説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】従来のメタキシリレンアジパミド樹脂よりも、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速いメタキシリレン系ポリアミド樹脂系樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】ジアミン構成単位の30〜95モル%がメタキシリレンジアミンに、70〜5モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、充填材(B)を15〜200質量部含有ることを特徴とするポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関し、詳しくは、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速いメタキシリレン系ポリアミド樹脂組成物および当該組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐衝撃性、耐摩擦・摩耗性などの機械的強度に優れ、耐熱性、耐油性などにも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、自動車部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、機械部品、建材・住設関連部品などの分野で広く使用されており、近年更に使用分野が広がっている。
【0003】
ポリアミド樹脂には、例えばポリアミド6、ポリアミド66など多くの種類が知られているが、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から得られるメタキシリレンアジパミド(以下、「MXD6」ともいう。)は、ポリアミド6、ポリアミド66などとは異なって、主鎖に芳香環を有し、高剛性、低吸水率で、耐油性に優れ、また成形においては、成形収縮率が小さく、引けやソリが小さいことから精密成形にも適しており、極めて優れたポリアミド樹脂として位置付けられる。これらのことから、MXD6は、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材等の様々な分野での成形材料、特に射出成形用材料として、近年ますます広く利用されてきている。
【0004】
しかし、MXD6は、ポリアミド66などの他のポリアミドに比べれば、吸水率は低いが、近年の更なる要求に伴い、より吸水率の低い成形材料が求められている。また、メタキシリレン系ポリアミド樹脂は、その結晶化速度が遅いことが問題となっており、MXD6に対しては各種検討が行われている(例えば特許文献1参照)。
また、より軽くて強いポリアミド樹脂材料も求められている。MXD6よりも軽く、吸水率の低いメタキシリレン系ポリアミド樹脂として、メタキシレンジアミンとセバシン酸から得られるメタキシリレンセバカミド(以下、「MXD10」ともいう。)がある。
【0005】
しかしながら、MXD10は、MXD6に比して、さらに結晶化速度が遅いため、MXD6に対する上記の改善方法はMXD10に対しては十分ではなく、また、MXD10の結晶化速度を高める検討自体も、今まであまり行われていない。MXD10の結晶化速度を改善する処方として、特許文献2が提案されているが、十分といえるものではなく、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−63860号公報
【特許文献2】特開昭63−137956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、従来のMXD6やMXD10よりも、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速いポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ジアミン構成単位として、特定比率のメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合ジアミンを用い、特定量のセバシン酸と重縮合させたポリアミド樹脂を使用し、これに充填材を特定量配合することにより、上記問題が解決された、優れたポリアミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ジアミン構成単位の30〜95モル%がメタキシリレンジアミンに、70〜5モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、充填材(B)を15〜200質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリアミド樹脂(A)の水分率が、0.01〜0.5質量%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、ポリアミド樹脂組成物の水分率が、0.01〜0.1質量%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、ポリアミド樹脂(A)の密度が、1.1〜1.2g/cmであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、ポリアミド樹脂(A)のリン原子濃度が、50〜1,000ppmであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、ポリアミド樹脂組成物のリン原子濃度が、50〜1,000ppmであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、さらに、カルボジイミド化合物(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜2質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、カルボジイミド化合物(C)が、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、さらに、安定剤(D)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第10の発明によれば、第9の発明において、安定剤(D)が、無機系、芳香族第2級アミン系または有機硫黄系の安定剤から選ばれることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0019】
さらに、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、メタキシリレンアジパミド樹脂(MXD6)材料よりも、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速いメタキシリレン系ポリアミド樹脂系組成物であり、特に射出成形用の材料として好適である。また、本発明のポリアミド樹脂組成物から得られる成形品は、変色等の問題もなく、結晶化の程度も十分で、外観や耐衝撃性等の機械物性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1.発明の概要]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジアミン構成単位の30〜95モル%がメタキシリレンジアミンに、70〜5モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、充填材(B)を15〜200質量部含有することを特徴とする。
以下、本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する各成分について、詳細に説明する。
【0022】
[2.ポリアミド樹脂(A)]
