説明

ポリアミド繊維およびその製造方法

【課題】商品価値の高い、ジェット汚れの問題がないウォータージェットルーム無撚無糊製織用ポリアミド繊維を提供することにある。
【解決手段】 キレート剤を含有する油剤組成物を付与したことを特徴とするポリアミド繊維、キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩およびニトリロ三酢酸塩、クラウンエーテル化合物およびポルフィリン化合物から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする前記ポリアミド繊維、キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩およびニトリロ三酢酸から選択された1種以上の酢酸塩と、クラウンエーテル化合物およびポルフィリン化合物から選択される一種以上の化合物との配合物であることを特徴とする前記ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド繊維およびその製造方法に関する。詳しくはウォータージェットルーム無撚無糊製織に好適な用ポリアミド繊維およびその製造方法に関する。更に詳しくは、ウォータージェットルームによる製織時の筬汚れに起因したジェット汚れのない高品質なポリアミド繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維やポリエステル繊維のような熱可塑性合成繊維は、溶融紡糸法によって製糸されるが、その製糸工程における溶融紡出後の冷却固化に続いて、水系あるいは非含水系の油剤液が、一般に付与されている。この紡糸時付与の油剤液は、糸条に平滑性と集束性を与え、製糸時の静電気障害や糸切れ等によるトラブルを防止する。また、ウォータージェットルーム製織における無撚無糊製織の経糸用として供される場合には、ウォータージェットルーム製織時の糸切れによる製織効率の低下を防止するために必要である。
【0003】
特に製糸速度を3500〜6000m/分程度あるいはそれ以上とするような高速製糸方法では、走行糸条からの油剤の脱落・飛散量が著しく増大し、この脱落・飛散した油剤は糸道上の装置類に付着したりして装置汚染を引起す。そして、汚れた装置上を糸条が高速で接触走行する際に、糸切れ、毛羽立ち等のトラブルを誘発するという問題が生じていた。特に、この問題は、油剤の主成分として鉱物油や脂肪酸エステルの平滑剤を含有し、しかも、部分酸化ポリエチレンワックスを含有している油剤組成物を水エマルションで給油する場合に顕著であった。
【0004】
上述の問題を解決するために特許文献1には平滑剤、部分酸化ポリエチレンワックスにさらに乳化剤、ポリエーテルエステル化合物を添加することにより、高速紡糸に飛散油剤が糸道上の装置類(ガイド等)に付着しても、その付着油剤による糸切れ、毛羽立ち等のトラブル誘発を抑制すること、さらに、該油剤組成物を用いて高速紡糸された無撚無糊織物用経糸をウォータージェットルームで製織する時に、水で脱落した油剤が筬、綜絖に蓄積することによる経糸の毛羽立ち等の障害を抑制できることが開示されている。しかしながらこの特許文献に記載された方法のみでは、水で脱落した油剤を生機より完全に除去することができず、ジェット汚れも完全には解消することができなかった。
【0005】
一方ウォータージェットルームで無糊で製織されたポリアミド繊維は、製織中に筬や綜絖等との擦過により、原糸油剤に含まれているポリエチレンワックス等の油剤が脱落し、これを栄養元として繁殖したバクテリアが油剤やポリエチレンワックスを分解した腐敗物、死骸等が織物に付着し、不溶性かつ不染性物質の汚れ(以下、これをジェット汚れという)を形成していた。
【0006】
特許文献2にはジェット汚れを軽減する方法として、キレート分散剤と界面活性剤とを含有する処理液を織機上で経糸または/および緯糸を構成するポリアミド糸に付着せしめて製織する方法が開示されている。しかしながら、上記方法は、織機上で直接薬剤を添加する方法であるため、薬剤添加装置の設置等が必要であり、非常にコスト高であるとの問題があった。
【特許文献1】特開平3−40873号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−82578号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の課題は、前記の問題点を克服し、商品価値の高い、脱落した油剤による汚れの少ないポリアミド繊維を得ることにある。また、ウォータージェットルーム無撚無糊製織に用いた場合にはジェット汚れの問題がない、ウォータージェットルーム無撚無糊製織に好適なポリアミド繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことを鑑み鋭意検討した結果、特定の成分を含有した油剤を用いることで脱落した油剤による汚れを軽減したポリアミド繊維が、特にウォータージェットルーム製織に用いる場合にはジェット汚れ軽減に効果のあるウォータージェットルーム無撚無糊製織に好適なポリアミド繊維が得られることを見出し本発明に至った。
【0009】
