説明

ボールタップ装置

【課題】洗浄タンク内の洗浄水を流出し続けて凍結防止する場合において、給水及び給水停止を断続的に繰り返すことなく適正流量で給水継続することのできるボールタップ装置を提供する。
【解決手段】ボールタップ装置における給水栓のバルブを、パイロット弁78の進退移動に追従して主弁をパイロット弁78と同方向に進退移動させ、主水路の開度調節を行うパイロット式バルブ55として構成し、フロートの下降時にパイロット弁78を開弁側に後退移動させ、フロートの上昇時にパイロット弁78を閉弁側に前進移動させる状態にパイロット弁78と連結部材とを結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、便器洗浄のための洗浄水を内部に貯える洗浄タンクに対して、給水と給水停止とを自動的に行うボールタップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器洗浄用の装置として、洗浄タンク内の洗浄水の水位に連動して昇降するフロートと、洗浄タンクへの給水を行う給水栓と、フロートと給水栓のバルブとを連結する連結部材とを有し、フロートの下降によりバルブを開いて洗浄タンク内に給水を行い、洗浄タンク内の洗浄水が設定した満水状態となったとき、フロートの上昇によりバルブを閉じ、給水停止させるボールタップ装置が広く用いられている。
【0003】
かかるボールタップ装置として、給水栓のバルブをパイロット式バルブ、詳しくはダイヤフラム弁から成る主弁とパイロット弁とを有し、そのパイロット弁を開閉させることによって主弁を開閉させるようになしたものが従来公知である。
【0004】
このダイヤフラム弁を主弁として給水栓のバルブをパイロット式バルブとなしたボールタップ装置の場合、小さな力でバルブを開閉させることができるため、フロートとして小さなものを用いることができ、ボールタップ装置をコンパクトに構成できる利点がある。
【0005】
ところで、寒冷地においては夜間等に洗浄タンク内の洗浄水を所定量流しっ放しにすることによって、洗浄タンクへの給水を行う給水管や給水栓、洗浄タンク内等での凍結を防止することが行われており、この場合上記のパイロット式バルブ、即ちダイヤフラム弁を主弁とするパイロット式バルブを用いたボールタップ装置では次のような問題を生ずる。
【0006】
即ち上記のパイロット式バルブの場合、洗浄タンク内の洗浄水の水量増大時に、パイロット弁が全開から瞬間的に全閉状態となり、またこれとともにダイヤフラム弁から成る主弁が全開状態から瞬間的に全閉状態となり、一方水量減少時には、それらパイロット弁,主弁が全閉状態から瞬間的に全開状態となってしまい、このため洗浄タンク内の洗浄水を所定量流しっ放しにしておくと、パイロット弁及び主弁即ちバルブが、全開と全閉とを交互に断続的に繰り返して洗浄タンク内の水量を一定に維持しようとする。
【0007】
この場合、洗浄タンク内において最大流量での給水と、急激な給水停止とが断続的に交互に繰り返されることとなり、静かな夜間において、その際の急激な給水音と給水停止との繰返しにより生ずる音が不快な異音となって発生してしまう。
また急激な給水停止によってウォーターハンマを発生させ、機器を損傷してしまう原因ともなる。
【0008】
こうした問題を解決することを目的として、下記特許文献1には、図9に示すボールタップ装置が提案されている。
図9に示すボールタップ装置200は、洗浄タンク内の洗浄水の水位に連動して昇降するフロート202と、洗浄タンクへの給水を行う給水栓204と、フロート202と給水栓204のバルブ206とを連結する連結部材208とを備え、またバルブ206は、ダイヤフラム弁から成る主弁210と、パイロット弁212とを有するパイロット式バルブで、パイロット弁212を開閉させることによって主弁210を開閉させるようになしてある。
【0009】
パイロット弁212の閉弁時にパイロット孔216、詳しくはパイロット弁座218に弾性的に着座してシールするパッキン214には傾斜が設けられており、その傾斜によってパイロット孔216を一定量開状態に保持するようになしている。
【0010】
しかしながらこの特許文献1に開示のボールタップ装置200の場合、パイロット弁212におけるパッキン214の微妙な傾斜角及び微妙な弾性変形量に基づいて所定量の少量の給水を持続するものであり、給水の流量を洗浄タンクからの流出流量に合せて所望の流量に調節することが難しいのに加えて、その給水の流量は一定流量となってしまい、洗浄タンクからの洗浄水の流出水量を多く、または少なく変化させたときにこれに対応することができない問題がある。
