説明

ボロン酸化合物のリポソーム製剤

内部にペプチドボロン酸プロテアソーム阻害化合物が封入されたリポソームからなるリポソーム組成物を開示する。より詳細には、式I又は式IIの化合物が内部の水性区画に封入されたリポソームをペプチドボロン酸化合物で充填することによって、リポソームの水性区画の内部でボロン酸エステル化合物が形成される。一実施形態では、リポソームは親水性ポリマー鎖の外側コーティングを有し、患者の固形腫瘍を処置する目的で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、ここに援用する2007年8月21日出願の米国仮特許出願第60/957,049号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
ボロン酸化合物、特にペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム組成物を提供する。より詳細には、ボロン酸化合物並びに下記に定義する式I及び/又は式IIの化合物を含んでなるリポソーム組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
リポソーム、すなわち脂質二重層小胞は、水相を封入した同心状に配列された脂質の二重層からなる球形の小胞である。リポソームは、水相中又は脂質二重層中に含まれる治療薬及び診断薬の送達用担体として機能する。リポソームに封入された形態による薬剤の送達は、例えば、薬剤の毒性の低下、薬物動態の変化、又は薬剤溶解度の向上といった、薬物に応じた様々な利点を与えることができる。親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するように製剤化されたリポソーム、すなわち、いわゆるSTEALTH(登録商標)又は長期循環型リポソームは、単核貪食細胞系によるリポソームの排除が低減されることに一部起因して、長い血液循環寿命という利点を与えるものである。リポソームが注入部位から所望の標的領域又は細胞に到達するためには、長い寿命がしばしば必要とされる。
【0004】
こうしたリポソームは、(i)高い充填効率で、(ii)封入化合物を高濃度で、(iii)安定した形態、すなわち保存時に化合物の漏出がほとんどない形態で、治療用又は診断用化合物を封入するように調製することができれば理想的である。特に、興味深い治療用化合物群の1つとして、α−アミノボロン酸をペプチド配列の酸性末端、すなわち、C末端に有するペプチドプロテアソーム阻害化合物であるペプチドボロン酸化合物がある。こうしたペプチドボロン酸化合物の1つに、従来よりPS−341として知られるボルテゾミブ(bortezomib)がある(VELCADE(登録商標)、ミレニアム・ファーマスーティカル社(Millennium Pharmaceuticals)、マサチューセッツ州ケンブリッジ所在)。ボルテゾミブは、ジペプチドボロン酸誘導体であり、Kiが0.6nmol/Lである高度に選択的で、そして強力な不可逆性のプロテアソーム阻害剤として合成されたものである(Adams, Semin. Oncol. 28(6):613-619(2001))。米国国立癌研究所のインビトロスクリーンを用いたところ、ボルテゾミブは広範な腫瘍系に対して細胞毒性を示し(Adams,同上)、ヒト前立腺(Frankel et al., Clin.Cancer Res. 6(9):3719-3728(2000); DiPaola et al., Hematol.Oncol.Clin.North Am. 15(3):509-524(2001))及び肺癌異種移植モデル(Oyaizu et al., Oncol. Rep. 8(4):825-829(2001))において抗腫瘍活性が認められた。
【0005】
ペプチドボロン酸プロテアソーム阻害化合物が内部に封入されたリポソームからなるリポソーム組成物が特許協力条約に基づいて2006年5月18日に公開された国際特許出願公開第2006/052734号に記載されている。このボロン酸化合物は、リポソームに封入されたポリオールと相互作用した後、ボロン酸エステルとしてリポソーム内に封入される。一実施形態では、リポソームに封入されたポリオールは、アルコール性水酸基を有するモノマー性又はポリマー性化合物であり、その場合ポリオールは脂肪族化合物、環状複合ジオール、ポリフェノールなどでありうる。別の実施形態では、モノマー性ポリオールとして、糖、グリセロール、グリコール、炭水化物、アミノ糖(特に、アミノソルビトール)、糖アルコール、デオキシソルビトール、グルコン酸、酒石酸、没食子酸などが挙げられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうしたペプチドボロン酸化合物はリポソーム状担体に封入されることが望ましい。しかしながら、これらの比較的無極性のジペプチドを効率的に充填し、安定的な封入状態でリポソーム内に保持するには困難が伴う。より詳細には、本発明の主題は、ペプチドボロン酸化合物のリポソーム内への充填性及び保持性を高める成分から調製されたリポソームに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的の1つは、リポソーム内に安定的に封入されたペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、安定したペプチドボロン酸エステルの形態でペプチドボロン酸化合物がリポソーム内に封入されたリポソームの懸濁液を提供することにある。
【0009】
一実施形態では、リポソーム内に安定的に封入されたペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム組成物であって、前記ペプチドボロン酸化合物がジペブチジルボロン酸化合物であるようなリポソーム組成物が提供される。ジペプチジルボロン酸化合物の一例としてボルテゾミブがある。
【0010】
一態様では、小胞形成性脂質から形成されたリポソームを含んでなり、該リポソーム内にペプチドボロン酸化合物及び式Iの化合物とからなるボロン酸エステル化合物が封入された組成物が提供される。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

[式中、X、Y、A、B、E、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7は上記の通りであるが、ただし、Y、R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれHではなく、そしていずれのエナンチオマーでもジアステレオアイソマーでもないものとする。]
【0013】
別の実施形態では、式Iの化合物はYがHであるものである。例示的な一化合物は、YがHであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物で、YがHであり、そしてR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、Y、R1、R2、R4、R5がHであり、そしてR3がAであるようなものである。
【0014】
別の実施形態では、式Iの化合物はYがBであるものである。例示的な一化合物は、YがBであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR5がHであるものである。特に、化合物は、YがBであり、そしてR1、R2、R3、R4及びR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、YがBであり、そしてR1、R2、R4、R5がHであり、そしてR3がAであるようなものである。
【0015】
別の実施形態では、式Iの化合物はYがEであるものである。例示的な一化合物は、YがEであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR6がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR7がHであるものである。特に、化合物は、YがEであり、そしてR1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、YがEであり、そしてR1、R2、R4、R5、R6、R7がHであり、そしてR3がAであるものである。
【0016】
一態様では、小胞形成性脂質から形成されたリポソームを含んでなり、該リポソーム内にペプチドボロン酸化合物及び共役デンドリマーである式IIの化合物とからなるボロン酸エステル化合物が封入された組成物が提供される。
【0017】
【化3】

[式中、D、X、A、R1、R2、R3、R4及びR5は上記の通りである。]
【0018】
一実施形態では、式IIの化合物は、前記デンドリマーがG1又はG2デンドリマーであるものである。例示的な一化合物は、前記デンドリマーがG1であるものである。別の例示的な化合物は、前記デンドリマーがG2であるものである。
【0019】
別の実施形態では、式IIの化合物は、nが3〜30の整数であるようなものである。例示的な一化合物は、R1がHであるものである。別の例示的な化合物は、R2がHであるものである。別の例示的な化合物は、R3がHであるものである。別の例示的な化合物は、R4がHであるものである。別の例示的な化合物は、R5がHであるものである。特に、化合物は、R1、R2、R3、R4及びR5がHであるものである。特に、化合物は、共役G2デンドリマーである。一実施形態では、G2デンドリマーは1分子当たり16個のアミノ基を有する。
【0020】
別の実施形態では、リポソームは更に、内側が高く、外側が低いイオン勾配を有している。このイオン勾配は、例えば、水素イオン(pH)勾配であってもよい。イオン勾配がpH勾配である場合、リポソームの内側pHは約7.5〜8.5であってもよく、リポソームの外側環境のpHは約6〜7であってもよい。
