説明

ボールペン用O/W型エマルションインキ組成物

【課題】筆跡の裏写りがなく耐水性に優れ筆記感の優れたボールペン用インキ組成物を提供する。
【解決手段】着色剤としての油溶性染料と、該染料を溶解する有機溶剤とからなる油性成分を、HLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数3〜6の有機酸で水中に乳化分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆跡の耐水性に優れ、裏写りがなく、筆記感が優れ、温度安定性の良好なボールペン用O/W型エマルションインキ組成物に関するものである
【背景技術】
【0002】
従来、水溶性染料を用いた水性ボールペンインキ、水性ゲルボールペンインキは、筆跡が鮮やかで筆記感が良いという特性を持っているが筆跡の耐水性に劣るという欠点を持っている。耐水性向上の為に着色剤を顔料にした水性顔料ゲルボールペンインキは筆記濃度向上や沈降防止のためにインキ粘度が高く書き味に劣る。また、油溶性染料を有機溶剤に溶解した油性ボールペンインキは染料に耐水性があるため筆跡耐水性はよいが粘度を下げて書き味を良くすると有機溶剤が紙に浸透する裏写りが起こる。このため粘度を高くして裏写りを防止しているが書き味が重くなる。
【0003】
そこで着色剤である油溶性染料と有機溶剤とからなる油相成分を乳化剤により水に乳化分散したO/W型エマルションボールペンインキならば、水相の書き味の良さと油溶性染料の耐水性を両立させることができると考えられる。
【0004】
従来、有機溶剤中に少なくとも着色材としての染料を溶解させた油性溶液から成る油性相及び少なくとも水を含む水性相から、エチレンオキサイド付加モル数が40mol以上の芳香環を有する乳化剤を用いて得られる水中油滴型エマルションから成る水性ボールペン用インク組成物(特許文献1)、非イオン性の油溶性ポリマー、沸点150℃以上の疎水性高沸点有機溶媒および油溶性染料を含有する着色微粒子を陰イオン型界面活性剤やノニオン型界面活性剤を用いて水系媒体に分散してなる着色微粒子分散物(特許文献2)などが知られている。
しかし、通常O/W型エマルション作成に使用されるHLBが比較的高い8〜18程度の非イオン性界面活性剤を配合してエマルションインキとすると、紙面の筆跡上に着色剤と共に界面活性剤が残留するため、筆跡が水に濡れると再乳化がおこり油溶性染料を使用しているにもかかわらず筆跡が水に流れてしまう問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−292872号公報
【特許文献2】特開2001−335734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
O/W型エマルションインキは、十分な耐水性を備えている。
しかしながら、HLBの高い界面活性剤を使用したエマルションは、筆跡の再乳化の他に界面活性剤が持つ曇点のため環境温度の影響を受けやすく、ある程度の高温環境に置かれた場合などにはエマルションが破壊されて、凝集したり、油相と水相に分離してしまう可能性があった。
【0007】
本願発明は、十分な耐水性を備えながら、十分な耐熱性を備えて温度安定性が良好であり破壊され難い安定なエマルジョンインキとすると共に、水を含有していながらも裏写りもない書き味も良好なO/W型エマルションインキを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、着色剤としての油溶性染料と、該染料を溶解する有機溶剤とからなる油性成分を、HLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数3〜6の有機酸で水中に乳化分散したボールペン用O/W型エマルションインキ組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
HLB8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルはW/O型のエマルションを作製するには良好な界面活性剤であるが、これだけでは水との親和性が弱すぎてO/W型のエマルションは出来にくい。
しかしながら、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数3〜6の有機酸を併用すると、HLB8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルが油相成分を強固に包み込み、このHLB8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルの層に炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドの脂肪酸部分が入りこみジメチルアミノプロピルアミド及び/又はジエチルアミノエチルアミドの部分が乳酸と造塩することにより水と強く親和するようになるため油相成分が微粒子となって水に分散したO/W型エマルションを形成することが出来る。
これにより、紙面に筆記したときに水や乳酸や溶剤は紙と親和性が強いので先に浸透し、油相成分が紙面上に残るが、紙面の筆跡が水に濡れてもHLB8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルが筆跡の再乳化による水への流れだしを防止するため耐水性に優れたインキが得られるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが8以下のものであり、HLBが8を超えたものを使用するとO/Wエマルションが形成できなかったり油相全量を油滴にすることができずインキから油相が分離して沈降したり、筆跡の耐水性が減少してしまう。また、常温で固体のものが好ましく、常温で液状のものは高温でのエマルションの安定性が悪いことがある。本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、ジオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、ペンタステアリン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸ヘキサグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル、ヘプタベヘニン酸デカグリセリル、デカオレイン酸デカグリセリル、ドデカベヘニン酸デカグリセリルなどが挙げられ、これら複数種を混合して使用しても良い。