尚、本発明に関連する先行技術として他に下記特許文献2,特許文献3に開示されたものがある。
但しこれらに開示のものは本発明とは解決手段の異なった別異のものである。
【0011】
【特許文献1】特開平10−331229号公報
【特許文献2】特開昭60−129485号公報
【特許文献3】特開2005−213906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景とし、洗浄タンク内の洗浄水を所定量流出し続けて凍結防止する場合において、給水及び給水停止を断続的に繰り返すことなく、洗浄タンクからの洗浄水の流出流量に対応した適正流量で洗浄タンク内に給水継続することができ、且つ洗浄タンクからの洗浄水の流出流量を変えた場合にも対応可能なボールタップ装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1のものは、洗浄タンク内の洗浄水の水位に連動して昇降するフロートと、該洗浄タンクへの給水を行う給水栓と、該フロートと該給水栓のバルブとを連結する連結部材とを有し、該フロートの下降により該バルブを開いて該洗浄タンク内に給水を行い、該洗浄タンク内の洗浄水が設定した満水状態となったとき、該フロートの上昇により前記バルブを閉じ給水停止させるボールタップ装置において、前記バルブを、(イ)主弁座に向けて進退移動し、主水路の開度を変化させる主弁と、(ロ)該主弁の背後に形成され、内部の圧力を該主弁に対して閉弁方向の押圧力として作用させる背圧室と、(ハ)前記主水路における1次側の流入水路の水を該背圧室に導いて、該背圧室の圧力を増大させる導入小孔と、(ニ)該背圧室と前記主水路における2次側の流出水路とを連通させ、該背圧室の水を該流出水路に抜いて該背圧室の圧力を減少させる、水抜水路としてのパイロット水路と、(ホ)該背圧室側において、前記主弁に設けられたパイロット弁座に向けて進退移動可能に設けられたパイロット弁と、(ヘ)該パイロット弁を進退移動させる制御軸と、を備え、該パイロット弁の進退移動により、前記主弁に対する前記背圧室の圧力による閉弁方向の押圧力と、前記流入水路の圧力による開弁方向の押圧力とをバランスさせるように該パイロット弁と前記パイロット弁座との間に一定の微小な追従間隙を保持しつつ、該主弁を該パイロット弁の進退移動に追従して該パイロット弁と同方向に進退移動させ、前記主水路の開度調節を行うパイロット式バルブとして構成し、前記フロートの下降時に前記パイロット弁を開弁側に後退移動させ、該フロートの上昇時に前記パイロット弁を閉弁側に前進移動させる状態に該パイロット弁と前記連結部材とを結合してあることを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記制御軸が前記主弁を貫通して延びており、該制御軸に且つ前記流出水路側であって前記主弁から離隔した部位に、該制御軸の開弁方向の後退移動によって該主弁に係止し、該主弁を強制開弁させる係止部が設けてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0015】
以上のように本発明は、ボールタップ装置における給水栓のバルブを以下のようなパイロット式バルブ、即ちパイロット弁座を主弁に設け、パイロット弁の進退移動により、主弁に対する背圧室の圧力による閉弁方向の押圧力と、流入水路の圧力による開弁方向の押圧力とをバランスさせるように、パイロット弁とパイロット弁座との間に一定の微小な追従間隙を保持しつつ主弁をパイロット弁の進退移動に追従してパイロット弁と同方向に進退移動させ、主水路の開度調節を行うパイロット式バルブと成したものである。
【0016】
即ち特許文献1に示す従来のパイロット式バルブの場合、パイロット弁座が主弁とは異なった個所に固定状態に設けてあって、そのためにパイロット弁が全開状態からほぼ一瞬にして全閉状態に、或いは全閉状態からほぼ一瞬にして全開状態となり、これとともに主弁が同じく全開状態からほぼ一瞬にして全閉状態に或いはその逆に全閉状態からほぼ一瞬にして全開状態となってしまう問題があったのに対し、本発明のボールタップ装置では、上記のようにパイロット弁座が主弁に設けてあって、かかる主弁がパイロット弁の進退移動に追従して且つこれと微小な追従間隙を維持しつつパイロット弁と同方向に進退移動する。