【0021】
別の実施形態では、リポソームは更に、親水性ポリマーによって誘導体化された疎水性部分を約1〜20モル%含む。
【0022】
リポソームが、親水性ポリマーと共有結合した疎水性部分を有するような実施形態では、好ましいポリマーはポリエチレングリコールである。好ましい疎水性部分は脂質であり、小胞形成性脂質であることが好ましい。
【0023】
別の態様では、ペプチドボロン酸化合物を送達する方法であって、水溶液中でリポソームの懸濁液を調製する工程であって、前記リポソームが、式I又は式IIの化合物と共有結合してペプチジルボロン酸エステル化合物を形成するペプチドボロン酸化合物を封入している工程と、前記リポソームの懸濁液を患者に投与する工程と、を含む方法が提供される。
【0024】
一実施形態では、リポソームを注射によって投与する。
【0025】
別の態様では、放射線治療を行っている腫瘍患者の腫瘍組織を選択的に破壊する方法であって、式I又は式IIの化合物と共有結合してペプチジルボロン酸エステル化合物を形成するペプチドボロン酸化合物及びホウ素の同位体を封入したリポソームを腫瘍患者に投与する工程と、前記患者に中性子線治療を行う工程と、を含む方法が提供される。
【0026】
一実施形態では、ホウ素の同位体は、10Bなどのペプチドボロン酸内に存在する。
【0027】
上記に述べた例示的態様及び実施形態以外にも、図面を参照し、以下の説明文を精読することによって更なる態様及び実施形態が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】例示的なペプチドボロン酸化合物の構造を示す図。
【図1B】例示的なペプチドボロン酸化合物の構造を示す図。
【図1C】例示的なペプチドボロン酸化合物の構造を示す図。
【図2】リポソームの内側にボロン酸エステルを形成するため、内側が高く外側が低いpH勾配に抗してリポソーム内に例示的ペプチドボロン酸を充填する様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
I.用語の定義
「ペプチドボロン酸化合物」とは、下式の形態を有する化合物のことである。
【0030】
【化4】

[式中、R1、R2、R3は、互いに同じでも、異なってもよい独立して選択される部分であり、nは1〜8、好ましくは1〜4である。]
【0031】
「親水性ポリマー」とは、室温において水に一定の溶解度を有するポリマーのことである。例示的な親水性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルトアミド、及び親水性ペプチド配列が挙げられる。これらのポリマーは、ホモポリマーとして、又はブロックもしくはランダムコポリマーとして使用することができる。好ましい親水性ポリマー鎖は、ポリエチレングリコール(PEG)であり、好ましくは分子量が500〜10,000ダルトン、より好ましくは750〜10,000ダルトン、更により好ましくは750〜5,000ダルトンであるPEG鎖として与えられる。
【0032】
「内側が高く、外側が低いpH勾配」とは、リポソームの内(より高いpH)と、リポソームが懸濁された外部の媒質(より低いpH)との間の、膜を隔てたpH勾配のことを指して言う。リポソーム内のpHは、外部の媒質のpHよりも通常、少なくとも1pH単位高く、好ましくは2〜4単位高い。
【0033】
「リポソームに封入された」とは、リポソームの中央の水性区画中、リポソームの脂質二重層の間の水性空間中、又は二重層自体の内部に隔離された化合物のことを指して言う。
【0034】
II.リポソーム製剤
本発明は一態様において、ペプチドボロン酸化合物が封入されたリポソーム組成物を提供する。この項では、リポソーム組成物及びその調製法について述べる。
【0035】
A.リポソーム成分
上記に述べたように、リポソーム製剤は、ペプチドボロン酸化合物が封入されたリポソームからなる。ペプチドボロン酸化合物は、ペプチド配列の酸性末端すなわちC末端にα−アミノボロン酸を有するペプチドである。一般に、ペプチドボロン酸化合物は以下の形態を有する。
【0036】
【化5】

[式中、R1、R2及びR3は、互いに同じでも、異なってもよい独立して選択される部分であり、nは1〜8、好ましくは1〜4である。]側鎖としてアスパラギン酸又はグルタミン酸残基をボロン酸とともに有する化合物も考えられる。
【0037】
好ましくは、R1、R2、及びR3は、水素、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル、アラルコキシ、シクロアルキル、又はヘテロ環から独立して選択されるか、あるいは、R1、R2及びR3は、ペプチド主鎖中の隣の窒素原子とヘテロ環を形成してもよい。アルコキシ、アラルキル、及びアラルコキシのアルキル部分を含んでなるアルキルは、好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有し、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。アリールオキシ、アラルキル、及びアラルコキシのアリール部分を含んでなるアリールは、好ましくは単核又は2核(すなわち、縮合2環)、より好ましくはベンジル、ベンジルオキシ、又はフェニルなどの単核である。アリールにはヘテロアリール、すなわち、フリル、ピロール、ピリジン、ピラジン、又はインドールなどの、環内に1個以上の窒素、酸素又は硫黄原子を有する芳香環も含まれる。シクロアルキルは3〜6個の炭素原子を有するものが好ましい。ヘテロ環とは、環内に1個以上の窒素、酸素、又は硫黄原子を有する非芳香環を指し、3〜6個の炭素原子を有する5〜7員環であることが好ましい。こうしたヘテロ環としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、及びモルホリンが挙げられる。シクロアルキル又はヘテロ環のいずれも、例えば、シクロヘキシルメチルのようにアルキルと組み合わされてもよい。
【0038】
上記の基(水素を除く)のいずれも、好ましくはフルオロ又はクロロであるハロゲン、水酸基、低級アルキル、メトキシ又はエトキシなどの低級アルコキシ、ケト、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミド、カーボネート、又はカーバメート、スルホン酸又はエステル、シアノ、1級、2級又は3級アミノ、ニトロ、アミジノ、及びチオ又はアルキルチオから選択される1以上の置換基で置換されてもよい。好ましくは上記の基は最大で2個のこうした置換基を有する。
【0039】
例示的ペプチドボロン酸化合物を図1A〜1Cに示す。図1A〜1Cに示されるR1、R2、及びR3の具体例としては、n−ブチル、イソブチル及びネオペンチル(アルキル)、フェニル又はピラジル(アリール)、4−((t−ブトキシカルボニル)アミノ)ブチル、3−(ニトロアミジノ)プロピル及び(1−シクロペンチル−9−シアノ)ノニル(置換アルキル)、ナフチルメチル及びベンジル(アラルキル)、ベンジルオキシ(アラルコキシ)、並びに、ピロリジン(R2が隣の窒素原子とヘテロ環を形成)が挙げられる。
【0040】
一般に、ペプチドボロン酸化合物は、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、又はより高次のペプチド化合物であってもよい。他の例示的ペプチドボロン酸化合物が、本願に援用する米国特許第6,083,903号、同第6,297,217号、及び同第6,617,317号に記載されている。
【0041】
ボルテゾミブなどのペプチドボロン酸は、その配列の酸性末端(C末端)にアミノボロン酸を有する、通常2〜4個のアミノ酸からなる短鎖ペプチドの誘導体である(Zembower et al., Int. J. Pept. Protein Res. 47(5):405-413(1996))。ペプチドボロン酸は、ボロン酸基と活性部位のセリン又はヒスチジン部分との間で安定的な四面体ホウ酸エステル複合体を形成する能力を有することから、強力なセリンプロテアーゼ阻害剤である。この活性は、しばしば、ペプチドボロン酸の配列を変化させ、非天然アミノ酸残基又は他の置換基を導入することによって高められたり、特定のプロテアーゼに対して高い特異性を示すようにする。これにより、強力な抗ウイルス活性(Priestley, E.S. and Decicco, C.P., Org. Lett. 2(20):3095-3097(2000); Bukhtiyarova, M. et al., AntivirChemother. 12(6):367-73(2001); Archer, S.J. et al., Chem.Biol. 9(1):79-92(2002); Pristley, E.S. et al., Bioorg.Med. Lett. 12(21):3199-202)及び細胞障害活性(Teicher, B.A. et al., Clin. Cancer Res., 5(9):2638-45(1999); Frankel et al., Clin. Cancer Res. 6(9):3719-28(2000); Lightcap, E.S. et al., Clin. Chem. 46(5):673-83(2000); Adams, J., Semin. Oncol., 28(6):613-19(2001); Cusack, J.C., Jr. et al., Cancer Res. 6_l(9):3535-40(2001); Shah, S.A. et al., J. Cell. Biochem. 82(1):110-22,(2001); Adams, J., Curr. Opin. Chem. Biol. 6(4):493-500(2002); Orlowski, R.Z. and Dees, E.C., Breast Cancer Res. 5(1):1 -7(2002); Orlowski, R.Z. et al., J. Clin.Oncol. 20(22):4420-27,(2002); Schenkein, D., Clin. Lymphoma 3(1):49-55(2002); Ling, Y. H. et al., Clin Cancer Res 9(3): 1145-54(2003))を有するペプチドボロン酸化合物を選択することが可能となる。これらの誘導体は他の短鎖ペプチドと同様の問題点を有するが、最も大きな問題点は、体内から極めて速やかに除去され、生体内の標的部位に到達できないことである。
