説明

ポインティングシステム

【課題】表示遅延およびポインティングの精度と操作性を解決するポインティングシステムを提供する。
【解決手段】ポインティングシステム1は、対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示部230と、対象空間の撮影映像を表示した画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示部子機250および赤外LED240と、目標座標に対し、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング部140と、指示の結果として対象空間内に生じる視覚的変化を抑制した映像を画面上に表示させる制御部110、210と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポインティングシステムに関し、特に、対象空間の撮影映像を表示した画面上で、目標座標を指示し、指示に呼応して対象空間内の対応する位置をポインティングするポインティングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の遠隔地を、双方向のビデオ映像および音声によりネットワークを介して結び、物理的に離れたメンバ間の意思疎通を支援するビデオ会議システムは、デジタル圧縮技術およびディスプレイ技術の発展に伴い、高品質化、大画面化が進んでいる。
【0003】
特にテレプレゼンスシステムと呼ばれるビデオ会議システムでは、遠隔地の会議参加者が等身大に表示されることなどにより臨場感が演出されており、その人があたかも同じ空間に居るように感じることができる。
【0004】
なお、多くのテレビ会議システムでは、プレゼンテーション資料等を表示した画面を共有する機能、および拠点ごとに独立のマウスポインタを共有画面上に色などで区別して表示する機能が準備されている。これにより参加者は共有画面上のデータ等を指し示して(ポインティング)参照しながら、効率的に議論を行うことができる。
【0005】
しかしながら、上記機能で参照可能なのはプレゼンテーション資料などの電子データのみであり、遠隔地の実物体を参照することはできない。したがって、ブレインストーミングなど事前に資料が準備されず、その場でホワイトボードや付箋紙などに情報が記載されていく形態の会議や、モックアップなどの物理的なモデルを囲んだ会議において遠隔地の物体を参照したい場合には、通常、遠隔地の人に言葉などで説明をして、代理で指してもらうなどの煩雑な手続きが必要となるという問題点があった。
【0006】
このような問題点を解決する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1のテレビ会議装置は、遠隔地の映像が画面上に表示され、利用者はタッチパネルなどを用いて画像の一部を指し示すことができる。すると、遠隔地に設置(たとえば、映像を撮影するカメラと一体化して設置)された光ビーム装置のビーム照射方向が、タッチパネルで指し示された座標を元に、モーターなどを利用して制御される。この結果、光ビームがタッチパネルで指示された場所に照射され、遠隔地の人は、指し示された場所が認識できる。
【0007】
なお、特許文献2では、類似した技術ではあるが、光ビームを照射する代わりに、ビデオプロジェクタを用いてポインタを投影する方法も開示されている。
【0008】
しかしながら、上記技術においては、利用者がタッチパネルなどを用いて画像の一部を指し示してから、その情報が遠隔地に伝わり、光ビーム装置などの指示装置が対応する場所を指し示すまでの遅延、さらには光ビームなどのポインタが照射された映像が遠隔地より逆方向に伝わり、画面表示上で利用者にフィードバックされるまでの遅延に関する考察がなされていない。
【0009】
遠隔地の単一の点を指定する場合においては、上記従来技術を用いても大きな問題は生じない。しかしながら、差し棒などの指示器の利用経験から多くの人が知るように、人は、指示器を利用して、単一の点を指定する以外にも、領域を囲む(円形を描く)、方向を示す、形状や文字を描くといったより複雑なジェスチャを行うことが多い。
【0010】
このようにある程度の時間をかけて軌跡を描くポインティング操作を行う際、利用者の操作に対する視覚的フィードバックが遅延すると、意図した操作を完了するまでの総時間が増加し、更には指示位置や形状の精度が低下することが知られている。
【0011】
たとえば、非特許文献1に示されるように、マウスとカーソルを用いてターゲット領域をポインティングする操作において、利用者がマウスを動かしてから、それに応じたカーソル表示の変化に遅れがある場合、ターゲット領域内にカーソルを移動するまでの時間、および精度が遅延と共に増加する実験結果が開示されている。
【0012】
たとえば、非特許文献1の図1の表に示されるように、遅延が225ミリ秒(ms)の場合は、遅延が無視できるほど小さい(8.5ms)の場合と比べ、ターゲット領域内にカーソルを移動するまでの時間が平均60%増加し、操作のエラー率が平均214%増加するという結果が報告されている。
【0013】
ちなみに、225ms程度の遅延は遠隔地値のビデオ会議システムにおいては珍しくない値である。一般的に、遠隔地への情報伝達に伴う遅延は、入力サンプリング遅延、伝搬遅延、伝送遅延、出力サンプリング遅延、およびソフトウェアオーバヘッドに大別される。
【0014】
入力サンプリング遅延は、利用者がタッチパネルなどに触れてから、システムが座標を読み取るまでの遅延で、たとえば、100Hzでサンプリング行う場合、最大10ms、平均して5msの遅延が生じる。
【0015】
伝搬遅延は、座標情報が伝送媒体を伝搬するのにかかる遅延で、距離を伝搬速度で割った値となる。伝送遅延は、座標情報を含むネットワークパケットの先頭が到着してから、パケット全体の受信が完了するまでの時間で、パケット全体をメモリ上に一旦読み込んだ上で処理を行う一般的なストアアンドフォワード型の処理装置で発生する遅延である。これはパケット長を伝送ビットレートで割った値となる。
【0016】
出力サンプリング遅延は、出力バッファに保存された座標情報を出力装置(たとえば、光ビーム装置)が読み取るまでの遅延で、たとえば、100Hzでサンプリング行う場合、最大10ms、平均して5msの遅延が生じる。ソフトウェアオーバヘッドは、座標情報をネットワークパケットにコーディング・デコーディングする際などに生じる各種処理遅延である。
【0017】
なお、上記光ビームの像を撮影し視覚的フィードバックを行う場合は、遠隔地で撮影された映像が再度ネットワークを伝達して表示されるため、上記の遅延が2回ずつ発生することなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平5−204534号公報
【特許文献2】特開2003−209832号公報
【特許文献3】特許第3422383号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】アイ・スコット・マッケンジー(I. Scott MacKenzie)、コリン・ウェア(Colin Ware)著、「ラグ・アズ・ア・デターミナント・オブ・ヒューマン・パフォーマンス・イン・インタラクティブ・システムズ(Lag as a Determinant of Human Performance in Interactive Systems)」、コンファランス・オン・ヒューマンファクターズ・イン・コンピューティング・システムズ(Conference on Human factors in computing systems)、1993年、p.488−493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
たとえば、伝搬遅延だけを考慮しても、地球の裏側(距離=約2万キロメートル)から情報を折り返し伝達するには光信号(速度=毎秒3×10の8乗メートル)でも、片道約66msの遅延(2E7÷3E8秒)、折り返しで約130msの遅延が発生するため、その他の遅延も含めると数百msの全遅延が発生することが頻繁にある。このような遅延を伴う状況下にて上述した文献記載の技術を利用すると、ポインティングに要する時間やポインティング精度の劣化が発生し、遠隔地間での意思疎通が阻害されるという問題点があった。
【0021】
このような問題が発生する理由は、上記文献記載の技術では、遠隔地にて撮影されたポインタの像を、ポインティング操作に対する利用者への視覚的フィードバックとして利用しているためである。この様子を模式的に図22に示す。同図(a)の通り、上記文献記載の技術では、利用者が画面20上で実際に指し示している位置21では無く、軌跡上の過去に指し示した位置に、レーザポインタなどの像23が映像の一部として画面20上に表示される。このため、遅延の増加に伴い、実際に指し示している位置21と視覚的フィードバックの乖離が著しく、操作に手間取ることになる。
【0022】
なお、一部のシステムにおいてはマウスポインタ31などのローカルポインタを、遠隔地にて撮影されたポインタの像とは別に画面20上に表示して操作者に提供するシステムもあるが、この場合、同図(b)の通り、マウスポインタ31に加えてレーザポインタなどの像23と、視覚的フィードバックが二重になされるため、利用者の混乱の結果、やはりポインティングに要する時間やポインティング精度の劣化してしまう。
【0023】
本発明の目的は、上述した課題である表示遅延およびポインティングの精度と操作性を解決するポインティングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のポインティングシステムは、対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手段と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手段と、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング手段と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、
