説明

ボールジョイント

【課題】樹脂シートがボールスタッドによって引き伸ばされないようにし、ハウジングの開口部にあるエッジによって樹脂シートが切断されないようにする。
【解決手段】一端に球形状の球頭部41を有するボールスタッド40と、球頭部41を覆うカップ形状の樹脂シート30と、樹脂シート30および球頭部41を収容するカップ形状の収容室21を有し、この収容室21の開口側をかしめて小径としたハウジング20とを備え、樹脂シート30の内周面30aに対し球頭部41の外周面41aが摺接することにより、ボールスタッド40を前記ハウジング20に対し、傾動回転可能に連結したボールジョイントにおいて、樹脂シート30の収容室21の開口側の一端面から樹脂シート30の内周面30aに沿って板状で金属製の補強部材60を埋設し、この補強部材60にハウジング20の軸方向に樹脂シート30と係合する係合部63を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボールジョイントは、図7(特許文献1)に示すように、一端に球頭部101を有するボールスタッド100と、前記球頭部101を覆う樹脂シート110と、前記樹脂シート110を介して前記ボールスタッド100を傾動可能に連結したハウジング120とからなっている。前記ボールスタッド100は、自動車のタイヤ側に連結され、前記ハウジング120は、タイヤの向きを変える動力舵取装置に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−127368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記動力舵取装置によりタイヤの向きを変える際、前記ハウジング120に対して、前記ボールスタッド100を傾動させる力以外に、前記ハウジング120の軸線方向に前記ボールスタッド100を引っ張る力が作用する。前記ボールスタッド100を引っ張る力が余りにも大きいと、前記樹脂シート110が点線Nで示す状態まで引き伸ばされ、前記ハウジング120の開口部にあるエッジ121によって前記樹脂シート110が切断される恐れがあった。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的は、前記樹脂シート110が前記ボールスタッドによって引き伸ばされないようにし、前記ハウジング120の開口部にあるエッジ121によって樹脂シート110が切断されないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、一端に球形状の球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部を覆うカップ形状の樹脂シートと、前記樹脂シートおよび前記球頭部を収容するカップ形状の収容室を有し、この収容室の開口側をかしめて小径としたハウジングとを備え、前記樹脂シートの内周面に対し前記球頭部の外周面が摺接することにより、前記ボールスタッドを前記ハウジングに対し、傾動可能に連結したボールジョイントにおいて、前記樹脂シートの前記収容室の開口側の一端面から樹脂シートの内周面に沿って板状で金属製の補強部材を埋設し、この補強部材に前記ハウジングの軸方向に前記樹脂シートと係合する係合部を設けたことを特徴とするものである。
【0006】
この構成によれば、樹脂シートを引き伸ばそうとする力は、係合部を介して金属製の補強部材にも作用するので、樹脂シートが引き伸ばされることが無くなり、樹脂シートが切断される恐れがない。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記係合部が、前記樹脂シートの内周面に対し直角に設けられた係合突起であることを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、補強部材の強度を高めながら、補強部材と樹脂シートを一体化できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記係合部が、前記樹脂シートの内周面に対し直角方向に穿孔された係合穴であることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によれば、薄肉の樹脂シート内に補強部材を完全に埋設することが可能となり、ハウジングから樹脂シートにかかる力が分散され、樹脂シートと補強部材の境目から樹脂シートが破断する恐れがない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂シートを引き伸ばそうとする力は、係合部を介して金属製の補強部材にも作用するので、樹脂シートが引き伸ばされることが無くなり、樹脂シートが切断される恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態における樹脂シートを適用したボールジョイントの断面図
