説明

ボールねじ用循環部品、ボールねじ

【課題】二個の分割体からなるボールねじの循環部品において、寸法も材料コストも増加しない方法で、分割体の合わせ面に隙間を生じにくくする。
【解決手段】循環部品3は本体部31と一対の脚部32とからなる。循環部品3は、ボールの移動方向に延びるラインLに沿って分割された二個の分割体30で構成されている。この分割ラインLは二個の屈曲部を有し、これらの屈曲部は全て滑らかになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、本体部と一対の脚部とからなり、ボールの移動方向に沿って分割された二個の分割体を結合することで組み立てられるボールねじ用循環部品と、これを備えたボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。ボールねじのボール戻し経路としては、組み立てが容易である点から、リターンチューブ方式を採用することが多い。
【0003】
しかし、従来のリターンチューブ方式のボールねじでは、最近のボールねじの高回転化に伴って、ボールがリターンチューブに衝突するスピードが速くなり、衝突エネルギーが大きくなることで、リターンチューブやねじ溝(ねじ溝の両肩部などを含む)が損傷し易くなる。この損傷を防止するために、ねじ軸の接線方向且つねじ溝のリード角方向にボールをすくい上げるようにすると、リターンチューブの形状が複雑になる。
【0004】
そのため、金属製のリターンチューブに代えて、合成樹脂製で本体部と一対の脚部とからなり、ボールの移動方向に沿って分割された二個の分割体を結合することで組み立てられる循環部品を使用することが提案されている(特許文献1および2等を参照)。この循環部品の脚部を、ナットの外側平坦面に設けられた二個一組の循環孔(軸方向に対して略垂直に延びる貫通孔)に挿入し、本体部を前記外側平坦面に接触配置することで、ボールねじのボール戻し経路が形成される。
【0005】
特許文献1の循環部品では、図8および9に示すように、循環部品3を構成する分割体30の合わせ面を示す分割ラインLが、ボールの移動方向に沿った直線状で、両脚部側の端部が屈曲している。この循環部品3は、分割ラインLの直線部が長く、屈曲部が角張っていることと、切削等の機械加工に比べて加工精度が低い合成樹脂の射出成形で作製されていることから、分割体30の合わせ面に隙間が生じ易い。
【0006】
特許文献2では、前記二個の分割体の合わせ面を凹凸で嵌まり合う形状として、合わせ面に隙間が生じないようにすることが記載されている。しかし、この方法では、凹凸を設けるために分割体を厚く形成する必要があり、寸法が大きくなるとともに材料コストも増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−125581号公報
【特許文献2】特開2005−69264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、本体部と一対の脚部とからなり、ボールの移動方向に沿って分割された二個の分割体を結合することで組み立てられる、ボールねじ用循環部品において、寸法も材料コストも増加しない方法で、分割体の合わせ面に隙間を生じにくくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじの、前記ボール戻し経路を形成する循環部品であって、前記ナットの外側平坦面に接触配置される本体部と、前記外側平坦面に設けられた二個一組の循環孔に挿入される一対の脚部とからなり、ボールの移動方向に沿って分割された二個の分割体を結合することで組み立てられ、前記本体部における前記分割体の合わせ面を示す分割ラインが屈曲部を有し、前記屈曲部が滑らかに形成されていることを特徴とするボールねじ用循環部品を提供する。
【0010】
この発明のボールねじ用循環部品では、前記本体部における前記分割体の合わせ面を示す分割ラインが屈曲部を有し、前記屈曲部が滑らかに形成されていることにより、切削等の機械加工と比べて加工精度が低い合成樹脂の射出成形で作製された場合でも、分割体の合わせ面同士の嵌め合い精度が良好になる。よって、前記屈曲部が角張って形成されているものと比較して、循環部品に組み立てた状態で分割体の合わせ面に隙間が生じにくくなる。また、分割体の厚さを増大する必要がないため、寸法も材料コストも増加しない。
【0011】
この発明は、また、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじであって、前記ボール戻し経路は、本発明の循環部品の前記脚部が、前記ナットの外側平坦面に設けられた二個一組の循環孔に挿入され、前記本体部が前記外側平坦面に接触配置されることで形成されていることを特徴とするボールねじを提供する。
この発明のボールねじは、循環部品を構成する分割体の合わせ面に隙間が生じにくいため、防塵性が良好になり、潤滑剤の漏れも抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のボールねじの循環部品によれば、寸法も材料コストも増加しない方法で、分割体の合わせ面に隙間を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態のボールねじを示す平面図である。
【図2】第1実施形態の循環部品を示す平面図である。
【図3】第1〜3実施形態の循環部品を構成する分割体を示す正面図である。
【図4】第2実施形態のボールねじを示す平面図である。
【図5】第2実施形態の循環部品を示す平面図である。
【図6】第3実施形態のボールねじを示す平面図である。
【図7】第3実施形態の循環部品を示す平面図である。
【図8】従来例のボールねじを示す平面図である。
【図9】従来例の循環部品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態について説明する。
第1実施形態のボールねじは、図1に示すように、内周面に螺旋溝が形成されたナット1と、外周面に螺旋溝21が形成されたねじ軸2と、ボールと、循環部品3と、循環部品3をナット1に固定する取付部品4とで構成されている。ボールは、ナット1の螺旋溝とねじ軸2の螺旋溝21で形成される軌道の間と、循環部品3により形成されたボール戻し経路内に配置されている。
