説明

ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ組成物及び腫瘍の拡大を治療するための方法

ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとの細胞透過性融合タンパク質複合体からそれぞれなる薬剤組成物が提供される。これらの組成物は、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖、拡大、及び遊走を防止又は抑制するのに有用である。これらの組成物はそれぞれ、腫瘍細胞増殖、遊走、血管新生、及びメタロプロテイナーゼ分泌のうちの2つ以上の組合せに影響を及ぼし又はそれらを阻止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療及び転移性癌に関係する腫瘍増殖の防止に有用な組成物及び方法に関する。具体的には、本発明は、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走の防止又は抑制に有用な、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の癌は、哺乳動物の組織内部の悪性細胞集団の制御不能な分裂によって特徴づけることができる。その細胞集団がある組織中に局在している場合、悪性細胞又は癌細胞のこのような制御不能な分裂は、その組織に第1の悪性腫瘍の形成をもたらし得る。1つ又は複数の悪性細胞又は細胞のクラスターが、局在化した集団の部位から別の小さな場所(lodge)へと遊走し、又は根付き、第2の部位又は追加の組織部位で制御不能になる場合は、遊走した1つ又は複数の悪性細胞の制御不能な分裂の結果として、第2の腫瘍又は追加の腫瘍が、それぞれ、第2の部位又は追加の部位で出現し得る。その際、この1つ又は複数の部位は、第1の腫瘍部位の近くのこともあれば、第1の腫瘍部位から離れた、例えば、第1の組織から解剖学的に遠く又はそれとは異なる別の臓器又は組織中のこともある。第2の部位で増殖中の細胞の場所から他の部位への1つ又は複数の悪性細胞の遊走が起こり、哺乳動物の1つ又は複数の組織部位で悪性腫瘍を生じることもある。新しい毛細血管の発達又は血管系の内方成長及び管網形成を含む、発達中の腫瘍の近くの組織にしばしば特徴的な血管新生又は血管化過程は、このような悪性腫瘍の増殖に関連づけられており、新しい血管系は、必要であり継続的な腫瘍の増殖を可能にする栄養分や増殖因子など様々な因子を供給する。
【0003】
腫瘍は、制御不能且つ連続的な過剰な細胞分裂に起因する異常な組織塊であり、新生物とも呼ばれる。腫瘍は良性(癌性ではない)のものもあれば悪性のものもある。
【0004】
例えば、例として腫瘍及び通常はいくらかの隣接した又は近くの非腫瘍性組織が組織中の腫瘍部位から切除される外科的処置を含めて、様々な方法が、ヒトなどの哺乳動物の癌を治療するのに現在利用されている。腫瘍の切除後、残存組織又は辺縁組織は、哺乳動物の腫瘍の切除部位の近くに残存している。しかし、外科手術のみで治療する場合には、多くの患者、特に乳癌、脳癌、結腸癌、皮膚癌(黒色腫)、腎臓(腎臓の)癌、及び肝臓の(肝臓)癌からなる群から選択される癌などいくつかのタイプの癌の患者は、しばしば、第1の腫瘍の切除後に残っている残存した辺縁部分において、時には第1の腫瘍部位から離れた又は遠くの他の組織又は臓器及び位置において、少なくとも1つの追加の又は第2の腫瘍の形成及び増殖の形態で、癌の再発を経験することになると考えられる。したがって、多くの癌は、外科手術に加えて、細胞毒性を有する化学療法薬(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、シスプラチン、メトトレキサート、5−FUなど)の投与及び/又は放射線療法を使用するものなど、治療法の組合せによっても治療されている。しかし、この手法に対する1つの問題は、放射線治療剤及び化学療法剤が、投与量レベルで正常組織に対して毒性となり、しばしば、患者に生命を脅かす副作用を生じ得ることである。これらの癌治療法は、しばしば、患者の死をもたらし得る高い失敗/寛解率を有することがある。いくつかのより最近の治療処置は、乳癌に対するタモキシフェン、及び慢性骨髄性白血病(CMLとも呼ばれる)に対する「Gleevec(商標)」(Novartis社製イマチニブメシレート)の使用など、癌細胞における改変又は上方調節された遺伝子産物による細胞シグナル伝達の調節不全を利用する。
【0005】
現在の方法のさらなる問題は、局所的な再発及び局所的な疾患の制御が悪性腫瘍の治療において依然として主要な課題であることである。毎年(米国で)600,000名以上の患者が、診断時に限局性の悪性疾患(遠隔転移による拡散の形跡が無い)を罹患しており、これは、それだけには限らないが非メラノーマ皮膚癌又は上皮内癌を含めて、悪性腫瘍と診断された患者全体の約64%に相当する。これらの患者の大多数にとって、疾患の外科的切除が治癒するための最大の機会であり、400,000人以上の患者は、初期治療後に治癒されることになる。残念ながら、約200,000名(又は限局性疾患の全患者の約3分の1)は、初期治療後に再発することになる。再発する患者のうちで、疾患の局所的な再発が原因で再発すると考えられる患者の数は、毎年約133,000名の患者(又は、限局性疾患の患者全体の約21%)となり得る。疾患の遠隔転移が原因で再発すると考えられる患者の数は、毎年約68,000名の患者(又は、限局性疾患の患者全体の約11%)である。さらに毎年約100,000名の患者が、疾患の局所的な増殖を制御できないことの直接的な結果として、死亡することになる。
【0006】
脳腫瘍は、癌の特に致死的な形態である。原発性神経膠腫(神経膠腫は、脳腫瘍全体の約1/3を占める)全体の約3分の1は、致死的であり、神経膠腫患者の平均生存期間は、約10〜約12カ月である。5年生存率は、約9%である。神経膠腫は、神経膠を起源とする神経外胚葉腫瘍であり、星状膠細胞に由来する星状膠細胞腫、乏突起膠細胞に由来する乏突起細胞腫、上衣細胞に由来する上衣細胞腫が含まれる。いくつかの研究は、これらの攻撃的な腫瘍を治療するためには併用療法が必要とされることを示唆している。最も一般的なタイプの脳腫瘍は、転移により生じ、米国で1年に約100,000〜約170,000例の脳腫瘍が診断される。平均生存期間は、約2.9カ月〜約3.4カ月である。転移性脳腫瘍は、放射線外科療法又は腫瘍切除によって主に治療される。放射線療法単独よりも、外科手術と放射線療法を併用した際に、より良い転帰が報告されている。脳への転移性腫瘍の最も一般的な起源は、乳癌、気管支癌、消化器癌、腎臓癌、及び悪性黒色腫を含む。転移性脳腫瘍は、特に原発腫瘍の切除後に、臨床的に爆発的に生じることがある。CNS癌(本明細書では脳腫瘍及び脳癌を含む)であるらしいと疑われる個体は、頭痛、悪心若しくは嘔吐、発作、異常な精神状態、異常な言語行動、視覚異常、及び/又は麻痺などの臨床症状を発見することによって、確認することができる。哺乳動物において原発性CNS癌の転移を抑制する方法も、本発明の範囲内である。
【0007】
血管新生
正常組織において血管新生を制御している機序のうちの多くは、腫瘍増殖の進行中に悪性腫瘍の存在下で改変される。腫瘍の形成及び転移は、病理学的な血管新生を伴った。健常組織と同様に、腫瘍は、栄養分及び酸素を受け取り、細胞の廃棄物を排除するために、血管に連結する必要がある。したがって、病理学的な血管新生は、腫瘍の増殖及び拡大にとって極めて重要である。血管新生が重要である腫瘍には、例えば、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、及び化膿性肉芽腫など、固形の悪性腫瘍並びに良性腫瘍が含まれる。転移の際、病理学的な血管新生は、少なくとも2つの局面で重要となる。腫瘍で血管が形成されることにより、腫瘍細胞が血流に入り、体全体を循環することが可能となる。血管新生は、原発部位又は本明細書における第1の腫瘍を去った腫瘍細胞によって播かれた新しい腫瘍の形成及び増殖を支援する。
【0008】
血管新生は、血管形成の複雑なプロセスである。このプロセスは、(1)血管新生刺激による内皮細胞(EC)(endothelial cell)の活性化;(2)細胞外マトリックスの分解、活性化されたECの周辺組織中への侵入、及び血管新生刺激の供給源へ向かう遊走;並びに(3)新しい血管を形成するためのECの増殖及び分化を含めて、生化学的事象と細胞事象の双方を含む(Folkman et al. , 1991, J. Biol. Chem. 267: 10931-10934)。
【0009】
血管新生の制御は、血管新生の刺激因子及び阻害因子を使用する高度に調節されたプロセスである。健常なヒト及び動物では、血管新生は、特定の制限的な状況のもとで起こる。例えば、血管新生は、通常、胎児及び胚の発生、正常な組織及び臓器の発達及び成長、創傷治癒、並びに黄体、子宮内膜、及び胎盤の形成において観察される。
【0010】
本発明の別の実施形態は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体による、血管新生の抑制を含む。
【0011】
本発明の別の実施形態は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む有効量の薬剤組成物による、血管新生の抑制を含む。
【0012】
Rhoシグナル伝達及び癌
Rho(Rasホモロジーとしても知られている)ファミリータンパク質が、癌に関して調査されている。Ras(及び2次標的としてのRhoB)は、翻訳後修飾を抑制する分子による転移に対する標的である。しかし、これらの治療学的調査は、Rasに焦点をあわせており、RhoファミリーのメンバーのうちではRhoBに限定されている。一方、本発明は、RhoA、RhoB、及びRhoCのシグナル伝達に影響を及ぼす可能性を有する。RhoA、RhoB及びRhoCは、融合タンパク質BA−05によって特異的に阻害されるRhoファミリーのメンバーである。いくつかの研究では、C3細胞外酵素が、Rhoの関与を調べるための分子プローブとして使用されており、細胞形質転換など癌で重要と考えられる有意な変化が、in vitroモデルのパラメータで発見されている。これらの研究では、組織培養培地中での長期の培養から異種遺伝子の発現にわたる方法によって、C3が適用される。本発明の組成物は、腫瘍細胞内部に浸透して、より低い用量でRhoを迅速に不活性化する能力を有するため、BA−05やBA−05の投与など本発明の組成物及び方法は、C3と比べて著しい利益を与えることが、本発明の利点である。別の利点として、本発明は、BA−07など本発明の融合タンパク質を含む組成物を提供し、この融合タンパク質は、この融合タンパク質の不在下では腫瘍増殖に栄養を与える新しい血管を形成し得る腫瘍細胞及び内皮細胞の双方に浸透する能力を有する。
【0013】
調節タンパク質Rhoファミリーの変異が、悪性腫瘍の臨床検体で発見されている。例として、肝細胞癌中のDLC1遺伝子、神経膠腫及び星状細胞腫で改変されるゲノム領域中のp−190−A;白血病で機能喪失の変異を有するGRAF;急性骨髄性白血病でみとめられるいくつかの遺伝子融合物中に存在するLARGが挙げられる。遺伝子操作による点突然変異は、RhoAを活性化し、in vitroで細胞の形質転換を誘導する。
ヒト悪性腫瘍におけるRhoファミリー遺伝子の発現
【0014】
小型GTPアーゼのRhoは、BA−05の細胞標的であり、悪性黒色腫や乳癌などいくつかの癌において上方調節されている。
【0015】
小型GTPアーゼのRasと対照的に、Rho GTPアーゼは、癌におけるRho遺伝子発現の調節不全に関する証拠が蓄積しているものの、従来の手法によっては癌遺伝子として同定されていない。例えば、RhoA mRNAレベルの上昇が、精巣胚細胞腫瘍で観察されており、RhoC mRNAレベルの上昇が、炎症性乳癌及び膵臓腺癌で観察されている。
【0016】
癌ゲノム解剖計画(CGAP(Cancer Genome Anatomy Project))は、遺伝子発現と悪性腫瘍部位の相関関係を明らかにするものである。悪性細胞及び正常細胞から作製されたライブラリーで転写レベルに関するデータが入手可能である(NCBI、2002年)。転写レベルは、「タグ」、即ち、ある遺伝子を一意的に決める10塩基のオリゴヌクレオチドを用いて測定される。RhoA、RhoB及びRhoC Iに関する入手可能なデータは、脳及び乳房の悪性腫瘍におけるRhoA、及び測定値の程度はより低いが、RhoCの上方調節を示している。RhoA配列タグは、小脳及び乳房の悪性腫瘍から作製したライブラリー中に、対応する正常組織から作製したライブラリー中と比べてより頻繁にみとめられる。発現レベルは、神経膠芽腫で上昇していたが、星状細胞腫では上昇していなかった。星状細胞腫の場合の結果は、星状細胞腫瘍検体のRhoAタンパク質レベルの低下に対応している。RhoC mRNAは、乳房悪性腫瘍で過剰発現され、一部の脳悪性腫瘍では少し発現され、また、結腸腺癌では下方調節されていることがある。
【0017】
しかし、このようなライブラリーでのRho cDNAの相対的レベルは、他の多数の遺伝子産物を要する複雑な調節を受ける、細胞中でのRho作用に直接関係していない可能性がある。
【0018】
腫瘍及び腫瘍細胞系中のRhoタンパク質
ヒトのいくつかの腫瘍部位でのRhoタンパク質の発現が調査されている。結腸、乳房、及び肺の腫瘍においてタンパク質レベルの上昇がみとめられている。これらのタンパク質を標的とするポリクローナル抗体を用い、続いてVecta Stain Kit(Vector Labs社製)によって可視化し、画像解析すると、頭部及び頸部の扁平上皮癌から得た5μmの切片中でRhoA及びRhoBのレベルが発見された。近辺の「非腫瘍性」領域が、対照として使用された。RhoAタンパク質レベルは腫瘍進行とともに上昇したが、RhoBレベルは、上皮内癌及び高分化型腫瘍と比べて、浸潤性腫瘍において低下した。活性化状態は研究されなかった。
【0019】
正常組織と比べて、RhoA及びRhoBの過剰発現が、乳房及び肺の腺癌で起こることがあるが、Rhoタンパク質の発現は、星状細胞腫瘍で低減され、グレードII〜IVの悪性腫瘍に反比例する。
【0020】
Rho及び転移
Rhoは、細胞の遊走及び運動性の調節に関与している。RhoA変異構築物(Val14又はVal14Ile14)でトランスフェクトされたMM1ラット肝癌細胞は、構成的に活性化されたRhoを生じる。in vitroの浸潤アッセイにおいて、中皮細胞層中へ浸潤することができる播種細胞の比率は、トランスフェクトされたRhoA Val14の発現レベルと相関関係があった。これらの活性化されたRhoAトランスフェクト細胞を、腹膜腔でのin vivoアッセイで使用すると、偽のトランスフェクタントの場合の8個中2個に対し、10個の移植片中6個が、腫瘍結節を形成した。これらの結果は、活性なRhoは腫瘍形成能と相関関係があることを示唆している。
【0021】
2つの転移性黒色腫モデル系、即ち1つのヒトモデル系及び1つのマウスモデル系を比較し、マイクロアレイを用いて遺伝子発現において共通する類似性を調べた包括的な遺伝子発現の研究により、転移のレベル上昇の際、RhoC発現が変更されていることが結論づけられた(Clark et al., 2000)。さらに、遺伝子発現を実験的に操作すると、RhoCの過剰発現が、ヒト黒色腫細胞系を誘導して、低い転移能から高い転移能に変えた。RhoAの過剰発現はみとめられなかったが、ドミナントネガティブ変異(N19RhoA)により、転移能が低減された。
【0022】
その発現がヒト乳癌の転移の傾向と相関関係がある70個の遺伝子のセットが特定された(van't Veer et al.,2002)。Rho遺伝子は発見されていなかったが、予後の指標としての疾患マーカーの値は、治療法の標的としてのその値に必ずしも関係しているわけではない。Rhoファミリーシグナル伝達の場合、酵素活性及びタンパク質−タンパク質の相互作用からなる複雑な調節があり、これは、転写レベルだけの測定値からは明らかではない。
【非特許文献1】Folkman et al. , 1991, J. Biol. Chem. 267: 10931-10934
【非特許文献2】Clark et al., 2000
【非特許文献3】van't Veer et al.,2002
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の個々の融合タンパク質は、BA−05、BA−07などのような呼称で呼ばれることがある。
【0024】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0025】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0026】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止する方法であって、その融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0027】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、第1の腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後の両方に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止する方法であって、その融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0028】
本発明はさらに、上記の方法を実施するため、又は上記の方法を実施するための医薬品を製造するための、上記に定義した薬剤組成物の使用も提供する。
【0029】
一態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物のCNS(central nervous system)(中枢神経系)中への全身癌の転移を抑制する方法を含む。
【0030】
一態様では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物は、抗血管新生活性を示すことができ、癌の治療に有用である。
【0031】
一態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0032】
第2の態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0033】
第3の態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止する方法であって、その融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0034】
第4の態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、第1の腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後の両方に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存した腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止する方法であって、その融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0035】
第5の態様では、本発明は、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための医薬品の製造における、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用を開示する。
【0036】
第6の態様では、本発明は、腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後に、ある時間間隔で、切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接投与するのに適した、哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための医薬品の製造における、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用を開示する。
【0037】
第7の態様では、本発明は、哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止するための医薬品の製造における、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、その融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用を開示する。
【0038】
第8の態様では、本発明は、第1の腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後の両方に、ある時間間隔で、切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接投与することにより、哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止するための医薬品の製造における、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、その融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用を開示する。
【0039】
第9の態様では、本発明は、融合タンパク質複合体がBA−05である、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0040】
第10の態様では、本発明は、癌が、乳癌、脳癌、結腸癌、皮膚癌、腎臓癌、及び肝臓癌から選択される、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0041】
第11の態様では、本発明は、癌が、肺、乳房、黒色腫、腎臓、及び消化管の腫瘍に由来する、脳内に位置する神経膠腫、神経腫瘍、松果体腫瘍、髄膜腫瘍、神経鞘の腫瘍、リンパ腫、奇形性腫瘍、及び転移性腫瘍からなる群から選択される脳腫瘍である、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0042】
第12の態様では、本発明は、癌が、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、並びに髄芽細胞腫、松果体芽細胞腫及び松果体細胞腫、髄膜腫、髄膜血管周囲細胞腫、髄膜肉腫、シュワン腫(神経鞘腫)及び神経線維腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、非ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、類皮嚢胞、及びコロイド嚢胞からなる群から選択される脳腫瘍である、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0043】
第13の態様では、本発明は、治療有効量が、組織1cc当たり約0.001マイクログラム〜約50マイクログラムである、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0044】
第14の態様では、本発明は、治療有効量が、組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質である、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0045】
