説明

ポリアミド中空繊維

【課題】繊維内部に中空部を有し、中空部から繊維表面に連通する微細孔を有し、濾過性能や透過性能を有する中空繊維として浄水器用途等の濾布や中空糸膜としても好適に使用することができるポリアミド中空繊維を提供する。
【解決手段】繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された一又は複数の中空部を有するポリアミド成分からなる繊維であって、少なくとも一つの中空部において、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であり、かつ中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有するポリアミド中空繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維内部に中空部を有し、かつ中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有し、浄水器用途等の濾布や中空糸膜として使用することができるポリアミド中空繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空部と微細孔を有する中空繊維については多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には、変性ポリエステルを配合した中空繊維を紡糸し、その後、アルカリ処理することによって得られた微細孔中空ポリエステル繊維が衣料用途に好適に使用されることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、繊維の横断面の外周方向に沿って交互に放射状に配置された中空複合繊維であって、溶剤処理によって得られた合成繊維が吸湿性に優れていることが開示されている。
【0004】
特許文献3には、微細孔形成剤を含有するポリエステル繊維をアルカリ減量することで、ポリマー厚さが3μm以下で連通孔が形成されている吸水性ポリエステル繊維が開示されている。
【0005】
しかしながら、いずれも衣料用途での吸湿性の向上を目的としたものであり、中空形状形成後の単繊維のポリマー厚さが3μm以下に限定されたものである。3μmを超える場合には、アルカリ処理による中空部への連通孔の形成が困難となる。このため、この繊維は、ある程度の力学特性及び耐摩耗性が必要となるような分野、例えば浄水器用途等の濾布や中空糸膜には好適に使用することができないという問題があった。
【特許文献1】特開昭57-11212号公報
【特許文献2】特開昭55-116811 号公報
【特許文献3】特開平5-239715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決し、繊維内部に中空部を有し、中空部から繊維表面に連通する微細孔を有し、濾過性能や透過性能を有する中空繊維として浄水器用途等の濾布や中空糸膜としても好適に使用することができるポリアミド中空繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(1)、(2)を要旨とするものである。
(1)繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された一又は複数の中空部を有するポリアミド成分からなる繊維であって、少なくとも一つの中空部において、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であり、かつ中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有することを特徴とするポリアミド中空繊維。
(2)水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体からなる芯成分と、芯成分を覆う水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を含有させたポリアミド成分からなる鞘成分とにより構成される複合繊維とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出させることにより、中空部と微細孔を生じさせてなる(1)記載のポリアミド中空繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド中空繊維は、繊維内部に中空部を有し、少なくとも1つの中空部において、中空部から繊維表面に連通する微細孔を有していることにより、水分を吸水する性能に優れている。このため、浄水器用途等の濾布や中空糸膜に好適に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミド中空繊維は、ポリアミド成分で構成されており、繊維内部には長手方向に沿って形成された一又は複数の中空部を有し、中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有している。
【0010】
本発明のポリアミド中空繊維を構成するポリアミドとしては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド) 、ポリパラキシリレンデカナミド、ポリビスシクロヘキシルメタンドデカナミド等のホモポリマー及びこれらを主体とする共重合体もしくは混合物が好ましく用いられる。
【0011】
そして、本発明のポリアミド中空繊維は、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体からなる芯成分と、芯成分を覆う水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を含有させたポリアミド成分からなる鞘成分とにより構成される複合繊維とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出させることにより、中空部と微細孔を生じさせたものとすることが好ましい。
【0012】
中でも、芯鞘型複合繊維においては、芯成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体のみからなり、鞘成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(A)とポリアミド(B)の混合物からなる複合繊維とすることが好ましい。そして、混合物中の(A) と(B)の質量比(A:B)は、5:95〜70:30とすることが好ましく、中でも10:90〜65:35であることが好ましい。
また、芯成分と鞘成分の質量比(芯:鞘)は、5:95〜95:5とすることが好ましい。
【0013】
通常、ポリアミド繊維において、アルカリ減量等の後処理により繊維を構成する一成分を溶出させて中空繊維を得る場合には、ポリエステルにスルホイソフタル酸等を共重合したアルカリ易溶性ポリエステル等を用いることが多い。しかしながら、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さ(ポリマー厚さ)が3μmを超える場合には、中空部から繊維表面に連通する微細孔が生じにくいものとなる。
【0014】
本発明のポリアミド中空繊維においては、上記の問題点を解決するために、複合繊維とした後に溶出させるポリマーとして、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を用いると、ポリアミド樹脂と高濃度に混練することが可能であり、得られた混合物は曳糸性にも優れており、紡糸操業性よく得ることができることを見出した。さらには、溶出処理により、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体が十分に溶出され、ポリアミド成分の厚さが厚い場合であっても中空部と繊維表面を連通する微細孔が多数形成されることを見出した。
