説明

ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液およびその製造方法

【課題】耐熱性及び耐久性に優れ、長時間加熱後も引張強度、伸び等の機械的特性が良好に維持され、長期間経過後もほとんど変色しない耐変色性に優れた成形品を製造することが可能な新規なポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を提供する。
【解決手段】ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液中に、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤が含まれることを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゴム弾性体は、基本的には、軟質高分子構造を有するもの、又は硬質高分子部位と軟質高分子部位とを組み合わせた構造を有するものであり、常温でゴム弾性を示し、高温では熱可塑性プラスチックと同様に可塑化することから機械的成形が可能であるため、幅広い工業分野で使用されている。代表的な高分子ゴム弾性体としては、スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系などのゴム弾性体が挙げられる。これらの高分子ゴム弾性体は、通常、押し出し成形等の機械的操作により成形品が提供されるが、各種材料へのコーティグ剤、粘接着剤、バインダー、エマルジョン等の改質剤や繊維の収束剤等として用いる場合には、水性分散液での使用が望ましい。
【0003】
高分子ゴム弾性体の水性分散液については、これまでに多くの検討がなされており、実用品として、スチレン系ゴム弾性体の水性分散液が提供されている。スチレン系ゴム弾性体の水性分散液は、通常、スチレン系ゴム弾性体を有機溶媒に溶解した有機相と、乳化剤(界面活性剤)を水性媒体に溶解した水相とを混合し、これをホモミキサー等を用いて乳化した後に有機溶剤を除去して製造されている(下記特許文献1および2参照)。
【0004】
この様に、スチレン系ゴム弾性体の水性分散液が実用化されているが、スチレン系ゴム弾性体の水性分散液により得られる成形品は、一般に、耐摩耗性、耐屈曲性、耐油性、耐候性等に劣るという欠点がある。
【0005】
一方、ポリアミド系ゴム弾性体は、これらの耐摩耗性、耐屈曲性、耐油性、耐候性等の特性に優れているだけではなく、透明性、柔軟性、衝撃強度、衝撃強度、引張強度、耐薬品性、耐熱性等においても優れた特性を有する成形品を製造することができ、しかも、同硬度の他の高分子ゴム弾性体に比べて変形時の応力が大きいために成形品の薄肉化を達成できるという利点があり、例えば包装フィルム、自動車部品、スポーツ用品、医療器具等を得るための材料として有用である。このため、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液が要望されているが、これまでに実用化された例がなく、実現が待ち望まれている。
【0006】
ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液およびその製造方法に関して検討された例としては、水性媒体と、界面活性剤の存在下でポリアミド系ゴム弾性体を乳化分散する方法が挙げられる(下記特許文献3および4参照)。
【0007】
しかしながら、これらの方法により得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を用いて形成される成形品は、耐熱性及び耐久性が劣り、加熱して成形する際に性能が劣化して機械的特性が損なわれる他、長期間使用後に変色し、外観が損なわれるという懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭51−23532号公報
【特許文献2】特開2003−253134号公報
【特許文献3】WO2000/020520号公報
【特許文献4】特表2001−527594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、耐熱性及び耐久性に優れ、長時間加熱後も引張強度、伸び等の機械的特性が良好に維持され、長期間経過後もほとんど変色しない耐変色性に優れた成形品を製造することが可能な新規なポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、水性媒体中に乳化分散されたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に特定量のヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合することによって、該水性分散液から形成されるポリアミド系ゴム弾性体の成形品の耐熱性及び耐久性が大幅に向上して、該成形体は、長時間加熱後にも機械的特性が良好に維持され、更に、長期間経過後にも殆ど変色することがない優れた性能を有するものとなることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液およびその製造方法を提供するものである。
項1. ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液中に、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤が含まれていることを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
項2. ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液が、水性媒体と界面活性剤の存在下で、水性媒体中にポリアミド系ゴム弾性体を乳化分散して得られたものである上記項1に記載のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
項3. ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、及び1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種である上記項1又は2に記載のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
項4. ポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤及び水性媒体を含む混合液を調製し、得られた混合液をポリアミド系ゴム弾性体の軟化温度以上に加熱して乳化させる工程を含むポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法であって、
ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤及び水性媒体を含む混合液に添加する方法、又は乳化して得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に添加する方法によって該水性分散液に配合することを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法。