【0011】
炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドは乳酸と造塩してエマルションの安定性を高めるために使用するものであり、脂肪酸としてはカプリル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などのものが使用可能である。これらはポリグリセリン脂肪酸エステル10に対し0.1重量%〜20重量%使用する。0.1重量%未満ではエマルションの粒径が十分に細かく成らず、温度安定性が不十分であり、20重量%を超えるとエマルションの調整が出来ない。
【0012】
炭素数3〜6の有機酸としては乳酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、プロパン酸、ブタン酸などが挙げられる。これらの炭素数3〜6の有機酸は炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと造塩してO/W型エマルションの安定性を高める為に使用するものであり、その使用量は脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミド10に対し1.0重量%から20.0重量%が好ましい。1.0重量%未満では効果が見られず、20.0重量%を超えて添加してもそれ以上の効果が見られない。
【0013】
これらの乳化剤としての界面活性剤の他にエマルションの安定化のために少量のHLBが8を超える脂肪酸の炭素数が18以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを併用しても良い。、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリルなどが挙げられ、特に脂肪酸中に二重結合を持つモノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリルなどが耐熱性が更に良く好ましい。好ましい使用量は0.01重量%から2.0重量%でありこれら複数種を混合して使用しても良い。
【0014】
着色剤としては、従来油性ボールペン用インキに用いられている染料が限定無く使用可能である。染料としては、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料、造塩染料、アジン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料などが使用でき、具体的にはバリファーストイエロー#3104、バリファーストイエロー#3105、バリファーストイエロー#1105、バリファーストイエローAUM、オリエント スピリットブラックAB、バリファーストブラック#3804、バリファーストブラック#3806、バリファーストブラック#1802、バリファーストブラック#1805、バリファーストイエロー#1109、バリファーストオレンジ#2210、バリファーストレッド#1320、バリファーストブルー#1605、バリファーストバイオレット#1701、オリエント オイル スカーレット#308、ニグロシンベースEX−BP(以上、オリエント化学工業(株)製の油性染料)、スピロンブラック GMHスペシャル、スピロンイエローC−2GH、スピロンレッドC−GH、スピロンレッドC−BH、スピロンブルーBPNH、スピロンブルーC−RH、スピロンバイオレットC−RH、S.P.T.オレンジ6、S.P.T.ブルー−111(以上、保土谷化学工業(株)製の油性染料)、ローダミンBベース(C.I.45170B、住友化学工業(株)製の油性染料)、ビクトリアブルーF4R、ニグロシンベースLK(独国、BASF社製)、メチルバイオレット2Bベース(米国、National Anilne Div.社製)などが使用できる。
これらは単独で用いても複数を混合して用いてもよい。O/Wエマルション油性成分は少なくとも着色剤として油溶性染料を有機溶剤で溶解したインキ成分であることが必要であり油溶性染料の添加量は油性成分の5重量%から50重量%以下、好ましくは15重量%以上40重量%以下が使用できる。使用量が少ないとエマルションにしたときに筆跡濃度が薄くなり、多くなると有機溶剤に溶解せず油性成分部分が不安定になりエマルションの熱安定性が悪くなることがある。
【0015】
エマルション油性成分に使用できる溶剤としては、従来より油性ボールペンで使用され、油溶性染料を溶解することができ、水に実質的に溶解しない有機溶剤が使用できる。例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどのエチレングリコールモノエーテル系溶剤、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのジエチレングリコールモノエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、等のプロピレングリコールモノエーテル系溶剤や、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−メチルベンジルアルコール等のアルコール系溶剤が使用可能である。これらは単独で用いてもまた2種以上混合して用いても良く、配合量はエマルションインキ組成物の油相に対し1重量%以上90重量%以下である。