前記した本発明の課題は、キレート剤を含有する油剤組成物を付与したことを特徴とするポリアミド繊維、および、ポリアミド繊維を溶融紡糸して製造する際に、紡出したポリアミド繊維にキレート剤を含有する油剤組成物を付与することを特徴とするポリアミド繊維の製造方法によりで達成することができる。
【0010】
また、上記油剤組成物がさらにアニオン系界面活性剤を含有する場合には、精錬工程で熱セットを行っても脱落した油剤による汚れを軽減したポリアミド繊維を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、商品価値の高い、脱落した油剤による汚れの少ないポリアミド繊維が得られる。また、ウォータージェットルーム無撚無糊製織に用いた場合には、ジェット汚れの問題がないウォータージェットルーム無撚無糊製織に好適な用ポリアミド繊維を得ることができる。
【0012】
また、本発明のポリアミド繊維を得るに際し、溶融紡糸時の油剤付与をオイリングローラーで行う際、使用する油剤トラフにて空気との接触時間が長くなるが、従来の油剤と比較してエマルジョン安定性が高く長期間連続使用しても紡糸の糸切れを増加させることなく安定に生産することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明に言うポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類には特に制限されない。しかし、溶融紡糸時にモノマー、オリゴマー等の低重合物が生成しやすい、主としてε−カプロラクタムを重合して得られるポリアミド(ナイロン6)において特に有効である。ここで言う主としてとは、カプロアミド単位として80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上であることが好ましい。その他の成分としては、特に制限はないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0015】
また、本発明で用いるポリアミド繊維を構成するポリアミドとしては、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等もあげることができ、上記ナイロン6と配合して繊維としてもよいし、各ポリマーからなる繊維を混合して使用することもできる。ナイロン6と併用し、かつナイロン6を用いる場合の優れた特性を生かしたい場合、その他の成分はナイロン6を使用した場合の効果を損なわない程度にとどめることが好ましい。
【0016】
本発明に言うポリアミドは、常法で重合することができ、例えば、ε−カプロラクタムおよび少量の水の混合物を反応器内で大気圧下、240〜270℃の条件で10〜15時間加熱するか、あるいは加圧条件で初期重合させた後さらにその後の常圧下での重合反応などにより液相重合を行い、得られたポリアミドを常法により反応器から吐出、冷却、ペレタイズ化、抽出、乾燥するなどの操作を経て得る方法が挙げられる。
【0017】
また、アミノ末端基量、カルボキシル末端基量、重合速度などの調整のため必要に応じて重合前、重合中あるいは重合後のポリアミド原料あるいはポリアミドに酢酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリル酸、リノール酸のような脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸のような脂環式モノカルボン酸、安息香酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸およびこれらモノカルボン酸と同様にアミノ基と反応する酸無水物、また、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸のようなジカルボン酸、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミンのような脂肪族モノアミン、シクロへキシルアミンのような脂環式モノアミン、ベンジルアミンのような芳香族モノアミン、ヘキサメチレンジアミンのようなジアミンなどを単独あるいは複数添加しこれらをポリマー末端に反応付加あるいはポリアミド主鎖内に取り込みさせても良い。
【0018】
重合により得られるポリアミドの重合度が低すぎる場合は重合時の初期加熱温度を上げ、逆にポリアミドの重合度が高すぎる場合は重合時の初期加熱温度を下げればよい。このようにポリアミドの重合度は主に重合温度により制御することができる。
【0019】
重合されたポリアミドは、90〜120℃程度の熱水とポリアミドを接触させ、低重合物(モノマー、オリゴマー)を抽出する。抽出操作後にポリアミドに含まれる低重合物は、ポリマー粉末化後の熱水可溶成分として通常1.0〜1.5重量%である。抽出操作を終えたポリアミドは約10%程度の水分を含むために乾燥する。ポリアミドの乾燥方法は1.3kPa以下の減圧下でバッチ方式に加熱する方法、あるいはポリアミドと加熱された窒素とを連続的に接触させる方法が挙げられる。大量生産を行う場合は連続運転が可能な後者が有利であり、少量多品種生産の場合は前者が有利である。通常の場合、乾燥はポリアミドの融点以下の温度である100〜120℃において、10〜30時間程度保持することにより、含水率が概ね0.1%以下となるまで行われる。
【0020】
重合度が溶融紡糸などの成形に鑑みて充分に高くない場合、該ポリアミドをさらに固相重合し、重合度を必要な程度まで高めても良い。