項5. ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解した有機相と、界面活性剤を水性媒体に溶解した水相とを混合して乳濁液を調製し、該乳濁液から有機溶剤を留去する工程を含むポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法であって、
ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解した有機相に添加する方法、又は有機溶剤を留去して得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に添加する方法によって該水性分散液に配合することを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法。
【0012】
以下、本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液及びその製造方法について具体的に説明する。
【0013】
ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液
本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液は、ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液中に、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤が含まれるものである。
【0014】
該水性分散液は、水性媒体中にポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散されたものであり、水性媒体は、基本的には水であり、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水および純水が好ましい。また、この水には、本発明の目的が阻害されない範囲において、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、防かび剤等が適宜添加されていてもよい。
【0015】
該水性分散液で用いるポリアミド系ゴム弾性体は、特に限定されるものではないが、例えば、結晶性で融点の高いポリアミドブロックを有する硬質高分子部位と、非晶性でガラス転移温度の低いポリエーテルブロックを有する軟質高分子部位とを組み合わせた構造を有するものを用いることができる。ここで、硬質高分子部位が有するポリアミドブロックの構成成分としては、例えば、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム等のラクタム化合物;ω―アミノカプロン酸、ω―アミノエナント酸、ω―アミノカプリル酸、ω―アミノペルコン酸、ω―アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸化合物;または、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン化合物と、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸化合物との塩などを挙げることができる。これらの構成部分は、2種以上のものが用いられてもよい。一方、軟質高分子部位が有するポリエーテルブロックの構成成分としては、例えば、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコールおよびポリヘキサメチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物並びにポリエーテルジアミン等のジアミン化合物等を挙げることができる。これらの構成成分は、2種以上のものが用いられてもよい。
【0016】
上述のようなポリアミド系ゴム弾性体の具体例としては、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとの結合部の分子構造、すなわち結合形態が異なる数種類のもの、例えば、「(ポリアミドブロック)−CO−NH−(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルブロックアミド共重合体、「(ポリアミドブロック)−CO−O−(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルエステルブロックアミド共重合体等を挙げることができる。
【0017】
ポリアミド系ゴム弾性体は、市販されているものを用いてもよいし、あるいは適宜製造したものを用いてもよい。ポリアミド系ゴム弾性体を製造する方法としては、例えば、ラクタム化合物、アミノカルボン酸化合物およびジアミン化合物のうちの少なくとも1種とジカルボン酸とを反応させて実質的に両末端がカルボキシル基であるポリアミドブロックを調製した後、このポリアミドブロックにポリエチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物若しくはポリエーテルジアミン等のジアミン化合物を添加して加熱することで反応させる方法等を挙げることができる。
【0018】
本発明の水性分散液は、上記した水性媒体中に乳化分散されたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液中に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤という特定の酸化防止剤が配合されたものである。この様な特定の酸化防止剤が存在することによって、該水性分散液から形成される成形品の耐熱性及び耐久性を大きく向上させることができる。
【0019】
更に、本発明では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量がポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部であることが必要であり、0.5〜6重量部程度であることが好ましく、1〜4重量部程度であることがより好ましい。本発明では、この様な特定量のヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用することによって、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液から製造される成形品の耐熱性、耐久性などを向上させることができる。これに対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量が多すぎると、酸化防止剤がブリードしやすく製品の表面が白濁する等、外観が損なわれる懸念があり、使用量が少なすぎる場合には、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液から製造される成形品の耐熱性や耐変色性を十分に改善することができず、機械的特性にも劣るものとなる。
【0020】