を備える。
【0025】
本発明の第1の処理装置は、対象空間の撮影映像を表示した画面上にて指示される目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング手段と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、を備える。
【0026】
本発明の第2の処理装置は、対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手段と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手段と、
前記指示の結果として、前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に発生させる視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、を備える。
【0027】
本発明の処理装置のデータ処理方法は、対象空間の撮影映像を画面上に表示し、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付け、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる。
【0028】
本発明のコンピュータプログラムは、処理装置を実現するためのコンピュータプログラムであって、
対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手順と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手順と、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる発生手順と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手順と、をコンピュータに実行させるためのものである。
【0029】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0030】
また、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0031】
また、本発明のデータ処理方法およびコンピュータプログラムには複数の手順を順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の手順を実行する順番を限定するものではない。このため、本発明のデータ処理方法およびコンピュータプログラムを実施するときには、その複数の手順の順番は内容的に支障しない範囲で変更することができる。
【0032】
さらに、本発明のデータ処理方法およびコンピュータプログラムの複数の手順は個々に相違するタイミングで実行されることに限定されない。このため、ある手順の実行中に他の手順が発生すること、ある手順の実行タイミングと他の手順の実行タイミングとの一部ないし全部が重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、表示遅延およびポインティングの精度と操作性を解決するポインティングシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係るポインティングシステムの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るポインティングシステムの空間ポインティング部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】図2の空間ポインティング部のガルバノスキャナの詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るポインティングシステムの指示部子機の詳細な構成を示すブロック図である。
【図5】本実施形態の撮影部の動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態の第1処理装置の制御部が送信する制御信号を示す図である。
【図7】本実施形態のポインティングシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態のポインティングシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態の空間ポインティング部の制御回路の動作を表す状態遷移図である。
【図10】本実施形態の第1処理装置の各構成要素の動作のタイミングを示すタイミングチャートである。
【図11】本実施形態の空間ポインティング部が生じる視覚的変化と撮影部により撮影される映像の一例を示す図である。
【図12】本実施の形態のポインティングシステムの各ユニットの動作の一例を説明するための図である。
【図13】本実施形態の撮影部で撮影された映像と、表示部で表示される画面の一例を示す図である。
【図14】本実施形態の指示部で円状の軌跡を描いたときに表示部で表示される画面の一例を示す図である。
【図15】本実施形態の指示部を水平に一定速度で移動させたときに表示部で表示される画面の一例を示す図である。
【図16】本実施形態の空間ポインティング部の制御回路の動作を表す状態遷移図である。
【図17】本実施形態の第1処理装置の各構成要素の動作のタイミングを示すタイミングチャートである。
【図18】本実施の形態の撮影部で撮影される2種類の映像と、それらを合成して得られる第3の映像の一例を示す図である。
【図19】本実施の形態の指示部で円状の軌跡を描いたときに表示部で表示される画面の一例を示す図である。
【図20】本実施の形態の制御部で画素の色情報が置き換えられる領域を表す図である。
【図21】本実施の形態の制御部で画素の色情報が置き換えられる領域を自動的に算出する方法を説明するための図である。
【図22】文献記載の技術の遠隔ポインティングシステムにおける画面表示の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態に係るポインティングシステム1の構成を示す機能ブロック図である。
同図に示すように、ポインティングシステム1は、第1処理装置100と、第2処理装置200と、を備え、第1処理装置100および第2処理装置200はLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネットなどのネットワーク3を介して互いに接続される。各装置とネットワーク3の接続は、無線でも有線でもよい。
【0037】
本実施形態のポインティングシステム1において、第1処理装置100と第2処理装置200は、たとえば、離れた場所にそれぞれ設置することができる。特に限定しないが、設置場所は、同じ部屋の離れた場所、異なる部屋、異なるフロア、異なる建物、または異なる地域などとすることができる。
【0038】
第1処理装置100は、制御部110と、空間ポインティング部140と、撮影部142と、を備えている。また、第2処理装置200は、制御部210と、表示部230と、指示部子機250と、指示部親機280と、を備えている。第2処理装置200の制御部210と第1処理装置100の制御部110は、ネットワーク3を介して接続される。制御部210および制御部110とネットワーク3との接続は、有線または無線のいずれでもよい。
【0039】
第2処理装置200は、第1処理装置100で撮影された遠隔の対象空間の映像を画面に表示してユーザBに提示するとともに、指示部子機250を用いたユーザBによる対象空間の映像画面への指示を受け付ける。第1処理装置100は、対象空間の映像を撮像して第2処理装置200に送信するとともに、ユーザAが見ている対象空間に対し、ユーザBによる指示位置に視覚的変化を発生させる。
【0040】
すなわち、本実施形態のポインティングシステム1は、たとえば、電子会議などで、ユーザAがホワイトボード132などの前に居る状況で、対象空間内のホワイトボード132などを撮影した映像を、ネットワーク3を介して送信し、ユーザBが見る表示部230の画面上に映像を表示する。
そして、ユーザBが表示部230に表示された撮影映像の画面上で所望の位置をポイントすると、その情報がユーザA側に送信され、空間ポインティング部140が、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、たとえば、光ビーム170によるポインタ172をホワイトボード132に照射する。これにより、ユーザAにユーザBが指示した位置を伝達することができる。
【0041】
ポインティングシステム1の各構成要素は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウェアとソフトウェアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。以下説明する各図は、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0042】
第1処理装置100および第2処理装置200は、たとえば、図示しないCPU(Central Processing Unit)やメモリ、ハードディスク、および通信用ネットワークインターフェースを備え、キーボードやマウス等の入力装置やディスプレイやプリンタ等の出力装置と接続されるサーバコンピュータやパーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)、またはそれらに相当する装置により実現することができる。そして、CPUが、ハードディスクに記憶されるプログラムをメモリに読み出して汎用のオペレーティングシステムで実行することにより、上記各ユニットの各機能を実現することができる。なお、以下の各図において、本発明の本質に関わらない部分の構成については省略してあり、図示されていない。
