説明

ボールねじ装置

【課題】稼動時の騒音低減効果が大きく、且つ、製造過程での拘束を緩和して製造事業者側での取り扱いも容易なボールねじ装置を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋状のねじ溝13を有するねじ軸11と、該ねじ軸11のねじ溝13に対応するねじ溝14を内周面に有してねじ軸11に螺合されるナット12と、両ねじ溝間13,14に形成される負荷軌道15に転動可能に装填された多数のボール16とを備えたボールねじ装置において、ボール16間に幅寸法の異なる複数種類のスペーサを17a,17b介挿すると共に、各該当するボールを隔てた順次のスペーサの配列中同種のスペーサが連続する数を10個未満としたボールねじ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の機器の送り機構等に適用可能なボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のボールねじ装置が、多様な技術分野において、例えば送り機構や駆動機構における枢要な要素として既に利用されていることは周知のとおりである。
図4は、一般的なボールねじ装置の構造を例示する図である。
図示のボールねじ装置1は、外周面に螺旋状のねじ溝2を有するねじ軸3を有する。また、内周面にねじ溝2に対応する螺旋状のねじ溝4を有するナット6を有し、このナット6がねじ軸3に螺合している。
ナット6のねじ溝4とねじ軸3のねじ溝2とは互いに対向して両者の間に螺旋状の負荷軌道が形成されている。この負荷軌道には転動体としての多数のボール5が転動可能に装填されている。上記ねじ軸3とナット6との相対的回転変位により、ナット6とねじ軸3とがボール5の転動を介して軸3の軸方向に相対的に移動する。
【0003】
なお、図4におけるようなボール循環式のボールねじ装置の場合は、例えばナット6の外周面の一部を平坦面にしてこの平坦面に両ねじ溝2,4に連通する2個一組の孔7をねじ軸3を跨ぐように形成し、この一組の孔7に両端を嵌め込むようにして循環チューブ8を設けた構造を有する。この循環チューブ8により、上述のねじ溝2および4間の負荷軌道に沿って公転するボール5を、この負荷軌道の途中から循環チューブ8の一方の開口側に掬い上げるようにして該循環チューブ8に誘導してその中を潜らせる。そして循環チューブ8を潜らせたボール5を、順次他方の開口側から再び元の負荷軌道に戻すようにしてボール5を無限循環させる。
【0004】
上述のようなボールねじ装置をその製造技術をも含む視座で見ると、一般的にねじ軸のねじ溝は研削加工した後は、超仕上げのような仕上げ加工がされていないので、加工うねりが生じている。そのため、加工うねりの山数と1リード当たりのボール数の整数倍が偶然一致したときに、騒音が増大してしまうといった問題がある。
この問題は、より詳細には、次のような現象によって生じていると分析される。即ち、スペーサを挟んだ両ボールの中心間距離をP、ボールピッチ円直径をd、リードをL、とすると、1リード当たりのボール数mは{(πd+L1/2/P である。このような1リード当たりのボール数mの自然数倍nm(nは任意の自然数)と当該ねじ溝1リード当たりの加工うねりの山数とが一致したときに、ボール軌道面上のうねりが該当するボールとの相対運動に強く作用して大きな騒音を発生し易くなるというものである。
【0005】
このような騒音を低減するために、各ボール間毎に異なる厚さ(幅)の保持ピースを介装することにより、ねじ溝の加工うねりのピッチとボールの間隔が合致する箇所を減らすようにしたボールねじ装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
他方、ボール相互の競り合いによる作動性の悪化やボールの摩擦による損傷を低減するためにボール間にスペーサを介挿した場合に、このスペーサの倒れ量に影響を与える層隙間(挿入した全てのボールおよびスペーサを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に位置するボールと最後尾に位置するスペーサとの間にできる間隔)の調整を行うべく、厚み(幅寸法)の異なる複数種類のスペーサを適用するといった技術提案もある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−141020号公報
【特許文献2】特開2000−120825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のボールねじ装置においては、厚さ(幅)の異なる複数種類の保持ピースを準備した上、それらの保持ピースを、各ボール間毎に異なる厚さ(幅)の保持ピースが位置する配置をとるものであり、組立作業や部品管理等製造過程で拘束される条件が多くなり、製造事業者側での取り扱いが煩雑であるといった問題がある。
また、上記特許文献2のボールねじ装置においては、既述のようなスペーサを用いているが、結果的に、大部分のボールは略等間隔に配列されることになり、ボール相互の競り合いによる作動性の悪化やボールの摩擦による損傷を低減するには有効なるも、十分な騒音低減効果を期することは難しい。