【0015】
次に、本発明で用いる水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(以下、単にPVAと略称することもある)について説明する。
【0016】
本発明で使用されるPVAとは、ポリビニルアルコールのホモポリマーはもちろんのこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも含むものである。
【0017】
本発明に用いられるPVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は150〜5000が好ましく、200〜2000がより好ましく、250〜500が特に好ましい。重合度が150未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化が困難となる場合がある。重合度が5000を超えると溶融粘度が高すぎて、加工性が悪くなる場合がある。特に重合度500以下のいわゆる低重合度のPVAを用いることにより、水溶液で複合繊維を溶解するときに溶解速度が速くなるため、PVAをほぼ完全に除去することが可能となる。
【0018】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726により測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度〔η〕(dl/g)から次式により求められるものである。
P=(〔η〕×10/8.29)(1/0.62)
重合度が上記範囲にある時、ポリアミド樹脂と高濃度に混練を行うことができ、さらに得られた複合繊維を溶出処理する際にPVAをほぼ完全に除去することが可能となる。
【0019】
また、本発明に用いられるPVAは、鹸化度が40〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは60〜100モル%、さらに90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%が特に好ましい。鹸化度が40モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって溶融紡糸ができない場合があり、また後述する共重合モノマーの種類によってPVAの水溶性が低下する場合がある。一方、鹸化度が99.99モル%よりも大きいPVAは溶解性が低下しやすく、また安定に製造することができず、安定した繊維化が困難となる。
【0020】
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であることが好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し、得られる複合繊維の繊維強度が低くなったり、熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を超えると溶融紡糸温度が高くなり、紡糸温度とPVAの分解温度が近づくためにPVAとポリアミド成分とからなる複合繊維を安定に製造することができない場合がある。
【0021】
なお、PVAの融点は、DSCを用いて窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度をいう。
【0022】
本発明に用いられるPVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
また本発明で使用されるPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、20モル%以下とすることが好ましい。
【0024】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0025】
特に、共重合性、溶融紡糸性および水溶性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、より好ましくは1〜20モル%、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0026】
本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で得ることができる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0027】
また、本発明においては、上述のようなPVAを用いたとしても、PVAは一般的に汎用性の熱可塑性樹脂に比較して高温での溶融流動性に劣るため、必要に応じて、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびそのオリゴマー、ブチレングリコール及びそのオリゴマー、ポリグリセリン誘導体やグリセリン等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加したグリセリン誘導体、ソルビトールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した誘導体、ペンタエリスリトール等の多価アルコール及びその誘導体、PO/EOランダム共重合物等の可塑剤を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%の割合でPVAに配合すること曳糸性向上の点から好ましい。そして、繊維化工程で熱分解が起こりにくく、良好な可塑化性、紡糸性を得るためには、ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル、PO/EOランダム共重合物などの可塑剤を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%配合することが好ましく、特にソルビトールのエチレンオキサイドを1〜30モル付加した化合物が好ましい。
【0028】
次に、本発明のポリアミド中空繊維の形状について図面を用いて説明する。図1〜5は、本発明のポリアミド中空繊維の実施態様を示す断面(繊維軸方向に対して垂直に切断した断面)模式図である。
【0029】
本発明のポリアミド中空繊維は、繊維の長手方向に沿って形成された中空部を一又は複数有するものである。図1は1つの中空部を有する例、図2は4つの中空部を有する例、図3、4は9つの中空部を有する例、図5は多数の中空部を有する例である。
【0030】
そして、本発明のポリアミド中空繊維は、少なくとも一つの中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であり、かつ中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有するものである。
【0031】
繊維表面と中空部を連通する微細孔は上記したように、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を含有させたポリアミド成分を鞘成分とする芯鞘型複合繊維とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出させることにより形成することが好ましい。このように、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さを70μm以下とすることにより、中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有するものとなる。
