンは、化合物A〜Eの1つ、2つ、3つ、4つまたは5つすべてを実質的に含まない。
【0060】
本発明のさらなる側面によって、化合物A〜Eの1つ、2つ、3つ、4つまたは5つすべてを実質的に含まないボセンタンが提供される。
【0061】
もし、ボセンタンが化合物を、好ましくはHPLCの測定によって、約5%未満、好ましくは約3%未満、好ましくは約2%未満、好ましくは約1%未満、好ましくは約0.5%未満、好ましくは約0.1%未満、好ましくは約0.05%未満しか含まなければ、ボセンタンはその化合物を“実質的に含まない”。
【0062】
本発明のなおさらなる側面によって、本発明のボセンタンを含有する医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ウォーターズ装置で分析し、吸光度(吸光度単位(absorbance units))対時間(分)で示された、サンプルAの分析的HPLCクロマトグラムを示す。
【図2】メルク・日立装置で分析し、電圧(ボルト)対時間(分)で示された、サンプルBの分析的HPLCクロマトグラムを示す。
【図3】不純物A〜Eの構造を示す。
【図4】不純物AのMS/MSフラグメンテーションを示す。
【図5】不純物BのMS/MSフラグメンテーションを示す。
【図6】不純物DのMS/MSフラグメンテーションを示す。
【図7】不純物EのMS/MSフラグメンテーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
APIとしてボセンタンおよび/もしくはその塩を分析するために、または医薬組成物に製剤化されたボセンタンおよび/もしくはその塩を分析するために、本発明が用いられる。
【0065】
本発明で分析することができる医薬組成物には、固形および液体組成物が含まれ、オプションとして、当該医薬組成物は1またはそれ以上の薬学上許容される担体または賦形剤を含有する。固形組成物には、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤および分散顆粒剤が含まれる。液体組成物には、経口、注射または点滴のルートで投与されうる、液剤または懸濁剤が含まれる。
【0066】
明細書および請求の範囲を通してここで用いられる用語“ボセンタン”は、ボセンタンおよび/またはそのいかなる塩もしくは溶媒和物(水和物を含む)を表す。本発明はボセンタン遊離塩基の分析のために特に有用である。
【0067】
明細書を通してここで用いられる用語“不純物”または“関連物質”は、APIもしくは医薬組成物の製造において、および/またはAPIの分解によって、もしくは医薬組成物中での保存で、生成された不純物を意味しうる。
【0068】
上述の通り、先行技術で報告のHPLC方法は、ボセンタンの分析には、特にWO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007(この両出願は、参照としてそれらの全体が本明細書に組み入れられる)に開示された方法で調製されたボセンタンおよび/またはその塩の合成で生成される関連化合物に関して、適していない。
【0069】
しかし、本発明の特に好ましい態様によって、本課題が解決され、一回流して、この特別な合成方法で生成されるすべての不純物および中間体が効率的に測定され、定量される。グラジエント方法によって、すべての極性不純物から非極性不純物までが溶出されるため、本発明は有利である。
【0070】
サンプル中の化合物または不純物A〜Eの1またはそれ以上の存在を測定し、分析するために、本発明は特に適している。用語“不純物”および“化合物”は、それらが化合物A〜Eに関する限り、それに相違して記載されていなければ、本明細書では互換的に使用されている。
【0071】
本方法がボセンタンおよび/またはその塩の中の関連物質の分析のために、選択的で、高感度で、直線的で、正確で、精密で、堅牢であるため、本発明はまた有利である。加えて、本発明は、高度に高感度であり、厚生当局によっておよびICHガイドラインに規定された許容される限度よりさらに低いレベルで、ボセンタンおよび/またはその塩の中の関連物質を分析および定量する。
【0072】
加えて、本発明の方法は、ボセンタンのサンプルの保存で生成されるすべての分解不純物を簡単に測定および定量するのに用いることができる。この方法は、ICHのQ1Aガイドラインによる強制分解実験の実施で立証され、特異性、直線性および範囲、精度(並行精度、再現精度および室内再現精度)、真度、検出限界(LOD)、定量限界(LOQ)、堅牢性(Robustness)および装置適合性(System Suitability)のパラメーターをカバーするICHのQ2Aガイドラインによって検証された。
【0073】
本発明者らは、LC−MSおよびLC−MS/MSで5つの製法不純物A〜Eを特徴付けする、新規なグラジエントHPLC方法を開発した。当該方法は、ボセンタン合成の前駆物質、特にWO2009/004374およびその優先権出願IN1245/MUM/2007に開示されたルートで合成されたボセンタンの前駆物質等の他の既存の関連化合物の存在の分析に使用するのに十分に堅牢である。不純物、前駆物質およびボセンタンの間の大きな極性の相違のために、本発明者らはグラジエントプログラムが最も適していると考えた。
【0074】
本発明の発明者らは、新規な製法不純物A〜Eの構造を特徴付けするために、LC−MSおよびLC−MS/MSの技術をさらに用いた。
【0075】
発明の実施において、本発明の発明者らは、オクタデシルシリルシリカゲル(RP−18)またはオクチルシリルシリカゲル(RP−8)を含む固定相が、最も有利であることを見出した。特に好ましい固定相には、ウォーターズ(Waters)XTerra RP−18(250mm×4.6mm),5μ,カラムが含まれる。
【0076】
本発明の方法は、液体AとBの相対濃度が、典型的には10〜180分の時間をかけて100%A:0%Bから0%A:100%Bの間でグラジエントに変化するようなグラジエントプログラムを含む。好ましくは、グラジエントは25〜120分の時間をかけて100%A:0%Bから0%A:100%Bの間であり、より好ましくはグラジエントは25〜60分の時間をかけて100%A:0%Bから0%A:100%Bの間であり、最も好ましくはグラジエントは約40分の時間をかけて90%A:10%Bから10%A:90%Bの間である。そのようなグラジエント方法の利点は、すべての極性不純物から非極性不純物までが溶出されることである。
【0077】
用いられる移動相は、好ましくは、1またはそれ以上の緩衝液(A)と、1またはそれ以上の有機溶媒(B)との混合物から選択される。
【0078】
緩衝液は、好ましくはリン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩もしくはトリフルオロ酢酸塩またはこれらの混合物の水溶液を含む群から選択される。
【0079】
緩衝液は、0.001〜0.1Mの濃度で、好ましくは0.001〜0.05Mの濃度で、より好ましくは0.005〜0.05Mの濃度で存在できる。
【0080】
特に好ましい移動相には、酢酸アンモニウム(A)とアセトニトリル(B)との混合物が含まれる。
【0081】
本発明の特に好ましい態様において、移動相が以下のグラジエントプログラムを含んでいる、グラジエントHPLC方法がさらに提供される。
【0082】
【表2】

