説明

ボールねじ装置

【課題】生産効率や生産コストに影響を与えることなく、低騒音の効果を得る。
【解決手段】螺旋状の転動体転動溝を外周面に有するボールねじ軸1と、ボールねじ軸1の外周に取り付けられ、ボールねじ軸1のボール転動溝1aに対応するボール転動溝2aを内周面に有するボールナット2と、ボールねじ軸1のボール転動溝1aとボールナット2のボール転動溝2aとで形成される転動路に転動自在に介装された複数のボール3と、前記転動路で複数のボール3の間に配置されたスペーサボール4と、前記転動路をボール3とスペーサボール4とを循環させるためのボール循環チューブ5と、を有するボールねじ装置を製造するボールねじ装置の製造方法において、ボールねじ軸1のボール転動溝1aの仕上げを切削加工により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールの間にスペーサ又は保持ピースを配置したボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ軸のボール転勤溝の仕上げは、ねじ研削加工によりなされるのが一般的である。ここで、ねじ研削加工を施した場合、砥石の振れ回りによる周期的な加工誤差(うねり)がボール転動溝の仕上げ面に発生する。そして、そのボール転動溝上のうねり山の間隔が負荷ボールの間隔と一致する場合、振動や騒音が発生する場合がある。
通常、ねじ研削加工で発生するうねりの1リード当りの山数の1次成分は、100山/リード以下となる。この結果、その整数倍(2次、3次、・・・、m次)のうねりも同時に発生する。
しかし、負荷ボールの間隔とうねり山の間隔とが一致しなければ、ボールねじ装置が多数の負荷ボールを介して負荷を支えていることによる平均化効果によって、相対運動に与えるうねりの影響を小さく抑えられる。その結果、振動や騒音も小さく抑えられる。
【0003】
これを背景として、特許文献1では、負荷ボール中心間距離をP、ボールピッチ円直径をdm、リードをLとしたときに、
√((π・dm)+L)/P
で求められる1リード当りの負荷ボール数Zの整数倍を中心とした0.95n倍から1.05nの範囲内に、ボール転動溝の1リード当りのうねりの山数成分(2次、3次、・・・、m次)が入らないように、ボール転動溝の研削仕上げ加工を行っている。
また、経験的に、1リード当りのうねりの山数が200山/リード以下となる範囲では、振動や騒音が発生しやすいことがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−202064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負荷ボールの間にスペーサボールを配置したボールねじ装置では、負荷ボール数Zが少なくなってしまう。このような場合に、1リード当りの負荷ボール数Zの整数倍を中心とした0.95n倍から1.05nの範囲を、ボール転動溝の1リード当りのうねりの山数成分(2次、3次、・・・、m次)から避けることは不可能である。このような場合、振動や騒音が発生しやすくなるという問題点があった。
【0006】
また、前述のように、経験的に、1リード当りのうねりの山数が200山/リード以下となる範囲では、振動や騒音が発生しやすいことがわかっている。このような問題に対して、研削加工においてねじ軸の回転数を極めて低速にすることで、1リード当りのうねりの山数の1次成分を200山/リードより多くすることは可能である。しかし、研削加工でねじ軸の回転数を低速にすることが、生産効率、ひいては生産コストに多大の影響を与えてしまうという問題がある。
そこで、本発明は、生産効率や生産コストに影響を与えることなく、低騒音の効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る請求項1に記載のボールねじ装置の製造方法は、螺旋状の転動体転動溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸の外周に取り付けられ、前記ねじ軸の転動体転動溝に対応する転動体転動溝を内周面に有するナットと、前記ねじ軸の転動体転動溝と前記ナットの転動体転動溝との間に転動自在に介装された複数のボールと、前記ねじ軸の転動体転動溝と前記ナットの転動体転動溝との間であり、前記複数のボールの間に配置されたスペーサの転動体と、を有するボールねじ装置を製造するボールねじ装置の製造方法において、前記ねじ軸の転動体転動溝の仕上げを切削加工により行うことを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2に記載のボールねじ装置の製造方法は、請求項1に記載のボールねじ装置の製造方法において、前記転動体転動溝に対する前記切削加工による仕上げにより、前記転動体転動溝の1リード当たりのうねりの山数が、300〜700山/リードとなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、ねじ軸の転動体転動溝の仕上げを切削加工により行うことで、うねり山に起因する振動や騒音の発生を防止できる。
また、請求項2に係る発明によれば、1リード当りのうねりの山数が300〜700山/リードとなるため、うねり山に起因する振動や騒音の発生を防止できる。
このように、本発明によれば、生産効率や生産コストに影響を与えることなく、低騒音の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用したボールねじ装置の製造方法により製造されるボールねじの構成を示す図である。
【図2】ボールねじ装置の構成を示す断面図である。
【図3】ボールとスペーサボールとの配置例(ボールとスペーサボールとの比が1:1の例)を示す図である。
【図4】保持ピースを有するボールねじ装置の構成を示す図である。
【図5】本発明を適用したボールねじ装置の音響試験結果(音の大きさ)を示す特性図である。
【図6】対比するボールねじ装置の音響試験結果(音の大きさ)を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態は、本発明を適用したボールねじ装置の製造方法である。
(ボールねじ装置の構成)
図1及び図2は、ボールねじ装置の製造方法により製造されるボールねじの構成を示す。図1及び図2に示すように、ボールねじ装置は、ボールねじ軸1、ボールナット2、複数のボール(負荷ボール)3、スペーサボール4及びボール循環チューブ5を有する。