【0016】
O/W型エマルションインキの必須成分として水を使用する。この水は染料や樹脂の溶解安定のためにイオン交換水が望ましい。またこれらの必須成分の他に従来公知の粘度調整剤、染料の溶解促進剤、定着剤として各種樹脂や樹脂エマルション、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、pH調整剤、ボール受座摩耗防止や運筆性改良のための潤滑剤を必要に応じて油相、水相の両方に適宜使用できる。
【0017】
特に、インキの乾燥防止や凍結防止のために水性成分に水溶性有機溶剤や多価アルコール類を配合することが望ましく具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等の水溶性有機溶剤やソルビトール、マルチトール、フルクトース等の多価アルコールを使用でき、配合量は水性成分全体の50重量%以下が好ましい。
【0018】
ボールペンインキとして望ましい粘度やレオロジー性能を付与するために水性成分に高分子多糖類や水溶性アクリル樹脂、無機鉱物系の増粘剤などが使用可能である。
【0019】
O/W型エマルションインキ全量に対して油溶性染料を含む油性成分は10重量%以上70重量%以下、HLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数2〜6の有機酸からなる乳化剤成分は0.1重量%以上15重量%以下、水性成分は20重量%以上75重量%以下であることが好ましい。
【0020】
O/W型エマルションインキを作成する乳化分散の方法は特に制限されるものではなく、スターラー、ホモミキサー、ホモジナイザーなどで適当な温度で撹拌することで作成することができる。また、作成したエマルションをさらに微細にするために高圧ホモジナイザー処理することもできる、エマルション粒径を揃えたり不溶解物を除くためにろ過や遠心処理をすることもできる
【実施例】
【0021】
実施例1
スピロンバイオレットC−RH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 4.85重量%
スピロンイエローC−GNH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 3.30重量%
ベンジルアルコール 11.85重量%
ペンタステアリン酸デカグリセリル(HLB=3.5) 12.00重量%
ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド 2.40重量%
乳酸 1.50重量%
グリセリン 30.00重量%
PVP K−90(ポリビニルピロリドン:ISPジャパン(株)製) 0.70重量%
イオン交換水 33.40重量%
上記グリセリン、PVP K−90、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌し、グリセリンを加えてさらに80℃で1時間撹拌してA液を作成する。PVP K−90とイオン交換水を20℃で1時間撹拌しB液を作成する。80℃でA液にB液を加えマグネチックスターラーで45分撹拌したあと撹拌しながら冷却し黒色エマルションインキを作製した。
【0022】
実施例2
スピロンイエローC−GNH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 2.45重量%
スピロンレッドC−GH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 3.15重量%
スピロンレッドC−BH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 4.00重量%
ベンジルアルコール 5.40重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 15.00重量%
モノステアリン酸テトラグリセリル(HLB=6.0) 4.50重量%
カプリル酸ジエチルアミノエチルアミド 4.50重量%
クエン酸 0.50重量%
エチレングリコール 25.00重量%
ケルザンAR(キサンタンガム:三晶(株)製) 0.60重量%
イオン交換水 34.90重量%
上記エチレングリコール、ケルザンAR、イオン交換水以外の成分を80℃1時間加熱撹拌してA液を作成する。エチレングリコール、ケルザンAR、イオン交換水を20℃1時間撹拌しB液を作成する。スリーワンモーターでB液を75℃に加熱し撹拌しながらA液を滴下し75℃45分撹拌したあと、撹拌しながら冷却し赤色エマルションインキを作製した。
【0023】
実施例3
スピロンレッドC−BH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 0.95重量%
ネオスーパーブルーC−555(染料、中央合成化学(株)製) 5.05重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 29.00重量%
ペンタステアリン酸デカグリセリル(HLB=3.5) 5.00重量%
ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド 0.50重量%
プロピオン酸 1.00重量%
グリセリン 40.00重量%
イオン交換水 19.50重量%
上記グリセリン、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌してA液を作成する。80℃に加熱したグリセリンとイオン交換水をホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理したあと、スリーワンモーターで撹拌しながら冷却し青色エマルションインキを作製した。
【0024】
実施例4
スピロンイエローC−GNH 2.86重量%