第15の態様では、本発明は、治療有効量が、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラムである、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0046】
第16の態様では、本発明は、投与が注射、局所投与、埋め込みによって行われる、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0047】
第17の態様では、本発明は、投与が、関節内(intrarticular)投与、眼内投与、鼻腔内投与、神経内投与、皮内投与、骨内投与、舌下投与、経口投与、局所投与、膀胱内投与、包膜内投与、静脈内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入、噴霧化及び吸入、腫瘍への直接塗布、疾患部位への直接塗布、腫瘍切除後に残存する辺縁の表面又はその中への直接塗布、経腸投与、胃鏡検査処置及びECRPとともに行う経腸投与からなる群から選択される、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0048】
第18の態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分が、約5〜約50個のアミノ酸を含むペプチドを含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0049】
第19の態様では、本発明は、ボツリヌス菌Ceエキソトランスフェラーゼ単位が、融合タンパク質BA−05の配列で示されるアミノ酸配列を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0050】
第20の態様では、本発明は、機能的アナログが、野生型ボツリヌス菌Ceエキソトランスフェラーゼの活性の50%〜500%の範囲の活性を示すタンパク質を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0051】
第21の態様では、本発明は、薬剤組成物が、製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0052】
第22の態様では、本発明は、薬剤組成物が、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、即ちPVA、部分的に加水分解されたポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、部分的に加水分解された架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、即ちPGA、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(無水物)、ポリカプロラクトンとポリエチレングリコールの共重合体、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコール;並びにその組合せ及び混合物からなる群から選択される製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0053】
第23の態様では、本発明は、薬剤組成物が、水溶性ゼラチン、水溶性タンパク質、高分子担体、架橋剤、及びその組合せを含む製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0054】
第24の態様では、本発明は、薬剤組成物が、マトリックスを含む製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0055】
第25の態様では、本発明は、薬剤組成物が、水、製薬上許容される緩衝塩、製薬上許容される緩衝液、製薬上許容される抗酸化薬、アスコルビン酸、1種又は複数の低分子量の製薬上許容されるポリペプチド、約2〜約10個のアミノ酸残基を含むペプチド、1種又は複数の製薬上許容されるタンパク質、1種又は複数の製薬上許容されるアミノ酸、ヒトの必須アミノ酸、1種又は複数の製薬上許容される糖質(carbohydrates)、1種又は複数の製薬上許容される糖質由来の物質、非還元糖、グルコース、スクロース、ソルビトール、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、製薬上許容されるキレート剤、EDTA、DTPA、二価金属イオンに対するキレート剤、三価金属イオンに対するキレート剤、グルタチオン、製薬上許容される非特異的な血清アルブミン、及びその組合せを含む製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0056】
第26の態様では、本発明は、薬剤組成物が無菌のものである、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0057】
第27の態様では、本発明は、薬剤組成物が滅菌可能である、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0058】
第28の態様では、本発明は、薬剤組成物が滅菌されている、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0059】
第29の態様では、本発明は、薬剤組成物の単位投与量又は単位投与量の整数倍がバイアルに収められた、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0060】
第30の態様では、本発明は、薬剤組成物を乾燥させた、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0061】
第31の態様では、本発明は、薬剤組成物が乾燥マトリックスを含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0062】
第32の態様では、本発明は、薬剤組成物が製薬上許容される担体を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0063】
第33の態様では、本発明は、薬剤組成物が凍結乾燥マトリックス中に融合タンパク質を含む、前記諸態様の別の態様を開示する。
【0064】
Rho及びアポトーシスの拮抗作用
細胞増殖を制御する機序は、癌では調節不全となっている。組換型C3細胞外酵素によりRhoを不活性化すると、EL4マウスTリンパ腫細胞でアポトーシスの増大が起こる。NIH3t3細胞では、Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632で処理したところ、足場非依存性増殖が有意に抑制された。一実施形態では、Rhoの不活性化は、腫瘍細胞増殖を防止することができ、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体による、細胞増殖の低減若しくは阻止、又はアポトーシスの誘導を含む。別の実施形態では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む有効量の薬剤組成物による、細胞増殖の低減若しくは阻止、又はアポトーシスの誘導を含む。
【0065】
Rho及び細胞遊走の拮抗作用(Anatagonism)
転移性の癌細胞は、遊走性が高い。Rhoの不活性化により、いくつかの細胞型において細胞遊走を防止することができる。C3トランスフェラーゼ及びRhoキナーゼ阻害剤Y−27632は、HT29ヒト結腸癌細胞による細胞浸潤を阻止する。v−Crk誘導性ラット線維芽細胞3Y1細胞系において、C3及びY−27632はv−Crkを阻害し、細胞運動性の低下をもたらした。ドキソルビシン、放射線、又はTaxolで処理されたRhoB+/−又はRhoB−/−MEF細胞におけるRhoB−/−細胞のアポトーシス低減は、RhoBタンパク質の欠乏に起因する。別の実施形態では、Rhoの拮抗作用により、細胞遊走及び転移を低減させることができ、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体による、細胞遊走の抑制を含む。
【0066】
本発明の別の実施形態は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む有効量の薬剤組成物による、細胞遊走の抑制を含む。
【0067】
Rho及びマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)(Matrix metalloproteinase)の拮抗作用
浸潤性腫瘍細胞は、細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼを分泌することによって、それらを取り囲む細胞外マトリックスを分解することができる特性を有する。腫瘍細胞によって分泌されるプロテアーゼの1つの重要なクラスは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)(matrix metalloproteinase)である。これらの酵素は、癌細胞がそれを通って侵入し広がることができる経路をマトリックス中に開く。腫瘍細胞は、様々なタイプのMMPを産生することができ、また、MMPは、しばしば、活性化されると切断され遊離される酵素前駆体として産生される。MMP1は、コラーゲンマトリックスを切断する。MMP−2は、肺癌細胞の浸潤で重要な役割を果たし得る。MMP−9も、腫瘍細胞の浸潤に関係があるとされている。別の実施形態では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体による、MMP発現、MMPプロセッシング、又は腫瘍細胞からのMMP分泌の抑制を含む。
【0068】
別の実施形態では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−05などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む有効量の薬剤組成物による、MMP発現、MMPプロセッシング、又はMMP分泌の抑制を含む。
【0069】
RhoアンタゴニストとしてのBA−05及びBA−07
BA−05及びBA−07は、C3細胞外酵素の遺伝的に改変した型である。C3細胞外酵素は、調節性の小型GTPアーゼ、即ちRhoA、RhoB、及びRhoCのアスパラギン残基にADP−リボース基を移行させる、ボツリヌス菌の一部の株で発見されたバクテリオファージ由来の分泌タンパク質である。ADP−リボシル化はRhoの活性化を防ぐため、C3は、Rhoを不活性化する。BA−05及びBA−07を識別する新規な変異は、細胞質中に効率的に入ることを可能とし、より強力なRhoアンタゴニストを生じる、C末端輸送ペプチドを含む。BA−05及びBA−07は、非酵素領域のサイレント変異が異なる。BA−07は、治療用薬物として有用なタンパク質を精製するための商業規模のベクターで発現させることができる。本発明の一態様では、BA−07などの融合タンパク質を、シグナル伝達で重要なタンパク質−タンパク質相互作用の細胞透過性撹乱物質とみなすことができる。
【0070】
本発明は、抗新生物性で抗転移性の組成物としての、BA−05の変異体を含むように改変し、又は短く若しくは長くし、又は切り縮めることができるアミノ酸配列を有するポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、変異体中に改変し、短くし、長くし、又は切り縮めることができるアミノ酸配列を有するボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体などのBA−05及びBA−07の変異体、並びに、癌及び他の悪性疾患を治療するためにこのような組成物を利用する方法及び装置を提供する。
【0071】
本発明の一態様において、プラスミド中で発現されるBA−07のDNA配列を改変して、治療的使用が安全な製薬上許容される担体中で調製するために大量のBA−07を精製する能力を高めるための組成物及び方法が提供される。
【0072】
BA−05及びBA−07は、本発明による融合タンパク質である。
【0073】
プロリンに富む輸送配列、及びADPがRhoをリボシル化する酵素活性を維持するのに十分な量のC3トランスフェラーゼ単位を保持するBA−05の変異体が、本発明に含まれる。
【0074】
本発明によれば、治療上有効な作用物質を含む複合体又は融合タンパク質が提供され、これにより、その有効な作用物質は細胞壁の膜を通過して送達されることができ、また、この複合体又は融合タンパク質は、1つ又は複数の有効な作用物質部分に加えて、1つ又は複数の輸送サブドメイン又は輸送部分を含んでいる。より具体的には、本発明によれば、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、治療上有効な単位としてのボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む、複合体又は融合タンパク質としての治療上有効な作用物質であって、腫瘍細胞の遊走を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを促進し、血管新生を抑制し、また、腫瘍増殖と関係があるメタロプロテイナーゼの産生を抑制することができる、治療上有効な作用物質が提供される。
【0075】
本発明の単一の化合物は腫瘍の増殖及び拡大のいくつかの極めて多様な局面を阻止するための併用療法としての役割を果たすことができるため、本発明の組成物及び方法は、腫瘍の拡大又は転移を阻止するために設計された以前の薬物よりも著しい改善をもたらすことが利点である。BA−07を含む組成物など本発明の組成物は、腫瘍細胞遊走、腫瘍細胞増殖、腫瘍部位での血管新生、及び活性なメタロプロテイナーゼの分泌を防止又は遅延若しくは抑制できることが利点である。薬剤として有効な化合物が、受容体に基づく膜輸送機序に依拠せずに、癌細胞に浸透できることが、本発明の利点である。薬剤として有効な化合物が、RhoファミリーGTPアーゼのメンバーを不活性化できることが本発明の利点である。薬剤として有効な化合物がRhoアンタゴニストであることが本発明の利点である。
【0076】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0077】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法を開示する。
【0078】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止する方法であって、その融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0079】
本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、第1の腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後の両方に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止する方法であって、その融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法を開示する。
【0080】
一態様では、本発明は、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物のCNS(central nervous system)(中枢神経系)中への全身癌の転移を抑制する方法を含む。
【0081】
一態様では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログ、例えば、BA−07などの融合タンパク質とを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物は、抗血管新生活性を示すことができ、癌の治療に有用である。
【0082】
本発明によれば、本発明において有用な融合タンパク質の有効な薬剤領域は、ADP−リボシルトランスフェラーゼC3領域、又はその機能的等価物を含む。本発明によれば、好ましいADP−リボシルトランスフェラーゼC3は、ボツリヌス菌由来のADP−リボシルトランスフェラーゼ及び組換型ADP−リボシルトランスフェラーゼからなる群から選択することができる。
【0083】
或いは、C3は、C.リモセウム(limoseum)や黄色ブドウ球菌(Staphlococcus aureus)など他の供給源に由来してもよい。これらの細菌から精製されたC3は、RhoのADPリボシル化に有効な、ボツリヌス菌由来のC3と同じ酵素活性を有し、Rhoの不活性化を引き起こす。
【0084】
本発明の一態様では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分は、プロリンに富む輸送ドメインを含み得る。プロリンに富む輸送部分又はドメインの例は、その全開示内容を参照によりすべて本明細書に組み込む米国特許出願第10/118079号で確認することができる。本明細書では、「プロリンに富む領域」という用語は、ペプチド又はタンパク質を含む分子内部の、ペプチドアミド結合によって相互に結合した10個のアミノ酸からなる任意の直鎖状配列であって、その直鎖状配列中の10個のアミノ酸のうちの少なくとも3個がプロリン残基であり、各プロリンが、その窒素で1つのペプチドアミド結合に、また、そのカルボキシ(カルボニル)部位でもう1つのペプチドアミド結合に共有結合している任意の直鎖状配列を意味する。
【0085】
ペプチド内部の任意の10アミノ酸配列中のプロリンに富む領域は、2個以上のプロリン残基及び8個以下の非プロリンアミノ酸を含み得る。
【0086】
例えば、一態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、2個のプロリン残基及び8個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0087】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、3個のプロリン残基及び7個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0088】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、4個のプロリン残基及び6個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0089】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、5個のプロリン残基及び5個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0090】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、6個のプロリン残基及び4個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0091】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のアミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、7個のプロリン残基及び3個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0092】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10アミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、8個のプロリン残基及び2個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0093】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10アミノ酸が任意の組合せで割り当てられた、9個のプロリン残基及び1個の非プロリンアミノ酸残基を含み得る。
【0094】
別の態様では、10個以上のアミノ酸を含むペプチド内の10アミノ酸配列を含む、ペプチドのプロリンに富む領域は、10個のプロリン残基を含み得る。
【0095】
別の態様では、「プロリンに富む領域」とは、天然に存在するタンパク質(例えば、ヒトゲノムによってコードされるタンパク質)で通常観察されるものよりも、より多くのプロリンを含むタンパク質のアミノ酸配列領域を意味する。
【0096】
本発明の組成物中のペプチドの「プロリンに富む領域」は、本発明の融合タンパク質が細胞膜を通して輸送される速度を高めるように機能することができる。
【0097】
ペプチド又はタンパク質のプロリンに富まない領域は、ペプチド結合によって共有結合した10個のアミノ酸からなる配列を含み得、この領域は、0又は1個のプロリン残基を含む。
【0098】
本発明の組成物の細胞膜(call membrane)輸送促進ペプチドは、1つ又は複数のプロリンに富む領域を含み得、各領域は、同一又は異なる配列のアミノ酸でよく、また、各領域は、1つのペプチド結合又は複数のペプチド結合によって相互に共有結合しており、1つ又は複数のプロリンに富まないアミノ酸配列を含み、この配列は、プロリンに富まないアミ酸配列が10個を超えるアミノ酸を含むときにはそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0099】
本発明の別の態様では、本発明の融合タンパク質を含む組成物及び方法において使用するのに適したポリペプチド性の細胞膜輸送部分を、例えば、膜移行配列に関するRojas (1998) 16: 370-375、Tatを媒介とするタンパク質送達に関するVives (1997) 272: 16010-16017、ポリアルギン(polyargine)配列に関連したWender et al. 2000, PNAS 24:13003-13008の文献、アンテナペディアに関するDerossi (1996) 271: 18188-18193、アンテノペディア(antennopedia)のホメオドメインを含む複合体に関するカナダ特許第2301157号、並びに、Tat HIVタンパク質のアミノ酸を含む複合体(本明細書では、Tat HIVタンパク質は、Tatと呼ぶこともある)に関する米国特許第5652122号、第5670617号、第5674980号、第5747641号、及び第5804604号で開示されており、本発明で使用するために変更し適合させた方法によって調製することができる。これらの各文献の全開示内容を参照によりすべて本明細書に組み込む。
【0100】
いくつかのレセプターを媒介とする輸送戦略が、ADPリボシラーゼの機能を試験し改善するために使用されている。これらの戦略又は方法は、C2及びC3配列を融合すること(Wilde, et al. (2001) 276: 9537-9542)、並びにジフテリア毒素受容体を用いた受容体媒介性輸送の使用(Aullo, et al. (1993) 12: 921-31)を含む。これらの戦略では、BA−05で発見されている活性とは異なり、劇的に効力が高められたC3活性を生じない。さらに、これらの戦略は、受容体媒介性輸送を必要とする。これにより、標的とされる細胞が、特異的な受容体を発現しなければならず、且つ、輸送速度を有意に改善するのに十分な量の受容体を発現しなければならないことが必要となる。ジフテリア毒素の場合は、すべての細胞が適切な受容体を発現するとは限らず、その使用可能性を制限している。これらの戦略とは対照的に、例えばBA−05など、ポリペプチド輸送部分を含む本発明の組成物は、受容体非依存性機序によって細胞原形質膜を通過することができる。
【0101】
