説明

ボールペン用油性インキ組成物及びこれを用いたボールペン

【課題】滑らかな書き味で、長期保存後でも筆記不能やカスレが発生することが無い安定なボールペン用油性インキ組成物、およびこの組成物を使用したボールペンを提供する。
【解決手段】有機溶剤と、着色剤と、特定のベンゾチアジン化合物を少なくとも含有するボールペン用油性インキ組成物。前記インキ組成物と接触する部材がニッケルメッキ層であるボールペン。前記インキ組成物と接触する部材がコイルスプリング10であるボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑らかな書き味で、長期保存後でも筆記不能やカスレが発生することが無い安定なボールペン用油性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記部材としてのボールをボールホルダーの先端より一部突出して抱持した所謂ボールペンチップにおいては、インキの潤滑が不十分な場合、ボールとボール受け座の金属表面の摩擦が運筆時の負荷となり、書き味が損なわれることがあった。
また、ボールペンチップ内部とインキとの長期にわたる接触により、ボールペンチップ内部の金属表面が腐食し、金属成分がインキ中へと溶出することによりインキが変質して、筆記不能やカスレが発生することがあった。特に、ボールを付勢するコイルスプリング表面のニッケルメッキ層の腐食によるインキの変質が筆記不能やカスレの原因となることがあった。
【0003】
そこで、前記問題を解決するために、油性インキ組成物中にフッ素系ホスホン酸化合物(特許文献1)やリン酸エステル系の界面活性剤(特許文献2)などの潤滑剤を添加し、インキの潤滑性を向上させてボールとボール受け座の摩擦の低減し、滑らかな書き味を得る試みが成されてきた。
また、ボールペンチップ内部の金属表面の腐食、特にコイルスプリングのニッケルメッキ層の腐食に関しては、ニッケルメッキ層がない状態でコイルスプリングを使用することにより、長期におけるインキの変質を防止している。
【0004】
【特許文献1】特開平8−41407号公報
【特許文献2】特開平11−293174号公報
【特許文献3】特開2002−127664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2に記載されている潤滑剤は、ある程度の潤滑効果を奏するものであるが、長距離の筆記では潤滑性が維持できず、ボールとボール受け座の摩擦が生じてしまい、滑らかな書き味が損なわれてしまうことがあった。
特許文献3に関しては、ニッケルメッキ層の無い状態でコイルスプリングを使用すると、勿論ニッケルの腐食によるインキの変質を防ぐことができるが、ニッケルメッキ層が無くなったことにより、コイルスプリング自体の金属が腐食を起こす。さらに、コイルスプリングに使用する線材はステンレス製のものが多く、ニッケルよりもイオン化傾向の大きいクロムや鉄で形成されているため、ニッケルメッキ層を無くすことにより、腐食しやすくなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、滑らかな書き味で、長期保存後でも筆記不能やカスレが発生することが無い安定な油性ボールペン用インキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、有機溶剤と、着色剤と、下記一般式(化1)で示される化合物を少なくとも含有するボールペン用油性インキ組成物を要旨とするものである。
【0008】
【化1】

【発明の効果】
【0009】
本発明で使用する上記一般式(化1)で示される化合物は、非共有電子対を持つ窒素、酸素、硫黄がボールペンチップ内部の金属表面と結合することにより、金属表面上に皮膜となって存在する。上記一般式(化1)は環状構造であることにより、金属表面と水平の状態で並列することで、一般的な直鎖型の潤滑剤などに比べて、一分子が配置する範囲が広いため、潤滑剤としての性能が高い。よって、上記一般式(化1)によって形成された皮膜により、ボールとボール受け座の金属表面の摩擦を抑制し、書き味の損失を防ぐ。
また、金属とインキとの接触を防ぐことができるため、ボールペンチップ内部の金属の腐食を抑制し、インキの変質による筆記不良とカスレを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ボールペンチップを示す縦断面図。
【図2】図1のI部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に発明を詳細に説明する。
上記一般式(化1)で示される化合物は、インキ全量に対し、0.01〜10重量%となるように配合することが好ましい。0.01%未満だとボールとボール受け座の摩擦およびボールペンチップ内部の金属表面の腐食を低減するほどの十分な効果が得られず、また10重量%以上添加しても、ボールとボール受け座の摩擦およびボールペンチップ内部の金属表面の腐食防止効果の更なる向上は認められない。
