説明

ポリアミドイミド微粒子の製造方法

【課題】平均粒径1μm以下のポリアミドイミド微粒子を提供すること。
【解決手段】フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤、およびフェニル基を有するノニオン性界面活性剤から選択される界面活性剤の水溶液に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)に溶解したポリアミドイミドを加えて、ポリアミドイミド微粒子を析出させるポリアミドイミド微粒子の製造方法である。1ミクロン以下のポリアミド微粒子を得るためには、ポリアミドイミドの良溶媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)を用いることが必要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミドは、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等に優れており、産業機器部品、電気・電子部品、自動車部品、航空宇宙関連部材に使用されている。ポリアミドイミドを塗布する場合、通常、有機溶剤に溶解し、ワニスとして使用されている。しかし、近年、揮発性有機化合物(VOC)削減の課題が生じ、極力VOCを使用しないことが望まれている。その方法の1つとして、ポリアミドイミドを微粉化する手段がある。微粉化することにより、直接、部材へ噴霧したり、その水分散液を部材に塗布した後、水を除去してコーティングすることが可能となる。
【0003】
ポリアミドイミド微粒子の合成方法として、例えば、トリメリット酸無水物クロライド等の酸クロリドを含む第1溶液と、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミン化合物を含む第2溶液を、第1溶液と第2溶液のいずれにも可溶な溶媒の存在下、超音波での攪拌によりポリアミドイミド微粒子を得る方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法では、超音波発生装置という特殊な装置が必要であり、工業的にポリアミドイミド微粒子を製造するには製造上、種々の課題がある。また、上記特許文献では、具体的な製造例としては、酸クロリドとしてジカルボン酸クロリドを使用したポリアミド微粒子の製造が記載されているのみであり、ポリアミドイミド微粒子の具体的な製造例は開示されていない。
【0004】
一方、再沈殿法を用いた微粒子の合成として、ポリイミド微粒子を製造するためのポリアミド酸微粒子の合成が報告されている。該方法では、ポリアミド酸を極性アミド系溶媒から選択される良溶媒に0.1重量%〜2重量%の濃度で溶解させたポリマー溶液を、20℃〜40℃で、1500±500rpmで撹拌された貧溶媒にマイクロシリンジから注入して、ポリアミド酸微粒子を析出させる(特許文献2)。しかし、この方法では、マイクロシリンジという特殊な装置が必要であり、工業化するには、種々の課題がある。
【0005】
このような状況から簡易で、且つ大量に1μm以下のポリアミドイミド微粒子を製造する方法の開発が切望されている。
【0006】
ポリマーを析出させる方法として、ポリマーを良溶媒に溶かし、その溶液を貧溶媒へ加える、いわゆる再沈殿法が知られているが、この方法では、一般に塊状物、または粗大粒子が得られる。たとえ、粒子が得られたとしても、その粒径が1μmを越えることが通常である。しかし、特殊な装置の使用を必要としなくても、再沈殿法により1μm以下の微粒子を得る方法を見出すことができれば、工業的な観点からも有用な方法となる。再沈殿法では、通常、ポリマーとその良溶媒、貧溶媒が用いられるが、微粒子を得るには界面活性剤を用いることも重要と考えられる。この方法において、良溶媒、貧溶媒、界面活性剤の適切な組み合わせを見出すことができれば、ポリアミドイミド微粒子を製造できる可能性がある。
【特許文献1】特開2004−2731号公報
【特許文献2】特開2003−252990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、平均粒径1μm以下のポリアミドイミド微粒子を容易にかつ簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ポリアミドイミド微粒子を得るため、ポリアミドイミドの良溶媒、水、および界面活性剤の組み合わせについて、鋭意研究を重ねた結果、上記課題を達成できることを見出し、ついに本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤、およびフェニル基を有するノニオン性界面活性剤から選択される界面活性剤の水溶液に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)に溶解させたポリアミドイミドを加えて、ポリアミドイミド微粒子を析出させることを特徴とするポリアミドイミド微粒子の製造方法である。
【0010】
また、フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの少なくとも1種を含むものであることが好ましく、フェニル基を有するノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリススチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルの少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