【0043】
本実施形態のポインティングシステム1は、対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示部230と、対象空間の撮影映像を表示した画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付部(指示部子機250、指示部親機280、赤外LED(Light Emitting Diode)240a〜d)と、目標座標に対し、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング部140と、指示の結果として対象空間内に生じる視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる制御部(110、210)と、を備える。
【0044】
また、本実施形態のポインティングシステムは、対象空間を撮影する撮影部142をさらに備え、制御部(110、210)は、視覚的変化が生じる時間間隔と視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、空間ポインティング部140に、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、空間ポインティング部140が視覚的変化を発生させない時間間隔に、撮影部142に対象空間を繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される視覚的変化を抑制した映像を生成し、生成された視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる。
【0045】
以下、本実施形態のポインティングシステム1の各構成要素について、詳細に説明する。
はじめに、対象空間に遠隔から指示された位置に視覚的変化を発生させる第1処理装置100について説明する。
第1処理装置100において、撮影部142は、ポインティング対象となる物体が設置された空間の映像を撮影する(ここでは、ポインティング対象として文字の描かれたホワイトボード132の例を図示している)。撮影部142により撮影を行う時間間隔は、制御部110より入力される制御信号により制御される。撮影部142には、たとえば、一般的に入手可能IEEE1394カメラなどが使用できる。
【0046】
制御部110は、撮影部142および空間ポインティング部140に接続されており、撮影部142からの撮影映像の読み出すとともに、空間ポインティング部140へのポインティング指示などを行う。また、制御部210と制御部110は、互いにネットワーク3を介して映像情報や映像内座標情報などのやりとりを行う。
【0047】
空間ポインティング部140は、通常、撮影部142と一体化されて設置される装置で、光ビーム170を対象空間に照射することにより、空間内の特定位置に視覚的変化を生じさせる。図1では、視覚的変化領域としてポインタ172が示されている。この視覚的変化により、ユーザAにポインティング指示を提示できる。
【0048】
空間ポインティング部140により光ビーム170の照射を行う時間間隔は制御部110により制御される。空間ポインティング部140としては光ビーム170のオンオフと照射方向が制御可能な赤色レーザポインタが利用できる。
【0049】
図2は、空間ポインティング部140の構成例を示すブロック図である。同図を参照すると、空間ポインティング部140は、レーザ148と、2組のガルバノスキャナ152a、b(以下、特に区別が不要な場合は、「ガルバノスキャナ152」と呼ぶ)と、ミラー150a、b(以下、特に区別が不要な場合は、「ミラー150」と呼ぶ)と、制御回路146とを有する。レーザ148は、指向性を有する光ビーム170を発生するために使用し、一般的に市販されているクラス2のレーザポインタが利用できる。
【0050】
ガルバノスキャナ152は、流す電流の量に応じて、取り付けられたミラー150の方向を高速に制御するデバイスで、図3のような構造を有する。コイル164に電流を流すと磁性体166を介して磁場が発生し、磁石162に対し磁力を発生する。磁石162はこの磁力がバネ160の応力と釣り合うまで回転する。そして、磁石162の回転に伴いそれに取り付けられたミラー150の角度が変化する。
【0051】
このようなガルバノスキャナ152はレーザプロジェクタなど、光ビーム170を偏向して映像を生成する装置にて一般的に使用されているもので、専門のメーカから既製品を入手することも可能である。図2に戻り、制御回路146は、図1の制御部110から接続ケーブルを介して受け取る偏向角度情報を元にガルバノスキャナ152に流れる電流を調整し、光ビーム170の方向を制御する。制御回路146としては、一般的なマイコンとドライバ回路を組み合わせて使用できる。
【0052】
次に、図1に戻り、遠隔の対象空間の映像を画面表示し、ユーザBによる指示を受け付け対象空間に伝達する第2処理装置200について説明する。
第2処理装置200において、制御部210は、表示部230および指示部親機280に接続されており、表示部230への映像の表示制御や指示器からの映像内座標の読み出しなどを行う。
【0053】
表示部230は、たとえば、液晶ディスプレイ、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイ、プラズマディスプレイなどである。表示部230の画面には、撮影部142により撮影された対象空間、ここでは、ホワイトボードの映像232が表示される。表示部230の画面の四隅には、4つの赤外LED240が配置されている。なお、図1では、4つの赤外LED240は、符号240a、240b、240c、240dでそれぞれ示している。以下、特に、4つ赤外LED240を区別する必要がない場合は、「赤外LED240」と呼ぶものとする。
【0054】
また、第2処理装置200は、ユーザBが、表示部230に表示された映像の特定の位置(映像内座標)を指し示すために使用する指示器として、指示部子機250および指示部親機280を含む。指示部子機250は、ユーザBが表示部230に表示された対象空間の映像に対して指示をするものであり、第2処理装置200において、表示部230のホワイトボードの映像232上に指示部子機250によって指示された位置に、カーソル242が表示されるようになっている。指示部親機280は、指示部子機250によって指示された位置を第1処理装置100に伝達する。
【0055】
図4は、指示部の一部である指示部子機250の構成例を示すブロック図である。同図を参照すると、指示部子機250は、カメラモジュール252と、スイッチ254と、演算回路256と、無線モジュール258と、有する。
【0056】
カメラモジュール252は、赤外領域で感度を有するデバイスで、図1の表示部230の四隅に配置される赤外LED(赤外LED240a〜d)を撮影し、それらの位置を特定する。カメラモジュールとしては、電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)イメージセンサや相補性金属酸化膜半導体(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの半導体イメージセンサを搭載したカメラに可視光カットフィルタを取り付けたものが使用できる。
【0057】
スイッチ254は、ユーザBがポインティングを行いたい時に押下するもので、特に限定されないが、たとえば、一般的なプッシュスイッチが使用できる。演算回路256は、カメラモジュール252により撮影された赤外LED240a〜dの位置を元に指示部子機250の指し示す方向と表示部230の画面の交点、すなわち、映像画面上での座標(X,Y)を算出する。さらに、演算回路256はスイッチ254の押下状態の変化(ボタンイベント)も検出し、指示部親機280に受け渡す。演算回路256としては、一般的なマイコンが使用できる。
【0058】
無線モジュール258は、演算回路256より算出された映像内座標およびボタンイベントを、無線リンクを介して指示部親機280に送信する。無線モジュール258としては、たとえば、ブルートゥース(Bluetooth)などの無線規格に準ずる無線トランシーバが使用できる。指示部親機280と制御部210の間の接続は、特に限定されず、汎用のインタフェースを用いることができ、たとえば、USB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、または、RS232C等でもよい。
【0059】
図1に戻り、制御部210は、指示部親機280から受け取った映像内座標(X,Y)とボタンイベントに基づいて、表示部230の画面上のカーソル242表示を更新するとともに、同情報をネットワークパケットに内包して、ネットワーク3を介し制御部110に送信する。制御部110に送信されるボタンイベントは、前述した対象空間内への指示位置に発生させる視覚的変化の制御、すなわち、光ビーム170のオン/オフ制御の指示となる。ボタンイベントには、たとえば、スイッチ254が押し下げられた状態に遷移したことを表すボタンダウンイベントと、スイッチ254が押し下げられた状態から離された状態に遷移したこと表すボタンアップイベントと、を含むことができる。
【0060】
以上のように構成された本実施の形態の第1処理装置100および第2処理装置200は、コンピュータプログラムに対応する各種の処理動作を、各制御回路等に組み込まれているCPUが実行することにより、前述のような各種ユニットや回路が各種機能として実現される。
【0061】
