説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】本発明は、優れた耐衝撃性と強度を有し、かつバイオマス比率が高いポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(a)1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して(b)変性ポリオレフィン樹脂5〜50重量部、(c)未変性ポリオレフィン樹脂0〜50重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、(b)変性ポリオレフィン樹脂と(c)未変性ポリオレフィン樹脂が30〜600nmの範囲の粒径で分散していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5―ジアミノペンタンを構成成分とするポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂からなる、耐衝撃性と強度に優れたポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成型性、耐熱性、耐薬品性、機械的特性などに優れた樹脂であり、自動車・車両関連部品、電気・電子関連部品、家庭・事務用電気製品関連部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、包装用資材、漁業関連資材などの幅広い用途に使用されている。特に、自動車・車両関連部品としてインテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ( ヒンジ付き成形品) 、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクター、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品への応用が検討されている。
【0003】
近年、これら用途の使用環境の多様性からより優れた強度および耐衝撃性が要求されている。
【0004】
ポリアミド樹脂に耐衝撃性を付与する方法として、特許文献1〜3にはポリアミド樹脂中に変性ポリオレフィン樹脂を配合する方法が提案されている。特許文献1には、1,5―ジアミノペンタンを構成成分とするポリアミド樹脂の記載があり、変性ポリオレフィンを配合することにより耐衝撃性が改良される記載があるものの、1,5―ジアミノペンタンを構成成分としたポリアミド樹脂はヘキサメチレンジアミンを構成成分構成成分とするポリアミド樹脂よりも強度、耐衝撃性に優れることは知られていなかった。また特許文献2,3には、ポリアミド樹脂として1,5―ジアミノペンタンの記載はなかった。
【0005】
さらに、二酸化炭素排出抑制による地球温暖化防止および循環型社会の形成に向けて、ポリアミドの製造原料を、現在のナフサ、いわゆる化石原料からバイオマス由来の原料に代替することが嘱望されている。すなわち、ポリアミドの原料として、バイオマス比率( ポリアミド樹脂の使用原料中に占めるバイオマス由来原料の割合) を高くすることが望まれている。
【特許文献1】特公昭42−12546号公報
【特許文献2】特公昭51−143061号公報
【特許文献3】特開平11−335553号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた耐衝撃性と強度を有し、且つバイオマス比率が高いポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)(a)1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して(b)変性ポリオレフィン樹脂5〜50重量部、(c)未変性ポリオレフィン樹脂0〜50重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、(b)変性ポリオレフィン樹脂と(c)未変性ポリオレフィン樹脂が30〜600nmの範囲の分散粒径で分散していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物、
(2)前記(b)変性ポリオレフィン樹脂が、エチレン・α―オレフィン系重合体100重量部に対して不飽和カルボン酸又はその誘導体0.05〜20重量部で変性された変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂組成物、
(3)前記(c)未変性ポリオレフィン樹脂がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリアミド樹脂組成物、
(4)前記(a)ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が2.0×10−5〜15.0×10−5mol/gであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物、
(5)(a)ポリアミド樹脂がポリペンタメチレンアジパミド樹脂又はポリペンタメチレンセバカミド樹脂であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物、
(6)(1)〜(5)のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃性、強度に優れるため、強度、耐衝撃性が必要とされる自動車部品、電気・電子部品において好適に使用することができる。さらに、バイオマス由来の原料を使用したポリアミド樹脂であるため、環境負荷低減への効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用する(a)1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂とは、1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸の総量が全単量体に対して80重量%以上であるポリアミド樹脂である。より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0011】
炭素数6〜12のジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などが挙げられる。特に、ジカルボン酸の入手性が容易であり、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶性、強度のバランスに優れるアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましい。