【0011】
本発明においては、上記構成を採用することにより平均粒径が1μm以下であるポリアミドイミド微粒子を得ることができ、好ましい態様によれば500nm以下であるポリアミドイミド粒子を得ることができる。なお、本発明における1μm以下の平均粒径は、動的光散乱法により散乱強度分布を測定し、キュムラント解析法によって求めた平均粒径をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、工業的に優れた方法で、平均粒径1μ以下のポリアミドイミド微粒子を製造することができる。そのようなポリアミドイミド微粒子は、耐熱性、耐摩耗性等のポリアミドイミド樹脂本来の特性をそのまま維持していることから、電気・電子部品の材料、自動車部材、産業機器部品の他、複合材料等の用途に幅広く応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤、およびフェニル基を有するノニオン性界面活性剤から選択される界面活性剤の水溶液に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)に溶解したポリアミドイミドを加えて、ポリアミドイミド微粒子を析出させることを特徴とするポリアミドイミド微粒子の製造方法である。
【0014】
一般に界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤(非イオン性界面活性剤)、両性界面活性剤などが知られているが、本発明では、フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤、フェニル基を有するノニオン性界面活性剤から選択される界面活性剤が使用される。これらは一種以上で用いることができる。フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等が好ましく挙げられる。また、フェニル基を有するノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリススチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等が好ましく挙げられるが、特にポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリススチレン化フェニルエーテルが好ましい。界面活性剤の添加量は、ポリアミドイミドの重量に対して10重量%〜100重量%まで適宜選択できるが、特に20重量%〜50重量%が好ましい。
【0015】
本発明で用いられるポリアミドイミドは、通常の方法、例えば、酸無水物クロライドとジアミンから合成される。酸無水物クロライドとしては、例えば、トリメリット酸無水物クロライド等が用いられる。ジアミンは、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等が用いられる。本発明では、特にトリメリット酸無水物クロライドと4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンから合成されたポリアミドイミドが好ましく用いられる。
【0016】
本発明においては上記ポリアミドイミドを1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)に溶解させて用いる。ポリアミドイミドを溶解させる有機溶媒としては上記1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)の他、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられるが、1μ以下のポリアミドイミド微粒子を得るには、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)を用いることが必要である。
【0017】
DMI中のポリアミドイミドの濃度は、DMIに対して1重量%〜20重量%まで適宜選択できる。
【0018】
本発明では、上記界面活性剤の水溶液にポリアミドイミドを溶解したDMI(DMI溶液と称する場合もある)を加えてポリアミドイミド微粒子を析出させる。
【0019】
ポリアミドイミドを熔解したDMIの添加滴法は、滴下でも連続的に注入してもよい。
【0020】
また、界面活性剤の水溶液にDMI溶液を添加する際には界面活性剤の水溶液を攪拌することが好ましい。攪拌回転数は、1,000〜4,000rpmから適宜選択できる。また、界面活性剤の水溶液とDMI溶液とは、正味の水とDMIの混合比として、通常、重量比で1:10〜10:1程度となるよう調整される。
【0021】
DMI溶液を添加する際の温度および再沈殿させる温度は、20℃〜50℃の範囲から適宜選択できる。
【0022】
水溶液中に析出した微粒子の単離は、水懸濁液を遠心分離した後、上澄みを除去することによって達成することができる。粒子に残存するDMIや界面活性剤を取り除くには、その残さに再度、水を加えて微粒子を懸濁させ、遠心分離した後、上澄みを除去すれば良い。上記操作を繰り返すことによってDMIや界面活性剤を取り除くことができる。
【0023】
ポリアミドイミド微粒子の形状として、例えば、真球状、針状、板状、鱗片状、まゆ状などの形状で得ることができる。
【0024】