有機溶剤は、初筆かすれ性能や経時減量速度のコントロールや、インキ洩れ性能、書き味、ボテ等を両立させるため、または配合成分の溶解助剤として補助的な溶剤として用いるものであり、使用する着色剤の溶解性、分散安定性を考慮し、適宜選択する事ができる。特に好ましい有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、3−メチル−1,3ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のグリコール類、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシペンタノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール類、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル等のエーテル類、酢酸−2−エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルモノグリコール、ベンジルジグリコール、プロピレングリコールモノフェニルエーテルベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−メチルベンジルアルコールなどの芳香環を含む溶剤などがある。
【0012】
着色剤は、従来公知の染料や顔料が単独若しくは混合して使用できる。
染料としては、ニグロシンベ−スEE、同EEL、同EX、同EXBP、同EB、オイルイエロー101、同107、オイルピンク312、オイルブラウンBB、同GR、オイルグリーンBG、オイルブルー613、同BOS オイルブラックHBB、同860、同BS、バリファストイエロー1101、同1105、同3108、同4120、バリファストオレンジ2210、同3209、同3210、バリファストレッド1306、同1308、同1355、同1360、同2303、同2320、同3304、同3306、同3320、バリファストピンク2310N、バリファストブラウン2402、同3405、バリファストグリーン1501、バリファストブルー1603、同1605、同1607、同1631、同2606、同2610、同2620、バリファストバイオレット1701、同1702、バリファストブラック1802、同1807、同3804、同3806,同3808、同3810、同3820、同3830、スピリットレッド102、オスピーイエローRY、ROB−B、MVB3、SPブルー105(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンイエロー3RH、同GRLHスペシャル、同C−2GH、同C−GNH、アイゼンスピロンオレンジ2RH、同GRHコンクスペシャル、アイゼンスピロンレッドGEH、同BEH、同GRLHスペシャル、同C−GH、同C−BH、アイゼンスピロンバイオレットRH、同C−RH、アイゼンスピロンブラウンBHコンク、同RH、アイゼンスピロンマホガニーRH、アイゼンスピロンブルーGNH、同2BNH、同C−RH、同BPNH、アイゼンスピロングリーンC−GH、同3GNHスペシャル、アイゼンスピロンブラックBNH、同MH、同RLH、同GMHスペシャル、同BHスペシャル、S.B.N.オレンジ703、S.B.N.バイオレット510、同521、S.P.T.オレンジ6、S.P.T.ブルー111、SOTピンク1、SOTブルー4、SOTブラック1、同6、同10、同12、13リキッド、アイゼンローダミンBベース、アイゼンメチルバイオレットベース、アイゼンビクトリアブルーBベース(以上、保土谷化学工業(株)製)、オイルイエローCH、オイルピンク330、オイルブルー8B、オイルブラックS、同FSスペシャルA、同2020、同109、同215、ALイエロー1106D、同3101、ALレッド2308、ネオスーパーイエローC−131、同C−132、同C−134、ネオスーパーオレンジC−233、ネオスーパーレッドC−431、ネオスーパーブルーC−555、ネオスーパーブラウンC−732、同C−733(以上、中央合成化学(株)製)、オレオゾールファストイエロー2G、同GCN、オレオゾールファストオレンジGL、オレオゾールファストレッドBL、同RL(以上、田岡化学工業(株)製)、サビニールイエロー2GLS、同RLS、同2RLS、サビニールオレンジRLS、サビニールファイアレッドGLS、サビニールレッド3BLS、サビニールピンク6BLS、サビニールブルーRN、同GLS、サビニールグリーン2GLS、サビニールブラウンGLS(以上、サンド社製、スイス国)、マゼンタSP247%、クリスタルバイオレット10B250%、マラカイトグリーンクリスタルコンク、ブリリアントグリーンクリスタルH90%、スピリットソルブルレッド64843(以上、ホリディ社製、英国)、ネプチューンレッドベース543、ネプチューンブルーベース634、ネプチューンバイオレットベース604、バソニールレッド540、バソニールバイオレット600(以上、BASF社製、独国)などの油溶性染料が挙げられる。
【0013】