本発明の一態様では、好ましい組成物は、融合タンパク質複合体中に、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログのC末端領域に付加されたプロリンに富むアミノ酸配列を含む、プロリンに富むポリペプチド性の細胞膜輸送部分を含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む。特に好ましい組成物は、BA−05で表される融合タンパク質である。ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログのN末端領域に付加されたプロリンに富むアミノ酸配列を含む融合タンパク質組成物は、本明細書では、BA−05のアナログと呼ぶことがある。
【0102】
本発明の別の態様では、好ましい組成物は、融合タンパク質複合体中に、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログのN末端領域に付加されたプロリンに富むアミノ酸配列を含む、プロリンに富むポリペプチド性の細胞膜輸送部分を含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む。ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログのN末端領域に付加されたプロリンに富むアミノ酸配列を含む融合タンパク質組成物は、本明細書では、BA−05の変異体と呼ぶことがある。
【0103】
本発明のBA−05アナログ及びBA−07変異体は、それぞれ、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位を含む細胞透過性融合タンパク質複合体、又はその機能的なアナログとを含む。ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位の機能的アナログは、BA−05の生物活性を有する断片やアミノ酸配列を改変したアナログなどのポリペプチドであって、BA−05のこのような断片及びアミノ酸配列を改変したアナログの生物活性が、BA−05と本質的に同様の作用機序に由来している、ポリペプチドを含み得る。このような断片は、BA−05のアミノ酸配列と比べて、1つ又は複数のアミノ酸のトランケーションを有するアミノ酸配列を含み又は包含する。このような断片は、BA−05のアミノ酸配列と比べて、1つ又は複数のアミノ酸のトランケーション(又は消失)を有するアミノ酸配列を含み又は包含し、その際、トランケーションは、タンパク質配列のアミノ末端即ちN末端、カルボキシ末端即ちC末端、又は内部から起こり得る。本発明のBA−05のアナログ及び変異体は、1つ又は複数のアミノ酸の挿入又は置き換えを含み得る。本発明において有用な断片、アナログ、及び変異体を含む本発明の組成物は、Rho GTPアーゼを不活性化することができ、好ましくは複数のRho GTPアーゼを不活性化することができる、BA−05の生物学的性質を有する。
【0104】
別の態様では、本発明の組成物及び方法は、異種アミノ酸配列に融合され、またそれを含むBA−05アミノ酸配列又は短縮型配列を含むキメラポリペプチドを含む。このような異種配列は、BA−05とのキメラ中に構成されたとき、BA−05の1種又は複数の生物学的又は免疫学的な特性、最も好ましくはRho GTPアーゼを不活性化することができる特性、さらにより好ましくは、複数のRho GTPアーゼを不活性化することができる特性を保持している配列を含む。
【0105】
別の実施形態では、本発明は、BA−05タンパク質又はBA−07キメラ蛋白質をコードする核酸で形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞を含む。一態様では、BA−05の生物学的諸特性のうちの少なくとも1種、最も好ましくはRho GTPアーゼを不活性化することができる特性、さらにより好ましくは、複数のRho GTPアーゼを不活性化することができる特性を示すポリペプチドを含むタンパク質を産生する任意の宿主細胞を使用してよい。宿主細胞型の代表的な例としては、細菌、酵母、植物、昆虫、及び哺乳動物の細胞が挙げられる。さらに、BA−05タンパク質又はBA−05キメラ蛋白質は、トランスジェニック動物で産生させてよい。形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞及びトランスジェニック動物は、分子生物学及び細胞生物学の当業者ならごく普通に利用できる材料及び方法を用いて得ることができる。宿主細胞は、BA−05タンパク質をコードする完全長遺伝子を含み、また、リーダー配列及びC末端の膜アンカー配列も含むことができる核酸配列を含んでよい。或いは、宿主細胞は、1つのリーダー配列を欠き、又はリーダー配列の双方を欠き、又はC末端の膜アンカー配列を欠き、又はこれらの配列の組合せを欠く、核酸配列を含んでよい。さらに、それぞれBA−05の生物活性を保持することができる、ポリペプチド断片、ポリペプチド変異体、又はポリペプチドのアナログをコードする核酸配列も、このような宿主発現系に内在していてよい。
【0106】
組換えタンパク質であるRhoアントガオニスト(antogaonist)は、当技術分野で公知の組換えタンパク質技術の方法に従って、作製することができる。本発明のタンパク質は、細菌細胞抽出物から、又は組換え技術の使用を通じて、調製し得る。本発明によるBA−05及び関連する融合タンパク質は、適切な発現ビヒクル又は発現ベクター中のBA−05をコードするDNA断片の全体又は一部分を用いて宿主細胞を形質転換することによって(例えば、トランスフェクションによって、トランスダクションによって、インフェクションによって)、作製することができる。適切な発現ビヒクルには、プラスミド、ウイルス粒子、及びファージが含まれる。昆虫細胞の場合、バキュロウイルス発現ベクターが適切である。当技術分野で公知の方法によって、発現ビヒクル若しくは発現ベクターの全体、又はその一部分を宿主細胞ゲノム中に組み込むことができる。一態様では、誘導性発現ベクターの使用が好ましい。
【0107】
分子生物学の分野の技術者には、組換えタンパク質を得るために、多種多様な発現系のうちの任意のものを使用できることが理解されよう。厳密な宿主細胞を使用することは、通常、本発明にとって重要ではない。例えば、BA−05融合タンパク質、並びに本発明のBA−05の機能的アナログ及び変異体及び断片を含む融合タンパク質は、原核宿主(例えば、大腸菌又は枯草菌)中でも、真核宿主(例えば、サッカロミケス属若しくはピキア属(Pichia);哺乳動物細胞、例えば、当技術分野でCOS、NIH、3T3、CHO、BHK、293、又はHeLa細胞と称される細胞;又は昆虫細胞)中でも、作製することができる。
【0108】
本発明の組成物の相対的且つ有効なRhoアンタゴニスト活性を決定するために、組織培養バイオアッセイ系を使用することができる。約0.01〜約10ug/mlの範囲の濃度のBA−05が有用であり、細胞に対して毒性ではない。
【0109】
BA−05は、37℃で少なくとも24時間、安定である。BA−05の安定性を組織培養で以下の実験を行って試験した。BA−05を組織培養培地中に希釈し、37℃インキュベーター中で24時間置き、次に、網膜神経節細胞を試験細胞型として用いる、本明細書で記述するバイオアッセイ系に加えた。これらの細胞は、C3で処理して37℃で24時間保存すると、阻害性の基板上で神経突起を伸ばすことができた。24時間の最低限の安定性は達成されている。
【0110】
化合物がRhoアンタゴニストであることを確認するための別の方法では、酵素活性を検出するための放射性アッセイを利用することができる。
【0111】
活性を検出するための別の方法では、酵素活性を検出するための蛍光アッセイを利用することができる。例えば、BA−05は、少なくとも2種の特有の酵素活性、即ちグリコヒドロラーゼ及びADP−リボシルトランスフェラーゼを有する。これらの酵素活性は、モノ−ADP−リボシル化に続いて作用し、グアニン−ヌクレオチド解離阻害因子−1(GDI−1)との複合体中にADP−リボシル化Rhoを閉じ込めることによって、GTP結合タンパク質RhoAを不活性化することができる。この反応の第1段階では、グリコヒドロラーゼ活性が、ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)分子中のニコチン酸アミド及びアデニンジヌクレオチドリン酸−リボース(ADP−リボース)の間のN−グリコシド結合を加水分解する。ADP−リボシルトランスフェラーゼによって触媒される第2段階で、ADP−リボース−RhoAが形成される。酵素アッセイでは、ADP−リボースの形成を追跡することによって、BA−05やBA−07など本発明の融合タンパク質のグリコヒドロラーゼ活性を測定することができる。
【0112】
一態様では、本発明は、製薬上許容される希釈剤又は担体と、治療有効量の本発明の組成物、好ましくは本発明の融合タンパク質とを含む、悪性の形質転換及び転移を抑制するのに有用な薬剤組成物を含む。
【0113】
一実施形態では、本発明の組成物は、本明細書で記述する薬物送達構築物、本明細書で記述する薬物複合体、及び本明細書で記述する融合タンパク質(例えば、製薬上許容される化学的等価物を含む)からなる群から選択される有効な構成要素を含み得る。
【0114】
本発明のBA−05及び他の組成物の製剤
本発明の組成物及び方法は、製薬上許容される担体、並びにポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を含み得る。一態様では、本発明の製剤に、多種多様の高分子の担体を使用してよい。高分子担体の代表的な例としては、そのいずれも場合によっては最大40%まで架橋することができる、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)(PVA)及びポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)としての部分的に加水分解されたポリ(エチレン−co−ビニル酢酸);低分子量のオリゴマー及び高分子量のそのポリマーを含めてポリ−D,L−乳酸;低分子量のオリゴマー及び高分子量のそのポリマーを含めてポリ−L−乳酸;ポリグリコール酸(PGA);乳酸とグリコール酸の共重合体;ポリカプロラクトン;ポリバレロラクトン;ポリ(無水物)、ポリカプロラクトンとポリエチレングリコールの共重合体;ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコール;並びにその組合せ及び混合物が挙げられる。共重合体は、約1重量%〜約99重量%の単量体単位を含み得る。第1のポリマー及び第2のポリマーの混合物は、約1重量%〜約99重量%の第1のポリマー、及び約1重量%〜約99重量%の第2のポリマーを含み得る。
【0115】
腫瘍拡大を阻止するためのBA−05の使用
抗新生物及び抗転移性の組成物など本発明の組成物は、様々な形態で調製することができる。例えば、一実施形態では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む治療有効量の細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物は、その融合タンパク質が、場合によっては水の存在下の(一実施形態では約0.1%〜約15%;或いは別の実施形態では水性媒体中に懸濁されたマイクロスフェア)製薬上許容される高分子担体、製薬上許容される緩衝塩、製薬上許容される表面活性剤、製薬上許容される糖質、製薬上許容される皮膚軟化剤などを含むマトリックスと混合され又はその中に吸収されている、マイクロスフェアを含み得る。
【0116】
別の実施形態では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む治療有効量の細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物は、パスタ剤、クリーム剤、軟膏剤、坐剤、製薬上許容される油中の懸濁剤などを含み得る。
【0117】
別の実施形態では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む治療有効量の細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物は、例えば、その融合タンパク質が、場合によっては、担体を架橋できる架橋剤類の存在下で、水溶性ゼラチン又は水溶性タンパク質又は高分子担体、或いはそれらの組合せなど製薬上許容される担体とともに配合され又は混合され、次いでその配合物が、場合によってはフィルムベース又は支持体若しくはマトリックスの存在下でフィルム又はラミネート中に塗られ、場合によっては加熱又は凍結乾燥によって、乾燥又は脱水されている、フィルム剤を含み得る。フィルム剤は単位剤形で調製することも、まとめて調製し、分割し切断して単位剤形にすることもできる。
【0118】
別の実施形態では、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む治療有効量の細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物は、場合によっては浸透圧調整剤を含む緩衝剤の水溶液など製薬上許容される液体中、並びに、37℃、雰囲気圧でそれぞれ気体である、二酸化炭素又はプロパン、或いは低分子量の過フッ化炭化水素若しくはフッ化炭化水素又はブロモフルオロ炭素若しくはクロロフルオロ炭素などの超臨界ガスや液化ガスなど製薬上許容される気体中における、融合タンパク質の懸濁液や溶液などのエアロゾル状又は噴霧可能若しくはエアロゾル化可能な組成物であって、例えば、吸入で、又は組織表面への噴霧塗布などのエアロゾルとして使用するのに適した組成物を含み得る。
【0119】
別の態様では、本発明の組成物は、BA−05などの融合タンパク質並びに追加の抗新生物性及び抗転移性の因子又は薬剤を含むように調製してよい。
【0120】
別の態様では、本発明の組成物は、調製される融合タンパク質製剤にいくつかの物理的諸特性(例えば、製薬上許容される可塑剤の組込みに関係する弾性、ポリエチレングリコールの使用などによる約30℃などの特定の融点、或いは、マトリックス中の架橋の程度若しくは水和速度、又はマトリックスの可溶化、又は、水などの液状担体がそれを通してマトリックス外部へ、また、哺乳動物の身体中の所望の部位中若しくはその表面に融合タンパク質を輸送するのを支援できるような細孔をマトリクッス中に残すことができる、マトリックスの1種の成分の優先的可溶化に関係している可能性がある、指定の放出速度)を与えるために、様々な追加の化合物を含むように調製してよい。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態では、所望の効果を実現するために、組成物を混合してよい(例えば、1種又は複数の抗新生物性及び抗転移性因子の速い放出と遅い放出の双方又は持続放出など、本発明の融合タンパク質の正味の放出速度の変更を実現するために、本発明のマイクロスフェアの2種以上の組成物を混合してよい)。
【0122】
BA−05を含むものなど本発明の組成物は、単独で投与しても、製薬上許容される担体、及び/又は製薬上及び生理的に適合性のある賦形剤、希釈剤、浸透圧調整剤、緩衝剤などと組み合わせて投与してもよい。このような担体は、投薬量と組み合わせて、使用される融合タンパク質が治療上有効となる濃度で使用される際、受容者に対して許容される程度に無毒性であることが好ましい。
【0123】
一態様では、本発明の薬剤組成物の調製は、治療有効量の本発明の融合タンパク質を、水;製薬上許容される緩衝塩又は緩衝液;アスコルビン酸など製薬上許容される抗酸化薬;1種又は複数の低分子量の製薬上許容されるポリペプチド(例えば、約2〜約10個のアミノ酸残基を含むペプチド);1種又は複数の製薬上許容されるタンパク質;ヒトの必須アミノ酸など1種又は複数の製薬上許容されるアミノ酸;グルコース、スクロース、ソルビトール、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、及びその組合せなど1種又は複数の製薬上許容される糖質又は糖質由来の物質(一態様では、これらの糖質は、(還元糖やアミノ酸又はペプチド若しくはタンパク質などの成分が相互に反応する際に起こる)メイラード反応の回避が望ましいとき、非還元糖など非還元性糖質を含むことが好ましく、或いは、別の態様では、これらの糖質は、メイラード反応が望ましいとき、還元糖など還元性糖質を含むことが好ましい);二価金属イオン(例えば、Ca+2、Fe+2など)や三価金属イオン(例えば、Fe+3、Y+3、Ln+3、Eu+3、及び他のランタニドなど、また、場合によっては放射性核種を含むことがある)などの金属イオンに対するキレート剤であるEDTAやDTPAなど製薬上許容されるキレート剤;グルタチオン;並びに、タンパク質物質の調製の技術分野で公知の他の安定化剤及び賦形剤などの担体のうちの1種又は複数の成分と混合することを含む。好ましい担体は、約6〜約8の範囲のpH、好ましくはpH約7.4の無菌の緩衝化生理食塩水、及び製薬上許容される非特異的な血清アルブミンと混合された生理食塩水を含む無菌の等張性組成物を含む。
【0124】
本発明の薬剤組成物は、無菌でも、滅菌可能でも、滅菌されていてもよい。好ましい滅菌方法は、無菌環境で薬剤組成物を0.2ミクロンのフィルターに通すろ過を含む。ろ過された無菌組成物を、好ましくは無菌の窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で、バイアル、好ましくは滅菌バイアルに、単位投与体積量又は単位投与量の整数倍で(例えば、2単位の投与量、3単位の投与量、4単位の投与量などとして)詰めることができ、場合によってはクリンプキャップとともに製薬上許容される栓を用いてこのバイアルに封をする。別の態様では、水の除去によって薬剤組成物を乾燥させた。例えば、バイアルに封をし、ふたをする前に、凍結乾燥又は蒸発などの乾燥工程により各バイアルから水性媒体を除去して、本発明の融合タンパク質を含む乾燥又は脱水されたマトリックスを得ることができる。別の態様では、担体は、例えば、製薬上許容される非還元性の糖質など、融合タンパク質と適合性がある製薬上許容されるマトリックス形成物質又は賦形剤の無菌又は滅菌可能な高浸透圧溶液を、本発明の化合物又は融合タンパク質とともに含み得、この高浸透圧溶液をバイアルに入れ、(例えば、凍結乾燥によって)乾燥させて融合タンパク質及び形成賦形剤を含むマトリックスを得ることができ、このマトリックスを、キャップの付いたバイアル中に密閉することができる。使用前に、バイアル、例えばバイアル用滅菌シリンジ又はカニューラに滅菌水を加えることができ、この水がマトリックスを溶解させて、融合タンパク質の溶液又は懸濁液を与えることになる。十分な水を加えて、注射用途又は埋め込み用途に適した等張性溶液として復元された溶液又は懸濁液を得ることができる。
【0125】
治療を必要とする患者などの哺乳動物に様々な異なる経路で投与するのに適するように、本発明の薬剤組成物を調製することができる。投与の好ましい経路としては、例えば、関節内(intrarticular)投与、眼内投与、鼻腔内投与、神経内投与、皮内投与、骨内投与、舌下投与、経口投与、局所投与、膀胱内投与、包膜内投与、静脈内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入若しくは噴霧化及び吸入、或いは腫瘍若しくは疾患部位へ、又は腫瘍切除後に残存する辺縁の表面若しくはその中への直接塗布が挙げられる。他の代表的な投与経路は、場合によっては胃鏡検査処置及び結腸鏡検査を併用する経腸投与を含む。これらの各検査は、外来処置とすることができ、完全な手術室処置及び長期入院を必要としないが、医療従事者の存在を必要とすることがある。
【0126】
本明細書で提供される薬剤組成物は、それらの物質の使用に関する取扱い説明書を提供する包装資材とともに、容器に入っていてよい。一般に、このような取扱い説明書は、活性な薬剤の濃度、さらに、いくつかの実施形態では、賦形剤成分又は希釈剤(例えば、水、生理食塩水、若しくはPBS)の相対量又はアイデンティティの記載を含むと考えられる。さらに、水を加え、場合によっては振とう又は音波処理も行って、抗新生物性及び抗転移性の組成物又は薬剤組成物を薬剤として許容される溶液又は懸濁液に復元させることが必要となることがもある。
【0127】
本発明の薬剤組成物は、多種多様な外科処置で利用することができる。例えば、本発明の一態様では、(例えば、液剤若しくは懸濁剤、又は霧状若しくはエアロゾル状又はスプレー状の形態で塗布するのに適した散剤の形態の、或いはフィルム中に塗布された)薬剤組成物を、第1の腫瘍などの腫瘍、また、場合によっては、腫瘍のすぐ近くのいくらかの正常組織を組織部位から外科的に除去する前、間、又は後に、治療を必要とする患者の組織部位表面に、(噴霧可能な形態又はエアロゾルを形成する形態を)噴霧することにより、又は(フィルムを)貼り付けることにより、塗布することができる。この際の除去では、組織部位中の腫瘍(腫瘍辺縁)の切除部位周辺に正常組織の辺縁が残されている。一態様では、この処置により、患者の第1の腫瘍の切除後の、正常な周辺組織中での第2の腫瘍の転移性増殖を防止し、又は実質上、遅らせ若しくは抑制することができる。別の態様では、この処置により、疾患(例えば、癌)の周辺組織への拡大を防止することができる。本発明の他の態様では、(例えば、スプレー又はエアロゾルの形態の)本発明の薬剤組成物を、内視鏡的処置を介して送達させることができる。この場合、組成物を患者の体内に噴霧又はエアロゾル投与して、患者体内の腫瘍並びに/又は腫瘍の周辺組織及び近くの組織上に本発明の融合タンパク質を含む被膜を施し、その際、内視鏡的手段によって腫瘍に近づき、又は可視化する。別の態様では、腫瘍の近く又は腫瘍切除部位の近くの組織上に薬剤組成物の被膜を施すことにより、薬剤組成物で被覆された組織領域での血管新生を抑制することができる。
【0128】
本発明のさらに他の態様では、外科用のメッシュ、ワイヤー、ステント、補綴具など埋め込み可能な装置の表面を本発明の薬剤組成物で被覆して、被覆された装置を作ることができる。この被膜は、本発明の融合タンパク質及び場合によっては高分子担体を含み、被覆された装置を、癌性又は良性腫瘍の外科的切除などの外科的治療の一環として、患者の組織又は臓器中に埋め込むことができる。この際、薬剤組成物は、装置位置の近くの第2の腫瘍の増殖を防止若しくは抑制又は延期若しくは遅延させることができ、また、別の態様では、埋め込まれた装置部位から離れた組織又は臓器中での第2の腫瘍の増殖を防止若しくは抑制又は延期若しくは遅延させることもできる。融合タンパク質の濃度は、装置上の被膜を構成する担体の重量の0.01%〜約20%でよく、被膜の厚さは、約20マイクロメートル〜約1ミリメートルでよい。被覆装置の技術分野で公知の被覆手段によって、被膜を塗布することができる。例えば、溶媒を含む液体若しくは流体中の液剤として、又は液体若しくは流体中の懸濁剤としての薬剤組成物が、装置の表面に噴霧され又はエアロゾル化して散布され、この液体若しくは流体は、塗布の最中又は塗布後にスプレー又はエアロゾルとして蒸発することができる、スプレー又はエアロゾル塗布具を用いて、本発明の薬剤組成物を含む被膜を装置の表面に塗布することができる。場合によっては、被覆された組成物は、オレフィン、無水物基、若しくは活性エステル、又は、担体タンパク質などのタンパク質又はペプチド又はゼラチンのアミンと反応することができる、カルボニル基と結合した炭素−炭素2重結合などのマイケル反応アクセプターなど反応性の化学官能基を含んでよく、この反応性の化学官能基は、化学的に又は光化学的に担体中で架橋結合を形成することができ、この架橋結合は、装置が埋め込まれる組織中の水性流体による、被覆された担体の可溶化を防止し、或いは、(反応性官能基の濃度、又は被覆装置の紫外線若しくはガンマ線照射などの架橋条件への曝露時間に応じての)その膨張を制限又は変更又は制御することができる。膨張の制御は、本発明の融合タンパク質が装置から装置の近くの組織中へ、さらには患者の体内へと移動する速度を制御するのに役立つ。融合タンパク質の生物活性が無効にされ又は消されない限りは、当技術分野で公知の多種多様の化学架橋が、本発明のこの態様において有用となり得る。有機溶媒又は超臨界流体又は液化ガスが被覆工程で使用される場合は、埋め込み部位の近くの組織中に存在する水性媒体にすぐには溶解しないが融合タンパク質の水性媒体中への浸透を許容する、製薬上許容される担体を選択することができる。