【0012】
(a)ポリアミド樹脂を構成する20重量%未満の共重合単位としては、ポリカプロアミド単位、ポリヘキサメチレンアジパミド単位、ポリテトラメチレンアジパミド単位、ポリヘキサメチレンセバカミド単位、ポリヘキサメチレンドデカミド単位、ポリウンデカンアミド単位、ポリドデカンアミド単位、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド単位、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド単位、ポリノナメチレンテレフタルアミド単位、ポリキシリレンアジパミド単位などが挙げられる。
【0013】
本発明を構成する1,5―ジアミノペンタンの製法に制限はないが、例えば、2−シクロヘキセン−1−オンなどのビニルケトン類を触媒としてリジンから合成する方法や、リジン脱炭酸酵素を用いてリジンから転換する方法などが既に提案されている。前者の方法では、反応温度が約150℃と高いのに対し、後者の方法は100℃未満であり、後者の方法を用いる方が、副反応をより低減できると考えられるため、原料としては後者の方法によって得られた1,5―ジアミノペンタンを用いることが好ましい。
【0014】
後者の方法で使用するリジン脱炭酸酵素は、リジンを1,5―ジアミノペンタンに転換させる酵素であり、Escherichia coli K12株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。
【0015】
本発明において使用するのが好ましいリジン脱炭酸酵素は、これらの生物に存在するものを使用することができ、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞由来のものも使用できる。
【0016】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0017】
また、リジン脱炭酸酵素を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0018】
このようなリジン脱炭酸酵素を持つ微生物としては、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium glutamicum)等が挙げられる。
【0019】
リジン脱炭酸酵素を得る方法に特に制限はないが、例えば、リジン脱炭酸酵素を有する微生物や、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した菌体を回収し、休止菌体として用いることも可能であり、また当該菌体を破砕して無細胞抽出液を調製して用いることも可能であり、また必要に応じて精製して用いることも可能である。
【0020】
リジン脱炭酸酵素を抽出するために、リジン脱炭酸酵素を有する微生物や組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、E.coliの場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0021】
培養条件にも特に制限はなく、例えばE.coliの場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は30℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0022】
増殖した微生物や組換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した微生物や組換え細胞から無細胞抽出液を調整するには、通常の方法が用いられる。すなわち、微生物や組換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により菌体残渣を除去することにより無細胞抽出液が得られる。
【0023】
無細胞抽出液からリジン脱炭酸酵素を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理等酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。精製は、完全精製である必要は必ずしもなく、リジン脱炭酸酵素以外のリジンの分解に関与する酵素、生成物であるペンタメチレンジアミンの分解酵素等の夾雑物が除去できればよい。
【0024】
リジン脱炭酸酵素によるリジンから1,5―ジアミノペンタンへの変換は、上記のようにして得られるリジン脱炭酸酵素を、リジンに接触させることによって行うことができる。
【0025】
反応溶液中のリジンの濃度については、特に制限はない。
【0026】
リジン脱炭酸酵素の量は、リジンを1,5―ジアミノペンタンに変換する反応を触媒するのに十分な量であればよい。
【0027】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは40℃前後である。
【0028】
反応pHは、通常、5〜8、好ましくは、約6である。1,5―ジアミノペンタンが生成するにつれ、反応溶液はアルカリ性へ変わるので、反応pHを維持するために無機あるいは有機の酸性物質を添加することが好ましい。好ましくは塩酸を使用することができる。
【0029】
反応には静置または攪拌のいずれの方法も採用し得る。
【0030】
リジン脱炭酸酵素は固定化されていてもよい。
【0031】
反応時間は、使用する酵素活性、基質濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リジンを供給しながら連続的に行ってもよい。
【0032】
このように生成した1,5―ジアミノペンタンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、溶媒抽出する方法、単蒸留する方法、その他通常の採取分離方法が採用できる。
【0033】
(a)ポリアミド樹脂の製造方法としては、実質的に1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸の塩、および水の混合物を、加熱して脱水反応を進行させる加圧加熱重縮合法が用いられる。加圧加熱重縮合とは、原料を水の共存下で加熱して、発生する水蒸気により重合系内を加圧状態としてプレポリマーを生成させた後、放圧して常圧に戻し、重合系内の温度を生成ポリマーの融点以上に上昇させ、さらに常圧あるいは減圧下に保持して重縮合させる方法である。
【0034】