【0083】
移動相が酢酸アンモニウムを緩衝液(A)として含む、特に好ましいグラジエントHPLC方法も提供される。他の特に好ましい態様において、移動相は、アセトニトリルを有機溶媒(B)として含む。移動相が酢酸アンモニウム(A)およびアセトニトリル(B)を含むとき、グラジエントプログラムが特に効率的であることを、本発明者らは見出した。
【0084】
緩衝液(A)は、メタノール、アセトニトリル、プロパノールもしくはイソプロパノールまたはそれらの混合物から選択される、1またはそれ以上の追加的な溶媒を含んでもよい。緩衝液(A)における追加的な溶媒は、有機溶媒(B)と同じ溶媒であっても、なくても良い。
【0085】
緩衝液(A)のpHは約2〜7の間で選択される。
典型的には、本発明の方法は、約15〜40℃の間のカラム温度で実施される。
【0086】
本発明のさらなる側面によって、内部参照溶液が提供される。当該参照溶液は適切な溶液に溶解した1またはそれ以上の化合物A〜Eを含む。本発明のクロマトグラフィー技術を用いて分析されるサンプルの中に、不純物として化合物A〜Eのいずれかの存在を測定する際に、当該参照溶液が用いられる。当該分析の方法は、当業者には明らかであろう。
【0087】
本発明のさらなる側面によって、既知の量の1またはそれ以上の化合物A〜Eが適切な溶液に溶解している、参照スタンダード溶液が提供される。本発明のクロマトグラフィー技術を用いて分析されるサンプルの中に、不純物として化合物A〜Eのいずれかの存在および量を測定する際に、当該参照溶液が用いられる。当該分析の方法は、当業者には明らかであろう。
【0088】
本発明者らは、本発明の方法を広範に試験を行い、その方法が再現性があって、正確で精密であり、濃度および堅牢さに関して直線性であることを示した。
【0089】
本発明をその特定の態様に関して記載したが、一定の変更物および均等物は当業者に明らかであり、これらは本発明の範囲に含まれることが意図されている。
【0090】
本発明を以下の実施例で説明するが、これらによって本発明は限定されない。
【実施例】
【0091】
HPLC方法および分析
HPLC分析で観察される5つの製法不純物A〜Eが、面積標準化によって0.1%以上で見出され、ICHのQ3Aガイドラインにより、その確認が必要とされる。当該分析に用いられる方法は、本発明のグラジエントHPLC方法である。用いた実験条件は以下の通りである。
【0092】
実験条件
カラム:ウォーターズ XTerra RP−18(250mm×4.6mm),5μ;
流速:1ml/分;
検出:225nm;
サンプル濃度:1000ppm;
希釈液:アセトニトリル;
移動相:0.03M酢酸アンモニウム水溶液(A)−アセトニトリル(B)グラジエント;
グラジエントプログラムを以下に記載する。
【0093】
【表3】

