説明

ボリュームデータレンダリングシステムおよびボリュームデータレンダリング処理方法

【課題】
3次元ボリュームデータのゆらぎ表現の付加、さらに視聴者が直感的に把握しやすい速度表現も可能としたボリュームデータのレンダリングシステムを提供する。
【解決手段】
ボリュームデータ取得モジュールによりボリュームデータを入力し、ボクセルデータセット生成モジュールにより輝度値及び不透明度が与えられたボクセルデータセットを生成する。ボクセルデータセットからボクセルをサンプリングする際、ゆらぎ処理モジュールのゆらぎモデルに基づいたゆらぎを持たせつつボクセルの選択を行う。積分モジュールがサンプリングされたボクセルの輝度値及び不透明度を基に描画する画素データを計算する。描画モジュールはレイキャスティングモジュールから渡された画素データを描画する。さらに速度場モデルを持つ速度場処理モジュールによって速度表現を織り込んだ形のゆらぎ処理を行い、視聴者にボリュームデータの速度を表現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元空間で定義されたボリュームデータを可視化するボリュームデータレンダリングシステムおよびボリュームデータのレンダリング処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元コンピュータグラフィックの表現形式には多様なものが提案されている。
一般的には3次元オブジェクトのデータはポリゴンデータとテクスチャデータの組み合わせとして面単位で与えられることが多い。ポリゴンデータを用いれば3次元オブジェクトの外表面形状が網目状のワイヤフレームによって定義できる。描画(レンダリング)の際には表示シーンに応じて3次元オブジェクトの位置と角度を調整しつつポリゴンデータを配し、その表面にテクスチャデータを貼り付けることにより描画されることとなる。3次元オブジェクトの表現形式としてポリゴンデータによる表現は優れたものと言える。
【0003】
しかし、ポリゴンデータは、3次元空間内に分布する粒子の密度や濃淡によって表されるオブジェクトや物理現象の表現形式としては適していないとされている。例えば、大気中の水蒸気の濃度分布である「雲」はポリゴンデータとして表現することが難しい。雲は水蒸気の濃度分布に応じて、太陽光の吸収・散乱が起こり、白色や灰色の濃淡として表現されるが、空間内に複雑かつ淡い凹凸模様が連続して広がっており、外表面形状を網目状のワイヤフレームによって定義するポリゴンデータでの表現は困難である。「煙」も同様にポリゴンデータとして表現することが難しい。
【0004】
そこで、3次元空間内に分布する粒子の密度や濃淡の表現に適したデータ表現形式としてボリュームデータによる表現形式が研究されている。ボリュームデータとは、3次元空間に分布する粒子の密度や濃淡という特徴量と不透明度をボクセル(Voxel)ごとに持たせた3次元配列データである。ここでボクセルとは3次元空間を細かく分割した格子状の小立方を言う。3次元空間をボクセルで満たし、各ボクセルに特徴量を与えることにより3次元空間に広がりをもって分布する粒子の密度や濃淡という特徴量を適切に定義することができる。ここで、特徴量としては多様なものが想定され、高次元データとして与えられることもあり得る。前述の雲の例であれば特徴量として輝度と色合いが想定される。
【0005】
一方、不透明度は3次元オブジェクトに対して「ぼかし」や「透かし」の効果を与えるために導入されている。各ボクセルに不透明度を導入することにより、3次元オブジェクトについて半透明状態の表現や、霧のようないわゆる「ぼかし」効果を与えることが可能となる。
【0006】
以上のようにボリュームデータを導入することによって、3次元空間に広がりをもって分布する雲や煙などの3次元オブジェクトを適切に定義することができる。
【0007】
次に、ボリュームデータを用いて定義された3次元オブジェクトのレンダリング処理について述べる。
【0008】
図10は、ボリュームデータを用いた場合のレンダリング処理手順の基本的な流れを示した図である。
まず、ボリュームデータを取得する(S1)。ボリュームデータはあらかじめ用意されているものでも良く、3次元オブジェクトを観察してリアルタイムに作成するものでも良い。なお、取得したボリュームデータを基に必要な雑音除去や画像強調など前処理を行うことが好ましい。
【0009】
この前処理を施した上で、各ボクセルに対して輝度値と不透明度を決定し(S2)、ボクセルデータセットボリュームを形成する。
次に、レイキャスティング処理により各画素に対する最終的な輝度値を求める。レイキャスティング処理は、サンプリング処理(S3)およびサンプリングされたボクセルの輝度値と不透明度を元にした積分計算処理(S4)を備えている。
【0010】
図11は、レイキャスティング処理の概念を模式的に説明する図である。
レイキャスティングは、視点から各方向に視線(レイ)1202を出し、3次元空間内のボリュームのボクセルデータセット1200に分布しているボクセル1201を、レイ1202に沿ってサンプリングしてゆき、そのサンプリングされた各ボクセル1201の特徴量(輝度値)を加算して行く手法である。各ボクセルに不透明度を与えられていれば、レイキャスティングにより、半透明表示を行って内部が可視化される。レイキャスティングでは順次各ボクセルの輝度値と不透明度との積を加算していき、不透明度の総和が1となるか、レイが、3次元オブジェクトから突き抜けたときに、その画素に対する処理を終了し、加算結果を描画面1300の画素の値1301として表示する。
【0011】
現在のサンプル位置での輝度値と不透明度をそれぞれi、αとすると、レイキャスティングによる画素の輝度値Ioutは、視線の入力時の輝度値をIinとすると以下の積算計算による下記数1で表される。
【0012】
【数1】

【0013】
最終的に描画される画素値1301は、上記数式1をすべてのサンプリングされたボクセルを積分して得られたものとなる。
【0014】
従来技術では、上記の手順によりボリュームデータのレンダリング処理が行われ、モニタ上の各画素に対して描画処理(S5)が行われるが、下記の問題点が指摘されている。
第1は、計算コストが大きいことである。ボリュームデータは3次元空間に広がる各ボクセルを基本に計算を行うので、複雑で膨大な計算が必要となる。
第2は、メモリの消費量が大きいことである。3次元空間全体に広がる各ボクセルの輝度値や不透明度をデータとして扱う必要があるので、多量のメモリを消費してしまう。
【0015】
これら2つの問題を解決しつつ、ボリュームデータのレンダリング処理を高速に行うためには、専用のアクセラレータなどの特別のリソースを搭載し、多量のメモリを装備した専用プロセッサの開発が必要とされていた。