(a)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、高温で重合反応を行うため、1,5―ジアミノペンタンが重合系内から揮発する、および/あるいは脱アンモニア反応により環化するなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなる可能性がある。そのため、原料を仕込む段階で、あらかじめ特定量の1,5―ジアミノペンタンを過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を制御することが、高分子量の(a)ポリアミド樹脂を合成するのに好ましい。原料として使用する1,5―ジアミノペンタンのモル数をa、炭素数6〜12のジカルボン酸のモル数をbとしたとき、その比a/bが1.005〜1.05となるように原料組成比を調整することが好ましく、1.01〜1.03となるように原料組成比を調整することがより好ましい。a/bが1.005未満の場合には、重合系内の全アミノ基量が、全カルボキシル基量よりも極めて少なくなり、十分に高分子量のポリマーが得られにくくなる。一方、a/bが1.05より大きい場合には、重合系内の全カルボキシル基量が、全アミノ基量よりも極めて少なくなり、十分に高分子量のポリマーが得られにくくなる。更にジアミン成分の揮散量も増加し、生産性、環境の点からも好ましくない。
【0035】
(a)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、ポリアミドの溶融重合において通常必要とされる、重合系内を加圧状態で保持して、プレポリマーを生成させる工程が必要であり、水共存下で行うことが必要である。水の仕込量は、原料と水をあわせた全仕込量に対して10〜70重量%とすることが好ましい。水が10重量%未満の場合には、ナイロン塩の均一溶解に時間がかかり、過度の熱履歴がかかる傾向があり好ましくない。逆に、水が70重量%より多い場合には、水の除去に多大な熱エネルギーが費やされ、プレポリマーを生成させるのに、時間がかかるため、好ましくない。さらに、加圧状態で保持する圧力は、10〜20kg/cmとすることが好ましい。10kg/cm未満に保持する場合には、1,5―ジアミノペンタンが重合系外へ揮発し易いため好ましくない。また、20kg/cmより高く保持する場合には、重合系内の温度を高くする必要があり、結果として1,5―ジアミノペンタンが系外へ揮発し易くなるため好ましくない。
【0036】
(a)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、1,5―ジアミノペンタンの揮発や、脱アンモニア反応による環化を抑制するためには、重合工程全体でポリマーが受ける熱履歴を極力小さくすることが重要であり、その手段として、重合系内の最高到達温度を低くすることが有効であるが、高分子量のポリアミド樹脂を得るためには、重合系内の最高到達温度は特定の温度領域に制御することが好ましい。本発明では、重合系内の最高到達温度を、得られる(a)ポリアミド樹脂の融点以上300℃以下にすることが好ましく、260〜290℃にすることがより好ましい。最高到達温度が融点未満の場合には、重合系内でポリマーが析出し、生産性が大幅に低下するので好ましくない。また、300℃より高い温度の場合には、1,5―ジアミノペンタンの揮発や環化が促進される上、得られるポリアミドが劣化する傾向がある。
【0037】
(a)ポリアミド樹脂は、加圧加熱重縮合後、さらに固相重合あるいは溶融押出機で高重合度化することによって、分子量を上昇させることも可能である。固相重合は、100℃〜融点の温度範囲で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより進行する。
【0038】
本発明の(a)ポリアミド樹脂の重合度に特に制限はないが、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.5〜5.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることが更に好ましい。相対粘度が1.5未満では、実用的強度が不十分なため、5.0を超えると流動性が低下するため溶融成形が困難となり好ましくない。
【0039】
また、本発明の(a)ポリアミド樹脂のアミノ末端基は2.0×10−5〜15.0×10−5mol/gであることが好ましく、3.0×10−5〜12.0×10−5mol/gであることが更に好ましい。15.0×10−5mol/gより多い場合には、溶融流動性の低下を引き起こすので好ましくない。2.0×10−5 mol/gよりも少ない場合には、変性ポリオレフィンとの反応性に乏しくポリオレフィンの分散粒径が大きくなり耐衝撃性の向上効果が小さく好ましくない。
【0040】
本発明で使用される(b)変性ポリオレフィンとしては、ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能性基を含むポリオレフィンであり、特にエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、およびカルボン酸金属塩基の中から選ばれた少なくとも1種をポリマー分子鎖中に含むポリオレフィンであり、特に好ましくは不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたエチレン・α−オレフィン共重合体である。
【0041】
(b)変性ポリオレフィン樹脂の成分として好ましく用いられる不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたエチレン・α−オレフィン共重合体とは、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上が共重合した共重合体が不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した樹脂である。前記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上の点から好ましい。このエチレン・α−オレフィン系共重合体は、α−オレフィン含量が好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。更に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1′−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。
【0042】
