説明

ボールねじ機構

【課題】
製造しやすいにもかかわらず、作動不良を抑えることができるボールねじ機構を提供する。
【解決手段】
爪部4c、4cは、円筒部4aに比べて厚さが薄く剛性が低いので曲がりやすく、更に爪部4c、4cを曲げても、円筒部4aの下面に形成された循環溝4dの形状に影響を与えないようになっている。ナット2の取り付け孔2b内で曲げられた爪部4c、4cは、斜面2d、2dに沿って曲がり、その先端が段部2e、2eに対向する。かかる状態で、コマ4の循環溝4dを転動するボール3から突き上げ力Fがコマ4に与えられたとき、爪部4c、4cは段部2e、2eに当接し、それぞれ反力F/2を受けることで、突き上げ力Fを支持できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電動アクチュエータなど種々の用途に用いることができるボールねじ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化が進み、例えば自動車のトランスミッションやパーキングブレーキなどを手動でなく、電動モータの力により動作させるシステムが開発されている。そのような用途に用いる電動アクチュエータには、電動モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換するために、ボールねじ機構が用いられる場合がある。
【0003】
ここで、通常ボールねじ機構は、ねじ軸と、ナットと、ボールとからなり、ねじ軸に対してナットが相対回転する際に、ナット内の転走路に沿ってボールが転動し、それにより円滑な動作が行われるが、転走路の一端に到達したボールをその他端へと循環させる循環部材が必要となる。このような循環部材としては、チューブやコマなどが知られている。
【0004】
しかるに、例えばコマをナットに固定する様々な技術が知られているが、他の部材を用いることなく手軽にコマをナットに固定するために、特許文献1に記載されているように、コマを塑性変形させることでナットに固定する技術がある。
【特許文献1】特許第2760455号明細書
【特許文献2】実用新案登録第2595551号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、ナットの取付孔に装着したコマの背面に対し、ナット半径方向外方より先端鋭角な治具を押圧させ、コマ背面を塑性変形させており、それにより周囲が張り出したコマと取付孔との間に生じる摩擦保持力で、コマの固定を行うようにしている。しかしながら、特許文献1の技術では、ナット取付孔の寸法のバラツキ、コマ寸法のバラツキ、治具の押圧力のバラツキなどにより、両者間の摩擦保持力が大きく変動し、場合によっては固定が不十分となる恐れがある。
【0006】
これに対し、特許文献2には、ナットの取付孔にあり溝部を設け、かかる取付孔に装着したコマの背面に対し、ナット半径方向外方より先端鋭角な治具を押圧させ、コマ背面を塑性変形させて、その一部があり溝部内に侵入するようにした技術が開示されている。かかる技術によれば、ナット取付孔の寸法のバラツキ、コマ寸法のバラツキ、治具の押圧力のバラツキなどが生じても、あり溝部がそれらを吸収するので、より確実にコマの固定を行うことができる。しかしながら、特許文献2の技術では、あり溝部の形状が、前記ナットの半径方向外方に向かうにつれて漸次縮径したテーパ状となっているので、コマの塑性変形量を適切にしないと、がたつくという問題がある。又、強い押圧力で治具によりコマを変形したときに、ボールが転動するコマの循環溝に変形を与え、それによりボールの循環を円滑に行えなくなる恐れもある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、製造しやすいにもかかわらず、作動不良を抑えることができるボールねじ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボールねじ機構は、
外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、
前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、
対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ナットの取り付け孔に取り付けられ、前記転走路の一端から他端へとボールを戻すための循環部材とを有し、