【0016】
特に、雲のような静止物を静止状態で表示するものではなく、煙のような動きのあるボリュームデータをバーチャルリアリティ空間においてレンダリング処理する場合には、煙が流れて動くたび、または、観察者が移動するたびに、リアルタイムに複雑な計算を実行しなければならないため、困難性が増す。
【0017】
この問題点を解決することを目指した従来技術として、特開平5−266216号公報、特開2003−263651号公報が挙げられる。これらはいずれも、ボリュームデータの表現形式に、スライス状のサーフィスモデルの表現形式を導入し、ボリュームデータの内部のレンダリング処理を簡素化する技術である。
【0018】
図12は、ボリュームデータの表現形式にスライス状のサーフィスモデルの表現形式を導入する概念を模式的に示す図である。
図11に示した従来技術では、各レイについて行ったサンプリング処理と輝度値の積和計算処理を独立に実行するところ、図12に示す従来技術では、ボリュームデータをスライスして分割し、各スライス面をサーフィスモデルとしてポリゴンデータで記述しておくものである。このようにボリュームデータを各スライス面のサーフィスモデルの積み重ねとして準備しておくことにより、各レイについて行うサンプリング処理と輝度値の処理を当該スライス面ごとにまとめて横断的に行うことができる。例えば、各スライス面のサーフィスモデルに不透明度を与えておけば、半透明のシートを複数枚重ねて通し見たように各画素の最終的な輝度値を決定することができる。また、観察者がボリューム内を移動して行く場合には、視点に応じたスライス面の2次元描画をポリゴンデータで高速処理することにより、擬似的にボリューム内部の描画を行うこともできる。
【0019】
【特許文献1】特開平5−266216号公報
【特許文献2】特開2003−263651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のように、ボリュームデータの表現形式にスライス状のサーフィスモデルの表現形式を導入すれば、計算コストを低減することができ、また、バーチャルリアリティ空間での観察者が移動する場合も、擬似的にボリューム内部の3次元描画処理を実行することができる。
【0021】
しかし、上記従来のレンダリング処理技術では、下記に示す問題がある。
第1の問題は自然さが損なわれる問題である。取得したボリュームデータをできるだけ実体の物理現象に近い状態を表すように描画することが好ましいところ、上記従来技術でレンダリング処理すれば、本来自由空間である3次元空間内にスライス状のサーフィスモデルを導入するためにボクセル間に平面状の拘束関係が生じてしまい、自然さが損なわれてしまう。つまり、煙などは3次元空間内に広がりをもって存在しているが、スライス状のサーフィスモデルを導入するのでボクセルはスライス平面上の3角形のポリゴンデータとして記述されることとなり(特開平5−266216号公報の図5など)、3次元空間内での広がりという特徴が表現できなくなる。
【0022】
第2の問題はゆらぎ表現の問題である。取得したボリュームデータ自体にはゆらぎのデータが与えられていないが、煙などは3次元空間において上下左右のみならず前後方向にも自由度を持ちつつゆらぎながら流れており、レンダリング処理において、このゆらぎの表現ができれば、より実体の物理現象に近い状態を表すように描画することができる。しかし、上記従来技術によってレンダリング処理すれば、小さい計算コストにおいてこのような煙などの実体のゆらぎ具合いを表現することができない。
【0023】
第3の問題は粒子の流速表現の問題である。取得したボリュームデータにはマクロなボリュームデータの移動は含まれているが、例えば、煙などの場合は煙の粒子が流れて移動する様が表現できないとのっぺりとした塊が移動しているように表現されてしまう。もし、煙粒子の流速が適切に表現できると、より実体の物理現象に近い状態を表すように可視化することができ、さらに、視聴者が煙などの描画対象の流速を直感的に感得しやすくなる。
【0024】
本発明は、上記問題点に鑑み、計算コストの増大を抑えつつ、3次元ボリュームデータのゆらぎ表現の付加が柔軟にでき、視聴者が直感的に把握しやすい粒子の流速の表現も可能としたボリュームデータのレンダリングシステムおよびボリュームデータのレンダリング処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため、本発明のボリュームデータのレンダリングシステムは、ボリュームデータを基に輝度値および不透明度が与えられたボクセルデータセットを生成するボクセルデータセット生成モジュールと、前記ボクセルデータセットからレイに沿ったボクセルをサンプリングし、前記サンプリングにかかるボクセルの輝度値および不透明度を基に描画すべき画素データを生成するレイキャスティングモジュールと、前記画素データを受け、ボリュームデータを描画する描画モジュールとを備え、前記レイキャスティングモジュールが、前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置をゆらぎモデルに基づいて変動させることを特徴とする。
【0026】
上記構成において、前記ゆらぎモデルを前記ボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルとすることが好ましい。例えば、描画対象となるボリュームデータが火災時の煙であれば、煙がモクモクとゆらぎながら立ち昇る具合いを反映する系統的なゆらぎモデルとする。一般的に煙のような乱流現象は、統計的な量により特徴付けられるため、実際に生じる現象における空間濃度分布の周波数特性を反映させたゆらぎボリュームを用意することが好ましい。
さらに上記構成において、前記ゆらぎモデルが、ボクセルの色合いデータについてのゆらぎの記述も備えていることも好ましい。ここで、色合いデータとは画素の色表現に関するデータであり、例えば、加法混色のRGBデータ、減法混色のCMYKデータ、顕色系であるマンセル表色系データやHIS表色系データなどが挙げられる。
【0027】
また、複数のゆらぎモデルを格納したゆらぎモデルデータベースを備え、前記レイキャスティングモジュールが、前記ゆらぎモデルデータベースから前記ボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルを選択して装備することも好ましい。
【0028】
また、前記レイキャスティングモジュールが、前記ゆらぎモデルに基づく前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置の変動において、前記ゆらぎの大きさおよび流れる方向について前記ボリュームデータにより表現される物理現象の移動速度を反映した速度場モデルによる調整を加えることも好ましい。