【図2】本発明の実施形態における樹脂シートを成形する射出成形金型の断面図
【図3】本発明の実施形態における溝部分で断面した樹脂シートの断面図
【図4】本発明の実施形態における補強部材の展開図
【図5】本発明の他の実施形態における溝部分で断面した樹脂シートの断面図
【図6】本発明の他の実施形態における補強部材の展開図
【図7】従来のボールジョイントの断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を、図1乃至図4にもとづいて説明する。図1は、樹脂シートを適用したボールジョイントの断面図、図2は、樹脂シートを成形する射出成形金型の断面図、図3は、溝部分で断面した樹脂シートの断面図、図6は、補強部材の展開図である。
【0014】
図1に示すボールジョイント10は、動力舵取装置とタイヤのハブ間に取付けられる。前記ボールジョイント10は、前記動力舵取装置のラック軸90に螺合固定されるハウジング20、前記ハウジング20のカップ形状の収容室21に収容される樹脂シート30、カップ形状の樹脂シート30に収容されるボールスタッド40とからなり、前記ハウジング20とボールスタッド40は、前記樹脂シート30を介して傾動かつ回転可能に連結されている。
【0015】
前記ボールスタッド40は、一端に球形状の球頭部41を有し、この球頭部41の外周面41aが前記樹脂シート30の内周面30aに摺動可能に接触するようになっている。前記ボールスタッド40の他端は、前記タイヤのハブ側に連結されている。前記ハウジング20は、2点鎖線に示す状態から実線で示す状態までかしめられる。即ち、前記ハウジング20の一端が2点鎖線に示す大径から実線に示す小径となるようにかしめられる。このかしめによって、前記樹脂シート30もかしめられ前記ハウジング20に対する前記ボールスタッド40の抜けが防止される。
【0016】
前記樹脂シート30にはこれ自体の伸びを防止する補強部材60が埋設され、この補強部材60は板状で金属製からなっている。補強部材60は、樹脂シート30のボールスタッド40側の端面から球頭部41の傾動中心Pを越えた位置まで、樹脂シート30の内周面30aに沿って埋設されている。
【0017】
図3に示すように前記樹脂シート30は、穴31を有する底部32、前記底部32に連続して形成されたテーパ状のテーパ部33、前記テーパ部33に連続して形成された円筒状の円筒部34からなる。前記樹脂シート30の内周面30aには、前記球頭部41が摺動可能に摺接する摺動面35、円周上4箇所で軸方向に形成された軸方向溝36、テーパ部33と円筒部34の境目で円周方向に形成された環状溝37が形成されている。前記軸方向溝36と前記環状溝37にグリースが保持され、前記ボールスタッド40の傾動動作および回転動作に伴って前記摺動面35へグリースが供給されるようになっている。
【0018】
図4は、前記樹脂シート30に埋設される補強部材60の展開図であり、補強部材60は、環状部61と、環状部61の複数箇所でこれに対し直交する方向に延びる補強部62と、補強部62の両端でこれに対し直交する方向に延びる係合突起63とからなっている。
【0019】
板状の金属部材をプレス等で切り抜き、溶接等で係合突起63を形成することで補強部材60が作られるようになっている。この補強部材60を輪状になるようにプレス等により折り曲げ加工され、続いて環状部61の両端61a、61bを溶接等で連結することにより、輪状の補強部材60が製作されるようになっている。こうして作られた輪状の補強部材60が樹脂シート30に埋設される。樹脂シート30に補強部材60が埋設されると、前記係合突起63は、補強部62に対し径方向内周側と外周側へ突出した形となり、補強部材60の両端にある係合突起63のうち、一方の係合突起63が樹脂シート30の端面に露出した形となり、他方の係合突起63の外周側が樹脂シート30の外周に露出した形となる。
【0020】
前記樹脂シート30は、図2に示す射出成形金型50によって成形される。射出成形金型50は、固定金型51、この固定金型51に対し接近離間する可動金型52からなっている。前記固定金型51と前記可動金型52間には、前記樹脂シート30と同形状の空間、すなわちキャパシティ53が形成されている。