【0021】
固相重合は、上記抽出操作の後に行われる乾燥時の温度を重合反応が進む120〜170℃程度とすれば乾燥操作を兼ねて行うことができ、効率的かつ経済的である。固相重合による重合度の上昇を大きくしたい場合は、温度を高くするかまたは操作時間を長くすれば良い。逆に固相重合における重合度の上昇を抑制したい場合には、乾燥操作が充分に行われる範囲において温度を低くするか操作時間を短くすれば良い。
【0022】
本発明に言うポリアミドの重合度は適宜選択して良いが、好ましくは25℃、重合体濃度1g/100mlの98%硫酸溶液中で測定した相対粘度(以下「98%硫酸相対粘度」と称する場合もある)(ηr)として2.1〜3.6の範囲であり、さらに好ましくは2.5〜3.4の範囲である。
【0023】
本発明において、油剤組成物中にキレート剤を併用することが必要である。本発明においてキレート剤は工程中で用いられる水中のイオン成分を分散させることが可能であり、これにより油剤汚れを改善することができる。特にそれをウォータージェットルーム無撚無糊製織に用いる際には製織時に使われる水中のイオン成分を分散させることができ、これによりジェット汚れを改善することができる。
【0024】
このキレート剤の添加量は油剤全組成物に対して0.5〜10重量%の範囲が好ましく、更に好ましくは1〜4重量%である。なお、添加量の上限は油剤中の分散安定性の観点から設定され、添加量の下限はジェット汚れ改善効果の観点から設定される。
【0025】
上記キレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩等の酢酸塩、クラウンエーテル化合物、ポルフィリン化合物等が挙げられ、これらは一種または2種以上で用いることもできる。なかでもエチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩等の酢酸塩と、クラウンエーテル化合物、ポルフィリン化合物等との配合物を使用することが好ましい。
【0026】
上記酢酸塩における塩としては、アルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられ、なかでもナトリウム金属塩、カリウム金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
【0027】
上記酢酸塩の具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸ナトリウム塩またはニトリロ三酢酸ナトリウム塩等が挙げられ、特に価格の点で、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩が好ましく用いられる。
【0028】
クラウンエーテルとしては12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6等が挙げられる。
【0029】
また、ポルフィリン化合物としては、ポルフィリン、クロリン、フロリン、ポルホジメテン、ホルホメテン、バクテリオクロリン、ポルフィリノゲンホルビン、フタロシアニン、フィトポルフィリン、シトポルフィリン等が挙げられ、好ましくはポルフィリン、フタロシアニンである。
【0030】
特定の酢酸塩と配合するのは、クラウンエーテル化合物またはポルフィリン化合物が挙げられ、好ましくはポルフィリン化合物である。また、酢酸塩とクラウンエーテル化合物またはポルフィリン化合物との配合比(酢酸塩:クラウンエーテル化合物またはポルフィリン化合物)は20:80〜70:30の範囲であることが好ましく、25:75〜55:45であることがより好ましい。
【0031】
上記のように特定の酢酸塩とクラウンエーテル化合物またはポルフィリン化合物を併用することにより、特定の酢酸塩単独で用いた場合に比較して極めて優れたジェット汚れ改善効果が得られる。
【0032】
本発明において油剤組成物中にさらにアニオン系界面活性剤を含有させることが好ましい。油剤組成物中にアニオン系界面活性剤を含有させることでポリアミド繊維に付着させた油剤のミセルの安定性が向上し、精錬前に高温(約180℃×1分)で熱処理しても油剤ミセルが壊れることがなく、ポリエチレンワックス成分が溶融して織物表面に固着しないため、ジェット汚れの原因にならない。
【0033】
本発明でいうアニオン系界面活性剤は、ステアリン酸ナトリウム等のカルボン酸塩、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩および高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルナトリウム塩等のリン酸エステル塩から選択される一種以上の化合物であればよいが、なかでもスルホン酸塩が好ましい。具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウムおよびスルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルナトリウム塩が好ましい。
【0034】
アニオン系界面活性剤の添加量は油剤全組成物に対して1.0〜10重量%であることが必要であり、好ましくは3〜8重量%である。添加量の上限は油剤のミセル安定性より設定され、上限を越えるとミセルが安定しない。