【0129】
組成物の浸漬被覆、本発明の薬剤組成物の塗布、カーテン塗布、及びラミネーションなど他の被覆方法も使用することができる。
【0130】
一実施形態では、第1の被覆層又は下塗り層で、装置表面を初めに被覆してよく、その後に続いて第2の被膜としての本発明の薬剤組成物で被覆する。下塗り層は、金属性又はポリマー性の装置の表面に接着し、且つ、第2の被覆層の担体に接着するものを選択することができる。下塗り層は、(例えば、下塗り層のポリマーに結合することができる)固定化された化学官能基も含むことができ、第2の層との間に架橋結合を形成することができる。下塗り層は、第2の層へと移動し、その場所で化学官能基と反応して、架橋分子の橋を形成させることができる、例えば2つ以上の反応性官能基を含む比較的可動性の分子を場合によっては含み得る。
【0131】
他の実施形態では、場合によっては融合タンパク質を含まない、製薬上許容される第3の層を第2の層に上塗りすることができる。第3の層は、本発明の薬剤組成物を含む第2の層を組織由来の水性媒体に曝露させる時間に応じて、例えば、溶解若しくは膨張し、又は水若しくは融合タンパク質に対する透過性を増大させることができることにより、装置からの融合タンパク質の放出速度を制御又は変更する働きをすることができる。
【0132】
本発明の一実施形態では、ワイヤー又はポリマーメッシュの表面に塗られた本発明の薬剤組成物を含む外科用メッシュ装置を、患者に対する腹腔内癌切除の外科処置の間などに(例えば、結腸切除の後に)、残存する組織構造を支持するために、患者に使用し又は埋め込むことができる。被覆されたメッシュ装置は、被覆装置の埋め込み部位の近くでの第2の腫瘍の増殖を防止することによって癌の再発を防止するのに十分な、薬剤組成物の治療有効量の有効成分(BA−07など)を放出することができる。融合タンパク質は、装置近くの組織中で治療上有効な範囲の濃度を生じるのに十分な速度で、装置から移動することができる。
【0133】
一般に好ましい濃度範囲は、組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質であり、有用となり得る。一般により好ましい治療上有効な濃度の範囲は、組織1cc当たり約0.001マイクログラム〜約50マイクログラムである。
【0134】
別の実施形態では、被覆されたメッシュ装置は、被覆装置の埋め込み部位から離れた第2の腫瘍の増殖を防止することによって癌の再発を防止するのに十分な、薬剤組成物の治療有効量の有効成分(BA−07など)を放出することができる。
【0135】
本発明の別の態様では、癌の第2の腫瘍の再発、及び第1の腫瘍辺縁の残存組織部位での新しい血管の形成が抑制されるように、第1の腫瘍の切除後に、癌の第1の腫瘍の切除辺縁にある残存組織に本発明の薬剤組成物を投与することを含む、患者の第1の腫瘍の切除辺縁(腫瘍切除部位)に残された残存組織部位を治療する方法が提供される。本発明の一実施形態では、BA−07を含む薬剤組成物など本発明の薬剤組成物は、腫瘍切除部位の残存組織に直接投与される(例えば、綿棒による塗布、刷毛による塗布、塗布、噴霧、エアロゾル投与、注射、洗浄、浸漬、又は他の方法としては、腫瘍の切除辺縁を薬剤組成物で被覆することによって、適用される)。或いは、外科用のパスタ剤、軟膏剤、クリーム剤、懸濁剤、ゲル剤などの形のBA−07を含む薬剤組成物など本発明の薬剤組成物も、組織表面に塗布することができる。
【0136】
本発明の好ましい実施形態では、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物は、悪性腫瘍が原因の肝臓切除後など肝臓の腫瘍切除部位の残存組織に適用される。
【0137】
本発明の別の好ましい実施形態では、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物は、(例えば、脳腫瘍の切除に関係した)神経外科手術の後に適用される。
【0138】
本発明の一態様では、例えば、乳房、結腸、脳及び肝臓の腫瘍を含めて、多種多様の腫瘍の腫瘍切除辺縁の残存組織に、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物を投与してよい。例えば、本発明の一実施形態では、残存組織中への癌細胞の拡大及び第2の腫瘍の形成、並びに第1の腫瘍の残存する辺縁部位の組織中での新しい血管の形成が抑制されるように、第1の腫瘍の切除後に、神経系の癌の第1の腫瘍の切除部位近くの残存組織に、BA−05などの融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物を投与してよい。
【0139】
脳の機能は高度に局在化されている。即ち、各特定の解剖領域は、ある特定の機能を実行するように特殊化されている。患者の脳内の癌の位置(及び脳病変)は、組織のタイプ又は腫瘍のタイプよりも重要となり得る。脳の重要な領域中の比較的小型の腫瘍又は病変の方が、脳の比較的重要性が低い領域中のより大型の病変よりも、はるかに破壊的となり得る。脳表面の病変は、外科的に切除するのが比較的容易となり得るが、一方、同程度のサイズではあるが脳の深部に位置する腫瘍は、深部腫瘍への接近は、深部腫瘍に到達又は接近し、また、除去するために、多くの生体構造を切り開くことによるものなど介在する組織の破壊(distruption)を必要とし得るため、外科的に切除するのが比較的容易ではない可能性がある。さらに、脳中の良性腫瘍も、患者に危険を及ぼし得る。良性腫瘍は、重要な領域で増殖し、周囲の脳組織及び機能に著しい損傷を引き起こすことがある。良性腫瘍は、外科的切除によって治癒させることができるが、深部組織からの腫瘍の切除は可能ではないことがある。阻止されないままの場合は、良性腫瘍は、増殖し、体積を増し、頭蓋内圧力の上昇を引き起こし得る。このような状態を処置しないままにした場合、脳の生体構造が圧迫される可能性があり、結果として患者が死亡することがある。CNS(Central nervous system)(中枢神経系)悪性腫瘍の発病率は、10万人当たり約8〜16例である。脳の原発性悪性腫瘍の予後は極めてひどく、生存期間中央値は、外科的切除後でさえ、1年未満である。脳腫瘍、特に神経膠腫は、主に局所性疾患であり、外科的切除後に、疾患の初めの病巣から約2センチメートルの範囲内で再発することがある。
【0140】
本明細書で記述する組成物及び方法を利用して治療することができる脳腫瘍の代表的な例としては、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下細胞腫、脈絡叢乳頭腫などの神経膠腫;神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、及び髄芽細胞腫などの神経腫瘍;松果体芽細胞腫や松果体細胞腫などの松果体腫瘍;髄膜腫、髄膜血管周囲細胞腫、髄膜肉腫などの髄膜腫瘍;シュワン腫(神経鞘腫)や神経線維腫など神経鞘細胞の腫瘍;ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、非ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型(また、これらの多数の亜型の原発性と続発性の双方を含む)などのリンパ腫;頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、類皮嚢胞、及びコロイド嚢胞などの奇形性腫瘍;並びに、ほぼすべての腫瘍に由来し得、最も一般的には肺、乳房、黒色腫、腎臓、及び消化管の腫瘍に由来する、脳内に位置する転移性腫瘍が挙げられる。
【0141】
本発明の一実施形態では、本発明の薬剤組成物の単位投与量を、局所的に又は局所投与によってなど、局部に適用してよい。このような投与は、本発明の融合タンパク質(BA−07など)の単位用量の約10%以下、好ましくは約1%以下しか患者の血流に直接入らないようにして、表皮の外側部分に薬剤組成物を投与すること、口腔内での局所投与に曝露される組織へ局所投与すること、並びに、目、耳、及び鼻の露出した組織への局所的点滴を含み得る。
【0142】
本発明の別の実施形態では、血管又はリンパ管への注射、例えば静脈注射などによって、本発明の薬剤組成物を全身に投与してよい。
【0143】
投与のさらなる形態には、腹腔内、皮下、筋肉内、直腸(例えば、坐剤として)、膣(例えば、膣坐剤として)、並びに経口の送達が含まれる。本発明の剤形は、本発明の融合タンパク質を含むデポー剤の役割を果たすことができ、この融合タンパク質は、デポー剤の部位近くの組織中へ移動することができる。
【0144】
局所投与で使用するための組成物には、例えば、クリーム剤、リニメント剤(例えば、摩擦によって皮膚に塗布される)、ローション剤、油剤、軟膏剤、パスタ剤、及び目、耳、鼻などの器官の組織への送達に適した滴剤など好ましくは皮膚を通しての浸透に適した液状又はゲル状調製物が含まれる。
【0145】
本発明の一実施形態では、融合タンパク質の分子量は、約240,000ダルトン〜約300,000ダルトンでよい。
【0146】
別の実施形態では、本明細書で提供される組成物を、厚さ100マイクロメートル〜2ミリメートルのフィルム、又はある温度(例えば約25℃より高い温度)で液体であり、(例えば、25℃より低い温度で)固体若しくは半固体である、熱科学的に活性な組成物に作ってもよい。
【0147】
本発明の別の態様では、悪性腫瘍切除部位に残存する残存組織を治療するための方法であって、癌の局所的な再発及びその部位での新しい血管の形成が抑制されるように、患者からの腫瘍の切除後に、患者の残存する腫瘍切除辺縁に、BA−05などの融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物を投与することを含む方法が提供される。
【0148】
本発明の別の態様では、腫瘍切除部位を治療するための方法であって、癌の局所的な再発及びその部位での新しい血管の形成が抑制されるように、切除後に、BA−05を含む組成物を腫瘍切除辺縁に投与することを含む方法が提供される。
【0149】
本発明の別の態様は、容器及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;密封バイアル及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;滅菌シリンジ及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;本発明の薬剤組成物を含む滅菌シリンジを備えたキット;スプレー又はエアロゾル塗布具及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;刷毛塗布具及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;カニューラ及び本発明の薬剤組成物を備えたキット;粉体塗布具及び本発明の薬剤組成物を備えたキット(粉体塗布具を使用して、組織に局所投与する際に乾燥させた(例えば凍結乾燥させた)粉末を散布塗布することにより、本発明の医薬品剤形を粉末として投与することができる);埋め込みによって投与される、埋め込み可能な被覆装置及び本発明の薬剤組成物を備えたキットなど、いくつかの部分からなるキット中に、本発明の薬剤組成物を含む。
【0150】
例えば、Rhoシグナル伝達を抑制するBA−05などの融合タンパク質を1つの容器中に含み、また、腫瘍の外科的切除後に腫瘍腔の壁を形成する組織にBA−05などの融合タンパク質を塗布するため、又は、例えば悪性黒色腫の切除後に、皮膚に塗布するために使用される、シリンジ、道具、刷毛、又は塗布装置(スプレー又はエアロゾル塗布装置など)などの装置を第2の容器中に含む、医薬製品が提供される。
【0151】
本発明による薬剤組成物、方法、及びその使用は、哺乳動物に適用されるものとする。いくつかの実施形態では、哺乳動物という用語はヒトを含むものとするが、別の実施形態では、哺乳動物という用語はヒト以外の哺乳動物を意味するものとする。
【0152】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、関連した詳細な説明及び添付図を参照すると、明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0153】
本発明に関連する手順、装置、又は組成物をより詳細に記載している、本明細書で示すすべての参考文献は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
BA−05など本発明の融合タンパク質を作製するための方法
BA−05は、融合性の19−merペプチドにC3をコードするcDNA配列を連結することによって作製される本発明のタンパク質に与えられる名称である。本発明の融合タンパク質を作製するための方法を示すために、C3ポリペプチドのC末端に付加されるアンテナペディア配列の例を使用することができる。
【0154】
DNA配列の3’末端の停止コドンは、プライマー5'GAA TTC TTT AGG ATT GAT AGC TGT GCC 3'(配列番号1)及び5'GGT GGC GAC CAT CCT CCA AAA 3'(配列番号2)を用いるポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)(polymerase chain reaction)により、EcoR I部位で置き換えることができる。PCR生成物は、pSTBlue-1ベクター(Novagen社製、シティ(city))中にサブクローニングし、続いて、BamH I及びNot I制限酵素部位を用いてpGEX-4Tベクター中にクローニングすることができる。このベクターは、pGEX-4T/C3と呼ぶことができる。pGEX-4T/C3中のC3の3’末端に付加するのに有用なアンテナペディア配列は、PCRによってpET-3aベクターから作製し(Bloch-Gallego (1993) 120: 485-492、及びDerossi (1994) 269: 10444-10450)、これをpSTBlue-1平滑末端ベクター中にサブクローニングし、次いで制限酵素部位EcoR I及びSal Iを用いてpGEX-4T/C3中にクローニングして、pGEX-4T/C3APLを作製することができる。
【0155】
本発明によって最も良い反応を起こす配列についてDNA配列解析を実施することができる。
【0156】
pGEX-4T/C3APLクローン(配列番号3)は、一般に好ましい配列であり、本発明の好ましい組成物であるタンパク質を提供する。
【0157】
C3様融合タンパク質の例は、pGEX-4T/C3APLT(配列番号4)で表される。
【0158】
一連の組換え構築物(BA−05)をpETシステム中に導入するために2種のPCRプライマーが設計される。即ち、上流プライマー:5' ggatctggttccgcgtcatatgtctagagtcgacctg 3'(配列番号38)、下流プライマー:5' cgcggatccattagttctccttcttccacttc 3'(配列番号39)である。
【0159】
配列番号39の5’末端のBamH I部位は、ggatccattaであり、TGAは、TAAT(配列番号39中のatta)によって置き換えられる。
【0160】
Pfuポリメラーゼを用いて生成物を増幅するのに有用なプログラムは、95℃、5分を1サイクル、次いで94℃で2分→56℃で2分→70℃で2分を10サイクル、次いで94℃で2分→70℃で3分を30サイクル行い、4℃で維持することを含む。QIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて、所望のDNAバンドを含むアガロースゲル切片を精製することができる。製造業者の取扱い説明書に従って、BamH I及びNde Iで挿入物及びベクターを消化し、アガロースゲル電気泳動及びQIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて精製し、製造業者の指示書に従ってT4DNAリガーゼと一緒に一晩インキュベートする。
【0161】
大腸菌(DH5alpha、又は好ましくは、XL1-Blue)を、ライゲーション混合物で形質転換する。クローンは、小規模な導入及びSDS−PAGEによって検査することができ、また、抗C3抗体を用いた粗製の溶解物のイムノブロッティングによって確認することができる。プラスミドDNAを精製して、その純度を評価することができる。(例えば、完全長のクローンを得るために鎖全体を配列決定するLiCorを用いた技術によって)、DNA配列決定を実施することができる。
【0162】
このようにして調製した第1の構築物(pET3a-BA-07、配列番号7)は、5側に少し変化があるものの、構築物pGEX/APLTの理論上のDNA配列に合致した。
【0163】
製造業者の取扱い説明書に従い、pET3a構築物をBamH I及びNde I(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)で切断することにより、pET3a-BA-07に由来する挿入断片をpET9aベクターにサブクローニングすることによって、第2の構築物、即ちpET9a-BA-07を調製することができる。同じ酵素でpET9aプラスミドDNAを切断することができる。アガロースゲル電気泳動によって、挿入DNA及びベクターDNAを精製することができる。T4 DNAリガーゼ(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)を用いて、新しいベクター中に挿入断片を連結することができる。連結されたDNAをDH5alpha細胞中に形質転換させ、QIAGENmini及びmaxiキットを用いてDNAを調製することができる。制限酵素消化及び双方向からの挿入断片のDNA配列決定によって(例えば、BioS&T社製、ケベック州、ラシーン)、クローンの特徴を決定することができる。BL21(DE3)細胞及びBL21(DE3)/pLysS細胞中に構築物DNAを形質転換させることができる。
【0164】
pET9a-BA-07タンパク質発現(配列番号57)は、BL21(DE3)/pLysSと比べて、BL21(DE3)での方が優れている。
【0165】
本発明のタンパク質は、細菌細胞抽出物から、或いは、適切な発現ヒビクル中のアンテナペディア由来の輸送配列を含む融合タンパク質コードDNA断片(BA−05をコードするDNA断片など)の全体又は一部分を用いて宿主細胞を形質転換、トランスフェクション、又はインフェクションすることによる組換え技術を使用して、調製することができる。
【0166】
分子生物学の分野の技術者なら、本発明の組換えタンパク質を得るために、多種多様な発現系のうちの任意のものを使用できることが理解されよう。厳密な宿主細胞を使用することは、通常、本発明にとって重要ではないが、ある宿主細胞のタイプと別のものでは収量が異なることが予想される。
【0167】
親和性精製技術や、荷電、サイズ、及び疎水性などの諸特性に基づいて分子を分離させる樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーなど当技術分野で公知のタンパク質精製技術を利用することによって、融合タンパク質を精製することができる。有用な親和性技術には、発現される融合タンパク質に特異的な抗体(例えば、GST)を使用するものなどが含まれる。ヒスチジン標識されたタンパク質は、イミダゾール含有緩衝液で選択的に溶離させることができる。或いは、免疫グロブリンのFcドメインに組換えタンパク質を融合させることもできる。このような融合タンパク質は、タンパク質Aカラムを用いて容易に精製することができる。
【0168】
これらの技術のいずれも、タンパク質精製を専門とする市販の液体クロマトグラフィー機器を使用することにより、優れた再現性及び高生産性を与えるように自動化及び最適化することができる。前述のアンタゴニストの低分子、ペプチド、又は他の模倣体も本発明に包含されることが予見される。
【0169】
BA−05など本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物の生物活性評価
Rho不活性化の変化
BA−05及びBA−07のRhoを不活性化する能力は、細胞培養アッセイによって実証することができる。このアッセイでは、使用が予定される条件下で組織培養物の上に癌細胞系を播く。例えば、NG108細胞を播き、セミコンフルエントになるまで増殖させることができる。NG108は、センダイウイルスの誘導による、マウス神経芽細胞腫クローンN18TG−2とラット神経膠腫クローンC6BU−lとの融合によって形成された、神経芽細胞腫と神経膠腫の交雑体である。次に、これらの細胞を採取し、ホモジナイズし、Rhoのプルダウンアッセイを実施する。ブルダウンアッセイでは、活性なRhoに結合する「ベイト」を使用する。本発明者らのアッセイでは、本発明者らは、例えば、ロテキン(Rhoteckin)に由来するRho結合ドメイン(RBD)を使用することができる。Rhoキナーゼなど他のタンパク質も使用することができる。「ベイト」は、ホモジネートから沈殿させることができるように、ビーズに連結されている。RBDは、ホモジネート中のGTP−Rhoに結合し、GDP−Rhoには結合しない。このようにして、細胞培養物中の活性Rhoを定量的に評価することができる。BA−07が細胞系中のRhoを不活性化する程度は、ブルダウンアッセイを実施する前に細胞系の細胞サンプルを処理することによって示すことができる。
【0170】
プルダウンアッセイを用いて、固形腫瘍中の活性Rhoの量を決定することができる。腫瘍検体を緩衝液中でホモジナイズし、プルダウンアッセイを実施し、GTP Rhoの量を非癌性組織中でみとめられる量と比較することができる。活性Rhoを検出するこのアッセイは、高度に活性化されたレベルのRhoを有する細胞を含み、本発明に従って、例えばBA−07治療法に反応し得る腫瘍の診断法として使用することができる。活性化されたRhoの測定は、ただRhoの発現レベルを検査するよりも、感度がより高くなり得る。
【0171】
in situなブルダウンアッセイを用いて、組織切片中のGTP−Rhoを検出することができる。このアッセイでは、腫瘍検体の凍結切片(それぞれ厚さ約16μm)を、4%PFAで後固定した後、RBG−GSTを含有する細菌溶解物とともに4度で一晩インキュベートする。次に、切片をTBS中で3回洗浄し、室温で約1時間、3%BSA中でブロックし、抗GST抗体(Cell signalling社製、New England Biolabs社、カナダ、ミシソーガ)及び特異的な細胞を特定するための細胞型に特異的な抗体とともにインキュベートし、4℃で一晩インキュベートする。TBS中で切片を洗浄し、FITC、テキサスレッド(Texas Red)、又はローダミン(Rhodamine)を結合させた二次抗体(Jackson Immuno Research社製、カナダ、ミシソーガ)とともに室温で2時間インキュベートして、免疫反応性を明らかにする。
【0172】
BA−05のDNA及びタンパク質配列の詳細
本発明において、BA−05と呼ぶ有用な融合タンパク質は、従来のG、A、T、及びCを用いた命名法によってここに示す以下のDNAコード配列を有する。本発明のオリゴヌクレオチド配列において、記号G、C、A、及びTは、従来の意味を有する。
[配列56]