【0042】
多くのペプチドボロン酸化合物は、容易にイオン化されるアミノ基を有していないか極めて極性が高く、そのため上記に述べたような従来の遠隔充填法を用いてリポソームに充填することは困難である。そこで、図2に関して後述するように、ペプチドボロン酸化合物がペプチドボロン酸エステルの形でリポソームに封入されたリポソーム製剤を与えるため、ペプチドボロン酸化合物を対象とした充填方法が設計されている。図2は、1本の実線12によって示された脂質二重層膜を有するリポソーム10を示したものである。多重膜構造のリポソームでは、脂質二重層膜は、水相空間を挟んだ複数の脂質二重層から構成されることは認識されるところである。リポソーム10は外部の媒質14に懸濁される。ただし外部媒質のpHは約7.0よりも低く、一般的には約5.5〜7.0であり、より一般的には6.0〜7.0である。リポソーム10は、脂質二重層膜によって画定される内部の水性区画16を有している。内部水性区画内には化合物18、好ましくは式Iの化合物が封入されている。式Iの化合物は、好ましくは複数の水酸官能基を有するものであり、例示的な化合物を下記に示す。内部水性区画のpHは、好ましくは約7.0よりも高く、より好ましくは7.1〜9.0であり、更により好ましくは7.5〜8.5である。
【0043】
リポソームには更に、図2ではボルテゾミブとして示されるペプチドボロン酸化合物も封入されている。ボルテゾミブは、脂質二重層膜を通過する前の状態で外部の水性媒質中にも示されている。外部の水性媒質中では、化合物は弱酸性の媒質のために荷電していない。化合物は無電荷状態では脂質二重層を自由に透過できる。ボロン酸エステルが形成されると平衡が移動し、更なる化合物が外部媒質から脂質二重層を透過することによってリポソーム内に化合物が蓄積する。別の実施形態では、外部の懸濁媒質内の低いpHとリポソーム内のやや高いpHとが、リポソームの内側の複合化剤と組み合わされることによってリポソームの水性内部区画への薬剤の蓄積を引き起こす。化合物は、リポソームの内側に取り込まれると複合化剤と反応してボロン酸エステルを形成する。ボロン酸エステルは基本的にリポソーム二重層を通過できないため、ボロネートエステルの形態の薬剤化合物がリポソーム内部に蓄積する。
【0044】
リポソーム内部の複合化剤の濃度は、例えば、水酸基のような荷電基の濃度がボロン酸化合物の濃度よりも高くなるようなものであることが好ましい。例えば、最終薬剤濃度が100mMであるような組成物では、ポリマー荷電基の内部化合物濃度は、通常、少なくともその高さである。
【0045】
複合化剤は、内側が高く外側が低い濃度で存在する。すなわち、リポソームの脂質二重層膜にわたって複合化剤の濃度勾配が存在する。相当量の複合化剤が外部のバルク相中に存在する場合、複合化剤は外部媒質中でペプチドボロン酸化合物と反応するためにリポソーム内部への化合物の蓄積が遅くなってしまう。したがって、後述するように、(水相の外側の)バルク相中では組成物が複合化剤を実質的に含まないようにしてリポソームを調製することが好ましい。
【0046】
複合化剤として適当な各種の分子の中に上記に述べた式I又は式IIの化合物がある。式I又は式IIの化合物はボロン酸エステルを形成する。式I又は式IIの化合物間の反応性の差を利用して、封入強度の勾配を有するリポソーム製剤を調製することも考えられ、これにより薬剤放出特性を微調整することができる。一般に、複合化剤の保持強度は、複合化剤の分子量及び疎水性と関連している。複合化剤の分子量が大きく、そして疎水性が低いほど、ペプチドボロン酸化合物の保持時間が長くなる。
【0047】
一実施形態では、式Iの化合物は、YがHであるものである。例示的な一化合物は、YがHであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがHであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、Y、R1、R2、R4、R5がHであり、そしてR3がAであるものである。
【0048】
YがHである式Iの化合物は市販のものを入手するか、実施例1で述べる方法に従って調製することができる。
【0049】
別の実施形態では、式Iの化合物はYがBであるものである。例示的な一化合物は、YがBであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR5がHであるものである。特に、化合物は、YがBであり、そしてR1、R2、R3、R4及びR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがBであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、YがBであり、そしてR1、R2、R4、R5がHであり、そしてR3がAであるものである。
【0050】
YがBである式Iの化合物は市販のものを入手するか、実施例2〜3で述べる方法に従って調製することができる。
【0051】
別の実施形態では、式Iの化合物はYがEであるものである。例示的な一化合物は、YがEであり、そしてR1がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR2がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR3がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR4がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR5がHであるものである。特に、化合物は、YがEであり、そしてR1、R2、R3、R4及びR5がHであるものである。別の例示的な化合物は、YがEであり、そしてR3がAであるものである。特に、化合物は、YがEであり、そしてR1、R2、R4、R5がHであり、そしてR3がAであるものである。
【0052】
YがEである式Iの化合物は市販のものを入手するか、実施例5で述べる方法に従って調製することができる。
【0053】
一実施形態では、式IIの化合物は、前記デンドリマーがG1又はG2デンドリマーであるものである。例示的な一化合物は、前記デンドリマーがG1であるものである。別の例示的な化合物は、前記デンドリマーがG2であるものである。
【0054】
別の実施形態では、式IIの化合物は共役デンドリマーである。例示的な一化合物は、nが約3〜30の整数であるようなDの化合物である。例示的な一化合物は、R1がHであるものである。別の例示的な化合物は、R2がHであるものである。別の例示的な化合物は、R3がHであるものである。別の例示的な化合物は、R4がHであるものである。別の例示的な化合物は、R5がHであるものである。特に、化合物は、R1、R2、R3、R4及びR5がHであるものである。特に、化合物は、共役G2デンドリマーである。一実施形態では、G2デンドリマーは1分子当たり16個のアミノ基を有する。
【0055】
式IIの化合物は市販のものを入手するか、実施例4で述べる方法に従って調製することができる。
【0056】
本組成物中のリポソームは、小胞形成性脂質を主成分とする。このような小胞形成性脂質は、リン脂質に代表されるように、その疎水性部分が二重層膜の内側の疎水性領域に接し、その分子頭部が膜の外側の極性表面を向くようにして、水中で自然に二重層小胞を形成するようなものである。コレステロール及びその各種類似体のような、脂質二重層内に安定的に取り込まれる脂質も、本リポソームにおいて使用することができる。小胞形成性脂質は、通常はアシル鎖である2本の炭化水素鎖、及び極性又は非極性の分子頭部を有する脂質であることが好ましい。2本の炭化水素鎖が通常炭素原子14〜22個の長さを有し、そして異なる不飽和度を有するような、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンなどのリン脂質を含んでなる様々な合成小胞形成性脂質並びに天然の小胞形成性脂質が存在する。アシル鎖が異なる飽和度を有する上記の脂質及びリン脂質は、市販のものを入手するか、公表されている方法に従って調製することができる。他の適当な脂質としては、糖脂質、セレブロシド、及びコレステロールなどのステロールが挙げられる。
【0057】
小胞形成性脂質を選択することによって、所定の流動性もしくは堅さを実現し、血清中でのリポソームの安定性を制御し、及び/又は、リポソーム内の封入薬剤の放出速度を制御することが可能である。より堅い脂質二重層、すなわち液晶状の二重層を有するリポソームが、比較的堅い脂質、例えば、最高で60℃の比較的高い相転移温度を有する脂質を取り込むことによって得られる。堅い、すなわち飽和した脂質によって、脂質二重層の膜はより堅くなる。コレステロールのような他の脂質成分も、脂質二重層構造の膜の堅さに寄与することが知られている。これに対して、比較的流動性の高い脂質、一般的に、液相から液晶相への相転移温度が比較的低い、例えば、室温以下であるような脂質を取り込むことによって脂質の流動性が得られる。
【0058】