【0094】
MS:API2000トリプル四重極(Triple Quadraple)
イオン化モード:陽イオンモードおよび陰イオンモード(Positive and Negaive modes)
ボセンタンのサンプルAおよびBを、上記HPLC方法を用いたLC−MSで製法不純物を分析した。図1および2は、当該サンプルの分析的HPLCクロマトグラムをそれぞれ示す。
【0095】
面積標準化法による、各々の不純物の保持時間(RT)、相対保持時間(RRT)および%面積、ならびに各々の不純物に対する、対応マススペクトル(MS)から測定された分子イオンおよび第2のマススペクトル(MS/MS)によるフラグメントを、表1および2に要約する。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
特徴付け
不純物A〜Eで示されるサンプルのHPLC分析を、マス分析を通して測定することができた。不純物および製法条件のマススペクトルで得られた分子イオンに基づいて、不純物A〜Eの構造は、図3に示されたように確認された。
【0099】
さらに、ボセンタンの文献(J. Am. Soc. Mass Spectrom., vol. 10(12), pages 1305-1314, 1999))に報告されたフラグメンテーションパターンに基づいて、不純物A、B、DおよびEの構造が、MS/MSスペクトルで観察されたフラグメントイオンを解釈することで、確認された。不純物A、B、DおよびEのフラグメンテーションパターンをそれぞれ図4〜7に示す。不純物Cの場合、MSによるm/z594.3(M−H)に観測される分子イオンピークは非常にフラグメント化したため、不純物Cの本来の性質によって、MS/MS実験の間のいずれのピークも情報価値がなかった。従って、不純物CのMS/MSスペクトルにおける分析フラグメントがないために、その構造を確認することができなかった。
【0100】
不純物A〜Eの化学名は、以下の通りである。
不純物A:N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0101】
不純物B:N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0102】
不純物C:N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0103】
不純物D:N−[6−ヒドロキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0104】
不純物E:N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミド。
【0105】
以上、本発明について説明してきたが、これは例示でしかないことが理解されるであろう。実施例は本発明の範囲を限定することを意図したものではない。さまざまな改変および態様は、以下の請求項のみによって規定される本発明の範囲および精神から逸脱せずに実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学名N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【化1】

を有する化合物A。
【請求項2】
化学名N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−ヒドロキシ−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【化2】

を有する化合物B。
【請求項3】
化学名N−[6−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【化3】

を有する化合物C。
【請求項4】
化学名N−[6−ヒドロキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【化4】

を有する化合物D。
【請求項5】
化学名N−[6−(エテン−1−オキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(ピリミジン−2−イル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチル−ベンゼンスルホンアミドと構造:
【化5】