本実施形態のコンピュータプログラムは、第1処理装置100および第2処理装置200を実現させるためのコンピュータに、対象空間の撮影映像を表示部230の画面上に表示する表示手順と、対象空間の撮影映像を表示した画面上にて目標座標の指示を指示部子機250から受け付ける指示受付手順と、目標座標に対し、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を空間ポインティング部140に発生させる発生手順と、指示の結果として対象空間内に生じる視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる制御手順と、を実行させるように記述されている。
【0062】
本実施形態のコンピュータプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。記録媒体は特に限定されず、様々な形態のものが考えられる。また、プログラムは、記録媒体からコンピュータのメモリにロードされてもよいし、ネットワークを通じてコンピュータにダウンロードされ、メモリにロードされてもよい。
【0063】
このように構成された本実施形態のポインティングシステム1の動作について、以下に説明する。本実施形態の第1処理装置100と第2処理装置200を含むポインティングシステム1の全体の動作を説明する前に、まず、第1処理装置100における撮影部142による対象空間の撮影動作と、空間ポインティング部140による対象空間への視覚的変化の発生動作について詳細に説明する。
以下に示すように、撮影部142と空間ポインティング部140の動作が、制御部110の制御信号により制御され、互いに動作の同期をとることにより、第1処理装置100の対象空間に表示されたポインタ172を撮影した映像内の視覚的変化、すなわち、光ビーム170によるポインタ172の映像を抑制して第2処理装置200に送信できることとなる。
【0064】
はじめに、本実施形態の第1処理装置100における撮影部142の動作について、説明する。
図5は、本実施形態の撮影部142の動作の一例を示すフローチャートである。
【0065】
撮影部142は、ポインティング対象となる物体(この例ではホワイトボード132(図1))が設置された空間の動画映像を撮影する。動画映像の撮影は、カメラのシャッタを開く(ステップS11)、一定時間(露光時間)露光する(ステップS13)、シャッタを閉じる(ステップS15)という一連の動作を高速(たとえば、30Hz)でくり返す(ステップS17のNO、ステップS19)ことにより行われる。本実施の形態で示されるシステムでは、シャッタの開くタイミングおよび閉じるタイミングは制御部110により制御される。
【0066】
たとえば、制御部110は、撮影部142に対し、約33ミリ秒(ms)の繰り返し間隔で、図6に示されるような矩形波状の制御信号を送信し、撮影部142は制御信号がHighの状態においてシャッタを開き、Lowの状態においてシャッタを閉じるように構成されているものとする。すると撮影部142では、制御信号の立ち上がりのタイミングでシャッタが開き、15msの間露光を行って、制御信号の立ち下がりのタイミングでシャッタが閉じることになる。この結果、撮影部142からは、制御部110の制御するタイミングにて、毎秒30フレームの映像(静止画列)が生成されることになる。撮影された映像は随時、撮影部142から制御部110に送られる。
【0067】
なお、ここでは、制御部110が撮影部142を制御する方法として、制御信号がHighの状態においてシャッタを開き、Lowの状態においてシャッタを閉じるように構成された例を示したが、制御信号の立ち上がりのタイミングでシャッタが開いた後、撮影部142に内蔵されたクロックがあらかじめ定められた一定カウント経過後にシャッタを閉じるような制御方法なども考えられる。なお、このような制御はIEEE1394カメラなどのシャッタ制御方法として一般的に知られている内容であるので詳細な説明は省略する。
【0068】
次に、本実施形態の第1処理装置100の空間ポインティング部140の動作について説明する。
以下、本実施形態の第1処理装置100の空間ポインティング部140におけるレーザ制御処理について、具体的なレーザ出力の制御方法の一例を、図9および図10を用いて説明する。図9は、指示部子機250による指示に応じた空間ポインティング部140の制御回路146の状態遷移図である。図10は、制御部110が撮影部142および空間ポインティング部140に送信する制御信号と、撮影部142のシャッタの開閉状態および空間ポインティング部140のレーザのオンオフ状態の関係を表すタイミングチャートである。
【0069】
初期状態S21にある空間ポインティング部140の制御回路146(図2)は制御部110よりボタンダウンイベントを受信する(S31)と、レーザ出力がオフの待機状態S23に遷移する。待機状態S23において、制御部110より受信している制御信号の立ち下がりを検出すると(S33)、制御回路146はレーザオン状態S25に遷移し、レーザ出力を開始する(図10のボタンダウン以降参照)。同時にレーザオン状態S25の持続時間の計測も行い、レーザオン状態S25が所定の時間に達した場合(この例では15ms)(S35)、レーザ出力を停止して、再び待機状態S23に遷移する。これを制御信号の繰り返し周波数(約30Hz)にて繰り返す。
【0070】
ボタンダウンイベント受信から待機状態S23およびレーザオン状態S25において、空間ポインティング部140の制御回路146(図2)は、制御部110から受け取った偏向角度に応じてガルバノスキャナ152(図2)のコイル164(図3)に電流を流し、ミラー150(図2)の角度を調整する。なお、ここで水平方向の偏向ではガルバノスキャナ152aが、垂直方向の偏向ではガルバノスキャナ152bが、互いとは独立に制御される。また、この制御は通常、映像内座標(Xi,Yi)がサンプリングされる間隔(この例では10Hz、すなわち100ms)と比べ、はるか短い時間内に行われる。なお、i(ただし、i=1,2,3,・・・)は制御部110の制御周期毎の値であることを示している。
【0071】
レーザオン状態S25もしくは待機状態S23にて制御部110よりボタンアップイベントを受信した場合(S39またはS37)(レーザ出力がオンの場合は出力を停止し)、初期状態S21に遷移する。なお、初期状態S21においては制御信号の立ち下がりを検出してもレーザ出力はオフのままである(図10のボタンアップ以降参照)。
【0072】
このようにして、待機状態S23とレーザオン状態S25を制御信号に従って遷移を繰り返す間、恒常的にレーザ出力がオンされるのではなく、オンオフを繰り返すパルス状の光を発生させる制御を行うことができる。このオンオフ制御は、撮影部142と時間的に同期して制御される。
【0073】
すなわち、撮影部142は、前記の制御の通り、制御信号の立ち上がりでシャッタが開き、その後15ms間露光を行う動作をしているものとする。このような制御の結果、図10で示される通り、撮影部142のシャッタの開いている時間間隔とレーザ出力がオンである時間間隔は交互に、相補的に発生することになる。
【0074】
このようにして撮影部142により撮影される映像のフレームはたとえば、図11(b)のようなものとなる。すなわち、図11(a)に示すような実際の空間の状態から、空間ポインティング部140(図1)が生じる視覚的変化(この例では、光ビームの像182)を取り除いた、図11(b)に示す映像が撮影部142(図1)により撮影される。一方で、この例の30Hzのように制御信号の繰り返し周波数が充分早い場合は、残像現象により、撮影対象の空間に居る人(たとえば、ユーザA)から見てレーザの光ビームの像182はほぼ恒常的に点灯しているように見える。
【0075】
このようにして、第1処理装置100において、撮影部142と空間ポインティング部140の光ビーム170の動作を上記説明したように制御することで、対象空間内に生じる視覚的変化を抑制した映像を第2処理装置200に送信できることとなる。すなわち、本実施形態のポインティングシステム1では、制御部110と制御部210が、視覚的変化が生じる時間間隔と視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、空間ポインティング部140に、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、空間ポインティング部140が視覚的変化を発生させない時間間隔に、撮影部142に対象空間を繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される視覚的変化を抑制した映像を生成し、生成された視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させることができる。
【0076】
次に、本実施の形態のポインティングシステム1における第1処理装置100および第2処理装置200によるデータ処理方法を以下に説明する。図7および図8は、本実施形態のポインティングシステム1全体の動作の一例を示すフローチャートである。なお、第2処理装置200については、制御部210と指示部子機250に分けて処理を説明する。以下、図1、図4、図7、および図8を用いて説明する。
【0077】
本実施形態のデータ処理方法は、対象空間の撮影映像を表示部230の画面上に表示し(図7のステップS205)、対象空間の撮影映像を表示した画面上にて目標座標の指示を受け付け(図7のステップS301のYES)、目標座標に対し、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ(図8のステップS115)、指示の結果として対象空間内に生じる視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる(図7のステップS205)。
【0078】