【0029】
また、複数の速度場モデルを格納した速度場モデルデータベースを備え、前記レイキャスティングモジュールが、前記速度場モデルデータベースから前記ボリュームデータにより表現される物理現象の移動速度を反映した速度場モデルを選択して装備できることが好ましい。
【0030】
さらに、前記ゆらぎモデルが、各ボクセルにゆらぎ関数を配したゆらぎボリュームの形で定義され、前記速度場モデルが、各ボクセルに速度を表す関数を配した速度場ボリュームの形で定義され、前記ゆらぎボリュームにおいてどのボクセルを参照しているかを示す参照情報を保持するインデックスボリュームを備え、前記インデックスボリュームを介して前記ゆらぎボリュームと前記速度場ボリュームとを連携させ、前記レイキャスティングモジュールが、前記速度場ボリュームによる前記物理現象への影響を反映させて前記インデックスボリュームの参照情報を更新し、前記更新にかかる参照情報が示すゆらぎボリュームのボクセルに配されているゆらぎ関数を用いて前記サンプリングにかかるボリュームデータのボクセルの座標位置を変動させることも好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のボリュームデータのレンダリングシステムによれば、レイキャスティングモジュールがサンプリングにかかるボクセルの座標位置をゆらぎモデルに基づいて変動させるので、煙などの描画対象のレンダリング結果において、計算コストの増大を抑えつつ、3次元ボリュームデータとしての自然さを保ちつつ、煙などのボリュームデータのゆらぎ表現を柔軟に可視化できるボリュームデータのレンダリングシステムを得ることができる。
【0032】
本発明のボリュームデータのレンダリングシステムによれば、レイキャスティングモジュールが、ゆらぎモデルに基づくサンプリングされるボクセル座標位置の変動において、ゆらぎの大きさおよび流れる方向についてボリュームデータにより表現される物理現象の移動速度を反映した速度場モデルによる調整を加えるので、可視化された煙などの描画対象のレンダリング結果において煙の流速を適切に表現することができ、視聴者が煙などの描画対象の流速を感得しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明のボリュームデータのレンダリングシステムは、取得したボリュームデータのレンダリング処理において、計算コストの増大を抑えつつ、実体の物理現象に近い自然さを保ちつつ、ゆらぎ表現および粒子の流速の表現も可能としたものである。
本発明では、描画対象となる物理現象が持つ特徴的なゆらぎを記述したゆらぎボリュームという概念を導入し、各ボクセルのサンプリング処理において、当該ゆらぎボリュームを参照しつつボクセルのサンプリング処理にゆらぎを与えるものである。
【0034】
以下、実施例1としてゆらぎ表現を可能とした構成例、実施例2としてゆらぎ表現および粒子の流速の表現も可能とした構成例、実施例3として、さらなる応用・拡張を可能とした構成例を示す。
【実施例1】
【0035】
実施例1にかかる、ゆらぎ表現を可能としたボリュームデータのレンダリングシステムの構成例を示す。
図1は本発明の実施例1にかかるボリュームデータのレンダリングシステムにおけるレンダリング処理の基本的な流れを模式的に示した図である。
【0036】
本発明の実施例1のボリュームデータのレンダリングシステムにおいても、まず、ボリュームデータの取得処理(S1)、各ボクセルごとの輝度値と不透明度の決定処理(S2)が行われる。これらの処理は、図10に示した従来技術によるボリュームレンダリング処理の流れと同様で良い。
【0037】
本発明のレイキャスティング処理では、新たに、ゆらぎ処理を加味したサンプリング座標位置の決定処理(S10)が加えられており、ボクセルのサンプリング処理(S3)に対してゆらぎ処理(S10)が反映されている。
従来技術のボクセルのサンプリング処理では、図11に示したようにレイの通り道に沿って一定間隔でボクセルをサンプリングするものであり、サンプリングされるボクセルは固定的であった。図12に示したスライス状のサーフィスモデルの概念を取り込んだ従来技術でのボクセルのサンプリング処理も、サーフィス間の距離が固定的であり、結局、レイの通り道に沿って一定間隔でボクセルをサンプリングするものと同様であると言える。
【0038】
しかし、本発明のボリュームデータレンダリングシステムでは、ボクセルのサンプリング位置において、ゆらぎモデルに基づいていわゆる空間的なゆらぎを持たせるため、各々サンプリングされるボクセルの輝度値と色合いが一定ではなくゆらぎが生じることとなる。最終的な輝度値の積分計算の結果においてもゆらぎが生じることとなり、可視化されたレンダリング結果となる画素の輝度値や色合いにゆらぎが反映されることとなる。
【0039】
図2は、本発明のボリュームデータレンダリングシステムのサンプリング処理におけるサンプリングするボクセルの座標位置のゆらぎを模式的に示した図である。
200はボリュームデータのボクセルデータセットである。ボクセルを格子単位として形成されている。201はサンプリングされるボクセルを模式的に表している。300はレイである。
【0040】
図2の一番上の図は、第1のフレームを描画するためのレイキャスティングによるボクセルデータセットのサンプリング処理の様子を示している。図11に示した固定的なレイサンプリングに対して空間的にゆらぎを持っていることが分かる。レイの通り道に対してサンプリングされるボクセル201の座標位置が3次元的にゆらいでいる。このサンプリング結果に基づいて第1のフレームにおける対応画素の画素値が決められる。
【0041】
図2の中央の図は、第nのフレームを描画するためのレイキャスティングによるボクセルデータセットのサンプリング処理の様子を示している。図2の中央の図においてサンプリングされるボクセル201は、図2の一番上の図においてサンプリングされるボクセル201に対してゆらぎを持っていることが分かる。このゆらぎは図2の一番上の第1のフレームからnフレーム時間分経過したことにより生じているゆらぎ、つまり、時間的ゆらぎである。
【0042】
このように本発明のボリュームデータレンダリングシステムは、1フレームの中に空間的ゆらぎを織り込むことができ、さらに、動画として表示される可視化画像においてフレーム間の時間的ゆらぎを織り込むことができる。このようにゆらぎ処理(S10)に用いるゆらぎモデルの記述が空間的ゆらぎのみならず時間的ゆらぎを持つものであれば、ゆらぎモデルに基づいてサンプリングするボクセル座標位置がフレーム間でゆらぐこととなり、各ボクセルの輝度値と不透明度から積分計算される輝度値においてゆらぎが反映され、レンダリング結果においてゆらぎを与えることができる。
【0043】