本発明で使用するポリアミド樹脂(A)は、ジアミン成分に由来する構成単位の30〜95モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、70〜5モル%がパラキシリレンジアミンに由来するものであり、かつジカルボン酸成分に由来する構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂である。
【0023】
ポリアミド樹脂(A)のジアミン成分として、メタキシリレンジアミンにパラキシリレンジアミンを加えることで、ポリアミド樹脂(A)の融点やガラス転移点、耐熱性、結晶化速度を向上させることができる。
また、ジアミン成分およびジカルボン酸成分の構成が上記範囲であると、ポリアミド樹脂(A)及び最終的に得られるポリアミド樹脂組成物の吸水率を最適化することができ、さらには、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶化速度を速くし、離型性等の成形加工性を向上させることができ、外観が良好な成形品が得られる。また、成形品を薄肉化しても、弾性率等の物性を保持することができるため、成形品の軽量化を図ることもできる。
【0024】
メタキシリレンジアミンの量は、ジアミン成分中、30モル%を下回ると成形品の外観が悪くなり、95モル%を超えると結晶化速度が遅くなる。メタキシリレンジアミンの量は、好ましくは40〜90モル%、より好ましくは45〜80モル%、さらに好ましくは50〜70モル%である。
また、パラキシリレンジアミンの量は、ジアミン成分中、70モル%を上回ると成形品の外観が悪くなり、5モル%を下回ると結晶化速度が遅くなる。パラキシリレンジアミンの量は、好ましくは60〜10モル%、より好ましくは55〜20モル%、さらに好ましくは50〜30モル%である。
【0025】
また、セバシン酸の量は、ジカルボン酸成分中、50モル%を下回ると、ポリアミド樹脂(A)の水分率が高くなり、吸水性(吸湿性)が増し、密度が大きくなる。セバシン酸の量が多くなるほど軽量化ができる。セバシン酸の量は、好ましくは60〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%である。
【0026】
ポリアミド樹脂(A)としては、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを上記範囲内で含み、その他のジアミンを含むジアミン成分と、セバシン酸を上記範囲で含み、その他のジカルボン酸を含むジカルボン酸成分とを、重縮合することにより得られる共重縮合ポリマーであってもよい。
【0027】
ポリアミド樹脂(A)の製造に使用できるメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
ポリアミド樹脂(A)の製造に使用できるセバシン酸以外のジカルボン酸成分としては、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分が好ましく、例えばアジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいジカルボン酸としては、アジピン酸が挙げられる。セバシン酸以外のジカルボン酸成分を使用する場合は、これらの中でも、アジピン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等を用いることが好ましい。アジピン酸を併用することで、弾性率や吸水率、結晶性をコントロールしやすくなる。アジピン酸の量は、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。また、ウンデカン二酸、ドデカン二酸を併用することで、ポリアミド樹脂(A)の比重が小さくなり、成形品が軽量化されるため好ましい。
セバシン酸以外の炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を使用する場合の好ましい使用割合は、50モル%未満であり、好ましくは40モル%以下である。
【0029】
また、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類なども使用でき、これらを併用することもできる。
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂(A)を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用することもできる。
【0030】
また、上記したポリアミド樹脂(A)は、一種類もしくは複数の樹脂をブレンドして使用することもできる。
【0031】
ポリアミド樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法、重合条件により製造される。ポリアミド樹脂の重縮合時に分子量調節剤として少量のモノアミン、モノカルボン酸を加えてもよい。
本発明のポリアミド樹脂は、溶融状態における重縮合、もしくは一旦溶融状態で重縮合して低粘度ポリアミドを得た後、固相状態で加熱処理する、いわゆる固相重合により得ることができる。
【0032】
溶融状態における重縮合方法は特に限定されるものではないが、ジアミン成分とジカルボン酸成分とのポリアミド塩の水溶液を加圧下で加熱し、水および縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧または水蒸気加圧雰囲気下で重縮合する方法を例示できる。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、ジアミン成分を溶融ジカルボン酸相に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。その他重合条件は特に限定されないが、原料ジカルボン酸成分、およびジアミン成分の仕込み比、重合触媒、分子量調節剤を適宜選択し、重合温度を低く、重合時間を短くなるようにすることで、上記の特性、特に熱的性質を制御したポリアミド樹脂を製造することができる。
また、更にポリアミド樹脂の分子量を高める必要がある場合、固相重合を行うことが好ましい。固相重合方法は、特に限定されず、回分式加熱装置等を用いて不活性ガス雰囲気下、あるいは減圧下にて実施できる。
【0033】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等のリン化合物、またはそれらの塩やエステル化合物が挙げられる。塩及びエステルを形成する具体例としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、バナジウム、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属塩、アンモニウム塩、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、オクタデシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等を挙げることが出来る。これらの中でも、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。
また更に、上記重合触媒が、熱時劣化等により、ポリアミド樹脂中に凝集したり、異常反応を引き起こすことを抑制するために、アルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を併せて添加することも出来る。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび炭酸、ホウ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、クロトン酸、吉草酸、カプロン酸、イソカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、ヒドロケイ皮酸、γ‐フェニル酪酸、p−フェノキシ安息香酸、o−オキシケイ皮酸、o−β−クロルフェニルプロピオン酸、m−クロルフェニルプロピオン酸のアルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物が例示されるが、これら化合物に限定されるものではない。これらの中でも、酢酸ナトリウムが好ましい。