【0017】
かかる本発明のボールタップ装置では、全開と全閉との間でパイロット弁の移動ストロークを大きく取ることができ、しかもその間パイロット弁の進退移動量に応じて主弁の移動量、即ち主弁の開度を連続的に変化させることができる。
【0018】
また全開と全閉との間の途中の位置にパイロット弁を停止させることが可能であり、且つその途中位置にパイロット弁を停止させることによって、これに応じた開度で主弁を停止させておくことができる。
それ故本発明によれば、主弁の開度に応じた流量即ち最大流量と流量ゼロとの間の中間の流量で給水栓から給水し続けることができる(フロートの位置に応じて)。
【0019】
本発明のボールタップ装置では、洗浄タンク内の洗浄水を流出し続けたとき、フロートの昇降によって給水栓からの給水流量を適正流量に自動的に調節することが可能である。
具体的には、流出水量に対して給水流量が過剰なときには、フロートが上昇してパイロット弁を閉弁方向に前進移動させることにより主弁の開度を小さくし、給水栓からの給水流量を減少させる。
逆に流出流量に対して給水流量が少ないときには、フロートが下降してパイロット弁を介し主弁の開度を大とし、給水栓からの給水流量を増大させる。
【0020】
そうした動作によって本発明のボールタップ装置では、洗浄タンクからの洗浄水の流出流量に応じて給水栓からの給水の流量を調節でき、従来のパイロット式ボールタップ装置のように給水の断続を行うことなく、常時主弁を開状態に維持し、洗浄水の流出流量と同じ流量を給水継続することにより、タンク内の水量減少を補うことができる。
【0021】
このため本発明のボールタップ装置によれば、従来のボールタップ装置で問題となっていた最大流量からの急激な給水停止と、給水停止から瞬間的な最大流量での給水開始との断続による不快な異音の発生を防止することができる。
【0022】
また寒冷地であると否とに関わり無く、洗浄タンク内の洗浄水を全量排出して便器洗浄を行った後、洗浄タンク内に給水を行って設定の満水状態近くになったとき、本発明のボールタップ装置では給水量が連続的に減少して最終的に閉弁状態となるため、閉弁のときに静かに主弁を閉じることができ、従って急激な閉弁によるウォーターハンマの発生もまた有効に防止することができ、ウォーターハンマによる機器の損傷の問題も解決することができる。
【0023】
次に請求項2は、パイロット弁を移動させる制御軸を主弁を貫通して延設し、その制御軸に且つ流出水路側であって主弁から離隔した部位に、制御軸の閉弁方向の後退移動によって主弁に係止し、主弁を強制開弁させる係止部を設けたものである。
【0024】
このようにしておけば、その係止部の主弁に対する係止によって、主弁を制御軸の後退移動により強制開弁させることができ、これにより背圧室の水抜きを行うことができるとともに、主弁が閉弁状態で主弁座に凍結にて固着してしまい、バルブが正常に動作できなくなってしまう問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は洗浄タンクで、陶器製のアウタタンク10Aと、樹脂製のインナタンク10Bとを有している。
10Cは、洗浄タンク10の蓋体を兼ねた陶器製の手洗鉢で、そこに吐水口12を有する手洗用の吐水管14が起立状態に設けられている。
ここで洗浄タンク10は、底部16において固定具18にて水洗便器の後部に載置状態に固定されるようになっている。
【0026】
20は、洗浄タンク10内の洗浄水を排出するための排水弁で、この排水弁20は、弁座22に着座することによって排出口24を閉鎖し、また弁座22から図中上向きに離間することで排出口24を開放し、洗浄タンク10内に貯えられている洗浄水を便器へと排出する。
【0027】
この排水弁20は内部が空洞となっており、これを図中上向きに引き上げると自身の浮力で開弁状態を保持し、そして洗浄タンク10内の洗浄水が排出されてしまうと弁座22に着座し、排出口24を閉鎖する。
26はオーバーフロー管で、このオーバーフロー管26は、その内部を排出口24に連通させる状態で底部16から起立している。
【0028】
洗浄タンク10の側面には回転式の洗浄ハンドル28が設けられている。
この洗浄ハンドル28からはL字状をなす作用アーム30が洗浄タンク10内に延び出しており、この先端に玉鎖32の一端が接続されている。
