説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】 機械的強度を低下させることなく、ポリアミド樹脂の結晶化速度を大幅に速めることである。
【解決手段】 (1)ポリアミド樹脂100質量部に対して、該ポリアミド樹脂より高融点のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂0.5〜50質量部を配合混錬する、そして、(2)該ポリアミド樹脂組成物を固相重合することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度が速く、優れた機械的強度と耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6、66、46、6T、9T等は、その優れた機械的強度、耐薬品性、耐熱性・耐寒性等の特性を利用して、射出成形品・ブロー成形品・フイルム・シート・繊維等に加工され、自動車部品・電気部品・電子部品・一般機械部品・建材部品・衣料・包装等の各種製品に広く用いられている。しかしながら、薄物成形品においては製品の機械的強度や耐熱性、生産性(成形サイクルの短縮)等の一層の向上が要求される。
【0003】
ポリアミド樹脂の機械的強度や耐熱性、生産性を向上するためには、ポリアミド樹脂の結晶化速度を速めれば良いことが知られている。このため、従来からポリアミド樹脂に、例えば、タルク等の無機結晶核剤を配合することが行われている。特開平7−316422号公報にはタルクとMSiF(Mはアルカリ金属)の混合物の記載がある。又、有機結晶核剤として、特開昭58−160343号公報、特開平8−59983号公報にロジン類の金属塩が、特開平11−158370号公報にはモノテルペンジフェニール類及びモノテルペンジフェニール金属塩等が提案されている。
【0004】
しかしながら、このような従来の結晶核剤技術は、結晶化速度の向上効果が充分でない。結晶化速度を充分に速めるためには添加量を多くする必要があり組成物の機械的強度の低下に問題を生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開平7−316422号公報
【特許文献2】特開昭58−160343号公報
【特許文献3】特開平8−59983号公報
【特許文献4】特開平11−158370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、機械的強度を低下させることなく、ポリアミド樹脂の結晶化速度を大幅に速めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂に対して、該ポリアミド樹脂より高融点のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂を配合する新技術を見出した。
【0008】
即ち、本発明は、(1)ポリアミド樹脂100質量部に対して、該ポリアミド樹脂より高融点のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂0.5〜50質量部を配合混錬する、そして、(2)該ポリアミド樹脂組成物を固相重合することである。
【発明の効果】
【0009】
(1)ポリアミド樹脂100質量部に対して、該ポリアミド樹脂より高融点のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂0.5〜50質量部を配合することにより、ポリアミド樹脂の結晶化速度を速めることが可能となる。更に、(2)該ポリアミド樹脂組成物を固相重合することにより結晶化速度を維持した状態で機械的強度や耐熱性を一層向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のポリアミド樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂とは、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド10,ポリアミド12等の結晶性脂肪族ポリアミド樹脂、ポリアミド5T、ポリアミド6T、ポリアミド6TI、ポリアミド9T等の結晶性脂肪族―芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドMXD等である。又、それらの共重合体であるポリアミド6/6T、ポリアミド66/6T等を挙げることができる。これらポリアミド樹脂は、公知の重縮合方法で工業的に生産され販売されている。又、これらのポリアミド樹脂は単独又は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0011】
次に、本発明のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂(以下、PATA−OLと略す)は、下記一般式で示され、その固有粘度(0.5g/dl濃硫酸、30℃)が、0.7dl/g以下、好ましくは0.5dl/g以下である。
【0012】
【化1】

(式中、Aは炭素数2〜9のアルキレン基、nは1〜100の整数)
【0013】