図7および図8のフローチャートは、一連の処理が終了した後、先頭のステップに戻り、同じ処理を繰り返すものとする。ユーザからの開始指示または終了指示(スイッチの押下など)を受け付けた時に、処理が開始または終了するものとする。
【0079】
図7に示すように、第1処理装置100において、撮影部142(図1)で撮影され(図7のステップS101)、制御部110(図1)に送られた映像は、適当なエンコーダ(不図示)(たとえば、H.264規格)により圧縮符号化され(図7のステップS103)、ネットワーク3(図1)を介して制御部210(図1)に送信される(図7のステップS105)。
【0080】
第2処理装置200では、制御部210(図1)が圧縮映像を受信し(図7のステップS201のYES)、受信した圧縮映像を対応するデコーダ(不図示)で復号し(図7のステップS203)、表示部230(図1)に表示し(図7のステップS205)、ステップS207に進む。なお、ステップS201で、映像を受信しない場合は(図7のステップS201のNO)、ステップS203およびステップS205をバイパスしてステップS207に進む。
【0081】
ユーザB(図1)が表示部230に表示されたホワイトボードの映像232(図1)を見て、ホワイトボード上の特定の場所をポインティングする意図を持ったとする。この場合、ユーザBは指示部子機250(図1)のスイッチ254(図4)を押し、指示部子機250で画面を指さすような仕草をする。すると、指示部子機250の演算回路256がスイッチ254のオンを受け付け(図7のステップS301のYES)、指示部子機250に内蔵されたカメラモジュール252(図4)では、赤外LED240a〜d(図1)を含む像が撮影される(図7のステップS303)。一方、ステップS301で、スイッチ254の押下が検出されない場合は(図7のステップS301のNO)、ステップS309に進む。
【0082】
ステップS303で得られた情報を基に指示部子機250の演算回路256(図4)は、指示部子機250が指し示している、映像画面上での座標(X,Y)を算出する(図7のステップS305)。カメラモジュール252で撮影された赤外LED240a〜dの映像上の座標をそれぞれ、(Xa,Ya)、(Xb,Yb)、(Xc,Yc)、(Xd,Yd)とすると、指示部子機250が指し示している、映像画面上での座標(X,Y)は以下の式(1)および式(2)より与えられる。
【0083】
X=K1[{Ya−Xa(Ya―Yd)/(Xa−Xd)−Yb+Xb(Yb−Yc)/(Xb−Xc)}/{(Yb−Yc)/(Xb−Xc)−(Ya−Yd)/(Xa−Xd)}] ・・・式(1)
Y=K2{X(Ya−Yd)/(Xa−Yd)+Ya−Xa(Ya−Yd)/(Xa−Xd)} ・・・式(2)
【0084】
ただし、ここでK1およびK2は、カメラモジュール252の画角と画素数および赤外LED240a〜dの配置間隔により決まる定数で、キャリブレーションを行うことにより求まる。なお、ここで述べた映像画面上での座標の求め方については、特許文献3(特許第3422383号公報)などに記載されているので詳細は省略する。
【0085】
上記の処理の結果算出された映像画面上での座標(X,Y)は無線モジュール258(図4)、指示部親機280(図1)を介して、制御部210に送られる(図7のステップS307)。このとき、ボタンダウンイベントも送信される。
【0086】
そして、制御部210は、ボタンダウンイベントと座標を受信すると(図7のステップS207のYES)、撮影部142より得られた映像の座標(X,Y)の位置にカーソル242(図1)を表示部230の画面に重畳して表示する(図7のステップS209)。表示するカーソル242は矢印のような抽象的な記号でもよいが、空間ポインティング部140が生じる視覚的変化に近いものであることが望ましい。たとえば、この例であると赤色レーザポインタの照射を連想させるカーソル242が望ましい。
【0087】
ここで、ユーザBが指示部子機250のスイッチ254を押しながら(図8のステップS321のNO)、指示部子機250で円などの軌跡を描くジェスチャを行ったものとする。スイッチ254が押されている間(図8のステップS321のNO)、図7のステップS309に戻り、指示部子機250から制御部210へはこの軌跡を表す、複数の映像内座標(X,Y)が、カメラモジュール252が赤外LED240を撮影する間隔(たとえば、10Hz)で送られる(図7のステップS309、ステップS311、ステップS312)。これら座標を(Xi,Yi)(ただし、i=1,2,3,・・・)と呼ぶことにする。制御部210は映像内座標(Xi,Yi)を受け取ると(図8のステップS213のYES)、逐次、表示部230の画面上のカーソル242の表示位置を更新する(図8のステップS215)。したがって、表示部230画面上では、ユーザBのジェスチャにより描かれる軌跡に沿ってカーソルが移動することになる。
【0088】
そして、スイッチ254が押し下げられた状態から離された場合(図8のステップS321のYES)、スイッチ254が押し下げられた状態から離された状態に遷移したことを表すボタンアップイベントが制御部210に通知される(図8のステップS323)。
上述したように図7のステップS307では、指示部子機250から指示部親機280を介して制御部210へ、映像内座標(Xi,Yi)に加え、スイッチ254が押し下げられた状態に遷移したことを表すボタンダウンイベントが制御部210に通知されるとともに、スイッチ254が押し下げられた状態から離された状態に遷移したことを表すボタンアップイベントが制御部210に通知されるものとする。制御部210はこれらボタンイベントを用いて(図7のステップS207のYES、図8のステップS221のYES)、表示部230画面上へのカーソル242の表示(図7のステップS209)、または消去(図8のステップS223)を制御する。
【0089】
このように、制御部210は、受け取った映像内座標(Xi,Yi)およびボタンイベントを表示部230の画面上のカーソル242表示に反映させると共に、同情報をネットワークパケットに内包して、ネットワーク3を介し制御部110に送信する(図7のステップS211、図8のステップS217、ステップS225)。たとえば、ここで、ネットワーク3にて平均約Tミリ秒(ms)の遅延が発生したものとすると、制御部110は、ユーザBが指示部子機250のスイッチ254を押して表示部230の画面上を指し示してから約T[ms]後にボタンイベントおよび映像内座標(Xi,Yi)を受け取ることになる(図8のステップS111のYES)。
【0090】
第1処理装置100において、制御部110は、制御部210から受け取った映像内座標(Xi,Yi)を空間ポインティング部140のレーザの偏向角度に換算する(図8のステップS113)。空間ポインティング部140が撮影部142に近接しており、カメラとレーザの光軸が一致していると近似できるものとすると、レーザの水平方向の偏向角度αihおよび垂直方向の偏向角度αivは以下の式で求められる。ここで、iは制御部110の制御周期毎の値であることを示している。
【0091】
tanαih=(2Xi/Xnum−1)・tanθh/2 ・・・式(3)
tanαiv=(2Yi/Ynum−1)・tanθv/2 ・・・式(4)
【0092】
ここで、Xnum、Ynumはそれぞれ撮影部142で撮影される映像の水平解像度および垂直解像度、θh、θvはそれぞれ撮影部142の水平画角および垂直画角である。
【0093】
制御部110は算出した偏向角度を空間ポインティング部140の制御回路146に送信し、空間ポインティング部140による光ビーム170の偏向角度を制御するとともに、第2処理装置200から受信したボタンイベントに応じて、光ビーム170のオン/オフを制御する(図8のステップS115)。
【0094】
このようにして、本実施形態のポインティングシステム1では、制御部110と制御部210が、視覚的変化が生じる時間間隔と視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、空間ポインティング部140に、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、空間ポインティング部140が視覚的変化を発生させない時間間隔に、撮影部142に対象空間を繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される視覚的変化を抑制した映像を生成し、生成された視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させることができる。
【0095】
以下に、上述したポインティングシステム1の動作に従って、各ユニットが動作した時の具体例を図12乃至図14を用いて説明する。まず、ポインティングシステム1全体の各ユニットの動作タイミングを説明し、その後、第2処理装置200の表示部230の画面上に表示される映像と、第2処理装置200側のユーザによって指示された位置に該当する、第1処理装置100側の対象空間内の位置に発生させられる視覚的変化とについて具体例を挙げて説明する。
【0096】
図12は、ポインティングシステム1の各ユニットの動作の一例を示すタイミングチャートである。同図に示すように、撮影部142で撮影された映像192は、既に述べたとおり、制御部110にて、適当なエンコーダにより圧縮符号化され、ネットワーク3を介して制御部210に送信され、制御部210で復号の上、表示部230に表示される。このとき、ネットワーク3にて約T[ms]の遅延を受けることになる。なおまた、映像内座標(Xi,Yi)およびボタンイベント194の転送も同様に、ネットワーク3にて約T[ms]の遅延を受ける。すなわち、指示部子機250でユーザBが指示してから、表示部230の画面上に映像が反映されるまでに約2T[ms]遅延することになる。
【0097】