顔料としては、SpecialBlack6、同S170、同S610、同5、同4、同4A、同550、同35、同250、同100、Printex150T、同U、同V、同140U、同140V、同95、同90、同85、同80、同75、同55、同45、同P、同XE2、同L6、同L、同300、同30、同3、同35、同25、同200、同A、同G(以上、エボニックデグサ・ジャパン(株)製)、#2400B、#2350、#2300、#2200B、#1000、#950、#900、#850、#MCF88、MA600、MA100、MA7、MA11、#50、#52、#45、#44、#40、#33、#32、#30、CF9、#20B、#4000B、(以上、三菱化成工業(株)製)、MONARCH1300、同100、同1000、同900、同880、同800、同700、MOGUL L、REGAL400R、同660R、同500R、同330R、同300R、同99R、ELFTEX8、同12、BLACK PEARLS2000(以上、米国、キャボットCorp.製)、Raven7000、同5750、同5250、同5000、同3500、同2000、同1500、同1255、同1250、同1200、同1170、同1060、同1040、同1035、同1020、同1000、同890H、同890、同850、同790、同780、同760、同500、同450、同430、同420、同410、同22、同16、同14、同H20、同C、Conductex975、同900、同SC(以上、コロンビヤン・カーボン日本(株)製)などのカーボンブラック、KA−10、同10P、同15、同20、同30、同35、同60、同80、同90、KR−310、同380、同460、同480(以上、チタン工業(株)製)、タイピュアR−900、同902、同960(以上、デュポン(株)製)、タイペークCR−50、同58、同60、同67、同80、同90、R−580、同670、同680、同780、同820、同930(以上、石原産業(株)製)、JR−300、同403、同600A、同800、同805(以上、テイカ(株)製)、P25(日本アエロジル(株)製)などの酸化チタン、BS−605、同607(以上、東洋アルミ(株)製)、ブロンズパウダーP−555、同P−777(以上、中島金属箔工業(株)製)、ブロンズパウダー3L5、同3L7(以上、福田金属箔工業(株)製)などの金属粉顔料、また、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、クロムグリーン、酸化クロムなどの無機顔料、ハンザエロー−10G、同5G、同3G、同4、同GR、同A、ベンジジンエロー、パーマネントエローNCG、タートラジンレーキ、キノリンエロー、スダーン1、パーマネントオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジGN、パーマネントブラウンFG、パラブラウン、パーマネントレッド4R、ファイヤーレッド、ブリリアントカーミンBS、ピラゾロンレッド、レーキレッドC、キナクリドンレッド、ブリリアントカーミン6B、ボルドー5B、チオインジゴレッド、ファストバイオレットB、ジオキサジンバイオレット、アルカリブルーレーキ、フタロシアニンブルー、インジゴ、アシッドグリーンレーキ、フタロシアニングリーンなどの有機顔料などが挙げられる。また、この他に硫化亜鉛、珪酸亜鉛、硫酸亜鉛カドミウム、硫化カルシウム、硫化ストロンチウム、タングステン酸カルシウムなどの無機蛍光顔料が挙げられる。
【0014】
上記した着色剤は単独或いは複数混合して使用することが出来、使用量はインキ組成物全量に対して2.0重量%以上20.0重量%以下が好ましい。2.0重量%未満では濃度が低すぎて筆跡が確認し難いこともあり、20.0重量%を超えるとインキ組成物粘度が高くなり筆記具ペン先からのインキ吐出が不十分になることがある。
【0015】
以上の成分の他に更に必要に応じて、従来インキ組成物に使用されている樹脂、界面活性剤などの各種添加剤を適宜使用できる。
【0016】
樹脂は、インキの筆跡の筆記面への定着性を付与するために添加することができる。例えば、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ロジン樹脂などのインキ組成物用樹脂が挙げられる。
具体例としては、フェノール樹脂として、タマノル100S、同510(以上、荒川化学工業(株)製)、ヒタノール1501、同2501(以上、日立化成工業(株)製)、YP−90、YP−90L、YSポリスターS145、同#2100、同#2115、同#2130、同T80、同T100、同T115、同T130、同T145、マイティエースG125、同150(以上、ヤスハラケミカル(株)製)などが、ケトン樹脂として、ケトンレジンK−90(荒川化学工業(株)製)、ハロン80、同110H(以上、本州化学(株)製)、ハイラック110H、同901(以上、日立化成工業(株)製)、シンセティックレジンAP、同SK、同1201(以上、ヒュルス社製、独国)などが、ロジン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂として、ハーコリンD、ペンタリン255、同261、同269、同830(以上、理化ハーキュレス(株)製)、ハリエスターNL、同L、同MT、同MSR−4、ハリマック135G、同T−80、同FX−25、同AS−5、同AS−9、ネオトールC、ガムロジンX(以上、ハリマ化成(株)製)、ガムロジンWW(中国産)、エステルガムH、マルキード#30A、同#31、同#32、同#33、同#34(荒川化学工業(株)製)などが挙げられる。