ここで、上記のゆらぎ処理において、描画する対象となるボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルを導入すれば、レンダリング結果において描画する対象の実体の物理現象を反映するゆらぎを織り込んで表現することが可能となる。この点の詳しい説明は後述することとする。
【0044】
レイキャスティング処理におけるサンプリング処理の結果、サンプリングされたボクセルの輝度値をi,不透明度をα、このボクセルに入射する入射輝度値をIinとし、このボクセルを抜け出たときの出射輝度値をIoutとすると、当該ボクセルの出射輝度値は、従来技術でも上述の数1として掲載されたものと同じ数式である数2で示される。
最終的に描画される画素値は、対応するレイの通り道に沿ってゆらぎ処理を経てサンプリングされているボクセルについて下記数2を積分したものとなる。
【0045】
【数2】

【0046】
各画素の描画処理を実行し、モニタ上に煙などのボリュームデータを描画する。
なお、図1に示した積分処理(S4)、各画素の描画処理(S5)については、図10に示した従来技術によるボリュームレンダリング処理の流れと同様で良い。
以上が、本発明のボリュームレンダリングシステムの基本的な処理の流れである。
【0047】
次に、システムの構成例を示す。
図3は、具体的に処理モジュールによってボリュームデータレンダリングシステム100を構築した例を示す図である。各処理モジュールは汎用的なCPUとメモリシステムの組み合わせで構成しても良く、DSPなど専用アクセラレータを用いても良い。
【0048】
110はボリュームデータ取得モジュールである。例えば、シミュレーションデータとして与えられているボリュームデータを取り込む。外部入力インタフェースを備え、ネットワークを介して外部からボリュームデータを取り込む構成であっても良い。
【0049】
120はボクセルデータセット生成モジュールである。輝度値決定モジュール121および不透明度決定モジュール122を備えている。ボリュームデータ取得モジュール110からボリュームデータを受け取り、ボクセルごとに展開し、その輝度値と不透明度のデータセットを得る。
【0050】
ボリュームデータ取得モジュール110とボクセルデータセット生成モジュール120間にはループが形成されている。ボリュームデータは、シミュレーションの進行に伴って変化する場合が多い。ボリュームデータの更新を反映した新たなボクセルデータセットを用意しなければないため、ボリュームデータの更新周期ごとにボリュームデータ取得モジュール110を介して新たなボリュームデータを取得し、ボクセルデータセットを生成する必要がある。そのため、図中に示したようにボリュームデータ取得モジュール110とボクセルデータセット生成モジュール120による処理がループを形成する。
【0051】
130はレイキャスティングモジュールである。レイキャスティングモジュール130は、サンプリングモジュール131と、積分モジュール132と、ゆらぎ処理モジュール133を備えている。
【0052】
サンプリングモジュール131は、まず、サンプリング原座標 d(x,y,z)を所定の規則に従って決める。例えば、図11に示した如く、ある画素に対応するレイを一つ選定し、当該レイがボリュームを貫く道筋に沿って所定間隔のボクセルの座標値 d(x,y,z)を決める。サンプリングモジュール131は当該サンプリング原座標 d(x,y,z)をゆらぎ処理モジュール133に渡す。
【0053】
ゆらぎ処理モジュール133は、ボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルを備え、所定間隔であったサンプリング原座標 d(x,y,z)に対して、ゆらぎを考慮したサンプリングゆらぎ座標 U(t,d) に変換する。サンプリングモジュール131より受け取ったサンプリング原座標 d(x,y,z)に対してゆらぎモデルを基にゆらぎ処理を加え、サンプリングゆらぎ座標 U(t,d) を発生するものである。ゆらぎ処理モジュール133は各ボクセルにゆらぎ値を持たせたゆらぎモデルボリュームを備えている。ゆらぎ値は x,y,z の3成分を持つベクトルとして与えられている。
【0054】
サンプリングモジュール131はゆらぎ処理モジュール133からサンプリングゆらぎ座標 U(t,d) を受け取り、当該座標位置のボクセルをサンプリング対象として決定する。
レイキャスティングモジュール130は、サンプリングゆらぎ座標 U(t,d) を基にボクセルデータセット生成モジュール120にアクセスし、それぞれの座標位置のボクセルの輝度値と不透明度を取得する。その後、積分モジュール132において、数式2に基づいた積分が施される。この積分値が対象としている画素の画素値となる。
【0055】
描画モジュール140は、レイキャスティングモジュール130から積分された輝度値を受け、当該輝度値に従って画素をモニタ上に描画する。この描画モジュール140により全ての画素について描画すれば、ボリュームを可視化した一フレームが完成する。
ボリュームデータのシミュレーション表示が動画である場合、所定のフレーム周期ごとにフレームを書き換える必要がある。そのためレイキャスティングモジュール130と描画モジュール140はループを形成しており、例えば、1秒30フレームで表示する場合、上記レイキャスティングモジュール130と描画モジュール140によるループ処理を1秒間に30回繰り返す。この30フレームの可視化画像において、ボクセルのサンプリング座標位置についてボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映するゆらぎ処理が加えられているため、結果として、煙などが実際に近い形でゆらいでいるような効果を与えることが可能となる。
【0056】
図4は、本発明におけるゆらぎ処理の概念を模式的に示した図である。
図4において、200はボリュームデータセットである。210はゆらぎボリュームを模式的に示している。ゆらぎボリューム210とは、ゆらぎモデルに基づいて3次元空間の各ボクセルにゆらぎの関数を配した一種の写像ベクトル空間である。ある座標 d(x,y,z)を与えられると、その座標位置のボクセルに配されたゆらぎ関数 U(t,d) に変換する。
【0057】
従来技術であれば、点線の矢印で示したように、ボリュームデータに対してある座標 d(x,y,z)を手掛かりとして、直接ボリュームデータの座標 d(x,y,z)に配されているボクセルの輝度値、不透明度を取得する。