ボールねじ軸1は、螺旋状のボール転動溝1aを外周面に有する。また、ボールナット2は、ボールねじ軸1の外周に取り付けられ、ボールねじ軸1のボール転動溝1aに対応するボール転動溝2aを内周面に有する。また、ボール3は、ボールねじ軸1のボール転動溝1aとボールナット2のボール転動溝2aとの間に転動自在に介装されている。また、スペーサボール4は、ボールねじ軸1のボール転動溝1aとボールナット2のボール転動溝2aとの間であり、複数のボール3の間に配置されている。ここで、ボールねじ軸1のボール転動溝1aとボールナット2のボール転動溝2aとは、転動路を形成する。
【0011】
また、ボール循環チューブ5は、図2に示すように、ボールナット2に取り付けられた略U字形状のチューブとされる。このボール循環チューブ5は、その両端部が、ボールねじ軸1のボール転動溝1aとボールナット2のボール転動溝2aとで形成される転動路に対応して延在する形状をなしている。このような形状により、ボール循環チューブ5は、転動路でボール3とスペーサボール4とを循環させる循環手段となる。
このような構成により、ボールねじ装置は、ボールねじ軸1とボールナット2とが相対回転しつつ、ボールねじ軸1の軸方向にボールナット2が相対移動するようになる。
【0012】
図3は、ボール3とスペーサボール4との配置例を示す。図3に示すように、スペーサボール4は、ボール3と略同径である。そして、スペーサボール4は、ボール3と一対とされて配置されている。すなわち、ボール3とスペーサボール4との比(配置比)が1:1である。
この場合、図3に示すように、スペーサボール4の存在分、ボール3の中心間距離Pは大きくなる。この結果、
√((π・dm)+L)/P
で求められる1リード当りの負荷ボール数Zは少なくなる。
【0013】
(ボールねじ装置の製造方法)
ボールねじ装置の製造方法では、ボールねじ軸1のボール転動溝1aの仕上げを切削加工により行っている。すなわち、一般的には研削加工によりなされる仕上げを、本発明を適用して、切削加工により行っている。
これにより、その切削加工の特徴により、ボール転動溝1a上のうねりの1リード当りの山数の1次成分が300〜700山/リード程度となる。
この結果、ボールねじ軸1のボール転動溝1a上の1リード当りのうねりの山数が200山/リード以下となってしまうのを避けることができ、ボール転勤溝1a上のうねり山の間隔がボール3の間隔と一致して発生してしまう振動や騒音を回避できる。
このように、本発明を適用したボールねじ装置の製造方法により、生産効率や生産コストに影響を与えることなく、低騒音の効果を得ることができる。
【0014】
(本実施形態の変形例)
(1)図4に示すように、ボールねじ装置は、スペーサボール4に代えて保持ピース5を有することもできる。保持ピース6は、ボール3と対向する面に凹面6aを有する。このように保持ピース6をボールねじ装置が有する場合、保持ピース6の存在分、ボール3の中心間距離Pは大きくなる。この結果、
√((π・dm)+L)/P
で求められる1リード当りの負荷ボール数Zは少なくなる。このような場合にも、ボールねじ装置のボール転動溝を切削加工により仕上ることで、同様な効果を得ることができる。
(2)転動体を、ボール3以外の、例えばローラとすることもできる。
【0015】
(実施例)
軸径がφ32mm、ボールピッチ円直径dmが33.5mm、リードLが32mm、ボール3とボールスペーサとの比が1:1のボールねじ装置を用いて、回転速度を1500/minとして、音響試験を実施した。
本発明を適用したボールねじ装置として、ボールねじ軸のボール転動溝を切削加工により仕上げたものを用いた。また、対比するボールねじ装置として、ボールねじ軸のボール転動溝を研削加工により仕上げたものを用いた。
図5は、本発明を適用したボールねじ装置の音響試験結果(音の大きさ)を示し、図6は、対比例となるボールねじ装置の音響試験結果(音の大きさ)を示す。
【0016】
図6に示すように、対比例では、1000強の周波数Aと2500弱の周波数Bに音のピークが得られている。周波数Aでみられる音のピークは、1リード当りのうねりの山数が200山/リード以下の範囲である、82山/リード(1次成分)とボールの数の整数倍が一致したことによる成分である。また、周波数Bでみられる音のピークは、1リード当りのうねりの山数が200山/リード以下の範囲である、164山/リード(2次成分)とボールの数の整数倍が一致したことによる成分である。
これに対して、図5に示すように、本発明の適用例では、図6でみられたような周波数Aや周波数Bを含めた周波数の計測全領域で音のピークを得ることはできなかった。すなわち、振動や騒音を抑制できる結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0017】
1 ボールねじ軸、1a ボールねじ軸のボール転動溝、2 ボールナット、2a ボールナットのボール転動溝、3 ボール、4 スペーサボール、5 ボール循環チューブ、6 保持ピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の転動体転動溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸の外周に取り付けられ、前記ねじ軸の転動体転動溝に対応する転動体転動溝を内周面に有するナットと、前記ねじ軸の転動体転動溝と前記ナットの転動体転動溝との間に転動自在に介装された複数の転動体と、前記ねじ軸の転動体転動溝と前記ナットの転動体転動溝との間であり、前記複数の転動体の間に配置されたスペーサ又は保持ピースと、前記ねじ軸の転動体転動溝と前記ナットの転動体転動溝との間をボールとスペーサ又は保持ピースとを循環させるための循環手段と、を有するボールねじ装置を製造するボールねじ装置の製造方法において、
前記ねじ軸の転動体転動溝の仕上げを切削加工により行うことを特徴とするボールねじ装置の製造方法。
【請求項2】
前記転動体転動溝に対する前記切削加工による仕上げにより、前記転動体転動溝の1リード当たりのうねりの山数が、300〜700山/リードとなっていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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