説明

ボツリヌス神経毒Aタンパク質受容体およびその使用

本発明は、少なくとも70%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドに関する。前記ポリペプチドは、ボツリヌス神経毒AのH−断片と結合する。ただし、ポリペプチドは、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス菌によって形成されるボツリヌス神経毒A(BoNT/A)と結合するポリペプチドに関する。このポリペプチドは、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、その結果、このポリペプチドはボツリヌス神経毒AのHc−断片と結合する(ただし、ポリペプチドはヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cではない)。本発明はさらに、BoNT/Aと相互作用するSV2Cタンパク質のペプチド部分に関する。特に、本発明は、BoNT/Aの神経毒性を低減するためのアンタゴニストとしての、BoNT/Aの神経細胞との結合を減少させる物質を同定するための、および種々のマトリックスにおいてBoNT/Aを検出するための手段としての、ポリペプチドおよびそのペプチド部分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は、エキソサイトーシスによって伝達物質を放出する。細胞内小胞の膜の、原形質膜との融合が、エキソサイトーシスと呼ばれる。このプロセスの過程で、小胞内容物がシナプス間隙に同時に放出される。2種の膜の融合は、タンパク質シナプトタグミンと反応するカルシウムによって調節されている。シナプトタグミンは、その他の補助因子と一緒に、3種のいわゆる融合タンパク質、SNAP−25、シナプトブレビン2およびシンタキシン1Aの状態を制御する。シンタキシン1Aおよびシナプトブレビン2が原形質膜および/または小胞膜中に組み込まれているのに対し、SNAP−25は原形質膜と軽く結合しているだけである。細胞内カルシウム濃度が上昇する限り、3種のタンパク質は互いに結合し、両方の膜が互いに接近し、続いて一緒になって融合する。コリン作動性ニューロンの場合は、アセチルコリンが放出され、筋肉収縮、発汗およびその他のコリン作動によって誘発される反応を引き起こす。
【0003】
上記の融合タンパク質は、細菌、ボツリヌス菌(C.botulinum)、酪酸菌(C.butyricum)、C.バラティ(C.baratii)および破傷風菌(C.tetani)によって形成されるクロストリジウム神経毒の軽鎖(LC)の標的分子(基質)である。
【0004】
嫌気性グラム陽性細菌ボツリヌス菌は、7種の異なる血清型のクロストリジウム神経毒を産生する。後者はボツリヌス神経毒(BoNT/A〜BoNT/G)と呼ばれる。これらの中でも、特に、BoNT/AおよびBoNT/Bは、ボツリヌス中毒と呼ばれるヒトおよび動物において神経麻痺障害を引き起こす。ボツリヌス菌の胞子は、土壌中に見出すことができるが、不十分に滅菌され、密閉された自家製貯蔵食品中でも生育することがあり、ボツリヌス中毒の多くの場合がこれに起因する。
【0005】
BoNT/Aは、すべての既知生物学的物質のうちで最も活性である。わずか5〜6pgの精製でBoNT/AがMLD(最小致死量)に相当する。1ユニット(英語:Unit、U)のBoNT/Aは、腹膜内注射後に、各々体重18〜20gの雌のスイスウェブスターマウスの半数を死亡させるMLDと定義される。7種の免疫学的に異なるBoNTが特性決定された。それらは、BoNT/A、B、C1、D、E、FおよびGと表され、血清型特異的抗体での中和によって区別され得る。異なる血清型のBoNTは、感染動物種において、引き起こされる麻痺の重篤度および期間に関して異なる。したがって、麻痺に関して、BoNT/Aは、ラットでは、例えば、BoNT/Bよりも500倍より強力である。さらに、BoNT/Bは、霊長類では、480U/体重1kgという投与量では非毒性であるとわかっている。同量のBoNT/Aは、霊長類におけるこの物質の致死量の12倍に相当する。他方、マウスにおけるBoNT/A注射後の麻痺期間は、BoNT/Eの注射後よりも10倍長い。
【0006】
BoNTは、病的に過敏性の末梢神経によって引き起こされる骨格筋の運動亢進を特徴とする神経筋障害を治療するために使用されている。BoNT/Aは、眼瞼痙攣、斜視、多汗症、しわおよび片側顔面痙攣を治療するために米国食品医薬品局によって承認されている。BoNT/Aと比較して、残りのBoNT血清型は明らかにあまり有効でなく、短期間の効力しか示さない。末梢−筋内投与されたBoNT/Aの臨床効果は、通常、1週間以内に気付かれる。BoNT/Aの1回の単一筋内注射による症状抑制期間は、通常、約3〜6ヶ月である。
【0007】
クロストリジウム神経毒は、融合器官の種々のタンパク質を特異的に加水分解する。BoNT/A、C1およびEはSNAP−25を破壊するのに対し、BoNT/B、D、F、Gならびに破傷風神経毒(TeNT)は、小胞結合型膜タンパク質(VAMP)2(シナプトブレビン2とも呼ばれる)を攻撃し、BoNT/C1はさらに、シンタキシン1Aを破壊する。
【0008】
クロストリジウム細菌は、神経毒を、各々1251〜1315個のアミノ酸を有する一本鎖ポリペプチドとして放出する。その後、内在性プロテアーゼがこれらのタンパク質の各々を規定の位置で、各々2つの鎖に開裂する(「ニッキング」)が、2つの鎖はジスルフィド架橋によってまだ連結されている。これらの二重鎖タンパク質がホロ毒素と呼ばれる(ショーン(Shone)ら、(1985)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)151、75〜82頁を参照のこと)。この2つの鎖は異なる機能を有する。小さい断片、軽鎖(light chain=LC)がZn2+依存性エンドプロテアーゼに相当し、大きいユニット(heavy chain=HC)が軽鎖の輸送手段に相当する。HCをエンドペプチダーゼで処理することによって、2つの50kDaの断片が得られた(ヒメネス(Gimenez)ら、(1993)、ジャーナル・オブ・プロテイン・ケミストリー(Journal of Protein Chemistry)12、351〜363頁を参照のこと)。