しかし、本発明のボリュームデータレンダリングシステムでは、ゆらぎボリュームにおいて座標変換を施してからボリュームデータにアクセスする。実線の矢印で示したように、まず、ある座標 d(x,y,z)をゆらぎボリュームに与え、ゆらぎボリュームにおいて当該座標 d(x,y,z)に配されているゆらぎ関数 U(t,d) に変換する。そして変換されたゆらぎ関数 U(t,d) に基づいて、レンダリングするフレームに対応する時刻t1のゆらぎ関数 U(t1,d) を特定した上で、ボリュームデータにアクセスし、当該座標位置 d+U(t1,d) に配されているボクセルの輝度値、不透明度を取得する。
【0058】
次に、ゆらぎボリューム210の一例を示す。
ゆらぎボリュームの一般的な形式は以下の写像で表現される。
U: (x,y,z)∈R3→R3
また、次の(1)および(2)の性質を満たすことが望ましい。
(1)平均が0であること
(2)特徴的な長さを持つこと(フーリエ変換により得られる周波数成分が特徴的なピークを持つこと)
【0059】
なお、サンプリング座標位置の決定処理において加味するゆらぎ処理のモデルとして、描画するボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎに近い自然さを反映する系統的なゆらぎモデルを利用することが好ましい。例えば、描画するボリュームが煙である場合、煙が立ち昇る時にみられる特徴的なゆらぎパターンをモデル化したゆらぎモデルを採用すれば、可視化された煙のボリュームデータのゆらぎ具合いが実体の煙のゆらぎ具合いと近くなるという効果が得られる。
【0060】
煙に関するゆらぎボリュームu(t,d)は以下の手続きにより生成されたものである。まず、全ゆらぎを0に初期化する。次に、ボリューム中の位置r(x,y,z)をランダムに選択し、各ボクセルdが保持しているゆらぎの各成分に対して正規分布的な下記数3の変化を加える。
【0061】
【数3】

【0062】
ここでlは煙が形成するパターンの特徴的なサイズである。k,lにさらにゆらぎを与えることも可能である。上式によるゆらぎボリュームへの摂動の付加を繰り返し行うことにより、短距離自己相関の強いゆらぎが生成される。
【0063】
次に、本発明は、上記のようにサンプリングするボクセルの座標位置の決定においてゆらぎを導入するが、さらにそのサンプリングされたボクセルの持つ輝度値や色合いのデータに対して直接ゆらぎを導入することも可能である。ボリュームデータセットにおける隣接するボクセル間の輝度値や色合いの変化が小さい場合であっても、輝度値や色合いのデータに対して直接ゆらぎを導入する調整を行うことにより、視聴者に対して、可視化された煙などのボリュームデータのゆらぎ具合いについての分かりやすい視覚効果を確保せしめることが可能となる。
【0064】
サンプリングされたボクセルの持つ輝度値や色合いのデータにゆらぎを与えるゆらぎボリュームの一例は以下のようなものが想定できる。
例えば加法混色のRGB系データの場合であれば、
U: (R,G,B)∈R3→R3
例えばHSI系データの場合であれば、
U: (H,S,I)∈R3→R3
【0065】
本発明のレンダリングシステムは、雲などの静止物の描画のみならず、煙のように流体物など動的に変化するボリュームデータのレンダリング処理を行うことができるものである。そのため、図4に示したゆらぎボリュームを介したボリュームデータのアクセスは定期的に更新される必要がある。
【0066】
第1の更新処理は、フレーム周期ごとに行う更新処理である。例えば、1秒30フレームの表示処理を行うならば1/30秒ごとにゆらぎボリューム210の示す座標位置のボクセルのサンプリング処理と積分処理を実行して次のフレームの各画素の描画処理を実行する。このように1/30秒ごとにゆらぎボリューム210からボリュームデータ200へのアクセスを実行し、実際の煙が持つゆらぎの動きを加味した微妙な煙粒子のゆらぎを表現しつつ描画処理を行う。なお、描画の品質を考慮し、例えば、コマ落ちさせて、1/15秒ごとの更新処理としたり、1/10ごとの更新処理とすることができる。
【0067】
第2の更新処理は、ボリュームデータ200の更新周期ごとに行う更新処理である。描画対象となる3次元オブジェクトがマクロに移動したり、変形したりする場合、ボリュームデータ200自体を適宜なタイミングで更新して新しいボリュームデータ200に差し替えられる。例えば、煙が壁面に沿って移動したり、風により流されたりするような、マクロな移動や変形を表現する場合、ボリュームデータ200自体を更新する。例えば、0.5秒ごと、1秒後など3次元オブジェクトのマクロな変化の速さに応じて適切なタイミングで更新する。
【実施例2】
【0068】
本発明の実施例2のボリュームデータレンダリングシステムは、実施例1のボリュームデータの粒子のゆらぎ表現に加え、粒子の流速の表現も可能とした構成例である。
トンネル内や地下街での火災などにおいては、単に煙が自然に立ち昇るのみではなく、トンネル内や地下街における空気の流れが煙の動きに大きく影響する。ここで、空気の流れに乗った煙のマクロな移動などは、もともとシミュレーションデータ中に記述されているので、レンダリングシステムは基本的にはそのシミュレーションに従って描画すれば良い。しかし、煙などのオブジェクトはシミュレーションデータ中では粒子一つ一つの動きとして記述されているわけではなく、ボリュームデータという塊で与えられることが多い。そのため、レンダリングシステム側において適切なゆらぎ表現を行わなければ、比較的のっぺりとした塊の動きとして表現されてしまう。また、視聴者にとって煙の流速が実感しづらい場合が多かった。
【0069】
そこで、実施例2は、実施例1で導入した煙という物理的現象の特徴を反映するゆらぎ表現に加え、さらに、風など外界からの影響を反映するゆらぎ表現を導入し、視聴者に擬似的に煙の流速を実感しやすい可視化表現を行うものである。
図5は、本発明の実施例2にかかるボリュームデータのレンダリングシステムにおけるレンダリング処理の基本的な流れを模式的に示した図である。
【0070】
本発明の実施例2のボリュームデータレンダリングシステムにおいても、実施例1のボリュームデータレンダリングシステムと同様、レイキャスティング処理にゆらぎ処理が加えられているが、実施例2のゆらぎ処理(S10a)は、粒子の流速表現も取り込んだゆらぎ表現とし、視聴者が粒子の流速を実感しやすいような可視化表現となっている。
【0071】
その他のボリュームデータの取得処理(S1)、各ボクセルごとの輝度値と不透明度の決定処理(S2)、サンプリング処理(S3)、積分処理(S4)、描画処理(S5)は実施例1と同様で良い。
【0072】
本実施例2のボリュームデータレンダリングシステムは、ボリュームデータの粒子のゆらぎ表現に加え、粒子の流速の表現も可能とするため、速度場ボリュームという概念を導入する。速度場ボリュームは、速度場モデルに基づいて3次元空間の各ボクセルに速度を表す関数を配した一種の写像ベクトル空間である。ある座標 d(x,y,z)を与えられると、その座標位置のボクセルに配された速度v(t,d)に変換する。