本リポソームは、場合により、親水性ポリマーと共有結合した小胞形成性脂質を含んでもよい。例えば、米国特許第5,013,556号に述べられているように、ポリマーで誘導体化したこうした脂質をリポソーム組成物に含むことによって、リポソームの周囲に親水性ポリマー鎖の表面コーティングが形成される。親水性ポリマー鎖の表面コーティングは、こうしたコーティングのないリポソームと比較してリポソームの生体内での血液循環寿命を増大させるうえで効果的である。メトキシ(ポリエチレングリコール)(mPEG)及びホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、又はジオレイロイルホスファチジルエタノールアミン)からなるポリマー誘導体化脂質として、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州アラバスター所在)より異なるmPEG分子量(350、550、750、1,000、2,000、3,000及び5,000ダルトン)のものを入手することができる。更にmPEGセラミドのリポポリマーもアバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)より購入することができる。脂質/ポリマー共役体の調製については文献にも述べられている。米国特許第5,631,018号、同第6,586,001号及び同第5,013,556号、Zalipsky, S. et al., Bioconjugate Chem. 8:111(1997)、Zalipsky, S. et al., Meth. Enzymol. 387:50(2004)を参照されたい。これらのリポポリマーは、分子量の分散度が最小に抑えられた、明確に規定された高純度の均質な材料として調製することができる(Zalipsky, S. et al., Bioconjugate Chem. 8:111(1997); Wong, J. et al., Science 275:820(1997))。リポポリマーは、本願に援用する米国特許第6,586,001号に述べられるようなポリマー/ジステアロイル共役体などの「中性」リポポリマーであってもよい。
【0059】
脂質/ポリマー共役体がリポソームに含まれる場合、通常、脂質/ポリマー共役体の1〜20モル%が全脂質混合物中に取り込まれる(例えば、米国特許第5,0103,556号を参照)。
【0060】
リポソームは、リガンドを含むことによって、本願では「リポポリマー/リガンド共役体」とも称する脂質/ポリマー/リガンド共役体を形成するように改変されたリポポリマーを更に含んでもよい。リガンドは、生体内で活性を有する薬剤もしくは生物学的分子などの治療用分子、造影剤もしくは生物学的分子などの診断用分子、又は結合パートナー、好ましくは細胞の表面上の結合パートナーに結合親和性を有する標的分子であってもよい。好ましいリガンドは、細胞の表面に結合親和性を有し、内部移行による細胞の細胞質中へのリポソームの進入を促進するようなものである。このようなリポポリマー/リガンドを含んでなるリポソームに存在するリガンドは、リポソーム表面から外側を向いているために関連受容体と相互作用することが可能である。
【0061】
リガンドをリポポリマーに結合させるための方法は公知であり、こうした方法では、選択されたリガンドと後に反応させるためにポリマーを官能化することができる(米国特許第6,180,134号、Zalipsky, S. et al., FEBS Lett. 353:71(1994)、Zalipsky, S. et al., Bioconjugate Chem. 4:296(1993)、Zalipsky, S. et al., J. Control. Rel. 39:153(1996)、Zalipsky, S. et al., Bioconjugate Chem. 8(2):111(1997)、Zalipsky, S. et al., Meth. Enzymol. 387:50(2004))。官能化されたポリマー/脂質共役体は、末端官能化PEG/脂質共役体(アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.))など、市販のものを入手することもできる。リガンドとポリマーとの間の結合は、安定的な共有結合であってもよく、pHの変化や還元剤の存在などの刺激に応じて開裂する分離可能な結合であってもよい。
【0062】
リガンドは、細胞の受容体又は血液中で循環する病原体に対する結合親和性を有する分子であってもよい。リガンドは、治療用又は診断用分子、特に、遊離型で投与された場合に血液循環寿命が短い分子であってもよい。一実施形態では、リガンドは生物学的リガンドであり、好ましくは細胞受容体に結合親和性を有するものである。例示的な生物学的リガンドとしては、CD4、葉酸塩、インスリン、LDL、ビタミン類、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、E、L及びPセレクチンなどのセレクチン、Flk−1,2、FGF、EGF、特にα4β1 αvβ3、αvβ1 αvβ5、αvβ6インテグリンなどのインテグリン、HER2などの受容体に対する結合親和性を有する分子がある。好ましいリガンドとしては、抗体、並びにF(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、Fv(重鎖及び軽鎖の可変領域からなる断片)及びscFv(軽鎖及び重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって連結された組み換え一本鎖ポリペプチド分子)などの抗体断片を含んでなるタンパク質、並びにペプチドが挙げられる。リガンドは、小分子であるペプチド模倣体であってもよい。細胞表面受容体又はその断片がリガンドとして機能しうることは認識されるところである。他の例示的な標的リガンドとしては、これらに限定されるものではないが、ビタミン分子(例えば、ビオチン、葉酸塩、シアノコバラミンなど)、オリゴペプチド、オリゴ糖が挙げられる。他の例示的なリガンドは、本願に援用する米国特許第6,214,388号、同第6,316,024号、同第6,056,973号、及び同第6,043,094号に示されている。
【0063】
B.リポソーム製剤の調製
ペプチドボロン酸化合物は、リポソームに封入された式Iの化合物の水酸官能基とボロン酸化合物との間でボロン酸エステルが形成されることによってリポソーム内部に蓄積して閉じ込められる(Eggert, H. et al., J. Org Chem. 64:3846-52(1999))。簡単に述べると、多数の水酸官能基を有する式Iの化合物がリポソーム内に存在し、ペプチドボロン酸化合物がリポソームの脂質二重層膜を透過し、ボロン酸エステルが形成されることによってペプチドボロン酸化合物がリポソーム内に封入される。
【0064】
一実施形態では、この過程は、pHによって進行し、リポソームの外部でより低いpH(例えばpH6〜7)及びリポソーム内でやや高いpH(pH7.5〜8.5)が、式I又は式Iの化合物の存在と組み合わされることによって、化合物の蓄積及び充填を引き起こす。この実施形態では、内側がより高く外側がより低い式I又は式IIの化合物の勾配を有するリポソームを配合することによって組成物を調製する。上記に述べたようにして選択された式I又は式IIの化合物の水溶液を、上記に述べたようにして決定した所望の濃度で調製する。式I又は式IIの化合物は溶液中では、後述するように脂質の水和に適した粘度を有することが好ましい。式I又は式IIの化合物の水溶液のpHは約7.0よりも高いことが好ましい。
【0065】
式I又は式IIの化合物の水溶液を用いて、小胞形成性脂質、非小胞形成性脂質(コレステロール、DOPEなど)、mPEG−DSPEなどのリポポリマー、及び他の任意の所望の脂質二重層成分の所望の混合物から調製した乾燥脂質フィルムを水和する。乾燥脂質フィルムは、選択された脂質を、通常は揮発性有機溶媒である適当な溶媒に溶解し、溶媒を蒸発させて乾燥フィルムを残すことによって調製される。この脂質フィルムを、約7.0よりも高いpHに調整した式I又は式IIの化合物を含んでなる溶液で水和することによってリポソームが形成される。
【0066】
実施例1〜5では、卵由来ホスファチジルコリン(PC)、コレステロール(CHOL)、及びポリエチレングリコールで誘導体化したジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)の各脂質からなるリポソームの調製法について述べる。これらの脂質を、PC:CHOL:PEG−DSPEのモル比が10:5:1となるようにクロロホルムに溶解し、溶媒を蒸発させて脂質フィルムを形成する。この脂質フィルムをpH7.5のポリビニルアルコール水溶液で水和することによって、式I又は式IIの化合物が内部に封入されたリポソームが形成される。
【0067】
リポソームの形成後、リポソームを分粒することによって、通常約0.01〜0.5マイクロメートル、より好ましくは0.03〜0.40マイクロメートルのほぼ均一なサイズ範囲を有するリポソームの集団を得ることができる。REV及びMLVの効果的な分粒法の1つでは、0.03〜0.2マイクロメートル、通常0.05、0.08、0.1、又は0.2マイクロメートルの範囲の選択された均一な孔径を有する一連のポリカーボネート膜を通じてリポソームの水性懸濁液を押出す。膜の孔径は、特に調製物が同じ膜を通じて2回以上押出される場合には、その膜を通じた押出しによって生成するリポソームの最大径に概ね一致している。リポソームの径を100nm以下に小径化するには均質化法も有用である(マーチン,F.J.,特化型薬剤送達システム−作製及び製造技術、P.タイル編、マーセルデッカー社ニューヨーク州、267〜316頁(1990年))(Martin, F.J., in Specialized Drug Delivery Systems - Manufacturing and Production Technology,P.Tyle, Ed., Marcel Dekker, New York, pp. 267-316(1990))。