本発明で用いるヒンダードフェノール系酸化防止剤の種類については特に限定的ではないが、例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチ−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン及びテトラキス[メチレン−3−(3,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]メタン等を用いることができる。これらの中でも、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチ−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が特に好ましい。
【0021】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、他の酸化防止剤と併用してもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤と他の酸化防止剤を併用することで、さらに耐熱性および耐変色性を向上させることができる。他の酸化防止剤としては、硫黄系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などを挙げることができる。
【0022】
本発明にポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液は、更に、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステルの塩およびアルギン酸ナトリウム等の高分子分散安定剤を含んでいてもよい。これらの高分子分散安定剤を用いることにより、乳化が容易になり、より安定な水性分散液を得ることができる。
【0023】
本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液では、ポリアミド系ゴム弾性体の平均粒子径については特に限定的ではないが、通常、0.1〜5μm程度であることが好ましい。平均粒子径が小さすぎる場合には、水性分散液の静置安定性は高まるが、粘度が高くなるため、取扱い、特に、成形品の製造が困難になる可能性がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、水性分散液の静置安定性や機械的安定性が低下する可能性がある。なお、この平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法によるものである。
【0024】
ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法
本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を製造する方法については、特に限定はなく、水性媒体中に乳化分散されたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を均一に溶解乃至分散できる方法であればよい。
【0025】
例えば、ポリアミド系ゴム弾性体を、機械粉砕法、冷凍粉砕法、湿式粉砕法等で粉砕して得られるポリアミド系ゴム弾性体粉体を水性媒体中に分散させて得られた水性分散液にヒンダードフェノール系酸化防止剤を分散させる方法、界面活性剤を用いてポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を製造した後、該分散液中にヒンダードフェノール系酸化防止剤を分散させる方法等によって本発明の水性分散液を得ることができる。特に、得られる水性分散液におけるポリアミド系ゴム弾性体粒子の分散安定性が優れている点から、以下の2種類の方法が好ましい。
【0026】
製造方法1
製造方法1では、先ず、容器内にポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤および水性媒体を投入し、これらの混合液を調製する。
【0027】
界面活性剤の種類については特に限定されるものではないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩、脂肪酸塩等を用いることができる。
【0028】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリグリセリンエステル等を用いることができる。
【0029】
これらの中でも、乳化分散性および耐熱性が優れているという観点から、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル等が好ましく、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が特に好ましい。
【0030】
界面活性剤は、2種以上のものが併用されてもよい。この場合、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤とが併用されてもよい。
【0031】
界面活性剤の使用量は、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して1〜20重量部程度が好ましく、1〜12重量部程度がより好ましい。界面活性剤の使用量が少なすぎる場合には安定な水性分散液が得られない可能性がある。一方、界面活性剤の使用量が多いと、乳化が容易になり、安定な水性分散液が得られるが、得られた水性分散液をから形成される成形品において、ポリアミド系ゴム弾性体により期待できる各種物性が損なわれる可能性がある。特に、成形品の表面で界面活性剤のブリードが発生したり、成形品の透明性が損なわれたりする可能性がある。
【0032】
水性媒体の使用量は、特に限定されるものではないが、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して40〜1,000重量部程度に設定するのが好ましく、50〜150重量部程度に設定するのがより好ましい。水性媒体の使用量が少なすぎる場合は、分散安定性等が良好な水性分散液が得られないおそれがある。また、使用量が多すぎると、分散安定性が良好な水性分散液が得られるものの、生産性が悪く実用性を欠くことになる。
【0033】
混合液の調製に用いる容器としては、ポリアミド系ゴム弾性体が水性媒体中で軟化する温度以上の温度に加熱するための加熱手段と、内容物にせん断力を与えることのできる攪拌手段とを備えた耐圧容器が好ましい。例えば、攪拌機付きの耐圧オートクレーブ等が好ましい。
【0034】
次に、上記混合液をポリアミド系ゴム弾性体の軟化温度以上に加熱し攪拌して、混合液を乳化させる。これにより得られた乳濁液を室温まで冷却すると、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液が得られる。ここで、攪拌時の回転数や攪拌時間、温度等を適宜調整し、ポリアミド系ゴム弾性体の平均粒子径が前記した範囲になるよう設定する。なお、ポリアミド系ゴム弾性体の平均粒子径は、攪拌機の回転数や攪拌時間などの調節の他、界面活性剤の選択や使用量の調節により前記した範囲に設定することもできる。