を有する化合物E。
【請求項6】
単離された形態の、請求項1〜5のいずれか記載の化合物。
【請求項7】
実質的に純粋な形態である、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
約90%を超える純度を有する、請求項6または7記載の化合物。
【請求項9】
ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する医薬投与形態の純度の試験における、参照マーカーまたは参照スタンダードとしての使用のための、請求項1〜8のいずれか記載の化合物。
【請求項10】
ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する医薬投与形態の純度の試験における、参照マーカーまたは参照スタンダードとしての、請求項1〜9のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項11】
請求項9もしくは10記載の参照マーカーまたは参照スタンダードを用いて、サンプル中の化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定することを含む、ボセンタンのサンプルの純度のクロマトグラフィー試験方法。
【請求項12】
以下の工程:
(a)ボセンタンのサンプルまたはボセンタンを含有する投与形態を溶媒に溶解して、サンプル溶液を作成する工程;
(b)請求項1〜9のいずれか記載の化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上のサンプルを溶媒に溶解して、参照マーカー溶液を作成する工程;
(c)サンプル溶液および参照溶液をクロマトグラフィー技術にかける工程;ならびに
(d)参照溶液に存在する既知化合物の存在を参考にして、化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定する工程を含む、
ボセンタンを含むサンプルの中の化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上の存在を測定することによる、移動相と固定相を含む、ボセンタンのサンプルの純度のクロマトグラフィー試験方法。
【請求項13】
方法が、HPLC方法またはグラジエントHPLC方法である、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
用いられる固定相が、
(a)逆相;および/または
(b)オクタデシルシリルシリカゲルまたはオクチルシリルシリカゲルである、
請求項11〜13のいずれか記載の方法。
【請求項15】
移動相が、緩衝液(A)と有機溶媒(B)との混合物を含む、請求項11〜14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
緩衝液(A)が、
(a)水性緩衝液である;および/または
(b)リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩もしくはトリフルオロ酢酸塩またはこれらの混合物の水溶液である;および/または
(c)酢酸塩の水溶液である;および/または
(d)酢酸アンモニウムの水溶液である;および/または
(e)酢酸アンモニウムの濃度が0.01M〜1.0Mの間である酢酸アンモニウムの水溶液である、
請求項15記載の方法。
【請求項17】
有機溶媒(B)が、
(a)極性プロトン性溶媒または二極性非プロトン性溶媒である;および/または
(b)メタノール、アセトニトリル、プロパノールもしくはイソプロパノールまたはこれらの混合物を含む群から選択される;および/または
(c)アセトニトリルもしくはメタノールまたはこれらの混合物を含む、
請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
移動相が、酢酸アンモニウム(A)とアセトニトリル(B)との混合物を含む、請求項15〜17のいずれか記載の方法。
【請求項19】
移動相が、以下のグラジエントプログラム
【表1】

を含む、請求項15〜18のいずれか記載の方法。
【請求項20】
移動相が、
(a)酢酸アンモニウムを緩衝液(A)として含む;および/または
(b)アセトニトリルを有機溶媒(B)として含む、
請求項19記載の方法。
【請求項21】
緩衝液(A)のpHが約2〜6である、請求項15〜20のいずれか記載の方法。
【請求項22】
クロマトグラフィーが約15〜40℃の間の温度で実施される、請求項11〜21のいずれか記載の方法。
【請求項23】
(a)化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上を測定する;および/または
(b)化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上を測定し、定量する;および/または
(c)一回流して、化合物A〜Eのいずれか1またはそれ以上を測定し、定量する、
ための、請求項11〜22のいずれか記載の方法。
【請求項24】
試験されるべきボセンタンのサンプルが、
(a)ボセンタンAPI;または
(b)ボセンタンを含有する投与形態;または
(c)ボセンタンの塩および/または溶媒和物;または
(d)ボセンタンの塩および/または溶媒和物を含有する投与形態である、
請求項11〜23のいずれか記載の方法。
【請求項25】
試験されたボセンタンが、医薬組成物への使用のためのものである、請求項11〜24のいずれか記載の方法。
【請求項26】
請求項11〜25のいずれか記載の方法にかけられたボセンタン。
【請求項27】
請求項1〜5に記載の化合物A〜Eの1つ、2つ、3つ、4つまたは5つすべてを実質的に含まない、請求項26記載のボセンタン。
【請求項28】
請求項1〜5に記載の化合物A〜Eの1つ、2つ、3つ、4つまたは5つすべてを実質的に含まない、ボセンタン。
【請求項29】
請求項26〜28のいずれか記載のボセンタンを含有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−507497(P2012−507497A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533833(P2011−533833)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051474
【国際公開番号】WO2010/061210
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(508116469)ジェネリクス・(ユーケー)・リミテッド (34)
【Fターム(参考)】