前記取り付け孔は、前記ナットの半径方向外方より半径方向内方において寸法が大きくなる拡大部を備えた内周面を有し、前記循環部材は、曲げることにより前記拡大部に係合する爪部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のボールねじ機構によれば、前記取り付け孔が、半径方向外方より半径方向内方において寸法が大きくなる拡大部を備えた内周面を有し、前記循環部材は、曲げることにより前記拡大部に係合する爪部を有しているので、前記循環部材を前記ナットの取り付け孔に装填した後、前記爪部を曲げるのみで、前記爪部が前記拡大部に係合し、それにより僅かな力で前記循環部材を前記ナットに容易に組み付けることができる。又、前記爪部を曲げても、例えば前記循環部材のボールが転動する循環溝に変形が伝わることが少ないため、ボールの円滑な転動を確保することができる。
【0010】
更に、前記爪部は、前記循環部材に形成された循環溝が、転動する前記ボールから力を受けたとき圧縮力を生じる方向に延在していると、前記拡大部に係合した前記爪部により、前記循環溝が前記ボールから受ける力を支持することができる。
【0011】
更に、前記爪部は一対設けられ、前記取り付け孔の拡大部は、前記ナットの半径方向内方に向かうにつれて互いに近接する一対の斜面と、前記斜面にそれぞれつながり前記爪部の先端が当接する一対の段部とからなるため、前記爪部を前記段部に当接させれば、前記ボールから前記循環部材に対して半径方向外方に向かう力が伝達された場合でも、前記段部からの反力で、前記爪部は確実に支持されるため、前記循環部材の抜け出しなどは抑制される。又、前記爪部の座屈等は、前記斜面により抑制されるので、前記爪部の剛性を低くでき、折り曲げ時における前記循環部材の循環溝への影響をより少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態であるボールねじ機構の上面図であり、図2は、図1のボールねじ機構をII-II線で切断して矢印方向に見た断面図であり、図3は、図2のボールねじ機構をIII-III線で切断して矢印方向に見た断面図である。図4〜6は、本実施の形態にかかるナットを、図1のIV-IV線で切断して矢印方向に見た図であり、コマと共に示している。
【0013】
図1、2において、不図示のモータに連結されるねじ軸1は、回転のみ可能に支持されている。図では簡略図示しているが、ねじ軸1の外周面には、雄ねじ溝1aが形成されている。不図示の被駆動部材に連結され、軸線方向にのみ移動可能となるように支持された略円筒状のナット2は、ねじ軸1を包囲するように配置され且つ内周面に2本の雌ねじ溝2a、2aを形成している。複数のボール3が、対向する両ねじ溝1a、2a間に形成された螺旋状の2本の転走路内を転動自在となるように配置されている。
【0014】
図3に示すように、ナット2の外周には、コマ用の取り付け孔2b、2bが半径方向に貫通するようにして2つ軸線方向に並んで設けられている。図4に示すように、各取り付け孔2bは、ナット2の半径方向外方より半径方向内方において寸法(内幅)が大きくなる拡大部2c、2cを備えた内周面を有している。各取り付け孔2bに対して、180度位相で2つ設けられた拡大部2cは、ナット2の半径方向内方に向かうにつれて互いに近接する斜面2dと、斜面2dの半径方向外側端につながる段部2eとを有している。なお、ナット2の取り付け孔2b、2bの近傍には、位置決め用の凹部2g、2gが形成されており、また取り付け孔2b、2bの間には、外周から一段低くなった段部2f(図2)が形成されている。
【0015】
循環部材であるコマ4は、各孔2b内に嵌合配置する2つの円筒部4a、4aと、円筒部4a、4aを連結する板部4bと、円筒部4a、4aの外周に設けられた位置決め突起4c、4cと、円筒部4a、4aの図2で下面(ナット2に組み付けられたときに内側となる面)に設けられたS字状の循環溝4d、4dと、円筒部4a、4aの図2で上面に設けられた爪部4e、4eとを一体的に形成している。爪部4e、4eは、各円筒部4aにおいて180度位相で2つ、ナット2の半径方向外方に向かって延在するように設けられている。
【0016】
本実施の形態の動作を説明すると、不図示の電動モータからの動力がねじ軸1に伝達されると、雄ねじ溝1aと雌ねじ2aとで形成される転走路の一端から他端へとコマ4の循環溝4d、4dを介して循環するボール3により、回転運動がナット2の軸線方向運動に効率よく変換され、不図示の被駆動部材を軸線方向に移動させることができる。
【0017】
コマ4を組み付ける態様について説明する。以下の説明においては、一方の円筒部4aに関してのみ説明するが、他方の円筒部4aも同様に加工される。図4において、コマ4の位置決め突起4c、4cをナット2の凹部2g、2gに整列させるようにして、コマ4をナット2に接近させると、ナット2の取り付け孔2b、2bに対して、円筒部4a、4aが嵌合するようになる。コマ4の板部4bがナット2の段部2f上に載置されたときに、爪部4c、4cが拡大部2c、2cに対応する位置に到達する。