玉鎖32の他端は上記排水弁20側に接続されており、従って洗浄ハンドル28を回転操作すると、玉鎖32によって排水弁20が引き上げられ、洗浄タンク10内の洗浄水が排出せしめられる。
【0029】
34は、洗浄タンク10内の洗浄水を所定小流量で連続的に流出し続けるための流動弁で、この流動弁34からは流出チューブ36が延び出しており、その先端が上記の排出口24に連絡されている。
【0030】
洗浄タンク10の側面には、上記洗浄ハンドル28と併せて押ボタン式の操作部38が設けられており、この操作部38と流動弁34とが操作力の伝達部材40にて連結されている。
この伝達部材40は非伸縮性を有するアウタチューブとインナワイヤとを有しており、操作部38の押ボタンを押込操作すると、インナワイヤがアウタチューブに案内されて押し出され、流動弁34の弁体を開弁させる。
【0031】
流動弁34には洗浄タンク10内の洗浄水の吸込口が設けられており、開弁によってその洗浄水を吸込口から吸い込んで、流出チューブ36を通じ排出口24から便器側へと流出させる。
尚、操作部38はラッチ機構を有しており、押ボタンを押込操作するごとに、その押ボタンを押込位置と突出し位置とに位置保持するようになっている。
【0032】
42は、洗浄タンク10内の洗浄水が排出されたときに洗浄タンク10内に給水をし、また洗浄タンク10内で洗浄水が満水状態となったときに給水を停止し、洗浄タンク10内を常に満水状態に自動的に維持するボールタップ装置で、給水栓44と、洗浄水の水位に連動して昇降するフロート46と、フロート46及び給水栓44の後述のバルブを連結する連結部材48とを有している。
【0033】
50は、この給水栓44に洗浄水(水道水)を供給する給水管で、給水栓44はこの給水管50からの洗浄水の供給を受け、後述のバルブの開閉により吐水部(図示省略)から洗浄タンク10内に洗浄水を給水し又は給水停止する。
【0034】
詳しくは、洗浄タンク10内の洗浄水が排出されて水位が低下すると、これに連動してフロート46が下降することによりバルブを開き、吐水部から洗浄タンク10内に給水を行う。
またその給水によって洗浄タンク10内が満水状態になると、水位に連動してフロート46が上昇することによりバルブを閉じ、給水を停止する。
【0035】
尚、給水栓44からの水は、その先端に設けてある分岐管により洗浄タンク10内への吐水部と、上記の吐水管14側とに分岐し、その吐水部から洗浄タンク10内に吐水(給水)されるのと併せて、手洗用の吐水管14の吐水口12から手洗水として吐水される。
【0036】
尚、フロート46からは上向きにねじ軸52が突き出しており、このねじ軸52に対して、上記の連結部材48におけるレバー54の一端部が螺合状態で接続されている。
フロート46は、レバー54の一端部とねじ軸52との螺合位置を図中上下に変更することでその高さが可変である。
【0037】
図2及び図3に、給水栓44におけるバルブの具体的構成が示してある。
図において、56はバルブ55におけるバルブボデーで、その内部に主水路を形成する1次側の流入水路58と、2次側の流出水路60とが形成されている。
【0038】
62は、主水路上に設けられたダイヤフラム弁からなる主弁で、樹脂製の硬質の主弁本体64と、これにより保持されたゴム製のダイヤフラム膜66とからなっている。
この主弁62は、主弁座68に対して図中上下方向に進退移動して主水路を開閉し、また主水路の開度を変化させる。
詳しくは、主弁座68への着座によって主水路を遮断し、また主弁座68から図中上向きに離間することによって主水路を開放する。
また主弁座68からの離間量に応じて主水路の開度を大小変化させ、主水路を流れる水の流量即ち吐水部からの給水の流量を調節する。
【0039】
上記主弁座68は、円筒部67の上端に一体に構成されており、また主弁62における主弁本体64は、ダイヤフラム膜66から下向きに突出するガイド部69を一体に有している。
このガイド部69は、円筒部67内部に摺動可能に嵌入して、主弁62の移動時の案内作用をなす。
【0040】
この主弁62の図中上側の背後には、背圧室70が形成されている。
背圧室70は、内部の圧力を主弁62に対して図中下向きの閉弁方向の押圧力として作用させる。
主弁62には、これを貫通して1次側の流入水路58と背圧室70とを連通させる導入小孔72が設けられている。