これらの樹脂は、単独あるいは複数混合して使用でき、筆記面への定着性を付与するために添加する場合、その使用量はインキ組成物全量に対し0.5〜20.0重量%以下が好ましい。0.5重量%未満では筆記面に対する筆跡の定着性が不十分となる場合があり、20.0重量%を超えるとインキの粘度が高くなりペン先からのインキ吐出が悪くなる不具合が発生する可能性がある。
【0017】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸などが挙げられる。
【0018】
本願発明のインキ組成物は、上記成分を従来知られている方法により得られる。なお、濾過や遠心処理でインキ組成物中の粗大顔料を取り除いても良い。
【0019】
本発明のインキ組成物を使用するボールペンは、例えば、図1である縦断面図、図1のI部拡大図である図2(ボール1は破線で表現、コイルスプリング部材10は省略)に示すような、ボールペンチップを使用する。
当該ボールペンチップは、筆記部材としてのボール1と、このボール1を回転自在に抱持するボールホルダー2とを備えている。ボールホルダー2は、貫通孔としてのインキ通路内に、ボール1の後方移動規制部分となる内方突出部3を有し、内方突出部3は中心孔4に連通した放射状の溝5でほぼ均等に分断されている。放射状の溝5は、内方突出部3の後方孔6(ボールと反対側)まで貫通しているものを図示したが、貫通していなくてもよい。
ボール1を一部突出状態で抱持する先端開口部7は、カシメ加工によりボールの直径よりも小径に圧延加工されており、ボール1の抜け止めをなしている。このカシメ加工の際にボールホルダー2の先端部分内側の壁をボール1に押し付けることによって、該部分がボールの表面によって押しつけられたり磨かれたりして凹凸の少ない均一な面が帯状に形成される。また、ボール1を設置した後に、ボール1を前記内方突出部3に押し付けることによって、内方突出部3のボール1と接触する部分にボールの曲率を転写した凹部8を形成し、ボールホルダー2の先端開口部7とボール1との間にインキが吐出する有効な隙間9を形成すると共に、ボール1がボール抱持室内で無用に左右に動くことなどを抑制する。
また、コイルスプリング部材10をボールホルダー2内に後方から挿入し、コイルスプリング部材10の先端をボール1に当接させ、コイルスプリング部材10の弾撥力によってボール1を前方付勢させ、被筆記時にボール1とボールホルダー2の内壁とを周状に当接させてインキが漏れないようなすこともできる。
コイルスプリング部材は、主に弾撥力を発揮するコイル部10aと、先端に直状に延伸させた直状部10bとを有している。
ボールの材質としては、タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなど、セラミックス焼結体や超硬材などが挙げられ、ボールホルダーの材質としては、ステンレスや黄銅、洋白などの合金などが挙げられ、コイルスプリング部材の材質としては、ステンレス鋼材やニッケルメッキ鋼線などの不鋳鋼や不鋳処理を施したもの、ピアノ線、硬鋼線、りん酸銅線などの金属が挙げられる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
プリンテックス35(カーボンブラック、エボニックデグサ・ジャパン(株)製)
7.0重量部
スピロンイエローC−GNH(油溶性黄色染料、保土谷化学工業(株)製)
2.0重量部
バリファストレッド1308(油溶性赤色染料、オリエント化学工業(株)製)
3.0重量部
ネオスーパーブルーC−555(油溶性青色染料、中央合成化学(株)製)
8.0重量部
上記一般式(化1)で示される化合物(n=1) 1.0重量部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 47.0重量部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 24.0重量部
ハイラック110H(ケトン樹脂、日立化成(株)製) 4.0重量部
エスレックBL−1(ポリビニルブチラール、分散剤、積水化学工業(株)製)
3.0重量部
エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、曳糸性付与剤、積水化学工業(株)製)
1.0重量部
上記成分のうち、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの全量と、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を70℃で攪拌、混合溶解した後、これを室温まで放冷してからプリンテックス35の全量を加えダイノミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い黒色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料を加え、70℃で3時間攪拌、混合した後放冷し黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0021】