本発明は上述のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、稼動時の騒音が十分に低減され、且つ、製造過程での拘束が緩和されて製造事業者側での取り扱いも容易なボールねじ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のボールねじ装置は、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に有して前記ねじ軸に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に形成される負荷軌道に転動可能に装填された多数のボールと、各ボール間に介挿されたスペーサとを備えたボールねじ装置において、前記スペーサを、各該当するボールを隔てた順次の配列中、同種のスペーサが連続する数が10個未満となるように配したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、稼動時の騒音が十分に低減され、且つ、製造過程での拘束も緩和されて製造事業者側での取り扱いも容易なボールねじ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のボールねじ装置の構造を例示する図である。
【図2】図1に例示したボールねじ装置について実施した一定の条件下における振動測定の結果を比較例と対照して表す図である。
【図3】ボールねじ装置における同種のスペーサの連続配列個数と振動振幅との関係を表す図である。
【図4】一般的なボールねじ装置の構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のボールねじ装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のボールねじ装置の構造を例示する図である。図1におけるボールねじ装置10は、ねじ軸11の外周面及びナット12の内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝13および14が形成されている。
これら双方のねじ溝13および14により形成された螺旋状の循環路を成す負荷軌道15に転動可能に多数のボール16,16が装填されている。これらのボール16,16間に幅寸法(厚み)の異なる複数種類のスペーサ17a、17bが介挿されている。本実施の形態では特に、各該当するボールを隔てた順次のスペーサの配列中同種のスペーサが連続する数を10個未満となうようにこれらスペーサ17a、17bを配置している。
【0012】
ねじ軸11とナット12とを相対的に回転させると両者は多数のボール16,16の転動を介して滑らかに相対螺旋運動する結果、軸11の軸方向に相対変位する。
図2は、図1に例示したボールねじ装置について実施した一定の条件下における振動測定の結果を比較例と対照して表す図である。
図2(a)は図1に例示したボールねじ装置10に関する振動測定の結果であり、図2(b)は比較例における振動測定の結果である。
図2(a)および(b)における振動測定条件は、何れも、次のとおりである:
ボールねじ 軸径:φ28、 ボールピッチ円直径をd:28.5mm、リードをL:5 mm、
スペーサ数 スペーサA(17a):22個 スペーサB(17b):51個
試験機 日本精工株式会社製 ボールねじ音響試験機
【0013】
図2(b)の比較例では、矢印で示す振幅波形(波形群)Wb1が振動周波数200Hz内外の位置に、また、矢印で示す振幅波形(波形群)Wb2が振動周波数400Hz内外の位置に、何れも比較的高いレベルで観測される。振幅波形(波形群)Wb1は比較例のボールねじにおける1リード当たりのボール数と一致したボール溝のうねり山による振動成分であり、振幅波形(波形群)Wb2は、1リード当たりのボール数の2倍と一致したボール溝のうねり山による振動成分である。
【0014】
これに対し、本実施の形態では、図2(a)に示すように、図2(b)で着目した振動周波数200Hz内外の位置および振動周波数400Hz内外の位置の何れにおいても振動成分のレベルが顕著に低減していることが観測される。従って、これによる振動音も顕著に抑制されていることが理解される。
図3は、ボールねじ装置における同種のスペーサの連続配列個数と振動振幅との関係を表す図である。特に図3では、図2の試験で適用したスペーサA(17a)に関してその連続配列個数と振動振幅との関係を表している。
【0015】
図3より明らかなとおり、スペーサA(17a)の連続配列個数を少なくするほど相対的に振動振幅が低くなり、特に連続配列個数10個のときを略臨界値として振動振幅の低下が顕著であることが判読される。本発明のボールねじ装置では、既述のように、一つの種類のボールの連続配列個数を10個未満にしており、これにより顕著な騒音低減効果を奏している。
また、連続配列個数を10個未満にするだけで大きな騒音低減効果を得ているため、各ボール間毎に異なる厚さ(幅)の保持ピースを配置する従来技術に比し、組立作業や部品管理等製造過程で拘束される条件が大幅に緩和される。従って、製造事業者側での取り扱いが煩雑であるといった従来の問題も一掃される。
【符号の説明】
【0016】
10……………ボールねじ装置
11……………ねじ軸
12……………ナット
13,14……ねじ溝
15……………負荷軌道
16……………ボール
17a,17b…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を内周面に有して前記ねじ軸に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に形成される負荷軌道に転動可能に装填された多数のボールと、各ボール間に介挿されたスペーサとを備えたボールねじ装置において、
前記スペーサを、各該当するボールを隔てた順次の配列中、同種のスペーサが連続する数が10個未満となるように配したことを特徴とするボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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