【0035】
本発明で好ましい油剤組成物は、平滑剤および乳化剤を含有するとともに、油剤組成物全量に対して15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、3〜30重量%の部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩、0.5〜10重量%のキレート剤を含有する油剤組成物である。さらに好ましくは平滑剤および乳化剤を含有するとともに、油剤組成物全量に対して15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、3〜30重量%の部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩、0.5〜10重量%のキレート剤および1.0〜10重量%のアニオン系界面活性剤を含有する組成物である。
【0036】
なお、平滑剤、乳化剤、ポリエーテルエステル化合物、部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩、キレート剤、アニオン系界面活性剤は総量100重量%を越えないように配合される。
【0037】
本発明で言う平滑剤としては、鉱物油、脂肪酸エステルのように疎水性であってかつ高い平滑性を示す化合物が用いられる。
【0038】
鉱物油としては、ナフテン系、パラフィン系等の鉱物油またはこれらの混合物が挙げられる。また、脂肪酸エステルとしては、ブチルラウレート、ラウリルラウレート、オクチルパルミテート、トリデシルパルミテート、トリデシルオレート、トリデシルステアレート等のモノエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルセバケート、ジデシルアジペート、ジトリデシルセバケート等のジエステル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より平滑性を向上させる観点からは、オクチルパルミテートを使用することが好ましい。
【0039】
これらの平滑剤は、単独成分で用いても2種以上の混合成分で用いてもよいがその合計量は油剤組成物全体に対して20〜60重量%であることが好ましい。この平滑剤の配合量が上記範囲の下限以上であると製編織に際し優れた平滑性が得られる。逆に上記範囲の上限以下であると良好な水乳化性が得られるため、油剤エマルション調合後に優れた安定性を発揮する。さらに平滑剤の配合量は30〜50重量%が好ましい。
【0040】
本発明で言う乳化剤としては、非イオン系界面活性剤が主たる成分であり、公知の高級脂肪酸、脂肪族アルコール、多価アルコール等のエチレンオキシド付加物が挙げられる。牛脂アルコールやヒマシ油等の天然物アルコールのエチレンオキシド付加物も用い得る。そのエチレンオキシドの付加モル数は3〜10モル程度が好ましい。
【0041】
中でも油剤エマルジョン安定性の観点からは、ラウリルアルコールのエチレンオキサイド付加物を使用することが好ましい。
【0042】
これらの乳化剤は、単独成分で用いても2種以上の混合成分で用いてもよいが、その合計量は油剤組成物全体に対して15〜30重量%であることが好ましい。
【0043】
上記した平滑剤や乳化剤の外に、通常、紡糸油剤に用いられている制電剤、制電補助剤、集束剤、防腐剤等の成分を配合してもよい。これらその他の成分を配合する場合、これら成分と前記各油剤成分の総量が100重量%を越えないものとする。
【0044】
本発明におけるポリエーテルエステル化合物の配合量は、油剤組成物全体に対し15〜60重量%の範囲とすることが好ましい。上記配合量である場合に油剤の粘性、摩擦特性が良好となり、高速製糸、編織物用に特に優れた効果を発揮する。さらにその配合量は20〜45重量%が好ましい。
【0045】
ここでいうポリエーテルエステル化合物とは、分子中に、実質的にポリエチレンオキシドである重合度2以上、好ましくは3〜10のポリエーテル鎖を持ちその両末端を脂肪族化合物で封鎖してなる化合物である。
【0046】
上記ポリエーテルエステル化合物としては、例えば、ブチルアルコールエチレンオキシド付加物のラウリルエステルやオクチルエステル、ラウリルアルコールエチレンオキシド付加物のラウリルエステルやオクチルエステルのような、炭素数14以下の脂肪族化合物のエチレンオキシド付加物の有機酸エステル、また、例えば重合度8のポリエチレンオキシドのジラウレートやジオクタノエートなどのような、重合度2〜10のポリエチレンオキシドの炭素数14までの脂肪酸のエステルが挙げられる。また上記化合物を任意に混合して配合してもよい。
【0047】
また、無撚無糊織物経糸用に必要な集束性を付与するために配合する部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩は、部分酸化ポリエチレンを、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の塩とした物であり、その酸価は10〜30程度が、また、分子量は1000〜5000程度が好ましい。この部分酸化ポリエチレンワックスアルカリ金属塩は、界面活性剤で水中に微分散させて用いられる。
【0048】