本発明で製造されるポリアミドイミド微粒子は、通常、平均粒径1μm以下であり、好ましい態様においては500nm以下の平均粒径であり、さらに好ましい態様においては、平均粒径が400nm以下のポリアミドイミド微粒子を製造することも可能である。下限としては取り扱いの観点から平均粒径100nm以上であることが好ましい。なお、上記平均粒径の測定は、後述の方法によって測定される値である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。本発明の粒径は、大塚電子製濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000を用いて動的光散乱法により、散乱強度分布を測定し、キュムラント解析法によって求めた。また、SEM写真は、日本電子製JSM−6700Fを用いて測定した。
【0026】
実施例1
ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(ノナール912A、東邦化学製)240mgをイオン交換水20gに溶かし、3,000rpmで攪拌した。ポリアミドイミド(TI―5,000、東レ製) 1.20gを溶解したDMI 20gを、室温(24℃)下で滴下し、界面活性剤水溶液へ5分間で加えた。懸濁液を遠心分離(16,000rpm、3分間)した後、上澄み液を取り除いた。残さに水10gを加えて懸濁液とし、その懸濁液を遠心分離した後、上澄み液を取り除いた。上記操作をさらに2回繰り返し、ポリアミドイミド微粒子を得た。得られたポリアミド微粒子の平均粒径は、286nm(0.5%、ノナール912A水溶液で測定)であった。そのSEM写真を図1に示した。
【0027】
実施例2
ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル(ソルポールF−27、東邦化学製)230mgをイオン交換水20gに溶かし、3,000rpmで攪拌した。ポリアミドイミド(TI―5,000、東レ製) 1.15gを溶解したDMI 20gを、室温(24℃)下で滴下し、界面活性剤水溶液へ5分間で加えた。懸濁液を遠心分離(16,000rpm、3分間)した後、上澄み液を取り除いた。残さに水10gを加えて懸濁液とし、その懸濁液を遠心分離した後、上澄み液を取り除いた。上記操作をさらに2回繰り返し、ポリアミドイミド微粒子を得た。得られたポリアミド微粒子の平均粒径は、389nm(0.5%、ノナール912A水溶液で測定)であった。そのSEM写真を図2に示した。
【0028】
比較例1
ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(ノナール912A、東邦化学製)208mgをイオン交換水20gに溶かし、3,000rpmで攪拌した。ポリアミドイミド(TI―5,000、東レ製) 1.04gを溶解したNMP 20gを、室温(24℃)下で滴下し、界面活性剤水溶液へ5分間で加えた。懸濁液を遠心分離(16,000rpm、3分間)した後、上澄み液を取り除いた。残さに水10gを加えて懸濁液とし、その懸濁液を遠心分離した後、上澄み液を取り除いた。上記操作をさらに2回繰り返した。非真球状の粗大粒子となった。
【0029】
比較例2
ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(ノナール912A、東邦化学製)207mgをイオン交換水20gに溶かし、3,000rpmで攪拌した。ポリアミドイミド(TI―5,000、東レ製) 1.05gを溶解したDMSO 20gを、室温(24℃)下で滴下し、界面活性剤水溶液へ5分間で加えた。懸濁液を遠心分離(16,000rpm、3分間)した後、上澄み液を取り除いた。残さに水10gを加えて懸濁液とし、その懸濁液を遠心分離した後、上澄み液を取り除いた。上記操作をさらに2回繰り返した。非真球状の粗大粒子となった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1のポリアミドイミド微粒子のSEM写真である。
【図2】実施例2のポリアミドイミド微粒子のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤、およびフェニル基を有するノニオン性界面活性剤から選択される界面活性剤の水溶液に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)に溶解させたポリアミドイミドを加えて、ポリアミドイミド微粒子を析出させることを特徴とするポリアミドイミド微粒子の製造方法。
【請求項2】
フェニル基を有する陰イオン性界面活性剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの少なくとも1種を含むものである請求項1記載のポリアミドイミド微粒子の製造方法。
【請求項3】
フェニル基を有するノニオン性界面活性剤がポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリススチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルの少なくとも1種を含むものである請求項1記載のポリアミドイミド微粒子の製造方法
【請求項4】
ポリアミドイミド微粒子の平均粒径が500nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−67880(P2009−67880A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237405(P2007−237405)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】