【0034】
本発明の樹脂組成物に使用するポリアミド樹脂(A)は、最終的に得られるポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度が50〜1,000ppmとなるように、リン化合物を含有することが好ましい。なお、本発明において、ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度とは、ポリアミド樹脂組成物中から、後記の充填材(D)等の無機成分を取り除いた後の有機成分中に残存するリン原子濃度とする。リン化合物は、上記した重合触媒に由来するものが多いが、特に限定されない。ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度は、好ましくは50〜1,000ppm、より好ましくは100〜800ppm、さらに好ましくは150〜600ppm、特に好ましくは200〜400ppmである。ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度が50ppm未満であると、コンパウンド時あるいはポリアミド樹脂組成物の成形加工時に黄変しやすい傾向にある。逆に、1,000ppmを超えると、熱安定性が悪くなり、機械的強度が低下しやすい傾向にある。リン原子濃度は、ポリアミド樹脂(A)重合時の重合触媒の種類、量、重合条件を調整したり、得られたポリアミド樹脂(A)を、水、熱水等の抽出溶媒で抽出処理することにより洗浄し、触媒残渣の過多分を除去することにより調整することができる。本発明においては、重合触媒の種類、量を調整する方法が好ましい。
【0035】
ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度の測定は、ポリアミド樹脂(A)を濃硫酸で湿式分解後、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により、波長213.618nmにて定量することができる。
【0036】
また、ポリアミド樹脂(A)の密度は、1.1〜1.2g/cmであることが好ましい。この範囲であると、ポリアミド樹脂組成物が強度と軽さを兼備えたものとすることができる。より好ましくは、1.11〜1.165g/cmの範囲である。
ポリアミド樹脂(A)の密度は、JIS K7112 A法(水中置換法)に準拠し測定することができる。
【0037】
また、本発明の樹脂組成物に使用するポリアミド樹脂(A)は、その水分率が0.01〜0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.4質量%、さらに好ましくは0.03〜0.3質量%、特に好ましくは0.05〜0.2質量%である。
水分率が0.5質量%より高いと、充填材をコンパウンドする際にポリアミド樹脂(A)が加水分解しやすく、得られた樹脂組成物の剛性や衝撃強度等の機械的物性が低下する場合があるため好ましくない。一方、水分率が0.01質量%より低いと、ポリアミド樹脂(A)を乾燥させる際にポリアミド樹脂(A)が黄変することがあり、好ましくない。また、コンパウンド時に、後記する安定剤(D)、特に無機系、特に銅化合物系の安定剤を配合するに際し、水分率が0.01質量%より低いと、安定剤(D)の分散が不良となり、得られたポリアミド樹脂組成物の耐熱性などの物性が低下することがあり好ましくない。
【0038】
このような範囲に水分率を調整するには、従来公知の方法を採用することができる。例えば、ベント付きの押出機でポリアミド樹脂を溶融押出する際にベント孔を減圧にすることでポリマー中の水分を除去する方法、ポリアミド樹脂をタンブラー(回転式真空槽)中に仕込み、空気、不活性ガス雰囲気下または減圧下でポリアミド樹脂の融点未満の温度で加熱して乾燥する方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。原料ジアミン成分およびジカルボン酸成分の種類、組成比を調整することによっても、水分率を最適化することができる。
【0039】
なお、ここでの水分率は、ポリアミド樹脂(A)のペレットを用いた、カールフィッシャー法により測定できる。測定温度は、ポリアミドの融点−5℃とし、測定時間は30分である。
また、ポリアミド樹脂(A)の吸水率(23℃水浸漬7日後)は、0.01〜0.5質量%が好ましく、0.01〜0.45質量%がより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の吸水率は、ポリアミド樹脂(A)のみを射出成形し、得られた成形片を23℃にて7日間水浸漬した後に、表面の付着水を除去し、カールフィッシャー法により求めることができる。測定温度は融点−5℃、測定時間は30分である。
ポリアミド樹脂(A)の吸水率が上記範囲にあると、ポリアミド樹脂組成物の吸水を抑制でき、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品の吸水による強度低下を抑制できるため好ましい。
【0040】
ポリアミド樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定によるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)換算値として、18,000〜70,000が好ましく、より好ましくは、20,000〜50,000である。この範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性が良好である。また、ポリアミド樹脂(A)の融点は、150〜300℃が好ましい。また、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移点(Tg)は、55〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜100℃である。この範囲であると、耐熱性が良好であり、成形性が良好である。
なお、ポリアミド樹脂(A)の融点及びガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC)法によって測定することができ、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定される融点、ガラス転移点をいう。具体的には、例えば、30℃から予想される融点以上の温度まで10℃/分の速度で昇温し、2分間保持した後、30℃まで20℃/分の速度で降温する。次いで、10℃/分の速度で融点以上の温度まで昇温し、融点、ガラス転移点を求めることができる。
【0041】
また、本発明のポリアミド樹脂(A)には、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂(A)以外の樹脂、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を一種もしくは複数ブレンドすることもできる。
また、本発明においては、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を配合することなしに十分に本発明の効果を達成するものであるが、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド6/66等の脂肪族ポリアミド樹脂や、ポリアミド6I、ポリアミド6T、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂を単独または複数添加することを排除しない。ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を配合する場合は、これらの中でも、ポリアミド6及び/又はポリアミド66を配合すると、ポリアミド樹脂組成物の結晶化速度がより速くなり、成形時の成形サイクルをより短縮することができるため好ましい。
【0042】
[3.充填材(B)]
本発明のポリアミド樹脂組成物に配合する充填材(B)は、この種の組成物一般に用いられるものであれば特に制限は無く、粉末状、繊維状、粒状および板状の無機充填材が、また、樹脂系の充填材あるいは天然系の充填材も好ましく使用出来る。