pGEX-4TBA-05タンパク質コード配列
[配列37]


BA−07の作製に有用なプライマー1:
[配列38]

BA−07の作製に有用なプライマー2:
[配列39]

pET9a-BA-07DNAコード配列
pET9a-BA-07タンパク質配列
[配列57]


アミノ酸残基は、ペプチドの内部に位置しているときは、基−NH−CR−CO−を含む。この残基は、対応するアミノ酸NH−CR−COOH(式中、R及びRは、アミノ酸の中心炭素に位置してアミノ酸の残りの部分を構成する置換基である)から形成され、HOを失うことにより、他のアミノ酸との間にアミド又はペプチド結合、即ち窒素で1つ、カルボン酸カルボニルで1つを形成する。ペプチドのN末端アミノ酸残基は、基NH−CR−CO−(式中、カルボニルは、そのペプチド中の別のアミノ酸とペプチド結合によって結合されている)を含む。ペプチドのC末端アミノ酸残基は、基−NH−CR−COOH(式中、窒素は、そのペプチド中の別のアミノ酸とペプチド結合によって結合されている)を含む。
【0173】
本発明のペプチド及びタンパク質配列に存在し得るアミノ酸残基を、当技術分野で一般に使用される3文字の記号又は1文字の記号で呼ぶことがある。これらのコードは以下のものを含む:Gly又はGとしてのグリシン;Ala又はAとしてのアラニン;Val又はVとしてのバリン;Leu又はLとしてのロイシン;Ile又はIとしてのイソロイシン;Met又はMとしてのメチオニン;Phe又はFとしてのフェニルアラニン;Trp又はWとしてのトリプトファン;Pro又はPとしてのプロリン;Ser又はSとしてのセリン;Thr又はTとしてのトレオニン;Cys又はCしてのシステイン;Tyr又はYとしてのチロシン;Asn又はNとしてのアスパラギン;Gln又はQとしてのグルタミン;Asp又はDとしてのアスパラギン酸;Glu又はEとしてのグルタミン酸;Lys又はKとしてのリシン;Arg又はRとしてのアルギニン;及びHis又はHとしてのヒスチジン。当技術分野で公知のペプチド合成法によって、或いは、(リシンのイプシロンアミン基を、カルボニル基を含む活性エステルと反応させて、イプシロンアミンとカルボニル基の間に結合を形成させることによるものなどの)アシル化、アルキル化、尿素形成、ウレタン形成、並びに、疎水基(例えば、C1〜C18のアルキル及び/又はアラルキル。飽和されていても、不飽和でも、プロリンアミドなどの炭素環基を含むものでもよい)を含む化学官能基をペプチド鎖に付加するための方法、四級アンモニウムアルキル基などの陽性荷電基、若しくは癌患者でみとめられるpHでプロトン化され得る塩基性アミノ基、又はその双方を付加するための方法などの化学修飾によって、必須アミノ酸ではない他のアミノ酸を誘導することができる。
【0174】
本発明のペプチド及びタンパク質においては、比較的非極性且つ疎水性のアミノ酸残基は、G、A、V、L、I、M、F、W、及びPを含み得;比較的極性且つ親水性のアミノ酸残基は、S、T、C、Y、N、及びQを含み得;陰イオン性且つ親水性のアミノ酸残基はD及びEを含み得、その際、D及びEのそれぞれにおいて、カルボン酸官能基は脱プロトン化された形で陰イオン性のカルボキシラートとして存在することができ;陽イオン性且つ親水性のアミノ酸残基は、塩基性のイプシロン第一級アミノ基が、プロトン化された形で陽イオン性のアンモニウム基として存在し得るK、イミダゾール窒素がプロトン化された形で存在してイミダゾリウムカチオン基を提供し得るH、及びプロトン化されたアミダート基を含み得るRを含み得る。
【0175】
本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物の抗転移性の性質
一態様では、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物は、例えば、注射によって、又は本明細書で説明する被覆法や他の方法によるものなど局所投与によって、治療を必要とする哺乳動物の第1の腫瘍の近くの又はそれを含む組織に投与することができ、その哺乳動物の第1の腫瘍部位に由来する哺乳動物の転移性腫瘍細胞が、第1の腫瘍が存在する組織に機能的に関係があり、その近くにある哺乳動物の健常又は正常な組織中の部位へ遊走するのを抑制することができる。例えば、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を、哺乳動物の腎臓腫瘍の近くの又はそれを含む腎臓組織に投与することができ、腎臓の腫瘍に由来する転移性の腎臓腫瘍細胞が、第1の腫瘍が存在する同じ腎臓の健常組織へ遊走するのを抑制することができる。
【0176】
別の態様では、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物は、例えば、注射によって、又は本明細書で説明する被覆若しくは他の方法によって、治療を必要とする哺乳動物の第1の腫瘍の近くの又はそれを含む組織に投与することができ、その哺乳動物の第1の腫瘍部位に由来する哺乳動物の転移性腫瘍細胞が、第1の腫瘍が存在する組織から機能的に分離され、その遠くにある哺乳動物の健常又は正常な組織又は器官中の部位へ遊走するのを抑制することができる。例えば、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を、脳腫瘍を含む脳組織に投与することができ、転移性の脳腫瘍細胞が、肝臓、脾臓又は肺組織など身体の別の場所の健常組織に遊走するのを抑制することができる。
【0177】
別の態様では、治療を必要とする患者に本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を投与した後、悪性腫瘍細胞の転移性の遊走を防止又は抑制し、続発性腫瘍の形成を実質上低減させ又は完全に防止することができ、また、患者の悪性癌の拡大を防止することができる。
【0178】
BA−07など本発明の融合タンパク質が細胞運動性を低減させ得ることの証明
本発明の融合タンパク質(BA−05など)を含む薬剤組成物の抗転移性薬剤としての治療有効性は、例えば、定量的に、in vitroな2次元の細胞浸潤アッセイを用いて実証することができる。このようなアッセイの1つでは、購入したボイデンチャンバーを使用して、悪性細胞の転移性の遊走能力の抑制を測定することができる。ボイデンチャンバーは2区画を有し、上側の区画と下側の区画は、膜で分けられている。上側の区画に総数の細胞を播き、下側の区画に遊走するその総数の細胞の一部分を計数することによって、細胞遊走の程度を測定する。細胞遊走を増進するために、下側の区画に増殖因子を添加してよい。このモデルは、哺乳動物のin vivoの癌細胞遊走のモデルとして有用である。本発明の融合タンパク質(哺乳動物の血液に等張な無菌リン酸緩衝生理食塩水に溶かしたBA−07など)を含む薬剤組成物が腫瘍細胞の遊走を阻止する能力を試験するために、様々なBA−07濃度で、上側の区画の癌細胞にBA−07を含む組成物を添加する。融合タンパク質組成物の存在下で下側の区画に遊走する総数の細胞の一部分を計数し、融合タンパク質の濃度が0である対照と比較する。対照実験で遊走する癌細胞の数は、本発明の組成物で処置されない癌患者におけるそのような遊走のモデルとなる。一定量の本発明の組成物の存在下で遊走する癌細胞の数は、一定量の本発明の組成物で処置される癌患者におけるそのような遊走のモデルとなる。後者と対照実験の細胞遊走数の差は、パーセントで表現することができ、100%(即ち、転移性細胞の遊走の完全な抑制)〜約5%、好ましくは100%〜約50%、より好ましくは約100%〜約75%、最も好ましくは約100%〜約90%の範囲をとり得る。第1の溶媒対照を、第1の溶媒対照と同じものでよい第2の溶媒対照と比較するとき、0%の値が観測され得る。このパーセントの計算は、次の式、即ち{(対照における遊走細胞数−融合タンパク質存在下での遊走細胞数)/(対照における遊走細胞数)}×100%を解くことによって与えられる。
【0179】
本発明の融合タンパク質(BA−05など)を含む薬剤組成物の抗転移性薬剤としての治療有効性は、少なくとも定量的に、また、一態様ではin vitroな3次元の細胞浸潤アッセイを用いて実証することができる。このようなアッセイの1つでは、担体溶媒中に本発明の融合タンパク質を含む本発明の薬剤として許容される調製物でその細胞を処理した後に「MATRIGEL(登録商標)」マトリックスを通過して遊走するある悪性細胞の相対的な能力が、融合タンパク質を含まない参照用対照としての担体溶媒で処理した後に「MATRIGEL(商標)」マトリックスを通過して遊走するその悪性細胞の能力と比べて変化することによって、悪性細胞の転移性の遊走能力の抑制を測定することができる。一態様では、本発明の融合タンパク質は、組織マトリックスモデルにおける転移性腫瘍細胞の遊走を抑制して、細胞の遊走速度の低下として又はある一定期間での細胞遊走距離の低減として阻害性の変化を与えることができる。
【0180】
モデルのマトリックスを通過する悪性細胞の遊走距離の変化率は、溶媒に加えて融合タンパク質が存在する場合の細胞の遊走距離と、融合タンパク質を含まず溶媒対照が存在する場合の細胞の遊走距離との差を、溶媒対照での遊走距離で割った値に等しい。変化率は、パーセントで表現することができ、100%(転移性細胞の遊走の完全な抑制)〜約5%、好ましくは100%〜約50%、より好ましくは約100%〜約75%、最も好ましくは約100%〜約90%の範囲をとり得る。第1の溶媒対照を、第1の溶媒対照と同じものでよい第2の溶媒対照と比較するとき、0%の値が観測され得る。
【0181】
一実施形態では、例えばそれぞれの膜浸透促進配列などのアミノ酸配列が互いに異なる、本発明の2種の融合タンパク質A及びBの有効性を比較すると、A及びBによって、所与の腫瘍細胞型の遊走阻害率の観測値が異なることがある。抑制の相対的な差異(Bによる80%に対しAによる100%などの絶対比率、又はAがBより優れているなどの質的差異)は、様々な腫瘍のタイプで同じこともあれば、腫瘍のタイプによって異なることもある。
【0182】
一態様では、本発明の融合タンパク質は、少なくとも1つのタイプの腫瘍細胞の転移性遊走を実質上(100%)抑制することができる。
【0183】
別の態様では、本発明の融合タンパク質は、少なくとも2つのタイプの腫瘍細胞の転移性遊走を実質上(100%)抑制することができる。
【0184】
有用なアッセイは、人工の基底膜(「MATRIGEL(登録商標)」を通過して遊走する浸潤性腫瘍細胞の観察される能力に基づいている。このアッセイでは、濃度又は用量範囲が0.1μg/ml〜100μg/mlの本発明の融合タンパク質に曝露させることによって、本発明の組成物で処理をしない場合には「MATRIGEL(登録商標)」を通過して遊走する能力がそれぞれ異なる様々な癌細胞型の能力の変化、及びそれにより異なる転移性の浸潤を評価する。好ましい濃度範囲は、組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質である。
【0185】
「Matrigel(登録商標)」Matrix(BD Biosciences社製)は、EHSマウス肉腫、即ちECMタンパク質に富んだ腫瘍から抽出された可溶化基底膜調製物である。その主要成分は、ラミニン、IV型コラーゲン、へパラン硫酸プロテオグリカン、及びエンタクチンである。室温で、BD「Matrigel(登録商標)」Matrixは重合して、哺乳動物の細胞基底膜を再現することができる生物学的に活性なマトリックス物質を生成し、そこで、細胞はin vivo条件と同様の様式でin vitroで挙動することができる。「Matrigel(登録商標)」Matrixは、細胞形態、生化学機能、遊走又は浸潤、及び遺伝子発現を研究するための生理学的に適切な環境を提供することができる。
【0186】
BA−05などの本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物による血管新生の抑制、及び毛細血管様構造又は細管構造に対するその効果
一態様では、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物は、例えば、注射によって、又は本明細書で説明する被覆若しくは他の方法によって、治療を必要とする哺乳動物の第1の腫瘍の近くの又はそれを含む組織に投与することができ、その哺乳動物の第1の腫瘍部位に由来する哺乳動物の転移性腫瘍細胞又は腫瘍細胞集団が、第1の腫瘍が存在する組織に機能的に関係があり、その近くにある哺乳動物の健常又は正常な組織部位に血管新生を起こすプロセスを抑制することができる。例えば、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を、哺乳動物の腎臓腫瘍の近くの又はそれを含む腎臓組織に投与することができ、腎臓の腫瘍に由来する転移性の腎臓腫瘍細胞が、第1の腫瘍が存在する同じ腎臓の健常組織で血管新生を起こすプロセスを抑制することができる。
【0187】
別の態様では、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物は、例えば、注射によって、又は本明細書で説明する被覆若しくは他の方法によって、治療を必要とする哺乳動物の第1の腫瘍の近くの又はそれを含む組織に投与することができ、第1の腫瘍が存在する組織から機能的に分離され、その遠くにある哺乳動物の健常又は正常な組織又は器官中の部位に、その哺乳動物の第1の腫瘍部位に由来する哺乳動物の転移性腫瘍細胞の増殖を伴う血管新生を起こすプロセスを抑制することができる。例えば、本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を、脳腫瘍を含む脳組織に投与することができ、転移性の脳腫瘍細胞が、肝臓、脾臓、又は肺組織など身体の別の場所の健常組織で血管新生を起こすのを抑制することができる。
【0188】
別の態様では、治療を必要とする患者に本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物を投与した後、悪性腫瘍細胞の転移性の形成及び増殖を伴う血管新生を防止又は抑制することができる。治療を必要とする患者への本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物の投与は、続発性腫瘍の形成を伴う血管新生を実質上低減させ又は完全に防止することができ、また、患者の悪性癌の拡大及び定着を防止することができる。
【0189】
血管新生による新しい血管の形成は、第1の腫瘍の増殖、及びそれに続く、転移によって第1の腫瘍の細胞又は細胞集団から形成される第2の腫瘍の増殖において重要である。BA−07などの本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物による血管新生の抑制は、腫瘍増殖における血管新生の研究に有用なin vitroの系、即ち、基底膜抽出物(Matrigel)の存在下での内皮細胞培養を含む系で評価することができる。実験の観察条件において、血管新生又は毛細血管形成に関連している毛細血管様の構造又は細管を、顕微鏡で見ることができる。血管新生の進行、管状の毛細血管網の形成、又は腫瘍に関連した血管新生のプロセス若しくは進行の妨害に対する、BA−05などの本発明の融合タンパク質の阻害性の効果は、Matrigelアッセイにおいて管状構造の消失を追跡することによって観察することができる。
【0190】
Matrigelアッセイでは、Matrigel(約12.5mg/mL)を約4℃で解凍する。このマトリックス(約50uL)を96ウェルプレートの各ウェルに加え、約37℃で約10分間凝固させる。固体のMatrigelを含むウェルを、ウェル当たり約15,000個の細胞密度のHUVEC細胞と約30分間インキュベートする。細胞が付着すると、培地を除去し、BA−05などの本発明の融合タンパク質を補充した新鮮な培地に交換し、37℃で約6〜8時間インキュベートする。対照のウェルには、培地だけ加えてインキュベートする。増殖を分析するために、例えば、約50倍の倍率で顕微鏡を用いて管形成を可視化することができる。本発明の融合タンパク質xを含む薬剤組成物の評価において観察される、血管新生に誘導された毛細血管網の相対的な平均長Yxは、Northern Eclipseソフトウェアを取扱い説明書に従って使用することにより、定量化することができる。
【0191】
典型的なMatrigelアッセイ実験から得たデータ、例えば、血管新生に誘導された毛細血管網の長さに対する、BA−05と呼ぶ融合タンパク質を含む薬剤組成物の影響に関するデータを、表1にまとめて示す。これらのデータは、使用した用量及び調製条件のもとでは、阻害が無く100%の増殖を与える対照溶媒によって得られた阻害と比べて、網形成が約13%〜約20%阻害されたことを示す。血管新生に対するこの効果は、より高用量の融合タンパク質を用いることにより、また、Matrigelに細胞を加える前に、HUVEC細胞をBA−05とともにプレインキュベーションすることによって、増大させることができる。
【0192】
【表1】

BA−07などの本発明の融合タンパク質を含む薬剤組成物の腫瘍細胞抗増殖活性
BA−07などの本発明の融合タンパク質が、悪性細胞の表現型の複数の外観に影響を及ぼし得ることの証明は、増殖及び成長中の細胞におけるトリチウム標識チミジン取込みを観察することによって示すことができる。この際、細胞培養培地に添加されたトリチウム標識チミジンは、細胞中に取り込まれ、そこで、DNAを合成するために各細胞によって使用されるチミジン三リン酸プールの一部分となる。トリチウム標識チミジンは、各細胞において、DNA高分子に共有結合的に取り込まれる。増殖していない細胞又はアポトーシス若しくはネクローシスにより死につつある細胞では、トリチウム標識チミジンは、細胞中に取り込まれないか、細胞の溶解と同時に細胞培地中に放出される。トリチウム標識チミジン取込みは、細胞増殖、細胞分裂、細胞静止、及び細胞死に対する、BA−07など本発明の融合タンパク質の影響の総合的な測定法として使用することができる。BA−07が3H−チミジンの減少を誘導する細胞系は、ヒト子宮内膜癌細胞系HEC1B、ヒト結腸直腸癌細胞系CaCo2、ヒト黒色腫癌細胞系SK−MEL−2、及びヒトCNS癌細胞系A−172を含む。
【0193】
表2のデータは、8種の代表的なヒト癌細胞系のそれぞれに投与される本発明の融合タンパク質BA−07を含む組成物の投与量の変化が、8種のヒト癌細胞系、即ちHEC 1B、Caco−2、SK−MEL−1、HT1080、MCF7、SW480、293S、及びA172へのトリチウム標識チミジン取込みに与える影響を示している。投与される融合タンパク質BA−07の用量は、50倍まで変動し、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラム(ug/mL)であった。
【0194】
【表2】

これらのヒト腫瘍細胞系が、融合タンパク質の存在下で細胞増殖の低減を示すことが予想外に観察された。表2は、対照値の100%と比較した増殖率を示す。
【0195】
腫瘍細胞系は、トリチウム標識チミジン取込みに関して3つの異なる群に分けることができる。融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物は、子宮内膜癌腫細胞系であるHEC 1B細胞系の細胞増殖に対して顕著な効果を示し、1ug/mL未満の50%抑制濃度(IC50)で増殖を抑制する。抑制に加えて、より高濃度のBA−07では抑制が強まる用量反応効果がある。
【0196】
表2で示すように、Caco 2及びSK−MEL−1細胞系では、融合タンパク質は、各細胞系の細胞中へのトリチウム標識チミジン取込みのレベルがより低いことから立証されるように、細胞増殖に対して強い抑制効果を示す。
【0197】
本開示で使用する略語
ADP アデニンジヌクレオチドリン酸
ATCC アメリカンタイプカルチャーコレクション
ADPC3 C3エキソトランスフェラーゼ;C3細胞外酵素;C3トランスフェラーゼ
FBS ウシ胎児血清
HEPES HEPES緩衝液
MMP マトリックスメタロプロテイナーゼ
NAD ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド
NCI 国立癌研究所
PBS リン酸緩衝化生理食塩水
SRB スルホローダミンB
TCA トリクロロ酢酸
以下の非限定的な実施例によって、本発明の様々な実施形態及び態様をさらに例示する。
【実施例1】
【0198】
本発明による融合タンパク質を調製するのに有用な一般的方法
本発明の融合タンパク質を調製するのに有用な方法を示すために、C3ポリペプチドのC末端に付加されるアンテナペディア配列の例を使用する。C末端に付加されるDNA配列は、C3ポリペプチドのC末端に少なくとも1つのアミノ酸を付加するものであれば、どんなDNA配列でもよい。DNAの3’末端の停止コドンは、プライマー5'GAA TTC TTT AGG ATT GAT AGC TGT GCC 3'(配列番号1)及び5'GGT GGC GAC CAT CCT CCA AAA 3'(配列番号2)を用いるポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)(polymerase chain reaction)により、EcoR1部位で置き換えることができる。PCR生成物は、pSTBlue-1ベクター(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)中にサブクローニングし、続いて、BamH I及びNot I制限酵素部位を用いてpGEX-4T(Amersham Biosciences社製、Baie d'Urfe、ケベック)ベクター中にクローニングすることができる。このベクターは、pGEX-4T/C3と呼ぶことができ、本発明の融合タンパク質を調製する一般的な方法を提供する。pGEX-4T/C3中のC3の3’末端に付加するのに有用なアンテナペディア配列は、PCRによって、このアンテナペディア配列を含むpET-3aベクターから作製し(Bloch-Gallego (1993) 120: 485-492、及びDerossi (1994) 269: 10444-10450)、これをpSTBlue-1平滑末端ベクター中にサブクローニングし、次いで制限酵素部位EcoR I及びSal Iを用いてpGEX-4T/C3中にクローニングして、pGEX-4T/BA-14を作製することができる。新しいDNA配列をもたらす、プラスミドDNA中に存在するヌクレアーゼ若しくは購入した酵素の使用、エキソヌクレアーゼIIIによる消化、又はpGEX4T/BA-14中に取り込まれる所望のDNA配列を含む2種の合成オリゴヌクレオチドを用いた部位特異的突然変異誘発など標的プラスミド配列の操作を用いて、適切な系で発現されたときに、アフィニティクロマトグラフィー、電荷によって分離するイオン交換などの方法を用いる標準的なクロマトグラフィー、サイズによって分離するサイズ排除クロマトグラフィー、及びタンパク質精製の他の方法など標準の方法によって精製することができるタンパク質を産生する新規なDNA配列を作製することができる。これらのタンパク質は、細胞に浸透する能力を調べるアッセイで試験され、また、これらのタンパク質は、Rho活性に拮抗する能力を調べるアッセイで試験される。DNA配列解析は、対照としてそれぞれ比較した際、C3エキソトランスフェラーゼの配列より良い反応を生じるプラスミド配列上で実施することができる。pGEX-4T/BA-14クローン(配列番号3)は、一般に好ましい配列であり、本発明の好ましい組成物であるタンパク質を提供する。C3様融合タンパク質の例は、pGEX-4T/BA-05(配列番号37)で表される。
【0199】
本発明のタンパク質は、細菌細胞抽出物から、或いは、適切な発現ヒビクル中のアンテナペディア由来の輸送配列を含む融合タンパク質コードDNA断片(BA−05をコードするDNA断片など)の全体又は一部分を用いて宿主細胞を形質転換、トランスフェクション、又はインフェクションすることによる組換え技術を使用して、調製することができる。
【実施例2】
【0200】
融合タンパク質BA−05の調製
実施例1の方法を用いて、あるアミノ酸配列を含む、BA−05と呼ぶ融合タンパク質を調製することができる。BA−05は、融合性の19−merペプチドをコードするcDNAにC3をコードするcDNAを連結することによって作製されるタンパク質に与えられる名称である。
【0201】
C3様融合タンパク質の例は、pGEX-4T/BA-05(配列番号37)で表される。
【0202】
pGEX4T/C3のDNA中にアンテナペディアDNAを操作して入れる前述の方法によってこのC3様融合タンパク質を調製する。製造業者(Amersham BioSciences社、Baie D'Urfe、ケベック)に説明されているようにして、20種以上のC3様融合タンパク質を発現させ、精製する。Rhoを不活性化する能力についてin vitroの系で20種のタンパク質を検査する。溶媒対照又は対照のグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)タンパク質と比べて増大した神経突起の成長で判断される、Rhoを大幅に不活性化するタンパク質を、さらなる分析にかける。この方法の生成物は、一般例で説明したタンパク質BA−14、或いは、融合タンパク質BA−14分子と異なり、又は、対照の非融合タンパク質C3タンパク質と異なる分子量やRho不活性化バイオアッセイにおける活性などの諸特性を有し得る、クローニング法によって作製された新しい融合タンパク質などのタンパク質を含み得る。新しい融合タンパク質は、C3アミノ酸配列を含み得るが、使用される方法が原因となって、カルボキシル末端は改変されると考えられる。
【実施例3】
【0203】
融合タンパク質BA−07の調製
実施例1の方法を用いて、以下のアミノ酸配列を含むBA−07を調製することができる。
[配列57]