本発明において、上記油剤組成物はそのまま、水系もしくは非水系の溶媒と混合して、給油に供することができるが、本発明においては、水系の油剤液として用いることが好ましい。水系の油剤液とする場合には、油剤組成物を構成する各成分および任意の添加剤を添加し、常温で撹拌しながら水を混合することにより、水エマルジョンとする方法を好ましく挙げることができる。
【0049】
この際用いる水は特に限定されるものではないが、エマルジョンの安定性の観点から、イオン交換されていることが好ましく、さらに脱気されたものであることがより好ましい。脱気の方法は特に限定されるものではないが、油剤と混合する前の水あるいは混合後の水エマルジョンを、35〜90℃に加熱する方法、500hPa以下に減圧処理する方法等が挙げられる。脱気の効果の点において混合後の水エマルジョンとしてから脱気するほうが好ましい。またこれらいくつかの手段を併用してもよい。
【0050】
水エマルジョン中の油剤組成物の濃度は任意に設定することができるが、3〜20重量%とすることが好ましく、更に好ましくは5〜15重量%が良い。水エマルジョン中の油剤組成物の濃度の上限は水エマルジョンの溶液粘性の観点から設定され、濃度の下限は繊維に油剤を付与する際の付着効率の観点から設定される。
【0051】
給油の方法は特に限定されるものではなく、通常の方式、例えば、ローラー給油方式、油剤を定量的にノズルから供給するガイド給油方式等、を用いればよいが、ガイド給油では長期間の連続生産の際、不安定な状態となった油剤よりワックス成分が析出し、ノズル孔が詰まるため、定期的な洗浄が必要となる場合があることから、定期的な洗浄を必要としないローラー給油方式により付与することが好ましい。
【0052】
また、油剤付着量は繊維重量に対し通常0.1〜3重量%付与することが好ましく、0.5〜2.0重量%付与することがより好ましい。付着量の下限は製糸および製織時の工程通過性の観点から設定され、付着量の上限は、製糸および製織時の設備汚染の観点から設定される。
【0053】
本発明のポリアミド繊維には、本発明の効果を損なわない範囲において種々の添加剤を含んでも良い。この添加剤を例示すれば、マンガン化合物などの安定剤、酸化チタン(TiO)などの着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、導電性付与剤、繊維状強化剤などである。
【0054】
本発明のポリアミド繊維は、溶融紡糸されマルチフィラメントとする。この際、紡糸した後に一旦巻き取ることなく引き続き延伸する直接紡糸延伸法、紡糸速度を4000m/分以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する高速紡糸法、あるいは、それらを組合せた高速直接紡糸延伸法が好ましく用いられる。高速紡糸方法をさらに詳述すると、溶融紡糸された糸条を冷却、給油、さらに、流体交絡処理した後に、引続いて延伸するかあるいは実質的に延伸することなく高速で巻上げる高速紡糸方法である。
【0055】
本発明のポリアミド繊維の繊維断面形状は丸ばかりでなく、三角、偏平、多葉型などの異形断面でも良い。また、該ポリアミド繊維の糸状形態は、フィラメント、ステープルのどちらでも良く、常法によって得ることができる。
【0056】
本発明のポリアミド繊維は通常の方法で製織することができるが、特にウォータージェットルームで製織することにより、経糸に糊付けすること必要がなく、ジェット汚れも改善され、工程通過性のよい織物を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下の実施例で用いたエチレンオキシド付加化合物中、nモル付加エチレンオキシドは(EO)nでもって表示し、また、重量平均分子量はMwでもって表示した。
【0058】
A.レッドウッド粘度
レッドウッド粘度は田中科学機器製作所製自動動粘度測定装置AKV−201にて、JIS K2283で測定した。
【0059】
B.油剤付着量
得られた繊維1gをイソフロパノール100mlに入れ80℃で環流・抽出し、抽出分を測定することで求めた。
【0060】
C.強度、伸度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長50cm、引張り速度50cm/分の条件で応力−歪み曲線から値を求めた。強度、伸度はN=5の平均値である。
【0061】
D.紡糸糸切れ
78デシテックス26フィラメントのポリアミド繊維を5000m/分で巻き取って得るに際し、30糸条を4日間連続で製糸した際の糸切れ回数により判定した。糸切れ1回以下であれば◎、2〜3回であれば○、4〜6回であれば△、7回以上であれば×と判定した。
【0062】
E.ジェット汚れ品位
織物1反(50m長)の加工反を検反し、1cm以上の不染部がある場合、欠点1点とした。1反検反した際の合計が10点を超えると商品価値がない。
【0063】
実施例1
平滑剤としてレッドウッド粘度45秒の鉱物油21.3重量部、i−オクチルステアレート17.5重量部、乳化剤としてラウリルアルコール(EO)) 6.8重量部、ラウリルアルコール(EO) 11.6重量部、牛脂アルコール(EO) 3.9重量部、ワックスとして酸価15、Mw1500の部分酸化ポリエチレンのカリウム塩8.7重量部、ポリエーテルエステル化合物としてHLB8.3のラウリルアルコール(EO)オクタエート24.3重量部、制電剤としてアルキルイミダゾリン2.9重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩1.5重量部、ポルフィリン1.5重量部からなる油剤組成物の10%水エマルジョンを調整した。