粉末状、粒状の充填材としては、好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下の粒径を有したものであり、カオリナイト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、アルミナ、ガラスビーズ、カーボンブラック、硫化物及び金属酸化物等が使用出来る。繊維状充填材としては、ガラス繊維、チタン酸カリウムや硫酸カルシウムのウィスカー、ワラストナイト、カーボン繊維、鉱物繊維、及びアルミナ繊維等が使用出来る。板状充填材としては、ガラスフレーク、マイカ、タルク、クレー、黒鉛、セリサイト等が挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維、タルク、マイカ、ワラストナイトから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。
樹脂系の充填材としては、芳香族液晶性ポリエステル樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、アクリル繊維、ポリ(ベンズイミダゾール)繊維等も挙げられる。
天然系の充填材としては、ケナフ、パルプ、麻パルプ、木材パルプ等が挙げられる。
【0043】
充填材(B)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、15〜200質量部、好ましくは30〜180質量部、より好ましくは50〜150質量部である。含有量が15質量部未満では、得られるポリアミド樹脂組成物成形品の機械的強度が不足する。一方、200質量部を超えるとポリアミド樹脂組成物の流動性が悪化し、溶融混練、成形等が困難となる。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物では、求める成形加工性に応じて結晶核剤を使用することが出来る。結晶核剤には一般的に用いられているタルクや窒化ホウ素等が挙げられるが、有機核剤でもよい。核剤の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、有機核剤や窒化ホウ素の場合、0.001〜6質量部、好ましくは0.02〜2質量部、より好ましくは0.05〜1質量部である。少ない場合は期待される核剤効果が得られず離型性が低下する場合があり、多すぎると耐衝撃性や表面外観が低下する傾向がある。タルクを用いる場合は、0.1〜8質量部、好ましくは0.3〜2質量部である。タルク、窒化ホウ素以外の無機核剤の場合、0.3〜8質量部、好ましくは0.5〜4質量部である。少なすぎると核剤効果が得られず、多すぎると異物効果となって機械的強度や耐衝撃値が低下する傾向にある。本発明においては、耐衝撃性、引張伸度、曲げ撓み量等の機械的特性の点から、タルク又は窒化ホウ素を配合することが好ましい。
【0045】
タルクとしては、数平均粒子径で2μm以下のものが好ましい。窒化ホウ素としては、数平均粒子径が、通常10μm以下、好ましくは0.005〜5μm、より好ましくは0.01〜3μmである。なお、タルクの数平均粒子径は、通常、レーザー回折・散乱式の粒度分布計を用いた測定によって得られる値である。
【0046】
[4.添加剤]
[4.1 耐加水分解性改良剤−カルボジイミド化合物(C)]
本発明のポリアミド樹脂組成物には、耐加水分解性改良剤としてのカルボジイミド化合物(C)を配合することが好ましい。カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造した芳香族、脂肪族又は脂環式のポリカルボジイミド化合物が好ましく挙げられる。これらの中で、押出し時等における溶融混練性の面から、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物が好ましく、脂環式ポリカルボジイミド化合物がより好ましく用いられる。
【0047】
これらのカルボジイミド化合物(C)は、有機ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応することで製造することができる。例えば、カルボジイミド化触媒の存在下、各種有機ポリイソシアネートを約70℃以上の温度で不活性溶媒中、もしくは溶媒を使用することなく、脱炭酸縮合反応させることによって合成する方法等を挙げることができる。イソシアネート基含有率は、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは1〜3%である。上記のような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂(A)との反応が容易となり、耐加水分解性が良好となる傾向にある。
【0048】
カルボジイミド化合物(C)の合成原料である有機ポリイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート等の各種有機ジイソシアネートやこれらの混合物を使用することができる。
有機ジイソシアネートとしては、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)=ジイソシアネート等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)=ジイソシアネートが好ましい。
【0049】
カルボジイミド化合物(C)の末端を封止してその重合度を制御するために、モノイソシアネート等の末端封止剤を使用することも好ましい。モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0050】
なお、末端封止剤としては、上記のモノイソシアネートに限定されることはなく、イソシアネートと反応し得る活性水素化合物であればよい。このような活性水素化合物としては、脂肪族、芳香族、脂環式の化合物の中で、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の−OH基を持つ化合物、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン、コハク酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等のチオール類やエポキシ基を有する化合物等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。
【0051】
カルボジイミド化触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等、チタン酸テトラブチル等の金属触媒等を使用することができ、これらのなかでは、反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。カルボジイミド化触媒は、2種以上併用してもよい。
【0052】
カルボジイミド化合物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部であり、さらに好ましくは、0.2〜1.5質量部、特に好ましくは、0.3〜1.5質量部である。0.1質量部未満では樹脂組成物の耐加水分解性が十分ではなく、押出等の溶融混練時の吐出ムラが発生しやすく、溶融混練が不十分となりやすい。一方、2質量部を超えると、溶融混練時の樹脂組成物の粘度が著しく増加し、溶融混練性、成形加工性が悪くなりやすい。
【0053】
[4.2 安定剤(D)]
本発明のポリアミド樹脂(A)には、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤)を配合することが好ましい。安定剤としては、例えば、芳香族第2級アミン系、有機硫黄系、リン系、フェノール系などの有機系安定剤、銅化合物やハロゲン化物などの無機系安定剤が挙げられる。
【0054】
・芳香族第2級アミン系安定剤:
芳香族第2級アミン系安定剤としては、ジフェニルアミン骨格を有する化合物、フェニルナフチルアミン骨格を有する化合物及びジナフチルアミン骨格を有する化合物が好ましく、ジフェニルアミン骨格を有する化合物及びフェニルナフチルアミン骨格を有する化合物がより好ましい。