【0035】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加方法については特に限定されず、上記した方法で得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加しても良く(分割添加法)、或いは、ポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤および水性媒体の混合液を調製する際にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加してもよい(一括添加法)。
【0036】
特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤をより均一に混合でき、軟化温度以上の温度に加熱した際のポリアミド系ゴム弾性体の劣化を防止し、耐熱性および耐変色性が良好な成形品が製造可能なポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液が得られるという観点からは、一括添加法が好ましい。
【0037】
製造方法2
製造方法2では、先ず、ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解した有機相と、界面活性剤を水性媒体に溶解した水相とを混合して乳濁液を調製する。
【0038】
有機相の調製において用いる有機溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等のアルコール系溶剤等を用いることができる。これらの有機溶剤は、2種以上のものを併用することもできる。
【0039】
有機溶剤としては、ポリアミド系ゴム弾性体の溶解性が良好であることから、芳香族炭化水素系溶剤および脂環族炭化水素系溶剤から選ばれた少なくとも一種の溶媒(炭化水素系溶剤)とアルコール系溶剤との混合溶剤を用いることが好ましい。この混合溶剤において、炭化水素系溶剤とアルコール系溶剤との混合割合は、特に限定されないが、炭化水素系溶剤100重量部に対してアルコール系溶剤を25〜100重量部程度に設定することが好ましく、40〜60重量部に設定することがより好ましい。
【0040】
有機相を調製する際に用いる有機溶剤の量は、特に限定されるものではないが、有機相中におけるポリアミド系ゴム弾性体の濃度が3〜30重量%程度になるように設定することが好ましい。有機相中におけるポリアミド系ゴム弾性体の濃度が高すぎるとポリアミド系ゴム弾性体が有機相中に均一に溶解されにくくなり、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液中におけるポリアミド系ゴム弾性体の粒子径が大きくなる可能性がある。また、ポリアミド系ゴム弾性体の濃度が低すぎる場合は、有機溶剤の使用量に見合う効果が得られず経済的でない。
【0041】
有機相は、有機溶剤中にポリアミド系ゴム弾性体を添加して溶解することで調製することができる。この際の温度は、特に限定されるものではないが、通常、100℃以下に制御するのが好ましい。
【0042】
一方、水相は、水性媒体中に界面活性剤を添加して溶解することで調製できる。水性媒体に対する界面活性剤の添加量は、特に限定されるものではないが、水性媒体中における濃度が0.1〜50重量%程度になるように設定するのが好ましい。
【0043】
界面活性剤の種類は、製造方法1と同様に特に限定されないが、製造方法2では、特に、乳化分散性および安定性に優れ、しかも安価で入手が容易であるという点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、特にポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0044】
有機相と水相との混合割合は、ポリアミド系ゴム弾性体に対する界面活性剤の割合が、製造方法1の場合と同様の範囲となるよう設定すればよい。一般には、有機相100重量部に対し、水相の割合を20〜500重量部程度に設定するのが好ましく、25〜200量部程度に設定するのがより好ましい。水相の割合が少ない場合には、十分に乳化できないことや、得られる乳濁液の粘度が非常に高くなることがある。一方、水相の割合が多すぎると、乳化はできるが、生産性が悪く実用性を欠く可能性がある。
【0045】
有機相と水相とを混合して乳濁液を調製する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ホモミキサーやコロイドミル等の乳化機を用いて有機相と水相とを撹拌混合する方法や、超音波分散機等を用いて有機相と水相とを分散、混合する方法などを採用することができる。通常は前者の方法が好ましい。また、乳濁液の調製時の温度は、特に限定されるものではないが、通常、5〜70℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0046】
乳化機、超音波分散機等によって有機相と水相を混合する場合には、撹拌機の回転数、撹拌時間、温度等を適宜調節して、ポリアミド系ゴム弾性体の平均粒子径が前記した範囲になるよう設定すればよい。なお、ポリアミド系ゴム弾性体の平均粒子径は、撹拌機の回転数や撹拌時間などの調節の他、界面活性剤の選択や使用量の調節により前記した範囲に設定することもできる。
【0047】
次に、上記した方法で調製された乳濁液から有機溶剤を留去する。これにより、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液が得られる。乳濁液からの有機溶剤の留去は、減圧下で乳濁液を加熱して有機溶剤を除去する等の通常の方法により実施することができる。得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液は、必要に応じて加熱濃縮、遠心分離、湿式分離等の操作により適宜濃縮することによって、ポリアミド系ゴム弾性体の濃度を使用目的に応じて調節することができる。
【0048】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加方法については、特に限定はなく、例えば、有機溶剤を留去して得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加してもよく、或いは、ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解して有機相に調製する際にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加してもよい。
【発明の効果】
【0049】
本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液は、特定量のヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むものであり、該分散体から得られる成形品は、耐熱性及び耐久性に優れたものとなり、長時間加熱後も引張強度、伸び等の機械的特性が良好に維持され、更に、長期間経過後もほとんど変色せず、機械的特性も良好である。