アミノ末端側の半分(H−断片)は、低pH値で膜に組み込まれ、LCが神経細胞のサイトゾルに移動する。カルボキシ末端側の半分(H−断片)は、もっぱら、神経細胞膜に生じる複合体ポリシアロガングリオシドと、および今日まで部分的にしか同定されていないタンパク質受容体と結合する。後者により、クロストリジウム神経毒の高い神経選択性が説明される。結晶構造により、BoNT/Aは3つのドメインを配置していることが確認され、これは3ステップの作用機序と一致し得る(レイシー(Lacy)ら(1998)ネイチャー・ストラクチュラル・バイオロジー(Nature Structural Biology)5、898〜902頁を参照のこと)。さらに、これらのデータは、H−断片内に、各25kDaの2つの自律的サブユニット(サブドメイン)が存在するという結論につながる。2つの機能的サブドメインの存在についての第1の証拠は、組換え型で発現された、TeNTのH−断片のアミノ末端側の半分(HCN)およびカルボキシ末端側の半分(HCC)によってもたらされ、これらは、HCCドメインはニューロンと結合するがHCNドメインは結合しないということを示した(エレロス(Herreros)ら(2000)、バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Journal)347、199〜204頁を参照のこと)。後者の段階では、BoNT/AおよびBのHCCドメイン内の単一のガングリオシド結合部位の場所が特定され、特性決定された(ルンメル(Rummel)ら(2004)、モレキュラー・ミクロバイオロジー(Molecular Microbiology)、51、631〜643頁参照のこと)。BoNT/BおよびGのタンパク質受容体として同定されるシナプトタグミンIおよびIIと結合する部位は、同様に、BoNT/BおよびGのHCC−ドメインの領域内に制限され得る(ルンメル(Rummel)ら、(2004)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)279、30865〜70頁を参照のこと)。PC12細胞においても、in vitroタンパク質結合研究においても、BoNT/Aがシナプトタグミンタンパク質ファミリーの現在の13のメンバーのいずれかの種類と相互作用を示すとしていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、BoNT/Aの神経毒性に影響を及ぼす手段および方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチドを提供することによって、また、ポリペプチドがボツリヌス神経毒AのH−断片と結合する(ただし、このポリペプチドはヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cではない)という事実によって到達される。本発明はさらに、BoNT/Aの神経毒性を低減するためのアンタゴニスとしての、BoNT/Aの神経細胞との結合を減少させる物質を同定するための、および種々のマトリックスにおいてBoNT/Aを検出するための手段としての、ポリペプチドおよびその管腔ドメインの使用に関する。
【0011】
ここで、本発明は、BoNT/Aの受容体としてシナプス小胞タンパク質2C(SV2C)を提案する。
【0012】
本発明者は、研究において、シナプトフィジン、シナプトポリン(synaptoporin)、シナプトギリン(synaptogyrin)I&III、シナプス小胞糖タンパク質2A(SV2A)またはシナプス小胞糖タンパク質2B(SV2B)は、BoNT/Aのタンパク質受容体として作用しないということを実証できた。しかし、BoNT/AのSV2Cとの結合を実証することが可能であった。
【0013】
リガンド−受容体研究では、タンパク質シナプトフィジン、シナプトポリン(synaptoporin)、シナプトギリン(synaptogryin)I&III、SV2A、SV2BおよびSV2C管腔ドメインをサブクローニングし、大腸菌(E.coli)において組換え型で発現させ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ−(GST)−融合タンパク質として単離した。7種のBoNTの、およびTeNTのH−断片を、大腸菌において組換え型で双方とも発現させ、また35S−メチオニンを用いてin vitroで翻訳した。H−断片の、上記のGST融合タンパク質の管腔ドメインに対する親和性を、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ−(GST)−プルダウン実験で調べた。GST−SV2C誘導体の存在下で、BoNT/AおよびBoNT/Bの神経毒性の阻害を、クロストリジウム神経毒の生理学的標的に相当する、マウスの単離した神経−筋肉−調製物(半横隔膜アッセイ=HDA)で分析した。
【0014】
特に、SV2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)は、BoNT/Aとの相互作用のための断片に相当する。管腔ドメインの単離された125マーのペプチドは、ガングリオシドなしでBoNT/AのH−断片と相互作用できる。SV2Cペプチドの、BoNT/Aとの相互作用の結果として、その受容体結合部位が占有され、膜中に埋まっているSV2Cとの相互作用がブロックされる。より詳しくは、本発明は、SV2Cの管腔ドメインを含む125マーのペプチド、または少なくとも80%がSV2Cの管腔ドメインと同一であるか、翻訳後修飾されているアミノ酸配列からなるペプチドを含む。これらの薬剤は、BoNT/AのH−断片との特異的結合のために使用できる。その結果として、BoNT/Aの受容体結合部位が占有され、原形質膜中に存在するSV2Cとのその生理学的相互作用が阻害される。したがって、BoNT/Aでの急性中毒は防ぐことができる。さらに、これの薬剤は、同様にBoNT/AのH−断片中の受容体結合部位中に配置し、ひいては、アンタゴニストとして作用するその他の分子の検索における競合結合研究において使用できる。例えば、フルオロフォアを用いて薬剤に記しをつけることによって、または配列を具体的に同定することによって、またはこれらの薬剤とBoNT/Aとの結合の後に固体物質相上に固定化することによって、後者を直接かつ特異的に検出することができる。したがって、種々の環境およびマトリックスにおいて、BoNT/Aを特異的に検出することが可能である。