【0055】
具体的には、p,p′−ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基の炭素数:8〜14)、オクチル化ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−N′−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等のジフェニルアミン骨格を有する化合物;
N−フェニル−1−ナフチルアミン及びN,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等のフェニルナフチルアミン骨格を有する化合物;
2,2′−ジナフチルアミン、1,2′−ジナフチルアミン、及び1,1′−ジナフチルアミン等のジナフチルアミン骨格を有する化合物;
あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0056】
これらの中でも、4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン及びN,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミンが好ましく、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン及び4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが特に好ましい。
【0057】
・有機硫黄系安定剤:
有機硫黄系安定剤としては、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、チオウレア系化合物及び有機チオ酸系化合物が好ましく、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物及び有機チオ酸系化合物がより好ましい。
具体的には、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、及び2−メルカプトベンゾイミダゾールの金属塩等のメルカプトベンゾイミダゾール系化合物;
ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、及びペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等の有機チオ酸系化合物;
ジエチルジチオカルバミン酸の金属塩及びジブチルジチオカルバミン酸の金属塩等のジチオカルバミン酸系化合物;
並びに1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素及びトリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物;
あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
これらの中でも、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート及びペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましく、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2−メルカプトベンゾイミダゾール、及びジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネートがより好ましく、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が特に好ましい。
有機硫黄系化合物の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3,000である。
【0059】
上記の有機硫黄系安定剤または芳香族第2級アミン系安定剤を配合する場合は、これらを併用することが好ましい。これらを併用することによって、それぞれ単独で使用した場合よりも、ポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性が良好となる傾向にある。
【0060】
より具体的な有機硫黄系安定剤及び芳香族第2級アミン系安定剤の好適な組み合わせとしては、有機硫黄系安定剤として、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)から選ばれる少なくとも1種と、芳香族第2級アミン系安定剤が、4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン及びN,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。さらに、有機硫黄系安定剤が、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、芳香族第2級アミン系安定剤が、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの組み合わせがより好ましい。
【0061】
また、上記有機硫黄系安定剤と芳香族第2級アミン系安定剤とを併用する場合は、ポリアミド樹脂組成物中の含有量比(質量比)で、芳香族第2級アミン系安定剤/有機硫黄系安定剤=0.05〜15であることが好ましく、0.1〜5であることがより好ましく、0.2〜2がさらに好ましい。このような含有量比とすることにより、バリア性を維持しつつ、耐熱老化性を効率的に向上させることができる。
【0062】
・フェノール系安定剤:
フェノール系安定剤としては、例えば、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−1,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等を例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0063】
これらの中でも、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン及びN,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)のヒンダードフェノール系安定剤が、好ましく挙げられる。
【0064】
・リン系安定剤:
リン系安定剤としては、ホスファイト系、ホスホナイト系のものが好ましい。
ホスファイト化合物としては、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−sec−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−t−オクチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられ、特に、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0065】
ホスホナイト化合物としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、特に、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0066】
・無機系安定剤:
無機系安定剤としては、銅化合物及びハロゲン化物が好ましい。
無機系安定剤として使用される銅化合物は、種々の無機酸または有機酸の銅塩であって、後記のハロゲン化物を除くものである。銅としては、第1銅、第2銅の何れでもよく、その具体例としては、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、リン酸銅、ステアリン酸銅の他、ハイドロタルサイト、スチヒタイト、パイロライト等の天然鉱物が挙げられる。
【0067】