【0021】
前記固定金型51には、前記樹脂シート30の底部32、テーパ部33、円筒部34を形成するカップ形状の内周面51aが形成されている。
【0022】
前記可動金型52には、前記樹脂シート30の穴31を形成する小径円柱部52a、前記樹脂シート30の前記テーパ部33の半球状の内周面を形成する半球部52b、前記樹脂シート30の前記円筒部34の筒状の内周面を形成する大径円柱部52cが連続して形成されている。
【0023】
前記半球部52bと前記大径円柱部52cの外周面には、前記軸方向溝36を形成する軸方向突起52dが、円周上4箇所で前記可動金型52の離脱方向Nに形成されている。また前記半球部52bと前記大径円柱部52cの境目の外周面には、前記樹脂シートの前記環状溝37を形成する環状突起52eが形成されている。前記軸方向突起52dは、前記半球部52bの前記小径円柱部52a側の一端から前記大径円柱部52cの前記半球部52bと反対側の一端まで形成され、途中で前記環状突起52eにより分断されている。
【0024】
前記射出成形金型50には、2つのキャパシティ53が形成されている。後述する一つのノズル58から2つのキャパシティ53に溶融樹脂を供給するために、固定金型51の2つのキャパシティ53間に可動金型52の離脱方向Nにメインランナー53が形成され、メインランナー53に対し直交する方向に分岐ランナー54、55が固定金型51と可動金型52間に形成されている。各分岐ランナー54、55の先端に先細り形状のゲート56、57を形成され、ゲート56、57は2つのキャパシティ53に開口している。前記ゲート56、57は、樹脂シート30の円筒部34のテーパ部33側に相当する箇所に開口している。即ち、ゲート56、57は、溶融樹脂の流れが阻害されないように、補強部材60を避けた位置に開口している。
【0025】
前記分岐ランナー54、55とゲート56、57を形成する関係上、可動金型52には、2つのキャパシティ53間で固定金型51側へ盛り上がった成形部52fが形成され、この成形部52fに樹脂シート30の一部の円筒部34を形成する内周面52gが形成されている。
【0026】
射出成形機は、ノズル58を有し、このノズル58は前記メインランナー53に対応する位置に設けられている。
【0027】
次に、上述した実施形態の構成にもとづいて、本実施形態の動作について説明する。
【0028】
まず、輪状の補強部材60を製作する動作を説明する。板状の金属部材をプレス等で切り抜き、溶接等で係合突起63を形成することで図4に示す補強部材60が作られる。この板状の補強部材60を輪状になるようにプレス等により折り曲げ加工され、続いて環状部61の両端61a、61bを溶接等で連結することにより、輪状の補強部材60が製作される。
【0029】
続いて、樹脂シート30を製作する動作を説明する。輪状の補強部材60を可動金型52の大径円柱部52cに嵌め込む。このとき、軸方向突起52dと補強部62が対応しないよう位相をずらして嵌め込むのが望ましい。こうすれば、係合突起63の内周が、樹脂シート30の内周面30aに露出することが避けられる。
【0030】
前記固定金型51に対し前記可動金型52を押付け、前記固定金型51と前記可動金型52間に前記キャパシティ53を形成する。前記ノズル58を前記メインランナー53へ接近させ、前記射出成形機の図略の押し出し装置から前記ノズル58へ溶融した樹脂を供給する。これによって、前記ノズル58から前記メインランナー53、分岐ランナー54、55、ゲート56、57を介して前記キャパシティ53へ溶融した樹脂が注入される。
【0031】
樹脂が冷えて固まると、前記固定金型51に対し前記可動金型52が離間し、前記射出成形金型50から、前記樹脂シート30と、前記メインランナー53、分岐ランナー54、55、ゲート56、57部分が冷えて固まった樹脂が取り出される。樹脂シート30からメインランナー53、分岐ランナー54、55、ゲート56、57部分の樹脂を切除する。前記樹脂シート30には、前記軸方向突起52dによって前記軸方向溝36が、前記環状突起52eによって前記環状溝37が、前記凹み52fによって前記凸部38が形成される。樹脂シート30内に補強部材60が埋設される。補強部材60の係合突起63が樹脂シート30の端面に剥き出した状態となる。
【0032】
こうして作られた樹脂シートは、ハウジング20に組み込まれ、ハウジング20は、図1の2点鎖線に示す状態から実線に示す状態までかしめられる。このとき、樹脂シート30も同時にかしめられる。