既に述べたとおり表示部230では、指示部子機250のスイッチ254が押し下げられている間は、撮影された映像内の映像内座標(Xi,Yi)に赤色レーザポインタの照射を連想させるカーソル242を重畳して表示する。したがって、図13(a)にて示される、撮影された映像192に対し、図13(b)に示す通り、表示部230に表示される映像は画面302となる。
【0098】
ここで、図14に示すとおり、ユーザBが指示部子機250のスイッチ254を押しながら、指示部子機250で円などの軌跡を描くジェスチャを行ったものとする。すると、スイッチ254が押されている間、指示部子機250から制御部210へはこの軌跡304を表す、複数の映像内座標(Xi,Yi)が、一定間隔で送られる。制御部210が映像内座標(Xi,Yi)を受け取ると、直ちに、カーソル242の表示位置を更新する。
【0099】
したがって、表示部230画面上では、ユーザBのジェスチャによって、同図の位置Aにカーソル242が表示されることになる。一方で、指示部子機250から送られた映像内座標(Xi,Yi)により制御された空間ポインティング部140が生じる視覚的変化は、実際の空間内では位置Bに発生しているが、先述の撮影部142と空間ポインティング部140の制御機構により表示部230の画面上の映像には現れない。
【0100】
以上説明したように、本発明のポインティングシステム1によれば、撮影部142に視覚的変化を抑制した映像を撮影させるように空間ポインティング部140と撮影部142を制御する制御部110と、遅延した視覚的フィードバックを抑制した映像を表示する表示部230と、を備えることで、表示遅延およびポインティングの精度と操作性の問題を解決することができる。
【0101】
本発明によれば、たとえば、ビデオ映像に映った遠隔地の実物体を指し示して参照する遠隔ポインティングシステム1が遅延を受けている際、ユーザBに遅延がない状況と同等のポインティング感を提供し、ポインティングに要する時間の短縮とポインティング精度の向上を実現できるという効果を奏する。
【0102】
このような効果が生じる理由は、本発明の制御部110および210が、レーザポインタなどの遠隔空間内において視覚的変化を生じる空間ポインティング部140と撮影部142を制御して、視覚的変化の度合いが少ない映像を生成し、遅延した視覚的フィードバックを抑制するためである。この結果、ユーザBは表示部230に表示されたカーソルなどの目印を実際のレーザポインタの像と錯覚するようになる。カーソルはユーザのポインティング操作にほぼ遅延無く反応するため、遠隔地との間のネットワーク3に遅延がある状況でも、ユーザBに遅延がない状況と同等のポインティング感を与えることができる。このようにして、ユーザBにおける、映像内のレーザポインタの像などの遅延した視覚的フィードバックによる混乱を避けることができる。
【0103】
本発明のポインティングシステムによれば、このように、遠隔地間の情報の伝送に遅延を伴う状況下において、ビデオ映像に映った遠隔地の実物体を指し示して参照する遠隔ポインティングシステムの使い勝手を向上することができる。より具体的には、遅延がある状況において、ユーザBに遅延がない状況と同等のポインティング感を提供し、ポインティングに要する時間の短縮とポインティング精度の向上を実現することができる。
【0104】
なお、上記実施形態において、表示部230にて、実際のレーザポインタなどの像を表示しない結果、ユーザBの指し示している位置と、実際の空間で指し示される位置の乖離が、上述した文献記載の技術等と比べて増加するようにも感じられるが、実際にはそのようなことはない。たとえば、図15に示すように、ユーザBが画面上を水平方向に一定の速度で指し示したものとする。時刻tにおいてはAの位置を、時刻t−Δt、t−2Δtにおいては、それぞれ、BおよびCの位置を指し示していたものとする。ネットワークを伝搬する片道の遅延がΔtであるとすると、時刻tにおいては時刻t−Δtに取得された座標、すなわちBの座標が空間ポインティング部140に反映された段階であるので、時刻tにおいて、実際の空間で指し示される位置はBである。
【0105】
一方で、画面上に表示されているのは時刻t−2Δtに撮影された映像であるので、仮にポインタの像が撮影されていたものとすると、それはCの位置に表示される。したがって、ポインタの像によるフィードバックの方法では、実際の空間で指し示される位置とΔt相当分の乖離が生じる。一方で、本発明では、ユーザBの指し示している位置Aにカーソルを視覚的フィードバックして表示する。この位置もポインタの像によるフィードバックの方法と同じく、実際の空間で指し示される位置とΔt相当分の乖離がある。したがって、本技術の方法においても、視覚的フィードバックと、実際の空間で指し示される位置の乖離は、乖離の方向は異なるが、同程度である。
【0106】
なお、音声チャネルを併用したシステムにおいては本発明の生じる性質の乖離は有利に働く。なぜならば、図15に示すように、ユーザBが表示部230の画面上を水平方向に一定の速度で指示部子機250を用いて指し示しながら、視覚的フィードバックに対応した場所の文字を発話したものとする。
発話した音声はマイク(不図示)で集音され、適当なエンコーダ(たとえば、AAC(Advanced Audio Coding)規格)(不図示)により圧縮符号化され、制御部210からネットワーク3を介して制御部110に送信することができる。
【0107】
音声データと映像内座標データが同程度の遅延Δtを受けるものとすると、第1処理装置100側の遠隔地においては、音声データと映像内座標データの両者がほぼ同時に到着するため、たとえば、時刻tにおいては、空間ポインティング部140が位置Bを指し示すと共に、ユーザBの発した「い」の音声が遠隔地に報じられることになる。
【0108】
一方で、ポインタの像によるフィードバックの方法では、たとえば、ユーザBは時刻tに位置Cにポインタ像が表示された時に初めて「あ」を発声するので、時刻t+Δtにこの音声が遠隔地に到着し報じられるころには、空間ポインティング部140は位置A、すなわち「う」の文字を指し示していることになり、音声とレーザポインタの指し示す位置に差が生じてしまう。このように、ポインタの像によるフィードバックの方法に比較して、本発明は、ポインティング操作に欠かせない音声指示との併用においても、優れた特性を発揮する。
【0109】
(第2の実施の形態)
本実施形態のポインティングシステム1は、上記実施の形態とは、撮影部142が、この視覚的変化を生じている間の映像(第1の映像)と、視覚的変化を生じていない間の映像(第2の映像)を区別して撮影する点で相違する。本実施形態のポインティングシステム1の各構成要素は、上記実施形態と同様な構成を有し、制御部110による撮影部142と空間ポインティング部140の制御方法、および制御部(110、210)が生成する映像の生成方法が異なる。
【0110】
本実施形態のポインティングシステムは、対象空間を撮影する撮影部142をさらに備え、制御部(110、210)は、視覚的変化が生じる時間間隔と視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、空間ポインティング部140に、対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、視覚的変化が生じる時間間隔に撮影部142が繰り返し撮影することにより得られる一連の画像から構成される第1の映像、および視覚的変化が生じない時間間隔に撮影部142に繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される第2の映像を取得し、第1の映像および第2の映像に基づいて、視覚的変化を抑制した映像を生成し、生成された視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる。
【0111】
本実施の形態では、上記実施形態同様に、空間ポインティング部140は、視覚的変化を生じさせる時間間隔と、視覚的変化を生じさせない時間間隔を有する。
【0112】
以下、本実施形態のポインティングシステム1のレーザ出力の制御方法の一例について、図16および図17を用いて説明する。図16は、空間ポインティング部140の制御回路146の状態遷移図である。図17は、制御部110が撮影部142および空間ポインティング部140に送信する制御信号と、撮影部142のシャッタの開閉状態および空間ポインティング部140のレーザのオンオフ状態の関係を表すグラフである。
【0113】
図16の状態遷移図は、上記実施形態の図9とは、待機状態S23における動作が異なる。すなわち、上記実施形態では、待機状態S23において、制御部110より受信している制御信号の立ち下がりを検出すると(S33)、制御回路146はレーザオン状態S25に遷移し、レーザ出力を開始する。本実施形態では、さらに待機状態S23において、制御部110より受信している制御信号の立ち上がりを検出すると(S41)、制御回路146はレーザオン状態S25に遷移し、レーザ出力を開始する。そして、いずれの場合も、同時にレーザオン状態S25の持続時間の計測も行い、レーザオン状態S25が所定の時間に達した場合(この例では15ms)(S35)、レーザ出力を停止して、再び待機状態S23に遷移する。
【0114】
そして、図17に示すように、制御部110は、制御信号を約33msの間隔で空間ポインティング部140および撮影部142に送信する。空間ポインティング部140は、ボタンダウンイベントからボタンアップイベントまでの間は、制御信号の立ち上がりの検出に伴い、レーザ出力を15ms間オンに設定する。一方、撮影部142は、制御信号の立ち上がり、立ち下がりの両方においてシャッタを15ms間開放する。この結果、図18(a)に示すように奇数フレームでは、空間に視覚的変化が生じた映像311が、図18(b)に示すように、偶数フレームでは、空間に視覚的変化が生じていない映像312が、それぞれ30Hzの周波数で撮影されることになる。ここでは、前者を第1の映像311、後者を第2の映像312と呼ぶものとする。