【0204】
適切な発現系で発現させたときにBA−07タンパク質が作られるように、一連の組換え構築物(BA−05)をpET-9aベクター(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)中に移入するために、2種のPCRプライマーを設計する。即ち、上流プライマー:5' ggatctggttccgcgtcatatgtctagagtcgacctg 3'(配列番号38)、下流プライマー:5' cgcggatccattagttctccttcttccacttc 3'(配列番号39)である。配列番号39の5’末端のBamH I部位は、ggatccattaであり、TGAは、TAAT(配列番号39中のatta)によって置き換えられる。
【0205】
Pfuポリメラーゼを用いて生成物を増幅するのに有用なプログラムは、95℃、5分を1サイクル、次いで94℃で2分、56℃で2分、70℃で2分を10サイクル、次いで94℃で2分、70℃で3分を30サイクル行い、4℃で維持することを含む。QIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて、所望のDNAバンドを含むアガロースゲル切片を精製することができる。製造業者(New England BioLabs社、マサチューセッツ州、ビバリー)の取扱い説明書に従って、BamH I及びNde Iで挿入物及びベクターを消化し、アガロースゲル電気泳動及びQIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて精製し、製造業者の指示書に従ってT4 DNAリガーゼと一緒に一晩インキュベートする。
【0206】
大腸菌(DH5alpha、又は好ましくは、XL1-Blue)を、ライゲーション混合物で形質転換する。クローンは、小規模な導入及びSDS−PAGEによって検査することができ、また、抗C3抗体を用いた粗製の溶解物のイムノブロッティングによって確認することができる。プラスミドDNAを精製して、その純度を評価することができる。(例えば、完全長のクローンを得るために鎖全体を配列決定するLiCor技術によって)、DNA配列決定を実施することができる。
【0207】
このようにして調製した第1の構築物(pET3a-BA-07、配列番号7)は、クローニング戦略が原因となって5’末端に少し変化があるものの、構築物pGEX/BA-05の理論上のDNA配列に合致した。
【0208】
製造業者の取扱い説明書に従い、pET3a構築物をBamH I及びNde I(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)で切断することにより、pET3a-BA-07に由来する挿入断片をpET9aベクターにサブクローニングすることによって、第2の構築物、即ちpET9a-BA-07を調製することができる。同じ酵素でpET9aプラスミドDNAを切断することができる。アガロースゲル電気泳動によって、挿入DNA及びベクターDNAを精製することができる。T4 DNAリガーゼ(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)を用いて、新しいベクター中に挿入断片を連結することができる。連結されたDNAをDH5alpha細胞中に形質転換させ、QIAGEN mini及びmaxiキットを用いてDNAを調製することができる。制限酵素消化及び双方向からの挿入断片のDNA配列決定によって(例えば、BioS&T社、ケベック州、ラシーンによる)、クローンの特徴を決定することができる。BL21(DE3)細胞、BL21(DE3)/pLysS細胞(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)、又は別の適切な発現系中に構築物DNAを形質転換させることができる。
【実施例4】
【0209】
細胞増殖の指標としてのトリチウム標識チミジン取込みを行うための、融合タンパク質BA−07が癌細胞の増殖を低減させることを示すのに有用な一般的方法
H−チミジン取込みアッセイ
培地及び細胞系
研究を開始する前に、マイコプラズマの有無について細胞系を試験し、陰性であることを確認する。細胞系は、ATCCから入手する。HEC−1B系は、10%FBS及び1%HEPESを添加したE−MEM中で培養する。Caco−2系は、20%FBS、1%HEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び0.1mMの非必須アミノ酸を添加したE−MEM中で培養する。SK−MEL−1系は、10%FBS及び1%HEPESを添加したマッコイ培地中で培養する。
【0210】
それぞれ体積100μlの、融合タンパク質の2倍希釈標準溶液、陽性対照、及び溶媒対照を、細胞(4×10/100μl)を含む96ウェルマイクロタイタープレートにトリプリケートで播き、最終体積を200μlとした。プレートを5%CO、湿度100%の37℃インキュベーター中に置く。インキュベーションの約54時間後に、1.0μCiを含む、体積20μlのトリチウム標識チミジン(3H−チミジン)(ICN社製、カナダ、モントリオール)を各ウェルに加える。H−チミジンは、10%FBSを添加したRPMI−1640中で調製する。上述したのと同じ条件で培養物をさらに18時間インキュベートする。インキュベーションの終了時に、自動細胞回収装置(Tomtec社製)で細胞を回収し、マイクロプレートシンチレーションカウンター(TopCount NXT、Packard社製)を用いて、取り込まれたH−チミジンの1分当たりのカウント数(cpm)を測定する。
【0211】
BA−07などの本発明の融合タンパク質が、悪性細胞の表現型の複数の外観に影響を及ぼし得ることの証明は、増殖及び成長中の細胞におけるトリチウム標識チミジン取込みを観察することによって示すことができる。この際、細胞培養培地に添加されたトリチウム標識チミジンは、細胞中に取り込まれ、そこで、DNAを合成するために各細胞によって使用されるチミジン三リン酸プールの一部分となる。トリチウム標識チミジンは、各細胞において、DNA高分子に共有結合的に取り込まれる。増殖していない細胞又はアポトーシス若しくはネクローシスにより死につつある細胞では、トリチウム標識チミジンは、細胞中に取り込まれないか、細胞の溶解と同時に細胞培地中に放出される。トリチウム標識チミジン取込みは、細胞増殖、細胞分裂、細胞静止、及び細胞死に対する、BA−07などの本発明の融合タンパク質の影響の総合的な測定法として使用することができる。BA−07が3H−チミジンの減少を誘導する細胞系は、ヒト子宮内膜癌細胞系HEC1B、ヒト結腸直腸癌細胞系CaCo2、ヒト黒色腫癌細胞系SK−MEL−2、及びヒトCNS癌細胞系A−172を含む。
【0212】
表2のデータは、8種の代表的なヒト癌細胞系のそれぞれに投与される本発明の融合タンパク質BA−07を含む組成物の投与量の変化が、8種のヒト癌細胞系、即ちHEC 1B、Caco−2、SK−MEL−1、HT1080、MCF7、SW480、293S、及びA172へのトリチウム標識チミジン取込みに与える影響を示している。投与される融合タンパク質BA−07の用量は、50倍まで変動し、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラム(ug/mL)であった。
【実施例5】
【0213】
血管新生の抑制を測定するための一般的方法
基底膜(Matigel)マトリックスの存在下で内皮細胞を増殖させることにより、細胞培養モデルで新しい血管の形成を研究する。トリプシン処理(trypinization)によって保存株からヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(human umbilical vein endothelial cell)を採取し、EBM−2(Clonetics社製)、FBS、ヒドロコルチゾン、hFGF、VEGF、R3−IGF−1、アスコルビン酸、hEGF、GA−1000、ヘパリンからなる増殖培地(medial)中に再懸濁させる。Matrigel(約12.5mg/mL)を約4℃で解凍し、50mLのMatrigelを96ウェルプレートの各ウェルに加え、37℃で10分間凝固させる。増殖培地仲の細胞を15,000細胞/ウェルの密度で各ウェルに加え、6時間付着させる。融合タンパク質BA−07を約10mg/mlの濃度でウェルに加え、他のウェルには対照としてPBSを加える。培養物をさらに6〜8時間増殖させる。倍率50倍で顕微鏡を使用して管の成長を可視化し、Northern Eclipseソフトウェアを用いて毛細血管網の平均長を定量する。Matrigelアッセイにおいて細胞を融合タンパク質BA−07で処理すると、管形成が低減される(図3を参照のこと)。
【実施例6】
【0214】
癌細胞の増殖の抑制に対する融合タンパク質の効果を示すための一般的方法
スルホローダミンB(SRB)(Sulforhodamine B)増殖抑制アッセイ
細胞のタンパク質含有量をin vitroで測定するためのスルホローダミンB(SRB、Molecular Probes社から入手可能)によるタンパク質染色アッセイが開発され、その後、NCIのin vitroでの抗腫瘍性スクリーニングで常用するために採用された(Skehan et al.,1990)。SRBは、細胞タンパク質の塩基性アミノ酸に結合し、比色評価により、細胞数に関連する全タンパク質質量の概算値が得られる。このアッセイは、死細胞は溶解し処置の間に除去され、又は別の方法で比色分析の指標には寄与しないという仮説に基づいている。SRBアッセイは、細胞の生存率を過大評価する可能性がある。
【0215】
SRBアッセイのためのプロトコール
これらの試験は、NCI60細胞系パネル上で行う。各細胞系についてのATCCの推奨基準に従い、5%ウシ胎児血清及びL−グルタミンを添加したRMPI−L640培地中で細胞を増殖させる。対数増殖期の細胞をトリプシン処理し、計数する。個々の細胞系の倍加時間に応じて、96ウェルマイクロプレートの増殖培地100μl中に細胞を播種する。37℃、5%CO、相対湿度100%で24時間、マイクロプレートをインキュベートして指数増殖を再開させる。24時間後に、試験物質の添加時(T)における各細胞系の細胞集団の測定値を示すために、TCAを用いて各細胞系の2つのプレートをin situで固定する。TCAを除去し、プレートを少なくとも24時間室温で培養して乾燥させる。
【0216】
凍結乾燥した粉末として本発明の融合タンパク質を調製し凍結保存する。これに滅菌水を加えて、pH7.4の10mMリン酸ナトリウム緩衝液中に1マイクロリットル当たり約4.42マイクログラムの融合タンパク質を含む薬剤組成物を作ることができる。各用量ポイントのために、50μg/mLのゲンタマイシンを含有する完全培地で原液の段階希釈を行い、200μg/mL、20μg/mL、2μg/mL、0.2μg/mL、及び0.02μg/mLの融合タンパク質を提供する。これらの試験物質希釈物を100μLずつ、あらかじめ100μLの培地が入っている適切なウェルに加えて、融合タンパク質の最終的な対数希釈系列の用量を実現した。
【0217】
融合タンパク質(即ち、薬物)を添加した後、37℃、5%CO、相対湿度100%で、さらに一定期間マイクロプレートをインキュベートする。トリクロロ酢酸(TCA)(trichloroacetic acid)を用いてウェルの底面に細胞中のタンパク質を固定することによってアッセイを終結する。プレートを乾かし、次いで、1%酢酸中の0.4%(w/v)SRB溶液100μlを各ウェルに加える。室温で10分間、タンパク質に結合する染色剤とともにプレートをインキュベートする。
【0218】
染色後、未結合の染色剤を1%酢酸で洗浄して除去し、プレートを乾かす。プレートを穏やかに混ぜながら、10mMのTrizma塩基200μlを加えることによって結合した染色剤を可溶化する。マイクロプレートリーダーを用い、515nmの波長で光学濃度を読み取ることによって、染色剤の量を測定する。
【0219】
Excel表計算ソフトでデータを分析する。
=融合タンパク質添加時(T)の平均吸光度
C=対照(試験物質を含有しない薬物)の平均吸光度
=融合タンパク質物質(希釈系列の様々な用量ポイント)の平均吸光度
試験物質の各濃度に対する増殖率を計算する。
【0220】
>Toとなる濃度に対しては
【0221】
【数1】

<Toとなる濃度に対しては
【0222】
【数2】

増殖抑制率を用いて、様々な用量での効果を比較するためのグラフを作成することができる。増殖率の点をプロットし、用量反応曲線が+50、0、及び−50のPG値と交差する点を利用してGI50、TGI、及びLC50を算出する。GI50、即ち増殖を50%抑制するのに必要な濃度は、融合タンパク質に関連したパラメータである。
【実施例7】
【0223】
ヒト癌細胞系の細胞増殖の抑制を示すためのSRBアッセイの特殊な使用
【0224】
【表3】

本発明の1つの融合タンパク質、BA_0_は、H−チミジンで試験した4〜6種のヒト腫瘍細胞系に対して効果を有し、また、NCIでスクリーニングした細胞系の約10%に対して効果を有する。SRB試験では、これは、細胞増殖抑制性の特性を有しているようであり、対照と比べて増殖は抑制されるが、タンパク質の全量は時間ゼロ(Tz)で測定される量と比べて減少しない。これらの結果は、C3トランスフェラーゼは動物にとってそれほど毒性ではないことを示すin vivoのデータと一致している。観測されたGI50値は、融合タンパク質の分子量が約27kDaであることを前提として、ナノモルからマイクロモルの範囲である。
【実施例8】
【0225】
プルダウンアッセイによる活性化Rhoの検出
5%ウシ胎児血清(FBS)(fetal bovine serum) 、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(P/S)(Penicillin-streptomycin)の存在下でNG108細胞を細胞培養して増殖させる。細胞が定着した後(37℃で3〜6時間)、BA−05を培養物に添加する。細胞を溶解させるために、氷冷トリス緩衝生理食塩水(TBS)(Tris buffered saline)でそれらを洗浄し、改変RIPA緩衝液(50mM Tris pH7.2、1%TritonX-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、500mM NaCl、10mM MgCl、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニン、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)(phenylmethyl-sulfonyl fluoride))中に溶解させる。13,000g、4℃で10分間遠心分離して、細胞溶解物を清澄化し、氷点下80℃(−80℃)で保存する。
【0226】
解凍し、細胞100万個当たり500uLのRIPA緩衝液に再懸濁させた細胞溶解物を用いて、GST−Rho結合ドメイン(GST−RBD)(GST-Rho Binding Domain)の精製を実施する。GST−Rho結合ドメイン(GST−RBD)(GST-Rho Binding Domain)を作製するために、PGEXベクター中でGST−RBDを発現する細菌を、100μl/mlアンプリシリン(amplicillin)を含むLブロス(LB)(L-broth)中で増殖させる。一晩培養した培養物を3600mlのLB中に1:10の比で希釈し、37℃で2時間、細菌用振とう培養器中でインキュベートする。次いで、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)(0.5mM)を2時間インキュベートした培養物に添加する。次に、5,000gで15分間遠心分離して、細菌を集める。次に、沈殿物を40mlの溶解緩衝液(50mM Tris pH7.5、1%TritonX、150mM NaCl、5mM MgCl、1mM DTT、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニン、1mM PMSF)中に再懸濁させる。音波処理後、14,000rpm、4℃で30分間、溶解物を回転させる。
【0227】
凍結した細胞培養物を、RIPA緩衝液(50mM Tris pH7.2、1%TritonX-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、500mM NaCl、10mM MgCl、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニン、1mM PMSF)中でホモジナイズする。13,000g、4℃で10分間の遠心分離を2回行って、ホモジネート及び細胞溶解物を清澄化する。次に、グルタチオンアガロースビーズ(Sigma社製、カナダ、オークビル)に結合させたGST−RBDとともに、4℃で50分間、それらをインキュベートする。次いで、ビーズを4回洗浄し、試料緩衝液中に溶出させる。ウエスタンブロットによって、組織ホモジネート中に存在するGTP結合Rho及び全Rhoを検出する。タンパク質をニトロセルロースに移し、RhoAモノクローナル抗体(Santa Cruz社製、カリフォルニア州、サンタクルーズ)を用いて探索する。ペルオキシダーゼを結合させた二次抗体(Promega社製、ワイオミング州、マディソン)及びHRPを用いる化学発光反応法(Pierce社、イリノイ州、ロックフォード)によって、バンドを可視化する。各バンドのシグナルを定量化するためにデンシトメトリー解析を行う。
【実施例9】
【0228】
例としてBA−07を使用するタンパク質融合治療法にどの腫瘍が最も良く反応し得るかを診断又は決定するための診断法としてのRhoプルダウンアッセイの使用
腫瘍全体を取り出したときに切除された腫瘍の辺縁に残存組織が残るように哺乳動物(例えば、ヒトの患者)の組織から外科的切除を行うことによって、腫瘍の生検検体を取り出す。ドライアイス上又は液体窒素中でこの検体を凍結させる。約5mmの切除された組織の検体を、500μlのRIPA緩衝液(50mM Tris pH7.2、1%TritonX-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、500mM NaCl、10mM MgCl2、10mg/mlロイペプチン、10mg/mlアプロチニン、1mM PMSF)中でホモジナイズする。13,000g、4℃で10分間の遠心分離を2回行って、ホモジネートを清澄化し、さらに分析するための試料を得る。次に、実施例8で説明したように調製して、グルタチオンアガロースビーズに結合させたGST−RBDとともに、4℃で50分間、試料をインキュベートする。ウエスタンブロットによって、組織ホモジネート中に存在するGTP結合Rho及び全Rhoを検出する。
【0229】
生検検体中のどの細胞が活性化Rhoを有するかを検出するために、クリオスタット切片を調製してよい。14,000g、4℃で30分間遠心分離して、RBD−GSTの細菌溶解物を清澄化する。切片をRBD−GST含有細菌溶解物とともにインキュベートすることによって、活性化Rhoを検出する。4%PFAで固定した後、ラット脊髄凍結切片(厚さ約16μm)を、細菌溶解物とともに4℃で一晩インキュベートする。次に、切片をTBS中で3回洗浄し、室温で1時間、3%BSA中でブロックし、抗GST抗体(Cell signalling社製、New England Biolabs社、カナダ、ミシソーガ)及び細胞型に特異的な抗体とともにインキュベートする。脳腫瘍の場合、腫瘍診断を助けるために、神経特異的抗体(NeuN)又は星状細胞特異的抗体(GFAP)を用いて、活性化Rhoを有する細胞型を検出することができる。TBS中で切片を洗浄し、FITC、テキサスレッド(Texas Red)、又はローダミン(Rhodamine)を結合させた二次抗体(Jackson Immuno Research社製、カナダ、ミシソーガ)とともに室温で2時間インキュベートする。
【実施例10】
【0230】
メタロプロテイナーゼ(MMP)(metalloproteinase)活性の低下を検出するための一般的方法
非還元条件下でポリアクリルアミドゲル中で酵素のタンパク質分解活性を分離させる酵素電気泳動によって、メタロプロテイナーゼ活性を検出する。メタロプロテイナーゼ活性を検出するために、Caki−1結腸癌細胞の増殖に由来する培養培地中のゼラチン分解(glatinolytic)活性をゼラチン酵素電気泳動によって検出する。0.1、1.0、又は10μg/mlのBA−07、又は対照としての緩衝液とともに、Caki−1細胞を24時間インキュベートする。培養培地のアリコート(25μL)を、1mg/mlのゼラチンを含有する7.5%ポリアクリルアミドを用いるSDS/PAGEにかけ、非還元条件下でポリペプチドを分離させる。MMP活性を評価するために、室温で30分間、2.5%(v/v)TritonX-100中でインキュベーションすることによりSDSを除去する。この工程を繰り返し、続いて2回蒸留水(ddHO)で5回すすぐ。次に、37℃で20時間、50mM Tris-HCl、pH7.6、0.2M NaCl、5mM CaCl、及び0.02%(v/v)Brij-35を含有する緩衝液中でゲルをインキュベートする。Coomassie Brilliant Blue R-250でゲルを染色し、脱色する。ゼラチン基質に対する酵素活性は、青色のバックグラウンド中の透明バンドとして検出可能である。MMP酵素とゼラチナーゼ活性との同一性を、これらの実験ではHT−1080などの陽性対照を用いて評価する。
【実施例11】
【0231】
BA−07で処理した後のメタロプロテイナーゼ活性低下の検出
融合タンパク質BA−07を用いて、実施例10の方法を実施する。メタロプロテイナーゼ活性の低下が観察される。
【実施例12】
【0232】
滅菌溶液に溶かした融合タンパク質の製剤
BA−07など本発明の融合タンパク質の治療上有効な単位投与量を、等張な無菌PBSなど単位投与体積の無菌の等張溶液に溶解して、単位投与量の溶液を形成させ、これを無菌条件下で0.2ミクロンのフィルターに通してろ過する。不活性雰囲気(例えば、窒素又はアルゴン)下で、滅菌バイアル中にろ液を集める。次に、このバイアルを滅菌したセプタム及びクリンプキャップで封をし、室温で保管する。融合タンパク質BA−07などの融合タンパク質を含むバイアル中の単位投与量の液剤を、静脈内投与、輸注、又はヒト患者の腫瘍など哺乳動物の腫瘍部位への直接的な注射、或いはヒト患者の組織など哺乳動物の組織中の腫瘍切除部位の辺縁への注射などの注入により、患者に投与することができる。
【0233】
同様にして、それぞれ単位投与量を含む2つ以上のバイアルを調製することができ、また、治療を必要とする患者に、治療上有効な治療期間を通して、複数の単位投与量を注射により投与することができる。このような方法において、一連の単位投与量の投与は、患者の組織又は患者の全身に対して行うことができる。例えば、単位投与量の融合タンパク質組成物を、患者に1日1回、患者に2日毎に1回、又は患者に1週間に1回投与することができる。さらに、融合タンパク質を含む薬剤組成物の治療上有効な単位投与量を、患者の組織中に腫瘍を有する患者に投与することができ、その投与は、腫瘍が切除される前の1回若しくは複数の機会には全身的に、且つ/又は、外科的切除などによって腫瘍が切除される前の1回若しくは複数の機会には、診断によって確認された患者の腫瘍辺縁中に、且つ/又は、腫瘍が切除される前の1回若しくは複数の機会には腫瘍組織中に直接的に、且つ/又は、腫瘍が切除された後の1回若しくは複数の機会には全身的に、且つ/又は、腫瘍が切除された後の腫瘍の残存する辺縁中に直接的に行われる。このように繰り返される単位用量投与の回数及び単位剤形当たりの融合タンパク質の量は、第1の腫瘍の存在下又は第1の腫瘍の除去後の第2の腫瘍の増殖を防止するために、患者、腫瘍のタイプ、及び腫瘍の大きさによって、変動し得る。
【実施例13】
【0234】
凍結乾燥製剤
製薬上許容される緩衝塩及び/又は容易に水溶する製薬上許容される糖質(好ましくは製薬上許容される非還元糖若しくはシクロデキストリン)を含む製薬上許容される等張性の水性媒体中に溶解された、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の組成物の単位投与量を含む溶液を無菌条件下で(例えば、0.2ミクロンのフィルターに通して)滅菌ろ過し、ろ液を滅菌したバイアル中に入れ、ろ液を凍結し、この凍結した水溶液を製薬上許容される凍結乾燥器中で減圧して無菌的に凍結乾燥して、バイアル中に融合タンパク質を含む乾燥マトリックスを残し、このバイアルを無菌の不活性雰囲気下で大気圧に戻し、このバイアルを滅菌した栓(例えば、クリンプキャップと併用して)で封をする。封をしたバイアルに内容物及び投与量のラベルを貼り、融合タンパク質マトリックスを溶かして単位剤形としての液剤にするために、凍結乾燥した融合タンパク質を含有する第1のバイアルに移し入れるのに有用な量の注射用滅菌水を含む、第2の密閉滅菌バイアルとともにキットの中に入れる。別の実施形態では、高張性の水性媒体を含む最初の体積の水性媒体中に融合タンパク質を溶解させ、この溶液を滅菌ろ過し、ろ液をバイアルに詰め、凍結乾燥させて乾燥マトリックスを作ることができる。この乾燥マトリックスを、注射用の等張溶液を作るのに十分な、最初の体積より大きな体積の滅菌水中に溶解し又はそれに溶かして復元することができる。或いは、輸注によって投与するために、高張溶液が実質上希釈されるようにより大きな体積の等張性水性媒体を含む点滴バッグ中に、高張溶液を使用することもできる。場合によっては、マトリックスを溶解して単位剤形にするのに適した量の多量の滅菌水を含むバイアルを凍結乾燥したタンパク質とともにキットとして販売する。好ましくは、溶解された組成物は、等張溶液を含む。先の実施例と同様の方法でこの製剤を用いて、静脈内投与、及び/又は輸注、及び/又は腫瘍への直接的な注射用にこの融合タンパク質を使用することができる。
【実施例14】
【0235】
ポリマー中の製剤
ポリグリコール酸(PGA)(polyglycolic acid)及びポリ乳酸(PLA)(polylactic acid)の共重合体中に配合することによって、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の組成物を調製する。PGA/PLA共重合体は、PGAとPLAの比率によって、埋め込みの2〜6カ月後に分解することができる。一製剤では、PGA/PLAを使用し、0.5〜50%、好ましくは1.0〜3.0%の濃度で非変性有機溶媒に溶解させる。次に、このポリマー溶液をドローダウン用のナイフ又はキャストを用いて多糖ベースのフィルム又はフォームの表面に広げ、或いはスプレー若しくは浸漬被覆又は他の有用な手段によって塗布し、次に、溶媒を除去することによって乾燥させる。製薬上許容される溶解及び/又は分解可能なポリマーを含むメッシュなど複合メッシュを、メッシュが分解するにつれて放出されると考えられるBA−07などの融合タンパク質を組み込むために作製することができる。メッシュは、腫瘍の外科的切除部位に埋め込むことができ、この融合タンパク質が放出され任意の残存する腫瘍細胞の転移及び増殖を防止すると考えられる。
【実施例15】
【0236】
切除された腫瘍辺縁を治療するための一般的方法
製薬上許容されるクリーム中で調製された、BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の組成物を用いて、皮膚からの切除部位を治療することができる。一例は、このようなクリームを腫瘍切除部位の周辺の皮膚に塗る、悪性黒色腫の治療である。一態様では、BA−07などの融合タンパク質を含むクリームからなるこのような製剤を、腫瘍切除の前に皮膚に塗布し、最初の生検の段階から組織診で陽性診断するまでの間の腫瘍を治療するのに使用することができる。腫瘍部位に塗布すると、クリームは腫瘍の拡大及び転移を防止することができる。
【実施例16】
【0237】
腫瘍辺縁で増殖する第2の腫瘍の防止
BA−07などの融合タンパク質を含む本発明の組成物、例えば、前述の水性液剤のようなもの、又はフィブリン接着剤やヒドロゲルなどの外科用接着ゲル中で調製したものを使用して、腫瘍を外科的に切除した領域を治療することができる。一例は、結腸癌のために結腸を切除した後の健常な結腸の治療である。腫瘍切除の前には腫瘍領域を別の方法で取り囲んでいた健常な結腸組織を、腫瘍及び関連組織を切除した後に、フィブリンシーラントなどの外科用ゲル中のBA−07などの融合タンパク質組成物を用いて治療することができ、これは、残存組織中のさらなる病変の形成を防止するのに有用となると考えられる。
【実施例17】
【0238】
哺乳動物における前臨床的有効性を示すための一般的方法
第1群のヌードマウス(Charles River Laboratories社製)の皮下に黒色腫細胞系を移植する。第1群マウスのマウスで腫瘍を増殖させ、採取し、第2群マウスの各マウスに個別に(マウス1匹当たり1個の腫瘍)移植する。腫瘍体積1mL当たり10〜100ugの範囲にあると推定される、有効量のBA−07などの融合タンパク質を製薬上許容される溶媒中に含む本発明の薬剤組成物を、第2群のマウスの各マウスに毎日注射投与する。対照の動物には、対照としての溶媒を注射する。腫瘍増殖を測定し、γ免疫タンパク質10(IP10)(immuno protein 10)など悪性ケラチノサイトに由来するマーカーを測定するために組織学的検査を実施する。融合タンパク質を含む組成物は、第2のマウスにおける腫瘍増殖を防止し、又は実質上抑制する。
【実施例18】
【0239】
乳癌の再発防止における、乳房用埋め込み型機器の表面に塗布される融合タンパク質を含む組成物の使用
融合タンパク質を含む本発明の薬剤組成物の治療有効量を薬学的に許容される乳房インプラントの表面に塗る。場合によっては、本明細書で上述した本発明の薬剤組成物を(手術の前及び/又は後に)同時投与して、患者の乳房組織から腫瘍を切除する。腫瘍切除によって生じた空所の少なくとも一部分に、融合タンパク質を含む薬剤組成物で被覆した乳房インプラントを詰め、切除及び/又は埋め込みによって生じた傷口を閉じる。残存する腫瘍辺縁組織における第2の腫瘍の増殖は、実質上抑制又は防止される。
【実施例19】
【0240】
融合タンパク質を調製するための一般的方法
代表的な融合タンパク質BA−14のDNA配列
融合タンパク質BA−14のヌクレオチド配列(配列番号3)
[配列3]