【0068】
分粒の後、封入されなかったバルク相の式I又は式IIの化合物を、透析、遠心、サイズ排除クロマトグラフィー又はイオン交換などの適当な方法によって除去することにより、内側に高濃度の式I又は式IIの化合物が存在し、そして外側に式I又は式IIの化合物が、好ましくはほとんど、あるいはまったく存在しないリポソームの懸濁液が得られる。更にリポソームの形成後、リポソームの外側の相を滴定、透析などによって約7.0よりも低いpHに調整する。
【0069】
次いで封入しようとするペプチドボロン酸化合物をリポソーム分散液に加えることによってリポソーム内に化合物が能動的に充填される。添加するペプチドボロン酸化合物の量は、封入効率を100%、すなわち、添加した化合物が最終的にはすべてボロン酸エステルの形態でリポソーム内に充填されるものと仮定して、封入しようとする薬剤の全体量から求めることができる。
【0070】
化合物とリポソーム分散液との混合物は、リポソーム内における沈殿物の生成によって証明されるように、バルク媒質中の化合物の濃度の数倍の化合物濃度となるまでリポソームによって化合物が取り込まれるような条件下でインキュベートする。沈殿物の生成は、例えば標準的な電子顕微鏡法又はX線回折法によって確認することができる。一般的に、このインキュベーション工程はより高い温度、好ましくはリポソームの脂質の相転移温度Tpよりも高い温度で行われる。例えば、Tpが50℃であるような相転移温度の高い脂質では、55〜60℃でインキュベーションを行うことができる。インキュベーション時間は、インキュベーション温度に応じて1時間以下〜最大で12時間以上で変化してもよい。
【0071】
このインキュベーション工程の最後に、例えば、封入された式I又は式IIの化合物を含んでなる最初のリポソーム分散液から遊離状態のポリマーを取り除くための上記に述べた方法のいずれかを使用して懸濁液を更に処理することによって遊離状態(封入されていない)の化合物を取り除くことができる。
【0072】
実施例1〜5では、ボロン酸化合物と式I又は式IIの化合物とをボロン酸エステルの形態で含んでなるリポソームを調製する方法であって、式I又は式IIの化合物が複合化剤であるような方法について述べる。これらの実施例では、卵由来PC及びコレステロールの薄い脂質フィルムを調製する。この脂質フィルムを式I又は式IIの化合物の溶液で水和することによって、式I又は式IIの化合物が内部の水性区画に封入されたリポソームが形成される。封入されなかったバルク相の式I又は式IIの化合物を、透析、遠心、サイズ排除クロマトグラフィー又はイオン交換などの適当な方法によって除去することにより、内側に高濃度の式I又は式IIの化合物が存在し、そして外側に式I又は式IIの化合物が好ましくはほとんど、あるいはまったく存在しないリポソームの懸濁液が得られる。次いで、所望のペプチドボロン酸化合物を外部の媒質に加える。化合物はイオン化していない状態ではリポソームの脂質二重層を自由に透過できる。化合物は、リポソームの内側に取り込まれると、封入された式I又は式IIの化合物と反応してボロン酸エステルを形成し、これにより更なる薬剤が脂質二重層を通過するように平衡が移動する。このようにして、ペプチドボロン酸化合物はリポソーム内に蓄積し、リポソーム内に安定的に封入される。
【0073】
脂質/ポリマー/リガンド対象共役体を含んでなるリポソーム製剤は様々な方法によって調製することができる。1つの方法では、末端官能化された脂質/ポリマー誘導体、すなわち、遊離ポリマー末端が反応性を有する、すなわち「活性化」されている脂質/ポリマー共役体を含んだ脂質小胞を調製する(例えば、米国特許第6,326,353号及び同第6,132,763号を参照)。このような活性化された共役体をリポソーム組成物に含ませ、活性化されたポリマー末端をリポソームの形成後にターゲティングリガンドと反応させる。別の方法では、脂質/ポリマー/リガンド共役体をリポソームの形成時にリポソーム組成物に含ませる(例えば、米国特許第6,224,903号及び同第5,620,689号を参照)。更に別の方法では、脂質/ポリマー/リガンド共役体のミセル溶液をリポソームの懸濁液とインキュベートし、脂質/ポリマー/リガンド共役体を予め形成されたリポソーム内に挿入する(例えば、米国特許第6,056,973号及び同第6,316,024号を参照)。
【0074】
III.使用方法
ペプチドボロン酸化合物がボロン酸エステルの形で封入されたリポソーム製剤は、腫瘍患者の処置に使用される。ペプチドボロン酸化合物がホウ素の同位体を含んでなるような実施形態では、リポソーム製剤をホウ素中性子捕捉療法に使用することができる。これらの使用法について以下に述べる。
【0075】
A.腫瘍の処置
ボロン酸化合物は、プロテアソーム阻害剤と呼ばれる薬剤のクラスに含まれるものである。プロテアソーム阻害剤は、細胞のプロテアソーム活性を阻害することによって細胞のアポトーシスを誘導する。より詳細に述べると、真核細胞ではユビキチン−プロテアソーム経路が細胞内タンパク質のタンパク質分解の主要な経路となっている。タンパク質は、最初にポリユビキチン鎖が結合することによってタンパク質分解の標的となった後、プロテアソームによって小さなペプチドに速やかに分解され、ユビキチンは切り離されて再利用される。この協調的なタンパク質分解経路は、ユビキチン共役系と26Sプロテアソームとの相乗的活性に依存している。26Sプロテアソームは真核生物の細胞核及び細胞質に存在する、複数のサブユニットからなる大きな(1,500〜2,000kDa)複合体である。この複合体の触媒コアは20Sプロテアソームと呼ばれ、α及びβサブユニットを含んでなる4個の7量体リングからなる円筒状の構造を有している。プロテアソームはスレオニンプロテアーゼであり、βサブユニットのN末端のスレオニンが標的タンパク質のペプチド結合のカルボニル基を攻撃する求核剤となる。プロテアソームには、トリプシン様、キモトリプシン様、及びペプチジルグルタミルペプチダーゼ活性の少なくとも3つの異なるタンパク質分解活性が備わっている。ポリユビキチン化された基質を認識して結合する能力は、20Sプロテアソームの両端に結合する19S(PA700)サブユニットによって与えられる。これらの付属サブユニットは、結合したユビキチン分子を取り除く一方で、基質をアンフォールドして20S触媒複合体に送り込む。26Sプロテアソームの会合及びタンパク質基質の分解はいずれもATPに依存する(Almond, Leukemia 16:433(2002))。
【0076】
ユビキチン−プロテアソームシステムは、タンパク質の協調的で、そして一時的な分解によって多くの細胞プロセスを調節している。プロテアソームは、多くの重要な細胞タンパク質のレベルを制御することによって細胞増殖及びアポトーシスの調節因子として機能しており、その活性の阻害は細胞周期に大きな影響を与える。例えば、休止期の腫瘍細胞の蓄積が認められるB細胞慢性リンパ性白血病などの特定の癌を含む幾つかの疾患の病因には、不完全なアポトーシスが関与している。
【0077】
化合物の一クラスとしてのプロテアソーム阻害剤は、一般にプロテアソームによるタンパク質分解を阻害することによって機能する。このクラスにはペプチドアルデヒド、ペプチドビニルスルホンがあるが、これらはプロテアソームの20Sコア内部の活性部位に結合して活性部位を直接阻害することによって機能する。しかしながら、ペプチドアルデヒド及びペプチドビニルスルホンは不可逆的に20Sコア粒子に結合するため、これらを除去するとタンパク質分解活性は回復されない。これに対して、ペプチドボロン酸化合物はプロテアソームを安定的に阻害し、しかもプロテアソームから徐々に解離する。ペプチドボロン酸化合物はそのペプチドアルデヒド類似体と比較してより強力であり、ホウ素と硫黄との間の弱い相互作用が、ペプチドボロン酸エステルによってチオールプロテアーゼが阻害されないことを意味する点でより特異的に作用する(Richardson, P.G., et al., Cancer Control. 10(5):361,(2003))。
【0078】
様々な腫瘍由来細胞系をプロテアソーム阻害剤に曝露するとアポトーシスが誘発されるが、これは、細胞周期調節タンパク質p53、及び核因子κB(NF−κB)を含む幾つかの経路が影響される結果であると考えられる(Grimm, L.M. and Osborne, B.A., Results Probl. Cell. Differ. 23:209-28(1999); Orlowski, R.Z., Cell Death Differ. 6(4):303-13(1999))。プロテアソーム阻害剤を介したアポトーシスについて記載した初期の研究の多くは、単芽球(Imajoh-Ohmi, S. et al., Biochem.Biophys. Res. Commun. 217(3):1070-77(1995))、T細胞及びリンパ性白血病細胞(Shinohara, K. et al., Biochem. J. 317(Pt 2):385-88,(1996))、リンパ腫細胞(Tanimoto, Y. et al., J.Biochem.(Tokyo)121(3):542-49(1997))、並びに前骨髄球性白血病細胞(Drexler, H. C., Proc. Natl, Acad, Aci. U.S.A. 94(3):855-60(1997))などの造血細胞由来の細胞を使用している。プロテアソーム阻害剤の生体内における抗腫瘍活性の最初の実証例では、ヒトリンパ腫異種移植モデルを用いている(Orlowski, R.Z. et al., Cancer Res 58(19):4342-48(1998))。更に、プロテアソーム阻害剤は、患者由来のリンパ腫細胞(Orlowski, R.Z. et al., Cancer Res 58(19):4342-48(1998))及び白血病細胞(Masdehors, P. et al., Br. J. Haematol. 105(3):752-57(1999))の選択的アポトーシスを誘導し、多発性骨髄腫細胞の増殖を選択的に阻害する(Hideshima, T. et al., Cencer Res., 61(7): 3071-76(2001))ことが、コントロールとしての非癌化細胞をそれほど使用せずに報告されている。したがって、プロテアソーム阻害剤は、難治性の血液悪性腫瘍の患者の治療薬として特に有用である。