【0050】
このため、本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液は、包装フイルム、自動車部品、スポーツ関連製品、医療器具等を製造するための素材、衣料材料、カーペット、エアーバックなどに用いられるナイロン繊維やポリエステル繊維等のコーティング剤、紙、フイルム等のコーティング剤やガスバリア剤、フォームラバー用原料、合成繊維、天然繊維、ガラス繊維等の繊維材料の収束剤、あるいはホース、チューブ、ベルト、ガスケット、パッキング等の製造用原料などとして、広い用途において活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0052】
実施例1
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリエーテルブロックアミド共重合体(宇部興産株式会社製の商品名“UBESTAXPA9044X2”:融点150℃)160g、脱イオン水224g、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80重量%)16gおよび1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン株式会社製の商品名“イルガノックス259”)6.4gを仕込み、密閉した。次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに15分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0053】
実施例2
1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]に代えて、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](住友化学株式会社製の商品名“スミライザーBP101”)を用いた点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0054】
実施例3
1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]に代えて、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(BASFジャパン株式会社製の商品名“イルガノックス1098”)を用いた点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0055】
実施例4
1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]に代えて、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(BASFジャパン株式会社製の商品名“イルガノックス1330”)を用いた点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0056】
実施例5
実施例1において、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の使用量を0.8gに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0057】
実施例6
実施例1において、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の使用量を1.6gに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0058】
実施例7
実施例1において、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の使用量を9.6gに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0059】
実施例8
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリエーテルエステルブロックアミド共重合体(アルケマ社製の商品名ペバックス2533SA01;融点134℃)16gと1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン株式会社製の商品名“イルガノックス259”)0.64gとトルエン123gとイソプロピルアルコール61gを加え、80℃で4時間攪拌して溶解した。
【0060】
得られた有機溶液に、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム1.6gを100gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12000rpmおよび40℃に設定した。
【0061】
得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、トルエンおよびイソプロピルアルコールを留去し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0062】
実施例9
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリエーテルブロックアミド共重合体(宇部興産株式会社製の商品名“UBESTAXPA9044X2”:融点150℃)160g、脱イオン水224g、及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80重量%)16gを仕込み、密閉した。
【0063】
次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながら、さらに15分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却した。次に、室温の状態のまま、内容物に1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]6.4gを添加した後、500rpmの回転数で1時間攪拌し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0064】
比較例1
実施例1において、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の使用量を0.24gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0065】
比較例2
実施例1において、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の使用量を16gに変更した以外は実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0066】
比較例3