【0032】
中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さは70μm以下であり、中でも60μm以下であることが好ましく、さらには50μm以下であることが好ましい。中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μmを超える場合には、中空部から繊維表面に連通する微細孔が生じにくくなる。
【0033】
なお、力学特性の観点から浄水器用途等の濾布や中空糸膜として使用することが困難となるため、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さは5μm以上とすることが好ましい。
【0034】
そして、本発明のポリアミド中空繊維は、上記したように、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を芯成分とする芯鞘型複合繊維とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出させることにより、中空部と微細孔を形成することが好ましい。
【0035】
また、本発明のポリアミド中空繊維は、中空部が複数ある場合は少なくとも一つの中空部において、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さを70μm以下とするものであるが、微細孔を多数生じさせるためには、全ての中空部において一つの中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であることが好ましい。
【0036】
なお、ポリアミド成分の厚さは、中空部から繊維表面までの厚さにおいて、最小の厚さが70μm以下であればよい。
【0037】
さらには、中空部が複数ある場合においては、中空部間のポリアミド成分の厚さを70μm以下とすることが好ましく、これにより中空部間を連通する微細孔が生じやすくなる。
【0038】
なお、本発明における中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さは、繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、この写真からポリアミド成分の厚さを測定するものである。
【0039】
本発明のポリアミド中空繊維において、中空部から繊維表面に連通する微細孔が生じる理由は明確ではないが、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出ポリマーとして用いることで、ポリアミド成分中に溶出ポリマーを高濃度にかつ均一に分散させても繊維を操業性よく得ることが可能となり、さらには十分に溶出されるため、連通が可能となるものであると推測される。
【0040】
また、本発明のポリアミド中空繊維の中空率は、浄水器用途等の濾布や中空糸膜として使用する場合には、圧損失を適度に抑えるとともに強度の観点から、5〜95%が好ましく、さらに好ましくは30〜90%、好適には60〜85%である。中空率が5%未満であると、中空径に対してポリマー部分の割合が多くなるため、例えば中空糸膜として通水した際に圧力損失が増大するため、現実的な使用が困難となる場合がある。一方、中空率が95%を超えると、ポリマー部分の割合が少なくなるため、中空部の潰れが生じやすくなり、好ましくない。
【0041】
なお、中空部の潰れやすさはポリアミド成分の厚さと密接に関連があるため、中空率とポリアミド成分の厚さは用途に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
また、中空率は、中空部が複数ある場合は全ての中空部の面積を合計して、繊維全体の面積に占める割合をいうものとする。
【0043】
本発明のポリアミド中空繊維は、単繊維のみからなるモノフィラメント、単繊維が複数本集合したマルチフィラメントのいずれであってもよい。単糸繊度は100〜20000dtexとすることが好ましく、中でも500〜15000dtexが好ましく、さらには2000〜12000dtexであることが好ましい。
【0044】
次に、本発明のポリアミド中空繊維の製造方法について、一例を用いて説明する。
鞘成分として、前記ポリアミド樹脂と前記水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを混合したものを用い、芯成分として前記水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを用い、常法により複合紡糸装置を用いて溶融紡糸を行う。このとき、鞘成分の相分離を抑制するため、紡糸ライン中あるいはノズルパック中に静止混合素子を充填して紡糸することが好ましい。紡糸温度を300℃以下、好ましくは250℃以下とし、紡出されたフィラメントを液体または空気中で冷却、固化させる。次に、冷却固化したフィラメントを巻き取るが、必要に応じて、引き続いて延伸してもよい。そして、繊維の状態あるいは織編物等の布帛にした後に沸水にて30分処理して、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを除去し、本発明のポリアミド中空繊維を得る。
【実施例】
【0045】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中における特性値の測定、評価は次のとおりに行った。
(1) ナイロン6の相対粘度
96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
(2)水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体の融点
前記の方法で測定した。
(3)中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さ(ポリマー厚さ)
前記の方法で測定した。
(4)中空部内径
繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、この写真から内径を測定した。
(5) 除去率(%)
溶出処理前の芯鞘複合モノフィラメントの試料の重さ(処理前質量)を測定し、溶出処理後の試料の重さ(処理後質量)を測定し、処理前後の重さから次式にて算出した。なお、溶出処理は、沸騰水を用い、浴比1:200、30分沸騰させて行った。
除去率(%)=〔(処理前質量−処理後質量)/除去ポリマー量〕×100
なお、比較例1のみ水酸化ナトリウム水溶液(NaOH40g/l)を用いて溶出処理を行った。
(6) 中空率(%)
溶出処理を行った後、繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、この写真から中空率を測定、算出した。
(7) 中空部と繊維表面とを連通する微細孔(連通孔)の有無
溶出処理後のポリアミド中空繊維(モノフィラメント)を通常の光学顕微鏡で観察しながら、モノフィラメントの中程に水を1滴垂らし、その水が中空部に達するか否かにより連通孔の有無を確認する。
(8)中空糸膜分離性能評価
得られた溶出処理後のポリアミド中空繊維を外周1mの検尺機で20回転捲き取り、その綛を10cm毎にナイロン糸で縛った後、2等分して長さ50cmの繊維束とした。その一端の断面を熱で溶融封止し、その溶融封止部から5cmともう一端の断面から10cmを残してエポキシ樹脂でコーティングし、評価サンプルを作成した。