この導入小孔72は、流入水路58からの水を背圧室70に導いて背圧室70の圧力を増大させる。
【0041】
主弁62にはまた、これを貫通して背圧室70と2次側の流出水路60とを連通させる、水抜水路としてのパイロット水路74がその中心部に設けられている。
このパイロット水路74は、背圧室70内の水を流出水路60に抜いて背圧室70の圧力を減少させる。
【0042】
主弁62には、その中心部においてこれを軸心方向に貫通する貫通孔が設けられており、これを貫通するようにして制御軸76が設けられ、この制御軸76の外周面と貫通孔の内周面との間に、通路幅が狭小な環状をなす上記のパイロット水路74が形成されている。
この制御軸76には、パイロット弁78が一体に構成されている。
【0043】
また制御軸76の先端部(図中下端部)近傍位置には、主弁62に対して図中下側に離隔して位置する状態に係止部88が設けられている。
係止部88は、Eリング等の弾性止め輪から成っており、かかる弾性止め輪が制御軸76に形成された環状溝90に弾性的に嵌められることで係止部88が構成されている。
この係止部88は、制御軸76の図中上向きの移動によって主弁62に係止し、図8に示すようにこれを強制開弁する働きを有する。
【0044】
この主弁62には、図6及び図7にも示しているように、貫通孔の内周面に沿って主弁62の軸心周りに環状をなすパイロット弁座80が一体に設けられている。
パイロット弁座80はそのシール部として弾性シールリング、詳しくはここではOリング82を保持している。
【0045】
上記パイロット弁78は、このパイロット弁座80に対し主弁62の軸心に沿って図2,図3中上下方向に進退移動可能に嵌合するようになっている。
ここでパイロット弁78は、断面円形をなし且つ図中上下方向即ち進退方向に外径が同径をなしている。
【0046】
制御軸76は、このパイロット弁78の図中下側位置に環状の凹所84を有している。
環状の凹所84の軸方向の各端部は、凹所84の最小径部に向かって漸次小径となるテーパ面とされており、そのテーパ面の大径側の各端部に段付部86,87が形成されている。
【0047】
尚、図2はパイロット弁78の止水時(閉弁時)の状態を表しており、このときパイロット弁78はパイロット弁座80に対して、詳しくはそのシール部であるOリング82に対して全周に亘って径方向に弾性接触し、パイロット水路74を閉鎖した状態にある。
またこのとき、主弁62は主弁座68に着座した状態(閉弁状態)にあって、主水路は閉鎖された状態にある。
【0048】
図6及び図7は、パイロット弁78の移動時の作用を表している。
この実施形態では、図6(I)に示しているようにパイロット弁78が同図中上向きに後退移動すると、パイロット弁78とパイロット弁座80との間の隙間が一時的に大となり、背圧室70内の水がパイロット水路74を通じて流出水路60側に多く抜け出して背圧室70の圧力が減少する。
そこで主弁62が流入水路58との圧力差により図中上向きに後退移動し、そして図6(II)に示しているように、流入水路58の圧力と背圧室70の圧力とがバランスする位置で主弁62の後退移動が停止する。
【0049】
即ち主弁62が、パイロット弁78の後退移動に追従するようにして同方向に共に後退移動し、そしてパイロット弁78の停止とともに主弁62もまた停止する。
このとき、パイロット弁78と主弁62(詳しくは主弁座80との間)には微小な間隙(追従間隙)が保持される。
主弁62は、以後もこの一定の微小間隙を保持しつつパイロット弁78とともに移動する。
【0050】
この主弁62の後退移動によって主弁62と主弁座68との間の隙間が大となり、流入水路58から流出水路60への水の流入量が増大する。
この状態からパイロット弁体78が更に図中上向きに後退移動すると、背圧室70の圧力と流入水路58との圧力をバランスさせるようにして、主弁62がパイロット弁78の後退移動に追従して同方向に後退移動し、主水路の開度を更に広くして主水路を流れる水の流量を増大させる(図6(III)参照)。
【0051】
一方、パイロット弁78が図7(I)に示しているように図中下向きに前進移動すると、パイロット弁78とパイロット弁座80との間、詳しくはOリング82との間の隙間が一時的に小さくなって、即ちパイロット水路74の開度が小さくなって、背圧室70から流出水路60に抜ける水の量が少なくなり、背圧室70の圧力が増大する。
【0052】