【0079】
一実施形態では、ペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム製剤を、癌の処置、より詳細には癌患者における腫瘍の処置に使用する。
【0080】
多発性骨髄腫は、米国内で毎年約15,000人が診断されている難治性悪性腫瘍である(Richardson, P.G. et al., Cancer Control. 10(5):361(2003))。多発性骨髄腫は、骨髄の複数の部位においてクローン血漿細胞が蓄積することにより一般に特徴付けられる血液悪性腫瘍である。患者の大半が化学療法及び放射線による初期処置に応答を示すが、耐性腫瘍細胞が増殖するために多くの患者でやがて再発が見られる。一実施形態では、本発明は、ペプチドボロン酸化合物がボロン酸エステルの形で封入されたリポソーム製剤を投与することによって多発性骨髄腫を処置する方法を提供する。
【0081】
このリポソーム製剤は、癌細胞が化学療法の作用に抵抗する主要な経路の一部を制圧することにより、乳癌の処置にも有効である。例えば、アポトーシスの調節因子であるNF−kB、及びp44/42マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路によるシグナル伝達は抗アポトーシス性でありうる。プロテアソーム阻害剤はこれらの経路を遮断するため、これらの化合物はアポトーシスを活性化する能力を有する。したがって、本発明は、ペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソームを投与することによって乳癌を有する患者を処置する方法を提供するものである。更に、タキサン及びアントラサイクリンなどの化学療法剤はこれらの経路の一方又は両方を活性化することが示されているため、プロテアソーム阻害剤を従来の化学療法剤と組み合わせて使用することでパクリタキセル及びドキソルビシンなどの薬剤の抗腫瘍活性を高める作用が得られる。したがって、別の実施形態において本発明は、遊離形態又はリポソームに封入された形態の化学療法剤を、リポソームに封入されたペプチドボロン酸化合物と組み合わせて投与する処置方法を提供するものである。
【0082】
リポソーム製剤の用量及び投与計画は、処置する癌、癌のステージ、患者の大きさ及び健康状態、並びに処置に当たる医療提供者には直ちに明らかな他の因子に応じて異なる。更に、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(Pyz−Phe−ホウ素Leu(PS−341))を用いた臨床研究によって適当な用量及び投与計画についての充分な指標が得られている。例えば、週1回又は2回静脈内投与する場合、固形腫瘍の患者における最大耐用量は1.3mg/m2であった(Orlowski, R.Z. et al., Breast Cancer Res. 5:1-7(2003))。別の研究では、ボルテゾミブを3週間のサイクルの1、4、8及び11日目に静脈内ボーラス投与した場合、最大耐用量は1.56mg/m2と示唆された(Vorhees, P.M. et al., Clinical Cancer Res. 9:6316(2003))。
【0083】
リポソーム製剤は一般的に非経口投与され、静脈内投与が好ましい。本製剤は、送達を促進する任意の必要な、又は望ましい医薬用賦形剤を含みうる点は認識されるところである。
【0084】
上記に述べた処置方法において好ましいプロテアソーム阻害剤は、以下の構造を有するボルテゾミブ(Pyz−Phe−ホウ素Leu、Pyz:2,5−ピラジンカルボキシル酸、PS−341)である。
【0085】
【化6】

【0086】
ボルテゾミブは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌などの様々な癌組織に対して、また膵臓腫瘍、リンパ腫及びメラノーマなどの様々な腫瘍に対して活性を有することが示されている(Teicher, B.A. et al., Clin. Cancer Res. 5(9):2638-45(1999), Adams, J., Semin. Oncol., 28(6):613-19(2001); Orlowski, R.Z. and Dees. E.C., Breast Cancer Res.5(1):1-7(2002); Frankel et al., Clin. Cancer Res. 6(9):3719-28(2000); Shah, S. Cell. Biochem. 82(1):110-22(2001))。
【0087】
B.ホウ素中性子捕捉療法
別の態様では、ホウ素中性子捕捉療法(10B−NCT)を行うためにホウ素10同位体を投与する方法が提供される。癌処置のための中性子捕捉療法は、下式に従う、それぞれ比較的無害な10B同位体と熱中性子との相互作用に基づいたものである。
10B+1n→7Li+4He+2.4MeV
【0088】
この反応によって1個又は隣接癌細胞に限局された強力な電離放射線が発生する。そのため、処置を成功させるには適切な量のホウ素10同位体を腫瘍に送達することが望ましい。本願に述べるリポソーム製剤は、10B同位体を含んでなるペプチドボロン酸化合物をリポソームに封入するための手段を与えるものである。親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソームは、こうしたリポソームの血液循環寿命が長いために腫瘍に選択的に蓄積する(例えば、米国特許第5,013,556号及び同第5,213,804号を参照)。10B同位体を含むペプチドボロン酸化合物で充填されたリポソームは、2つの独立した機序によって腫瘍を死滅させる。すなわち、リポソームが薬剤のリザーバとして機能し、抗癌性化合物を徐々に腫瘍に放出することと、リポソームが充分量のホウ素10同位体を腫瘍に蓄積させることでホウ素中性子捕捉療法の効果を高めることによる。
【0089】
上記の説明より、本発明の様々な態様及び特徴が明らかである。水溶性で、脂質二重層を透過しない式I又は式IIの化合物及びペプチドボロン酸化合物を含むリポソームについて述べる。こうしたリポソームは、式I又は式IIの化合物をリポソームの内部の水性区画に封入し、封入されなかった式I又は式IIの化合物を外部の媒質からすべて除去し、脂質二重層膜を通過して式I又は式IIの化合物上の近接した水酸基部分と可逆的エステル結合を形成する脂質二重層透過性のボロン酸化合物を加えることによって調製される。このようにして、通常は脂質二重層を自由に透過するボロン酸化合物がリポソーム内に安定的に封入される。リポソーム内へのペプチドボロン酸化合物の蓄積はイオン勾配がなくとも生じるが、必要に応じてイオン勾配が存在してもよい。
【実施例】
【0090】
以下の実施例は、本願で述べる発明を更に説明するものであり、いかなる意味においても発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【0091】
(実施例1)
化合物1(複合化剤)の合成
ラクトース(4.1g、12mmol)、塩酸メチルアミン(1.35g、20mmol)、及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(5M、1.2mL、6mmol)を、アルゴンを満たしpHを7.0に調整した(pH試験紙)耐圧試験管に加えた。反応試験管を密封し、反応混合物を室温で24時間攪拌した後、40〜50℃で16時間加熱した。反応はTLC(SiO2、エタノール/酢酸/水=5:1:2)によって監視された。反応混合物をエタノール(400mL)中で沈殿させた。沈殿物を濾過によって分離し、イオン交換樹脂カラム(Bio−Rex70、溶離剤として水を使用)で精製した。生成物をイオン交換で2回精製した。生成物の画分を合わせ、凍結乾燥することによって1.373gの生成物を白色固体として得た。1H NMR(400 MHz,D2O)δ4.53(d,J=8 Hz,1H),4.23−4.19(m,1 H),3.97−3.53(m,10 H),3.55(dd,J=10及び8 Hz,1 H),3.361(dd,J=13及び3 Hz,1 H),3.14(dd,J=13及び10 Hz,1 H),2.77(s,3 H)。
【0092】
ボルテゾミブで充填したリポソーム
化合物1を水に溶解し、pHを7.4に調整した。卵由来ホスファチジルコリン、コレステロール、及びポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量=2,000Da、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州バーミンガム所在))を10:5:1のモル比で混合した混合物をクロロホルムに溶解し、溶媒を真空下で蒸発させた。得られた脂質フィルムを化合物1の溶液中で震盪しながらインキュベートした。得られた脂質分散液を加圧下、孔径0.2μmの積層した2枚のNucleopore(カリフォルニア州プレザントン所在)膜を通じて押出した。Sepharose CL−4B(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)上でゲルクロマトグラフィーを用いて、外部の緩衝液を、5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含む0.14M NaCl溶液(pH6.5)に交換すると同時に封入されなかった化合物1を除去した。このようにして得られたリポソームにボルテゾミブを加えた。この混合物を震盪しながら37℃で一晩インキュベートし、Dowex 50W×4(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)ミズーリ州セントルイス所在)で処理し、NaCl−HEPES溶液で平衡化して未封入のボルテゾミブを除去した。得られたリポソームは0.2μmのフィルターに通過させて滅菌した。
