説明

ボールねじ

【課題】ボールねじのナットの軸方向端部に接触シールを取り付ける際に、シールのリップ部とねじ軸との周方向での位置合わせが簡単にできるようにする。
【解決手段】シール4が固定されたシールキャップ5をナット1の取付部12に固定することで、シール4をナット1に取り付ける。取付部12の外周面の周方向で異なる位置に3つの平面部13を形成する。シールキャップ5は、取付部12に外嵌する環状部51と、内向きフランジ部52とからなる。環状部51には、3つの平面部13と同じ位置に、3つの貫通ねじ穴(貫通穴)51aを形成する。シールキャップ5の環状部51をナット1の取付部12に外嵌し、平面部13に貫通ねじ穴51aを合わせて小ねじ7を螺合することで、シール4がナット1に取り付けられるとともに、シール4のリップ部41とねじ軸2との周方向での位置合わせがなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、ナットの軸方向両端部に配置されたリング状のシールを備えたボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、射出成形機、半導体デバイス製造装置などで使用されるボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、を備えている。
このようなボールねじのボールは、ねじ軸の回転運動に伴ってねじ溝を転動するため、ねじ軸に付着した塵埃や摩耗粉などの異物がナット内に入り込むと、ナット内に入り込んだ異物によってボールの転がり運動が阻害され、焼付きなどの損傷が生じることがある。
そこで、ナット内への異物の侵入等を防ぐために、ナットの軸方向両端にリング状のシールが配置されている。
【0003】
特許文献1には、ボールねじのナットの軸方向端部に、外周面にV溝(V字断面の周溝)を形成した取付部を形成し、この取付部に、予めシールが取り付けられたシールキャップを固定することが記載されている。前記シールは、ねじ軸の軸直角断面形状と相似の内周縁形状のリップ部を有し、ねじ軸に摺接する接触シールである。
前記シールキャップは、ナットの取付部の外周面に外嵌する環状部を有し、この環状部に、外周面から径方向に貫通する取付ねじ穴が形成されている。前記シールキャップはナットに対して、前記環状部の取付ねじ穴に止めねじを螺合し、その先端の円錐面を前記取付部のV溝を構成する押圧斜面に押圧することで固定されている。
これにより、シールの固定時に、リップ部の周方向位置(位相)が任意に設定できるため、リップ部の内周縁形状とねじ軸の軸直角断面形状を正確に合わせることが可能になることで、接触シールのシール性の向上が図れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−261403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたボールねじでは、シールのリップ部とねじ軸を周方向で位置合わせする作業を、シールキャップを回転させて、リップ部の先端を確認しながら行う必要があるため手間がかかるとともに、良好な防塵性および密封性を得ることができる最適な位置に調整することが難しい。
この発明の課題は、ボールねじのナットの軸方向端部に接触シールを取り付ける際に、シールのリップ部とねじ軸との周方向での位置合わせが簡単にできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、ナットの軸方向両端部に配置されたリング状のシールを備えたボールねじであって、前記シールは、ねじ軸の軸直角断面形状と相似の内周縁形状のリップ部を有し、ねじ軸に摺接する接触シールであり、下記の構成(1) 〜(4) を有することを特徴とする。
(1) 前記ナットの軸方向端部からなる取付部の外周面の周方向で異なる位置となる3カ所以上に、前記ナットの径方向と垂直な平面部を設ける。
(2) 前記取付部に外嵌する環状部と、この環状部の軸方向一端に設けた、前記シールを固定する内向きフランジ部とからなり、前記環状部の前記平面部と同じ位置に貫通穴を有し、前記シールを固定した後に前記取付部に固定されるシールキャップを備え、前記シールキャップの軸方向寸法は、前記シールが軸方向の設定位置に配置される寸法である。
(3) 前記シールは、前記ナットの平面部に前記シールキャップの貫通穴を合わせた状態で、リップ部の内周縁形状がねじ軸の軸直角断面形状に対応した配置となるように、前記内向きフランジに固定されている。
(4) 前記シールキャップが前記ナットに対して、前記環状部を前記取付部に外嵌し、前記平面部に合わせた前記貫通穴から挿入された固定ねじで固定されている。
【0007】