【0015】
ナット1の外周部の一部が凹部11とされ、その底面が循環部品3を取り付ける外側平坦面12となっている。ナット1の外側平坦面12に、二個一組の貫通孔(循環孔)13が形成されている。
図1および図2に示すように、循環部品3は本体部31と一対の脚部32とからなる。図3に示すように、本体部31の下面(脚部32側の面)31bがナット1の外側平坦面12に接触する面である。循環部品3は、ボールの移動方向に延びるラインLに沿って分割された二個の分割体30で構成されている。これらの分割体30は合成樹脂の射出成形で作製されている。図2に示すように、この分割ラインLは、二個の屈曲部を有し、これらの屈曲部が全て滑らかに形成されている。
【0016】
図3に示すように、循環部品3の分割体30は、本体部310と一対の脚部320とからなり、ボール戻し経路に対応する溝350が形成されている。溝350の両側の面351,352が、両分割体30の合わせ面となる。一方の脚部320の先端に、ボール掬いあげ用のタング部32aが形成されている。
図3に示す同じ分割体30を合わせ面351,352同士を合わせて結合することで循環部品3が組み立てられ、その内部に二つの溝350によるボール戻し経路が形成される。分割ラインLは、分割体30の合わせ面351,352を示すラインである。
【0017】
この実施形態の循環部品によれば、分割体30の合わせ面351,352を示す分割ラインLが、二個の屈曲部を有し、これらの屈曲部が滑らかに形成されているため、分割体30の合わせ面351,352同士の嵌め合い精度が良好になる。よって、分割体30の合わせ面351,352に隙間が生じにくい。また、分割体30の厚さは図9の循環部品3と同じで構わないため、寸法も材料コストも増加しない。
【0018】
この実施形態のボールねじは、循環部品3を構成する分割体30の合わせ面351,352に隙間が生じにくいため、防塵性が良好になり、潤滑剤の漏れも抑制できる。
第2実施形態のボールねじは、循環部品3を構成する分割体3の合わせ面を示す分割ラインLが異なる以外は第1実施形態と同じである。第2実施形態の分割ラインLは、図4および5に示すように、四個の屈曲部を有し、これらの屈曲部が全て滑らかに形成されている。そのため、分割体30の合わせ面351,352同士の嵌め合い精度が良好になる。よって、分割体30の合わせ面351,352に隙間が生じにくい。また、分割体30の厚さは図9の循環部品3と同じで構わないため、寸法も材料コストも増加しない。
【0019】
第3実施形態のボールねじは、循環部品3を構成する分割体3の合わせ面を示す分割ラインLが異なる以外は第1実施形態と同じである。第3実施形態の分割ラインLは、図6および7に示すように、八個の屈曲部を有し、これらの屈曲部が全て滑らかに形成されている。そのため、分割体30の合わせ面351,352同士の嵌め合い精度が良好になる。よって、分割体30の合わせ面351,352に隙間が生じにくい。また、分割体30の厚さは図9の循環部品3と同じで構わないため、寸法も材料コストも増加しない。
【0020】
第1〜3実施形態の循環部品を比較すると、分割ラインLの屈曲部が多いほど、分割体30同士のボールの移動方向でのズレを防止できる効果が高くなる。
なお、分割ラインLは、図3に示す合わせ面351,352のうち、上側の合わせ面351のみを図2、5、7に示す形状として、下側の合わせ面352を図9に示す形状、または図9で屈曲部を有さない、全体が直線の形状としてもよい。
【0021】
このように、上側の合わせ面351の分割ラインLのみを滑らかな屈曲部を有する形状とし、下側の合わせ面352の分割ラインLを直線状または角張った屈曲部を有する形状とすれば、分割体30の形状が簡素化されるため、射出成形で分割体30を製造する際の金型コストを低減できる。なお、循環部品3はナット1に、本体部31の下面31bが外側平坦面12に押し当てられた状態で固定されるため、下側の合わせ面352の隙間から塵埃が入り込んだり、潤滑剤が漏れたりする可能性は低い。
【0022】
上記各実施形態では、循環部品の分割体を合成樹脂の射出成形で作製しているが、この発明は、循環部品の分割体がMIM(金属射出成形)やダイキャスト等の方法で作製される場合でも適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 ナット
11 ナットの凹部
12 ナットの外側平坦面
13 ナットの貫通孔(循環孔)
2 ねじ軸
21 ねじ軸の螺旋溝
3 循環部品
31 循環部品の本体部
31b 本体部の下面(ナットの外側平坦面との接触面)
32 循環部品の脚部
32a タング部
30 循環部品の分割体
310 分割体の本体部
320 分割体の脚部
350 ボール戻し経路を構成する溝
351,352 分割体の合わせ面
4 取付部品
L 分割ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじの、前記ボール戻し経路を形成する循環部品であって、
前記ナットの外側平坦面に接触配置される本体部と、前記外側平坦面に設けられた二個一組の循環孔に挿入される一対の脚部とからなり、ボールの移動方向に沿って分割された二個の分割体を結合することで組み立てられ、
前記本体部における前記分割体の合わせ面を示す分割ラインが屈曲部を有し、前記屈曲部が滑らかに形成されていることを特徴とするボールねじ用循環部品。
【請求項2】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじであって、
前記ボール戻し経路は、請求項1記載の循環部品の前記脚部が、前記ナットの外側平坦面に設けられた二個一組の循環孔に挿入され、前記本体部が前記外側平坦面に接触配置されることで形成されていることを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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