【0093】
(実施例2)
化合物2(複合化剤)の合成
ラクトース(4.79g、14mmol)、L−リシン(0.985g、6mmol)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(5M、3mL、15mmol)、及びMilliQ水(8mL)を、磁気攪拌子が入った耐圧試験管に加えた。試験管をアルゴンで満たし、密封して50〜60℃で2日間攪拌した。反応混合物をエタノール中で沈殿させた。沈殿物を分離した後、MilliQ水に溶解し、透析管(MWCO=500)に加えて水に対して透析した。生成物をエタノール中で再び沈殿させ、濾過し、得られた固体を真空下で2日間乾燥して3.081gの生成物を白色固体として得た。1H NMR(400 MHz,D2O)δ4.52(d,J=6 Hz,1 H),4.50(d,J=6 Hz, 1H),4.25−4.12(m,2 H),3.97−3.50(m,28 H),3.07(m,2 H),1.70(broad.m,4 H),1.40(broad m,2 H)。
【0094】
ボルテゾミブで充填したリポソーム
化合物2を水に溶解し、pHを7.4に調整した。卵由来ホスファチジルコリン、コレステロール、及びポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量=2,000Da、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州バーミンガム所在))を10:5:1のモル比で混合した混合物をクロロホルムに溶解し、溶媒を真空下で蒸発させた。得られた脂質フィルムを化合物2の溶液中で震盪しながらインキュベートした。得られた脂質分散液を加圧下、孔径0.2μmの積層した2枚のNucleopore(カリフォルニア州プレザントン所在)膜を通じて押出した。Sepharose CL−4B(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)上でゲルクロマトグラフィーを用いて、外部の緩衝液を、5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含む0.14M NaCl溶液(pH6.5)に交換すると同時に封入されなかった化合物2を除去した。このようにして得られたリポソームにボルテゾミブを加えた。この混合物を震盪しながら37℃で一晩インキュベートし、Dowex 50W×4(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)ミズーリ州セントルイス所在)で処理し、NaCl−HEPES溶液で平衡化して未封入のボルテゾミブを除去した。得られたリポソームは0.2μmのフィルターに通過させて滅菌した。
【0095】
(実施例3)
化合物3(複合化剤)の合成
デキストロース(4.5g、25mmol)、L−リシン(0.985g、6mmol)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(5M、5mL、25mmol)、及びMilliQ水(8mL)を、磁気攪拌子が入った耐圧試験管に加えた。試験管をアルゴンで満たし、密封して50〜60℃で2日間攪拌した。反応混合物をエタノール中で沈殿させた。沈殿物を分離した後、MilliQ水に溶解し、透析管(MWCO=500)に加えて水に対して透析した。生成物をエタノール中で再び沈殿させ、濾過し、得られた固体を真空下で16時間乾燥して3.22gの生成物を白色固体として得た。1H NMR(400 MHz,D2O)δ3.84−3.60(m,15 H),3.09(broad m,4 H),1.70(broad.m,4 H),1.40(broad m,2 H)。
【0096】
ボルテゾミブで充填したリポソーム
化合物3を水に溶解し、pHを7に調整した。卵由来ホスファチジルコリン、コレステロール、及びポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量=2,000Da、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州バーミンガム所在))を10:5:1のモル比で混合した混合物をクロロホルムに溶解し、溶媒を真空下で蒸発させた。得られた脂質フィルムを化合物3の溶液中で震盪しながらインキュベートした。得られた脂質分散液を加圧下、孔径0.2μmの積層した2枚のNucleopore(カリフォルニア州プレザントン所在)膜を通じて押出した。Sepharose CL−4B(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)上でゲルクロマトグラフィーを用いて、外部の緩衝液を、5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含む0.14M NaCl溶液(pH6.5)に交換すると同時に封入されなかった化合物3を除去した。このようにして得られたリポソームにボルテゾミブを加えた。この混合物を震盪しながら37℃で一晩インキュベートし、Dowex 50W×4(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)ミズーリ州セントルイス所在)で処理し、NaCl−HEPES溶液で平衡化して未封入のボルテゾミブを除去した。得られたリポソームは0.2μmのフィルターに通過させて滅菌した。
【0097】
(実施例4)
化合物4(複合化剤)の合成
デンドリマー(PAMAM、第2世代、分子量3284、20重量%メタノール溶液、2g)を減圧下で蒸発させた。残渣を水(5mL)に溶解し、耐圧試験管に移し、塩酸でpHを7.0に調整した。デキストロース(0.51g、2.83mmol)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(5M、3mL、15mmol)を、磁気攪拌子が入った耐圧試験管に加えた。試験管をアルゴンで満たし、密封して40℃で16時間攪拌した。反応混合物をエタノール中で沈殿させた。沈殿物を分離した後、MilliQ水に溶解し、透析管(MWCO=1,000)に加えて水に対して透析した。次いで、生成物をエタノール中で沈殿させ、濾過し、得られた固体を真空下で16時間乾燥させて0.48gの生成物を白色固体として得た。使用したデンドリマーは1分子当たり16個のアミノ基を有する、分子量3284のものであった。化合物4は複数の異なる共役体の混合物であった。
【0098】
ボルテゾミブで充填したリポソーム
化合物4を水に溶解し、pHを7.4に調整した。卵由来ホスファチジルコリン、コレステロール、及びポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量=2,000Da、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州バーミンガム所在))を10:5:1のモル比で混合した混合物をクロロホルムに溶解し、溶媒を真空下で蒸発させた。得られた脂質フィルムを化合物4の溶液中で震盪しながらインキュベートした。得られた脂質分散液を加圧下、孔径0.2μmの積層した2枚のNucleopore(カリフォルニア州プレザントン所在)膜を通じて押出した。Sepharose CL−4B(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)上でゲルクロマトグラフィーを用いて、外部の緩衝液を、5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含む0.14M NaCl溶液(pH6.5)に交換すると同時に封入されなかった化合物4を除去した。このようにして得られたリポソームにボルテゾミブを加えた。この混合物を震盪しながら37℃で一晩インキュベートし、Dowex 50W×4(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)ミズーリ州セントルイス所在)で処理し、NaCl−HEPES溶液で平衡化して未封入のボルテゾミブを除去した。得られたリポソームは0.2μmのフィルターに通過させて滅菌した。
【0099】
(実施例5)
化合物5(複合化剤)の合成
ラクトース(5.13g、25mmol)、3−アミノ−1,2−プロパンジオール(1.64g、18mmol)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(5M、3.6mL、18mmol)、及びMilliQ水(6mL)を、磁気攪拌子が入った耐圧試験管に加えた。試験管をアルゴンで満たし、密封して40〜50℃で2日間攪拌した。反応混合物をエタノール中で沈殿させた。沈殿物を分離した後、MilliQ水に溶解し、透析管(MWCO=100)に加えて水に対して透析した。次いで生成物をエタノール中で沈殿させ、濾過し、得られた固体を真空下で16時間乾燥して1.07gの生成物を白色固体として得た。1H NMR(400 MHz,D2O)δ3.84−3.60(m,15 H),3.09(broad m,4 H),1.70(broad.m,4 H),1.40(broad m,2 H)。