(実施例2)
FUJI RED 8800(C.I.Pigment Red 254、冨士色素
(株)製) 5.0重量部
スピロンイエローC−GNH(油溶性黄色染料、保土谷化学工業(株)製)
3.0重量部
スピロンレッド C−GH(油溶性赤色染料、保土谷化学工業(株)製)
12.0重量部
上記一般式(化1)で示される化合物(n=2) 0.01重量部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 71.59重量部
ハイラック110H 5.0重量部
エスレックBL−1 3.0重量部
PVP K−90(ポリビニルピロリドン、曳糸性付与剤、アイエスピージャパン
(株)) 0.4重量部
上記成分のうち、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を70℃で攪拌、混合溶解した後、これを室温まで放冷してからFUJI RED 8800の全量を加えダイノミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い赤色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料を加え、70℃で3時間攪拌、混合した後室温まで放冷し、赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0022】
(実施例3)
Cromophtal Blue A3R(C.I.Pigment Blue 60、チバ・スペシャルティケミカルズ(株)製) 6.0重量部
スピロンレッド C−BH(油溶性赤色染料、保土谷化学工業(株)製)
2.0重量部
ネオスーパーブルーC−555(油溶性青色染料、中央合成化学(株)製)
11.0重量部
上記一般式(化1)で示される化合物(n=1) 10.0重量部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 61.5重量部
エスレックBL−1 2.0重量部
ハリマックT−80(ロジン変性マレイン酸樹脂、ハリマ化成(株)製)
5.0重量部
エスレックBH−3 2.5重量部
上記成分のうち、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を70℃で攪拌、混合溶解した後、これを室温まで放冷してからCromophtal Blue A3Rの全量を加えダイノミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い青色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料を加え、70℃で3時間攪拌、混合した後室温まで放冷し、青色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0023】
(実施例4)
スピロンイエローC−GNH 5.0重量部
ネオスーパーブルーC−555 10.0重量部
上記一般式(化1)で示される化合物 0.005重量部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 25.49重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 50.0重量部
ハイラック901 9.0重量部
PVP K−90 0.5重量部
上記成分を70℃で攪拌し、均一に溶解した後室温まで放冷し、室温で30分間攪拌し緑色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0024】
(実施例5)
スピロンイエローC−GNH 10.0重量部
スピロンレッドC−GH 3.0重量部
上記一般式(化1)で示される化合物 15.0重量部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 52.5重量部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 5.0重量部
ハイラック110H 13.7重量部
PVP K−90 0.8重量部
上記成分を70℃で溶解し、均一に溶解した後室温まで冷却し、室温で30分間攪拌し橙色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0025】
(比較例1)
実施例1において、上記一般式(化1)で示される化合物(n=1)を除き、その分をジエチレングリコールモノメチルエーテル添加した以外は実施例1と同様になして、黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0026】
(比較例2)
実施例2において、上記一般式(化1)で示される化合物(n=2)を、フッ素系ホスホン酸化合物に置き換えた以外は実施例2と同様になして、赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0027】
(比較例3)
