説明

ボールスプラインおよびその内軸のスプライン軌道加工方法

【課題】 他の部材への取付け部を内軸に設けることが必要な場合のボールスプライン長さの短縮を可能としたボールスプラインおよびその内軸のスプライン軌道加工方法を提供する。
【解決手段】 内軸2の一方の端部に、他の部材への取付け部6が設けられており、取付け部6は、内軸2の外周面に周方向に間隔をあけて設けられた複数の突出部9,10からなる。突出部9と突出部10との間がスプライン軌道研削用砥石11と取付け部6との干渉を避ける空間Sとされており、これにより、内軸2のスプライン軌道3は、内軸2の端面に達するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプラインおよびその内軸のスプライン軌道加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外周面にスプライン軌道が設けられた内軸と、ボールを介して内軸に嵌め合わされた外筒とを備えているボールスプラインは、アクチュエータや緩衝器においてよく使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
このようなボールスプラインの内軸のスプライン軌道を加工するには、内軸の径方向外方から砥石を当てて、この砥石を内軸の軸方向に平行に移動させることで行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−299739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のボールスプラインの内軸へのスプライン軌道の加工において、通常、内軸の軸方向に平行に砥石を移動させる際の障害となるものはなく、必要なスプライン軌道長さを容易に得ることができる。
【0006】
しかしながら、他の部材への取付け用フランジを内軸の外周面に設けることが必要な場合、この砥石とフランジとが干渉するので、スプライン軌道をフランジの手前(砥石半径分程度手前)までしか形成することができないものとなり、このスプライン軌道形成不可能部分が存在することで、必要なストロークを得るためには、ボールスプラインの軸方向長さが長くなるという問題が生じる。
【0007】
この発明の目的は、他の部材への取付け部を内軸に設けることが必要な場合のボールスプライン長さの短縮を可能としたボールスプラインおよびその内軸のスプライン軌道加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるボールスプラインは、外周面にスプライン軌道が設けられた内軸と、ボールを介して内軸に嵌め合わされた外筒とを備えているボールスプラインにおいて、内軸の一方の端部に、他の部材への取付け部が設けられており、取付け部は、内軸の外周面に周方向に間隔をあけて設けられた複数の突出部からなり、突出部と突出部との間がスプライン軌道研削用砥石と取付け部との干渉を避ける空間とされることにより、スプライン軌道が内軸の端面に達するように形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
内軸は、取付け部を介してケーシングなどの装置側部材に取り付けられ、この内軸に対して外筒が軸方向に直線移動する。取付け部は、環状のフランジではなく、花びら状とされ、その花びら部分(突出部)に、ボルト挿通孔、ねじ孔などの取付け用孔が設けられることで、内軸がボルトによって装置側部材に結合される。
【0010】
取付け部が環状(フランジ)とされた場合には、砥石とフランジとが干渉するためにスプライン軌道形成不可能部分が生じる。これに対し、この発明のボールスプラインでは、取付け部を花びら状とすることで、取付け部と砥石との干渉が防止される。これにより、スプライン軌道が内軸の端面に達するように形成され、ボールスプラインの軸方向短縮化が可能となる。
【0011】
内軸は、中実であってもよく、中空(この場合には、「内筒」と称されることがある)であってもよい。
【0012】
外筒は、通常、鋼製の外筒本体および合成樹脂製の保持器からなるものとされる。ボールは、内軸に形成されたスプライン軌道と外筒本体に形成されたスプライン軌道との間(主通路)を転動し、保持器に設けられた戻し通路を経て、再び主通路に戻される(循環する)。
【0013】
スプライン軌道は、好ましくは、時計方向の回転を受けるものと反時計方向の回転を受けるものとが対とされて、これが複数対設けられる。例えば、軸の外周に複数(例えば3つ)のボール受け部が設けられ、このボール受け部の時計方向側および反時計方向側に、それぞれスプライン軌道が計3対形成される。これに対応して、外筒本体の内周には、ボール受け部の時計方向側のスプライン軌道に時計方向側から対向するスプライン軌道と、ボール受け部の反時計方向側のスプライン軌道に反時計方向側から対向するスプライン軌道とがそれぞれ形成される。
