説明

ボールねじ用デフレクタ及びデフレクタ式ボールねじ

【課題】ボールねじに使用するデフレクタにおいて、ボールの衝突荷重が大きい場合にタング部の強度が耐えられなかったり、使用を繰り返すことによってタング部に疲労破壊が生じたりといった問題を解消するため、タング部の破損が生じ難いボールねじ用デフレクタ及び当該デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじを提供する。
【解決手段】タング部10の形状をゴシックアーク形状などとすることで、タング部をボール7に1点で接触させるのではなく、2点で接触させて衝突荷重や磨耗を分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじのボールを螺旋軌道から逸らしてボール循環機構へ誘導するためのボールねじ用デフレクタ及び当該デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじのボール転動溝内に設置され、ボールを循環させるためのボール循環機構へボールを誘導するボールねじ用デフレクタがある。
このようなボールねじ用デフレクタにおいて、ボールと接触し、ボールをボール循環機構へ誘導するタング部の表面形状は平面であるか、ボールよりも曲率の小さい単一のR形状をしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−228963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなボールねじ用デフレクタにおいては、図6に示すように、ボール7がタング部30と一点で接触し、タング部30への負荷が狭い範囲に集中するため、衝突荷重が大きい場合にタング部30の強度が耐えられなかったり、使用を繰り返すことによってタング部30に疲労破壊が生じたりといった問題がある。
このような問題に鑑みて、本発明は、タング部の破損が生じ難いボールねじ用デフレクタ及び当該デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のある実施形態に係るボールねじ用デフレクタは、ボールねじの螺旋軌道内を転動するボールを前記螺旋軌道から逸らして前記ボールを循環させるボール循環機構へ誘導するタング部を有するボールねじ用デフレクタにおいて、前記タング部は、前記ボールに2つの接触点で接触して誘導することを特徴としている。
また、このボールねじ用デフレクタにおいて、前記タング部の断面は、ゴシックアーク形状をしていることが好ましい。
【0006】
また、このボールねじ用デフレクタにおいて、前記タング部の断面は、底部に向かうにつれて曲率が高くなる2次曲線状としてもよい。
また、このボールねじ用デフレクタにおいて、前記タング部の断面はV溝形状としてもよい。
更に、上記課題を解決するため、本発明のある実施形態に係るデフレクタ式ボールねじは、これらのボールねじ用デフレクタを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るボールねじ用デフレクタ及びデフレクタ式ボールねじよれば、タング部の破損が生じ難いボールねじ用デフレクタ及び当該デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るボールねじ用デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじの平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るボールねじ用デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじの断面の概念図である。
【図3】本発明の第1実施形態のボールねじ用デフレクタを示し、(a)はねじ孔側から見た平面図、(b)はタング部の断面図、(c)はタング部側から見た立面図である。
【図4】本発明の第2実施形態のボールねじ用デフレクタを示し、(a)はねじ孔側から見た平面図、(b)はタング部の断面図、(c)はタング部側から見た立面図である。
【図5】本発明の第3実施形態のボールねじ用デフレクタを示し、(a)はねじ孔側から見た平面図、(b)はタング部の断面図、(c)はタング部側から見た立面図である。
【図6】従来のボールねじ用デフレクタのタング部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、添付の図1乃至図3を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。
本発明に係るボールねじ用デフレクタは、ボールねじに用いられるものである。ボールねじとは、回転運動を直線運動に変換する機構であって、雄ねじを備えたねじ軸の外周に、多数のボールを介装して雌ねじを備えたナット(雌ねじ部材)を螺合させ、ねじ軸を回転させることによりナットを軸線方向へ移動させるものである。