このため、その増大した圧力により主弁62が今度は図中下向きに前進移動して、背圧室70の圧力と流入水路58との圧力をバランスさせる位置で停止する。
このときにもパイロット弁78と主弁62との間には一定の微小間隙(追従間隙)が保持される。
このようにして背圧室70の圧力が一時的に増大すると、その増大した圧力により主弁62が図中下向きに前進移動して、背圧室70の圧力と流入水路58の圧力とをバランスさせる位置で停止する。
このとき主弁62と主弁座68との間の隙間は小さくなって、即ち主水路の開度が小さくなって、主水路を流れる水の流量が減少する(図7(II)参照)。
【0053】
そしてこの状態から更にパイロット弁78が図中下向きに前進移動すると主水路の開度が更に小さくなり、主水路を流れる水の流量が更に減少する(図7(III)参照)。
そして最終的にパイロット弁78が閉弁し、またこれとともに主弁62が閉弁して、吐水部からの吐水即ち給水を停止する。
【0054】
図2及び図3において、91は背圧室形成部材で逆カップ状をなしており、その内側に上記の背圧室70を形成している。
この背圧室形成部材91はまた、主弁押えとしての働きもなしている。
ここで背圧室形成部材91には係止爪92が設けられており、この係止爪92が、バルブボデー56側の係止孔94に弾性的に係止されている。
【0055】
この背圧室形成部材91には、一対の弾性を有する環状のシールリングとしてのOリング96が保持されており、このOリング96によって、制御軸76と背圧室形成部材91との間即ち背圧室70との間が水密にシールされている。
【0056】
図2及び図3において、98は上記連結部材48におけるレバー54の支持部材で、断面U字状をなす筒状部100と、板状の基底部102とを有しており、その基底部102が、固定ナット104により上記の背圧室形成部材91とともにバルブボデー56に固定状態とされている。
上記レバー54は、図4にも示すように、フロート46側とは反対側の他端近傍位置で、軸105により支持部材98、詳しくは筒状部100に揺動可能に取り付けられ、支持されている。
【0057】
図4及び図5において、106はレバー54、具体的には図2において軸105よりも図中左側の基端部54Aと、上記の制御軸76とを中継する中継部材で、断面U字状をなす周壁部108を有しており、その周壁部108内部にレバー54の基端部54Aが図5中右方向に挿入されている。
【0058】
この基端部54Aには一対の円形の突起109が設けられており、この一対の突起109が、周壁部108に形成された一対の長穴110に相対回転可能に係入されている。
中継部材106はまた、図中下向きに突出する板状の突出部112を有している。
【0059】
上記制御軸76には、その上端部に球状部113と、その下側位置に軸心周りに環状をなす環状溝114とが設けられている。
一方中継部材106における下向きの突出部112には、これに対応する断面円形の嵌合凹部116と、係入部118とが設けられており、この嵌合凹部116に対して球状部113が嵌合され、また係入部118が環状溝114に係入させられている。
そしてそれらによって中継部材106と制御軸76とが上下に結合されている。
【0060】
従ってレバー54の基端部54Aが図2,図3及び図5中軸105周りに上向きに回動すると、中継部材106を介して制御軸76及びこれと一体のパイロット弁78が上向きに移動し、また逆に基端部54Aが軸105周りに下向きに回動すると、中継部材106を介して制御軸76及びこれと一体のパイロット弁78が図中下向きに移動する。
【0061】
即ち、図1中フロート46が水位の低下によって図中下向きに下降移動すると、レバー54の基端部54Aが軸105周りに図中上向きに回動移動することによって、制御軸76が上向きに引き上げられ、これと一体のパイロット弁78が開弁方向に後退移動する(図3参照)。
【0062】
逆に洗浄タンク10内の水位の上昇によってフロート46が上昇移動すると、レバー54の基端部54Aが図中下向きに回動移動することによって、中継部材106を介し制御軸76が図中下向きに移動し、これと一体のパイロット弁78が閉弁方向に前進移動する(図2参照)。
【0063】
尚、支持部材98における基底部102からは一対の回転規制用の突起120が起立しており、それら一対の突起120の間の間隙122内に、中継部材106における上記の突出部112が入り込んでおり、それら突起120のストッパ作用により中継部材106が軸周りに回転規制されている。