また、無機系安定剤として使用されるハロゲン化物としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物;ハロゲン化アンモニウム及び有機化合物の第4級アンモニウムのハロゲン化物;ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリル等の有機ハロゲン化物が挙げられ、その具体例としては、ヨウ化アンモニウム、ステアリルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムアイオダイド等が挙げられる。これらの中では、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩が好適である。
【0068】
銅化合物とハロゲン化物との併用、特に、銅化合物とハロゲン化アルカリ金属塩との併用は、耐熱変色性、耐候性(耐光性)の面で優れた効果を発揮するので好ましい。例えば、銅化合物を単独で使用する場合は、成形品が銅により赤褐色に着色することがあり、この着色は用途によっては好ましくない。この場合、銅化合物とハロゲン化物と併用することにより赤褐色への変色を防止することが出来る。
【0069】
本発明においては、上記の安定剤のうち、溶融成形時の加工安定性、耐熱老化性、成形品外観、着色防止の点から、特には、無機系、芳香族第2級アミン系または有機硫黄系の安定剤が特に好ましい。
【0070】
前記の安定剤(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量部である。含有量を0.01質量部以上とすることにより、熱変色改善、耐候性/耐光性改善効果を十分に発揮することが出来、含有量を1質量部以下とすることにより、成形品の外観不良、機械的物性低下を抑制することが出来る。
【0071】
[4.3 その他添加剤]
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、艶消剤、紫外線吸収剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、耐衝撃性改良剤等の添加剤等を加えることができる。
【0072】
[5 ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されるものではなく、ポリアミド樹脂組成物(A)、充填材(B)を、また必要に応じて配合されるその他の成分を、任意の順序で混合、混練することによって製造することができる。なかでも、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法が好ましく、生産性、汎用性等の点から二軸押出機を用いる方法が特に好ましい。その際、溶融混練温度は200〜300℃、滞留時間は10分以下に調整することが好ましく、スクリューには少なくとも一カ所以上の逆目スクリューエレメント及び/又はニーディングディスクを有し、該部分において一部滞留させながら溶融混練することが好ましい。溶融混練温度を上記範囲とすることにより、押出混練不良や樹脂の分解が生じ難い傾向となる。また、充填材としてガラス繊維を配合する場合は、押出機の途中からサイドフィードして溶融混練するのが好ましい。
【0073】
このようにして得られたポリアミド樹脂組成物の水分率は、0.01〜0.1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.02〜0.09質量%、さらに好ましくは0.03〜0.08質量%である。水分率が0.01質量%より低いと、ポリアミド樹脂組成物が帯電しやすく、成形の際、組成物ペレットが成形機ホッパーやフィーダーなどに付着しやすく、成形の妨げとなることがある。また、0.1質量%より高いと、成形加工時に加水分解し、得られた成形品の弾性率などの物性が低下したり、長期物性安定性が低下することがあり、好ましくない。
【0074】
ポリアミド樹脂組成物の水分率の調整は、例えば、乾燥の方法、コンパウンド時の押出機真空ベントの減圧程度やその後の冷却の程度等により、行うことができる。ポリアミド樹脂組成物を乾燥する場合は、公知の方法により行うことができる。例えば、ポリアミド樹脂組成物を真空ポンプ付きの加熱可能なタンブラー(回転式真空槽)中や減圧乾燥機中に仕込み、減圧下でポリマーの融点以下、好ましくは160℃以下の温度で、目的の水分率となるよう適当な時間加熱して乾燥する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、原料ジアミン成分およびジカルボン酸成分の種類、組成比を調整することによっても、水分率を最適化することができる。
【0075】
なお、ここでの水分率は、ポリアミド樹脂組成物のペレットを用い、カールフィッシャー法により測定できる。測定温度は、ポリアミド樹脂(A)の融点−5℃とし、測定時間は30分である。
【0076】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度は、50〜1,000ppmであることが好ましい。リン原子は上記したポリアミド樹脂(A)の重合触媒に由来するものが多いが、特に限定されない。ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度は、より好ましくは100〜800ppm、さらに好ましくは150〜600ppm、特に好ましくは200〜400ppmである。ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度が50ppm未満であると、コンパウンド時あるいはポリアミド樹脂組成物の成形加工時に黄変しやすい傾向にある。逆に、1,000ppmを超えると、熱安定性が悪くなり、機械的強度が低下しやすい傾向にある。なお、本発明において、ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度とは、ポリアミド樹脂組成物中から、充填材(D)等の無機成分を取り除いた後の有機成分中に残存するリン原子濃度とする。
【0077】
ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度は、樹脂組成物の原料であるポリアミド樹脂(A)重合時の重合触媒の種類、量、重合条件を調整したり、ポリアミド樹脂(A)を、水、熱水等の抽出溶媒で抽出処理することにより洗浄し、触媒の過多分を除去することにより調整することができる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物製造時に、ポリアミド樹脂(A)および充填材(B)にさらに、リン系安定剤等のリン原子を有する各種添加剤を配合することによっても、調整することができる。本発明においては、ポリアミド樹脂(A)の重合触媒の種類、量を調整する方法が好ましい。
【0078】
ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度の測定は、ポリアミド樹脂組成物を濃硫酸で湿式分解後、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により、波長213.618nmにて定量することができる。
【0079】
本発明の特に好ましい態様は、上記したように、原料ポリアミド樹脂(A)の水分率が0.01〜0.5質量%であり、かつ、得られるポリアミド樹脂組成物の水分率が0.01〜0.1質量%の場合である。水分率が0.5質量%を超える原料ポリアミド樹脂(A)を用いて、目的のポリアミド樹脂組成物の水分率を0.01〜0.1質量%となるように調整しても、本発明の望ましい効果が得られない場合がある。また、逆に、原料ポリアミド樹脂(A)の水分率が0.01〜0.5質量%のものを用いても、得られるポリアミド樹脂組成物の水分率が上記範囲を外れる場合も、本発明の望ましい効果が得られない場合がある。原料ポリアミド樹脂(A)と、それを用いて得られるポリアミド樹脂組成物の水分率の両方を上記の範囲とすることによって、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速く、さらには、機械的強度、外観、色調に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることが容易になる。