【0010】
図1及び図2を参照しつつ本発明の第1実施形態に係るデフレクタ式のボールねじの全体構成を説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るボールねじ用デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじの平面図である。また、図2は本発明の第1実施形態に係るボールねじ用デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじの断面の概念図である。図2においては、図面に向かって左右方向の軸をX軸、上下方向の軸をY軸としている。
【0011】
図1において、ボールねじ用デフレクタ(以下、単にデフレクタという)は符号1、デフレクタ式ボールねじ(以下、単にボールねじという)は符号2で示される。図1において、一部のみ示すねじ軸3は、溝断面が円弧状であるねじ溝3aを外周に有する軸部材である。ナット4は、ねじ軸3のねじ溝3aに対応するねじ溝4aを内周に有する円筒径部材4bと、その片側に設けられたドーナツ状のフランジ4cとから構成されている。
【0012】
図2に示すように、ナット4には、上面からねじ溝4aまで延在する2つの貫通孔5が形成され、かかる貫通孔5に、U字型のボール循環チューブ6の両端部がそれぞれ嵌挿されている。
ナット4の内部に挿通されたねじ軸3は、そのねじ溝3aがナットのねじ溝4aと対向するように配置され、かかる溝3a、4a内には多数のボール7が転動自在に収納されている。そして、ねじ軸3とナット4とが相対回転運動を行うと、ボール7はねじ溝3a、4aから構成された転送路(螺旋軌道)8に沿って転動する。
【0013】
転送路8には、転送路8の形状に合わせて円弧状をしたデフレクタ1が嵌装され、デフレクタ1は固定ねじ9によって2箇所でナット4に固定されている。デフレクタ1の端部には、ボール7をボール循環チューブ(ボール循環機構)6に誘導するタング部10が形成されている。そして、転送路8内を転動しているボール7がタング部10によって転送路8から外れて循環チューブ6へ誘導される。循環チューブ6へ誘導されたボール7は、循環チューブ6内を通って反対端より転送路8に戻り再度転動して循環チューブ6へ誘導されるという循環が繰り返される。
【0014】
この第1実施形態において、ボール7の誘導方向は、転送路8の接線方向としている。これにより、滑らかなボール循環を得ることができ、ボール7が循環部品に与える負荷を小さくすることができることから、ねじ軸3とナット4の高速な相対回転が可能となる。
図3(a)はデフレクタ1の平面図を示している。デフレクタ1は、端部にタング部10を備え、ねじ用孔11が2箇所設けられている。本第1実施形態においては、図2に示すように、ボール7を転送路8の接線方向に誘導するためにデフレクタ1の端部をX軸付近まで延在させている。したがって、図3(a)に示すデフレクタ1の平面形状はねじ溝の形状に合わせて両端部付近がわずかにカーブした形状をしている。
【0015】
また、タング部10の断面形状は、図3(b)に示すように、ゴシックアーク形状としている。このような形状とすると、図6に示す従来例とは異なり、ボール7とタング部10とが2点で接触することになる。これによって、ボール7がタング部10に接触する際の衝撃や磨耗が2箇所に分散し、タング部10の破損を防止することが可能となる。また、衝撃などを分散させるのであればタング部10をボール7と同じ曲率を有する円柱面状とすることも考えられるが、その場合、ボール7の摩擦が増加し、ボールねじ2の動きが重くなる。本第1実施形態のようにボール7とタング部10とを2点接触とすることで、ボール7の摩擦を抑えつつ、タング10部の破損を防ぐことが可能となる。
【0016】
図3(c)は、タング部10の側から見たデフレクタ1の立面図を示している。タング部10の平面は略楕円形状をしており、長軸がねじ軸3と垂直な方向に対して傾きθを有している。これは、前述のようにデフレクタ1を図2に示すX軸付近まで延在させていることから、ねじ溝3aの傾きに合わせる必要があるためである。
【0017】
(第2実施形態)
以下、図4を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るボールねじ用デフレクタ22について説明する。
本発明の第2実施形態に係るボールねじ用デフレクタ(以下、単にデフレクタという)22は、上記の第1実施形態と同様にデフレクタ式のボールねじ機構において、転送路8内を転動するボール7をボール循環チューブ(ボール循環機構)6に誘導するものであり、基本的な構成は第1実施形態と共通する。
【0018】