【0100】
ボルテゾミブで充填したリポソーム
化合物5を水に溶解し、pHを7.4に調整した。卵由来ホスファチジルコリン、コレステロール、及びポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量=2,000Da、アバンティ・ポーラー・リピッド社(Avanti Polar Lipids, Inc.)(アラバマ州バーミンガム所在))を10:5:1のモル比で混合した混合物をクロロホルムに溶解し、溶媒を真空下で蒸発させた。得られた脂質フィルムを化合物5の溶液中で震盪しながらインキュベートした。得られた脂質分散液を加圧下、孔径0.2μmの積層した2枚のNucleopore(カリフォルニア州プレザントン所在)膜を通じて押出した。Sepharose CL−4B(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)上でゲルクロマトグラフィーを用いて、外部の緩衝液を、5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含む0.14M NaCl溶液(pH6.5)に交換すると同時に封入されなかった化合物5を除去した。このようにして得られたリポソームにボルテゾミブを加えた。この混合物を震盪しながら37℃で一晩インキュベートし、Dowex 50W×4(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)ミズーリ州セントルイス所在)で処理し、NaCl−HEPES溶液で平衡化して未封入のボルテゾミブを除去した。得られたリポソームは0.2μmのフィルターに通過させて滅菌した。
【0101】
(実施例6)
リポソームに封入されたボルテゾミブの生体内活性
多発性骨髄腫をマイクロタイタープレート上でコンフルエンスに達するまで増殖させた。細胞を、実施例1〜5で述べたようにして調製したリポソームと、異なるペプチドボロン酸化合物濃度でインキュベートした。24時間インキュベートした後、細胞をアポトーシスについて調べた。コントロール細胞と比較してリポソーム製剤で処理した細胞ではアポトーシスの発生率が高いことが分かった。
【0102】
(実施例7)
リポソームに封入されたボルテゾミブの生体内活性
比較例の複合化剤としてメグルミンを用い、リポソーム封入ボルテミゾブを用いて、実施例1〜5で述べたようにして調製したリポソームで複数の生体内実験を行った。データは、(1)リポソームで使用した各複合化剤に対するボルテゾミブのITC結合実験、(2)リポソームからの薬剤放出実験、及び(3)薬剤充填安定性実験から得た。
【0103】
ITC薬剤結合実験
ボルテゾミブへの異なる複合化剤の結合を、パラメータを制御した等温滴定熱量測定法(VP−ITC、マイクロカル社(MicroCal)、マサチューセッツ州ノーザンプトン所在)によって調べた。実施例1〜5の複合化剤、メグルミン(1mM)及びボルテゾミブ(18.2mM)の溶液を、グリシン濃度及びpHが一致するように同じグリシンストック溶液(シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、100mM、pH9.5)に所望量の各物質を溶解することによって個別に調製した。pHの値を2回確認し、0.2単位の範囲内にまで必要なだけ調整した。各溶液は10〜15分脱気した。ボルテゾミブ溶液を自動シリンジに充填し、ITCの試料セルに充填した複合化剤(CR)溶液に滴定した(注入1回当たり5〜10μL)。各実験は30℃で行った。参照実験は、有効実験で用いたものと同じ実験パラメータを用いて同じ薬剤溶液を100mMグリシン溶液中に滴定することによって行った。結合パラメータを生成するためのデータ処理は、ITCの製造業者によって供給されるソフトウェアプログラム(Microcal origin v5.0)を使用して行った。
【0104】
【表1】

【0105】
全血における生体内薬剤放出アッセイ
試験製剤とラット全血を体積比1:4で混合した混合物を37℃にて500rpmで24時間遥動した。各試料を0、1、2、6及び24時間の時点で取り出し、低RPMで数分間遠心した。上清の血漿を回収して遊離薬剤をMS/MSで分析した。実施例1に従って調製したリポソームと、複合化剤としてメグルミンを用いたリポソーム封入ボルテゾミブとの間で放出薬剤に有意な差は認められなかった。
【0106】
薬剤充填安定性実験
リポソーム封入ボルテゾミブ製剤を25℃でインキュベートし、粒径、pH、及び薬剤封入効率について調べた。薬剤封入効率は、サイズ排除クロマトグラフィーによって求めた。試料(100μL)をBio−Gel、P−6カラム(0.5×30cm)に導入し、pH7.0の100mM HEPES−NaCl(150mM)溶液で溶出し、各画分を回収した(1mLずつ)。リポソーム画分及び遊離薬剤画分を270nmの紫外線で調べ、それぞれ合わせてからHPLCにより分析した。
【0107】
【表2】

【0108】
E.E.=封入効率
以上、本発明を特定の実施形態に関して述べたが、発明を逸脱することなく様々な変更及び改変を行いうることは当業者には自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞形成性脂質から形成されたリポソームを含んでなり、該リポソーム内にペプチドボロン酸化合物及び式I又は式IIの化合物とからなるボロン酸エステル化合物が封入された組成物。
【請求項2】
前記ペプチドボロン酸化合物がジペプチジルボロン酸化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドボロン酸化合物がボルテゾミブ(bortezomib)である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物がR1、R2、R3、R4及びR5がHである場合の式IIの化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
Dが1分子当たり16個のアミノ基を有する共役G2デンドリマーである請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記化合物がYがH、B、又はEである場合の式Iの化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
1がHであるか、又はR2がHであるか、又はR3がHもしくはAであるか、又はR4がHであるか、又はR5がHである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
Y、R1、R2、R4、R5がそれぞれHであり、そしてR3がAである請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記リポソームが内側が高く外側が低いイオン勾配を更に有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記イオン勾配が水素イオン勾配である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記イオン勾配が約7.5〜8.5の内側pH及び約6〜7の外側pHを与える請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記リポソームが更に親水性ポリマーで誘導体化された疎水性部分を約1〜20モル%含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
親水性ポリマーで誘導体化された前記疎水性部分がポリエチレングリコールで誘導体化された疎水性部分である請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記疎水性部分が脂質である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物を含んでなり、前記組成物が患者に投与される、ペプチドボロン酸化合物による治療のための組成物。
【請求項16】
前記組成物が注射によって投与される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
多発性骨髄腫を処置するための請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1に記載のリポソーム組成物を含んでなる多発性骨髄腫の処置に使用するための組成物。
【請求項19】
放射線治療を行っている腫瘍患者の腫瘍組織を選択的に破壊するための組成物であって、該組成物が請求項1に記載のリポソームの懸濁液を含んでなり、ここで、該懸濁液がホウ素の同位体とともに患者に投与され、そして更に該患者が放射線治療を受ける組成物。
【請求項20】
前記ホウ素の同位体が該ペプチドボロン酸に存在する請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記ホウ素の同位体が10Bである請求項19に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−536875(P2010−536875A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522021(P2010−522021)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/073844
【国際公開番号】WO2009/026430
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510046310)アルザ・コーポレーシヨン (4)
【Fターム(参考)】