実施例3において、上記一般式(化1)で示される化合物(n=1)を、フォスファノールRE−410(ノニルフェノール系)に置き換えた以外は実施例3と同様になして、青色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0028】
(比較例4)
実施例1において、上記一般式(化1)で示される化合物(n=1)を除き、その分をジエチレングリコールモノメチルエーテル添加し、ボールを付勢するコイルスプリング表面のニッケルメッキ層が無い状態のコイルスプリングを使用する以外は実施例1と同様になして、黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0029】
上記、実施例1〜5、比較例1〜4で得たボールペン用油性インキ組成物を、市販のボールペン(ビクーニャボールペンBX157、ぺんてる(株)製、ペン先はステンレス製ボールホルダーにて直径0.7mmの超硬合金の筆記ボールとスプリングを抱持したボールペンチップを備えるノック出没式ボールペン)と同様の筆記具に0.20g充填し、遠心機にて遠心力を加えてインキ中の気泡を脱気して、試験用ボールペンを作製した。
【0030】
書き味の評価:一定速度でペンを動かしたときのペンを持つ手にかかる抵抗値、即ち筆記抵抗値が、筆記の際のペンの書き味の良し悪しの重要な要素である。筆記抵抗値の測定は、静・動摩擦測定機(Tribo−master Type TL201Sa、(株)トリニティーラボ製)を用いて行った。静・動摩擦測定機は、ペン先を紙面に当てた状態で、筆記用紙をセットした台が設定速度で動くことにより、直線筆記させた時のペンにかかる抵抗値を測定することができる。
上記実施例1〜5および比較例1〜4のインキを充填した未筆記の初期状態のサンプルと、500m筆記した上記試験用ボールペン各3本ずつについて、筆記角度70°、筆記速度7cm/sec、荷重150gで15cm直線筆記させて、1秒あたり200点の筆記抵抗値のデータを採取する。n=3本の筆記抵抗値の全データの平均値および最大値を数値とした。
各結果を表1に示す。
【0031】
経時試験:試験用ボールペンを、温度80℃、湿度80%RHの恒温恒湿機に入れ、1ヶ月間経過後取り出し、手書きにて筆記を行い、筆跡を確認した。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜5のボールペン用油性インキ組成物は、上記一般式(化1)で示される化合物の非共有電子対を持つ窒素、酸素、硫黄がボールペンチップ内部の金属表面と結合することにより、金属表面上に皮膜となって存在する。特に、実施例1〜3、5に関しては、皮膜を形成するために必要な十分な量の上記一般式(化1)で示される化合物がインキ中に存在するので、筆記を繰り返しても滑らかな書き味が持続する。また、上記一般式(化1)によって形成された皮膜により、インキとボールペンチップ内部の金属表面との接触を遮断し、腐食を防止することにより、経時による筆記不良を起こさない。
【0034】
これに対して、比較例1〜4のボールペン用油性インキ組成物は、上記一般式(化1)で示される化合物を含有していないため、ボールとボール受け座表面に十分な潤滑膜を形成することができず、長距離の筆記において、滑らかな書き味を維持することができない。また、比較例1〜4のボールペン用油性インキ組成物は、上記一般式(化1)で示される化合物を含有していないため、長期の保存を想定した経時試験において、インキと接触したボールペンチップ内部の金属表面が腐食し、金属成分がインキ中に溶出することでインキが変質し、筆記不良が発生してしまう。
【0035】
以上、詳細に説明したように、本発明のインキは、滑らかな書き味で、長期保存後でも筆記不能やカスレが発生することが無い安定なボールペン用油性インキ組成物に関するものである。
【符号の説明】
【0036】
1 ボール
2 ボールホルダー
3 内方突出部
4 中心孔
5 放射状の溝
6 後方孔
7 先端開口部
8 凹部
9 隙間
10 コイルスプリング部材
10a コイル部
10b 直状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は、有機溶剤と、着色剤と、下記一般式(化1)で示される化合物を少なくとも含有するボールペン用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記ボールペンのインキと接触する部材に少なくともニッケルメッキ層が存在する請求項1に記載のボールペン用油性インキ組成物を使用したボールペン。
【請求項3】
前記インキと接触する部材が、コイルスプリングである請求項2に記載のボールペン用油性インキ組成物を使用したボールペン。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10865(P2013−10865A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144473(P2011−144473)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】