【0073】
本実施例2のボリュームデータレンダリングシステムでは、レイキャスティングモジュールは、速度場処理モジュールを介して風などの周囲の環境の影響を反映した上でゆらぎ処理モジュールでのゆらぎ処理を行うものとなっている。
本実施例2のボリュームデータレンダリングシステムは、速度場ボリュームとゆらぎボリュームを維持しつつ、これら2つの3次元ベクトル空間のボクセルに配された関数の演算を行う必要がある。そこで、同じく3次元ベクトル空間のボクセルを持ち、参照点を保持するインデックスボリュームを導入する。
【0074】
図6は、実施例2の流速表現を反映したゆらぎ処理の概念を模式的に示した図である。
図6において、ボリュームデータセット200およびゆらぎボリューム210は図4と同様である。
【0075】
インデックスボリューム220は、ゆらぎモデルボリューム210の参照点を保持しているボリュームである。インデックスボリューム220は、ボリュームデータ200、ゆらぎボリューム210、速度場ボリューム230と同じ3次元空間に配されたボクセルを持っている。インデックスボリューム220は、初期化時に、各ボクセルに連続した値が入っていることが好ましい。例えば、i(r)=rとする。
【0076】
速度場ボリューム230は、風などの影響を記述したモデルを備え、各ボクセルに3次元ベクトルデータを持たせている。例えば、v(r)と表現される。
インデックスボリューム220を介してゆらぎモデルボリューム210を参照するので、速度場の影響で時々刻々と移動する変化をインデックスボリュームに反映させて保持することができる。例えば、下記数4のように参照点を移動する。
【0077】
【数4】

【0078】
従来技術であれば、点線の矢印で示したように、ボリュームデータに対してある座標 d(x,y,z)を手掛かりとして、直接ボリュームデータの座標 d(x,y,z)に配されているボクセルの輝度値、不透明度を取得する。
しかし、実施例2のボリュームデータレンダリングシステムでは、実線の矢印で示したように、速度場ボリューム230による流速表現の反映と、ゆらぎモデルボリューム210による座標変換を施してからボリュームデータにアクセスする。
【0079】
まず、ある座標 d(x,y,z)をインデックスボリューム220に与え、インデックスボリューム220において当該座標 d(x,y,z)に配されているボクセルが持つ参照座標 i(t,d)に変換する。次に、参照座標 i(t,d)をゆらぎボリューム210に与え、ゆらぎボリューム210において当該参照座標 i(t,d)に配されているボクセルが持つゆらぎ関数 u(t,i(t,d)) に変換する。そして変換されたゆらぎ関数 u(t,i(t,d))に基づいて、レンダリングするのフレームに対応する時刻t1のゆらぎ関数 u(t1,i(t1,d)) を特定した上で、ボリュームデータにアクセスし、当該座標位置 d+u(t1,i(t1,d)) に配されているボクセルの輝度値、不透明度を取得する。
【0080】
上記のように、風などの影響を反映した形でインデックスボリューム220の参照座標が移動して行くので、輝度値および不透明度の変化の速さも参照座標の移動の速さに従って変化するので、擬似的に煙などの粒子の流速を可視化したレンダリングが可能となる。
【0081】
図7は、具体的に処理モジュールによってボリュームデータレンダリングシステム100を構築した例を示す図である。各処理モジュールは汎用的なCPUとメモリシステムの組み合わせで構成しても良く、DSPなど専用アクセラレータを用いても良い。
【0082】
実施例2では、レイキャスティングモジュール130の中に、サンプリングモジュール131と、積分モジュール132と、ゆらぎ処理モジュール133に加え、速度場処理モジュール134が加えられている。
【0083】
実施例1の図3の場合、サンプリングモジュール131は、サンプリング原座標 d(x,y,z)を所定の規則に従って決め、当該サンプリング原座標 d(x,y,z)をゆらぎ処理モジュール133に渡したが、実施例2の場合、サンプリングモジュール131は、サンプリング原座標 d(x,y,z)を所定の規則に従って決め、まず、速度場処理モジュール134に渡す。
【0084】
速度場処理モジュール134は、風などの周囲の環境の影響を記述したモデルを備え、サンプリングモジュール131より受け取ったサンプリング原座標 d(x,y,z)に対して速度場モデルを基に、煙などの流速を反映したシフト処理を加え、インデックスボリュームの当該座標位置のボクセルが持つ参照座標 i(t,d)を発生する。つまり、サンプリング原座標 d(x,y,z)に対して、煙粒子の風などによる動きを考慮した参照座標 i(t,d)に変換する。
【0085】
ゆらぎ処理モジュール133は、速度場処理モジュール134から参照座標 i(t,d)を受け取り、参照座標 i(t,d)に対してゆらぎモデルを基にゆらぎ処理を加え、サンプリングゆらぎ座標 u(t,i(t,d))を発生する。つまり、ゆらぎ処理モジュール133は受け取った参照座標 i(t,d)に対して、ゆらぎを考慮したサンプリングゆらぎ座標 u(t,i(t,d))に変換する。サンプリングモジュール131はゆらぎ処理モジュール133からサンプリングゆらぎ座標 u(t,i(t,d))を受け取り、当該座標位置のボクセルをサンプリング対象として決定する。
【0086】
このように、実施例2では、レイキャスティングモジュール130は、速度場処理モジュール134を介して風などの周囲の環境の影響を反映した上でゆらぎ処理モジュール133でのゆらぎ処理を行うものとなっている。
レイキャスティングモジュール130は、サンプリングゆらぎ座標 u(t,i(t,d))を基にボクセルデータセット生成モジュール120にアクセスし、それぞれの座標位置のボクセルの輝度値と不透明度を取得する。その後、積分モジュール132において、前述の数2に基づいた積分が施される。この積分値が対象としている画素の画素値となる。描画モジュール140は、レイキャスティングモジュール130から積分された輝度値を受け、当該輝度値に従って画素をモニタ上に描画する。この描画モジュール140により全ての画素について描画すれば、ボリュームを可視化した一フレームが完成する。
【0087】
このように実施例2のボリュームデータレンダリングシステムは、1フレームの中に空間的ゆらぎを織り込むことができ、さらに、動画として表示される可視化画像において、風などの影響を反映した流速表現を取り込んだフレーム間の時間的ゆらぎを織り込むことができる。このように流速表現を取り込んだゆらぎ処理(S10a)を行うことにより、サンプリングするボクセル座標位置がフレーム間でゆらぐこととなり、レンダリング結果において擬似的に流速表現を取り込んだゆらぎを与えることができる。