酸変性に用いられる変性剤としては、不飽和カルボン酸またはその誘導体が挙げられ、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸およびこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸水素メチル、イタコン酸水素メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、および5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸などである。これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好適であり、特にマレイン酸や無水マレイン酸が好適である。
【0043】
これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体成分をポリオレフィン樹脂に導入する方法に特に制限はなく、予め主成分であるオレフィン化合物と不飽和カルボン酸またはその誘導体化合物を共重合せしめたり、未変性ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸またはその誘導体化合物をラジカル開始剤を用いてグラフト化処理を行って導入するなどの方法を用いることができる。不飽和カルボン酸またはその誘導体成分の導入量は変性ポリオレフィン中のオレフィンモノマ全体に対して好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.4〜2重量部である。0.1重量部未満の場合には、ポリアミド樹脂との相溶性が不良となって、耐衝撃性を改良する効果が小さくなり、成型品の表面剥離が起こりやすく好ましくない。3.0重量部を超える場合には溶融流動性の低下を引き起こすので好ましくない。
【0044】
本発明の(b)変性ポリオレフィン樹脂のMFR(ASTM D 1238、190℃、2160g荷重)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなる場合もあるので注意が必要である。
【0045】
本発明で使用される(b)変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、5〜50重量部であり、好ましくは10〜30重量部である。変性ポリオレフィン樹脂の含有量が50重量部を超えると、剛性や耐熱性の低下を引き起こすため好ましくなく、また変性ポリオレフィン樹脂の含有量が5重量部未満になると本発明の特徴である高衝撃性の発現が困難になるため好ましくない。
【0046】
本発明で使用される(c)未変性ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体、未変性のエチレン・α−オレフィン共重合体、ビニルアルコールエステル単独重合体、ビニルアルコールエステル単独重合体の少なくとも一部を加水分解して得られる重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)とビニルアルコールエステルとの共重合体の少なくとも一部を加水分解して得られる重合体]、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体]、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化した共重合体]、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体、および、そのブロック共重合体の水素化物などが用いられる。
【0047】
なかでも、未変性のエチレン・α−オレフィン共重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体]、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化した共重合体]が好ましく、特に好ましくは、エチレン・α−オレフィン共重合体である。
【0048】
本発明で使用される(c)未変性ポリオレフィン樹脂の成分として用いられる好ましいエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンからなるエチレン・α−オレフィン系共重合体は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、 4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
【0049】
本発明の(c)未変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(以下MFRと略す。:ASTM D 1238、190℃、2160g荷重)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなる場合もあるので注意が必要である。
【0050】
本発明で使用される(c)未変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して0〜50重量部であり、好ましくは5〜30重量部である。未変性ポリオレフィン樹脂の含有量が50重量部を超えると、剛性や耐熱性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(b)変性ポリオレフィン樹脂により、効率的に耐衝撃性を向上させることができ、さらに、(c)未変性ポリオレフィン樹脂を規定の範囲内で併用することにより、分散性を悪化させずに高衝撃性を保持し、かつ良流動性を得ることができる。
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(a)ポリアミド樹脂が連続相、(b)変性ポリオレフィンと(c)未変性ポリオレフィン樹脂が分散相を形成し、(b)変性ポリオレフィン樹脂と(c)未変性ポリオレフィン樹脂が30〜600nmの範囲の分散粒径で分散している必要がある。ここで言う分散粒径とは、射出成形にて作成したASTM1号ダンベル片中心部から厚み80nmの薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡(倍率:1万倍)で観察した際の任意の100ヶの分散粒子について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後それら100ヶの平均値の平均値を求めた数平均粒子径として測定される。特に好ましい分散粒径の範囲は30〜400nmである。(b)変性ポリオレフィン樹脂と(c)未変性ポリオレフィン樹脂の分散粒径が30nm未満の場合、流動性の低下を招くため好ましくなく、また600nmを超えると、耐衝撃性改良効果が得られず好ましくない。
【0053】