この発明のボールねじによれば、前記シールを固定した後のシールキャップの環状部を前記ナットの取付部に外嵌し、平面部に前記シールキャップの貫通穴を合わせることで、前記シールのリップ部とねじ軸が周方向で位置合わせされる。そして、この状態で前記貫通穴から固定ねじを挿入して平面部に押し当てて固定することで、前記シールがナットに取り付けられる。よって、シールのリップ部とねじ軸との周方向での位置合わせが簡単にできる。
【発明の効果】
【0008】
この発明のボールねじによれば、ナットの軸方向端部に接触シールを取り付ける際に、シールのリップ部とねじ軸との周方向での位置合わせを簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施形態に相当するボールねじの一部を示す断面図である。
【図2】図1のボールねじで、ナットにシールを取り付ける前の状態を示す正面図(a)と、(a)のA−A断面図(b)である。
【図3】図1のボールねじを構成するシールキャップを示す正面図(a)と、(a)のA−A断面図(b)である。
【図4】図3のシールキャップにシールを固定した状態を示す正面図である。
【図5】図4の状態のシールキャップをナットに固定することでシールが取り付けられたボールねじを示す正面図である。
【図6】この発明の第2の実施形態に相当するボールねじの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の第1の実施形態について説明する。
この実施形態のボールねじは、図1に示すように、ナット1と、ねじ軸2と、ボール3と、シール4と、シールキャップ5と、シール4をシールキャップ5に固定する小ねじ6と、シールキャップ5をナット1に固定する小ねじ(固定ねじ)7と、で構成されている。
ナット1の内周面に螺旋溝11が形成され、ねじ軸2の外周面に螺旋溝21が形成されている。ボール3は、ナット1の螺旋溝11とねじ軸2の螺旋溝21で形成される軌道溝の間に配置されている。
シール4は、ねじ軸2の軸直角断面形状と相似の内周縁形状のリップ部41を有し、ねじ軸2に摺接する接触シールである。リップ部41の外周側に円環状の基部42が形成されている。
【0011】
ナット1の軸方向端部の外径が他の部分より小さく形成され、この小径部がシールキャップ5を取り付ける取付部12となっている。図2(a)(b)に示すように、取付部12の外周面には、軸方向で同じ位置で、周方向で異なる位置となる3カ所に、平面部13が形成されている。平面部13は、ナット1の径方向と垂直な平面として形成されている。小ねじ7の先端部は、この平面部13と平行となる平面に形成されている。
【0012】
図1および3に示すように、シールキャップ5は、ナット1の取付部12に外嵌する環状部51と、環状部51の軸方向一端に設けた内向きフランジ部52とからなる。環状部51の軸方向他端側には、取付部12に形成された3つの平面部13と同じ位置に、3つの貫通ねじ穴(貫通穴)51aが形成されている。
内向きフランジ部52には、シール4を小ねじ6で固定するための3つの貫通ねじ穴52aが、周方向で3つの貫通ねじ穴51aと同じ位置に形成されている。シールキャップ5の軸方向寸法Lは、シールキャップ5がシール4を固定した後にナット1に固定された状態で、シール4が軸方向の設定位置に取り付けられる寸法になっている。
【0013】
ナット1の軸方向端部にシール4を取り付ける際には、先ず、図4に示すように、シール4の基部42を、シールキャップ5の内向きフランジ部52に小ねじ6で固定する。
シール4の基部42には、内向きフランジ52の3つの貫通ねじ穴52aと同じ位置に3つの貫通ねじ穴42aが形成されている。3つの貫通ねじ穴42aは、各貫通ねじ穴42aに小ねじ6を通してシール4が固定されたシールキャップ5をナット1に外嵌し、平面部13に貫通ねじ穴51aを合わせた状態で、リップ部41の内周縁形状がねじ軸2の軸直角断面形状に合致するように配置されている。
【0014】
次に、図5および図1に示すように、シール4が固定されたシールキャップ5の環状部51を、ナット1の取付部12に外嵌し、平面部13に貫通ねじ穴51aを合わせて、貫通ねじ穴51aに先端が平坦である小ねじ7を螺合させ、その先端部を平面部13に押し当てる。
これにより、シール4が固定されたシールキャップ5がナット1に固定され、シール4のリップ部41の内周縁形状とねじ軸2の軸直角断面形状が合致した状態となる。すなわち、シール4のリップ部41とねじ軸2が周方向で位置合わせされた状態になる。
【0015】
上記実施の形態の場合、ナット1の端部のシールキャップ5の嵌合部の軸方向長さ、シールキャップ5のシール取付け面から反対側の端面までの距離及びシール4のシールキャップ5の取付け面側の端面からリップ部41の先端までの距離は正確に確保されている場合にはリップ部41の内周部とねじ軸のねじ溝との位相が正確に合う。