【0115】
制御部110は、第2の映像312に第1の映像311を画像処理により透過性を持たせて加算し、図18(c)で示されるような第3の映像313を生成する。ここで、透過性を持たせて画像同士を加算する方法としては、一般的に知られたアルファブレンディングが使用できる。なお、透過の度合いはユーザにより変更できることが望ましい。
【0116】
すなわち、本実施形態のポインティングシステム1において、制御部110は、第1の映像311と、第2の映像312とを異なる重み付けで加算することにより視覚的変化を抑制した第3の映像313を生成する。
【0117】
このようにして第3の映像313が生成された後の動作は、上記実施形態と同様、第3の映像313は制御部110にて適当なエンコーダにより圧縮符号化、ネットワーク3を介して制御部210に送信され、制御部210で復号の上、表示部230の画面上に表示される。
【0118】
また、表示部230では、指示部子機250のスイッチが押下られている間は、撮影された映像内の映像内座標(Xi,Yi)に赤色レーザポインタの照射を連想させるカーソル242を重畳して画面上に表示する。したがって、ユーザBが指示部子機250のスイッチを押しながら、指示部子機250で円などの軌跡を描くジェスチャを行ったものとすると、表示部230には図19のように、カーソル242と、レーザポインタなどの像321が異なる強度で(レーザポインタの像の方が薄く)表示される。
【0119】
本実施形態において、このレーザポインタなどの像321の強度を調整するための構成を備えてもよい。たとえば、ポインティングシステム1は、像321の強度のレベル調整指示を受け付ける受付部(不図示)と、受け付けたレベルにしたがって像321の強度を調整する調整部(不図示)と、調整された映像のプレビュー画面をユーザAまたはBに提示し、確認を促す確認部(不図示)と、をさらに備えてもよい。受付部、蓄積部、および確認部は、制御部110または制御部210のいずれに備えてもよく、いずれか一方または両方に部分的または全てを備えてもよい。
【0120】
受付部は、たとえば、調整設定画面でユーザAまたはBに、第1の映像311の透過性をパーセンテージや数値の入力や、レベル調整用のスライダの操作を促し、設定を受け付けることで、レベル調整指示として受け付ける。確認部は、調整設定画面でレベル調整時に、調整後の映像をプレビュー画面に表示し、ユーザAまたはBに提示して確認を促す。調整結果を参照しながら、ユーザAまたはBはレベル調整を行うことができる。
【0121】
ユーザBは、第1の映像311の透過性、すなわちレーザポインタ像の表示部230上での強度を認知的に気にならないレベルまで調整することにより、映像内の遅延した視覚的フィードバックによる混乱を避けることができる。また、それ同時に、レーザポインタの像に注視するか、もしくは透過性を再度調整することにより実際の空間におけるレーザポインタの像を認知することもできるので、空間ポインティング機器が正しく動作していることの動作確認や、ネットワークの遅延具合も把握しながら、精度高いポインティング操作を実現することができる。
【0122】
なお、上記例では、第2の映像312に第1の映像311を、透過性を持って加算する例を示したが、第1の映像311と第2の映像312の差分、すなわち、レーザポインタ像のみの映像を白黒映像に変換した上で、再度第2の映像312に透過性を持って加算する方法なども考えられる。こうすることにより、よりユーザBの認知に対し、レーザポインタの像の影響を弱くすることが可能である。
【0123】
以上説明したように、本実施形態のポインティングシステム1によれば、上記実施形態と同様な効果を奏するとともに、レーザポインタ像の表示部230上での強度を認知的に気にならないレベルまで調整することにより、映像内の遅延した視覚的フィードバックによる混乱を避けることができる。
【0124】
(第3の実施の形態)
本実施形態のポインティングシステム1は、上記実施の形態とは、視覚的変化を抑制した映像の生成方法が、指示部子機250により指定される映像内座標近辺の画素の色情報を、その周辺の画素の色情報に近い値で置き換える点で相違する。それ以外の構成および動作については、本実施形態のポインティングシステム1は、上記実施形態のいずれと組み合わせてもよい。
【0125】
本実施形態のポインティングシステム1は、対象空間を撮影する撮影部142をさらに備え、制御部(110、210)は、撮影部142が撮影した映像に対し、視覚的変化が生じる位置近辺の画素の色情報を、その周辺の画素の色情報に近い値で置き換えることにより視覚的変化を抑制した映像を生成し、生成された視覚的変化を抑制した映像を表示部230の画面上に表示させる。
【0126】
なお、本実施の形態では、制御部110において、空間ポインティング部140が視覚的変化を生じさせる時間間隔と、視覚的変化を生じさせない時間間隔を繰り返す制御は行わない。その代わりに、制御部110は、指示部子機250により指定される映像内座標近辺の画素の色情報を、その周辺の画素の色情報に近い値で置き換えることにより、視覚的変化を抑制した映像を生成する。
【0127】
本実施形態において、制御部110は、指示部子機250が指し示す映像内座標(Xi,Yi)を制御部210より受け取ると、空間ポインティング部140のレーザの偏向角度に換算し、空間ポインティング部140の制御を行う。制御が完了後、撮影部142より得られる映像フレームに対し制御部110は以下の処理を行う。
【0128】
制御部110は映像フレームの映像内座標(Xi,Yi)を中心とした直径aの円状領域Aに含まれる画素の色情報を、外径b、内径aの環状領域に含まれる画素の色情報により内挿した値で置き換える(図20を参照)。最も簡単には、領域Bの画素の色情報の平均値で領域Aを一様に塗りつぶせば良い。もしくは、たとえば、領域Bの画素を境界条件として与えたラプラス方程式(∇2F(X,Y)=0;F(X,Y)が色の強度)の解を領域Aの画素の色情報としても良い。ラプラス方程式の数値解法については一般的な数値解析の文献に記載されているので、詳細は省略する。
【0129】
なお、半径aおよびbの値は、あらかじめ定められた値を使用しても良いし、映像内座標(Xi,Yi)周辺の画素を解析して自動的に抽出しても良い。この方法を、空間ポインティング部140に赤色レーザポインタを使用した例で説明する。映像内座標(Xi,Yi)を中心とした直径cの円状領域(cの値はあらかじめ広めに与えておく)において、赤色の情報のみを抽出する処理を行う。この結果、赤色の強度分布が図21の実線の通り得られたものとする(図中では簡単のため1次元で説明しているが、実際の強度分布は2次元である)。
【0130】
この強度曲線を最小二乗法によりガウス曲線に近似すると(図中の点線)、ガウス曲線の分散値σが得られる。直径aをたとえば、σの6倍に設定する。すると、強度分布がガウス曲線で近似できる場合、空間ポインティング部140が生じる視覚的変化の約99.7%は直径aの領域に含まれることになる。直径bはa+固定値もしくは、a×固定値に設定すれば良い。
【0131】
このようにして得られた映像では、実際の空間と比較して、視覚的変化の度合いが少ないため、ユーザBは映像内のレーザポインタの像331などの遅延した視覚的フィードバックによる混乱を避けることができる。
【0132】
以降は先述の実施の形態と同様、映像は制御部110にて適当なエンコーダにより圧縮符号化、ネットワーク3を介して制御部210に送信され、制御部210で復号の上、表示部230に表示される。また、表示部230では、指示部子機250のスイッチが押下られている間は、撮影された映像内の映像内座標(Xi,Yi)に赤色レーザポインタの照射を連想させるカーソルを重畳して表示する。
【0133】
以上説明したように、本実施形態のポインティングシステム1によれば、上記実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0134】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0135】
たとえば、上記実施形態では、空間ポインティング部140として、偏向方向を制御可能なレーザポインタの例を説明したが、プロジェクタなど他の空間ポインティング手段を用いることも可能である。
【0136】
また、上記実施形態では、制御部110が撮影部142および空間ポインティング部140の両方に対し、同じ制御信号を送信する制御方法を説明したが、他の方法として、たとえば、一方だけに制御信号を送り、それを受信した一方が他方向けの制御信号を生成するといった方法なども考えられる。なお、このような差異は、クロック信号を用いた同期制御技術の領域では周知のものであるので、細部が異なる構成についての説明は省略する。
【0137】
さらに、上記実施形態では、一方の拠点に表示部230と指示部(指示部子機250および指示部親機280)が、他の拠点に撮影部142と空間ポインティング部140が設置されているシステム構成を示したが、これらが1セットずつ各拠点に設置され、双方向にポインティングが可能な構成も考えられる。また、指示部としては、リモコン状の位置指定装置の例を示したが、これ以外にもたとえば、表示部230に搭載されたタッチパネルを使用したり、タッチペン、マウス、トラックボールなどのコントローラを使用したりする方法なども利用できる。
【0138】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0139】
1 ポインティングシステム
3 ネットワーク
100 第1処理装置
110 制御部
132 ホワイトボード
140 空間ポインティング部
142 撮影部
146 制御回路
148 レーザ
150 ミラー
152 ガルバノスキャナ
160 バネ
162 磁石
164 コイル
166 磁性体
170 光ビーム
172 ポインタ
200 第2処理装置