1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]に代えて、硫黄系酸化防止剤である2−メルカプトベンズイミダゾール(大内新興化学工業株式会社製の商品名“スミライザーMB”)を用いた点を除いて実施例1と同様に操作し、ポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液を得た。
【0067】
熱老化試験による評価
実施例1〜9および比較例1〜3で得られたポリアミド系ゴム弾性体水性分散液から成形皮膜シートを作成した。成形皮膜シートの作成方法は以下のとおりである。
【0068】
まず、各水性分散液100gをSUS製バット(面積;30cm×25cm)に入れ、均一になるように薄く広げた後、熱風乾燥機に入れ、50℃で36時間乾燥した。さらに、バットを真空乾燥機に移動し、80℃(減圧度;0.1MPa)で6時間乾燥させ、ポリアミド系ゴム弾性体の固形物を得た。得られたポリアミド系ゴム弾性体の固形物25gを
厚さ1mm、一辺長さ15cm正方形の金型に入れた後、加熱温度180℃に設定した油圧プレス機(二名工機株式会社製)で3分間(ポリアミド系ゴム弾性体の固形物に対する圧力;4.9MPa)プレスを行うことで、1mmの厚みの成形皮膜シートを作成した。
【0069】
次に、得られた成形皮膜シートの引張強度、伸度および黄色度を評価した後、成形皮膜シートを熱風乾燥機に入れ、120℃で400時間加熱して熱老化試験を実施した。その後、引張強度、伸度、黄色度、及び成形皮膜シートの表面状態を評価した。
【0070】
各項目の測定方法および評価方法は次のとおりである。
(引張強度)(伸度)
得られた成形皮膜シートを7号ダンベルで打ち抜き、オートグラフ(島津製作所の商品名“AGS−J”)を用いて、引張速度200mm/minの条件で引張強度と伸度を測定した(JIS K6251準拠)。なお、引張強度が、15MPa以上であると強度に優れていると判断できる。また、伸度が、300%以上であると柔軟性に優れていると判断できる。
(黄色度)
ハンディ色差計NR−3000(日本電色工業株式会社製)を用いて、イエローインデックス(YI)を算出した。なお、120℃で400時間加熱した後の成形皮膜シートのYIが50未満であれば、耐変色性は良好であると判断できる。
(シートの表面状態)
○:成形皮膜シートの表面から、酸化防止剤がブリードしておらず、色ムラがみられない。
×:成形皮膜シートの表面から、酸化防止剤がブリードしており、色ムラがみられる。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液から得られる成形品は、耐熱性及び耐久性に優れ、長時間加熱後も、引張強度、伸び等の機械的特性が良好に維持され、更に長期間経過後もほとんど変色をしない耐変色性が良好な成形品であることが分かる。
【0073】
これに対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量が少ない比較例1の方法により得られる成形品は、耐熱性及び耐久性が劣り、熱老化試験によって引張強度、伸び等の機械的特性が低下し、変色も生じた。また、過剰のヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加した比較例2の方法により得られる成形品は、機械的特性は優れるものの、得られる成形品の状態が悪く、酸化防止剤のブリードがみられることより外観が好ましくなかった。
【0074】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤に代えて硫黄系酸化防止剤を用いた比較例3方法で得られた成形品は、機械的特性は優れるものの、耐変色性が劣る結果となった。
【0075】
以上の点より、特定量のヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む本発明のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液によれば、耐熱性及び耐久性に優れた成形体が得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液中に、ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤が含まれることを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
【請求項2】
ポリアミド系ゴム弾性体が乳化分散された水性分散液が、水性媒体と界面活性剤の存在下で、水性媒体中にポリアミド系ゴム弾性体を乳化分散して得られたものである請求項1に記載のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
【請求項3】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、及び1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載のポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液。
【請求項4】
ポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤及び水性媒体を含む混合液を調製し、得られた混合液をポリアミド系ゴム弾性体の軟化温度以上に加熱して乳化させる工程を含むポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法であって、
ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ポリアミド系ゴム弾性体、界面活性剤及び水性媒体を含む混合液に添加する方法、又は乳化して得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に添加する方法によって、該水性分散液に配合することを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法。
【請求項5】
ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解した有機相と、界面活性剤を水性媒体に溶解した水相とを混合して乳濁液を調製し、該乳濁液から有機溶剤を留去する工程を含むポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法であって、
ポリアミド系ゴム弾性体100重量部に対して0.2〜8重量部のヒンダードフェノール系酸化防止剤を、ポリアミド系ゴム弾性体を有機溶剤に溶解した有機相に添加する方法、又は有機溶剤を留去して得られたポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液に添加する方法によって、該水性分散液に配合することを特徴とするポリアミド系ゴム弾性体の水性分散液の製造方法。

【公開番号】特開2012−207176(P2012−207176A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75503(P2011−75503)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】