【0015】
SV2Cは、神経細胞および神経内分泌細胞由来の糖タンパク質である(要約論文:ヤンツ(Janz),R.およびスドホフ(Sudhof)T.C.、ニューロサイエンス(Neuroscience)94(1999)、1279〜1290頁)。86kDaという分子量を有する727個のアミノ酸からなり、12回膜貫通ドメインによってシナプス小胞の膜中に埋まっている。約160アミノ酸の長さを有するアミノ末端および11アミノ酸の長さを有するカルボキシル末端がサイトゾル中に位置しており、90アミノ酸の長さを有する膜貫通ドメイン6と7の間の部分も同様である。膜貫通ドメイン7と8の間で、125アミノ酸(アミノ酸454〜579)の長さを有する部分のみが小胞内に位置し、小胞内すなわち管腔ドメイン(LD)は3つの推定Nグリコシル化部位および2つの推定ジスルフィド橋を含む。シナプス小胞におけるイオンまたは糖輸送体としてのSV2Cの役割は確認されていないが、3種のSV2アイソフォームの、シナプトタグミンのものとの(アミノ末端のリン酸化の機能のような)相互作用は、Ca2+を結合するための遊離シナプトタグミンの量およびその後のエキソサイトーシスの開始がSV2によって影響を受けるということを示すものである。
【0016】
シナプス小胞の膜は、エキソサイトーシスによってシナプス前原形質膜と合わさって1つになり、これによってシナプス小胞タンパク質もまたシナプス前膜中に短時間存在するようになる。その結果として、シナプス小胞タンパク質の小胞内ドメインが細胞外に露出される。BoNT/AのH−断片の、神経細胞の表面に多数生じる複合体ポリシアロガングリオシドとの結合は、そのままでは神経毒を収容するのに十分ではない。しかし、神経細胞の表面にBoNT/A分子を蓄積することによって、これらは膜中に横方向に広がることができ、稀に露出されるタンパク質受容体との実りある遭遇の可能性が高まる。SV2Cの場合には、125個のアミノ酸を有する管腔ドメインが、小胞融合後に細胞外に露出され、このようにして、BoNT/Aにとってタンパク質受容体として利用可能となる。神経毒は、ガングリオシド結合によって膜の上に相当に密接して存在するので、BoNT/B/G−シナプトタグミン相互作用と類似して、管腔ドメインのおよそ30個の最初と最後のアミノ酸が、受容体として提供されることが好ましい。受容体神経毒複合体をエンドソーム中に収容した後、後者は酸性化され、エンドソームの膜中に移行ドメインが挿入され、一部折りたたまれたLCをサイトゾル中に移行し、そこで、後者は最終段階におけるその特異的基質に分割される。複合体形成および融合タンパク質の解離の周期が妨げられ、それによってアセチルコリンの放出が阻害される。その結果として、横紋筋が麻痺し、汗腺がその分泌を停止する。個々のBoNT血清型の活性期間は、サイトゾル中の無傷のLCの存在に応じて異なる。
【0017】
コリン作動性伝達がブロックされるということは、末梢HCはニューロンに侵入するという事実によって説明できることが好ましい。中枢シナプスは、タンパク質によっては乗り越えることができない血管脳関門によって保護されている。
【0018】
以下では、本願に関連して理解されるべきである用語を定義する。
【0019】
とりわけ、天然のボツリヌス神経毒Aと同一のアミノ酸配列を含む大腸菌から組換え型で調製されたボツリヌス神経毒A(BoNT/A)は、天然BoNT/Aと薬理学的に同一の方法で作用し、組換えボツリヌス神経毒野生型と呼ばれる。組換え型で調製されたBoNT/AのH−断片は、対応する天然H−断片と同一のアミノ酸配列および天然のBoNT/Aと同一の結合特性を有する。上記の神経細胞として、コリン作動性運動ニューロンがある。輸送タンパク質は、原形質膜と結合している分子、膜貫通タンパク質、シナプス小胞タンパク質、SV2ファミリーのタンパク質、好ましくは、SV2C、特に好ましくは、SV2Cの管腔ドメインと特異的に結合することが好ましい。結合は、in vitroで測定されることが好ましい。測定は、実施例において詳細に述べられているGST−プルダウン実験を用いて実施されることが特に好ましい。
【0020】
SV2Cの配列は、誰でもデータベースから得ることができる。ヒト由来SV2Cの配列番号は、とりわけ、GenBank NP055794であり、ラット由来SV2Cの配列番号は、とりわけ、GenBank NP113781であり、マウス由来のSV2Cの配列番号は、とりわけ、GenBankXP_127490である。
【0021】
これに関連して、用語「ポリペプチド」とは、少なくとも2つの単量体単位からなるアミノ酸重合体を表す。これに関連して、単量体は天然に存在するアミノ酸であってもよいし、天然に存在しないアミノ酸であってもよい。ポリペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸単量体を有することが好ましい。この場合、個々のアミノ酸は修飾されていてもよい。修飾は天然起源であってもよいし(例えば、翻訳後)、または例えば、グリコシル化、二量対形成およびオリゴマー形成によって、Cys残基の修飾によってなど、合成によって導入されてもよい。
【0022】
本発明の「%同一性」とは、公知の手順、例えば、コンピュータを使った配列比較(BLAST)Basic Local Alignment Search Tool、S.F.アルトシュル(Altschul)ら、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)215(1990)、403〜410頁によって確立されるタンパク質レベルでの%同一性を意味する。同一性を調べるのに好ましい方法は、まず、研究される配列との最大の可能性ある一致を作製する。配列対を互いに比較する場合には、プログラムGAP(デベロー(Devereux),J.ら、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Reserch)12812)=:387(1987)およびBestFitを使用することも可能である。通常、標準パラメーターの使用が可能であり、以下が特に好ましい:
アルゴリズム:ニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)4:443〜453頁(1970)