PATA−OLの固有粘度が0.7dl/g以上ではポリアミド樹脂との相溶性が悪く配合量に見合った結晶化速度の促進が認められない。又、PATA−OLの融点は好ましくはポリアミド樹脂の融点より10℃以上、更に好ましくは20℃以上である。PATA−OLの融点が、ポリアミド樹脂の融点の10℃未満の高さでは結晶化速度の促進が認められない。
【0014】
好ましいPATA−OLの例は、ポリエチレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂(以下、PA2T−OLと略す)とポリヘキサメチレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂(以下、PA6T−OLと略す)である。
【0015】
PATA−OLの製造は、テレフタル酸とジアミン化合物(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)を用いて、公知の重縮合反応によって製造することができるが、ポリエステル−アミド置換反応(Seiko Nakano el,J.of Polym.Sci.37,1413(1999)、特開2001−11175号公報、特開2005−8856号公報)を利用して下記の方法で製造することが好ましい。特に、PA2T−OLの製造において好都合である。
【0016】
(1)テレフタル酸構造を有するポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂等とジアミン化合物(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)の等モル混合物を、該ポリエステル樹脂の融点以上で溶融混練するか、又は、(2)粉末状の該ポリエステル樹脂に対して、等モル量の該ジアミン化合物をドライブレンド後、該ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上融点以下で固相反応させることにより容易に得ることができる。
【非特許文献1】Seiko Nakano el,J.of Polym.Sci.37,1413(1999)
【特許文献5】特開2001−11175号公報
【特許文献6】特開2005−8856号公報
【0017】
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、PATA−OL0.5〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部を配合して、該ポリアミド樹脂の融点以上で熔融混錬して容易に得ることができる。
PATA−OLの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部である。PATA−OLの配合量が0.5質量部未満では該ポリアミド樹脂組成物の結晶化速度の向上が認められず、50質量部以上では該ポリアミド樹脂組成物の機械的強度の低下が認められる。
【0018】
熔融混錬は、単軸・2軸押出機・ニーダー・バンバリーミキサー・ロール等の公知の各種混錬機を用いて実施される。中でも、単軸又は2軸押出機を使用することが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤・熱分解防止剤・紫外線吸収剤・着色剤・難燃剤・離型剤・可塑剤・帯電防止剤・加水分解防止剤・接着剤・粘着剤・二酸化チタン等の充填材・ガラス繊維等の強化材・カーボンブラック等の導電剤等々の1種又は2種以上を含有することができる。
【0019】
更に、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ABS等の汎用樹脂・ポリカーボネート・ポリオキシメチレン・ポリフェニレンオキサイド・ポリフェニレンサルフアイド・ポリエーテルエーテルケトン等のエンジニャリング樹脂・ポリエステルエラストマー・ウレタン等の熱可塑性エラストマー等々の1種又は2種以上を該ポリアミド樹脂組成物の特性を損なわない範囲で含有することができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に対して一般に用いられる各種成形方法、例えば、射出成形・押出成形・プレス成形・ブロー成形・カレンダー成形・流延成形等々の成形法を用いて成形される。
【0020】
上記各種成形法により本発明のポリアミド樹脂組成物は任意の形状に成形され、電気・電子部品・機械部品・自動車用内外装部品・建築材・事務用部品・日用雑貨品・スポーツ用品・各種包装材・パイプ・シート・フイルム・繊維等々の用途に広く使用される。
【実施例】
【0021】
以下に本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はそれらにより何等制限されるものではない。尚、試験片の作製、引張強度及び弾性率、たわみ温度、結晶化データ(融点、結晶化開始温度)、固有粘度は以下の各方法で行なった。
【0022】
試験片の作製:実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、東芝機械社製55トン射出成形機を用いて、ポリアミド66はシリンダー温度270℃、金型温度60℃、ポリアミド46はシリンダー温度310℃、金型温度120℃、ポリアミド6Tはシリンダー温度340℃、金型温度130℃で実施した。