【0033】
ハウジング20に対してボールスタッド40を傾動および回転させると、球頭部41の外周面41aが樹脂シート30の内周面30a上を摺動する。前記ハウジング20の軸線方向に前記ボールスタッド40を引っ張る力が作用した場合、球頭部41で樹脂シート30を引き伸ばそうとする。引き伸ばし方向に係合突起63と樹脂シート30が係合しているので、引き伸ばそうとする力は、補強部材60にも作用し、補強部材60が引き伸ばされない限り樹脂シート30の引き伸ばしを防止できる。よって、引き伸ばし部分が無いので、ハウジング20のエッジで樹脂シート30が切断される恐れがない。また、補強部62に対し係合突起63が直角に設けられているので、補強部材60の強度が高められ、しいては樹脂シート30の強度が高められる。
【0034】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0035】
上述した実施形態は、図4に示すように補強部62の両端に係合突起63を設けた例について述べたが、他の実施形態として、図6に示すように環状部71と補強部72に複数の係合穴73を穿孔しても良い。板状の金属部材をプレス等で切り抜くことにより、図6に示す板状の補強部材70が作られる。この板状の補強部材70を輪状となるようにプレス等により折り曲げ加工し、環状部71の両端71a、71bを溶接等で連結する。輪状の補強部材70を補強部材60と同様に可動金型52の大径円柱部52cに嵌め込む。キャパシティ53へ溶融した樹脂を流し込むことにより、図5に示すような樹脂シート30が作られる。この場合、係合穴73に樹脂シート30の樹脂が入り込み、前記ハウジング20の軸線方向に前記ボールスタッド40を引っ張る力が作用した場合、球頭部41で樹脂シート30を引き伸ばそうとする。引き伸ばし方向に係合穴73と樹脂シート30が係合しているので、引き伸ばそうとする力が金属製の補強部材70に作用し、補強部材70が引き伸ばされない限り、樹脂シート30の引き伸ばしを防止できる。よって、引き伸ばし部分が無いので、ハウジング20のエッジで樹脂シート30が切断される恐れがない。
【0036】
また、径方向に突出した係合突起63が無い分だけ、補強部材70を端面を除いて樹脂シート30内に完全に埋設させることができる。ハウジング20から樹脂シート30にかかる力は、樹脂シートの樹脂部分で分散されるので、樹脂シート30と補強部材70の境目から破断する恐れがない。
【符号の説明】
【0037】
20:ハウジング、21:収容室、30:樹脂シート、30a:内周面、40:ボールスタッド、41:球頭部、41a:外周面、60:補強部材、63:係合突起(係合部)、70:補強部材、73:係合穴(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に球形状の球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部を覆うカップ形状の樹脂シートと、前記樹脂シートおよび前記球頭部を収容するカップ形状の収容室を有し、この収容室の開口側をかしめて小径としたハウジングとを備え、前記樹脂シートの内周面に対し前記球頭部の外周面が摺接することにより、前記ボールスタッドを前記ハウジングに対し、傾動回転可能に連結したボールジョイントにおいて、
前記樹脂シートの前記収容室の開口側の一端面から樹脂シートの内周面に沿って板状で金属製の補強部材を埋設し、この補強部材に前記ハウジングの軸方向に前記樹脂シートと係合する係合部を設けたことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
前記係合部は、前記樹脂シートの内周面に対し直角に設けられた係合突起であることを特徴とする請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記係合部は、前記樹脂シートの内周面に対し直角方向に穿孔された係合穴であることを特徴とする請求項1に記載のボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−163126(P2012−163126A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22259(P2011−22259)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】