比較マトリックス:Henikoff and Henikoff,PNAS USA89(1992)、10915〜10919頁からのBLOSUM62
ギャップペナルティー:12
ギャップ長ペナルティー:4
【0023】
用語「抗体」とは、古典的な抗体、一本鎖抗体および抗体断片を含む。これに関連して、好ましい断片として、F(ab)2およびF(ab)がある。
【0024】
混合物の他に、用語「組成物」もまた、融合タンパク質を含む。組成物中に含まれるポリペプチドは、コンジュゲートの形で存在し得る。これに関連して、色素、鉄粒子、FlagまたはHA−Tagなどのエピトープ、架橋剤、親和性ペプチドまたは放射性同位元素を含むコンジュゲートが好ましい。
【0025】
好ましい実施形態によれば、ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも80%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一である。少なくとも90%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列が特に好ましい。少なくとも95%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列が、特に好ましい。
【0026】
さらに好ましい実施形態によれば、ポリペプチドのアミノ酸配列は、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と、少なくとも1個のアミノ酸、好ましくは、最高5個のアミノ酸、特に、最高1個のアミノ酸の付加、置換、欠失、挿入および/または反転によって異なっている。これに関連して、付加、置換、欠失、挿入または反転は、それ自体公知の方法で実施できる。
【0027】
さらに好ましい実施形態によれば、ポリペプチドの少なくとも70%のアミノ酸配列が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一である。少なくとも80%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列が好ましい。また、少なくとも90%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列が好ましい。少なくとも95%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列が特に好ましい。特に、ポリペプチドは、ボツリヌス神経毒AのH−断片と結合する、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)の単離ポリペプチドである。
【0028】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドをコーディングする核酸を提供する。さらに、複製および場合により、適した宿主細胞における適当なプロモーターの制御下での発現のための本発明の核酸を含む本発明のベクターを提供する。本発明のさらなる態様によれば、適した宿主細胞におけるポリペプチドをコードする核酸の組換え発現と、場合によっては、それ自体公知の方法で調製されたポリペプチドを単離することとを含む、本発明のポリペプチドを調製する方法が提供される。
【0029】
これに関連してコーディング核酸とは、RNA、DNAまたはそれらの混合物を表し得る。核酸は、そのヌクレアーゼ耐性を考慮して、例えば、ホスホロチオエート(phosphorthioate)結合の挿入によってさらに修飾できる。核酸は親核酸から調製でき、この場合、この親核酸は、例えば、ゲノムまたはcDNAデータベースからクローニングすることによって利用可能である。さらに、核酸は、固相合成によって直接調製できる。適した方法は当業者には公知である。親核酸から開始する場合には、例えば、位置特異的突然変異誘発による選択的修飾を引き起こし、その結果、アミノ酸レベルでの少なくとも1つの付加、挿入、欠失および/または置換をもたらすことができる。次いで、核酸を適したプロモーターと機能しうる形で連結する。公知の発現系における発現に適したプロモーターは、当業者には公知である。この場合には、プロモーターの選択は、発現に用いる発現系に応じて変わる。一般に、構成的プロモーターが好ましいが、誘導性プロモーターも同様に使用できる。このようにして調製される構築物は、例えば、λ−誘導体、アデノウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、SV−40ウイルスおよびレトロウイルスから選択されるベクターの少なくとも1つの部分、特に、調節エレメントを含む。ベクターは、所与の宿主において核酸を発現できることが好ましい。
【0030】
本発明は、ベクターを含み、ベクターを発現するのに適した宿主細胞をさらに提供する。最先端では、多数の原核生物の発現系および真核生物の発現系が知られており、宿主細胞は、例えば、大腸菌または巨大菌などの原核細胞から、S.セレビシエ(S.cerevisiae)およびP.パストリス(P.pastoris)などの真核細胞またはさらに高等な真核細胞、例えば、昆虫細胞もしくは哺乳類細胞から選択される。
【0031】
ペプチドまたはポリペプチドはまた、合成またはフラグメント縮合によって直接得ることができる。適当な方法は当業者には公知である。
【0032】
ペプチドまたはポリペプチドはその後精製する。本明細書においては、当業者に公知の方法、例えば、クロマトグラフィー法または電気泳動などを用いる。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1種の本発明のポリペプチドを含む組成物を提供する。この場合には、組成物は、混合物またはコンジュゲートとして存在し得る。例えば、ポリペプチドを色素分子または賦形剤とコンジュゲートさせることができる。
【0034】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列と結合する抗体またはその断片を提供する。抗体はモノクローナルまたはポリクローナルであり得る。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法に従って、マウスなどの試験動物を免疫化することによって、続いて、ハイブリドーマを単離およびスクリーニングすることによって調製できる。