【0018】
ここで、不図示の工具を用いて、図5に矢印で示すように力を与え、爪部4c、4cを押し広げるようにして曲げる。爪部4c、4cは、円筒部4aに比べて厚さが薄く剛性が低いので曲がりやすく、更に爪部4c、4cを曲げても、円筒部4aの下面に形成された循環溝4dの形状に影響を与えないようになっている。かかる状態においては、爪部4c、4cは、循環部材4に形成された循環溝4dが、転動するボール3から力を受けたとき圧縮力を生じる方向に延在することとなる。
【0019】
ナット2の取り付け孔2b内で曲げられた爪部4c、4cは、斜面2d、2dに沿って曲がり、その先端が段部2e、2eに対向する。かかる状態で、図6に示すように、コマ4の循環溝4dを転動するボール3から突き上げ力Fがコマ4に与えられたとき、爪部4c、4cは段部2e、2eに当接し、それぞれ反力F/2を受けることで、突き上げ力Fを支持できるようになっている。なお、爪部4c、4cは、斜面2d、2dによりその側面を支持されているので座屈などの変形が回避される。
【0020】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。例えば、組み付け前において、コマ4の爪部4c、4cが若干広がるような形状としておき、組み付け中は爪部4c、4cが閉じるように弾性変形するが、拡大部2c、2cに到達したときに、爪部4c、4cが弾性変形から復帰し、段部2e、2eに対向するようにすれば、治具などを用いて爪部4c、4cを押し広げる必要はなくなり、より組付けが簡略化される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態であるボールねじ機構の上面図である。
【図2】図1のボールねじ機構をII-II線で切断して矢印方向に見た断面図である。
【図3】図2のボールねじ機構をIII-III線で切断して矢印方向に見た断面図である。
【図4】本実施の形態にかかるナットを、図1のIV-IV線で切断して矢印方向に見た図であり、コマ4の組み付け前の状態を示す。
【図5】本実施の形態にかかるナットを、図1のIV-IV線で切断して矢印方向に見た図であり、コマ4の爪部4c、4cを折り曲げた状態を示す。
【図6】本実施の形態にかかるナットを、図1のIV-IV線で切断して矢印方向に見た図であり、循環溝4dがボール3から突き上げ力Fを受けた状態を示す。
【符号の説明】
【0022】
1 ねじ軸
1a 雄ねじ溝
2 ナット
2a 雌ねじ溝
2b 取り付け孔
2c 拡大部
2d 斜面
2e 段部
2f 段部
2g 凹部
3 ボール
4 コマ
4a 円筒部
4b 板部
4c 爪部
4c 突起
4d 循環溝
4e 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、
前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、
対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ナットの取り付け孔に取り付けられ、前記転走路の一端から他端へとボールを戻すための循環部材とを有し、
前記取り付け孔は、前記ナットの半径方向外方より半径方向内方において寸法が大きくなる拡大部を備えた内周面を有し、前記循環部材は、曲げることにより前記拡大部に係合する爪部を有していることを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
前記爪部は、前記循環部材に形成された循環溝が、転動する前記ボールから力を受けたとき圧縮力を生じる方向に延在していることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ機構。
【請求項3】
前記爪部は一対設けられ、前記取り付け孔の拡大部は、前記ナットの半径方向内方に向かうにつれて互いに近接する一対の斜面と、前記斜面にそれぞれつながり前記爪部の先端が当接する一対の段部とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−275138(P2006−275138A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94271(P2005−94271)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】