本発明の1,5−ジアミノペンタンを構成成分とするポリアミド樹脂は、ヘキサメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂やテトラメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂と比較して、ポリオレフィンの分散粒子径が小さいという特徴を有している。炭素数が偶数であるジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂と比較して、本発明の炭素数が奇数であるペンタメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂は、分子鎖のパッキング性に劣り分子間相互作用が適度に弱まるため、ポリオレフィンの分散性は向上したものであると考えられる。
【0054】
また、本発明の(a)ポリアミド樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、要求される特性に応じて他のポリアミド樹脂や他のポリマー類を含有させることができる。具体的にはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。中でも好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン6/12コポリマーなどの例を挙げることができる。
【0055】
また、本発明の(a)ポリアミド樹脂には、発明の目的を損なわない範囲で、他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填材)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0056】
本発明のポリアミド樹脂組成物の調整方法は特定の方法に限定されないが、具体的且つ効率的な例として、原料のポリアミド樹脂、変性ポリオレフィン、未変性ポリオレフィンの混合物を単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給し、用いられるポリアミド樹脂の融点に応じて180〜300℃で溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0057】
かくして得られるポリアミド樹脂組成物は、通常公知の方法で成形することができ、射出成形、押出成形、圧縮成形などの成形品、シート、フィルムなどの成形物品とすることができる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、その優れた特性を活かし自動車・車両関連部品、電気・電子関連部品、家庭・事務用電気製品関連部品、コンピューター関連部品、機械関連部品などの幅広い用途に有用に用いることができる。特に、自動車・車両関連部品としてインテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ( ヒンジ付き成形品) 、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクター、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品用途に好適である。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。材料特性評価については下記の方法に従って行った。
【0059】
[アミノ末端基濃度]
フェノール/エタノール溶液(フェノール83.5%)をチモールブルーを指示薬として用い、塩酸で中和滴定を行った。
【0060】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0061】
[酸変性量の測定]
変性ポリオレフィン樹脂を200℃で溶融プレスして200μm厚程度のフィルムを作製し、このフィルムを5時間かけてアセトン抽出した後風乾し、赤外吸収スペクトルを、日本分光株式会社製FT−IR5300Aを用いて測定した。1850cm−1のピークにおける吸光度ΔAおよびフィルム厚みt(mm)を用い、次式に従って酸変性量を算出した。
変性量(重量部)=1.06×ΔA/t
【0062】
[分散粒径]
射出成形機(住友重機社製SG75H―MIV)を用いて、実施例1〜11、比較例1においてはシリンダー温度265℃、金型温度80℃によりASTM1号ダンベル片を作製し、同様に比較例2〜5においてはシリンダー温度280℃、金型温度80℃により作製し、比較例6,7においてはシリンダー温度310℃、金型温度110℃により作製し、実施例12,13においてはシリンダー温度240℃、金型温度80℃により作製し、比較例8,9においてはシリンダー温度250℃、金型温度80℃により作製し、そのASTM1号ダンベル片の中心部から厚み80nmの薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1万倍にて観察して得られた写真から、任意のポリオレフィン樹脂分散粒子100ヶの分散部分について画像処理ソフト「Scion Image」(Scion Corporation社製)を用いて、各々の粒子の最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後それら100ヶの平均値の数平均値を求めた。
【0063】
[23℃アイゾッド衝撃強度]
ASTM D256に準じて、23℃における1/8インチ厚ノッチ付き成型品のアイゾッド衝撃強度を測定した。
【0064】
[−20℃アイゾッド衝撃強度]
温度雰囲気を−20℃にした以外は、ASTM D256に従ってノッチ付きアイゾッド衝撃強度を測定した。
【0065】
[引張降伏応力]
ASTM D638に従って引張試験機テンシロンUTA2.5T(オリエンテック社製)により、厚さ1/8インチのASTM1号ダンベル試験片についてクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、求めた。
【0066】
[曲げ強度]
ASTM D790に従って曲げ試験機テンシロンRTA−1T(オリエンテック社製)により、厚さ1/4インチの棒状試験片についてクロスヘッド速度3mm/minで曲げ試験を行い、求めた。
【0067】
[高荷重DTUL]
東洋精機社製HDT−TESTERを使用し、厚さ1/4インチの棒状試験片を用いて、試験荷重18.6kgfでの荷重たわみ温度をASTM D648−82に準じて評価した。
【0068】
[MFR]
ASTM D 1238−65Tに従って測定した。
【0069】
参考例1(1,5−ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸の塩の調整)