図6に示すように、溶融封止した端面からコーティング部をインク水溶液(濃度0.5g/リットル、粒子径0.5〜5μmのレコーダーインク)に浸し、他方の端をコーティング部まで減圧容器に挿入して繋いだ後、減圧容器内を10リットル/分で減圧した。この減圧容器に透明な液体が溜まれば、インク水溶液中の水分子のみが微細孔間の薄膜と隣接する微細孔同士が重なり合う部分の連通孔を通過し、中空部分を通り抜けてきたということであり、水分子とインク粒子が分離できたと判断できる。結果を次の2段階で評価した。
○:減圧容器に透明な水が溜まる。
×:減圧容器に何も溜まらない。
【0046】
実施例1
ポリアミド成分として相対粘度3.5のナイロン6を、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体(PVA)として融点174℃、MFR=4(g/10min、190℃、2.16kg)であるクラレ社製PVA『CP-1210』(以下、PVA(1)とする)を用いた。鞘成分として、ナイロン6とPVAを85質量%/15質量%で混合したものを用い、芯成分として鞘成分で用いたのと同じPVAを用いた。
通常用いられる複合紡糸装置に導入し、鞘成分の吐出量6g/分、芯成分の吐出量24g/分、紡糸温度230℃にて溶融紡糸を行った。1孔の紡糸孔が穿孔された紡糸口金を使用し、溶融紡出した糸条をエアギャップ10cmにて、30℃の冷却バスにて冷却した後、第1ローラ速度40m/分、捲取速度40m/分で捲き取り、7500dtexのナイロンモノフィラメント(溶出処理前の芯鞘複合モノフィラメント)を得た。
得られたナイロンモノフィラメントを沸水にて30分処理して、PVAの溶出処理を行い、図1に示す断面形状を有するポリアミド中空繊維を得た。
【0047】
実施例2〜3、比較例2
鞘成分のナイロン6とPVA(1)の質量比と、芯成分と鞘成分の吐出量、巻取速度を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0048】
実施例4〜6
PVAとして融点209℃、1100poise(230℃、1000s-1)であるクラレ社製PVA『CP-4104』(以下、PVA(2)とする)を用い、芯鞘成分の比を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
実施例7〜9
PVAとして融点212℃、MFR=9(g/10min、230℃、2.16kg)であるクラレ社製PVA『CP-7000』(以下、PVA(2)とする)を用いた以外は、表1に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0050】
実施例10
PVAとして変成ポリビニルアルコール(エチレン成分8.4mol%共重合、平均重合度330、鹸化度98.5%、クラレ社製エクセバール)(以下、変性PVAとする)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0051】
実施例11〜12
鞘成分のナイロン6と変性PVAの質量比と、芯成分と鞘成分の吐出量、巻取速度を表1に示すように種々変更した以外は、実施例10と同様に行った。
【0052】
実施例13〜15
ポリアミド成分をナイロン12(相対粘度1.6、ダイセルデグサ社製N12「ダイアミド1640」)を用い、鞘成分のナイロン12と変性PVAの質量比と、芯成分と鞘成分の吐出量、巻取速度を表1に示すように種々変更した以外は、実施例10と同様に行った。
【0053】
比較例1
PVAに代えて、変成ポリエチレンテレフタレート〔5-ナトリウムスルホイソフタル酸2.5 モル%、分子量6000のエチレングリコール12.0質量%を共重合、相対粘度1.51(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液に、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した)〕(以下、変性PETとする)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0054】
実施例1〜15、比較例1〜2で得られたポリアミド中空繊維の特性値と評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より明らかなように、実施例1〜15で得られたポリアミド中空繊維は、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であったため、中空部と繊維表面とを連通する微細孔を多数有していた。このため、中空糸膜分離性能にも優れていた。
一方、比較例1で得られたポリアミド中空繊維は、溶出ポリマーとして変成ポリエチレンテレフタレートを用いたものであったので、また、比較例2で得られたポリアミド中空繊維は、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μmを超えていたため、ともに中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有していないものであり、中空糸膜分離性能を有していないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のポリアミド中空繊維の一実施態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明のポリアミド中空繊維の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図3】本発明のポリアミド中空繊維の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図4】本発明のポリアミド中空繊維の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図5】本発明のポリアミド中空繊維の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図6】本発明のポリアミド中空繊維の中空糸膜分離性能評価における測定方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された一又は複数の中空部を有するポリアミド成分からなる繊維であって、少なくとも一つの中空部において、中空部から繊維表面までのポリアミド成分の厚さが70μm以下であり、かつ中空部と繊維表面とを連通する微細孔を有することを特徴とするポリアミド中空繊維。
【請求項2】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体からなる芯成分と、芯成分を覆う水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を含有させたポリアミド成分からなる鞘成分とにより構成される複合繊維とし、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系重合体を溶出させることにより、中空部と微細孔を生じさせてなる請求項1記載のポリアミド中空繊維。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−197369(P2009−197369A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41537(P2008−41537)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】