【0064】
酸化チタンを0.3重量%含有したナイロン6ポリマー(98%硫酸相対粘度2.60)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸口金から溶融吐出した後、上述油剤組成物の10%水エマルションを給油ローラーでもって付与し(巻上げ糸条の油剤付着量が1.0重量%)、3kg/cm(294.2kPa)の圧空を用いたエア交絡ノズルによる交絡処理を経て4200m/分のゴデーローラーで引取り、1.25倍に延伸し、5000m/分で巻取って、78デシテックス26フィラメントのナイロン6糸条を得た。
【0065】
さらに、得られたナイロン6糸条を経糸として用い、織り上げ密度をタテ104本/吋、ヨコ84本/吋(2.54cm)の180本/吋(2.54cm)タフタの規格でウォータージェット織機で700rpmの回転数で製織した。得られた生機を通常の方法で染色し、加工品位を確認した結果、ジェット汚れ起因の不染部のない高品位な織物ができた。
【0066】
実施例2〜4、比較例1
実施例1において油剤組成物中のポルフィリンの添加量を変更した以外は同様な方法にてナイロン6原糸およびそれからなる織物を得た。結果は表1にまとめたとおりである。
【0067】
実施例5
実施例1において油剤組成物中のポルフィリンに変え18−クラウン−6を使用した以外は同様な方法にてナイロン6原糸およびそれからなる織物を得た。繊度78.1dtex、強度4.3cN/dtex、伸度47.9%であり、織物のジェット汚れ品位は1点で良好であった。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例6
平滑剤としてレッドウッド粘度45秒の鉱物油20.2重量部、i−オクチルステアレート16.6重量部、乳化剤としてラウリルアルコール(EO)) 6.5重量部、ラウリルアルコール(EO) 11.0重量部、牛脂アルコール(EO) 3.7重量部、ワックスとして酸価15、Mw1500の部分酸化ポリエチレンのカリウム塩8.3重量部、ポリエーテルエステル化合物としてHLB8.3のラウリルアルコール(EO)オクタエート23.1重量部、制電剤としてアルキルイミダゾリン2.8重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩1.4重量部、ポルフィリン1.4重量部からなる油剤組成物の10%水エマルジョンを調整した。
【0070】
酸化チタンを0.3重量%含有したナイロン6ポリマー(98%硫酸相対粘度2.60)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸口金から溶融吐出した後、上述油剤組成物の10%水エマルションを給油ローラーでもって付与し(巻上げ糸条の油剤付着量が1.0重量%)、3kg/cm(294.2kPa)の圧空を用いたエア交絡ノズルによる交絡処理を経て4200m/分のゴデーローラーで引取り、1.25倍に延伸し、5000m/分で巻取って、78デシテックス26フィラメントのナイロン6糸条を得た。
【0071】
さらに、得られたナイロン6糸条を経糸として用い、織り上げ密度をタテ104本/吋、ヨコ84本/吋(2.54cm)の180本/吋(2.54cm)タフタの規格でウォータージェット織機で700rpmの回転数で製織した。得られた生機を180℃×1分のプリセットを行った後精錬を行い、通常の方法で染色し、加工品位を確認した結果、ジェット汚れ起因の不染部のない高品位な織物ができた。
【0072】
実施例7〜10
実施例6において油剤組成物中にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加し、添加量を変更した以外は同様な方法にてナイロン6原糸およびそれからなる織物を得た。結果は表2にまとめたとおりである。
【0073】
実施例11
実施例6において油剤組成物中のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの代わりにスルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルナトリウム塩を添加した以外は同様な方法にてナイロン6原糸およびそれからなる織物を得た。繊度78.2dtex、強度4.4cN/dtex、伸度48.0%であり、織物のジェット汚れ品位は1点、糸巻き取り段階での糸切れは4回で良好であった。
【0074】
比較例2
実施例6において油剤組成物中のキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩およびポルフィリンの添加量をいずれも0重量部と変更した以外は同様な方法にてナイロン6原糸およびそれからなる織物を得た。繊度78.1dtex、強度4.4cN/dtex、伸度48.0%であり、織物のジェット汚れ品位は25点で満足のいく結果が得られなかった。
【0075】
【表2】

【0076】
実施例12