本第2実施形態が第1実施形態と相違するのは、ボール7の誘導方向が転送路8の接線方向でない点にある。つまり、デフレクタ22は、第1実施形態のデフレクタ1よりも長さが短く、図2に示す第1実施形態のように端部がX軸付近まで延在していないが、第1実施形態に係るデフレクタ1と同様に、タング部20はY軸方向に延びる端面を有しており、転送路8の接線方向から外側に角度をつけてボールを誘導するものである。
【0019】
図4(a)に本第2実施形態に係るデフレクタ22の平面形状を示している。デフレクタ22は、平面視において直線状をしており、図4(c)に示すようにタング部20は、楕円形の長軸方向をねじ軸3に対して垂直な方向としている。このような形状であっても、デフレクタ22の長さが短いために転送路8に嵌挿させることは可能であり、単純な形状であるため製造しやすくなり、製造コストを抑えることができる。
【0020】
また、本第2実施形態に係るデフレクタ22は、タング部20の断面形状がゴシックアーク形状ではない点において、第1実施形態と異なっている。本第2実施形態において、タング部22は、図4(b)に示すように、底部に向かうにつれて曲率が高くなる2次曲線状の断面を有している。このような形状とした場合でも、ボール7とタング部20とが2点で接触することから、ボール7がタング部20に接触する際の衝撃や磨耗を分散することができ、タング部20の破損を軽減することが可能となる。
なお、本第2実施形態のタング部20の断面形状を第1実施形態と同様にゴシックアーク形状とすることも可能である。また、これとは逆に、第1実施形態のタング部10を第2実施形態のタング部20と同様に2次曲線状の断面とすることも可能である。
【0021】
(第3実施形態)
次に、図5を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るボールねじ用デフレクタ1について説明する。
本発明の第3実施形態に係るボールねじ用デフレクタ(以下、単にデフレクタという)1は、第1実施形態と同様にデフレクタ式のボールねじ機構において、転送路8内を転動するボール7をボール循環チューブ(ボール循環機構)6に誘導するものであり、基本的な構成は第1実施形態と共通する。
【0022】
但し、本第3実施形態に係るデフレクタ1は、タング部10の断面形状がゴシックアーク形状ではない点において、第1実施形態と異なっている。本第3実施形態において、タング部10は、図4(b)に示すように、断面形状をV溝形状にしてある。タング部10の断面形状をこのようにした場合でも、ボール7とタング部10とが2点で接触することから、ボール7がタング部10に接触する際の衝撃や磨耗を分散することができ、タング部10の破損を軽減することが可能となる。
以上のように、本発明によれば、タング部の破損が生じ難いボールねじ用デフレクタ及び当該デフレクタを備えたデフレクタ式ボールねじを提供することができる。
【符号の説明】
【0023】
1、22 ボールねじ用デフレクタ
2 デフレクタ式ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝(ねじ軸)
4 ナット
4a ねじ溝(ナット)
4b 円筒径部材
4c フランジ
5 貫通孔
6 ボール循環チューブ(ボール循環機構)
7 ボール
8 転送路(螺旋軌道)
9 固定ねじ
10、20、30 タング部
11、21 ねじ用孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじの螺旋軌道内を転動するボールを前記螺旋軌道から逸らして前記ボールを循環させるボール循環機構へ誘導するタング部を有するボールねじ用デフレクタにおいて、
前記タング部は、前記ボールに2つの接触点で接触して誘導することを特徴とするボールねじ用デフレクタ。
【請求項2】
前記タング部の断面は、ゴシックアーク形状をしていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ用デフレクタ。
【請求項3】
前記タング部の断面は、底部に向かうにつれて曲率が高くなる2次曲線状であることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ用デフレクタ。
【請求項4】
前記タング部の断面は、V溝形状であることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ用デフレクタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載のボールねじ用デフレクタを備えたことを特徴とするデフレクタ式ボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−50209(P2013−50209A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170297(P2012−170297)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】