【0014】
突出部は、スプライン軌道を避けるようにして設けられ、スプライン軌道が計3対(計6つ)設けられる場合、突出部も計6つ設けられることが好ましく、取付け用孔は、すべての突出部に設けられることが好ましい。突出部の形状は、すべて同じでもよいし、相対的に大きいものと小さいものを含むようにされてもよい。取付け用孔は、すべての突出部に同じ形状のものが設けられてもよいが、1つ置きに異なるものとされてもよい(例えば、ねじ孔とボルト挿通孔とが交互に設けられてもよく、大きさが異なる孔が交互に設けられてもよい。)。
【0015】
スプライン軌道研削用砥石は、対となるスプライン軌道を同時に研削可能なように、1つの突出部を挟んで隣り合う1対のスプライン軌道に対応する1対の研削面が円盤状本体の両縁に形成されるとともに、研削面と研削面との間に突出部との干渉を避けるための凹部が形成されたものとされることが好ましい。
【0016】
この発明によるボールスプラインの内軸のスプライン軌道加工方法は、上記のボールスプラインの内軸にスプライン軌道を加工する方法であって、1つの突出部を挟んで隣り合う1対のスプライン軌道に対応する1対の研削面が円盤状本体の両縁に形成されるとともに、研削面と研削面との間に突出部との干渉を避けるための凹部が形成されたスプライン軌道研削用砥石を使用し、同砥石を回転させながらその回転軸を内軸の軸方向に平行に移動させることで、内軸の端面に達するスプライン軌道を形成することを特徴とするものである。
【0017】
従来のスプライン軌道研削用砥石は、内軸の外周面に対応した断面円弧状の外周面を有する円盤状本体の両縁に研削面が形成されたものとされているが、この発明によるスプライン軌道加工方法で使用される砥石では、上記ボールスプラインに設けられている突出部との干渉を避けるための凹部が研削面と研削面との間に形成され、これにより、取付け部と砥石との干渉が防止される。
【0018】
この内軸のスプライン軌道加工方法によると、対となるスプライン軌道を同時に研削可能できるので、加工効率および加工精度がよく、また、砥石とフランジとが干渉するために形成することができないスプライン軌道形成不可能部分をなくすことができるので、内軸の軸方向短縮化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のボールスプラインによると、内軸の一方の端部に、他の部材への取付け部が設けられており、取付け部は、内軸の外周面に周方向に間隔をあけて設けられた複数の突出部からなり、突出部と突出部との間がスプライン軌道研削用砥石と取付け部との干渉を避ける空間とされることにより、スプライン軌道が内軸の端面に達するように形成されているので、砥石とフランジとが干渉するために形成することができないスプライン軌道形成不可能部分をなくすことができ、これにより、軸方向短縮化が可能となる。
【0020】
また、この発明のボールスプラインの内軸のスプライン軌道加工方法によると、スプライン軌道を内軸の端面に達するように形成することができ、上記ボールスプラインの内軸の加工を容易なものとでき、また、対となるスプライン軌道を同時に研削できるので、加工効率および加工精度がよいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、この発明によるボールスプラインを示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールスプラインの平面図である。
【図3】図3は、この発明によるボールスプラインの内軸のスプライン軌道加工方法を示す平面図である。
【図4】図4は、この発明によるボールスプラインおよびその内軸のスプライン軌道加工方法を従来と比較して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0023】
ボールスプライン(1)は、図1に示すように、外周面にスプライン軌道(3)が設けられた中空状の内軸(2)と、内軸(2)のスプライン軌道(3)にボール(4)を介して嵌め合わされた外筒(5)とを備えており、内軸(2)と外筒(5)とは、相対回転が防止された状態で、軸方向に相対直線移動することができる。
【0024】
内軸(2)の上端部には、ケーシングなどの装置側部材にボールスプライン(1)を取り付けるための取付け部(6)が設けられている。
【0025】
外筒(5)は、略円筒状の金属製外筒本体(7)と、外筒本体(7)の内周に嵌め合わされて固定された略円筒状の合成樹脂製保持器(8)とを有している。外筒本体(7)には、内軸(2)(装置側部材)に対して相対直線移動する可動側部材を取り付けるためのフランジ(7b)が設けられている。