スピロンレッドC−BH 1.29重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 5.85重量%
ペンタステアリン酸デカグリセリル(HLB=3.5) 0.50重量%
ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド 1.00重量%
乳酸 0.50重量%
グリセリン 10.00重量%
イオン交換水 78.50重量%
上記グリセリン、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌してA液を作成する。80℃に加熱したグリセリンとイオン交換水をホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理したあと、さらに高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら3パス処理し橙色エマルションインキを作製した。
【0025】
実施例5
スピロンイエローC−GNH 2.86重量%
スピロンレッドC−BH 1.29重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 5.85重量%
ペンタステアリン酸デカグリセリル(HLB=3.5) 2.50重量%
モノオレイン酸デカグリセリル(HLB=12.0) 1.00重量%
ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド 0.40重量%
乳酸 0.20重量%
グリセリン 10.00重量%
イオン交換水 76.10重量%
上記モノオレイン酸デカグリセリル、グリセリン、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌してA液を作成する。80℃に加熱したモノオレイン酸デカグリセリル、グリセリンとイオン交換水をホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理したあと、さらに高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら3パス処理し橙色エマルションインキを作製した。
【0026】
実施例6
スピロンイエローC−GNH 2.86重量%
スピロンレッドC−BH 1.29重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 5.85重量%
トリステアリン酸デカグリセリル(HLB=7.5) 0.50重量%
ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド 1.00重量%
乳酸 0.50重量%
グリセリン 10.00重量%
イオン交換水 78.50重量%
上記グリセリン、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌してA液を作成する。80℃に加熱したグリセリンとイオン交換水をホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理したあと、さらに高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら3パス処理し橙色エマルションインキを作製した。
【0027】
比較例1
スピロンバイオレットC−RH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 4.85重量%
スピロンイエローC−GNH(着色剤:保土ヶ谷化学工業(株)製) 3.30重量%
ベンジルアルコール 11.85重量%
ペンタステアリン酸デカグリセリル(HLB=3.5) 12.00重量%
ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド 2.40重量%
PVP K−90(ポリビニルピロリドン:ISPジャパン(株)製) 0.70重量%
エチレングリコールモノフェニルエーテル 64.90重量%
上記成分を80℃3時間加熱撹拌し染料を溶解して黒色油性インキを作製した。
【0028】
比較例2
実施例2においてステアリン酸ジエチルアミノエチルアミドの全量をベンジルアルコールに置き換えた以外は実施例2と同様にして赤色エマルションインキを作製した。
【0029】
比較例3
実施例3においてペンタステアリン酸デカグリセリルをモノオレイン酸デカグリセリル(HLB=12.0)に置き換えた以外は実施例3と同様にして青色エマルションインキを作製した。
【0030】
比較例4
実施例2においてクエン酸の全量をベンジルアルコールに置き換えた以外は実施例2と同様にして赤色エマルションインキを作製した。
【0031】
比較例5
ウォーター レッド 2(C.I.アシッド レッド87、オリエント化学工業(株)製) 4.0重量%
ケルザン AR 0.2重量%
エチレングリコール 10.0重量%
トリエタノールアミン 0.1重量%
イオン交換水 85.7重量%
上記成分中、ケルザンARと水とをラボミキサーにて30分間攪拌して均一に溶解しケルザン水溶液を調整した。これに残りの各成分を加えて、更に2時間混合攪拌して黒色染料水性インキを作製した。
【0032】
比較例6
スピロンイエローC−GNH 2.86重量%
スピロンレッドC−BH 1.29重量%
フタル酸ジオクチル 3.63重量%
リン酸トリオクチル 0.70重量%
ポリn−ブチルメタクリレート 0.20重量%
ジオクチルスルホコハク酸(乳化分散剤) 0.50重量%
ジエチレングリコール 11.00重量%
尿素(乾燥防止剤) 5.00重量%
グリセリン(溶剤) 5.00重量%
サーフィノール465(アセチレン系界面活性剤、浸透剤、日信化学工業(株)製)
0.50重量%
トリエタノールアミン 0.80重量%
イオン交換水 68.52重量%