【0088】
次に、インデックスボリュームの定期的な初期化処理の工夫について述べる。
風などボリュームデータに対する外界の影響が複雑であり空間全体にわたり一様というものではなく、場所(座標位置)によっては異なる速度を持っている速度場モデルである場合、サンプリング原座標において近くに位置し、相互に相関が強く、当初、ゆらぎボリューム内の近くのボクセルを参照していた2点について、速度場モデルにおいて異なる速度を持っている場合、時間の経過とともにインデックスボリュームでの参照点が互いに離れて行き、ゆらぎボリュームにおいて参照したボクセルのゆらぎ座標について、相互の相関性が失われ、相互のゆらぎが単にランダムなものとなってしまい、描画対象のボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映した系統的なゆらぎとはならない。本発明の実施例2のボリュームデータレンダリングシステムでは、風などの影響による粒子の流速が視聴者に分かりやすく可視化できれば良いので、速度場モデルに基づいてインデックスボリューム内での参照座標のシフト量が反映できれば良く、参照座標を初期化しても大きな問題とはならない。そこで、インデックスボリュームを定期的に初期化して各ボクセルに連続した値が入っている状態に戻す工夫を施すことができる。このようにインデックスボリュームを定期的に初期化すれば、サンプリング原座標において近くに位置し、相互に相関が強いデータ間の相関性を適度に維持することができる。
【実施例3】
【0089】
本発明の実施例3のボリュームデータレンダリングシステムは、実施例1、実施例2に示したゆらぎ処理モジュール133のゆらぎモデル、速度場処理モジュール134の速度場モデルの入れ替えを柔軟に可能とした構成例である。
【0090】
本発明の実施例3のボリュームデータレンダリングシステムの描画対象は煙には限定されないが、以下は一例として描画対象を煙として説明する。
トンネル内や地下街での火災などにおいては、単に煙が自然に立ち昇るのみではなく、トンネル内や地下街における空気の流れが煙の動きに大きく影響する。さらに、トンネル内の非常口の開閉、防火扉の開閉や、送風口からの送風能力の変動、地下鉄駅構内であれば電車の発着などの物体の移動など、空気の流れが大きく変わる場合がある。このような空気の流れが大きく変わる場合、空気の流れを記述する速度場モデルを変更する必要が生じる。本実施例3ではゆらぎ処理モジュール133のゆらぎモデル、速度場処理モジュール134の速度場モデルの入れ替えを柔軟に可能としている。
【0091】
また、煙のゆらぎ具合いは、着火している材料、空間内での酸素濃度、温度、火災の規模などによって異なる場合がある。このような煙のゆらぎ具合いに影響を与える条件は、火災の進行、火災の規模などにより変動するので、煙のゆらぎ具合いを適切に表すゆらぎモデルを動的に採用することが好ましい。
【0092】
図8は、処理モジュールによって実施例3にかかるボリュームデータレンダリングシステム100を構築した例を示す図である。各処理モジュールは汎用的なCPUとメモリシステムの組み合わせで構成しても良く、DSPなど専用アクセラレータを用いても良い。
【0093】
実施例3では、レイキャスティングモジュール130の中に、サンプリングモジュール131と、積分モジュール132と、ゆらぎ処理モジュール133、速度場処理モジュール134に加え、ゆらぎモデルデータベース135と速度場モデルデータベース136を備えるものとなっている。
【0094】
ゆらぎモデルデータベース135には、着火している材料、空間内での酸素濃度、温度、火災の規模などに応じた複数のゆらぎモデルが格納されている。
速度場モデルデータベース136には、非常口の開閉、防火扉の開閉や、送風口からの送風能力の変動などに応じた複数の速度場モデルが格納されている。
【0095】
ゆらぎ処理モジュール133は、着火している材料、空間内での酸素濃度、温度、火災の規模などの情報を自ら検知しまたは外部からの通知を受け、それに応じたゆらぎモデルをゆらぎモデルデータベース135から取り出して動的に装備する。
【0096】
速度場処理モジュール134は、非常口の開閉、防火扉の開閉や、送風口からの送風能力の変動などの情報を自ら検知しまたは外部からの通知を受け、それに応じた速度場モデルを速度場モデルデータベース136から取り出して動的に装備する。
【0097】
このように、本発明の実施例3のボリュームデータレンダリングシステムは、多様な条件変動に応じたゆらぎモデル、速度場モデルの動的な入れ替えができ、自然なゆらぎを表現したレンダリング処理を継続して行くことができる。
【実施例4】
【0098】
本発明のボリュームデータレンダリングシステムは、上記に説明した構成を実現する処理ステップを記述したプログラムとして提供することにより、各種コンピュータを用いて構築することができる。本発明のボリュームデータレンダリングシステムを実現する処理ステップを備えたプログラムは、例えば、図9に図示した構成例に示すように、CD−ROMやDVDやフレキシブルディスク等の可搬型記録媒体だけでなく、ネットワーク上にあるプログラムサーバからダウンロードさせるものであっても良く、プログラム実行時には、プログラムはコンピュータ上にローディングされ、主メモリ上で実行される。
【0099】
さらに、ソースプログラムをコンパイルしたもののみならず、いわゆるネットワークを介してクライアントコンピュータに中間言語形式のアプレットを送信し、クライアントコンピュータ上でインタープリタ実行して動作する構成であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、3次元空間で定義されたボリュームデータを可視化するボリュームデータレンダリングシステムおよびボリュームデータレンダリング処理方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施例1にかかるボリュームデータのレンダリングシステムにおけるレンダリング処理の基本的な流れを模式的に示した図
【図2】本発明のボリュームデータレンダリングシステムのサンプリング処理におけるサンプリングするボクセルの座標位置のゆらぎを模式的に示した図
【図3】処理モジュールによってシステムを構築した例を示す図
【図4】本発明におけるゆらぎ処理の概念を模式的に示した図
【図5】本発明の実施例2にかかるボリュームデータのレンダリングシステムにおけるレンダリング処理の基本的な流れを模式的に示した図
【図6】実施例2の流速表現を反映したゆらぎ処理の概念を模式的に示した図
【図7】具体的に処理モジュールによってシステムを構築した例を示す図