【0035】
抗体は、シナプス小胞糖タンパク質2Cの、ボツリヌス神経毒との結合をブロックできることが好ましい。これは、ラジオイムノアッセイまたはELISAなどの公知の競合アッセイによって検出できる。
【0036】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1種の本発明のポリペプチドおよび/または少なくとも1種の本発明の抗体を含む薬剤組成物を提供する。薬剤組成物は、場合により、製薬上許容される賦形剤、希釈剤および/または添加物を含み得る。薬剤組成物は、経口、静脈内、皮下、筋肉内および局所投与に適している。
【0037】
薬剤組成物は、BoNT/Aの治療的処置または化粧用途の際の過剰投与後のボツリヌス中毒、中毒を治療するために、または予防目的で適応される。
【0038】
本発明のさらなる態様によれば、哺乳類に、BoNT/Aの、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列との結合を、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも50%、特に、少なくとも80%減少させる薬剤を投与することを含む、哺乳類においてBoNT/Aの神経毒性を低減する方法を提供する。
【0039】
この場合には、薬剤は、以下に記載されるスクリーニング法によって調べることができる。
【0040】
少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C)の管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列を有し、BoNT/AのSV2Cとの結合を減少させるポリペプチドを、哺乳類に投与することが好ましい。
【0041】
さらに、BoNT/Aの、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C)の管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列との結合を減少させる抗体を哺乳類に投与することが好ましい。
【0042】
さらに、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)の発現を減少させる薬剤を哺乳類に投与することが好ましい。この場合には、薬剤は、アンチセンス分子であり得る。アンチセンス分子を調製する方法は、当業者に公知である。
【0043】
この方法は、BoNT/Aの治療的処置または化粧用途の際の過剰投与後のボツリヌス中毒、中毒において、BoNT/Aの神経毒性を低減するために、または予防目的で使用できる。
【0044】
哺乳類はヒトであることが好ましい。
【0045】
本発明のさらなる態様によれば、
(a)薬剤を、BoNT/AおよびGST−SV2C(454〜579)の溶液と接触させることと、
(b)結合しているGST−SV2C(454〜579)の量を調べることと、
(c)GST−SV2C(454〜579)と結合しているBoNT/Aの量を減少させる薬剤を選択することと
を含む、BoNT/Aの、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)との結合を減少させる薬剤を同定する方法を提供する。
【0046】
これに関連して、スクリーニングは、例えば、化学ライブラリーによって実施できる。さらに、DNAおよび/またはRNA分子からなるデータベースも同様に考慮される。
【0047】
ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)は、細胞の原形質膜中に埋まっていることが好ましい。これに関連して、適当な細胞として、神経内分泌細胞、例えば、PC12、神経芽腫細胞、例えば、2Aおよび胎児脳組織由来のハイブリドーマ細胞、例えば、NT2がある。
【0048】
さらに、薬剤の存在によって減少した、BoNT/Aの、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cとの結合は、マウス半横隔膜試験におけるBoNT/Aの神経毒性の低減によって検出されることが好ましい。
【0049】
本発明のさらなる態様によれば、上記の方法によって得ることができる薬剤を提供する。
【0050】
本発明のさらなる態様によれば、
(a)ポリペプチドを固相上に固定化し、ポリペプチドが、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列を有し、BoNT/AのSV2Cとの結合を減少させることと、
(b)BoNT/Aのポリペプチドとの結合を可能にする条件下で、固定化されたポリペプチドを、サンプルと接触させることと、
(c)BoNT/Aポリペプチド複合体を溶出することと、
(d)複合体またはその成分を検出することと
を含む、任意の所望のサンプル中のボツリヌス菌由来BoNT/Aを検出する方法を提供する。
【0051】
固定化は、例えば、ポリペプチドの、クロマトグラフィー目的のために知られている物質、例えば、セファロースとのBrCn−カップリングによって実施できる。BoNT/Aのポリペプチドとの結合が起こり得る条件下で、日常的試験によって実施できる。条件は、いずれの結合パートナーも変性させないよう選択されなければならない。溶出は、例えば、競合またはpHおよび/または塩条件の改変によって起こり得る。複合体およびその成分は、例えば、SDS−PAGEによって分離できる。
【0052】
以下の実施例は単に例示目的のために役目を果たすものであって、制限すると考えてはならない。
【0053】
材料および方法
プラスミド構築および組換えタンパク質の調製
アフィニティー精製のためのカルボキシル末端StrepTagまたはin vitro転写/翻訳のための35S−メチオニンをそれぞれ含む、BoNT/AおよびBの全長型またはBoNT/A〜GおよびTeNTの組換えH−断片それぞれの大腸菌発現のためのプラスミドは、適当なプライマー、BoNT/A〜GおよびTeNTをコードするcDNAおよび出発ベクターとして働く発現ベクターpQe3(Qiagen AGまたはpSP72(Promega)をそれぞれ用いるPCR法によってもたらされた。
【0054】