尚図5のおいて、124はレバー54から突出する軸105を回転可能に嵌合させる嵌合孔である。
【0064】
以上の説明から明らかなように、本実施形態ではパイロット式のバルブ55において、パイロット弁座80がダイヤフラム弁から成る主弁62に設けられており、主弁62の移動によってこのパイロット弁座80もまた一体に移動する。
【0065】
詳しくは、パイロット弁78が図2及び図3中上下方向に移動すると、これに追従してパイロット弁座80が一定の微小な追従間隙を維持しつつパイロット弁78とともに同方向に移動し、主弁62がパイロット弁78の移動につれて全開状態から全閉状態に到るまで若しくはその逆に大きなストロークで移動し、そしてその移動につれて弁開度を連続的に増減変化させて行き、これに応じて主水路を流れる水の流量を連続的に変化させて行く。
【0066】
即ち図9に示す従来のパイロット式バルブのように全開状態からいきなり全閉状態になったり、或いは全閉状態からいきなり全開状態になったりすることはなく、全開状態から全閉状態に到るまで大きなストロークでパイロット弁78及び主弁62が移動し、また逆に全閉状態から全開状態に到るまで大きなストロークでパイロット弁78及び主弁62が移動し、その間、主弁62がその位置に応じて主水路を流れる水の流量を調節する。
【0067】
以上のような本実施形態のボールタップ装置42では、全開と全閉との間でパイロット弁78の移動ストロークを大きく取ることができ、しかもその間パイロット弁78の進退移動量に応じて主弁62の移動量、即ち主弁62の開度を連続的に変化させることができる。
【0068】
また全開と全閉との間の途中の位置にパイロット弁78を停止させることが可能であり、且つその途中位置にパイロット弁78を停止させることによって、これに応じた開度で主弁62を停止させておくことができる。
それ故本実施形態によれば、主弁62の開度に応じた流量即ち最大流量と流量ゼロとの間の中間の流量で、給水栓44から給水し続けることができる。
【0069】
本実施形態のボールタップ装置42ではまた、洗浄タンク10内の洗浄水を流出し続けたとき、フロート46の昇降によって給水栓44からの給水流量を適正流量に自動的に調節することが可能である。
具体的には、流出水量に対して給水流量が過剰なときには、フロート46が上昇してパイロット弁78を閉弁方向に前進移動させることにより主弁62の開度を小さくし、給水栓44からの給水流量を減少させる。
逆に流出流量に対して給水流量が少ないときには、フロート46が下降してパイロット弁78を介し主弁62の開度を大とし、給水栓44からの給水流量を増大させる。
【0070】
そうした動作によって本実施形態のボールタップ装置42では、洗浄タンク10からの洗浄水の流出流量に応じて給水栓44からの給水の流量を自動的に調節でき、従来のパイロット式ボールタップ装置200のように給水の断続を行うことなく、常時主弁を開状態に維持し、洗浄水の流出流量と同じ流量を給水継続することにより、洗浄タンク10内の水量減少を補うことができる。
【0071】
このため本実施形態のボールタップ装置42によれば、従来のボールタップ装置200で問題となっていた最大流量からの急激な給水停止と、給水停止から瞬間的な最大流量での給水開始との断続による不快な異音の発生を防止することができる。
【0072】
また寒冷地であると否とに関わり無く、洗浄タンク10内の洗浄水を全量排出して便器洗浄を行った後、洗浄タンク10内に給水を行って設定の満水状態近くになったとき、本実施形態のボールタップ装置42では給水量が連続的に減少して最終的に主弁62が閉弁状態となるため、閉弁のときに静かに主弁62を閉じることができ、従って急激な閉弁によるウォーターハンマの発生もまた有効に防止することができ、ウォーターハンマによる機器の損傷の問題も併せて解決することができる。
【0073】
また本実施形態ではパイロット弁78を移動させる制御軸76を主弁62を貫通して延設し、その制御軸76に且つ流出水路60側であって主弁62から離隔した部位に、制御軸76の閉弁方向の後退移動によって主弁に係止し、主弁62を強制開弁させる係止部88を設けてあるため、その係止部88の主弁62に対する係止によって、主弁62を制御軸76の後退移動により強制開弁させることができ、これにより背圧室70の水抜きを行うことができるとともに、主弁62が閉弁状態で主弁座68に凍結にて固着してしまい、バルブ55が正常に動作できなくなってしまう問題を解決することができる。