実施例6において油剤を水エマルジョンとした後200hPa減圧処理を施した脱気水エマルジョン油剤を用いた以外は実施例6と同様にしてナイロン6糸条を得た結果を示す。繊度78.2dtex、強度4.3cN/dtex、伸度47.8%であり、糸巻き取り段階での糸切れ発生はなく、織物のジェット汚れ品位は0点と良好な結果を得ることができた。なお、実施例6での巻き取り段階での糸切れは4回であった。
【0077】
実施例13
ガイド給油方式による油剤給油方法以外は実施例12と同様にしてナイロン6糸条を得た結果を示す。繊度78.2dtex、強度4.4cN/dtex、伸度47.9%であり、織物のジェット汚れ品位は3点、糸巻き取り段階での糸切れは4回であり、良好な結果を得ることができた。
【0078】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤を含有する油剤組成物を付与したことを特徴とするポリアミド繊維。
【請求項2】
キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩およびニトリロ三酢酸塩、クラウンエーテル化合物およびポルフィリン化合物から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド繊維。
【請求項3】
キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸塩、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸塩およびニトリロ三酢酸から選択された1種以上の酢酸塩と、クラウンエーテル化合物およびポルフィリン化合物から選択される一種以上の化合物との配合物であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド繊維。
【請求項4】
キレート剤の含有量が油剤組成物全量に対して0.5〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミド繊維。
【請求項5】
油剤組成物が、さらにポリエーテルエステル化合物および/または部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のポリアミド繊維。
【請求項6】
油剤組成物が平滑剤および乳化剤を含有するとともに、油剤組成物全量に対して15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、3〜30重量%の部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩、0.5〜10重量%のキレート剤を含有する、請求項1〜5のいずれか1項記載のポリアミド繊維。
【請求項7】
油剤組成物がさらにアニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のポリアミド繊維。
【請求項8】
アニオン系界面活性剤としてカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩およびリン酸エステル塩から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする請求項7記載のポリアミド繊維。
【請求項9】
アニオン系界面活性剤の含有量が油剤全組成物に対して1.0〜10重量%であることを特徴とした請求項7または86記載のポリアミド繊維。
【請求項10】
油剤組成物が平滑剤および乳化剤を含有するとともに、油剤組成物全量に対して15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、3〜30重量%の部分酸化ポリエチレンワックスのアルカリ金属塩、0.5〜10重量%のキレート剤、および1.0〜10重量%のアニオン系界面活性剤を含有する、請求項7〜9のいずれか1項記載のポリアミド繊維。
【請求項11】
ポリアミド繊維がウォータージェットルーム無撚無糊製職用であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載のポリアミド繊維。
【請求項12】
ポリアミド繊維を溶融紡糸して製造する際、紡出したポリアミド繊維にキレート剤を含有する油剤組成物を付与することを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。
【請求項13】
ポリアミド繊維に付与する油剤組成物が脱気水を使用して水エマルジョン化されたものであることを特徴とする、請求項12記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項14】
油剤組成物がさらにアニオン系界面活性剤を含有するものであることを特徴とする、請求湖12または13記載のポリアミド繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−197887(P2007−197887A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234617(P2006−234617)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】