種々のシナプス小胞タンパク質の小胞内セグメントをコードするcDNA部分を、適当なオリゴヌクレオチドおよび胎児マウスcDNAデータベース(GST−Syo−157−218、GST−Syg−I−45−98)またはGST−Syg−I−127−169(RZPD、Deutsches Ressourcenzentrum fur Genomforschung GmbH; www.rzpd.de;ID IRAKp961C072Q)、GST−SV2A−468−618(RZPD−ID IRAKp961O24100Q)、GST−Syo−22−103(ラット;T.C.Sudhof,Dallas)、GST−Syg−III−46−88およびGST−Syg−III−128−168 (マウス;T.C.Sudhof,Dallas)、GST−SV2B−413−560(ラット;S.Bajjalieh,Seattle)およびGST−SV2C−454−603(ラット;R.Janz,Houston)を基礎とした適当なcDNAを含むプラスミドを用いて、ベクターpGEX−4T3にクローニングした。ハイブリッドGST−SV2−C/Aをコードするプラスミドは、SV2Cのアミノ酸454〜553とSV2Aの568〜594を含み、PCRによって対応するオリゴヌクレオチドによって同様に作製した。すべてのプラスミドの核酸配列は、DNA配列決定によって確認した。組換えH−断片は、室温で10時間の誘導の間に大腸菌株M15[pRep4](Qiagen)において調製し、製造業者の使用説明書に従ってStrepTactin−マトリックス(IBA GmbH)で精製した。大腸菌BL21から得たGST−融合タンパク質を、セファロースマイクロビーズ上に固定化されたグルタチオンを用いて単離した。所望のタンパク質を含有する画分を合わせ、それぞれ、トリス−Nacl−トライトンバッファー(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、0.5% トライトンX−100、pH7.2)、ケルブス−リンガー(Kreb-Ringer)バッファー(118mM NaCl、4.7mM KCl、1.2mM MgSO、1.2mM KHPO、25mM NaHCO、2.5mM CaCl、11mM グルコース))に対して透析した。
【0055】
35S標識したH−断片を、2μlのバッチ中、網状赤血球溶解系(Promega、Mannheim)およびL−35S−メチオニン(840kBq、>37TBq/mmol;Amersham Biosciences)を用いて神経毒のカルボキシル末端コドンの下流を線状化したpSP72からin vitro合成した。
【0056】
GST−プルダウンアッセイ
10μlのGT−セファロースマイクロビーズ上に固定化したGST−融合タンパク質(各0.15nmol)を、100μlのトリス−NaCl−トライトンバッファーという総容積中、ウシ脳ガングリオシド混合物(18%GM1、55%GD1a、10%GT1b、2%のその他のガングリオシド、カルビオケム(Calbiochem)各20μg)の不在下または存在下で、H−断片(0.1nmol)とともに4℃で3時間インキュベートした。遠心分離によってマイクロビーズを集め、上清を回収し、各場合において分離したマイクロビーズを160μlの同バッファーで3回すすいだ。すすいだペレット画分を、SDS−サンプルバッファー中で沸騰させ、SDS−PAGEおよびクマシーブルー染色、オートラジオグラフィーまたはイムノブロッティングによって上清画分と一緒に調べた。
【0057】
マウス半横隔膜アッセイ(HDA)
マウス半横隔膜アッセイ(HDA)を、ハーバーマン(Habermann)(ハーバーマン(Habermann)E、ドレイヤー(Dreer)F、ビガルケ(Bigalke)H(1980)テタナス・トキシン・ブロックス・ザ・ニューロマスキュラー・トランスミッション・イン・ビトロ・ライク・ボツリナムA・トキシン(Tetanus toxin blocks the neuromuscular transmission in vitro like botulinum A toxin)、ナウニン・シュミーデベルグス・アーカイブ・オブ・ファルマコロジー(Naunyn Schmiedeberg's Archives of Pharmacology)311(1980)、33〜40頁)に記載されるとおり実施した。横隔神経を1ヘルツで刺激し、効力メーター(potency meter)およびVitroDatオンラインソフトウェア(FMI GmbH, Seeheim−Ober Beerbach)によって収縮幅を連続的に記録した。BoNTを加えた後、収縮幅が出力値の50%に低下する間の時間(麻痺半減時間)を測定した。全長scBoNT/A野生型を以下の最終濃度で少なくとも3倍測定した:24.3pM、72.8pM、223pMおよび728pM。この濃度−効果−関係に、効力関数(potency function)を近似させた。
【0058】
y(A)=225.87×−0.2573 (R=0.9627)。同様の方法で、以下の最終濃度を有する全長scBoNT/B野生型について、濃度−効果−関係y(B)=423.59×−0.297 (R=0.983)を定めた:100pM、300pM、1000pMおよび3000pM。阻害研究のために、scBoNT/A(223pM)およびscBoNT/B(1000pM)を、GST−SV2C−454−579またはGST−SV2−C/A(最終濃度4、7または11μM)のいずれかと混合し、20℃で15分間インキュベートし、HDAに加えた。効力関数に基づいて、部分的に延長した麻痺半減時間を低神経毒用量に相応に変換し、毒性%として表した。
【0059】
結果
タンパク質、シナプトフィジン、シナプトポリン(synaptoporin)、シナプトギリン(synaptogyrin)I&III、シナプトタグミンII、SV2A、SV2およびSV2Cの管腔ドメインおよびカルボキシル末端膜貫通ドメインを、サブクローニングし、大腸菌において組換え型で発現させ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−融合タンパク質として単離した。7種のBoNTの、およびテタヌス神経毒(TeNT)のH−断片を、両方とも大腸菌で組換え型で発現させ、35S−メチオニンを用いてin vitro翻訳した。上記のGST−融合タンパク質の管腔ドメインに対するH−断片の親和性を、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ−(GST)−プルダウン実験で調べた。この目的上、異なるH−断片を有するそれぞれのGST融合タンパク質をインキュベートし、相分離を実施した。遊離H−断片は分離された上清中のままであったが、結合しているBoNT H−断片は、GST融合タンパク質と一緒に固相において検出できた。組換えH−断片の、35S標識H−断片による、ならびに全長BoNT/Aによる置換は、H−断片BoNT/Aと比較してGSTプルダウンアッセイにおいて同様の結果を示した。