【0074】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態では制御軸76が主弁62を貫通して設けられているが、場合によって制御軸76を主弁62に対して非貫通状態で設けることも可能であるし、またパイロット弁78,パイロット弁座80の構成を上記とは異なった他の様々な形態となすことが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態であるボールタップ装置を洗浄タンクの内部構造とともに示す正面断面図である。
【図2】同実施形態のボールタップ装置をバルブの閉弁状態で示す図である。
【図3】同実施形態のボールタップ装置をバルブの開弁状態で示す図である。
【図4】図2のボールタップ装置の上面を示す図である。
【図5】図2のボールタップ装置の要部を分解して示す図である。
【図6】同実施形態におけるバルブの作用説明図である。
【図7】図6に続く作用説明図である。
【図8】同実施形態において主弁を強制開弁させる際の作用説明図である。
【図9】従来のボールタップ装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10 洗浄タンク
44 給水栓
46 フロート
48 連結部材
55 バルブ
58 流入水路(主水路)
60 流出水路(主水路)
62 主弁
70 背圧室
72 導入小孔
74 パイロット水路
76 制御軸
78 パイロット弁
80 パイロット弁座
88 係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄タンク内の洗浄水の水位に連動して昇降するフロートと、該洗浄タンクへの給水を行う給水栓と、該フロートと該給水栓のバルブとを連結する連結部材とを有し、該フロートの下降により該バルブを開いて該洗浄タンク内に給水を行い、該洗浄タンク内の洗浄水が設定した満水状態となったとき、該フロートの上昇により前記バルブを閉じ給水停止させるボールタップ装置において、
前記バルブを、(イ)主弁座に向けて進退移動し、主水路の開度を変化させる主弁と、(ロ)該主弁の背後に形成され、内部の圧力を該主弁に対して閉弁方向の押圧力として作用させる背圧室と、(ハ)前記主水路における1次側の流入水路の水を該背圧室に導いて、該背圧室の圧力を増大させる導入小孔と、(ニ)該背圧室と前記主水路における2次側の流出水路とを連通させ、該背圧室の水を該流出水路に抜いて該背圧室の圧力を減少させる、水抜水路としてのパイロット水路と、(ホ)該背圧室側において、前記主弁に設けられたパイロット弁座に向けて進退移動可能に設けられたパイロット弁と、(ヘ)該パイロット弁を進退移動させる制御軸と、を備え、該パイロット弁の進退移動により、前記主弁に対する前記背圧室の圧力による閉弁方向の押圧力と、前記流入水路の圧力による開弁方向の押圧力とをバランスさせるように該パイロット弁と前記パイロット弁座との間に一定の微小な追従間隙を保持しつつ、該主弁を該パイロット弁の進退移動に追従して該パイロット弁と同方向に進退移動させ、前記主水路の開度調節を行うパイロット式バルブとして構成し、
前記フロートの下降時に前記パイロット弁を開弁側に後退移動させ、該フロートの上昇時に前記パイロット弁を閉弁側に前進移動させる状態に該パイロット弁と前記連結部材とを結合してあることを特徴とするボールタップ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制御軸が前記主弁を貫通して延びており、該制御軸に且つ前記流出水路側であって前記主弁から離隔した部位に、該制御軸の開弁方向の後退移動によって該主弁に係止し、該主弁を強制開弁させる係止部が設けてあることを特徴とするボールタップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−293259(P2009−293259A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146969(P2008−146969)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】