引張強度及び弾性率:上記方法によって試験片(JIS−1号ダンベル、厚さ2mm)を作製し、JISK7113に準じて、インストロン型引張試験機を用いて乾燥状態で測定した。
【0023】
たわみ温度:上記方法によって試験片(80mm×10mm×3.2mm)を作製し、1.8MPa荷重下、JISK7191に準じて乾燥状態で測定した。
融点及び結晶化速度:混錬ペレット及びその固相重合ペレットを、DCS測定用アルミパンに必要量精秤(10mg程度)、アルミ製蓋を被せ、ポリアミド66は温度290℃、ポリアミド46は温度310℃、ポリアミド6Tは温度350℃に設定されたヒートプレート上で1分間加圧熔融する。しかる後、アルミパンを速やかに20℃の水表面に移し急冷した。該アルミパンをDSC6000(セイコーインスツルメント社製)にて、20℃/分で昇温して融点(Tm,ピーク位置)を求めた、次にポリアミド66の場合は290℃まで、ポリアミド46の場合は310℃まで、ポリアミド6Tの場合は350℃まで昇温、1分間保持後、20℃/分で降下して結晶化開始温度(Tc,ピーク位置)を求めた。
【0024】
固有粘度({η}):毛細官型溶液粘度計を用いて、濃硫酸(97%)を溶媒として、濃度(C)0.5g/10dl、30℃で測定、下記式で計算した。
{η}=ηsp/C
(式中、ηsp=(t―t)/t;t、tは溶液、濃硫酸の落下時間(秒))
次に、PATA−OLは以下の方法で調整した。
【0025】
PA2T―OLの製造:ポリエステル樹脂として市販のノバペットGM700Z(三菱化学社製、PET)を粉砕、0.1mm金網をパスした粉末10kgを、攪拌翼、チッソガス導入口、エチレングリコール回収系(減圧系)を有する10リットル反応器に仕込み、100℃で5時間、攪拌(10回転/分)、減圧乾燥した。モレキュラーシーブス4A1/16(和光純薬社製)を用いて脱水したエチレンジアミン(和光純薬社製)3131g(等モル量)を加圧注入、器内を密閉して120℃で15時間攪拌下反応させた。次に、器内を減圧して副生するエチレングリコールを反応系外に除きつつ180℃で更に15時間反応させた。反応器内の温度を80℃まで下げ、生成した粉末状のPA2T−OLを反応器下部より取り出した。得られたPA2T−OLの固有粘度は0.35dl/g、融点は440℃であった。
【0026】
PA6T―OLの製造:エチレンジアミンの代わりに5635g(等モル量)の脱水ヘキサメチレンジアミン(和光純薬社製)を使用した以外は、上記PA2T−OLの製造と同様の実験を行い、粉末状PA6T−OLを得た。得られた状PA6T−OLの固有粘度は0.38dl/g、融点は338℃であった。
【0027】
実施例1〜10、比較例1〜6:ポリアミド66としてA175(ユニチカ社製、{η}=1.29)、ポリアミド46としてスタニールTW341(DSMジャパンエンジニャリングプラスチック社製、{η}=1.33)、ポリアミド6TとしてアーレンAE4200(三井化学社製、{η}=1.35)、PATA−OLとして上記PA2T―OL、PA6T―OLを表1の如く配合し、ポリアミド66は290℃、ポリアミド46は310℃、ポリアミド6Tは350℃のバレル設定温度でベルストルフ社製2軸押出機ZE40Xを用いて熔融混錬ペレット化した。得られたペレットを200℃−20時間真空下で固相重合した。DCS測定と射出成型を行い引張強度、弾性率、融点(Tm)、結晶化開始温度(Tc)を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】
表1の結果から、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T等のポリアミド樹脂に、PA2T―OL、PA6T―OL等のPATA−OLを0.5〜50質量部配合したポリアミド樹脂組成物は、明らかに結晶化速度が促進され高い機械的強度(引張強度等)、耐熱性(たわみ温度)を有する。そして、それらを固相重合したものは更に機械的強度(引張強度等)、耐熱性(たわみ温度)が向上した。
又、実施例6と比較例4の比較から明らかな如く、固有粘度の低いPA6T−OL({η}=0.38)を配合した場合は結晶化速度が改良され機械的強度、耐熱性が向上するが、固有粘度の高いPA6T({η}=1.35、アーレンAE4200)を配合した場合は、結晶化速度の改良は認められず、機械的強度、耐熱性も改良されなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部と該ポリアミド樹脂より高融点のポリアルキレンテレフタルアミドオリゴマー樹脂0.5〜50質量部から成ることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリアミド樹脂組成物を固相重合することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−50479(P2008−50479A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228688(P2006−228688)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(596046509)エムアンドエス研究開発株式会社 (9)
【Fターム(参考)】