【0080】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来公知の成形方法により、各種形態の成形品に成形することが出来る。成形法としては、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形、ダイレクトブロー成形、回転成形、サンドイッチ成形及び二色成形等の成形法を例示することができる。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物を、特に射出成形に用いて成形すると、結晶化速度が速いので、成形品の外観や精度が極めて良好であり、品質の優れた射出成形品を得ることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
[評価方法]
実施例および比較例に使用したポリアミド樹脂(A)の水分率、吸水率、密度および下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物の水分率、リン原子濃度、結晶化状態、離型性、シャルピー衝撃強度、YI(イエローインデックス)値、成形品外観は、以下のようにして測定した。
【0083】
(1)水分率
ポリアミド樹脂(A)または下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを用い、カールフィッシャー法により、ポリアミド樹脂の融点−5℃で、測定時間30分で行った。
(2)吸水率
ポリアミド樹脂(A)を用い、ファナック社製射出成形機100Tにて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃の条件で、ISO試験片を作製した。得られた試験片を、23℃の条件下で蒸留水に1週間浸漬した後に、表面の付着水を除去し、水分率をカールフィッシャー法により測定し、吸水率とした。測定には平沼産業製微量水分測定装置 AQ−2000を用いた。測定温度は、ポリアミド樹脂の融点−5℃とし、測定時間は30分とした。
【0084】
(3)密度
ポリアミド樹脂(A)の密度は、JIS K7112 A法(水中置換法)に準拠し測定した。
【0085】
(4)リン原子濃度
ポリアミド樹脂(A)又は下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物0.5gを秤量し、濃硫酸を20ml加え、ヒーター上で湿式分解した。冷却後、過酸化水素5mlを加え、ヒーター上で加熱し、全量が2〜3mlになるまで濃縮した。再び冷却し、純水で500mlとした。Thermo Jarrell Ash社製 IRIS/IPを用いて、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により、波長213.618nmにて定量した。なお、本発明において、ポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度とは、ポリアミド樹脂組成物中から、後記の充填材(D)等の無機成分を取り除いた後の有機成分中に残存するリン原子濃度とする。
【0086】
(5)結晶化状況
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、住友重機械工業社製射出成形機 SE50にて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃、冷却時間12秒の条件で、10mm×100mm×厚み1mmの試験片を作製した。得られた試験片についてDSC測定を行い、結晶化熱量を、JIS K−7122に準じて測定した。装置は島津製作所社製DSC−60を使用し、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で、予想される融点より30℃高い温度まで昇温し、測定を行った。
昇温時に観測される結晶化ピークから、下記の基準で、結晶化状況を評価した。評価結果が△、○であれば、実成形品として使用しても問題のないレベルである。
○:昇温結晶化ピークなし
△:結晶化ピークの結晶化熱量が8mJ/mg未満
×:結晶化ピークの結晶化熱量が8mJ/mg以上
【0087】
(6)成形品外観
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、住友重機械工業社製射出成形機 SE50にて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃の条件で、10mm×100mm×厚み1mmの試験片を作製した。得られた試験片目視観察し、以下の基準で判定した。
○:ガラス繊維(GF)の浮きなし
△:若干GF浮きあり
×:GF浮きあり
【0088】
(7)離型性
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、住友重機械工業社製射出成形機SE50にて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃、冷却時間12秒の条件で、10×100×厚み1mmの試験片を射出成形した際の離型時の試験片の変形具合を目視で確認し、以下のように判定した。
○:変形なし
×:変形あり
【0089】
(8)シャルピー衝撃強度
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、ファナック社製射出成形機100Tにて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃の条件で、ISO試験片を作製し、ISO179に準拠して評価を実施した(単位:KJ/m)。
【0090】
(9)YI値
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、ファナック社製射出成形機100Tにて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃の条件で3mm厚の平板を作製し、得られた試験片を用いて、JIS K−7105に準拠し、日本電色工業(株)製のSE2000型分光式色彩計で、反射法により測定した。
【0091】
[原料]
ポリアミド樹脂(A)に配合するためのガラス繊維、結晶核剤としては、以下のものを使用した。
・ガラス繊維(B):
日本電気硝子社製、チョップドストランド、商品名「T−275H」
・結晶核剤−微粉タルク:
林化成社製、商品名「ミクロンホワイト#5000S」
【0092】
また、ポリアミド樹脂に配合するための添加剤としては、以下のものを使用した。
・カルボジイミド化合物(C):
脂環式ポリカルボジイミド化合物
日清紡績社製、商品名「カルボジライトLA−1」
以下、このカルボジイミド化合物を、「カルボジイミド」と略記する。
・芳香族第2級アミン系安定剤:
N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン
大内新興化学工業社製、商品名「ノクラックwhite」
以下、「安定剤」と略記する。
・塩化銅/ヨウ化カリウム混合物:
塩化銅:ヨウ化カリウム=1:10(質量比)の混合物
以下、「CuCl/KI」と略記する。
【0093】
(実施例1)
ポリアミド樹脂(A)として、以下の製造例1で得られたポリアミド樹脂を使用した。
<製造例1>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロート及び窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、精秤したセバシン酸12,135g(60mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)3.105g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度として50ppm)、酢酸ナトリウム1.61gを入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。次亜リン酸ナトリウム一水和物/酢酸ナトリウムのモル比は0.67とした。
これにメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの7:3の混合ジアミン8,172g(60mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。混合キシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分間溶融重合反応を継続した。
その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出して、これをペレット化し、約24kgのポリアミド樹脂を得た。得られたペレットを80℃の除湿エアー(露点−40℃)で1時間乾燥した。
このポリアミド樹脂の水分率と密度は、表1に記載のとおりであった。
【0094】
上記製造例1で得られたポリアミド樹脂を、表1に示す組成となるように、他の各成分を秤量し、ガラス繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)の基部から投入して溶融した後、ガラス繊維をサイドフィードした。押出機の設定温度は、サイドフィード部まで280℃、サイドフィード部からは260℃とし、押出して、ペレット化して、ポリアミド樹脂組成物ペレットを作成した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを80℃の除湿エアー(露点−40℃)で8時間乾燥した。このポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、表1に記載のとおりであった。
【0095】
(実施例2〜5)
製造例1において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合割合を表1に記載した割合とし、次亜リン酸ナトリウム一水和物/酢酸ナトリウムのモル比は0.67とし、次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を増やして表1に記載のリン原子濃度となるようにした以外は、製造例1と同様にしてポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂を使用して、各成分の配合量を表1に記載の量とした以外は、実施例1と同様に行った。
結果を表1に示す。
【0096】
(実施例6〜7)
製造例1において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合割合を表1に記載した割合とし、ジカルボン酸成分として表1に記載の割合のセバシン酸とアジピン酸を使用し、次亜リン酸ナトリウム一水和物/酢酸ナトリウムのモル比は0.67とし、次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を変更して表1に記載のリン原子濃度となるようにした以外は、製造例1と同様にしてポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂を使用して、各成分の配合量を表1に記載の量とした以外は、実施例1と同様に行った。
評価結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
(実施例8〜24)
実施例3において、次亜リン酸ナトリウム一水和物/酢酸ナトリウムのモル比は0.67とし、次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を変更して表2、3に記載のリン濃度となるようにした以外は、製造例1と同様に行い、さらに、ポリアミド樹脂の乾燥時間を適宜変更して、ポリアミド樹脂の水分率が下記表2、3に記載の水分率となるようにした以外は、製造例1と同様にしてポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂を使用して、各成分の配合量を表2、3に記載の量とし、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットの乾燥時間適宜変更して、ポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率が表2、3に記載の水分率となるようにした以外は、実施例3と同様に行った。
結果を下記表2、3に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
(比較例1〜7)
メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、あるいはセバシン酸、アジピン酸の割合を下記表4に記載の量とし、上記実施例と同様に、次亜リン酸ナトリウム一水和物/酢酸ナトリウム量、乾燥条件を適宜変更して、製造例1と同様にしてポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を使用して、各成分の配合量を下記表4に記載の量とし、上記実施例と同様ポリアミド樹脂組成物を製造し、各種評価を行った。
結果を下記表4に示す。
【0102】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来のメタキシリレンアジパミド樹脂よりも、軽く、吸水率が低く、結晶化速度が速いので、各種の成形品に利用でき、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材等の広い分野の成形品の成形に利用でき、産業上の利用価値は非常に高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン構成単位の30〜95モル%がメタキシリレンジアミンに、70〜5モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、充填材(B)を15〜200質量部含有ることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)の水分率が、0.01〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂組成物の水分率が、0.01〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(A)の密度が、1.1〜1.2g/cmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂(A)のリン原子濃度が、50〜1,000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド樹脂組成物のリン原子濃度が、50〜1,000ppmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、カルボジイミド化合物(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜2質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
カルボジイミド化合物(C)が、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項7に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、安定剤(D)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
安定剤(D)が、無機系、芳香族第2級アミン系または有機硫黄系の安定剤から選ばれることを特徴とする請求項9に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2012−17429(P2012−17429A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156545(P2010−156545)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】