210 制御部
230 表示部
232 ホワイトボードの映像
240 赤外LED
242 カーソル
250 指示部子機
252 カメラモジュール
254 スイッチ
256 演算回路
258 無線モジュール
280 指示部親機
311 第1の映像
312 第2の映像
313 第3の映像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手段と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手段と、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング手段と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、
を備えるポインティングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のポインティングシステムにおいて、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記視覚的変化が生じる時間間隔と前記視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、前記空間ポインティング手段に、前記対象空間内の前記対応する位置に前記視覚的変化を発生させ、
前記空間ポインティング手段が前記視覚的変化を発生させない時間間隔に、前記撮影手段に前記対象空間を繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させるポインティングシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のポインティングシステムにおいて、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記視覚的変化が生じる時間間隔と前記視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、前記空間ポインティング手段に、前記対象空間内の前記対応する位置に前記視覚的変化を発生させ、
前記視覚的変化が生じる時間間隔に前記撮影手段が繰り返し撮影することにより得られる一連の画像から構成される第1の映像、および前記視覚的変化が生じない時間間隔に前記撮影手段に繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される第2の映像を取得し、
前記第1の映像および前記第2の映像に基づいて、前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させるポインティングシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のポインティングシステムにおいて、
前記制御手段は、
前記第1の映像と、前記第2の映像とを異なる重み付けで加算することにより前記視覚的変化を抑制した映像を生成するポインティングシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のポインティングシステムにおいて、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記撮影手段が撮影した映像に対し、前記視覚的変化が生じる位置近辺の画素の色情報を、その周辺の画素の色情報に近い値で置き換えることにより前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させるポインティングシステム。
【請求項6】
請求項2乃至5いずれかに記載のポインティングシステムにおいて、
前記表示手段は、前記指示受付手段が受け付けた前記目標座標に対応する指示位置に、カーソルを、前記視覚的変化を抑制した映像と重畳して前記画面上に表示するポインティングシステム。
【請求項7】
請求項2乃至6いずれかに記載のポインティングシステムにおいて、
前記撮影手段および前記空間ポインティング手段を含む第1処理装置と、
前記指示受付手段および前記表示手段を含む第2処理装置と、を有し、
前記第1処理装置と前記第2処理装置は、互いに離隔して設けられ、ネットワークを介して接続されるポインティングシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のポインティングシステムにおいて、
前記第2処理装置の前記指示受付手段が受け付けた前記目標座標は、前記第1処理装置に前記ネットワークを介して送信され、前記目標座標に対し、前記第1処理装置の前記空間ポインティング手段が前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、
前記第1処理装置の前記生成手段が生成した前記映像は、前記第2処理装置に前記ネットワークを介して送信され、前記第2処理装置の前記表示手段の前記画面上に表示されるポインティングシステム。
【請求項9】
対象空間の撮影映像を表示した画面上にて指示される目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる空間ポインティング手段と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、を備える処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の処理装置において、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記視覚的変化が生じる時間間隔と前記視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、前記空間ポインティング手段に、前記対象空間内の前記対応する位置に前記視覚的変化を発生させ、
前記空間ポインティング手段が前記視覚的変化を発生させない時間間隔に、前記撮影手段に前記対象空間を繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる処理装置。
【請求項11】
請求項9に記載の処理装置において、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記視覚的変化が生じる時間間隔と前記視覚的変化が生じない時間間隔が繰り返すように、前記空間ポインティング手段に、前記対象空間内の前記対応する位置に前記視覚的変化を発生させ、
前記視覚的変化が生じる時間間隔に前記撮影手段が繰り返し撮影することにより得られる一連の画像から構成される第1の映像、および前記視覚的変化が生じない時間間隔に前記撮影手段に繰り返し撮影させることにより得られる一連の画像から構成される第2の映像を取得し、
前記第1の映像および前記第2の映像に基づいて、前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる処理装置。
【請求項12】
請求項11に記載の処理装置において、
前記制御手段は、
前記第1の映像と、前記第2の映像とを異なる重み付けで加算することにより前記視覚的変化を抑制した映像を生成する処理装置。
【請求項13】
請求項9に記載の処理装置において、
前記対象空間を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記撮影手段が撮影した映像に対し、前記視覚的変化が生じる位置近辺の画素の色情報を、その周辺の画素の色情報に近い値で置き換えることにより前記視覚的変化を抑制した映像を生成し、
生成された前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる処理装置。
【請求項14】
対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手段と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手段と、
前記指示の結果として、前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に発生させる視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手段と、を備える処理装置。
【請求項15】
請求項14に記載の処理装置において、
前記表示手段は、前記指示受付手段が受け付けた前記目標座標に対応する前記画面上の指示位置に、カーソルを表示する処理装置。
【請求項16】
対象空間の撮影映像を画面上に表示し、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付け、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させ、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる処理装置のデータ処理方法。
【請求項17】
処理装置を実現するためのコンピュータプログラムであって、
対象空間の撮影映像を画面上に表示する表示手順と、
前記対象空間の前記撮影映像を表示した前記画面上にて目標座標の指示を受け付ける指示受付手順と、
前記目標座標に対し、前記対象空間内の対応する位置に視覚的変化を発生させる発生手順と、
前記指示の結果として前記対象空間内に生じる前記視覚的変化を抑制した映像を前記画面上に表示させる制御手順と、をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−113216(P2011−113216A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267882(P2009−267882)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】