しかし、上記3つの距離が製造上の誤差で正確に確保できない場合にはリップ部41の内周部とねじ軸のねじ溝との位相が正確に合わなくなってしまう。
そこでこの様な誤差が生じた場合にもシールの位相を正確に合わせられる構造を第2の実施の形態として以下に示す。
第1の実施の形態の場合にはナット1のシールキャップ5の取付け部の段差の面とシールキャップ5の端面とを接触させてシール4の位相を合わせるようにしてあるが、図5の構造においてはこの段差の面とシールキャップ5の端面との間に若干の隙間20(例えば1mm程度)を設けてある。
この隙間20の分、シールキャップ5がねじ軸2の軸方向に移動することが出来るのでねじ軸2の螺旋溝21に対するシールリップ内周部の位相の微調整が可能となり、第1の実施の形態の場合に、各部品の誤差の関係で正確にシールリップの位相が合わせられない場合でもシールリップの位相を正確に合わせることが可能である。
【0016】
以上のように、この実施形態のボールねじによれば、シール4が固定されたシールキャップ5を小ねじ6を用いてナット1に固定することで、シール4のリップ部41とねじ軸2とが周方向で位置合わせされる。すなわち、この実施形態のボールねじによれば、シール4のリップ部41とねじ軸2との周方向での位置合わせが簡単にできる。
なお、この実施形態では、取付部12の外周面の軸方向で同じ位置に、3つの平面部13が形成されているが、周方向で異なる位置となっていれば取付部12の外周面の軸方向で異なる位置に形成されていてもよい。また、3つ以上設ける平面部の周方向での配置は等間隔であってもよいし、異なる間隔であってもよい。
【0017】
また、この実施形態では、小ねじ7と貫通ねじ穴51aとの螺合によりシールキャップ5をナット1に固定しているが、止めねじと貫通ねじ穴51aとの螺合により固定してもよい。
また、この実施形態では、先端が平坦である小ねじ7でシールキャップ5をナット1に固定したが、この先端が平坦であるねじとしてはJIS規格で定められている「平先」以外に「くぼみ先」の様にねじの先端がリング状で中央部が凹んでいるものであっても良い。
更にまた、この実施形態では、ナット1の軸方向各端部に一枚のシール4を取り付けているが、この発明のシールキャップを用いたシールの取付構造は、ナットの軸方向各端部に複数枚のシールを取り付ける場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0018】
1 ナット
11 ナットの螺旋溝
12 取付部
13 平面部
2 ねじ軸
20 隙間
21 ねじ軸の螺旋溝
3 ボール
4 シール
4A シール
4B シール
41 リップ部
42 基部
42a 貫通ねじ穴
42b 貫通ねじ穴
42c 貫通ねじ穴
5 シールキャップ
51 環状部
51a 貫通ねじ穴(貫通穴)
52 内向きフランジ部
52a 貫通ねじ穴
6 小ねじ
7 小ねじ(固定ねじ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、ナットの軸方向両端部に配置されたリング状のシールを備えたボールねじであって、
前記シールは、ねじ軸の軸直角断面形状と相似の内周縁形状のリップ部を有し、ねじ軸に摺接する接触シールであり、前記ナットの軸方向端部からなる取付部の外周面の周方向で異なる位置となる3カ所以上に、前記ナットの径方向と垂直な平面部を設け、
前記取付部に外嵌する環状部と、この環状部の軸方向一端に設けた、前記シールを固定する内向きフランジ部とからなり、前記環状部の前記平面部と同じ位置に貫通穴を有し、
前記シールを固定した後に前記取付部に固定されるシールキャップを備え、
前記シールキャップの軸方向寸法は、前記シールが軸方向の設定位置に配置される寸法であり、
前記シールは、前記ナットの平面部に前記シールキャップの貫通穴を合わせた状態で、リップ部の内周縁形状がねじ軸の軸直角断面形状に対応した配置となるように、前記内向きフランジに固定され、
前記シールキャップが前記ナットに対して、前記環状部を前記取付部に外嵌し、前記平面部に合わせた前記貫通穴から挿入された固定ねじで固定されていることを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246995(P2012−246995A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118827(P2011−118827)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】