【0060】
【表1】

【0061】
これに関連して、BoNT/A、B、C1、D、E、F、GおよびTeNTの8種のH−断片のいずれも、複合体ガングリオシドの存在にかかわらず、シナプトフィジン、シナプトポリン(synaptoporin)、シナプトギリン(synaptogyrin)I&II、SV2AおよびSV2Bの管腔ドメインと結合しないことがわかった。すでに知られているように、BoNT/BおよびGのH−断片は、シナプトタグミンIIの管腔ドメインと結合するが、BoNT/AのH−断片は結合しない。組換えならびに35S標識H−断片ならびに全長BoNT/Aのみが、複合体ガングリオシドの存在に関わらず、GSTと融合しているSV2Cの管腔ドメインと特異的に結合する。すべてのその他のH−断片は、SV2Cと相互作用を示さない(図1)。
【0062】
BoNT/AのH−断片の、SV2Cの管腔ドメインとの結合は、膜貫通ドメイン8(GST−SV2C 454〜579)によって短縮した後に、より弱いことがさらに示された(図2)。20アミノ酸のカルボキシル末端欠失(GST−SV2C 454〜553)およびさらなる短縮は、BoNT/Aとの相互作用が停止に近づくことをもたらした。アミノ末端欠失は、BoNT/AのGST−SV2C融合タンパク質との結合も同様に妨げた。
【0063】
SV2Cと相同な、SV2AおよびSV2BのGST融合タンパク質は、カルボキシル末端膜貫通ドメインを含んでも含まなくとも、BoNT/Aとの結合を示さなかった。GST、SV2Cのアミノ酸454〜554およびSV2Aのアミノ酸568〜594からなるハイブリッドの作製も同様に、もはやBoNT/A H−断片との相互作用を全く示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】BoNT/AのH−断片は、SV2Cと相互作用する。(A)シナプス小胞糖タンパク質の略図。(B、C)GT−セファロースマイクロビーズ上に固定化されたGST−融合タンパク質が、ガングリオシドの存在下で、組換え(B)または35Sで記しを付けた(C)BoNT H−断片とともにインキュベートされている。固相と結合しているH−断片が、SDS−PAGEおよびクマシーブルー染色またはオートラジオグラフィーによって検出されている。
【図2】BoNT/A H−断片は、SV2Cの膜貫通ドメイン8に隣接する小胞内領域と結合する。GT−セファロースマイクロビーズ上に固定化されたGST−融合タンパク質が、ガングリオシドの存在下、組換えBoNT H−断片とともにインキュベートされている。固相と結合しているH−断片が、SDS−PAGEおよびクマシーブルー染色によって、または免疫化学法によって検出されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、ボツリヌス神経毒AのHc−断片と結合するポリペプチド(ただし、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cではない)。
【請求項2】
アミノ酸配列の少なくとも80%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
アミノ酸配列の少なくとも90%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一である、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
アミノ酸配列の少なくとも95%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と同一である、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
ポリペプチドのアミノ酸配列が、少なくとも1個のアミノ酸、好ましくは、最高5個のアミノ酸、特に、最高1個のアミノ酸の付加、置換、欠失、挿入および/または反転によって、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cのアミノ酸配列と異なる、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
アミノ酸配列の少なくとも70%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一である、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
アミノ酸配列の少なくとも80%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一である、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
アミノ酸配列の少なくとも90%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
アミノ酸配列の少なくとも95%が、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一である、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