上記ジエチレングリコール、尿素、グリセリン、サーフィノール465、トリエタノールアミン、イオン交換水以外の成分を80℃3時間加熱撹拌してA液を作成する。80℃に加熱したジエチレングリコール、尿素、グリセリン、サーフィノール465、トリエタノールアミン、イオン交換水をホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理したあと、さらに高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら3パス処理し橙色エマルションインキを作製した。
【0033】
比較例7
スピロンイエローC−GNH 2.86重量%
スピロンレッドC−BH 1.29重量%
ジプロピレングリコールジベンゾエート 15.00重量%
ニカノールHP120(キシレン樹脂、保土谷化学工業(株)製) 2.00重量%
グリセリン 10.00重量%
POE(10)ジスチレン化フェニルエーテル(乳化剤、HLB14) 0.50重量%
POE(80)ジスチレン化フェニルエーテル(乳化剤、HLB19) 9.00重量%
ケルザンAR(キサンタンガム、増粘剤、三晶(株)製) 0.40重量%
イオン交換水 58.95重量%
上記成分中、スピロンイエローC−GNH、スピロンレッドC−BH、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ニカノールHP120を混合して均一に溶解しA液とする。次いで、残りの成分をラボミキサーにて30分間攪拌して均一に溶解した液を80℃に加熱しホモジナイザーで撹拌しながらA液を滴下し5分間処理した後さらに高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら3パス処理し橙色エマルジョンインキを作製した。
【0034】
粒子径測定
粒子径は(株)島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−7100を用いてエマルションインキである実施例1〜11と比較例2〜3の粒度分布を20℃で測定しメディアン径を平均粒子径として採用した。
【0035】
50℃耐熱経時後粒子径測定
エマルションインキである実施例1〜11と比較例2〜3のインキ10gを、フタ付きねじ口ガラス瓶(19×70mm、日電理化硝子(株)製)に入れ、50℃に24時間置いた後に20℃で5時間放置した後に、粒子径測定と同様にして経時後粒子径を測定した。
【0036】
試験サンプルの作成
上記実施例1〜6及び比較例1〜7で得た各ボールペン用インキ組成物を、直径0.5mmの超硬製のボール抱持したボールペンペン先をもつノック式ボールペン(ノック式エナージェル、製品符号BLN75、ぺんてる(株)製)のインキ収容管に1.7g充填し、試験用ボールペンサンプルとした。
【0037】
筆跡耐水性試験
各ボールペン試験サンプルでJIS P3201筆記用紙Aに手書きで直径約2cmの連続した丸15個を2回筆記し、1時間放置した後、イオン交換水中に1時間浸漬する。その後、水中から取り出して退色の度合いをグレースケール(JIS L−0804)で判定した。グレースケールは1〜5号まであり、数字が大きい程、試験前後の筆跡の濃度差が小さく、耐水性を有することを示す。
【0038】
筆跡の裏写り
各ボールペン試験サンプルでJIS P3201筆記用紙Aに手書きで直径約2cmの連続した丸15個を2回筆記し、30℃,60%RHの環境下に1日放置した後、筆記裏面を観察した。
全くインキの滲み出しのなかったものを …… ◎
わずかな滲み出ししかなかったものを …… ○
明らかに滲み出しがあったものを …… ×
とした。
各試験の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
HLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数3〜6の有機酸でエマルション化した実施例1〜6については50℃熱掛け経時してもエマルションの粒子径の変化は僅かであり安定したエマルジョンと言える。また、耐水性も良く筆跡の裏移りも無い優れたインキとなっている。
それに比べ、アミド化合物の無い比較例2やHLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとアミド化合物の無い比較例3では50℃熱掛け試験でエマルションが壊れて油相成分と水が分離している。
また、エマルション化していない単なる油性インキである比較例1ではインキが紙の奥まで浸透するため筆跡の裏移りが起こる。比較例5は逆に油相成分が無い通常の水性インキであるがこの場合、水溶性の染料であるため耐水性が非常に悪い結果となっている。
さらに、陰イオン系の界面活性剤でエマルション化した比較例6や高HLBの非イオン系界面活性剤でエマルション化した比較例7では耐水性が悪い結果となっている。
【0041】
以上、詳細に説明したように本発明のO/W型エマルションインキ組成物は加熱冷却のサイクルや50℃の加熱でも粒径の変化が少なく温度安定性に優れることから長期の常温経時安定性もよく、筆跡の裏写り耐水性にも優れた性能を持つ書き味の良好なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤としての油溶性染料と、該染料を溶解する有機溶剤とからなる油性成分を、HLBが8以下のポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数8以上の脂肪酸ジメチルアミノプロピルアミド及び/又は脂肪酸ジエチルアミノエチルアミドと、炭素数3〜6の有機酸で水中に乳化分散したボールペン用O/W型エマルションインキ組成物。

【公開番号】特開2012−31230(P2012−31230A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169450(P2010−169450)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】