1,5―ジアミノペンタン10.0gを、水25.0g中に溶解した水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して攪拌しているところに、炭素数6〜12のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5―ジアミノペンタンと炭素数が6〜12のジカルボン酸の等モル塩の50重量%水溶液を調整した。
【0070】
参考例2(ポリペンタメチレンアジパミドの製造1)
参考例1で調整した1,5―ジアミノペンタンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液を1500g(3.024mol)、1,5―ジアミノペンタンの10重量%水溶液を46.26g(1,5―ジアミノペンタン含量45.26mmol)、末端封鎖剤として安息香酸を0.74g(6.05mmol)を重合缶に入れ、重合缶内を充分に窒素置換した後、攪拌しながら昇温を開始した。缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、缶内圧力を17.5kg/cmで90分保持し、その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し最終到達温度は270℃とした。更に−160mmHgの減圧下270℃で30分間反応させ重合を完了した。その後水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたポリペンタメチレンアジパミドの濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した相対溶液粘度は2.76であり、アミノ末端基量は3.36×10−5mol/g、カルボキシル末端基量は7.59×10−5mol/g、アミノ末端基量とカルボキシル末端基量の比は0.44であった。
【0071】
参考例3(ポリペンタメチレンアジパミドの製造2)
参考例1で調整した1,5―ジアミノペンタンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液を1500g(3.024mol)、末端封鎖剤として安息香酸を2.37g(19.41mmol)を重合缶に入れ、重合缶内を充分に窒素置換した後、攪拌しながら加温を開始した。缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、缶内圧力を17.5kg/cmで90分保持し、その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し最終到達温度は273℃とした。更に−160mmHgの減圧下270℃で60分間反応させ重合を完了した。その後、その後水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズし、80℃で10時間真空乾燥した。得られたポリペンタメチレンアジパミドの濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した相対溶液粘度は2.70であり、アミノ末端基量は0.62×10−5mol/g、カルボキシル末端基量は10.32×10−5mol/g、アミノ末端基量とカルボキシル末端基量の比は0.06であった。
【0072】
参考例4(ポリペンタメチレンセバカミドの製造)
参考例1で調整した1,5―ジアミノペンタンとセバシン酸の等モル塩の50重量%水溶液1500g、さらに過剰に1,5―ジアミノペンタンを2.56g(24.67mmol)、末端封鎖剤として安息香酸を0.71g(5.85mmol)を重合缶に入れ、重合缶内を充分に窒素置換した後、攪拌しながら昇温を開始した。缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、缶内圧力を17.5kg/cmで74分保持し、その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、最終到達温度は264℃とした。更に−160mmHgの減圧下260℃で40分間反応させ重合を完了した。その後水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたポリペンタメチレンセバカミドの濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した相対溶液粘度は2.71であり、アミノ末端基量は3.42×10−5mol/g、カルボキシル末端基量は7.68×10−5mol/g、アミノ末端基量とカルボキシル末端基量の比は0.45であった。
【0073】
(実施例1〜11、比較例1、2)
下に示す各成分を表1、2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmに設定して溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのモルフォロジー、機械特性、耐熱性、流動性を評価した結果は表1、表2に示すとおりである。本実施例では、比較例1、2と比較して、耐衝撃性、強度に優れるものであった。
【0074】
【表1】

【0075】
(比較例3〜6)
下に示す各成分を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度280℃、スクリュー回転数200rpmに設定して溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度280℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのモルフォロジー、機械特性、耐熱性、流動性を評価した結果は表2に示すとおりである。比較例3〜6はポリヘキサメチレンアジパミド樹脂を用いた場合であるが、本実施例1〜11と比較して耐衝撃性改良効果が小さく強度、耐熱性にも劣る。これに対して本実施例は、優れた耐衝撃性、強度と耐熱性をバランスよく有している。
【0076】
(比較例7,8)
下に示す各成分を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度310℃、スクリュー回転数200rpmに設定して溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度310℃、金型温度110℃)により試験片を調製した。各サンプルのモルフォロジー、機械特性、耐熱性、流動性を評価した結果は表2に示すとおりである。比較例7、8はポリテトラメチレンアジパミド樹脂を用いた場合であるが、本実施例1〜11と比較して耐衝撃性の低下が見られた。これに対して本実施例は、優れた耐衝撃性、強度と耐熱性をバランスよく有している。
【0077】