ボツリヌス神経毒AのHc−断片と結合する、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)の単離ポリペプチドである、請求項1から9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を含有し、発現制御に適したプロモーターをさらに含有し、前記のポリペプチドをコードする核酸が前記のプロモーターによって制御される、ベクター。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸および/または請求項12に記載のベクターを含有する宿主細胞。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載のポリペプチドを調製する方法であって、適当な宿主細胞における請求項11に記載のポリペプチドおよび/または請求項12に記載のベクターをコードする核酸の組換え発現と、場合により、それ自体公知の方法で調製したポリペプチドを単離することとを含む方法。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1種のポリペプチドを含む組成物。
【請求項16】
少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメインのアミノ酸配列(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列と結合する、抗体またはその断片。
【請求項17】
シナプス小胞糖タンパク質2Cのボツリヌス神経毒との結合をブロックする、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1種のポリペプチドおよび/または請求項16または17に記載の少なくとも1種の抗体を含む薬剤組成物。
【請求項19】
哺乳類においてBoNT/Aの神経毒性を低減する方法であって、哺乳類に、BoNT/Aの、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列との結合を、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも50%、特には、少なくとも80%減少させる薬剤を投与するステップを含む方法。
【請求項20】
哺乳類に、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C)の管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列を有し、BoNT/AのSV2Cとの結合を減少させるポリペプチドを投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
哺乳類に抗体を投与し、BoNT/Aの、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C)の管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列との結合を減少させる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
哺乳類に薬剤を投与し、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)の発現を減少させる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
薬剤がアンチセンス分子である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
BoNT/Aの治療的処置または化粧用途の際の過剰投与後の、ボツリヌス中毒、中毒においてBoNT/Aの神経毒性を低減するために、または予防目的で用いられる、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
哺乳類がヒトである、請求項19から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
BoNT/Aの、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)との結合を減少させる薬剤を同定する方法であって、
(a)薬剤をBoNT/AおよびGST−SV2C(454〜579)の溶液と接触させるステップと、
(b)結合しているGST−SV2C(454〜579)の量を調べるステップと、
(c)GST−SV2C(454〜579)と結合しているBoNT/Aの量を減少させる薬剤を選択するステップと
を含む方法。
【請求項27】
ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)が、細胞の原形質膜中に埋まっている、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
薬剤の存在によって減少された、BoNT/Aの、ヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cとの結合が、マウス半横隔膜試験におけるBoNT/Aの神経毒性の低減によって検出される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
請求項25から27のいずれか一項に記載の方法によって得られる薬剤。
【請求項30】
任意の所望のサンプルにおいてボツリヌス菌由来のBoNT/Aを検出する方法であって、
(a)ポリペプチドを固相上に固定化し、ポリペプチドが、少なくとも70%がヒトのシナプス小胞糖タンパク質2Cの管腔ドメイン(アミノ酸454〜579)と同一であるアミノ酸配列を有し、BoNT/AのSV2Cとの結合を減少させるステップと、
(b)BoNT/Aのポリペプチドとの結合を可能にする条件下で、固定化されたポリペプチドを、サンプルと接触させるステップと、
(c)BoNT/Aポリペプチド複合体を溶出するステップと、
(d)複合体またはその成分を検出するステップと
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−513118(P2009−513118A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537015(P2008−537015)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010420
【国際公開番号】WO2007/048638
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(507073088)トキソゲン ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】