【0241】

融合タンパク質BA−14のタンパク質配列(配列番号4)
[配列4]

【0242】
本発明の融合タンパク質を作製するための方法を示すためには、C3ポリペプチドのC末端に付加されるアンテナペディア配列の例が有用である。C末端に付加されるDNA配列は、C3ポリペプチドを含むペプチドのC末端に少なくとも1つのアミノ酸を付加するものであれば、どんなDNA配列でもよい
まず初めに、標準の方法によって、pGEX2T-C3プラスミドDNA(N.Lamarche、McGill University)を調製する。DNAの3’末端の停止コドンは、プライマー5' GAA TTC TTT AGG ATT GAT AGC TGT GCC 3'(配列番号1)及び5' GGT GGC GAC CAT CCT CCA AAA 3'(配列番号2)を用いるポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)(polymerase chain reaction)により、EcoR1部位で置き換えることができる。PCR生成物は、pSTBlue-1ベクター(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)中にサブクローニングし、続いて、BamH I及びNot I制限酵素部位を用いてpGEX-4T(Amersham Biosciences社製、Baie d'Urfe、ケベック)ベクター中にクローニングすることができる。このベクターは、pGEX-4T/C3と呼ぶことができ、本発明の融合タンパク質を調製する一般的な方法を提供する。pGEX-4T/C3中のC3の3’末端に付加するのに有用なアンテナペディア配列は、PCRによって、このアンテナペディア配列を含むpET-3aベクターから作製し(Bloch-Gallego (1993) 120: 485-492、及びDerossi (1994) 269: 10444-10450)、これをpSTBlue-1平滑末端ベクター中にサブクローニングし、次いで制限酵素部位EcoR I及びSal Iを用いてpGEX-4T/C3中にクローニングして、pGEX-4T/BA-14を作製することができる。
【0243】
BA−14のヌクレオチド配列(配列番号3)
[配列3]

【0244】
融合タンパク質BA−14のタンパク質配列(配列番号4)
[配列4]

【0245】
本発明の融合タンパク質は、細菌抽出物から、或いは、適切な発現ヒビクル中のアンテナペディア由来の輸送配列を含む融合タンパク質コードDNA断片(BA−05をコードするDNA断片など)の全体又は一部分を用いて宿主細胞を形質転換、トランスフェクション、又はインフェクションすることによる組換え技術を使用して、調製することができる。
【実施例20】
【0246】
融合タンパク質BA−05の調製
C3様融合タンパク質の例は、pGEX-4T/BA-05(配列番号4)で表される。
【0247】
本明細書では、BA−05は、融合性の19−merペプチドをコードするcDNAにC3をコードするcDNAを連結することによって作製されるタンパク質に与えられる名称である。
【0248】
実施例19の方法を用いて、以下のアミノ酸配列を含む融合タンパク質BA−05を調製することができる。
pGEX-4TBA-05タンパク質コード配列(配列番号4)
[配列4]

【0249】
pGEX4T/C3のDNA中にアンテナペディアDNAを操作して入れてpGEX4T/BA-14を得る前述の方法によってこのC3様融合タンパク質を調製する。フレームシフト突然変異を有するクローンを選別し、タンパク質を作製し試験する。突然変異が存在するにもかかわらず培養物が陽性と判定されるときは、プラスミドDNAを読み直して突然変異を確認する。本明細書では、新しいクローンをBA−05と呼ぶ。C3APLTの配列を確認するために、両方の鎖のコード配列の配列を決定する。このクローンの配列を、本明細書の実施例の中で示す(BA−05のヌクレオチド配列;配列番号3、BA−05のアミノ酸配列;配列番号4)。
【0250】
BA−05を作製するのに有用な別の方法は、pGEX-4T/BA-14を調製し、次に、(配列番号58)5' CCTAAAGAAT TCGTGATGAA TCCCGCAAAC GCGCA 3'や配列番号59 5'TGCGCGTTTG CGGGATTCAT CACGAATTCT TTAGG 3')など2種の相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いる部位特異的突然変異誘発の技術を使用して、pGEX-4T/BA-14のDNA中に1塩基対の欠失を含ませることである。QuikChange Kit(Statragene社製、カリフォルニア州、ラホーヤ)を用いて、ヌクレオチドの存在下でプライマーを伸長させることにより、欠失を組み入れる。以下の温度サイクルがBA−05の調製に有用である:95℃で30秒を1サイクル、次に、95℃で30秒、55度で1分、68℃で10.5分を18サイクル。次いで、製造業者によって説明されているようにして、DNAを制限酵素Dpn Iで処理する。次に、反応物の一部分を大腸菌DH5alpha又はXL1-Blue中に形質転換させる。大腸菌の個々のコロニーを、選択用抗生物質を含有する寒天プレート上で単離し、アンピシリンを含むLB培地中で増殖させる。MidiPrep Kit(Qiagen社製)を用いてDNAを単離する。5つのクローンのDNAを配列決定し、その配列変化を確認する。Lehmann et al.,1999で記載されているようにして、このDNAからタンパク質を発現させ、精製する。精製したタンパク質は、生体系でRhoアンタゴニストとして使用することができる。
【0251】
組換えBA−05(配列番号3)を調製するために、対応するcDNAを含むプラスミド(pGEX-4T/BA-05)を細菌、即ちコンピテントな大腸菌XL-1blue株に形質転換させる。300rpm、37℃で1時間、振とう培養器中で、50ug/mlのアンピシリン(BMC−Roche社製)を含むLブロス(10g/Lバクトトリプトン(Bacto-Tryptone)、5g/L酵母抽出物(Yeast Extract)、10g/L NaCl)中でこの細菌を培養する。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)(Gibco社製)を最終濃度が0.5mMになるまで加えて組換えタンパク質の産生を誘導し、250rpm、37℃でさらに6時間培養物を増殖させる。7000rpm、4℃で6分間、250ml遠心瓶に入れて遠心分離を行って、細菌沈殿物を得た。各沈殿物を1mM PMSFを加えた緩衝液A(50mM Tris、pH7.5、50mM NaCl、5mM MgCl、1mM DTT)10ml中に再懸濁させる。再懸濁させた沈殿物すべてをプールし、氷上の100mlプラスチックビーカーに移した。PMSFを含む残りの緩衝液Aをプールした試料に加える。Branson Sonifier 450プローブ式超音波処理装置を用いて、この細菌試料に20秒間の超音波処理を6回行う。各超音波処理の間に1分間、細菌とプローブの双方を氷上で冷却する。16,000rpm、4℃で12分間、Sorvall SS-34ローターで超音波処理物を遠心分離して、上清を清澄にする。この上清を新しいSS-34チューブに移し、12,000rpm、4℃で12分間再度回転させる。最大20mlのグルタチオン−アガロースビーズ(Glutathione-agarose beads)(Sigma社製)を透明な溶解液に加え、2〜3時間、回転板に置いた。緩衝液B(緩衝液A、NaClは150mM、PSMFは含まず)で4回、次に、緩衝液C(緩衝液B+2.5mM CaCl)で2回、ビーズを洗浄する。ビーズが濃厚なスラリーを作り出すまで、最後の洗浄を行う。組換えタンパク質からグルタチオンSトランスフェラーゼ配列を取り除くために、20Uのトロンビン(ウシ由来、プラスミノーゲンを含まない、Calbiochem社製)を加え、4℃で一晩、ビーズをローテーターで回転させる。トロンビンで切断した後、ビーズを空の20mlカラムに添加する。PBSで溶出させることにより、1mlのアリコートを約20個集める。各アリコートの0.5μlをニトロセルロース上にスポットし、アミドブラック(Amido Black)で染色して、タンパク質のピークを決定する。融合タンパク質を含有するアリコートをプールし、p−アミノベンズアミジンアガロースビーズ(p-aminobenzamidine agarose beads)(Sigma社製)100マイクロリットルを加え、4℃で45分間、混合しながら放置する。この最終工程により、組換えタンパク質試料からトロンビンを除去する。組換えタンパク質を遠心分離してビーズを除去し、次いで、セントリプレップ−10濃縮装置(centriprep-10 concentrator)(Amicon社製)を用いて濃縮する。濃縮された組換えタンパク質をPD−10カラム(Pharmacia社製、Sephadex G-25M含有)を用いて脱塩し、0.5mlのアリコートを10個集める。これらの試料にドットブロットを行ってタンパク質のピークを決定し、適切なアリコートをプールし、フィルター滅菌し、−80℃で保管する。タンパク質アッセイ(DC assay、Biorad社製)を利用して、組換えタンパク質の濃度を決定する。SDS−PAGE及びNG−108細胞を用いた生物活性バイオアッセイによって、試料の純度を決定する。
【0252】
この方法の生成物は、一般例で説明したBA−14などの融合タンパク質、或いは、BA−14分子と異なり、又は、対照のC3タンパク質と異なる分子量やRho不活性化バイオアッセイにおける活性などの諸特性を有する、BA−05などクローニング法によって作製された新しい融合タンパク質を含み得る。これらの新しい融合タンパク質は、C3配列を含むが、使用される方法が原因となって、カルボキシル末端は改変されると考えられる。
【実施例21】
【0253】
融合タンパク質BA−07の調製
実施例1の方法を用いて、以下のアミノ酸配列を含む融合タンパク質BA−07を調製することができる。
[配列57]