【表2】

【0078】
(実施例12,13)
下に示す各成分を表3に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度240℃、スクリュー回転数200rpmに設定して溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度240℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのモルフォロジー、機械特性、耐熱性、流動性を評価した結果は表3に示すとおりである。本実施例12、13では、比較例9,10と比較して、優れた耐衝撃性、強度と耐熱性をバランスよく有している。
【0079】
(比較例9,10)
下に示す各成分を表3に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数200rpmに設定して溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度250℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルのモルフォロジー、機械特性、耐熱性、流動性を評価した結果は表2に示すとおりである。比較例9,10は、ポリヘキサメチレンセバカミド樹脂を用いた場合であるが、本実施例12,13と比較して耐衝撃性、強度が低下した。これに対して本実施例は、優れた耐衝撃性、強度と耐熱性をバランスよく有している。
【0080】
【表3】

【0081】
本実施例および比較例に用いた(a)ポリアミド樹脂は以下の通りである。
(a−1):参考例2で得たポリペンタメチレンアジパミド
(a−2):参考例3で得たポリペンタメチレンアジパミド
(a−3):98%硫酸中、0.01g/ml濃度での相対粘度が2.78であり、アミノ末端基量が3.28×10−5mol/gであるナイロン66樹脂(東レ製CM3001)
(a−4):98%硫酸中、1g/dl濃度での相対粘度が3.00であるナイロン46樹脂(DSM社製「Stanyl」)
(a−5):参考例4で得たポリペンタメチレンセバカミド
(a−6):98%硫酸中、0.01g/ml濃度での相対粘度が2.70であり、アミノ末端基量が3.52×10−5mol/gであるナイロン610樹脂(東レ製CM2001)
【0082】
同様に、(b)変性ポリオレフィン樹脂は以下の通りである。
(b−1):MFR6g/10分、密度0.956g/cmである高密度ポリエチレン100重量部、無水マレイン酸0.12重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.01重量部を混合し、二軸押出機を用いてシリンダー温度200℃で溶融押出して得られた変性ポリエチレンであり、酸変性量は0.1重量部である。
(b−2):MFR6g/10分、密度0.956g/cmである高密度ポリエチレン100重量部、無水マレイン酸1.23重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.1重量部を混合し、二軸押出機を用いてシリンダー温度200℃で溶融押出して得られた変性ポリエチレンであり、酸変性量は1.2重量部である。
(b−3):MFR6g/10分、密度0.956g/cmである高密度ポリエチレン100重量部、無水マレイン酸4.62重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.4重量部を混合し、二軸押出機を用いてシリンダー温度200℃で溶融押出して得られた変性ポリエチレンであり、酸変性量は4.2重量部である。
(b−4):エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”ETX6)。
【0083】
同様に、(c)未変性ポリオレフィン樹脂は以下の通りである。
(c−1):エチレン/1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX−610)。
(c−2):線状低密度ポリエチレン(LLDPE:三井化学製“エボリュー”SP0540)。
(c−3):高密度ポリエチレン(HDPE:三井化学製“ハイゼックス”5305E)。
【0084】
また、耐熱材として用いた添加剤は以下の通りである。
(d−1):N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(TTAD:東レファインケミカル製)。
(d−2):ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(アデカスタブPEP−36:旭電化製)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1,5―ジアミノペンタンと炭素数6〜12のジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して(b)変性ポリオレフィン樹脂5〜50重量部、(c)未変性ポリオレフィン樹脂0〜50重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、(b)変性ポリオレフィン樹脂と(c)未変性ポリオレフィン樹脂が30〜600nmの範囲の分散粒径で分散していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b)変性ポリオレフィン樹脂が、エチレン・α―オレフィン系重合体100重量部に対して不飽和カルボン酸又はその誘導体0.1〜3重量部で変性された変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)未変性ポリオレフィン樹脂がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(a)ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が2.0×10−5〜15.0×10−5mol/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
(a)ポリアミド樹脂がポリペンタメチレンアジパミド樹脂又はポリペンタメチレンセバカミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2010−70701(P2010−70701A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242033(P2008−242033)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】