【図8】処理モジュールによって実施例3にかかるボリュームデータレンダリングシステムを構築した例を示す図
【図9】本発明のボリュームデータレンダリングシステムを実現する処理ステップを記述したプログラムとして提供する様子を模式的に示す図
【図10】ボリュームデータを用いた場合のレンダリング処理手順の基本的な流れを示した図
【図11】レイキャスティング処理の概念を模式的に説明する図
【図12】ボリュームデータの表現形式にスライス状のサーフィスモデルの表現形式を導入する概念を模式的に示す図
【符号の説明】
【0102】
100 ボリュームデータレンダリングシステム
110 ボリュームデータ取得モジュール
120 ボクセルデータセット生成モジュール
121 輝度値決定モジュール
122 不透明度決定モジュール
130 レイキャスティングモジュール
131 サンプリングモジュール
132 積分モジュール
133 ゆらぎ処理モジュール
134 速度場処理モジュール
135 ゆらぎモデルデータベース
136 速度場モデルデータベース
140 描画モジュール
200 ボリュームデータのボクセルデータセット
201 ボクセル
202 レイ
210 ゆらぎボリューム
220 インデックスボリューム
230 速度場ボリューム






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボリュームデータを基に輝度値および不透明度が与えられたボクセルデータセットを生成するボクセルデータセット生成モジュールと、
前記ボクセルデータセットからレイに沿ったボクセルをサンプリングし、前記サンプリングにかかるボクセルの輝度値および不透明度を基に描画すべき画素データを生成するレイキャスティングモジュールと、
前記画素データを受け、ボリュームデータを描画する描画モジュールとを備え、
前記レイキャスティングモジュールが、前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置をゆらぎモデルに基づいて変動させることを特徴とするボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項2】
前記ゆらぎモデルが、前記ボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルである請求項1に記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項3】
前記ゆらぎモデルが、ボクセルの色合いデータについてのゆらぎの記述も備えている請求項1又は2に記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項4】
複数のゆらぎモデルを格納したゆらぎモデルデータベースを備え、
前記レイキャスティングモジュールが、前記ゆらぎモデルデータベースから前記ボリュームデータにより表現される物理現象のゆらぎを反映する系統的なゆらぎモデルを選択して装備した請求項1又は3に記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項5】
前記ゆらぎモデルに基づく前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置の変動において、前記ゆらぎの大きさおよび流れる方向について前記ボリュームデータにより表現される物理現象の移動速度を反映した速度場モデルによる調整を加えた請求項1乃至3のいずれかに記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項6】
複数の速度場モデルを格納した速度場モデルデータベースを備え、
前記レイキャスティングモジュールが、前記速度場モデルデータベースから前記ボリュームデータにより表現される物理現象の移動速度を反映した速度場モデルを選択して装備する請求項4に記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項7】
前記ゆらぎモデルが、各ボクセルにゆらぎ関数を配したゆらぎボリュームの形で定義され、前記速度場モデルが、各ボクセルに速度を表す関数を配した速度場ボリュームの形で定義され、
前記ゆらぎボリュームにおいてどのボクセルを参照しているかを示す参照情報を保持するインデックスボリュームを備え、
前記インデックスボリュームを介して前記ゆらぎボリュームと前記速度場ボリュームとを連携させ、
前記レイキャスティングモジュールが、前記速度場ボリュームによる前記物理現象への影響を反映させて前記インデックスボリュームの参照情報を更新し、前記更新にかかる参照情報が示すゆらぎボリュームのボクセルに配されているゆらぎ関数を用いて前記サンプリングにかかるボリュームデータのボクセルの座標位置を変動させる請求項5または6に記載のボリュームデータレンダリングシステム。
【請求項8】
ボリュームデータを基に輝度値および不透明度が与えられたボクセルデータセットを生成するボクセルデータセット生成処理ステップと、
前記ボクセルデータセットからレイに沿ったボクセルをサンプリングし、前記サンプリングにかかるボクセルの輝度値および不透明度を基に描画すべき画素データを生成するレイキャスティング処理ステップと、
前記画素データを受け、ボリュームデータを描画する描画処理ステップとを備え、
前記レイキャスティング処理ステップにおいて、前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置をゆらぎモデルに基づいて変動させることを特徴とするボリュームデータレンダリング処理プログラム。
【請求項9】
ボリュームデータを基に輝度値および不透明度が与えられたボクセルデータセットを生成するボクセルデータセット生成手順と、
前記ボクセルデータセットからレイに沿ったボクセルをサンプリングし、前記サンプリングにかかるボクセルの輝度値および不透明度を基に描画すべき画素データを生成するレイキャスティング手順と、
前記画素データを受け、ボリュームデータを描画する描画手順とを備え、
前記レイキャスティング手順において、前記サンプリングにかかるボクセルの座標位置をゆらぎモデルに基づいて変動させることを特徴とするボリュームデータレンダリング処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−260408(P2006−260408A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79661(P2005−79661)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(501170080)株式会社創発システム研究所 (10)
【Fターム(参考)】