【0254】
適切な発現系で発現させたときにBA−07タンパク質が作られるように、一連の組換え構築物(BA−05)をpET-9aベクター(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)中に移入するために、2種のPCRプライマーを設計する。即ち、上流プライマー:5' GGATCTGGTTCCGCGTCATATGTCTAGAGTCGACCTG 3'(配列番号38)、下流プライマー:5' CGCGGATCCATTAGTTCTCCTTCTTCCACTTC 3'(配列番号39)である。配列番号39の5’末端のBamH I部位は、ggatccattaであり、TGAは、TAAT(配列番号39中のatta)によって置き換えられる。
【0255】
Pfuポリメラーゼを用いて生成物を増幅するのに有用なプログラムは、95℃、5分を1サイクル、次いで94℃で2分→56℃で2分→70℃で2分を10サイクル、次いで94℃で2分→70℃で3分を30サイクル行い、4℃で維持することを含む。QIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて、所望のDNAバンドを含むアガロースゲル切片を精製することができる。製造業者の取扱い説明書に従って、BamH I及びNde Iで挿入物及びベクターを消化し(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)、アガロースゲル電気泳動及びQIAEXIIキット(Qiagen社製)を用いて精製し、製造業者の指示書に従ってT4 DNAリガーゼと一緒に一晩インキュベートする。
【0256】
大腸菌(DH5alpha、又は好ましくは、XL1-Blue)を、ライゲーション混合物で形質転換する。クローンは、小規模な導入及びSDS−PAGEによって検査することができ、また、抗C3抗体を用いた粗製の溶解物のイムノブロッティングによって確認することができる。プラスミドDNAを精製して、その純度を評価することができる。(例えば、完全長のクローンを得るために鎖全体を配列決定するLiCor技術によって)、DNA配列決定を実施することができる。
【0257】
第1の構築物(pET3a-BA-07、配列番号7)は、このようにして調製され、クローニング戦略が原因となって5’末端に少し変化があるものの、構築物pGEX/BA-05の理論上のDNA配列に満足できる程度に合致している。
【0258】
製造業者の取扱い説明書に従い、pET3a構築物をBamH I及びNde I(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)で切断することにより、pET3a-BA-07に由来する挿入断片をpET9aベクターにサブクローニングすることによって、第2の構築物、即ちpET9a-BA-07を調製することができる。同じ酵素でpET9aプラスミドDNAを切断することができる。アガロースゲル電気泳動によって、挿入DNA及びベクターDNAを精製することができる。T4 DNAリガーゼ(New England BioLabs社製、マサチューセッツ州、ビバリー)を用いて、新しいベクター中に挿入断片を連結することができる。連結されたDNAをDH5alpha細胞中に形質転換させ、QIAGEN mini及びmaxiキットを用いてDNAを調製することができる。制限酵素消化及び双方向からの挿入断片のDNA配列決定によって(例えば、BioS&T社製、ケベック州、ラシーン)、クローンの特徴を決定することができる。BL21(DE3)細胞、BL21(DE3)/pLysS細胞(Novagen社製、ウィスコンシン州、マディソン)、又は別の適切な発現系中に構築物DNAを形質転換させることができる。
【実施例22】
【0259】
細胞増殖の指標としてトリチウム標識チミジン取込みを行うための一般的方法
H−チミジン取込みアッセイ
研究を開始する前に、マイコプラズマの有無について細胞系を試験し、陰性であることを確認する。細胞系は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(American Type Culture Collection)(メリーランド州、ロックビル)から入手する。HEC−1B系は、10%ウシ胎児血清(FBS)(fetal bovine serum)及び1%HEPESを添加したイーグル最小必須培地(E−MEM)(Eagles Minimal Essential Medium)中で培養する。Caco−2系は、20%FBS、1%HEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、及び0.1mMの非必須アミノ酸を添加したE−MEM中で培養する。SK−MEL−1系は、10%FBS及び1%HEPESを添加したマッコイ最小培地中で培養する。それぞれ体積100μlの、C3−07の2倍希釈標準溶液、陽性対照、及び溶媒対照を、細胞(4×10/100μl)を含む96ウェルマイクロタイタープレートにトリプリケートで播き、最終体積を200μlとする。プレートを5%CO、湿度100%の37℃インキュベーター中に置いた。インキュベーションの54時間後に、1.0μCiを含む、体積20μlのトリチウム標識チミジン(H−チミジン)(ICN社製、カナダ、モントリオール)を各ウェルに加える。H−チミジンは、10%FBSを添加したRPMI−1640培地中で調製する。上述したのと同じ条件で培養物をさらに18時間インキュベートする。
【0260】
インキュベーションの終了時に、自動細胞回収装置(Tomtec社製)で細胞を回収し、マイクロプレートシンチレーションカウンター(TopCount NXT、Packard社製)を用いて、取り込まれたH−チミジンの1分当たりのカウント数(cpm)を測定する。融合タンパク質BA−07で処理したウェルの値を溶媒対照の値と比較する。y軸に1分当たりのカウント数(cpm)をとり、X軸に融合タンパク質の用量をとって、データをグラフ化する。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1】トリチウム標識チミジン取込みによって測定した、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物の、HEC1Bヒト子宮内膜腺癌細胞の増殖に対する効果を示すグラフである。溶媒(10)はリン酸緩衝化生理食塩水であり、BA−07は、1μg/ml(11)、10μg/ml(12)、及び50μg/ml(13)の濃度で使用される。癌細胞の増殖は、用量依存的に低減されている。
【図2】トリチウム標識チミジン取込みによって測定した、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物の、SK−MEL−1ヒト黒色腫細胞の増殖に対する効果を示すグラフである。溶媒はリン酸緩衝化生理食塩水であり、BA−07は、1μg/ml、10μg/ml、及び50μg/mlの濃度で使用される。癌細胞の増殖は、用量依存的に低減されている。
【図3】[図3A]「Matrigel(商標)」マトリックス中で培養されたHUVEC内皮細胞による管構造形成を示す図である。このアッセイは、血管新生(antiogenesis)を調べる細胞培養アッセイである。図3A(囲み部分30)のように、本発明の融合タンパク質を含まない対照において、管形成をみとめることができる。[図3B]「Matrigel(商標)」マトリックス中で培養されたHUVEC内皮細胞の管形成の低減を示す図である。図3B、囲み部分31で示されているように、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物で処理された培養物は、管の数が少なく、血管新生の抑制を示している。
【図4】スルホローダミンB(SRB)(sulforhodamine B)増殖抑制アッセイによって測定した、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物による、TK−10ヒト腎臓癌細胞の増殖の抑制を示すグラフである。融合タンパク質BA−07は、0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、及び100μg/mlの濃度で使用される。使用されたすべての濃度で、癌細胞の増殖が低減されている。癌細胞増殖の低減は、用量依存的である。融合タンパク質濃度が100μg/mlのとき、本発明の組成物は、癌細胞の細胞死を誘導する。
【図5】スルホローダミンB(SRB)(sulforhodamine B)増殖抑制アッセイによって測定した、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物による、HOP−62非小細胞肺癌細胞の増殖の抑制を示すグラフである。融合タンパク質BA−07は、0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、及び100μg/mlの濃度で使用される。使用されたすべての濃度で、癌細胞の増殖が低減されている。癌細胞増殖の低減は、用量依存的である。
【図6】スルホローダミンB(SRB)(sulforhodamine B)増殖抑制アッセイによって測定した、融合タンパク質BA−07を含む本発明の組成物による、SF−286 CNS癌細胞の増殖の抑制を示すグラフである。融合タンパク質BA−07は、0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、及び100μg/mlの濃度で使用される。使用されたすべての濃度で、癌細胞の増殖が低減されている。癌細胞増殖の低減は、用量依存的である。
【図7】本発明の融合タンパク質及び製薬上許容される溶媒を含む薬剤組成物の投与の1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、及び24時間後における、1ミリリットル当たり10マイクログラムの融合タンパク質とともにインキュベーションした後の、活性化RhoAのレベルの低減を示すグラフである。
【図8】BA−07として融合タンパク質を含む組成物による、Caki−1腎臓癌細胞の(参照としての溶媒対照に対する増殖率としての)増殖の抑制を示すグラフである。増殖率は、融合タンパク質の相対濃度0.1、1、10、及び100で、SRBアッセイにより測定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法。
【請求項2】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制する方法。
【請求項3】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止する方法であって、前記融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法。
【請求項4】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む治療有効量の薬剤組成物を投与することを含み、前記投与が切除辺縁の表面若しくは切除辺縁の表面下、又は哺乳動物に残存する切除辺縁の近くの組織中に、直接なされ、前記投与が、第1の腫瘍の切除又は除去の前又はその後、或いはその前後の両方に、ある時間間隔でなされる、哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止する方法であって、前記融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する方法。
【請求項5】
融合タンパク質複合体がBA−05である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
癌が、乳房、脳、結腸、皮膚、腎臓、及び肝臓の癌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
癌が、肺、乳房、黒色腫、腎臓、及び消化管の腫瘍に由来する、脳内に位置する神経膠腫、神経腫瘍、松果体腫瘍、髄膜腫瘍、神経鞘の腫瘍、リンパ腫、奇形性腫瘍、及び転移性腫瘍からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
癌が、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、並びに髄芽細胞腫、松果体芽細胞腫及び松果体細胞腫、髄膜腫、髄膜血管周囲細胞腫、髄膜肉腫、シュワン腫(神経鞘腫)及び神経線維腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、非ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、類皮嚢胞、及びコロイド嚢胞からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
治療有効量が組織1cc当たり約0.001〜約50マイクログラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
治療有効量が組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
治療有効量が、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
投与が注射によって、局所投与によって、又は埋め込みによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
投与が、関節内投与、眼内投与、鼻腔内投与、神経内投与、皮内投与、骨内投与、舌下投与、経口投与、局所投与、膀胱内投与、包膜内投与、静脈内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入、噴霧化及び吸入、腫瘍への直接塗布、疾患部位への直接塗布、腫瘍切除後に残存する辺縁の表面又はその中への直接塗布、経腸投与、胃鏡検査処置及びECRPとともに行う経腸投与からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分が、約5〜約50個のアミノ酸を含むペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位が、融合タンパク質BA−05の配列で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
機能的アナログが、野生型ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼの活性の50%〜500%の範囲の活性を示すタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
薬剤組成物が、製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
薬剤組成物が、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、PVA、部分的に加水分解されたポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、部分的に加水分解された架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、PGA、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(無水物)、ポリカプロラクトンとポリエチレングリコールの共重合体、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコール;並びにその組合せ及び混合物からなる群から選択される製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
薬剤組成物が、水溶性ゼラチン、水溶性タンパク質、高分子担体、架橋剤、及びその組合せを含む製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
薬剤組成物が、マトリックスを含む製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
薬剤組成物が、水、製薬上許容される緩衝塩、製薬上許容される緩衝液、製薬上許容される抗酸化薬、アスコルビン酸、1種又は複数の低分子量の製薬上許容されるポリペプチド、約2〜約10個のアミノ酸残基を含むペプチド、1種又は複数の製薬上許容されるタンパク質、1種又は複数の製薬上許容されるアミノ酸、ヒトの必須アミノ酸、1種又は複数の製薬上許容される糖質、1種又は複数の製薬上許容される糖質由来の物質、非還元糖、グルコース、スクロース、ソルビトール、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、製薬上許容されるキレート剤、EDTA、DTPA、二価金属イオンに対するキレート剤、三価金属イオンに対するキレート剤、グルタチオン、製薬上許容される非特異的な血清アルブミン、及びその組合せを含む製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
薬剤組成物が無菌のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
薬剤組成物が滅菌可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
薬剤組成物が滅菌されている、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
薬剤組成物の単位投与量又は単位投与量の整数倍がバイアルに収容された、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
薬剤組成物を乾燥させた、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
薬剤組成物が乾燥マトリックスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
薬剤組成物が製薬上許容される担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
薬剤組成物が凍結乾燥マトリックス中に融合タンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用。
【請求項31】
哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用。
【請求項32】
哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、前記融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用。
【請求項33】
哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、前記融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用。
【請求項34】
融合タンパク質複合体がBA−05である、請求項30から33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
癌が、乳房、脳、結腸、皮膚、腎臓、及び肝臓の癌からなる群から選択される、請求項30、31、又は33に記載の使用。
【請求項36】
癌が、肺、乳房、黒色腫、腎臓、及び消化管の腫瘍に由来する、脳内に位置する神経膠腫、神経腫瘍、松果体腫瘍、髄膜腫瘍、神経鞘の腫瘍、リンパ腫、奇形性腫瘍、及び転移性腫瘍からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
癌が、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、並びに髄芽細胞腫、松果体芽細胞腫及び松果体細胞腫、髄膜腫、髄膜血管周囲細胞腫、髄膜肉腫、シュワン腫(神経鞘腫)及び神経線維腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、非ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、類皮嚢胞、及びコロイド嚢胞からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項35に記載の使用。
【請求項38】
薬剤組成物が、組織1cc当たり約0.001マイクログラム〜約50マイクログラムの剤形用に調製される、請求項30から37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項39】
薬剤組成物が、組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質の剤形用に調製される、請求項30から37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項40】
薬剤組成物が、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラムの剤形用に調製される、請求項30から37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
薬剤組成物が、注射、局所投与、又は埋め込み用に調製される、請求項30から40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項42】
薬剤組成物が、関節内投与、眼内投与、鼻腔内投与、神経内投与、皮内投与、骨内投与、舌下投与、経口投与、局所投与、膀胱内投与、包膜内投与、静脈内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入、噴霧化及び吸入、腫瘍への直接塗布、疾患部位への直接塗布、腫瘍切除後に残存する辺縁の表面又はその中への直接塗布、経腸投与、胃鏡検査処置及びECRPとともに行う経腸投与からなる群から選択される投与形態用に調製される、請求項1及び請求項30から40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項43】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分が、約5〜約50個のアミノ酸を含むペプチドを含む、請求項30から42のいずれか一項に記載の使用。
【請求項44】
ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位が、融合タンパク質BA−05の配列で示されるアミノ酸配列を含む、請求項30から43のいずれか一項に記載の使用。
【請求項45】
機能的アナログが、野生型ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼの活性の50%〜500%の範囲の活性を示すタンパク質を含む、請求項30から44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
薬剤組成物が、製薬上許容される担体をさらに含む、請求項30から45のいずれか一項に記載の使用。
【請求項47】
製薬上許容される担体が、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、PVA、部分的に加水分解されたポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、部分的に加水分解された架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、PGA、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(無水物)、ポリカプロラクトンとポリエチレングリコールの共重合体、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコール;並びにその組合せ及び混合物からなる群から選択される、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
製薬上許容される担体が、水溶性ゼラチン、水溶性タンパク質、高分子担体、架橋剤、及びその組合せを含む、請求項46に記載の使用。
【請求項49】
製薬上許容される担体が、マトリックスを含む、請求項46に記載の使用。
【請求項50】
製薬上許容される担体が、水、製薬上許容される緩衝塩、製薬上許容される緩衝液、製薬上許容される抗酸化剤、アスコルビン酸、低分子量の製薬上許容されるポリペプチド、約2〜約10個のアミノ酸残基を含むペプチド、製薬上許容されるタンパク質、製薬上許容されるアミノ酸、ヒトの必須アミノ酸、製薬上許容される糖質、製薬上許容される糖質由来の物質、非還元糖、グルコース、スクロース、ソルビトール、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、製薬上許容されるキレート剤、EDTA、DTPA、二価金属イオンに対するキレート剤、三価金属イオンに対するキレート剤、グルタチオン、製薬上許容される非特異的な血清アルブミンからなる群から選択される少なくとも1種の担体を含む、請求項46に記載の使用。
【請求項51】
薬剤組成物が無菌のものである、請求項30から50のいずれか一項に記載の使用。
【請求項52】
薬剤組成物が滅菌可能である、請求項30から50のいずれか一項に記載の使用。
【請求項53】
薬剤組成物が滅菌されている、請求項30から50のいずれか一項に記載の使用。
【請求項54】
薬剤組成物の単位投与量又は単位投与量の整数倍がバイアルに収容された、請求項30から53のいずれか一項に記載の使用。
【請求項55】
薬剤組成物を乾燥させた、請求項30から54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項56】
薬剤組成物が乾燥マトリックスを含む、請求項30から54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項57】
薬剤組成物が凍結乾燥マトリックス中に融合タンパク質を含む、請求項30から54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項58】
哺乳動物の癌の転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための医薬品を製造するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用。
【請求項59】
哺乳動物の癌の腫瘍の切除部位に近い宿主組織の切除辺縁内での、切除辺縁に残存する転移性新生細胞の制御不能な増殖及び拡大又は遊走を防止又は抑制するための医薬品を製造するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用。
【請求項60】
哺乳動物の宿主組織中の悪性細胞から腫瘍への成長を防止するための医薬品を製造するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、前記融合タンパク質が、悪性細胞の遊走、悪性細胞の増殖、悪性細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び悪性細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用。
【請求項61】
哺乳動物の癌の第1の腫瘍の切除又は除去部位の近くの宿主組織の切除辺縁内での、その癌の残存する腫瘍細胞を含む第2の腫瘍の増殖を防止するための医薬品を製造するための、ポリペプチド性の細胞膜輸送部分と、ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位又はその機能的アナログとを含む細胞透過性融合タンパク質複合体を含む薬剤組成物の使用であって、前記融合タンパク質が、残存する腫瘍細胞の遊走、残存する腫瘍細胞の増殖、残存する腫瘍細胞の近くでの血管新生又は管状構造形成又は毛細血管網成長、及び残存する腫瘍細胞からの活性なメタロプロテイナーゼの分泌のうちの少なくとも2つを同時に防止又は抑制する使用。
【請求項62】
融合タンパク質複合体がBA−05である、請求項58から61のいずれか一項に記載の使用。
【請求項63】
癌が、乳房、脳、結腸、皮膚、腎臓、及び肝臓の癌からなる群から選択される、請求項58、59、又は61に記載の使用。
【請求項64】
癌が、肺、乳房、黒色腫、腎臓、及び消化管の腫瘍に由来する、脳内に位置する神経膠腫、神経腫瘍、松果体腫瘍、髄膜腫瘍、神経鞘の腫瘍、リンパ腫、奇形性腫瘍、及び転移性腫瘍からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
癌が、未分化星状細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、並びに髄芽細胞腫、松果体芽細胞腫及び松果体細胞腫、髄膜腫、髄膜血管周囲細胞腫、髄膜肉腫、シュワン腫(神経鞘腫)及び神経線維腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、非ホジキンリンパ腫の原発性及び続発性の亜型、頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、類皮嚢胞、及びコロイド嚢胞からなる群から選択される脳腫瘍である、請求項63に記載の使用。
【請求項66】
薬剤組成物が、組織1cc当たり約0.001マイクログラム〜約50マイクログラムの剤形用に調製される、請求項58から65のいずれか一項に記載の使用。
【請求項67】
薬剤組成物が、組織1立方センチメートル(cc)当たり約0.0001マイクログラム〜約100マイクログラムの融合タンパク質の剤形用に調製される、請求項58から65のいずれか一項に記載の使用。
【請求項68】
薬剤組成物が、1ミリリットル当たり約1マイクログラム〜約10マイクログラム〜約50マイクログラムの剤形用に調製される、請求項58から65のいずれか一項に記載の使用。
【請求項69】
薬剤組成物が、注射、局所投与、又は埋め込み用に調製される、請求項58から68のいずれか一項に記載の使用。
【請求項70】
薬剤組成物が、関節内投与、眼内投与、鼻腔内投与、神経内投与、皮内投与、骨内投与、舌下投与、経口投与、局所投与、膀胱内投与、包膜内投与、静脈内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入、噴霧化及び吸入、腫瘍への直接塗布、疾患部位への直接塗布、腫瘍切除後に残存する辺縁の表面又はその中への直接塗布、経腸投与、胃鏡検査処置及びECRPとともに行う経腸投与からなる群から選択される投与形態用に調製される、請求項1及び請求項58から68のいずれか一項に記載の使用。
【請求項71】
ポリペプチド性の細胞膜輸送部分が、約5〜約50個のアミノ酸を含むペプチドを含む、請求項58から70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項72】
ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼ単位が、融合タンパク質BA−05の配列で示されるアミノ酸配列を含む、請求項58から71のいずれか一項に記載の使用。
【請求項73】
機能的アナログが、野生型ボツリヌス菌C3エキソトランスフェラーゼの活性の50%〜500%の範囲の活性を示すタンパク質を含む、請求項58から72のいずれか一項に記載の使用。
【請求項74】
薬剤組成物が、製薬上許容される担体をさらに含む、請求項58から73のいずれか一項に記載の使用。
【請求項75】
製薬上許容される担体が、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、PVA、部分的に加水分解されたポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、部分的に加水分解された架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸)、架橋ポリ(エチレン−co−ビニル酢酸−co−ビニルアルコール)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、PGA、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(無水物)、ポリカプロラクトンとポリエチレングリコールの共重合体、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコール;並びにその組合せ及び混合物からなる群から選択される、請求項74に記載の使用。
【請求項76】
製薬上許容される担体が、水溶性ゼラチン、水溶性タンパク質、高分子担体、架橋剤、及びその組合せを含む、請求項74に記載の使用。
【請求項77】
製薬上許容される担体がマトリックスを含む、請求項74に記載の使用。
【請求項78】
製薬上許容される担体が、水、製薬上許容される緩衝塩、製薬上許容される緩衝液、製薬上許容される抗酸化剤、アスコルビン酸、低分子量の製薬上許容されるポリペプチド、約2〜約10個のアミノ酸残基を含むペプチド、製薬上許容されるタンパク質、製薬上許容されるアミノ酸、ヒトの必須アミノ酸、製薬上許容される糖質、製薬上許容される糖質由来の物質、非還元糖、グルコース、スクロース、ソルビトール、トレハロース、マンニトール、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、製薬上許容されるキレート剤、EDTA、DTPA、二価金属イオンに対するキレート剤、三価金属イオンに対するキレート剤、グルタチオン、製薬上許容される非特異的な血清アルブミンからなる群から選択される少なくとも1種の担体を含む、請求項74に記載の使用。
【請求項79】
薬剤組成物が無菌のものである、請求項58から78のいずれか一項に記載の使用。
【請求項80】
薬剤組成物が滅菌可能である、請求項58から78のいずれか一項に記載の使用。
【請求項81】
薬剤組成物が滅菌されている、請求項58から78のいずれか一項に記載の使用。
【請求項82】
薬剤組成物の単位投与量又は単位投与量の整数倍がバイアルに収容された、請求項58から81のいずれか一項に記載の使用。
【請求項83】
薬剤組成物を乾燥させた、請求項58から82のいずれか一項に記載の使用。
【請求項84】
薬剤組成物が乾燥マトリックスを含む、請求項58から82のいずれか一項に記載の使用。
【請求項85】
薬剤組成物が凍結乾燥マトリックス中に融合タンパク質を含む、請求項58から82のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−506795(P2007−506795A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529512(P2006−529512)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001763
【国際公開番号】WO2005/030248
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(506105799)バイオアクソン セラピュティク インク (1)
【Fターム(参考)】