【0026】
ボール(4)は、内軸(2)に形成されたスプライン軌道(3)と外筒本体(7)に形成されたスプライン軌道(7a)との間(主通路)を転動し、保持器(8)に設けられた戻し通路(図示略)を経て、再び主通路に戻される(循環する)。
【0027】
スプライン軌道(3)の上端部(3a)は、内軸(2)の上端面に達するように形成されており、外筒(5)は、その上端面が取付け部(6)の下面に当接するまで上方に移動することができる。
【0028】
図2に示すように、内軸(2)の取付け部(6)は、円環状のフランジとされるのではなく、周方向に間隔をあけて設けられた複数(図示は6つ)の突出部(9)(10)からなるもの(花びら状)とされている。これにより、内軸(2)の取付け部(6)の隣り合う突出部(9)(10)同士の間には、後述するスプライン軌道研削用砥石(11)との干渉を避ける空間(S)が形成されている。各突出部(9)(10)には、取付け用孔(ボルトを挿通する貫通孔またはボルトをねじ合わせるねじ孔)(9a)(10a)が設けられている。
【0029】
内軸(2)の外周には、計3対(計6つ)のスプライン軌道(3)が設けられており、これらのスプライン軌道(3)は、図3および図4に示すスプライン軌道研削用砥石(11)で研削される。
【0030】
スプライン軌道研削用砥石(11)は、図3に示すように、突出部(9)を挟んで隣り合う1対のスプライン軌道(3)に対応する1対の研削面(12a)(12b)が両縁に形成された円盤状本体(12)を有しており、その研削面(12a)と研削面(12b)との間には、取付け部(5)の突出部(9)との干渉を避けるための凹部(13)が形成されている。砥石(11)は、内軸(2)の軸線と90°をなす方向の回転軸を有しており、砥石(11)を回転させながら、その回転軸を内軸(2)の軸方向に平行に移動させることで、1対のスプライン軌道(3)を同時に内軸(2)に形成することができる。
【0031】
ここで、内軸(2)の取付け部(6)が円環状のフランジとされている場合(スプライン軌道研削用砥石(11)との干渉を避ける空間(S)が設けられていない場合)、図4において、Aの位置において砥石(11)と取付け部(6)とが干渉することになり、スプライン軌道(3)を取付け部(6)に達するようには形成することができない。これに対し、この発明のボールスプライン(1)では、内軸(2)の取付け部(6)の突出部(9)と突出部(10)との間にスプライン軌道研削用砥石(11)との干渉を避ける空間(S)が存在していることから、図4において、Bの位置においても砥石(11)と取付け部(6)とが干渉することはなく、このスプライン軌道研削用砥石(11)によると、上端部(3a)が内軸(2)の上端面に達するようにスプライン軌道(3)を内軸(2)に形成することができる。
【符号の説明】
【0032】
(1) ボールスプライン
(2) 内軸(軸)
(3) スプライン軌道
(4) ボール
(5) 外筒
(6) 取付け部
(9)(10) 突出部
(9a)(10a) 取付け用孔
(11) スプライン軌道研削用砥石
(12) 円盤状本体
(12a)(12b)研削面
(13) 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にスプライン軌道が設けられた内軸と、ボールを介して内軸に嵌め合わされた外筒とを備えているボールスプラインにおいて、
内軸の一方の端部に、他の部材への取付け部が設けられており、取付け部は、内軸の外周面に周方向に間隔をあけて設けられた複数の突出部からなり、突出部と突出部との間がスプライン軌道研削用砥石と取付け部との干渉を避ける空間とされることにより、スプライン軌道が内軸の端面に達するように形成されていることを特徴とするボールスプライン。
【請求項2】
請求項1のボールスプラインの内軸にスプライン軌道を加工する方法であって、1つの突出部を挟んで隣り合う1対のスプライン軌道に対応する1対の研削面が円盤状本体の両縁に形成されるとともに、研削面と研削面との間に突出部との干渉を避けるための凹部が形成されたスプライン軌道研削用砥石を使用し、同砥石を回転させながらその回転軸を内軸の軸方向に平行に移動させることで、内軸の端面に達するスプライン軌道を形成することを特徴とするボールスプラインの内軸のスプライン軌道加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31981(P2012−31981A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174217(P2010−174217)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】